悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~   作:あずももも

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140話 マルテルさんの発想力は恋に暴走する乙女力

「素敵よ? ユリア」

 

――――――つつーっ。

 

僕の頬から首筋、鎖骨のくぼみを撫でるマルテルさんの指先に、変な声が出る。

 

「ひゃんっ!?」

 

「うふふ……可愛いわ、ユリア。――――――――今すぐに食べてしまいたいくらいに」

「!?」

 

……普段からユリアとして少しだけ女の子らしい抑揚にしたりしてるせいか、とっさの声が完全に女の子に……ていうか待って、マルテルさん、まだ10歳だよね?

 

なんで、その……手つきと目つきが……やらしいの……?

 

「セレスティーヌ様はお美しい方でしたが、ただ一点――夜の方では旦那様を組み敷かれ、手を出す方……あれはまさに獣――百獣の王。印象とは違い、その支配権は鬣のない雌の方にこそあったとされ、雌を満足させなければ捨てられる雄という生態を持った獣の王。それがジュリオン様、あるいはユリア様であらせられるときには逆に……おお……」

 

ベルトランはステイ。

 

なんとなく察してる亡き母さんへの想いをそういう形で僕へ向けないでほしい……お願い、本当にお願い……ていうか10歳児に聞こえるように言わないで、そんなこと。

 

肉親に関するセンシティブな話題って、単純に心が締めつけられるんだよ?

 

「ねぇ? 執事様?」

 

「ベルトランとお呼びくださいませ、マルテル様」

「ええ、ではベルトラン?」

 

どうしたのかな、マルテルさん。

なにか思いついたのかな、マルテルさん。

 

「私、お父様とお母様からの魔力をそれなり以上に受け継いでいて、冒険者としてもすでに中級に至っているの」

「はっ……ユリア様とともに素晴らしい活躍をされていらっしゃるかと」

 

「つまり、よ。――肉体が頑丈なの。ええ、それはもう」

 

――――――――ぞくっ。

 

背筋に氷を入れられたような感覚がしてきた。

 

「まだ体が完全に子を産み育てるには幼くとも、この調子で鍛え続けたなら。――――――――月のものが来たらすぐに孕んで産むことも可能――よね?」

 

「………………………………!!!!」

 

なに「完璧な計画ね」って顔してるのかなマルテルさん。

なんで「そうか……!」って顔してるのかなベルトラン。

 

「私の月のものとユリア――いえ、ジュリオン様の生殖能力が、もっと言えば男性能力……男性? そうよ、ジュリオン様は男性なの……いえ、でもユリアは素敵な女の子……いえ、あのアクヤクレイジョウの血を引いているのだもの、女性でも女性を孕ませるなど、女神様の祝福を受けているのだからかんたんにできるの……」

 

ぶつぶつぶつぶつ。

 

……奇天烈な発想をしつつも、やっぱり心のどこかがやばいことになってる気がするマルテルさん。

この責任はたぶん僕にあるんだけど……解決方法、ないよなぁ……だってこの子、「普段はユリアの格好しろ」って言うんだもん……。

 

「学園前に子を成すことは一般的ではありませぬ……が、他ならぬジュリオン様との間であれば、旦那様の御力でどうとでもなるかと」

 

「……そうね、その話だったわね」

「左様でございまする、聡明なるマルセラ様」

 

ぶつぶつが引いていくマルテルさん。

 

マルテルさんの状態を把握して絶妙なタイミングで話題修正してくれるベルトラン。

でもね、僕としてはもっと別の話題にさりげなくすり替えてほしかったよ?

 

……でも今さらりと言われたけど、確かにうちは――デュクロワ家は、この世界においては公爵……王家の次の地位に匹敵する権力を持つ。

 

王の冠を民衆が奪うまでの世界では、爵位とは、それだけであらゆることが可能になる万能の力。

王族や貴族はもちろん、平民に至るまで、その99%以上がその支配構造について疑問を抱くことなく産まれてから死ぬのを繰り返す世界だ。

 

王族は実質的に神も同義、それに連なる貴族……その中でもそのすぐ下に座る上位貴族たるデュクロワ家もまた、神に逆らわない範囲なら実質的にまた神として扱われる存在。

 

――ここへ絶対的な権力の象徴としての魔力が存在する以上、この世界でこの支配構造が崩壊することは……それこそ復活した魔王と敵対する魔族、魔物のことごとくを征伐しきるなどという偉業でも達成されない限り、あり得ないだろう。

 

そんな世界では確かに、辺境伯当主たる父さんが強く望めば、どんな醜聞でも「なかったこと」や「素晴らしいこと」に捻じ曲げることもできる。

 

それが貴族社会ならなおさらで……しかも父さんの前妻は元王族の姫様だ、やろうと思えば本当にどんなことでもできちゃうんだろう。

 

王家との関係はすこぶる良好、辺境伯として魔王軍との熾烈な戦いで勝利を収め続け――そしてまーた出てくる母さんが死んじゃった原因が王家とか他の貴族家にあると来れば、それこそ父さんが「今日から王様やっちゃおうかなー」とか言い出さない限りはどんな無茶でも快諾されるんだろう。

 

………………………………。

 

……あ、待って?

 

僕が最初「世界にメス堕ちしたから懲らしめる必要はないですよ」って偽装するためにした、この世界ではわりとタブーな女装のこと……辺境伯な父さんや伯爵なマルテルさんのご実家が「これはとてもいいことです」ってことにしちゃったら?

 

「………………………………」

 

……やばい……変な汗をかいてきた。

 

僕の最初にして最大の計画が、こんなことで破綻しかけている。

 




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