悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~ 作:あずももも
僕は、この3年間で鍛えたジュリオン様ボディでの新たな必殺技――中程度の敵に対するそれを、構える。
なぜか7歳児の時点ですでに使えちゃって、少しばかり威力が高すぎて周囲への被害の方が怖い、切り札。
……ゲームとかであるレベルとかスキルが現実にあると、弱いより強すぎる方が扱いに困るだなんて想像もしなかったけども、なんとか3年間の失敗のおかげで――今。
「これで終わりです。――小型戦術用エビルジャッジメント・ムチ仕様!」
――びゅんっ。
しならせたムチが――長さは数百メートルにもなったそれが、勢いよくくるくるとローパー本体を包み込んでいき。
「GI――――――!?」
「さようなら」
必殺技をマイナーチューンしたものを、ムチを通じて送り込み。
――ぶちゅんっ。
細長いうねうねぬめぬめぬらぬらしたローパーさんの根元から上へときゅっと締め上げ――その中心くらいを締めちぎる。
「うっ……」
「なぜか痛い……」
「でも、なぜか妙に……」
きゅっと引き寄せ――軟体生物は木っ端みじんに無数の液体に分裂した。
あ、もちろん気持ち悪いから飛び散る方向は誰も居ない方面にっていう気遣いもね。
倒したときに飛び散るこの液体、媚薬効果持ってるからね……薄い本では出ずっぱりの確かな性能のやつを。
おかげで普通のローパーとの戦闘でエミリーちゃんとかリラちゃんとかがひっかぶっちゃって大変なことにもなった記憶で、僕はちょっとだけ鬱々とした。
……ちらりと振り返ると、本当になぜか――気づかないことにしたい――股間を押さえてうずくまる男ども。
――はたしてそれは、男の大切なものを糸で引きちぎられたような錯覚で呻いているのか、それとも新しい扉を開いているのか。
僕は知りたくはない。
僕だって男なのに、なんでこんな心配しなきゃいけないんだろ。
本当……どうしてこうなった。
やっぱり女装か?
女装がこの世界に悪影響を及ぼしてるのか?
けど、もはやこの格好を解くことは叶わない。
そうしたら最後、この世界の全てが因果をねじ曲げて僕を殺しに来る幻覚が見えるんだ。
――ぽうっ。
びくんびくんとのたうち回っていたローパーさんの残骸が消え、魔石やドロップ品へと変わっていく。
ダンジョン最下層フロアが、明るくなる。
「……倒された」
「ボスが……」
「ダンジョンが、攻略された……?」
「――ええ」
僕は、信じたいけどまだ信じられていない人たちに向けて振り向き――大声で宣言する。
「王国に、人類に仇なす大型ダンジョンを――人の手に!」
「「「うおぉ――――――!」」」
「「ユリア様! ユリア様!」」
人々がお互いに抱き合い、勝利を実感する。
「ふぅ……」
しゅるしゅるとムチを巻き戻しつつ、僕はため息をひとつ。
……主人公くんの大切なレベリング場のひとつを奪っちゃったけども、君にはまだいくつもあるだろうから良いよね?
だってここ、うちの領から近いんだし……何よりも、このダンジョンからの魔力での被害が馬鹿にならなかったんだ。
領地の安定は僕の命の安定、ひいては主人公くんの大切な学園生活の安定に繋がるんだから。
「……皆様。無事、このダンジョンは討伐しました。――凱旋の用意を」
僕は、ちらりと振り返り、光の粒子になっていくローパーを見やる。
――これでまたひとつ、僕の死とメス堕ちな未来が遠のいたって信じて。
◇
「……! ユリア様! ユリア様の遠征部隊がご帰還されたぞー!」
「ユリア様! ユリア様のお姿は……!」
「残念ながら馬車の中……だが、今回も誰ひとり欠けずの帰還だ!」
「さすユリ!」
「さすユリ!」
「「うぉぉぉぉーっ!!」」
そんな叫び声が、馬車の中にまで貫通してくる。
……もう何回もやってるんだから、いい加減飽きてくれないかな。
「ジュ――ユリアさまぁ、窓、開けますかぁ?」
「……ええ、そうしてください」
「はぁい! ……ジュリオン様が優しいしゃべり方してるユリア様のときって、なぜか聞いてるだけでむずむずしてきて……特にですね、この前ぬるぬるさんを浴びちゃった後から、なぜかお風呂に入るときにいつもなんですけど、このおま――」
ごそごそとスカートをめくろうとするエミリーちゃん。
僕はそれを見なかったことにして急いで立ち上がり、馬車の窓を――カーテンだけではなく、窓ごとを全開にする。
……そういうのは10歳児にはまだちょっと早い気がするんだ。
けども女の子の方が発育は早いって言うし……でも僕は男だ、幼なじみなこの子のそういう発育は聞きたくないんだ。
そもそもメインヒロインだから主人公くんのだし……ほら、そういうのはよくないんじゃないかなって。
……ヘタレなことは否定できない。
前世の僕は、そういうのを経験せずに死んだらしいから。
「! ユリア様! ユリア様がこちらを……ヴッ」
「なんとお美しい……」
「ああ! ユリア様が窓に! 窓に!」
「私に手を振ってくださって……もうこの手は一生洗いません……!」
悲しいことに慣れてしまった作り笑顔でにっこり、手をふりふり。
あー、人から尊敬されるって大変だなー。
僕はごく一般的な庶民として、この光景を野次馬として遠くから見てる方が良かったなー。
まぁ3年間戻る気配は無いから諦めてるけどさ……。