今、俺は酷く後悔している。何故、と聞かれれば、それは俺がいる場所に起因している。
周りを見渡せば、女、女、女。お年頃の生娘たちがキャッキャウフフと談笑している。男の誰しもが一度は夢見るであろう女の園が目の前に広がっている。しかし。しかしだ。其れがいざ自分の身に訪れたらどうなると思う。
答えは異常な肩身の狭さを感じるだけだ。これは俺だけよ話かもしれないが、現に俺はものすごく居心地が悪い。
さっきから、まるで動物園の猿でも見るように女子の視線が俺に突き刺さってくる。なんだよ、男がそんなに珍しいか。今まで散々見てきただろうが。けれど、それも場所が場所だけに仕方のないことだとは思う。
IS学園。IS操縦者を育成するために作られた、国家直属の高等専門学校。
IS、インフィニット・ストラトスは女性だけが扱える世界最強の兵器。
ということはだ。そんな兵器の操縦者を育成する高校の男女の割合なんて、馬鹿でもわかるだろう。職員生徒ほとんどが女性女子の学校に男が二人。これほど辛いことがあるだろうか。
もう一人の男子は左の一番前の席にちょこんと座ってる。表情は見えないが、心中穏やかではないことは確かだ。
そもそも、何故俺がこんな女子高まがいの所にいるのか。それは、3ヶ月ほど遡ることになる。
俺、二宮圭司は冬の寒さから逃れようと、公共施設に忍び込んで寝泊りさせてもらっていた。ここで何故家に帰らないのかと思ったかもしれないが、答えは簡単、俺に帰るべき家がないからだ。俗にいう、ホームレスって奴だ。しかもこの道10年のベテランだ。因みに歳は25。まあ、そうなった経緯は後々話すことにしよう。
そんで、俺は何時ものように日が沈んだ頃を見計らって、今日の宿へチェックインをした。昼間の内に開けておいた裏口から、堂々と中へ。締められているかもと思ったが、今日は警備員が仕事をサボっているらしい。簡単に入ることができた。中に入れば後は楽なもの。監視カメラなんかもないから、部屋を物色し放題だ。言っておくが、俺は何も盗んだことはない。盗みを働き出すほど、俺も落ちぶれてはいない。まあ不法侵入している俺が言ったところで、信用してくれないとは思うけど。
兎に角だ。その日の寝床はフロア脇の物置部屋に決めた。雑然と置かれているダンボールを床に敷き詰め、散らかっていた雑具をそこら辺に投げる。粗方片付けば、ダンボールの上に寝転がり、ダンボールを自分の腹の上に乗せる。
後はゆっくりと眠るだけ。さあ寝るぞと目を閉じて、眠りの波が来るのを待った。
それから数時間した頃だったか。ウトウトとうたた寝をこいでいたら、玄関の方から物音が聞こえてきた。俺は起き上がって、ドアに近ずいて耳を当てる。ゴロゴロと音を立てて、何かが運び込まれているようだ。俺はドアを少し開けて外の様子を覗き見た。そこから見えたものは、何だか見覚えがあった。どっかで見たんだが、さて、どこだったか。…ああ、あれだ。テレビのワイドショーで見たんだ。勿論、俺はそんな高級なものは持っていない。家電屋のテレビコーナーで見たんだ。
IS。最近じゃ、世界各国がその研究、製造に心血を注いで、兵器の製造がおざなりになっているらしい。まあ、あの『白騎士事件』があったんじゃ無理もない。なんせ、一斉発射されたミサイルの全てが、『白騎士』っつうISに切り落とされたんだから。あれは見てて爽快だったな。全部のテレビ局が生中継してやってたっけ。
それはそれとして、そのISは作業着を着た男たちに、台に乗せられて運ばれていく。その姿が暗闇に消えたかと思うと、すぐに男たちは姿を現して、外へと出ていった。その手には台はない、手ぶらだ。
男たちが全員いなくなったのを確認してから俺は扉を開け、ISが運ばれたと思われる部屋を探し始めた。勿論、動かせないことは知っている。ISは何故だか女性にしか起動できず、男性が何をしようと決して動かないのだ。そんなもんだから、世の中女尊男非の構図ができ上がるのに、そう時間はかからなかった。最近じゃそれも落ち着いてきて、ISが出る以前の様に、とはいかないけどマシになった。
あの頃は辛かったな。俺が何をしたわけでもないのに女子高生かな、若い女の子にゴミを投げつけられて、キレた俺が怒鳴り散らすと、そいつは警察に『襲われる!助けて!』なんて電話したもんだから、俺はその日警察にご厄介になる羽目になった。なんども弁解をしてみたが、聞く耳を持ってはくれなかった。男のいう事より女の証言の方が優先された結果だろう。
あれ以来、数カ月は女を見るたびに睨みを利かせていた。まあ、それも馬鹿らしいと思ってしなくなったけど、苦手意識は依然、ぬぐい切れていない。
俺は手当たり次第に扉を開けていき、中の様子を窺っていく。すると、フロアの一番端、ひときわ大きな部屋の中に、ISが鎮座していた。
俺は中に入るとそっと扉をしめ、ゆっくりとISに歩み寄っていく。ちょうど、月明かりが窓から射しこんできているから、明かりには困らない。俺はISの目前に立つと、改めてその姿をまじまじと見つめた。黒いつややかに光るそれは、侍が身に着ける甲冑にも見える。だが、その性能は甲冑のそれを遥かに凌駕する、化け物のような兵器。
俺は手を伸ばし、ISに触れようと試みる。どうせ起動なんかしないんだ、触ったところで何にもならないだろう事は分かってる。だけど、好奇心を抑えることは出来ず、俺はISに触った。その途端、俺をまばゆいほどの光がISから放たれ、俺を包み込んでいった。
そんなわけで、ISを見事起動させてしまった俺は、強制的にこの学校に連行され、年下の女子たちと机を並べて勉学に励むことになったわけだ。今思うと、あの時あれに触れてさえいなければこんなところに来なくて済んだのに。思い出すだけでため息がこぼれるわ。
「はあ~。ホント、なんでこんなとこに居んだろうな…俺」
「二宮くん、二宮くん!!」
「え?…はい?」
気が付くと、いつの間にか教壇に若い女性がいた。あの人が先生か?だとしたら俺になんか用でもあるのだろうか。入学早々問題を起こした覚えはないのだが。
「なんすか?えっと…」
「山田先生だよ」
俺が何と声をかければいいか迷っていると、隣の女子が助け舟を出してくれた。ありがたい。俺は手を合わせて女子に礼を言うと、山田先生に再度声をかける
「なんすか、山田先生?」
「えっとですね。今自己紹介の時間なんですけど…今西本さんが終わって、次が二宮君なんですけど…」
おっと、俺が考え事をしている間に何事か進んでいたようだ。俺はすっと席から立ち上がり、拙い自己紹介を始めた。
その時の周りの視線と言ったら、どんな面白い話をしてくれるんだろう、どんな武勇伝を聞かせてくれるのだろう、などといった要望に近い期待のまなざしが俺に一斉に飛んでくるんだから、おじさん萎縮しちゃう。
とまあ、ここまで話して今更なんだが、俺はここに居る生徒の誰よりも年上だ。それも10年の差がある。そんなやつが若人が集う教室にいて不審がられないのか、不思議に思った方もいるのではないだろうか。
「ええ~。二宮圭司っていいます。趣味はこれと言って無し、好きな食べ物は…何だろうな、食い物なら何でも好きです。歳は…15歳です。よろしくお願いします」
我ながら無難な自己紹介だったと思う。俺がそう言いおえると、えっそれだけ、みたいな空気が流れていたが、山田先生が拍手をしてくれたおかげでまばらではあったが、拍手で終えることが出来た。
だが、問題がある。俺の年齢についてだ。16ってサバ読みすぎだろう。どうやっても今年26になる男が10歳下の15歳を名乗ることが出来るはずがない。それもそうだ。もし仮にそういう奴がいたら、俺は呆れを通り越して尊敬するね。たぶん。
だけど、俺の自己紹介を変だと思った生徒は一人もいない。ましてや山田先生も気づいていない。これはどういうことか、答えは至極簡単。俺が若返ったからだ。精神年齢はそのままの、15歳の二宮圭司がここにいるんだ。どういういきさつがあったのかは、また次回に語ろうと思う。