悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~ 作:あずももも
「…つも、アメリアが迷惑をかけています。ジュリオン」
「いえ。かわいい妹のためですから」
暖かい日差しの降り注ぐ中庭。
そこへ用意されたお茶菓子を乗せたテーブルを囲んで、僕はソフィーヌ母さんと静かな午後を過ごしている。
「ですが……あの子は、本当に変わりました」
「そうですね」
今日の僕は、幸運なことに男の服装だ。
本当に幸運で、落ち着いて、心癒やされる格好だ。
今朝も着せたいドレスを持ち出してきたエミリーちゃんが泣きそうになるのにも、断固として抵抗できたんだ。
……屋敷のみんなとマルテルさんからは僕が男の格好をしていると男装だと断定されてしまうけども、こっちが本来の性別的には紛れもなく真実を現す格好のはずだ。
なぜか因果が捻じ曲がっている気がするし、僕もなんだか落ち着かない気分になってくるけども、前世と今世の両方の性別的にもこっちが正当なはずなんだ。
――まさか、これが世界の修正力とかじゃないよね?
ね?
いや、大丈夫だ。
「この格好……変ではありませんか?」
「ええ。パーティーに出たらどんな女の子でも恋に落ちる、素敵な男の子ですよ」
母さん――ソフィーヌ義母さんだけは、僕のことを理解してくれている。
それに存分に甘えてもいい年頃なんだ、女扱いでメンタルが病んだら甘えよう。
……前世を含めると「精神年齢で年下の義母に甘える成人男性」が爆誕するけど、もうそういうのもいいかなって……いろいろと疲れてるし……ほら、メンタルを盛大に病んでいた現代の創作ものでは、年下の少女にバブみを感じてなでなでされるのは当たり前だった記憶があるし……。
そう考えると、わりと日常的に命の危険もあるし飢えることもある危険なこの世界よりも、前世の平和な世界の方が精神衛生的にはやばかったのかもしれない……いやほんとに。
「ほんの、少し前。……ええ、本当に少し前」
義母さんの顔は、原作で見たアメリアちゃんを大人びさせたそのままの美人さん。
というか20代半ばだし、僕の精神年齢的には同世代で、けれども雰囲気的に幼いから年下と感じる思考のバグを覚えてしまう。
「ジュリオンがセレスティーヌ……セレス、あの人の格好をするまでは、アメリアは月に何度か、それも短い時間しか部屋から外へは出られなかったのに。けれども今は、ほとんど毎日エミリー……あの子と、楽しく花を愛でて土を慈しみ、朗らかに笑っています。ルーシーのように歳の近い使用人たちとも、すっかり仲良くなって。とても……幸せそうです。あの子の小さいときと比べて、ずっと」
そう言って、静かにほほえむ義母。
「……ジュリオン。これも、貴方のお陰ですね」
……その笑みは、原作で見たことのあるアメリアちゃんのルートで彼女が主人公へ向けていたそれと、瓜二つ。
まるで主人公くんのためのそれを僕が原作知識を悪用して奪ってしまった気がして、心がちくりとする。
「……何度も言いました。違いますよ、母上。僕は、なにもしていません」
「貴方の母は、セレス、あの方だけですと、私も何度も申し上げました。私のことは、名前で呼んでちょうだい?」
僕たちの言葉は、お互いにぶつかる。
何度目かに、同じように。
……この人もこの人で、やっぱり僕に対しての負い目――自分の母親が亡くなった直後に屋敷にやってきたのを、今でも引きずっているんだ。
セレスティーヌ母さんが死んだ直後の再婚。
それは当時の政治情勢的に仕方のなかったことらしいというのはベルトランから聞いている。
だから気にしなくていいって言ってるのに……人の感情ってのは、難しい。
「……ふふっ。あの人も、戦場と政争と――ピエールに関わること以外では、そういう顔をしていました。やはりセレスの子ですね。顔も性格も、そっくりです」
いや、それは困る。
エキセントリックやべー女だったらしい実母と、性格だけは違うって主張したいです義母上。
けども……そんな実母が、今の僕みたいに悩みを抱えたりしたなんて……あるのか?
「……セレスティーヌ母様が」
「ええ。普段のあの方は、とてもお優しくて――そして、譲れないことに関しては、今のように。……夫となる人を巡っての喧嘩も、今のように。ふふっ……実は元々はピエール――貴方のお父様と婚約していたのは、私だったのですよ? それを、ある日突然、貴方のお父様との出会い頭に取られた私は……結構怒ってしまいまして。知っていました?」
「知りたくなかったです……」
Oh…なんてことだ。
実母と義母が父親を巡ってバチバチにやってたとか聞かされるなんて。
ていうか普通に略奪婚とか言っちゃってるし……んで略奪実母が死んだ直後に義母が再婚とか、絶対これソフィーヌ義母さんの実家となにかあったでしょ……いえ、くわしいことは聞きたくないです。
あ、聞かせてこないでください本当に。
ていうか笑顔でさらりと貴族のご婦人方のえぐい話とかしてくるのも本当にやめてください……それ、10歳の男子に言うような内容じゃないんです……。