悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~   作:あずももも

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80話 やさしいせかい

僕は世界の敵だ。

 

きっとそう、生まれた時点で決まっていたんだ。

だからこんな屈辱的な仕打ちを受けているんだ。

 

だからこんな女装までして、この足元で液という液を振りまいてのたうち回っている汚物よりも汚物な存在になるんだ。

 

――ぽた、ぽた。

 

変態さんの呻き声以外の唯一の音として、僕の頬を伝った悲しみが床を叩く。

 

「……ハンカチ、使いますか?」

「ありがとうございます……」

 

ああ。

 

メイドお姉ちゃんの哀れみの瞳が苦しい。

こんな僕へ差し出してくれるその温かさ。

 

ごめんね、騙して。

でも悪気はなかったんだ。

 

本当なんだ。

だって僕、本当に無罪なんだから。

 

誰か、信じて……いや、ダメだ。

 

きっと世界がジュリオン様を憎んでいる以上、僕はたとえ何をしてもその全てが「悪」に収束するに決まっているんだ。

 

「……この屋敷には、同じような子は何人……?」

「ええと、今は全部で150人ほどね――でしょうか……」

 

ああ。

 

さっきまでとは違って、距離取る話し方になっちゃったね。

悲しいね。

 

「……『今は』……?」

 

「『教育済み』として奉公に出された子は、何百人と……」

「oh…」

 

多いね。

 

そんな数が、今から僕を仇として見てくるんだ。

だって僕が指示したんだって、歴史が修正されたから。

 

もうだめだ。

 

僕は良く分からないミラクルのせいで一気に魔王に王手かけちゃってるんだ。

 

「ぐふっ……ぐふっ……!」

 

「………………………………」

 

びくんびくんと小刻みに痙攣している、極悪だったはずのおじさん。

 

そんなおじさんに戸惑いつつも、おじさんの親玉認定された僕。

そんな僕たちを取り囲むのは、何十人もの女の子たち。

 

「「「………………………………」」」

 

僕っていう新たな巨悪を眺めつつ、「でもこれ、どうしたらいいの……?」って空気が流れてる。

 

どうしたらいいんだろうね。

誰か僕に教えてくれないかな。

 

「……あの……お名前を聞いても……?」

 

「……はい……実は僕、ここの領の――」

 

もうどうにでもなれ。

なってくれ。

 

ああ、僕はどうしたらいいんだ。

 

こんなにがんばってきたのに、いや、がんばったからこそ世界の修正力的な何かで理不尽にも悪の親玉に仕立てあげられる。

 

……僕、もう諦めて良いよね?

 

そうだ、ジュリオン様なんだ。

 

あらゆるルート――99のルートで悪役として君臨し、世界の希望たる主人公くんと敵対し、そして討ち取られる。

 

または慰み者にされる。

それが、僕なんだ。

 

なら、もう全部ぶっちゃけちゃおう。

 

どうせ信じてもらえないし「やっぱり貴族は糞ですね」って罵られるだろうけども、もうどうでもいいんだ。

 

ああ。

 

逃れられない運命――こんなの、もう知らなかった方が――――

 

「あ、あの……どうして、ずっと泣いて――――」

 

――ばんっ。

 

さっきは厳かに閉められたドアが、勢いよく開かれる。

 

「――モルテール子爵! この屋敷は完全に包囲されている!」

 

「警備をしていた兵士などは全員降伏しています! 武器を捨ててください!」

「この件は先ほどデュクロワ侯爵及び王都へ伝えてあります! もう味方は存在しません!」

 

「推定で1000人を下らない数の子供を、己の欲のために……冒険者ギルド全支部の総意であなたの罪を問います!」

 

「こちらには――男爵、――子爵、およびデュクロワ侯爵家の関係者がいます!」

 

「偶然に町へ出向かれていましたデュクロワ屋敷の方々も到着しています! 申し開き……は……」

 

いきなり駆け込んできた人たちが何人もが同時に叫ぶもんだから、何言ってるのか全然聞き取れなかった。

 

あと、悲しい思いをしていたから、まだ現実を受け入れる準備ができていないんだ。

 

そもそも目の前が涙で覆われてぼんやりとしか見えないし。

 

「……ユリア様!?」

 

あ、この声は受付のデイジーさんだ。

 

「そのお顔はユリア様!?」

「ですの!?」

「可憐――ではなく! あのお方が!」

「泣くだなんて……まさか、もう……」

 

この声は今朝別れたはずのモブ子ズとルーシーちゃん。

でもなんでルーシーちゃんの声、泣きそうなんだろう。

 

「姉御! スラム出身の冒険者たちに事情話して来てもらっ……た……」

「 あっ  ゜  」

 

あ、ルーシーちゃん――と、テオくんがなにやら人では発せない不思議な言語を叫んでいる。

 

「――ジュ――『ユリア』様! メイド隊、ただ今参上致しました!」

 

え?

 

なんでお屋敷のメイドさんたちの声が?

 

「………………………………?」

 

「ま゜っ」

「み゜っ」

「む゜っ」

「め゜っ」

 

なんか変な声出して――ああ、そうだよね。

 

自分たちが面倒見てきた高慢ちきで無知で無能だけど、まだ顔と声が良いってだけでなんとか面倒見てきた相手が破廉恥な女装を――エミリーちゃんのでまだマシだった女装が、もうプレイとかでしか着ないようなの着てるんだもんな。

 

見限られて侮蔑と軽蔑の声を発してもおかしくはないもんな。

 

ああ、僕はもうダメだ。

 

こんなことならジュリオン様として潔くエミリーちゃんに殺されておくべきだったのかもしれないね。

 

少なくとも女装する変態って不名誉は負わなかっただろうし。

 

ああ。

 

「ぐすっ……」

 

ほら、こんなにも辛いもんだから、僕は少なくとも成人する精神年齢なのに女々しくも泣いちゃってるんだ。

 

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