悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~   作:あずももも

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1章 女装して屋敷を堕とした(7歳スタート・すでに手遅れっぽいけど)
1話 「悪役転生女装ジュリオン様/ユリア様」になった僕の後悔


紫の混じる美しい銀の髪を、肩に触れる程度にまで絹のように細く流している少女。

 

同じく銀の眉とまつげに守られるアーモンド型のつり目な深紅の瞳、形の良い鼻と小さな口が、少し気難しい印象を与える。

 

プライドの高そうな顔に比べ、着ている服は意外にも簡素なもの。

 

馬車で数時間のところにある中規模の町を歩く少女たちが着ていても違和感のない、いわゆる普段着のシャツにスカート。

 

町中で――美少女、あるいは美幼女過ぎる顔と髪さえ隠していれば、中~上級市民か、下位貴族のご令嬢と思われるだけだろう。

 

そのアンバランスさが、余計に「彼女」の神秘性をかき立てている。

 

年の頃は7――前世換算で6と、ようやくランドセルを背負う年齢。

 

そんな少女、あるいは幼女――いや。

「幼い男子」の僕が、自室を出る。

 

そのとたん、

 

「「「ジュリオン様! 今朝も大変にお美しい、我らが主君! おはようございます!」」」

 

ざっ。

 

廊下に出た僕の左右へずらり――使用人たちが、目をらんらんと輝かせて並ぶ。

 

その目は、狂気。

その口は、狂気。

 

彼ら彼女らは……この世界では異端の女装をした男子である僕に、狂わされている。

 

「うむ、お早う。……いつも言っているが、僕と目が会うたびに直立不動になって讃えたりする必要はないからな? 本当だからな? 毎朝言っているが」

 

「なんとお優しい……!」

「もったいなきお言葉!」

「これは失礼を……自害します!」

 

何人かが泣きながら刃物を取り出して、己の首にあてがおうとする。

 

「するなするな。亡き母上のことを想ってくれるのなら、母上が必要としていたその命を大切にしてくれ……」

 

「さすがジュリオン様!」

「この命、すべてを貴方様に捧げます……!」

 

「いや、だから……いや、いい……だから首に刺そうとしてたその刃物、下ろせ。ほら、ゆっくりと……な?」

 

そうして僕は――ただ女装して部屋を出ただけなのに、もう何人もの命を救ったことになった。

 

 

 

 

「ジュリオンさまぁ、朝ごはんの――へぶしっ!」

 

べしゃっ。

 

朝食の場。

 

僕の世話係のひとり――かつ悪役転生世界でのメインヒロインたるドジっ子が、運んできたスープをぶちまける。

 

からんからん。

 

こんなこともあろうかと見越しての、木の器が大理石の上で跳びはねる。

もちろんスープも散乱する。

 

「……ふぇぇ……」

 

泣きべそをかきながら、僕を見上げてくる少女――これまた幼女。

 

「良い。気にしてはいない。怪我はないな? なら良い」

「ジュリオンしゃまぁ……」

 

床に飛び散った、おいしそうだった熱々のスープ。

 

……これを、転生初日みたいに顔面にぶっかけられなかっただけマシなんだ。

 

本当に、すごく、奇跡的にね。

 

なにしろあれのせいで、今世の僕――何不自由ないけどもストレスフルな家庭環境のせいで将来に断罪される傲慢貴族子息なジュリオン様だった僕が死に、凡庸ではあっても精神年齢常識的社会人だったはずの前世の僕が生き返ったんだから。

 

「ああ、今日もお優しい……!」

「まるで本当に亡き母君と……!」

「こうなると思い、予備は万全でございます……!」

 

なぜか涙を流しながらドジっ子の介抱とお片付け、あと代わりのスープを取りに行く他の使用人たちが、すっかり聞き慣れてしまった鳴き声を発している。

 

「ジュリオンさまぁ……私ぃ、わざとじゃ……」

 

「分かっている。だから配膳は任せて席に着け。僕の朝食の相手をしろ」

「ひゃいぃ……」

 

緑のポニテをはためかせながら、泣き顔のメインヒロイン(ただし現在7歳児)の子が、メイド服のままテーブルに着く。

 

――僕専用の付き人で、遠い親戚の下級貴族で、同い年だから将来の妾として与えられていて。

 

10年後にゲームでのシナリオが始まると、主人公くんにニコポされていく、ドジっ子スキル攻撃ばっかりしてくるその子は、

 

「ジュリオンさまぁ! おいしいですぅ!」

 

一瞬で泣き顔から笑顔になり、メインヒロインらしい美幼女の風格を漂わせていた。

 

 

 

 

「ふぅ。今朝の鍛錬はこのくらいにしておくか」

「流石はセレ――ジュリオン様でございまする!」

 

軽く息が上がる程度のランニングに素振り、あと魔法の練習後。

 

「御年弱冠7歳にて、既にそのお力……! 学園に入られる頃には、亡き母君のセレスティーヌ様をも上回る実力と魅力をその手に――」

 

「土いじりは良いのか?」

 

「はっ! 勿体なきご配慮を! 今日も屋敷の結界にひとつもほつれのないよう……」

 

元・王国騎士団長の執事さん的なポジションの――転生して前世の意識が戻る前に死んでた産みの母親、その騎士だったらしいおじいちゃん。

 

そんな栄光も過去のものとなり、今やすっかりボケちゃってるもんだから、他の使用人たちの何倍もめんどくさいおじいちゃんだ。

 

庭で体を動かすだけで、全ての点において「さすジュリ」してくる――見た目は精鋭の老兵って感じなのに、脳みそは既にマシュマロなんだ。

 

「あ、ジュリオンさまぁ。今日もギルドで冒険者するんですかぁ?」

 

「ああ、ダンジョンに潜ってくるからしばらく帰らないかも――」

 

「! 今日こそは私も――」

 

「彼の世話を頼む」

「あぅぅ……」

 

ごめんねエミリーちゃん。

 

でも君が町まで着いてきたら、絶っっっ対に騒ぎ起こすから……そこで、僕と死んじゃってる母さんの区別もついてない、土いじりが大好きなおじいちゃんのお相手をお願いするね……?

 

「ジュリオン様が町に出られる!」

「総員見送りを!」

 

「要らない……本当に要らない。おのおのの仕事をしていてくれ……」

 

「ジュリオン『おねえさま』のみやげ話、楽しみにしています……!」

「僕は男だからな? 『お兄さま』だからな……?」

 

義妹まで――病弱な彼女までが、異様な笑顔を浮かべてくる。

 

ああ。

 

「ジュリオン様!」

「さすジュリ!」

「さすジュリですぅ」

「さすジュリ……です!」

 

やり過ぎた記憶はないのに、気がつけば屋敷中の人間がちょっとおかしくなっている。

 

 

 

 

「ユリア様、おはようございます!」

 

『ジュリオン』→『ジュリア』→『ユリア』。

 

町中での――冒険者するときの偽名。

 

まぁこの世界観的に女装はNGだからね、こうしてせめて名前くらいは変えておかないとね。

 

ほら、ジュリオン様ってば、どこに死亡フラグっていう名の地雷が埋まってるか分からないからさ……大丈夫、まだ子供だから、女装っていっても髪と服だけで、口調は社会人のぺーぺーとしての「私」と丁寧語だけでなんとかなるから。

 

「あれが、超やべー新人のユリアちゃんか」

「様をつけろデコ助……あの御方はな……」

 

「なんでも素顔を見ると目が焼けるほどの美人だから、ああしてフードしてるんだとか」

「ああ……見たら教会で全ての罪を懺悔し、更生させられるぞ……!」

 

「王家の血が入ってるご令嬢だそうだ。お忍びだし、なにより寛大だから滅多に怒ることはないが……」

「この町の孤児を助け、悪徳冒険者や商人や貴族を排除して回るお方だ……悪いことはやめた方が良いぜ」

 

ギルドハウス。

 

前世での憧れだった場所。

 

そこは――僕がちょっとだけやらかしたせいで、入るたびに後ろ指を指されるから居心地が悪いんだ。

 

「今日の依頼を見積もって――」

「はい! ユリア様が普段選ばれているものを中心に!」

 

ずしん。

 

笑顔の馴染みな受付嬢さんからずらりと並べられるそれらは――町の中のおつかい的なものと、町の外のダンジョンのものがバランス良く整っている。

 

質の悪いものの、丁寧に書き込まれた紙だから10センチくらいあるように見えるし、重いけども……まぁ大半は簡単な仕事だろうから大丈夫だろう。

 

「期限はどれも1週間ほどありますので……ユリア様なら楽勝ですね! ギルマスからも、いつも助かると!」

 

「では頂きましょう。……ああ、いつものように、『私のパーティー』で受けますね」

 

冒険者とは、パーティーで活動するもの。

 

……もっとも、ジュリオン様のスペック的にソロの方が強くはあるんだけど、今は少し事情があって――。

 

 

 

 

「ジュリオンさまっ! おはようございます!」

 

待っていたのは、今世の僕と同い年くらいの少年。

捨てられて町にやってきた、元農民の子。

 

ゲーム内では恐らく完全なモブだったからだろう、ぼさぼさの前髪で目が隠れているから目元がよく分からない。

 

――そうだ。

 

この世界は、ゲーム――あるいはそこを舞台にした、10年後に僕が死ぬ運命にある世界と限りなく近い、現実の世界。

 

現実だからこそ――ゲームではモブだったとしても1人1人が生きていて、だからこそ、放っておいたらゲーム開始時点でのたれ死にしていそうだったこの子も、見過ごせなかったんだ。

 

「ぼく、今日はなにすれば良いんですか? なんでもします!」

 

見えない尻尾をぶんぶん振っている少年が愛らしいね。

 

「普段のように、町中での依頼を消化していきます。孤児の方たちにも教えられるように、地理とおつかい依頼のノウハウを覚えてくださいね」

 

そこで僕は――この町の属する領地の領主のぼんくらと名高い次男ってことを隠すために、女装をして冒険者をしている。

 

そうだ、この世界では珍しくもない、貴族令嬢が見聞を広めるついでにレベルを上げるための、冒険者。

 

前世では憧れだったそれに――女装っていう屈辱的な格好をしながらも、僕はなっているんだ。

 

「妬ましいですわ……」

「ジェラりますわ……」

「でも、ルーシー様はユリア様のお気に入り……こんな気持ちはダメなのですわ……」

 

つい拾っちゃった少年の後ろには、10年後にはサブヒロインとして学園に入ってくるだろう3人娘。

 

貧乏貴族の末娘たちは、ある意味で彼と同じく、事実上の捨て子。

 

「自分の食いぶちは自分で稼いでこい」っていう、僕が前世で過ごした世界とはなにもかも違う厳しい世界をたくましく生きている女の子たちだ。

 

……サブヒロインだから将来的には主人公くんのハーレム入りだろうし、仲良くなり過ぎちゃいけないんだけども……なりゆきで迷惑を掛けちゃったからなぁ。

 

「あ! 姉御だ! 今日はどいつらをしばき――へぶっ」

「バカ、静かにしてろ!」

 

ひょこっと出てきてごつんとやられてるのは、おでこがまぶしい、元孤児の――これまたサブヒロインな妹さんと、苦労している彼女の兄。

 

なんでこの町、サブヒロインだけでこんなに居るんだろうね。

 

メイン悪役たるジュリオン様のお膝元の町だからかな。

 

「……ユリア様の言いつけ通り、幼い孤児と体の弱いやつらを保護してます」

「ありがとう。では夕刻に、いつもの場所でうちの使用人に引き渡しなさい」

 

今世の僕――ジュリオン様は、99のルートの大半で死に、たとえ生き延びたとしても女装させられ、メス堕ちする未来が待ち構えている。

 

そんな僕が、原作開始から10年前の7歳児の僕が、どうにかして生き延びるために、日々努力をしている。

 

ダンジョンに潜り、レベルとスキルを鍛え。

 

小遣い程度しかもらえない、人気のない依頼を積極的に受けて――僕の住んでいる屋敷から1番に近いこの町の市民たちから、少しずつ信頼を得て。

 

治安悪化要素、かつ革命で殺される可能性を上げかねない孤児たちをまとめ、保護、あるいは世話をして革命の機運を徹底的に抑え込み。

 

「ああ、魔王様! 今日も――ぐべっ」

 

「この頭のおかしい女の戯言は無視するように。全てが妄言ですから。良いですね? 正しいことをなにひとつ口にしないと言い含めなさい」

 

――本来なら10年後に活動を開始し、魔王ジュリオン様を爆誕させるはずだった破廉恥な魔族(町中では普通のセクシー系冒険者スタイル)に、なぜか懐かれ。

 

僕は、異世界の綺麗な青空を遠い目で眺める。

 

「……あの日、目覚めてから死なないためにがんばってるけど……ちょっと、やり過ぎてるかなぁ……」

 

そうして僕は、あの日――前世の僕が今世の僕として覚醒した瞬間のことを思い浮かべた。

 

「さすがユリア様ですわ!」

「さすユリ!」

「ユリア様が来てからというもの、この町の治安がすっかり……」

 

……当時は仕方なかったとはいえ、でもやっぱりもうちょっとこう……おとなしめに動き出してた方が良かったんじゃないかなっていう、あの日のことを。

 

 

◆◆◆

 

 

TSと女装をこよなく愛するので女装ものを仕立てましたあずもももです。新作です。

 

今作は女装×悪役令息×悪役令嬢ものとなっています。

 

普段の通りに長いため、1話ずつを適度に分割してお届けします。

 

このおはなしは章ごとに連続投稿します。

基本的に毎日投稿→章が終わったら書き貯めです。

 

TSっ子ハルちゃん・女装っ子ユズくん・女装ジュリオンくんの3作品を同時投稿中です。

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