悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~   作:あずももも

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98話 豚さんと狂信と

「おい、デイジー! もう良いだろ、姉御――ユリア様は疲れてんだ!」

「リラ、そこは『お疲れですから話を引き継ぎます』と言うんだ」

 

えへえへと僕の前に、カウンターに身を乗り出して――多少伸びたとはいえ子供の背丈だと目の前に迫ってきてた2つの山から僕を引き剥がすように、リラちゃんとテオくんがガードに入ってくれる。

 

おでこが輝いたままで髪の毛も多少伸ばした程度と、背はちょっと伸びたものの印象は全然変わっていないリラちゃん。

 

……そしてさすがは現在中学生の年頃のお兄ちゃんだ、背がいきなり伸びて男らしくなりかけてる(デイジーさんに言わせると「ほどよい成長期のショタ具合ですね! 味見して――いえ、ユリア様のものですものね!」とのこと。僕、男なんだけど……)テオくん。

 

リラちゃんもサブヒロインとしてそこそこかわいかったのが活発な美少女へと進化し、テオくんもすっかりイケメンさんになっちゃって。

 

ダークグレーの――路地裏にいたときは薄汚れた感じだったけど、ちゃんとお風呂に入れるようになったらつやつやして順調な美少女とイケメンにふさわしい髪の毛になっている。

 

遠目から見ても兄妹だなって結構はっきり分かるけども、年齢と性別と――なによりも性格の差が顕著に表れている。

 

……テオくん、本当は僕もジュリオン様としてそっち側だったはずなのになぁ……イケメンとして女の子に囲まれたかったよ。

 

それがどうして女装して「ユリア様」として――いやまあ原因作ったの僕だけどさぁ……女装しなかったら嫌われ者のままだっただろうし、確率で革命からの首ちょんぱかメス堕ちだったろうけどさぁ……。

 

「ギルド側との戦果のすりあわせや報酬については俺たちが」

「やっとくから、上で茶でも飲んで休んでろ――ください!」

 

がるるる、とデイジーさんへ威嚇してくれる忠犬リラちゃん。

 

「……ええ、ありがとう、2人とも」

 

そして2人は立派に忠実な配下として成長してくれている。

 

素直に嬉しい。

やっぱり、普通がいちばんだよね。

 

だからこそ彼らを護衛に選んでるんだし。

 

ほんと、良い買い物――じゃない、良い子たちだよね。

 

「――おふたりこそずるいです! ユリア様の美貌を24時間――」

 

「ユリア様はこの世界で最も貴重なお方、その執事兼護衛として当然です」

「そうだぞ、あたいたちの方が大切……うぇへへ……」

 

……ちょっと懐かれすぎてるのが困るけど、それでも他の子たちに比べたら相当マシな部類。

 

原作でのジュリオン様みたいに、家でも外でも針のむしろで――だからこそ、地位で取り巻きを従える以外に味方が居なかったあの状況よりはよっぽどに良いはずなんだ……うん……3年経っても庶民の感覚が消えない僕の方に問題があるんだから、うん……。

 

 

 

 

「セレスティーヌ様ぁぁぁぁ! お目にかかるたびにかつてのお美しさをぉぉぉぉ!」

 

「………………………………」

 

すっ。

 

僕は、屋敷の敷地へと門を潜ったとたんに全力疾走してくる巨体を前に、そっと――足を、突き出す。

 

「――ぶっひぃぃぃぃぃぃ!!! セレスティーヌ様のお御足ぃぃぃぃ!」

 

ずざぁぁぁっ。

 

その巨体は、数メートル前から綺麗に膝を折りたたんで体を丸め――ケガをしない程度にスライディングをかましてくる。

 

しかもこれ、毎回やるけど絶妙にケガしないんだよなぁ……服がぼろぼろになるだけで、なぜか無傷。

 

ギャグ展開にしても正直言って怖い、怖すぎるよ。

 

「うわぁ……キモッ……ガキのころはよく分かんなかったけどキモッ」

「ユリア様。この者の首、今なら落とせます」

 

ちゃきっ。

 

腰を落とした2人が、静かに短剣を懐に握っている。

 

ステイステイ。

僕は目線だけでそう伝える。

 

リラちゃん、キモいって言葉は全方位に流れ弾を量産するからやめようね。

テオくん、こんなんでもすっごく有能な諜報担当だから殺しちゃダメだよ。

 

あとこんな人でも一応は貴族だからね、爵位持ちだからね。

こんなんでもね。

 

こんな人でも平民相手なら気分次第で好きにできるんだからね……まぁするはずないけどさ。

 

「れろれろれろれろ……」

 

ぜえぜえはあはあ息も荒く、彼はおもむろに僕の差し出した靴先を両手でつかみ――舐め始める。

 

鼻息が、吐く息が、もわっと僕のつま先を――靴を貫通して生暖かく温めてくる。

 

「………………………………」

 

僕はたぶん、死んだ魚の目をしているんだろう。

 

あるいは豚を見る目。

でもそれがご褒美になっちゃうんだ。

 

なんでだろうね。

 

……おかしいなぁ、確か配下の礼としての接吻って、もっとこう、綺麗なものだったはずなのになぁ……?

 

「ひぃっ……!? こんなのに耐えられる姉御、やっぱすげぇっす!」

「ぐっ……! ユリア様の靴先とはいえ……なぜか、悪寒と共に高揚感が……!」

 

リラちゃんは、何しても忠誠度(ヤンキーの下っぱ的な)が上がるちょろ――かわいい子。

 

そしてテオくんは、無事に道を外し始めている。

 

なんでだろうね。

なんで僕の周りばっかりがこんなギャグ仕様なんだろうね。

 

この3年間、僕が行かなかった場所では辺境の村が気がついたら魔王軍とか疫病とか盗賊とか瘴気で壊滅したり、町の一角で似たようなことが起きたりして少なくない被害が出ているのにね。

 

僕、保身のためとはいえ相当がんばってきたのにね。

 

なのになんでだろうね。

これが結果なんだろうね。

 

「リラ……分かるか? 俺たちの尊敬して止まないユリア様が、鳥肌まで立てながら足先を汚い豚に差し出しているんだ……! 見ろ、あの汚物を心底軽蔑した目つき……!」

 

「兄貴もキモい……けど、なんか分かる気がする……」

 

この子たちもやっぱりダメみたい。

 

不思議だね。

 

アクのないサブヒロインと顔も出てこない=特徴のないお兄ちゃんだったはずなのにね。

 

「じゅるっ」

「ひっ……」

 

悪寒にびくっと跳ねる、僕の体。

 

あ、ちょっ、足首はダメだって前に言ったのに……終わったら川で洗って新しい靴下だな……。

 

――うん、理解した。

 

女の子って大変だなぁって。

 

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