悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~   作:あずももも

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137話 マルテルさんがこわい

「あ……あの、ジュリオン様? あのお方……わたくし、全然見えなくて……」

 

「ああ。彼は、ベルトラン。セレスティーヌ母上の護衛のためにこの屋敷へ来ている、かつては王の警護をしていた騎士団の、元団長だ。そして、父上からこの屋敷を任されているほどの強さを誇る……子供の僕たちとは経験が違う」

 

「……あっ、そういえばセレスティーヌ様の伝説に、そのような方が……」

 

ああ、今世の実母よ。

 

本当に貴女が今、生きてくれていたら――いや、その時点でジュリオン様がこじらせる未来は消失して死亡フラグもメス堕ちエンドもありえなかったけども。

 

とにかく、その方が全員幸せな未来にたどり着いていただろうけども、そうなると、この前世の僕自身は前世で死んだままで全てを忘れていただろうって考えると……とっても複雑。

 

その代わりに、こんなに大変な目には遭わなかっただろうけども。

 

……やっぱ生きててくれた方が良かったです、今世のお母様。

 

僕はごく一般的な現代の弱っちい社会人男性なんです。

貴族として生まれたジュリオン様ですら心停止するストレスには敵わないんです。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

静止した空間。

 

……女神たる彼女と過ごすなら、この沈黙も悪くはない。

 

けども、今は。

 

「済まない――いえ。……んんっ」

 

喉を、いつもの形へ。

 

「ユリア」として慣れ親しんで、どころか気を抜くとこっちになっちゃう発声方法へ――僕は、戻す。

 

「――『私』からもごめんなさい、マルテル――いえ、マルセラ。……それとも、この場ではマルセラ様と呼び直した方が良いでしょうか」

 

僕は彼女へ向き直り、最近はもはや意識しなくても出せる「ユリア」っぽい声と口調で――つい数日前まで彼女へ見せていた「僕」になって。

 

「……! ……ユリア……ううん。マルテルと呼んでくれる、貴女の声が、私は……っ!」

 

――途端に泣きそうな顔になった金髪の美しい女神のような彼女へ、せめてもの弁明を試みる。

 

「隠していたユリア」として――そして、「隠す必要のなくなったジュリオン」として。

 

「この件は、その……少しばかり大ごとになりすぎて。ええ、初めはマルテル様との件で悪評が多かった『ジュリオン』では動きにくいために、『ユリア』になっていただけだったのですが……気がつけば『「僕」の「双子の姉としての私」』が、存在しないといけないことになってしまいまして」

 

改めて口にしてみると、ひどい言い訳だ。

 

普通ならまず納得以前に理解ができないだろう。

 

「メス堕ち死亡ルート回避のため」とは口が裂けても言えないけども、それ以外の理由としては嘘じゃなくなってしまった、僕が女装をして双子の姉になり切っている理由。

 

……それを、この世界で1番知られたくない女神マルテルさんもとい婚約者マルセラさんへ言わなきゃいけなくなるだなんて。

 

――これで今後、彼女との関係がぎくしゃくしてもう二度と気楽で対等な関係で居てくれた「マルテル」さんとは会えなくなるかもしれない。

 

けども。

 

僕の正体に勘づきながらも知らなかったことにしようとしてくれた女神級の優しさへは――こうして報いないといけないと思ったんだ。

大丈夫、マルテルさんとは別人だと思っていた婚約者については適度な距離感か、あるいはさらに嫌われてさっさと主人公に任せようと思っていたんだ。

 

この子は、やっぱり女神マルテルさんなんだ。

 

だからこそ、たとえ傷つけてしまうとしても本当のことを言わないといけないんだ。

 

今さら傷つくことなんて――――――

 

「……ひとつ、よろしいですか?」

 

「はい。なんでも」

 

ない、はずだから。

 

「……その。普段の冒険で……その。お花摘みや入浴を徹底的に避けていらしたのは、男性だったからでしょうか。それが、私たちと一定の距離を取り、お付きの方々とは違った理由……?」

 

「はい……」

 

ああ。

 

短いけど楽しい日々だった。

 

「……では、魔王軍幹部の淫魔に強襲されて、危うく……という場面では」

「はい……」

 

「『男性』としていただかれようとされていた、と……?」

「はい……そう、なりますね」

 

ああ。

 

そういや僕の、ほとんど事後にも等しかったはずの姿、この子にも見られていたんだっけ。

 

それは失望されるだろうな……それともサキュバスに襲われて喜んでいたと蔑まれるかのどちらかだ。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

沈黙が怖い。

目を合わせられない。

 

「……ユリア様」

 

「はい」

 

どんな、罵倒でも。

 

僕は――覚悟をして顔を上げて、

 

「――つまりは私の婚約者が危うくぽっと出の雌淫魔に奪われかけていたのですね? 私がジュリオン様と初めて結ばれるべき婚約者というのに。大切な御方の初めてを、取られるところだったのですね? それを私は知ることもなく、呑気にしていたと――そう、いうことで合っていますね? ね、ユリア?」

 

「はい――――――えっ」

 

あれ?

 

なんだか様子が変だぞ?

 

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