悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~ 作:あずももも
「はぁ……」
……ジュリオン様、いや、ただのジュリオンとして生きてきた記憶から、知ってはいたけども。
お風呂、普通に女の人たちに洗われるのとか抵抗しかなかったなぁ……。
あれはまさに大人のお風呂場――あ、前世のかすかな記憶では縁はなかったからあくまで妄想の産物だろうけども、それに近い絵面だった気がする。
いやまぁ物心ついた頃から使用人たちに体を洗わせるのがデフォルト――そもそも絶対的な身分制度で平民を人として認識していない――な、ぼんくら貴族男子だ。
そういう教育を受けてきたんだから、ぬぎぬぎさせられてあわあわされるのに拒否の仕様がない。
そんな貴族令息がいきなり「今日からもう洗わなくていいから!」とか、どう考えてもおかしいから抵抗はできなかったし。
……決して僕の、前世の僕のよこしまな考えと衝動でされるがままだったわけではない。
断じて違う。
信じて。
そもそもそんな反応をできる肉体が育っていない。
反応していたのは僕の前世の魂だけだ。
なにしろ前世の僕の肉体はとっくに消失している。
その事実が分かっちゃうのが悲しいね。
……前世では常識的な現代人の男としての僕の意識としては正直、変な性癖に目覚めそうだったのは正直に話しておくとして。
――ともかく、「最初からイケメンだし、女装すれば美女になるジュリオン様」としてお姉さま方に人気になる悪役だ。
なんならメインキャラたちよりも台詞も多いし1枚絵も多いんだ、そりゃあ顔も良ければ声も良い。
紫の混じった銀色のさらさらとした髪に、吸い込まれそうな紅い瞳。
10年後にメス堕ちする前提なのか、顔は中性的――まだ子供だけども、成長するとお姉様方の好きそうな女顔ってやつになるはずだ。
正直、現段階では女の子の格好をしているだけで、どんな表情で声音してても、どっからどう見ても女の子としても充分以上に通るのは確実なかわいさ。
ちなみにゲーム開始時には、結構長い髪を後ろで縛った髪型で登場する。
で、負けるとそれがほどけ――「やっと結構強いバージョンのジュリオン様倒してクリアした……なにあれ、最後強すぎ、もうやだ……」って油断した男性ユーザーたちへ、サプライズなプレゼント。
予告なくクリーンヒットすること確定な――「かわいそうだけどあられもない格好で女奴隷的に扱われている扇情的な美女(女装)な1枚絵」とかいうトラップがあったりする。
しかもルートごとに別のイラスト……そら性癖破壊されるわな。
それもあって、偉そうな男口調で事あるごとに罵ってくる――女性声優さんによるボイス――なジュリオン様に目覚めた男も多いんだとか。
ネット上には、ジュリオン様のせいで女装どころか男に目覚めて血脈を断った、哀れな男だったものの残骸の嘆きがあったりなかったり。
さもありなん。
実に罪深いキャラだよなぁ……いろんな意味で。
そんなゲームの中の話が、リアルで僕に降りかかっている。
――夢と断定するにはあまりにも冷たかったし、あまりにも臭かったし、あまりにもあったかいお風呂だったし――思い出せないながらも経験の無かったらしい僕の意識が妄想するには、ありえないほどにメイドさんたちの肌が艶めかしかったし。
いや、もちろん服は着てたよ?
ただ、お風呂のお世話のために薄着になってて、いろいろとまる見えだったし。
……ただの子供として、特に僕が男とか意識することもなく、愛想を振りまいてエミリーちゃんへの温情を訴えるだけだったし。
僕のことを男として認識していないからこそあちこち見えていたのは――うん、忘れよう。
たかが7歳だ、そんな気持ちにもならなかったし、なってはいけないんだ。
……ちょっと残念だとは思ったけども。
で。
とりあえずはここが現実の――転生後の世界で、10年後にあらゆるルートで悪役貴族として断罪される未来が待っていると仮定しよう。
物事は常に最悪を考えるべし。
あり得ないながらもあり得すぎる未来を知っているからこそ、慎重を期すしかない。
つまりは、僕がどう動こうともあらゆるルートで死ぬのが確定しているのが、大前提。
ついでに言うとそのルートは、共通ルートの最後に「主人公の動きで決まる」。
――僕の意思ではなく決定され、僕の介入する余地は存在しない。
なんてことだ。
けども、これを逆に言うと――「10年後までは『ほぼ』なにがあっても死ぬことはない」。
正確には10年と数ヶ月~2年くらい後まで。
チュートリアルからの共通ルートが終了するまでは。
10年後、主人公の前に倒すべき悪役として登場する役割があるからこそ、大切なジュリオン様なんだ。
まぁごく低確率でジュリオン様が登場しないルートでは、すでに死んでるのがさらっとナレーションされるから厳密には死なないわけじゃないんだけども……そこまで行くとまぁ普通に事故の範疇だから気にしても無駄だろう。
実際僕の前世でも――思い出せてないけど、たぶん確実にそんなルートはお目にかかれなかった。
むしろレアだからこそ起きたら喜ばれていたはずのルートだからな。
確か、ひとケタ――いや、それ未満、1%未満の確率だったか。
99のルートと、1未満でゲーム開始前に死亡……うん、普通に乱数の範囲だ。
だから、いざとなれば多少の無茶をしても10年後で本編に支障のある事態にはならない……はず。
はたしてどこまでがゲームのシナリオ通りかは分からないけども、今はそれが強制的に働くと見ておくのが合理的だし。
前世を思い出せた以上には来世もあるだろうし、前世で死んだ後に10年間貴族としてなに不自由の無い暮らしを満喫して死ぬのならまぁいっかとも思う一方で、やっぱり生きてる以上は死にたくないと思うのが本能。
なによりも――僕は、今世で、生きている。
それを、今から諦めるだなんて……悲しすぎるだろう?
それに、僕は前世を思い出せた。
そして、この世界を舞台にしたゲームを――未来を、知識を持っている。
なら。
「そうすると、やっぱあれしかないか……」
――「メス堕ち敗北エンド」。
それらが唯一――複数あるものの、属性としては本当に唯一「ジュリオン様がエンディング後も確実に――少なくともジュリオン様が心からメス堕ちして弄ばれつつも、主人公たちが幸せにしているのを悔しそうに眺めるのが明記されている」ルートだから。
ただし僕の尊厳は壊滅し、その半分くらいのルートではメス堕ちの対象は男だ。
その先はめくるめく薄い本ルート。
なんでもお嬢様方を始め、その手の人たちが月1でオンリーイベントとか開催するレベルで創作されるほどには女装メス堕ちENDの種類が多すぎたからな。
SNSで広まったせいで「この美しくも可哀想な目に遭っている女性に惚れ込んだが、彼女はどの作品のヒロインなんだ?」と訪ねる人が事実を伝えられてメンタルが爆発四散するのもまた日常だったし。
開発陣の趣味が――というよりは、あまりにも人気すぎてやらない手はなかったんだろうなぁ……。
そうだ。
僕が生存できる可能性は――ゲームの知識の範囲では、それだけなんだ。
だから、命の代わりにメス堕ちを――嫌だなぁ……。