悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~ 作:あずももも
僕が「ユリア様」として有名になりすぎたせいで、会う人会う人みんなに持ち上げられて辟易してた3年前。
いや、辟易してるのは今もだけど、なんかもう諦めたから遠くを見てごまかしてるだけなんだけども、とにかくいちばん忙しかったあのころ。
僕は覚えてないけども、町のどっかで会ったらしい冒険者な彼女に声をかけられて気がつけばそれなりの頻度でパーティーを組むようになり、今日もこうして夜営を共にしている。
うん、ですの3姉妹もルーシーちゃんもリラちゃんもテオくんも比較的安心できる子たちではあるけども、この子もまた「同格に近い身分」っていうところで遠慮がないところが良いんだ。
「むむぅ……!」
「マルテル様、ずるいですの……!」
「で、でも、ユリアさま、マルテルさまと一緒のときは……」
「はぁ……分かっておりますの。お家の格が近く、気苦労を共有できる貴族令嬢ですものね……」
――この子と一緒になると、なぜか他の子とか人が距離を取ってくれる。
うん、この子、ぱっと見はキツそうだからね。
実際貴族のご令嬢なんて、媚びる相手以外にはこんなもんなんだろうし。
けど、この子は実際のところは普通だ。
普通すぎてびっくりしたくらいには普通の子だ。
この子が居たおかげで、僕は正気を保っていられる。
僕を過剰に持ち上げて崇拝して畏敬して勝手に憶測でいろいろ先回りして考える人たちだけしか居なかったら――ジュリオン様みたいにそうされるのが嬉しい性質じゃない僕だったら、確実に壊れてただろうからさ。
「ふぅ……」
「ため息はやめてくれるかしら」
切れ目の瞳が、金髪のあいだでちらちらと見える。
うん、貴族らしい貴族で、気品ってのを感じる。
……僕も他の人からこう見られてるって思うと落ち込む。
「だいたい、ユリアには欠点らしい欠点がないから悪いのよ」
「たくさんあるはずなのですが……」
「あるのが全部美貌や策略のせいで魅力に変換されるからね」
ああ、ばっさばっさと切り倒してくれる。
こんな子は貴重すぎるんだ。
「そんなぁ……」
「……ふふっ」
――「ユリア」。
僕のことを、唯一で呼び捨てにしてくれる子。
あとは「たん」とか間違ってもつけようとはしない子――いや、あれはもう手遅れな肉親だった何かたちだけか。
目の前ではぱちぱちと焚き火が音を立てる。
草原――夜営中の僕たちは、町の騒々しさから解放されている。
そうだよな。
僕がこんな役割をしている以上、気が休まるのは自室――ただしエミリーちゃんとアメリアちゃんとルーシーちゃんの襲撃があるから、実質深夜のみ――それも僕たちが子作りできる年齢になったら、寝てるあいだすら気は休まらなくなる。
前世の一般成人男性だったころはそういうのが羨ましいって思ったんだろうけども、実際に襲われる身分になると気が休まらないんだ。
そんな自室以外ではもう、こうして無理やりにでもパーティーとして遠征をした先で――多くて数十人、少なくて数人な空間しか存在しない。
だからパーティーでのダンジョン攻略や遠征は、僕にとっての憩いの時間なんだ。
……今思えば、初手で冒険者になったのは正解だった。
だって「冒険者のパーティーとしての仕事」があるって名目は、公務の次に協力だから。
あと、すがりついてくる肉親だと思いたくないあれたちから距離置けるし。
もう僕、このまま出奔しようかなぁ……いや、全力で追いかけられるから逃げ切れないなぁ……あとたぶんだけど、僕が居なくなったら父さんも兄さんも使用人たちも発狂する気がするし。
もうやだあの家、家出したい……。
「……それにしても、婚約者……ね」
ああ、そっちもまた胃が痛い問題だったね。
こっちはジュリオン様のせいだけどね。
「ええ……いよいよ来週に会う約束を」
「…………………………そう。来週ね」
ワンテンポずれての返事。
おや、なんだか言いたげな答え方。
マルテルさんにしては珍しい気がする。
「?」
「いえ、なんでも」
なんとなく聞き返したら、ふいっと目を逸らす彼女。
……ああ、良いよね、こういう距離感。
この世界に来てからというもの、ちょっとばかり持ち上げられすぎていたんだ。
僕の中身は、しょせんただの新米社会人B。
人間関係に晒され続けるのになんて慣れていないんだ。
どうやら僕はちやほやされるのが生き甲斐なタイプじゃなくて、別に褒められなくてもいいからそっとしておいてほしいタイプの人間なんだ。
「一体何の話を……」
「しっ、聞こえますの」
「聞きたいけど我慢ですわ!」
ですの3姉妹はさすが普通ということもあって、普通にデリカシーもあってくれる。
ただし声がでかいからこうして風に乗ってきて全部丸わかりなのが玉にキズ。
でも、おかげでマルテルさんへ愚痴を言ったり、あるいはひとりでぼんやり座っていたいと言えば、理由も聞かずにそっとしておいてくれる。
あれ?
この子、僕にとっての女神じゃない?
この世界で実際に存在するらしい上位存在の女神様ではなく、人間として素晴らしいって意味での女神様。
あるいは天使……いや、この子はきりりとしているから天使よりは女神だな。
うん。
これからは心の中でそう呼んで崇めよう。
僕より上の存在にかしずくと、なぜかすごく安心するんだ。