悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~   作:あずももも

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107話 ため息とマルテルさん

「……はぁぁぁ……会いたくない……」

 

「ユリ、ジュリオンさまっ! 大丈夫です!」

「そうです! ジュリオンさまならめろめろです!」

 

落ち込む僕へ、まったくこれっぽっちも根拠のない慰めの言葉がかけられる。

 

うん……エミリーちゃんもルーシーちゃんも、見た目はともかく中身はそっくりさんだからね……君たちはそのままぽんわりとしていてね。

 

「……貴族の婚約なんて、よほどのことがなければ解消なんてされないし、できない。それがたとえ当人たちでも――嫁に行く立場でも」

 

僕は、ゆっくりと体を起こす。

 

――自室でだけ、あとは「ジュリオン」としての限定的な公務のため、そしてなによりも「ユリアという娘しか存在しない疑惑」を解消するために――長く伸ばさせられた髪は後ろで結い、男としての服装に身を包むことができるおかげで、かろうじて男としての自意識を保てる姿で。

 

服装とか髪型ってすごくって、普段はユリア様してる僕でもこうしているととたんに男になるんだ。

 

すでに何回かの公務で父さんや兄さんの名代として何人かの貴族と会ったりしていて――そのときだけ男扱いで本当に嬉しくって。

 

でも、僕は落ち込むしかないんだ。

 

「はぁ……なんでこんなことに……」

 

分かっている。

全ては、僕が我が身かわいさに、保身のためにしていること。

 

それでも……でも、こんなのはあんまりじゃないか……!

 

「「ジュリオンさまぁ……」」

 

僕という人間が男だという事実は――この屋敷の中ですら、疑われている。

 

それは、僕を幼いころから世話してきていた――お風呂であわあわしてきたし、今でもしている使用人たちですら、だ。

 

生えているのをしっかり見ているはずだし、なんなら僕が「男」として役に立つように比較的若い人が――いちばん幼いのがエミリーちゃんだけども――用意されているはずなのに。

 

そうだ、貴族の世界では使用人の女性ってのは「そういう仕事」もある。

彼女たちは――彼女たちの意思かどうかはともかく、そういう前提でここへ来ている。

 

いざとなれば誘い、仕込むのだと親から言い含められている。

彼女たちが理解していなくても「お手つき」になった時点で家族ごと安泰なんだからって。

 

――なはずなのに、最近の彼女たちはどう考えても僕のことを男として認識していない。

 

気は楽だけど不思議だね。

なんでだろうね。

 

曰く、「セレスティーヌ様の生まれ変わりなら現実の肉体を偽装することは可能に決まっています!」だとか「セレスティーヌ様なら生まれ変わる際に生やすことも可能ですので実質的に淑女でございます!」だとか「セレスティーヌ様なら分裂されるのも不可能ではないかと!」とか「セレスティーヌ様は生前に性転換魔法について真面目に研究されておられたので、その成果かと!」など、意味の分からないことをのたまう始末。

 

――僕をあわあわし、僕の生えてるものをガン見しながらでも平気で、いけしゃあしゃあとね。

 

まるで生えているものを生えていないかのような見られ方をしていてね。

 

ああ……母さん、どうして。

 

「……こういう暗い感じのジュリオンさま……素敵ですよね」

 

「分かります! あのお美しいユリアさまが、実は……って考えただけで、なぜか分かりませんけど、将来は子供をたくさん産みたいなって……!」

 

ひそひそひそひそ。

 

エミリーちゃんとルーシーちゃんが、今日も仲睦まじく話している。

……できれば僕も、なんにも考えずにそっちの立場に居たかったよ。

 

ああ。

 

生きるのって――こんなにもつらいんだね。

 

 

 

 

「……そうですか。ユリアにも、婚約者が……」

 

「ええ……貴族である以上、親の決めた相手とは仕方がありませんが、それでも……」

 

今日も何度目のため息が漏れる。

 

「容姿端麗で魔法も体術も天才、領主代行やギルド代行としての指揮も人心掌握も完璧。素晴らしい姫として語り継がれる亡きお母様の再来なお嬢様でも、悩みごとがあるのね」

 

済ました真顔で、大した感想も抱いていない声で言ってのける少女。

 

この無感心っぷりが、僕は好きなんだ。

 

「……私、わりと愚痴を吐いていませんでした?」

 

「いえ、正直私の実家なら1つの案件について何人も集まって何年も掛かるようなちょっとおかしい難易度のいろいろを、『できるけどとにかく面倒くさい』と嘆いているような、持てるものの悲しみとはこういうものなのねって感心していただけだけど」

 

僕の悲しみは彼女に1ミリも伝わっていない。

この世界にミリっていう単位は存在しないけど。

 

「ひどい……」

「ふふっ……」

 

――僕の横に座っているのは、冒険者の服装に身を包んだ少女。

 

マルテルさん。

 

「ただの」マルテル――らしい。

 

けどたぶん、どっかの……男爵ではないだろうし、伯爵あたりのご令嬢か。

金髪がまぶしい、気の強そうだけど案外優しい子。

 

……同い年くらいの貴族令嬢なら絶対どっかのパーティーで会ってるんだけども、なぜか見覚えがない子。

 

もしかしたら相当遠い領地から逃げてきたのかもしれない。

そういう詮索はしない不文律だからしてないけども。

 

うん。

 

厄介すぎるメインヒロインな婚約者さんのことで胃がきりきりしている僕にとって、今、いちばんに心安まる相手なんだ。

 

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