悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~ 作:あずももも
「……成る程。目立たぬようお一人でダンジョンに潜るため、まずは初級ダンジョンを屈服させる実力を、私めに……と」
「……そういうことだ」
ああ、何回も話を訂正してようやくにたどり着けた、意思疎通。
コミュニケーションって大変だね。
僕は言葉を尽くし、機嫌を損ねないようにおじいちゃんの思考を訂正し――めんどくさい取引先を任せられたようなストレスの末、やりとげたんだ。
僕はがんばった。
人生で――実質的にわずか数時間だけど、その中でも格別にがんばった。
ちょっと表現は独特だけど、ニュアンスが通じただけでも奇跡なんだ。
「ジュリオン様さまのお力を……」
「ああ」
お馴染み過ぎてもはや古典に追いやられ、さっきこっそりやってみたステータスオープンもできなかったし、ステータスとかスキルが数値とか感覚で分かるってこともなかった。
だから、いくらおじいちゃんとはいえ実力者に鍛えてもらう。
それが、力をつけるための最短ルートだ。
「しかし、ダンジョンをお一人――ソロで攻略されるのは……その。いくらセレスティーヌ様譲りのジュリオン様とは言いましても」
む、確かに。
主人公くんでさえチュートリアルは数人パーティーでようやくだからね。
……彼でもそうだったから、たぶんレベルが1でも上がればとたんに楽になるんだろうけども……そうだ。
「――この2年間」
しゃべっているあいだにジュリオン様ブレインがそれっぽい論理を組み立ててくれる。
ああ、素敵なジュリオン様……どうしてどのルートでも途中からぽんこつになっちゃうんだろうなぁ……。
「僕は――意図的に、父上の用意した魔法使いの家庭教師からの授業で、ほとんど魔法を使ってこなかった。2年間プールされている――貯めている魔力を活用すれば、多少の無茶をしようと数十日程度なら魔力は切れないはずだ」
ゲーム通りの仕様なら。
それを確かめる意味でもやらないとね。
「……と、母上からかつて聞いた覚えがある。それで一気にレベリング――強くなれば、たとえソロでも問題はない実力がつくはずだ。だから、父上たちが戻る前にと考えている。存分に頼みたい」
ついででセレスティーヌママンに押し付けるのも忘れずに。
仮に間違ってても「お母さんがウソついた!」って言えば良しにしとこう。
まぁ当時は5歳とかだし、間違えて覚えてても生暖かい目で見られるだけ――
「なんと……そこまで計算され――はっ!?」
くわっと目を見開き、なにかに気がついたらしいおじいちゃん。
……火の始末はちゃんとやってるよね?
やめてよ?
まさかの火災エンドとか防ぎようがないからね?
「そ、そういえば、予定ではちょうど本日あたりが、ご当主様方の遠征地へ到着する時期……!? 仮にこの屋敷に裏切り者が居りましても、ジュリオン様が私との鍛錬でその実力を得るまでの時間は……なんと、数十日……!?」
何言ってるんだこのおじいちゃん。
……なんか盛大に勘違いしてるベルトランさんもといおじいちゃん。
あと裏切り者とか……居るの?
まぁおじいちゃんだからね……毎日土いじりしながら使用人の人たちと話す程度の生活してたんだし、きっとボケてるんだよ……うん、そういうことにしとこ。
ご近所を徘徊してるおじいちゃんの言うことを全部マジメに受け取る必要はないんだ。
それで僕は小さな植木鉢の盆栽なんだ。
ちょっと曲がったところはあるけれどもかわいげのある植物B。
そんな心持ちで接しよう。
これでも僕は現代地球のやる気のない若者として、平均並みの気配りはできるんだ。
「ご近所のおじいちゃんが剪定してきながらいつもの言ってる」って気持ちで居よう。
さて。
ゲームの仕様で「魔力は使わないとプールされる」というのがある。
この世界で魔法の素質があると判明した人は、幼いころから魔法を鍛え続け、大半が魔法使いとして活躍すべく魔力を毎日空っぽにするのが基本。
空っぽにするとつらいけど、毎日少しずつ魔法のスキルを鍛えられるし、なにより空っぽになるたびに超回復的なのが起きて少しずつ魔法の素養が上がる――はず。
微々たるものだけど、それの積み重ねで人口の99%では持ち得ない魔法っていう力をものにできるって話だったはず。
だけど、主人公は違う。
「学園に入るまで魔法に目覚めなかった」「もちろん平民だから」って設定で――どうやって入ったんだろうね、しばらくは「落ちこぼれが」とか陰口叩かれてたし――ゲームが始まってからしばらくは魔法を使いたい放題で、レベルもスキルももりもり上がる。
他のキャラは――メインヒロインたちでも増えないのに、移動での時間経過で少しずつMPが回復するってのが主人公の特権。
まぁ一言で言うと「チュートリアルの都合」での設定なんだけどね。
じゃないと周囲の大半が貴族の子弟――もちろん上記の努力を10年くらいやってきた人ばかりだ――の中、魔法を使ったこともなければダンジョンに潜ったこともない、レベル1っていう初心者にもほどがある状態から数ヶ月で活躍できないしさ。
だから主人公くんは生まれてからの魔力を全て最序盤の訓練に当てられて、だから共通ルートから分岐するくらいまではMPを意識せずに鍛えられる。
こんなんチートだぞチート!
……けども、この設定――プールしてきた魔力っていうのが、果たして主人公っていう「ゲームの中で優遇されるキャラ」だけに適用されるものなのか、それとも他の人にもそうなのかは不明だ。
だけど、可能性はある。
そして――こう言っておけば、毎日限界まで鍛えてもらう言い訳になる。
稽古をつけてもらって魔力がすっからかんになったとしても「ずっと怠けていたからまだ体力が追いついていないんだ」とかなんとか言ってごまかせば良い。
で、普通の貴族子弟、あるいは魔法適性を見出された平民と同じように、毎日魔力を使い切ってのごく普通の訓練を続ける。
ついでで体力も着け、剣術とかも身に付けたら不意の闇討ちにも対応できたりしたい。
そんなもくろみで口にしてみたでまかせだけども。
「……なんと、なんと……!」
「……そういうことだ」
おじいちゃんの反応見る限り、この仕様は他の人――このジュリオン様ボディにも適用されるらしいね。
なんか盛大な勘違いしてるっぽいのは……まぁ有利なバグとかはそのまま黙って使うがごとくにほっとこ。
わざわざそれを運営さんとかに報告して取り消してもらうとか意味のないことはするはずないもんね。
「よくわかんないけど、ジュリオンさまはすごいんですね!」
うん、エミリーちゃんとおんなじ気持ちだよ。
なんかわなわなと手を震わせてるおじいちゃんは、動きが鈍い。
うーむ……これ、他の人――屋敷の門番の人とかに頼った方が話が早かったか……?
人選ミスっちゃったかなぁ……?