悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~ 作:あずももも
僕はげんなりした。
お昼のワイドショー、昼ドラ、週刊誌――その中でも僕がこれっぽっちも興味がなくて素通りするような、主婦層の大好物な恋愛や不倫、修羅場といった知識を詰め込まされたんだ。
それを、年上で年下の義母に。
……でも、これから先の貴族の社交界で生きるためには必要な知識って理解してるもんだから聞かない選択肢はないというね。
「……ふふっ。そういう、興味がないのに立場として聞かざるを得ない――そんなときの困った顔は、セレスと本当にそっくり」
僕が困るのを見て笑っている綺麗な人。
ああ、美人ってずるいね。
「僕……そんなに母上に似ていますか?」
「顔と髪と声の美しさと同じくらいに」
「……性別は男なのに?」
「あら、大半の領民からは『ユリアお姉さん』と認知されているのでは?」
にこりと綺麗な義母さん。
やめて。
あなたまで僕のことを『ユリア』と呼ばないで。
「…………学園に入学します15までには声変わりもして、父上や兄上のように立派な髭が――」
「――そんなものは認めないぞセレスティーヌ! あと、セレスティーヌに捕食された件については本当に申し訳なかった! まさか酒に盛られていたなどとは思わなかったのだ!」
「――そんなものは認めないよママ! でも、そのおかげで俺は生まれてママも生まれたんだ! セレスティーヌママとソフィーヌママ、そしてユリアママの3人もママを持てたんだ!」
ざばっ。
なぜか植え込みの中から――頭の上に枝葉を生い茂らせている残念な肉親たちが現れる。
……僕、本気で義理の母親から生まれてきたかった気になってきたよ。
「……父上、兄上。また庭師の方とベルトランに叱られますよ……生け垣を台無しにして」
「そんなことはどうでも良い! セレスティーヌはそのままセレスティーヌに育つのだ! やがてはかつての姫だったセレスティーヌのように!」
「父上、いくらなんでも性別の壁は無理です。僕もそのうちにおふたりのようになりますよ」
「やだいやだい! ママは俺が小さいころに墓地で見送った、あの美しい姿のまま永遠なんだい! ……俺の婚約者もそれを理解してくれてママみたいな見た目に近づこうと努力してくれてるんだい! だから好きなんだい!」
「……同情はしますけど、それはこじらせを過ぎていますよ、兄上……?」
あと、兄さんの婚約者の人……とんでもなく懐が広い人だから、絶対逃しちゃダメだからね……?
けれど僕は知っている。
原作での「未来のジュリオン様」は、メス堕ちエンドのためなのか髭は生えていないか綺麗に剃っているけれども、確実に背が伸びてそれなりにがっしりとした背格好になるって。
それこそ、今の兄さんに近い体格にはなっていたはずだ。
さすがにそうなってくれば、このふたりも……諦めてくれるよね?
ね……?
「……ふふっ。ジュリオンは、本当に愛されていますね。妬けてしまいます」
「!? 待てソフィーヌ! 私は貴女のことを第一に!」
「あらあらどうでしょう? やっぱりセレスのことを今でも想っているのではなくて? 私を差し置いて、1度婚約破棄をしてきたように」
「ソフィーヌ母さん! 俺は、貴女が初恋の人で!」
「ごめんなさいねユーゴ? 私、貴方のお父様の女なんです……ふふっ。私、貴方のお嫁さんにはなれないんです……だって、もう貴方のお父様のお嫁さんだから」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
がりがりがりと頭をかきむしる成人男性共。
いい歳をした男がふたり、妙齢の――この世界基準でだから、まだ20代だけども――女に、手玉に取られている。
ていうか……兄さん。
あなた、その年齢にして相当こじらせてますよね……。
「――こういう場に居ても違和感がまるでないのは、なぜなのでしょうね? ジュリオン?」
……えっ。
「セレスティーヌは幼いときから聡明だった……ゆえにその子のセレスティーヌもまたそうなのだ!」
「父上、僕はジュリオンです。少なくとも男の格好をしているときはそう呼ぶ癖を着けませんと、いつかやらかしますよ」
「ママは小さくてもママなんだ! もう俺の子供を産んでママを量産できるママなんだ!」
「……兄上、今度婚約者の方を呼んでください。3人で話し合わないと大惨事になる予感がします」
「………………………………」
ダメな実の父と兄へ反射的に突っ込んでしまったあと、そんな光景をじっと見つめる義母の顔を見てしまう。
「……ええ。私がセレスと……初めて社交パーティーに出て友達になったあのときと、本当にそっくり。大人とも対等にやり合えて……同じ子供同士よりも上の世代と話が合っていた、あの、どこか人ならざる雰囲気を持っていた……あの人と、本当に」
――それは、冷たいまなざしではない。
けれども、その口からは――ダメ父やダメ兄とは違う形で、僕を母さんと重ねているようなつぶやきがとぎれとぎれに聞こえた。