悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~ 作:あずももも
「身籠もり、おなかを隠せなくなるあたりで私は『冒険中に大きな負傷をした』として1年ほど休養を取る形にすれば、ユリアの子供へ乳を上げ、お母様や使用人に任せられるようになってから戻ってこられるわ。あるいはお母様に連れ戻されて『ジュリオン様に見合う女性になるために淑女としての教育で籠もる』とでも……ええ、理由は複数思いつけるの」
「……さすがでございまする……! なんと……なんと聡明な……!」
聡明かな?
聡明かな……10歳の女の子って怖いね。
僕が10歳の頃なんて、前世なら遊ぶことと日曜日の朝のアニメくらいしか頭に無かったよ?
「ジュリオン様でもユリアでもある愛しい人の、娘や息子。産むのが早ければ……それこそ今年や来年に恵まれたなら、ユリアが学園を卒業するとき、ちょうど今の私たち――いえ、ユリアのような子供の面倒を見られるわ。どうかしら、この計画は。魔力の継承具合次第では――ええ、ユリアがセレスティーヌ様そっくりに育ちつつあるように、その子もまたユリアなら、私としてはその子たちを『ユリアやジュリオン様の妹や弟』として引き取ってもらっても構わないわ」
「至急、旦那様へご報告を――――――さぞかしお喜びになるかと……!」
「うふふふふふふふ……」
「ほっほっほっほっ……」
――――しゅたっ。
ベルトランが、今の僕でぎりぎり認識できる速度で一礼をしながらムーンウォークをしてドアまでたどり着き、後ろ手で開けて……閉じ、恐らくは廊下を音を立てずに疾走していく。
……あれでおじいちゃんって元騎士団長ってすごいね。
なにしろ数年後に主人公くんパーティーを一身で受け止めることすら可能なスペックだからね。
僕は、シャンデリアが吊されている天井を見上げる。
「ジュリオンさま、またお空を……あ、綺麗なちょうちょ。ほえー、あのちょうちょ、いつも居ますねぇー」
庭から顔をのぞかせた綺麗な蝶が、僕たちを眺めている。
僕も、その綺麗な羽が欲しくなってきたよ。
◇
「やはりユリアはその姿が素敵ね。もちろん、婚約者のジュリオン――美少年の姿も素敵。けれど、私が『女としても』好きな、ユリア――気高き貴族令嬢。その姿を見ると……」
僕が下を向くと、イスに座っているときふわりとなるスカートの裾が目に入る。
――うん。
男装、もとい普段着はもうおしまいだ。
マルテルさんの要望(命令)により、僕はいつも通りになってしまった「ユリア」の姿に「戻って」いる。
「ジュリオンさまは、やっぱりかわいいほうがいいですぅー」
「エミリー……と言ったわよね。良くわかっているわ、貴女」
「えへへぇ……」
ああ、エミリーちゃん。
なんにもわかっていないのに、褒められたらとりあえずで照れて喜ぶかわいいいきもの。
「……ユリア?」
「はい」
僕はなんでも言うことを聞きます、マルテル様。
「あの子……必ず側室にして頂戴。他の男のところへは出さないで頂戴。わたくし――いえ、私が愛でるわ。ユリアとジュリオンの次に。ああいう子も欲しいから、絶対に縁談は断って」
「? えへへ……?」
「え……えぇ……」
普段から、10歳とは思えないほど成熟して常識的なマルテルさん――マルセラは、精神年齢最低でも20+3歳の僕と同じく、純粋無垢なウサギさんのごとき天使エミリーちゃんに首ったけになっている。
……マルテルさんが女神なら、エミリーちゃんは天使。
過去のことを軽く流してくれてこっちの事情を把握し、遺恨なく流してくれる――やっぱり彼女は女神だった。
そうだ、マルテルさんは女神なんだ。
僕のことを捕食しようとしてきてるマルセルとは別の子なんだ。
マルテルさん?
マルセラ・マルシュ?
………………………………???
「だけど、同一人物でジュリオンとユリアを同時にこなしているあなた……やっぱり、『あの』セレスティーヌ様の血を引いているのね」
「関係があるかどうかはわかりませんけど……」
「関係あるわ? ねぇ、ベルトラン?」
「奥様のおっしゃる通りでございます」
しゅたっ――――――父さんたちのところへ要らない報告をしに行ったおじいちゃんが、即座に帰還している。
ああ、僕はなけなしの執事も取られたんだ。
「これからは、事情を知る私が……貴族令嬢としてジュリオンを。そして冒険者としてユリアをサポートするわ。うちのメイドを数人こちらへ送っても良いかしら? 遠距離通信魔法の水晶も持参させて、両家の連絡を密にしたいの」
「おお……! もちろんでございます。旦那様からも『この屋敷の隣におふたりの愛の巣を建てようか』と……!」
「あら、良いわね。そこでなら気兼ねなく次世代、あるいは『ユリアの妹や弟』を量産したいわね? ユリア?」
「………………………………ええ……」
……僕を挟んで、僕を飛び越えて。
何か、取り返しのつかない事態が進行している気がする。
でも、僕にできることはなんにもないんだ。
ねぇ、窓枠で休んでいるちょうちょさん。
僕のこと、庭でなんの気苦労もなくひらひらと舞う君たちの仲間に入れてくれないかな。