悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~   作:あずももも

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72話 囮捜査

「スラム街の人たちに知らせましょう。衛兵が入りますが、あの方たちを逮捕するどころか守るために来たのだと」

 

害がないからって放置されてるスラム街――そこへ衛兵さんとかギルドの職員さんとか武装した冒険者さんたちが来たら、絶対爆発する。

 

こういう配慮も思いつくジュリオン様ってすごいよね。

 

「そ、そうだな! ぜってぇ勘違いするよな! だから姉御が寄こしたって言えば安心するよな!」

「安心……するか……? いや、危害は加えないってなるか……?」

 

ぐっ、と、傾きかけた太陽光を反射するおでこ。

 

「兄貴は心配性だなぁ」

「しかしまさか、ギルドが直接に俺たち浮浪者を守るだなんて……」

 

そんなおでこからの反射光をもろに受けてまぶしそうなお兄ちゃん。

 

悲しいかな、2人は性格的にも知性的にも噛み合っていない。

とことんにすれ違ってるけども、仲が良いことだけが幸福だ。

 

けどもさすがは身分絶対社会、貴族って匂わせてるだけでこれなんだ。

もし「ジュリオン様です」って暴露したらどんだけ動くんだろうね。

 

……たぶん国教に背いて女装して嫌悪感しかなくっても、貴族が出した命令なら非常招集くらいはするんだろうけども。

 

それだけ貴族っていう身分は絶大だし、その魔力による戦闘力は脅威なんだ。

しかもこの町を収める大地主的なやつだし。

 

それこそ、町中で次々と人攫いをしてもなかなか手出しできないほどにね。

 

そんな同胞とも思いたくない変態の始末は、同じ変態な女装男がするんだ。

 

「……あ、夕暮れになっていたんですね」

 

スラム街は薄暗く、ギルドでも話し込んだから気づかなかったけども、外はすっかり赤く染まっている。

 

そうだ、デコがまぶしいくらいに夕方なんだ。

 

……。

 

夕方。

 

「………………………………」

 

「? 姉御?」

「どうかしましたか? えっと……ユリア様、って呼んでも良いんですよね」

 

「……何でもありません。はい、ユリアと……」

 

――なーんか忘れてる気がしたんだけども……まぁいいや、思い出せないってことは大切なことじゃないはずだし。

 

「では、さきにスラム街へ――」

 

「――ユリア様!」

 

「行き――……え? デイジー様?」

 

ギルドハウスから出て歩き始めた僕たちへ、デイジーさんが走ってきている。

 

……情報が入った?

 

いやいや、さっき話したばっかりだぞ?

 

「私に……ぜぇぜぇ、良い案が……ぜぇぜぇ、ありまぁす!」

 

「まずは落ち着いてください」

 

僕の両肩へ、がしっと彼女の体重が載る。

重い。

 

今まではカウンター越しだったから分からなかったけども、いくら腰が細くたってお胸もお胸もある健康的な体つきだし。

 

そりゃあこっちは7歳児、相手は女子高生とか大学生の年齢だろうし。

 

あ、けど、こうしてもたれかかられると分かるけども、彼女の胸が意外と――

 

「……ユリア様!」

 

「あ、はい、何でもします!」

「ん? 今何でもすると!?」

 

あ、つい反応で言っちゃった。

 

いやだって、てっきり胸元を凝視してたから怒られたかと思うじゃん……でもよく考えたら女の子って思われてるし。

 

けども――なぜか興奮している彼女は、ちょっと怖い目つきで僕を見てきていて。

 

「――さらわれの姫にご興味は!?」

 

「は?」

 

何言ってるんだろうこの人。

 

「目撃者の証言から、場所はばらばらですが犯行は夕暮れが多いと判明しています! ユリア様ほどの美形がひとりぼっちで人の居ない通りを歩いていれば……囮捜査作戦はいかがでしょう!?」

 

 

 

 

「――ぐふふ? ギルドが?」

 

怪しげな館の大広間。

 

そこへ、ぶくぶくと太った――この世界基準で、控えめに言っても醜い男が座るイスに悲鳴を上げさせながら、報告へとやってきたメイドへ問いただす。

 

「はっ。どうやらあれから世代が変わり、以前の約定の当事者が別の町へ異動となったようで。ために、どなたにより作られた取り決めかを忘れ――現在のギルマスは裏取引を嫌う性格とのことです。若く、政治をそれほど知らぬ者のようだと報告が」

 

そのメイドは――肩と胸元、腹部、足のつけ根までの肌が露出している、およそクラシックなメイド服が主流のこの世界において異質な格好をしていた。

 

「何だぁ、儂らへの恩義を忘れ……まぁ良い。おい、酒が足りぬぞぉ」

 

「……はい」

 

彼の声におずおずとやってきたのは、年端もいかない少女。

 

彼女もまた、非常に露出の多い服装を着させられており――彼に怯えながら、差し出された杯に酒を注ごうとし、

 

「あっ」

 

――がちゃんっ。

 

「……やってしまったなぁ?」

「そ、そんなぁ……」

 

男により勢いよく掲げられた杯と彼女の差し出したボトルがぶつかり、杯は彼の手から落ち――粉々に砕け散っていた。

 

「これはなぁ? 伝統的な職人が作り上げた品でなぁ? ……はたしてお前が何十年働いてようやく払えるかどうかという値段で買ったものなわけだが」

 

「あ……あ……」

 

少女は地べたへ――なんとかボトルだけは割らずに座り込み、恐怖に体が震え出す。

 

「――ふむ。以前聞いたことを覚えているかぁ? 『儂のおもちゃ』になるかという素晴らしい提案を」

 

「っ……!」

 

唇を強くかみしめる少女。

 

だが、彼女に拒否権など――初めから存在せず。

 

「……これからどうされるので?」

 

「ぐふ、残念じゃが『新人募集』は当面中止するしかないのぉ。代わりに……お前たちを堪能するとしよう」

 

「や……やだ……っ!」

 

男が立ち上がると、ぎぃ、とひときわ大きなイスからの悲鳴が大広間に響く。

 

――その奥の方には、何十人もの少女たちが視線を落として立ちすくんでおり。

 

「……畏まりました。『募集』の人員を引き上げさせるとともに屋敷の警備を厳とします」

 

「ぐふ――ああそうだぁ、最近ギルドでとびきりのかわい子ちゃんが出現したと聞くなぁ……それも幼く、綺麗な白髪だと」

 

「はっ。『ユリア』という少女は最優先の目標としております。腕が立つとのことでなかなか機会はありませんが、ちょうど今日パーティーを解散したとのことで――――」

 

 

 

 

「もうこの時間なのに、ジュリオン様が……」

「至急、屋敷へ連絡を――ベルトラン様にも」

「まさか、私たちのジュリオン様がかわいすぎて……?」

「かのロリコンの手に――許せません。メイド隊、抜刀」

 

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