悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~ 作:あずももも
がらがらがら。
「………………………………」
僕は、馬車に揺られている。
「おかあさまっ! 最近できたお店のお料理が絶品だそうです!」
「そうですぅ! ちゃあんと予約しておきましたもんっ! もちろんお言いつけ通り、デュクロワ家っていうのは秘密で……だってそうじゃないと特別メニューになってしまいますから!」
「まあまあ……! アメリア、エミリー、ありがとう!」
「………………………………」
馬車の中は、姦しい3人の女子に寡黙な女装男子1人。
どうしてこうなった。
いや、普段からこうなんだけどさぁ……。
「それにしても、ジュリ――はわわ、ユリアさまとアメリアさま、ソフィーヌさまがそろうと美人親子みたいですぅー」
そしていつも通りに恍惚としているエミリーちゃん。
せめて君はそのままなんにも変わらずに育つことが確定してるから安心だね。
胸元とかの体形以外は本当に変わらずにね。
「まあ……! だって、ユリアちゃん♪」
やめてください義母上、僕のことをそんな呼び方で呼ばないでください。
「いえ。私は、ソフィーヌ様とは血が繋がっていませんし」
「……私の大切なセレスティーヌの子供だもの。たとえ見た目が全く似ていなくたって、家族よ?」
「…………はい」
ずるい。
そういうことを平気で、笑顔で言ってくるこの人は、ずるいんだ。
「そうですっ! ユリアさまはわたしのおねえさんです! この前髪の紫の毛束がその証拠!」
「ええ、あなたたちのお父様の証ですものね。ユリアはそれに加えて、セレスの美しい銀色まで。……これはまるで……」
まるで?
義母が、僕を見ながらなにかしらを思案している。
「……実質的にセレスの生き写しのユリアちゃんとも子を……アメリア? 弟と妹、どちらが欲しいとかあるかしら?」
「???」
義母上、一体何をおっしゃるんです?
うつむいてはあはあとし出している義母様。
熱でも出たんでしょうか。
熱だと良いですね。
そんな現実逃避も空しく、その姿はどう見ても恋する乙女。
……ソフィーヌ様……あなた、まさか……!
いや、というよりも恐らくこれもまた、生みの母のセレスティーヌ母さんがなんかやらかしてるんだろうなぁ……。
なにしろ友人関係からの略奪愛とかをやらかしたくせに、今でもソフィーヌ義母さんはセレスティーヌ母さんのことを友人と思ってるみたいだし。
いや、とろんとしている目を見ると友人どころか、それ以上の。
「………………………………」
……まさか、母上……義母上にまで、手を出したりなど……して、いませんよね……?
ね……?
「……! ソフィーヌさま、めっですよ! そうなってるときにおまたを触ったらいけませんって、ユリアさまに怒られます!」
「あっ」
もじもじと――たぶん無意識で偶然だろうけど、体をくねらせていたソフィーヌ義母さんの手先が脚のあいだに入ったとたん、エミリーちゃんが指摘する。
指摘、しちゃった。
僕の名前を出して。
「………………………………へぇ……? そう、ユリアちゃんが、ねぇ……?」
「 」
あっ……エミリーちゃん……。
「つまり? 『そういう教育』はまだなのに、もう『そういうこと』を――しかも女の子のそれを知っているのね? ユリア『お姉ちゃん』?」
「? おかあさま?」
「ユリアさま、怒ると怖いんですぅ」
じり、じり。
馬車の中という逃げ場のない環境で――僕は、ことのほかに気まずかった。
……やっぱり僕、この人はちょっと苦手だ。
聞く限りには何もかも直球だったろうセレスティーヌ母さんに堂々と聞かれる方が、きっと、何十倍も気が楽だろうに。
「……1つ、聞いても良いかしら? ユリア」
「……はい」
僕は、馬車の隅っこに追い詰められた。
そして――優しく、でも有無を言わせずにシートに押しつけられ、頭の横へ義母の腕が回る。
壁ドン。
男がされても、なんにも嬉しくもないやつ。
「………………………………」
「………………………………」
「……エミリーへ、もう手を出したのかしら?」
「いえ」
そんな、とんでもない。
あんな幼気な子へ手を出すはずがないじゃないですか。
「なら、アメリア?」
「いえ」
そんな、とんでもない。
義理とはいえ妹に手を出すほど落ちぶれてもいません。
「ということはマルセラちゃん?」
「いえ」
そんな、とんでもない。
「ああごめんなさいね、マルセラちゃん相手だと……セレスに食べられちゃった貴方のお父様みたいなことになったりしたのかしら?」
「まだ大丈夫です」
そうされそうになる雰囲気――というよりは「ユリア」として剥かれそうになったことはあるけども、なんとか回避したんだから。
というかあの子、気を抜くとジュリオンでも普通に剥いてこようとするし……なにあの子、10歳なのに本当に怖い。
早く、女神なマルテルさんに戻ってほしい。
「……大切なことだから聞くけれど。少し早いけど、人によっては10でも子供は作れるようになるわ」
「少なくとも、僕はまだです」
すっごく顔を近づけられ、すっごく真剣な顔で、すっごく気まずい話をされている――壁ドンされながら。
「これも大切なことだから言うけれど。――手を出したり出されたり、その場の雰囲気で『なかよく』したら……お父様やお兄様には言いづらいでしょうから、私にお言いなさいね。相手が女の子でも男の子でも……たとえそのとき子供ができなくても、その関係が1度でもあったら……将来、困ることになるから。そのときは、私や貴方のお父様の伝手、セレスの――王家のそれも総動員して、なんとか穏便に済ませますからね」
「……分かりました。絶対起こさせないようにはしますけど、万が一には必ず」
「ありがとう。……ユリアはセレスより優しいから、なりゆきでそういうことになってしまいそうで。この前の淫魔族のように……本当に、心配したんですから」
至近距離で見つめてきたあと、そっと抱きしめてきた義母のぬくもり。
まるで実の娘を心配するような……今世では知らない、母親のぬくもりだった。