【聖龍伝説:第二章】英雄達の日々 作:セイントドラゴン・レジェンド
※キャラの扱いにアレ?な場面も有りますがご了承ください。
[英雄達のバカンス]
8月を迎えた真夏のある日。
アッコは修司に言い寄っていた。
「ねぇ、修司良いでしょ?」「んん、でもなぁ……」
自室でアッコは修司にせがんでいた。
「ねぇ修司良いじゃない。どっかみんなで行こうよ」
「……俺はあんまし外出るのは好かねえんだよ。そんなに行きたければモコや大将、それにキーオに声掛ければ良いじゃないか、俺じゃなくてよ。何なら他の聖龍隊の面々とも絡めば良いのに……」
実は、アッコは修司と一緒に何処か旅行に出かけようと発案していた。
しかし当の本人の修司は人と余り接触する事を好んでいないのと同時に、関わりが不下手な少年であった為、余り外に出て誰かと触れ合うのを躊躇っていた。
そんな修司に、アッコは先ほど修司が口にした言葉を聞き、ある事を更に修司に提案する。
「あっ、それじゃあ修司。聖龍隊のみんなで一緒に旅行行くってのはどう?」
「はっ? なんでそうなる訳? 俺は外出したくないって言ってるんだよッ! そんなに行きたきゃ俺抜きで行ってこいよ」
「私は! 修司と一緒に旅行行きたいの! 海やプールだって人が多いって言って、いっつも私の誘いを断るじゃない。せめて何時も一緒に過ごしてくれている皆と何処か旅行行きましょうよ」
「で、でもなぁ。めんど臭いし……」
この一言でアッコはキレた。
「ア……あのね修司。私が折角提案している事を、め、面倒くさい面倒臭いって……!」
「あぁ? だってホントじゃないかぁ。こんな時は黙って家でゴロゴロしていた方が一番良いんだよ」
毎度の事とは言え、修司のオヤジ臭い発言にアッコは更に怒りを募った。
「修司……!」「ん? なんだ、ってウワッ。な、何なんだよッ」
アッコは思わず修司の胸ぐらを掴むと、修司の顔を自身の顔に近づけさせ、修司の目を見詰めながら言い寄った。
「あのね……! 折角言ってあげているのにその態度? 私にだって限界があるわよ……!!」
睨みつけてくるアッコには、いつもの穏やかで優しい面影は無かった。
修司はそんなアッコに怯みながらも言い返した。
「べっ、別に俺じゃなくても良いだろ、一緒に旅行に行くのはよ。何なら俺がウッズに言って皆と旅行行ける様に手配させるからよ。お前達だけで言ってくれば良いだろ」
「何で! 何で修司だけは行かない訳!? 聖龍隊と行くんなら総長の貴方が来なければ意味無いじゃないのッ!」
強めの口調で言われた修司も思わずカチンとしてしまった。
「お前はな……お前の方こそ毎回毎回、少し、いやそれ以上にお節介が過ぎんじゃねえかッッ! 別に俺の事なんか放っておけば良いじゃねえかよっ! しつこいぞお前!!」
「私は修司を気にして言ってるだけよ!」
「お前な、そのお節介な行動で今までどれだけ問題を拡大させた事が有るのか忘れたか! 変なお節介で変なモンに毎回変身しては余計ドタバタと揉め事がデカクなって行きやがって!! 俺等がどんだけ事態を収拾させているか忘れたか!!」
「い、今はそれは関係ないでしょ! それこそ余計な一言よッ!」
「黙れペチャパイ!! ……あ」
修司は興奮して、思わず一番言ってはいけない一言を口にしてしまった。
言われたアッコの顔は次第に変化して行き、異様な雰囲気を醸し出していた。
「…………ッ」「ヒぃッ」
そしてアッコは目をギラリと光らせながら修司に異様な顔付きで睨み付けた。
そして ドカッ バギッ ゴシャッ ボコッ 異様な音が鳴り響いた。
それから数分後の事。
「ねぇねぇバーンズ。修司が聖龍隊のみんなと旅行に行こうって♡」
アッコは満面の笑顔で二階の部屋にいたバーンズに声を掛けに来た。
其処には偶然にもジュニアも一緒の部屋に居た。
「へっ? あの修司が旅行に行くって? しかも聖龍隊の面々と大所帯で……」
「あ、アッコさん。ホントに義兄さんがそう言ったの?」
修司が人付き合いの悪い性分である事を知っているバーンズとジュニアには俄かに信じられなかった。
そんな二人にアッコが告げる。
「あぁ、正確には私が皆で旅行に行こうって提案したの。修司は快く承諾してくれたわ」
「え゛? ま、マジか……」「う、ウソ……!」
「うんうん。さぁってと、まずはウッズさんに話して旅行先を決めておかないと、ふんふふん♪」
そう二人に言い残すとアッコは鼻歌交じりでスキップしながらウッズの元に足を向かわせる。
二人はポカンとしながら唖然としてしまい、すぐに修司の所に足を運んだ。
「お、おい修司。聖龍隊のみんなと旅行に行くってホントか?」
「……ああ、ホントだよ」
修司は自室の椅子に座りながら部屋の入り口に背を向けながら返事した。
「に、義兄さん。……珍しいね、いつもは人付き合いを嫌っているのに」
「仕方がねえだろ。アッコの提案何だからよ」
そう言いながら修司は入って来た二人に自分の顔を向けた。
「イ゛ッ」「え゛!?」
修司の顔を見た二人は目を丸くして驚愕した。
修司の顔はタンコブだらけの青痣(あおあざ)だらけだった。
[旅立つ一行]
そして後日。
朝方早く修司の家の前にはレンタルした大型バスが停車していた。
其処にはアッコを始め、他の聖龍隊の面々がやって来ていた。
「いや~~悪いわねアッコちゃん。私達まで誘ってくれるなんて」
後頭部を掻きながらアッコに礼を述べるうさぎ。
「ううん、良いんですようさぎさん。何よりこれは聖龍隊の旅行何ですもの。皆に声を掛けるのは同然ですよ」
アッコは笑顔でうさぎと会話をしていると、他の面々もアッコに話しかけた。
「でも、良く修司君が承諾したわよね」
「ホント、あの子ホンっとに人付き合いが悪いと云うか何と云うか」
承諾を得られた事に驚きを感じていた火野レイと愛野美奈子。
「でもこの面子で旅行に行くのは初めてだし、何だかワクワクしちゃうわ」
恋人の早見青児、そして妹の聖羅を引き連れた如月ハニーも笑顔で語った。
「う~~ん、それにしても朝早くから出発するとは……」
「ほ、ほんと。ふわぁ……」
同い年で仲の良い森谷りりかと木之本桜は朝早く起床したので未だに眠気が取れずにいた。
「ほ、ホントに眠いぜ。ふわあぁぁ」
「トシ、しゃんとしなさいっ」
「まったく。デッカイ欠伸(あくび)ですね」
大きな欠伸をするトシに拍車をかけるイサミに軽く呆れるソウシ。そのトシの足元には彼の弟のケイの姿も有った。
その時、黒の帽子を被った運転手姿のウッズがみんなに声を掛ける。
「皆さーーん、まだ人は揃ってはいませんが既に居る人達だけでも先にトランクルームにかさばる荷物を入れて置いてください」
「良し。おいみんな、デッカイ鞄や荷物類は此処に入れるぞ。奥にしまい込むから渡してくれ」
短シャツ・ジーパン姿のウェルズが皆に声を掛ける。
「解りました。それじゃちびうさ、ほたる。お前達のでしまうのは無いか?」
「私は大丈夫だよ、まもちゃん」「私は家族の手荷物を……」
地場衛に訊かれ答えるちびうさに土萠ほたる。
皆協力しあいながら自分達の荷物をバスの座席下に位置するトランクルームに納めて行った。
と、その時。
「あっ、良かった。まだ間に合って」
息を切らしながら三人の男が皆の所に駆けつけて来た。
「あ、来てくれたんですね、星野さん達」
駆け付けて来たのは表ではトップユニット・スリーライツ、その正体はセーラー戦士であるスターライツの大気光(たいきこう)、星野光(せいやこう)、そして夜天光(やてんこう)の三人。
三人を見てアッコは安堵の表情で呟いた。
「ホッ、良かった。来ないから急な仕事が入って来られないのかとばっか思ったんですよ」
普段はアイドル業で忙しい事をアッコ達は熟知していたので、来てくれるかどうかアッコは心配であったのだ。
「いや、ゴメンゴメン。星野の奴が勝手に目覚ましを止めちゃったから少し出遅れちゃって……」
申し訳無さそうに頭を下げる大気。
「まったく。お陰で変装する暇も無かったよ」
愚痴を零す様にボヤく夜天に星野が言い返した。
「わ、悪かったって言っているだろッ。俺だって寝惚けていて、遂……」
自身の行いに思わず身を縮ませる星野。そんな三人に人間に変身していたバーンズが云った。
「おいおい。いくら何でもトップアイドルのこの三人が一緒じゃ、行く先々で人混みが出来ちまうぞ。せめて少しは見た目を変えねえと」
すると修司が皆の前に現れた。
「確かに。このままじゃ落ち着いて旅行何かできねえな」
「あ、修司君、貴方……」「ん? なんだ」
修司の顔を見た大気は軽く驚いた。修司の顔にシップや絆創膏(ばんそうこう)が貼られていたのであった。
「ど、どうしたんですか? その怪我」
動揺しながらも修司に訊ねる大気。
「あ……う、う~~ん」修司はアッコの方に視線を向けた。
すると彼女と目が合い、アッコは修司に笑顔を向けた。しかし修司はその笑顔から言い知れぬ威圧を感じてしまい、大気に答える。
「い、いや。何でもない、気にするな」「うん?」
大気は首を傾げてしまった。
修司は話を逸らしながら大気達ライツの面々に告げた。
「そ、それよりもお前達だよ問題は。いっくら何でもそのままじゃ厄介だし、そうだな…………おい誰か、電動バリカン持ってないか?」
修司の発言にライツは驚愕した。
「!! ちょ、ちょっと待ってくださいよ! バリカンって何する気ですかッッ!?」
慌てふためきながら大気が修司に訊くと修司は平然と答えた。
「簡単だよ。お前等がライツってばれない様、頭を丸刈りにするだけだよ」
「って丸刈りにすんのかいッッッ!」
「別に丸刈りにする必要無いじゃないかッッ!」
修司の発言に激しくツッコム星野と夜天。
だが修司は顔をニヤケさせながら三人に言い退けた。
「何言っちゃっている訳? 元々君達三人はDEKOなトリオなんだから、今さら頭を丸刈りにされても余り変わり映えしないじゃないか」
「何言ってるんだよぉ!」涙目で星野が修司に言い返す。
星野に続き、夜天も修司に物申した。
「そうだよ! 何よりDEKOなのは大気だけなのに僕等まで巻き込まないでよっ」
「チョットォォ! それどーゆー事ですか夜天!」
夜天の発言を不快に感じた大気が思わず反論する。
と、その時。ふと修司が有る事を思い出し、目を細めながら大気に告げた。
「そう言えば大気。お前ってさ、結構丸くて黒いサングラスを掛けているよな」
「ッ? な、何を急に……ま、まぁ確かに良く掛けてはいますが……」
「そのサングラス掛けている時のお前って…………何だかム○カ大佐に似ているよな」
「!! ハァ!? 似てねーーよ!!」
「…………バルス!」「言うなッッ!」
そんな悶着が起っている、まさにその時。
「何だい何だい。朝から喧しい連中だぜ」
「ん? ……あ、お前!」
修司が目を向けると、其処にはあのミラーナイトこと姿桐男(すがたきりお)が突っ立っていた。
「き、キーオ。お前、何故此処に?」
修司が訊ねるとキーオは平然と言い返した。
「何故って、アッコから聞いたんだが。今日の朝早くから聖龍隊で二泊三日の旅行に行くから俺にも来てくれって」
これを聞いた修司は驚きアッコに訊ねる。
「お、おいアッコ! お前、キーオにも声掛けたのかッ!?」
これに対しアッコは平然と笑顔で言った。
「そうよ。キーオだってもう立派な聖龍隊の仲間じゃないの。それに旅行は大勢で行った方が楽しいじゃない」
「……」
アッコの笑顔での言動に修司は何も言い返せなかった。
そんな時。
「ああ、貴方がミラーナイトのキーオこと姿桐男くんね。アッコちゃんから話は聞いていたけど、まさかアッコちゃんと修司君の同級生だったなんて」
「えぇそうね。しかも、あの鏡の国の女王様の息子で王子だったなんてね」
キーオの顔を見て彼に話しかけてくる冥王せつなと水野亜美。
その二人に対してキーオは微笑みながら返答した。
「おお、これはこれは。麗しき冥王せつなことセーラープルートに水野亜美ことセーラーマーキュリーじゃありませんか。あなた達の様なレディーと御同行させてもらえるとは実に光栄ですよ。まぁ、どうぞ宜しく」
キーオは二人に礼儀正しくお辞儀をした。
「まぁ」「ふふ、此方こそ宜しくね」
二人もキーオに対して笑顔で言葉を返した。
だがその時。二人の男がキーオに歩み寄り、彼に言葉を掛けた。
「……よう、お前か、あのミラーナイトは」「ん? あ、アンタ等」
二人の顔を見てキーオが答える。
「何なんだ、お二人さん」
その二人は地場衛(ちばまもる)と早見青児(はやみせいじ)。
「て、テメエ……!」「最初、俺等に会った時の事、覚えているだろうな……!」
異様な表情を浮かべながら二人はキーオに告げる。
「ん? 確か……ああ、そうだな。修司が聖龍使いの時、俺とメチャクチャな戦いを繰り広げた時だったよな。アレはいくら何でもアレな闘いだったよな」
「其処じゃねえよッ! その前だろうガッッ!!」
「テメエ! 散々俺等に暴言吐いた癖に忘れたとは言わせねーーぞッ!!」
ブチギレた二人はキーオに怒鳴った。
するとキーオは思い出したかのように手をポンと叩くと、二人に言い返した。
「……ああ、そうだった。お二人だったな、あん時のオッサン二人は」
この一言で衛と青児はブヂッときた。
『こ、このクソガキャーーッ!!』
三人が揉めようとしてしまった、まさにその時。
一瞬で修司が三人の頭を引っ叩き、三人とも気絶し頭には大きいタンコブが湯気を出しながら出来ていた。
「ま、まもちゃーーん」「せ、青児さん!」
気絶させられた二人を見て、うさぎとハニーが悲鳴を上げた。
「ってオイオイ、どうすんだよ。このバカ三人」
バーンズが修司に訊くと、修司は三人の首根っこを掴みながら答えた。
「簡単だ。此処に入れれば良い」
そう言いながら修司は三人をレンタルバスのトランクルームに押し込もうとした。
「って止めなさーーい!!!」「其処は荷物を入れる所よッッ!」
気絶した三人を押しこもうとする修司を呼び止める聖羅に美奈子。
「義兄さん止めるんだーーッ」
「修司、いくら何でも人を入れちゃいけないだろうがッ」
ジュニアとバーンズも修司を制止しようと声を掛けるが、修司は死んだような目でサラッと言い放った。
「何言ってんの……人間、死ねばタダの死体と云う物でしょうが」
「ってなにオッカナイ事平然と言っちゃっている訳ッッ!」
「サラッとドライな発言言ってんじゃねえよッッ!」
思わず愕然となりながらも修司にツッコむジュニアとバーンズ。
何だかんだで一行はバスに乗り込み、それぞれ自由に席に着いた。
「修司。修司は何処の席に座るの?」
車内でアッコが修司に訊ねると、彼は真顔で答えた。
「ああ、俺はバーンズの隣に座るわ。ほら、運転するウッズの後ろの席だ」
修司が目を向けたのは運転席に座るウッズのちょうど真後ろの席で有った。
アッコが少し落ち込んでしまっていると、キーオが手招きしながらアッコに言った。
「アッコアッコ。ほら、俺の隣が空いているぜ」
ニヤケながら話しかけるキーオに、アッコは内心少しばかり呆れてしまい、そして徐にバーンズに話しかけた。
「……ねぇバーンズ」「ん? なんだアッコ」「……ちょっと」
そしてバスが発進しようとする時。
「それじゃみんな、思う存分楽しみましょーー」『うん』
アッコの掛け声に皆も気持ち良く返答した。
「……ウウゥ」「泣くんじゃねえよ、キーオ」
そしてアッコの後ろの席ではバーンが涙目のキーオを宥めていた。
そして前のアッコの席はバーンズに言って席を代えてもらった為、アッコの望み通り修司の隣だった。
「それじゃ皆さん、発車しますよ」
ウッズが皆に告げるとバスは走り出した。
車内では皆、バーンズの話題で少し盛り上がっていた。
「それにしても……まさか変身怪獣に本名がちゃんと有ったとはな」
「ああ、しかもマトモな名前だったのが更に驚きだよ」
「マトモな名前じゃイケなかったのかよ……」
衛、青児の発言に呆然としながら言い返すバーンズ。
「そうよね。アッコちゃんから電話で旅行の事聞いた時に言われて、初めて知ったけど……」
「結構素敵な名前と思うわよ。王の名を表すキングズに、自由有る翼の意味でウィングダムズ、そして自身の名のバーンズなんて立派な名前だったじゃないのよバーンズ」
「ま、まぁな……」
レイと亜美の発言に少し照れながら返すバーンズ。
「ふふ、それに初めはタダのエンブレムだったのに今じゃこんなに可愛くなってしまって。ねぇチップバードちゃん」
「い、いや~~」
温厚なお嬢様口調で優しく話しかけられながら知世に撫でられるチップバード。
「いやぁ、こんなに旅の友がおる旅行は初めてやで。新しい仲間のチップバードも加わって一層楽しくなったと思わんか、ルナはん、アルテミスはん」
「ま、まぁ。確かに賑やかだけど……」
「ハハハ、まさかアクセサリーだったのが意思を持つとはね……」
ケロことケルベロスの台詞に苦笑しながら返事するルナとアルテミスであった。
「小っちゃいのがいっぱい増えて、何だか嬉しそうね聖狐ちゃん達も」
「コンコン、僕等と同じ小っちゃいのがいっぱいで何だか嬉しいんだコン」
りりかと戯れながら彼女とお喋りをする聖狐達。
そんな小さな聖狐やチップバード達に修司は歩み寄り、そして顔を近づけ真顔で云った。
「言っておくがお前等。絶対に他人に見られるんじゃないぞ。チップバードはアクセサリー、ケルベロスは普段通りヌイグルミに。ルナとアルテミスは人前では絶対に喋るんじゃねえぞ!」
「分かっているわよ修司君」
「要するにいつも通りに過して居れば良いだけじゃないか。安心してよ」
穏やかな口調で修司に言い返すルナとアルテミスに続き、ケルベロスも修司に言った。
「大丈夫やで修司はん。もうヌイグルミに化けているのも慣れっこやし、安心してくんなされ」
そして修司は自身の使い魔である聖狐達にも告げた。
「聖狐、お前達はバスが走行中は人に見られる心配はないから今は出てて良いが、外出るときは俺が持っているスターロッドの中に入っていろよ。普通のくだ狐なら人には見えないがお前達は違うからな」
「分かりました」「コンコン」
修司の発言に機嫌よく返事する聖狐達。
と、その時。キーオが修司に訊ねた。
「ん? 修司、お前のそれって、確か聖狐を収納できるロッドだったな。お前そんなもんまで持って来た訳か?」
「ああ、一応は聖狐達の寝床だし、何より人目の多い所では極力こん中に居て貰わないと」
「ふぅん。それじゃ、この布の袋は何だ?」
キーオが訊いて来たのは、修司の席のすぐ側に立て掛けられていた布製の縦に長い袋でがあった。
「キーオ、それは剣道で竹刀を入れて置く竹刀袋って言うんだ。これにはな……」
修司は竹刀袋を手に取ると、徐に中に仕舞っている物を取り出した。
それを見たキーオは仰天した。
「! お、おい修司! そ、それ、聖龍剣じゃないか! 何で真剣を入れて、いや手元に置いておくんだよッッ!」
すると修司は平然と言い返した。
「何を言ってるんだ。いつ、如何なる時にでも剣を手に取る事が出来なければいけないのが英雄の常識ってもんだろ。休暇中とはいえ気を抜いたらイケないぞ」
「…………」
真顔で言い退ける修司の言動に、キーオも仲間達もただただ呆然としてしまった。
その時、突拍子にアッコがバーンズに訊ねた。
「……そう云えば、ねぇバーンズ。貴方の今日のその姿、いったいどうしたの?」
アッコが訊ねたのは、朝から人間に変身していたバーンズの姿だった。
「ん、これか? これはだな……」
彼の姿は褐色肌で赤い薄い生地の長袖のシャツ、そしてシャギーヘアーの青年の姿。
この姿に対し、修司が一言。
「ホント……詐欺だな」「アァンッ?」
「いや詐欺だよホント。いつもの獣人の姿とは天と地ほどの落差が有るよ、マジで」
「ワルかったな……!」
修司の一言に苛立つバーンズ。
[道中にて]
その後、バスは高速に入り、皆皆ウッズの穏やかな安全運転で車内でのんびりと過していた。
そんな車内では。
「……う~~ん、全然解んないよ~~」「もう、うさぎちゃんったら」
高校生の月野うさぎは苦手な夏休みの宿題を親友達と済ませようと奮闘していた。だが勉学が余り不下手な彼女は難問にぶつかってしまい立ち往生していた。
「うわ~~ん、ねぇ亜美ちゃん、此処も教えて~~」
「もう、これじゃ本を読む暇も無いわね」
うさぎと同じく勉学が苦手な愛野美奈子も半ベソを掻きながら読書をしている亜美に手助けを求める。
そんな時、ジュニアが勉強に苦しんでいるうさぎや美奈子に近づいて来た。
「まだ終わらせて無かったの、夏休みの課題」
「ジュニア君」
多少呆れ顔のジュニアにまことが声を掛ける。
「うわ~~ん、だってだって、いくら頑張っても一向に終わらないんだも~~ん……」
泣き喚くうさぎに呆れ果てるジュニア。だが彼は徐にうさぎが向き合っていた教科書やノートを覗き見て、彼女に告げた。
「……ふむふむ、なるほど。此処はこうした方が良いんじゃ……あ、これはこうで」
ジュニアは的確に問題の要点を指摘し、指摘されたうさぎも問題を理解した。
「……あ、そうか! ありがとうジュニア君。お陰で詰まってた問題がようやく解けたよ」
「大変だね、高校生も」
そう呟きながらジュニアは自分の席に戻って行った。
その様子を見ていたレイやまことは驚愕した。
「……ね、ねぇ。確かジュニア君、まだ9歳だったわよね」
「う、うん。それで高校生の問題を理解しちゃうなんて……」
思わず目を丸くして驚いてしまう二人。
「う~~ん……」
「どうしたのはるか。まだ現代文の課題終わらせて無かったの?」
ノートと睨めっこしながら必死にペンを走らせる天王はるかに話しかける海王みちる。
そんな二人を見守る様に見ていた冥王せつなは、ふと亜美が読み更けている本に関心が湧いた。
「ん? 亜美さん、貴女が読んでいるその本……」
せつなが訊ねると、亜美はせつなに本の表紙を見せながら答えた。
「ああ、これは有名なプログラマー学者、犬養基継(いぬかいもとつぐ)の著書よ。とても優秀な学者らしいわ」
一方、バーンズは自分の前の席で大人しく読書をしている修司に同じく訊ねてた。
「おい修司。お前、いつもその本と云うか漫画読んでいるけど、面白いか?」
「ああ、結構面白いぞ」
脇目も振らずに読書をしながら修司が答える。
「何かワンちゃんの漫画みたいね。結構、血とかの表現が目立っているけど……なんて漫画なの?」
修司の隣で座っていたアッコも彼に訊ねてみると、修司は本の表紙を二人に見せつけながら本のタイトルを述べた。
「ん……銀牙 流れ星銀」
さらにその後、一行は高速道路の脇にあるサービスエリアに立ち寄った。
皆それぞれしばしの自由行動を取っていたが、大半の者はトイレに駆け込んで行く。
サービスエリアの売店前では、修司とバーンズが購入したソフトクリームを味わっていた。二人は朝起床するとスグ様トイレに行っていたのでまだトイレは大丈夫であったのだ。
「ふむ、たまにはこうして青空の下でソフトクリームに舌鼓(したづつみ)するのも悪くないな」
「まったく、引き籠りが良く言うぜ」
修司の言動に思わず言い返すバーンズ。
そんな時、二人の目に天王はるかの姿が入った。
「ん? なんだはるか。もう此処に……って何してるんだ?」
修司に訊かれ、はるかは何時もの滑らかな口調で答えた。
「ふぅ、実はほたるやみちるにバスの車内で飲むドリンクを買って来てくれって頼まれてね。二人がトイレに行っている間に購入しておこうかなって」
「そうか……ん? おいはるか。お前はトイレの方は良いのか?」
修司が訊ねると、はるかは平然と答えた。
「ああ、ボクはもう済ませたから。それじゃボクはドリンクも購入したし先にバスに戻っているよ」
そう言ってはるかは一足先にバスに戻って行った。
しかし、この時はるかから話を聞いた修司とバーンズは目を見開いて呆然としてしまってた。
「……も、もう済ませたって」
「あ、ああ。確か女子トイレはスンゲぇ行列ができるほど混んでいたのに……」
行列のできていたにも拘らず、既にトイレを済ませてしまっている天王はるかの発言に驚愕してしまう二人。
その時、修司が有る事を思ってしまった。
「はっ、まさかアイツ」「ん? まさかって」
「まさか、はるかの奴…………男性用のトイレで用を済ませた訳じゃないだろうな」
「! い、いや……でも、アイツならやりかねんな。何てったって、男装の麗人なんだからな」
その後、サービスエリアを発った一行は一直線に目的地である山中のコテージに向かった。
「……すぅ、すぅ」
バスの中では珍しく修司が眠ってしまっていた。
寝息を掻きながら眠る修司の寝顔をアッコは穏やかな心情で微笑みながら見ていた。
「何だこいつ。寝ちまったのかよ」「バーンズ、静かに」
修司の寝顔を見ながらボヤくバーンズにアッコが注意を告げる。
更に其処へ、他の聖龍隊の女子達もやって来て、修司の寝顔を覗き見た。
「修司君寝ちゃったんだ」
「珍しいわよね。彼が人前でこんなに気を許しているなんて」
「レイさん、それだけ修司が人に心を許せる様になったって事ですよ」
覗き見たうさぎとレイが小さい声で語っていると、レイの発言にアッコが笑顔で返事をする。
「うふ、カワイイ顔して寝ちゃっているわ」
「修司君も、こんな顔をする事が有るのね」
修司の寝顔を見て呟くハニーと聖羅。
普段の彼は誰に対しても余り感情的にはならず、常に無愛想な表情しかしないので寝顔を見せる修司を大変珍しがった。
「カワイイか?」「さぁ?」
女子達の言動に首を傾げ合う衛と青児。そんな二人にバーンズが告げた。
「百歩譲って、寝顔だけはカワイイかもな。……寝顔だけは」
そして修司はふと目を覚ました。
「……う、う~~ん。寝ちまったか。み、みんな」
修司は目を開けて隣のアッコに視線を向けた。
だが其処には居る筈のアッコの姿は無く、空席であった。
「あ、アレ……アッコ、何処に……み、みんな」
立ち上がり、更にバスの車内を見回すと他の仲間達の姿も見えなくなってしまっていた。
「み、みんな……! いったい、何処に……」
修司は周りを見回す様に体を360度回転させた。すると自身の周り、バスの車内は一瞬で大量の血に塗れていった。
「!! こ、これは……!」
愕然となる修司はふと自身の手に感じる生温かい触感に気付いた。
修司が自身の両手に目を向けてみると、両手は大量の血で真赤に染まっていた。
「こ、これは……!!!」
次第に顔から血の気が引いていく修司は後ろへと後退りしてしまった。
後ろに退きながら修司は運転席のウッズに動揺しながら横目で訊ねる。
「う、ウッズ。これは…………う、ウッズ……?」
ふと修司がウッズに静かに目を向けると、彼は帽子を深く被り、下を俯いたまま何も言わない。
下を俯き顔を見せないウッズに修司が視線を向けている、その時!
「……これが、お前の仕出かす行いだ」「! お、お前……」
まるで口元に布か何かを当てたような、こもった声を聞き、修司は声を発している運転手がウッズで無い事に気付いた。
その男は続けてこもった口調で修司に告げる。
「お前にはコワス事しかできない。何かをハカイするしか能がない。そんなお前に絆など……愛など……手に入らない!」
男がそう告げた瞬間、男は修司に顔を向けた。修司の目に映ったのは、鈍い光沢を放つ漆黒のドクロだった。
「うわあぁ!!」「! ど、どうしたの修司!」
気付くと修司は自分の席から飛び起きていた。
叫びながら飛び起きた修司に驚いたアッコは彼に訊ねる。
「……ハァ、ハァ」
修司は冷汗を大量に掻き、息は荒く、目は瞳孔が開きっ放しで有った。
「し、修司。大丈夫?」
異様な状態の修司を心配し、アッコが修司に優しく訊ねる。
「……あ、アッコ。だ、大丈夫だ。少しだけ変な夢見ちまっただけだよ」
徐に修司が後の方に目を向けると、修司の叫び声に驚いた仲間達も唖然としてしまってた。
「し、修司。本当に大丈夫? 凄い汗よ」
「だ、大丈夫だよアッコ。俺が元から汗っかきなのはお前も知っているだろ。済まない心配掛けて。少し寝直すよ」
そう言うと修司は再びまぶたを閉じ、顔を窓側に向け、アッコには背中を向けて再度眠りに着いた。
[コテージに着き]
そして一行は目的のコテージに辿り付いた。
コテージは木造建ての二階建て。それが二つ並んでおり、男女それぞれ別々のコテージで過して行く。コテージのある場所は小高い丘の側面で真下の雑木林には川が流れており、更に林の中にはキャンプ場も完備されていた。
「それじゃ皆さん。それぞれのコテージに荷物を運ぶのでバスから荷を降ろすのを手伝ってください」
ウッズの指示の元、ある者は自分の分の荷物を、ある者は親友の荷物を降ろすのを手伝ったりと、それぞれ協力し合っていた。
この時、修司はようやく落ち着きを取り戻していた。
ふと、修司が目を向けてみると、女子達の大半は大量の荷物を運ぶのに手間取っていた。
そんな女子達を見た修司は咄嗟に男達に告げた。
「おいお前等。俺達の荷物はまた後で運べばいいんだし、先に女子達の荷物をコテージに運ぶぞ」
「えぇ~~、別に女子は女子で運べば良いじゃないっすか」
「そうっスよ」
修司の発言に不満気に言い返すトシと星夜。
そんな二人に修司が更に告げた。
「別に何かが減る訳じゃないし手伝ってやれよ。非力な女に手を貸すのも男の役割だぜ」
そう云いながら修司は女子達の所に歩み寄った。
「これ、持って行っても大丈夫だよな」「え? え、ええ」
動揺しながらも話しかけられた花丘イサミは修司に答えた。
イサミの承諾を得た修司は大きなバッグを片手でヒョイと持ち上げると、今度は森谷りりかの方に話しかけた。
「りりか、お前のこのバッグも運んで大丈夫か?」
「え、えぇっと……(ま、マズイわ。これは下着とか入っているし……)」
りりかは少し戸惑いながらも修司に返答した。
「あ、ああ。だ、大丈夫です。これぐらいなら私でも運べますので」
「ああ、そうか……」
りりかに言われた修司は、そのまま女子達が泊まるコテージに荷物を運んで行った。
「……め、珍しい事もあるわね」「う、うん」
普段は無愛想で協力はもちろん人との接触すら好まない修司が自分から他人の、しかも女子の荷物を運んであげた行為に思わずキョトンとしてしまう、りりかとさくら達。
それから時は経ち、夕暮れ時の事。
コテージの下方の河原で夕食を兼ねたバーベキューを皆で堪能していた。
「うわアチッ」「もう、大丈夫小狼(しゃおらん)」
まだ熱かった肉に反応して慌ててしまう小狼に声を掛ける苺鈴(めいりん)
「オッ、この肉もう焼けているな。も~らいッ」
「トシったら、食べ過ぎよ」
「まったく、レディーの前でがっ付くのは良くないですよ」
これ見よがしに焼けた肉に手を伸ばし続けるトシに穏やかに食事をしながら話しかけるイサミにソウシ。
「むぐむぐ、いやぁそれにしても美味い肉だなコレ」
「ホントねぇ。お肉にしっかり味が染み込んでいるからタレ無しでも全然食べられちゃうわ」
肉の味を堪能しながら楽しく会話するバーンズにアッコ。
そんな二人にウッズが話しかけて来た。
「バーンズさん、アッコさん。このお肉は修司様が旅行に行く今から三日前から作っていたタレに浸けて置いたお肉何ですよ。それで味もしっかり肉に染み込んでいるんですよ」
これを聞いた二人は感心しながら肉を食した。
「へぇ~~、アイツがねぇ。そう云えば前から何かしら作っていたのは知ってだが……うん、美味い」
「そう修司が……何だ、結構旅行に行く事を楽しみにしていたんじゃないのよ。フフッ、素直じゃないんだから」
ウッズから聞いたアッコは嬉しそうに微笑んだ。
そしてバーベキューを終え、後片付けをしていた時であった。
修司がまことや小狼等とコテージ横に有る洗い場にて、河原から運んで来た調理器具やコップ等の洗い物をしている時であった。
「……修司さん、意外に洗い物とかできるんですね」
「俺ができちゃ何か問題か」
「い、いや。別にそんな意味で言った訳じゃ……」
修司の隣で彼と同様に洗い物をしていた小狼が修司に訊いてみると、修司は無愛想な顔で言い返し思わず小狼は怯んでしまった。
そんな中、彼等を呼ぶ声がした。
「小狼、ちょっと手伝って」
「ごめん小狼くん、ちょっと来てくれない」
呼んでいるのは苺鈴とさくらだった。
修司は脇目も振らず洗い物に専念しながら小狼に云った。
「……小狼、お前行ってやれよ」
「え、良いんですか?」
「ああ、何だか人手が足りないみたいだから、まことも行ってやってくれ」
「え、私も? で、でもまだ洗い物が……」
「構わない。もう食器もホンの少しだし後は俺だけでもできる。小狼と一緒に向こうを手伝ってやってくれ」
「う、うん、分かったわ」
修司に言われ、小狼とまことは洗い物を中断しさくら達の方に足を向かわせた。
一人になった修司は黙々と洗い物をしていると、其処に食器を抱え込んだ亜美がやって来た。
「はい、修司君。これが最後の分よ」「ああ、ありがとう」
洗い物に集中しながら修司は亜美に礼を述べる。
「…………」
亜美は無言のまま、黙々と洗い物に専念する修司の横顔を見つめた。
そして亜美は唐突に、修司にオドオドした口調で話しかけた。
「ね、ねぇ。修司君……」「ん、なんだ」
「あ、あのね。し、修司君。私思ったんだけど……」
「ん? 何を?」
「あ、あのね。私の勘違いだったら謝るけど修司君って……」
「ん……」
「私……前からずっと思っていたんだけど……修司君って……」
「……」
「……修司君って、もしかして…………障害者だったりする」
「!」亜美の一言を聞いた修司は洗い物をしていた手をピタリと止めた。
そして目を見開いた形相で亜美の方に静かに視線を向け、彼女に訊いた。
「……なんで、そう思った」
修司は何とか自身の態度を隠そうと内心必死では有ったが、彼の顔を見た亜美は完全に修司が愕然とした気持ちになっているのを悟ってしまってた。
そんな愕然とした表情の修司に、亜美は動揺しながらもそっと答えた。
「……ごめんなさい。前からそう思ってしまって。以前から貴方の態度とか周りの人との接触を好んでない傾向が目立っていたけど、私には修司君が人との関わりを嫌っているんじゃ無く逆に人と関わるのを望んていても人との関わりが不器用だったり他人と話すのが苦手な子なのかなって……そ、そう感じたの」
「……」
修司は何も言い返さず、ただ無言で洗い物をしながら亜美の話に耳を傾ける。
そんな修司に亜美は更に続けて訊ねた。
「し、修司君の障害って一種のコミュニケーション障害という精神的な障害なんじゃないの? 私、医学の勉強している内にそういう精神病などの知識も自然に頭に入っちゃって……」
「…………」
「も、もちろん、他のみんなには何も言わないわ。修司君が気にしているなら黙っている積りよ。誰にだって触れて欲しくない事の一つや二つは有るものね。……ご、ごめんなさい。傷付ける様な事言ってしまって」
亜美が話終わった、ちょうどその時。修司は先ほど亜美が持って来てくれた洗い物も全て洗い終わり、コップはしっかりと布巾で水気を拭き取り、大きな調理器具等は洗い場の傍らに乾かす為に綺麗に並べ終わるとその場から立ち去ろうとした。
そして修司は去り際に亜美に背中を向けながら重い口調で言った。
「……亜美」「! な、なに……」
動揺してしまう亜美に修司は続けて述べる。
「お前、確か将来医者になるのが夢だったんだよな」「え、ええ……」
「医者と云っても外科から内科まで色々と有るけど、お前はどの医者になりたいんだ?」
訊ねられた亜美は少し悩みながらも修司に答えた。
「そ、そうね……まだ決めてないけど……」
「……そうか。なら精神科医でも良いんじゃないか」「え?」
ハッと驚いてしまう亜美に、修司は最後にこう告げた。
「そうだろ。そうやって的確に人の真意をつけるんなら精神科でも上手くやっていけるんじゃないか。お前の様な優しい女なら立派な精神科医にだってなれると俺は思うぜ」
そう亜美に告げると、修司は男子側のコテージに戻って行った。
思いもよらない修司の発言に、亜美は唖然としてしまった。
[賑やかな夜]
そしてその夜。
女子達のコテージでは賑やかにお喋りが始まっていた。
「ふぅ~~ん、アッコちゃんと修司君の出逢いって、結構ドラマチックなんだね」
「そ、それほどでも。えへへ……」
アッコの話を聞いたうさぎに言われ、思わず照れてしまうアッコ。
うさぎに続き、如月ハニーと愛野美奈子もアッコの話について穏やかな笑みで語った。
「素敵じゃない。女の子に降り注ぐガラスの破片から身を挺して護ってあげるなんて」
「うんうん。しかも恩着せがましくしないで、逆に無言でその場から立ち去ろうとするなんて、結構カッコいいじゃない修司君」
アッコが話す修司との最初の接触の出来事を穏やかに楽しく聞いていた女子達。
しかし其処に天王はるかがふと呟いた。
「だけど……彼ってホント何考えているのか解らないよね」
「確かに。いつも何かに思い更けていると云うか、言い方は悪いけど何かを企んでいる様にも見えちゃうし……」
はるかに続き恋人の海王みちるも呟いてしまう。
更に葉月聖羅も思い詰めた口調で続けて話し出した。
「……そうね。それに修司君って自棄に自分を責めてしまう傾向が有るし。もちろん責任感が高いのは良い事よ、だけど余りにも責任を自ら負ってしまうのよね彼は。……未だにお父様の事を気にしてくれているのは嬉しいんだけど」
聖羅は未だに修司が、今は亡き父・如月猛(きさらぎたけし)博士の死を自らの責として背負っている事に凄く申し訳ない気分で有った。
そして、それは側で聖羅の話を聞いている姉の如月ハニーも同感であった。
聖羅に続き、森谷りりかも重い口調で口を開いた。
「言われてみると。確かに修司さん、物凄く自分を追い詰めると云うか自虐的になってしまうというか。まるで自分はどうなっても良いって思い込んでいるみたいで……」
りりかの発言に冥王せつなも口を開く。
「そうね。下手をしたらこの先、彼がどんな行動を取るか不安で仕方がないわ……つい思い余ってしまって……」
皆せつなの言葉に驚き、その場に重い空気が流れてしまう、その時。アッコがその場の空気を遮断するように言い放った。
「……だ、大丈夫よみんな。修司は見た目ほど気の弱い、意志の弱い人間じゃないって事は既に知っているでしょ」
「あ、アッコちゃん……」
力強いアッコの発言を聞き、まことを始めその場の女子達が一斉にアッコに目を向けた。
そんな中、アッコは懸命に皆に云い回った。
「た、確かに修司って普段から何を考えているか全然解らないわよ。だ、だけどそれは、いつも私達や周りの人達の事を何かしら思って、それで悩んでしまっているだけなのよ。修司は素直じゃないし、心配性だから私達にだけは心配掛けさせまいと自分の悩みは胸に仕舞い込んじゃって私達に云えないでいるだけなのよ。こ、これは私の勘で修司の本心とは違うかもしれないけど多分……修司は怖いのよ。詳しくは聞いてないけど修司、実の家族とも不仲で、前の学校でも周りの子達と馴染めずいつも一人で過してきて……そんな心境の時にやっと親しくしてくれる人達が、私達と親しくなっていったけど……私達は英雄。力無い人達の代わりに戦い、そして力の無い人達を全力で護って行く存在。それは修司も同じだけど、そんな状況の中でせっかく自分と関わりを持ってくれた人に何か有ったらと不安になって、それで遂自分だけで先走ってしまうのよ。修司にとっては自分の事よりも他人を、そう親友である私達の方を大事に思ってしまうから、それでつい無謀な事をしちゃうだけなのよ。それは解ってあげて、みんな!」
アッコの力説に女子一同、皆目をパチクリさせながら驚いてしまう。
そんなアッコの力説を聞いた亜美は穏やかな笑顔で口を開いた。
「……そうね。アッコちゃんの云う通りだわ」
「え」「あ、亜美ちゃん?」
亜美の一言に思わず問い返すレイにまこと。亜美は続けて穏やかな心情で語った。
「確かに。彼は何処か人付き合いが悪いと云うか不器用と云うか、どちらにしろ余り自分の気持ちを相手に伝える事ができないでいるけど、心の中では私達の事をとても信頼しているし何より私達を必要しとしてくれている……正直、最初に彼に言われた通り、私達の存在は見方次第で危険な存在と思われてしまう。だけど彼はそんな私達を友として見てくれているだけでなく、私達の日常までも必死に護って行こうとしてくれている。私達が彼にしてあげられる事はまだ少ないかもしれないけど、せめて修司君が寂しくない様に……少しでも孤独だと感じない様に、彼の側に居てあげましょうよ。アッコちゃん安心して。私達、ちゃんと解っているから。修司君がとても心の優しい、意志の強い子だって事は。確かに未だに彼の本心や考えは解らないけど、それはそれ。彼が大事な友達だって事には変わりないわ」
「あ、亜美さん……」
亜美の優しい台詞にアッコは感極まった。
「……ふぅ、確かに、修司君って中々自分の本音とか言わないから結構参っちゃうけど、本当は私達を始め周りの人達ともっと積極的に過して行きたいと思っているのかもね」
軽く溜息をつきながら安堵の表情で木野まことが重い口を開く。
「自分の本心はひた隠しにしながら、それと同時に物凄く寂しがり屋なのかもね。……昔の誰かさんを思い出すわ」
「え゛っ」
温和な表情を浮かべながら、みちるは真横に座っていたはるかに視線を向けた。
「私も。前に修司さんから直接聞いたけど、修司さんと修司さんの親は余り話が合わずに良く喧嘩しちゃってたって。修司さんは親じゃなくても良いから誰か一人でも自分を理解してくれる人を求めているのかも……」
「ち、ちびうさちゃん……」
以前修司から自身の家庭での状況を教えてもらったちびうさは彼の居た堪れない心情を言葉にした。そんなちびうさをほたるも何処か居た堪れない心情で見詰めた。
「……うん、そうだよ。確かに修司さんは何処か怖い雰囲気が有るけど、いつも私達の事を気に掛けてくれている。そんな修司さんに私達も何かしてあげないと」
思わず両手をガッツポーズしながら、さくらも力強い口調で語る。
「そうよね。修司さんは周りと上手く付き合えないから、それで心に何らかのトラウマが有ってそれで今でも人と接触する事を怖がってしまっているのかも。私達も修司さんが少しでも他人と触れ合えるように、これからも変わらず一緒にいてあげましょうよ」
満面の笑みで森谷りりかも声を発する。
女子みんなが一同に、これからも修司に付添う決意を固めたその時、同じ女子組に居るルナやアルテミス、そしてケルベロスが口を揃えて呟いた。
「みんなの言う通りね。修司君にはこれから先も協力してもらわないと、コッチだって困っちゃうわ」
「そうだね。彼には確かに少しだけ不安要素は有るけど、比較的協力的な存在には違いないしね」
「そうやな。……それにしてもアッコはん、あんさんは自分で言うだけの事は有って良くもまぁ修司はんの事を見ていますなぁ」
「えっ? い、いや、そんな……」
ケルベロスに指摘され、思わず頬を赤くさせるアッコ。
ケロに続きルナとアルテミスもアッコに話しかけた。
「謙遜しなくても良いのよアッコちゃん。貴女が心から修司君を慕って居るのは此処に居るみんなが既に知っている事なんだから」
「そうだよ。何より君が常に修司君の側に居てくれる事で、彼の暴走してしまう感情や闇の部分が抑えられるんだから僕等にとっても都合が良いよ」
「そ、そんな事……ん? アルテミスちゃん、修司の闇って、いったい何の事?」
アルテミスの発した闇に、アッコはキョトンとし彼に訊ねた。
「あ、ああ。そう云えば、まだアッコちゃんには話していなかったね。実は修司君の心にはとても深い闇の様な存在が感じ取れるんだよ」
「え! や、闇って……」
アッコが驚いていると、ルナが安心させる様に優しい口調で話しかけた。
「あ、大丈夫よアッコちゃん。彼の闇は今まで私達が戦って来た敵とは全く違う闇なのよ。今までの敵の大半は、単なる怒りや憎悪を感じられる闇ではあったけど、修司君の場合はその様な闇とは根本的に違う闇だから」
「…………」
だがアッコは未だに不安に感じてしまい、そんなアッコにアルテミスが云った。
「そ、そうだよアッコちゃん。彼の闇は悪意や憎しみなんかでは無く、もっと深い、悲しみに満ちた闇なんだよ。そう、まるで全てを飲み込み惹き付ける純粋で特別な闇なんだ。で、でも最近はアッコちゃんが側に居てくれるお陰なのか彼の闇の部分はほとんど見え隠れしている状態なんだけどね。ただ、本当に懸念しなくても大丈夫だから」
何とかアッコを安心させようと奮闘するアルテミス。
だがそんなアルテミスに美奈子が怒鳴った。
「もうアルテミス! 貴方がそんな事を言うからアッコちゃん不安になっちゃっているじゃない! あ、アッコちゃん大丈夫だからね」
アッコを宥めようと言い聞かせる美奈子に対し、アッコは暗く重い口調で言い返した。
「だ、大丈夫です美奈子さん。た、ただ……」「た、ただ?」
美奈子が返答すると、アッコは更に続けて語った。
「ただ……私、凄く不安で。修司の闇に対して、私にできる事は有るのかなって……何より、私は本当に修司に必要とされているのか、必要と思われているのか……時々不安に感じて……」
このアッコの言葉に皆は呆然とした。
「な、何言っているのよアッコちゃん」
「そ、そうよ。彼はさっきもアッコちゃん自身が言っていたように素直じゃないから自分の気持ちを正直に伝えられないでいるけど、本心では此処の誰よりもアッコちゃんを慕っている筈よ」
呆然としながらも懸命にアッコに言い聞かせるハニーと聖羅。
しかしアッコは暗い表情を浮かべながら告げた。
「で、でも……修司は余り私の顔を見てくれないし、目も合わせてくれる事が殆どないんです。私、修司に好く思われてないのかなって、そう思ってしまって」
この発言に対し、うさぎがお気楽口調で語った。
「アハ、アッコちゃん。それは多分、修司君が極度の照れ屋さんだからだよ。修司君みたいな男の子って好きな子には素直になれず、目も合わせられないシャイな男の子ばっかりなんだよ」
「う、うさぎさん。……ありがとう」
落ち込んでしまうアッコに他の女子達も勇気づける。
「そうよアッコちゃん、心配し過ぎ」
「男の子ってのはね、大半は素直になれないのが多いんだってば」
「れ、レイさん。美奈子さん」
「そうですよアッコさん」
「気にし過ぎちゃうなんて、それこそ修司さんに似て来ちゃっているわ」
「さくらちゃん、苺鈴ちゃん」
皆に励まされ、次第に明るさが戻って行くアッコ。
そんなアッコに森谷りりかが突拍子に話しかけた。
「そ、そうですよアッコさん。修司さんは恥ずかしがり屋なだけで、それでアッコさんの瞳を見つめる事が出来ないんでいるんですよ。修司さんだってアッコさんの綺麗な鏡の様な瞳を直視したいって思ってはいるけど恥ずかしくて中々直視できないでいるだけですよ」
「え? か、鏡……」
りりかの発言にアッコは思わず目を丸くして固まってしまい、そんな彼女にりりかは続けて釈明した。
「あ、ああ。実は以前、アッコさんと面識のあるウチの学校の友達の桑野さんから聞いたんだけど、アッコさんの瞳って何だか鏡みたいで綺麗な瞳をしているなって、そう彼女言ってたんです」
「あ、あのみゆきちゃんが。そ、そう云えば、最初に会った時も彼女、私の瞳の事そう言っていたような……」
以前アッコが放心状態の桑野みゆきを助けた時、アッコは落ち込む彼女を励ましてあげた。その際、桑野みゆきからアッコ自身の瞳について言われていたのであった。
りりかに続き海王みちると天王はるかも二人続けてアッコに笑顔で告げた。
「確かに。アッコちゃんの瞳って鏡の様に綺麗だものね」
「そうだね。見ていると何だか自分自身と向き合っている様な、そんな不思議な感覚に陥ってしまう正真正銘の鏡みたいな瞳を、アッコちゃんは持っているよね」
二人の発言にアッコは神妙な面持ちで言い返した。
「で、でも。みゆきちゃんからも言われたけど、私の瞳って、そんなに綺麗なのかな? か、鏡の様な瞳なの、みんな」
余り納得のいかないアッコは思わず呆然となりながら皆に訊ねた。
するとレイと亜美が話しかける。
「え、ええ、そうよアッコちゃん。貴女の瞳ってホントに綺麗なのよ」
「じ、自覚無いの?」
二人に訊き返されたアッコはキョトンしながらも頬に手を上げながら答えた。
「う、うん。そりゃ、毎日鏡で自分の顔はいつも眺めているけど、自分の目が鏡みたいだなんて思った事は無いし気にした事も無い。遂最近、みゆきちゃんやみんなから言われて少しは気に仕出したけど、自分じゃ自分の瞳が本当に綺麗な鏡みたいな目なのか、よく解らないし」
そんなアッコに冥王せつなが言った。
「ま、まぁ。自分の容姿がどんなに綺麗で素晴らしいか、そしてどんな風に思われているのかなんて、自分自身では余り気付く事は有りませんものね」
そんな時であった。ふと窓の外を眺めていたケルベロスが女子達に声を掛けた。
「ん? おいさくら。それに他の皆はんも来てくれや」
「ん? どうしたのケロちゃん?」
さくらを始め女子達が窓辺の方に近寄ると、ケルベロスが男子側のコテージを指差した。
「いやな。何だか男共のコテージが何だか賑やかを通り越して偉く喧しいから、何やと思って」
「確かに……どうしたんでしょうか?」
せつなが考え込んでいる、その時だった!
「いい加減にしろテメエ等ッ!!」
地声の大きい修司の怒声が耳に入って来た。
「い、今の、修司?」「ど、どうしたのかな……」
「い、行ってみましょう」
修司の怒声を聞いて驚き動揺するアッコとうさぎに対し、せつなが皆に声を掛けて男子のコテージに急ぎ足で向かった。
その時の男子側のコテージ内では。
「この野郎!」「やりやがったな!」
罵声に怒声が鳴り響く中、男達は激しい枕投げをしていた。
「ヤメロッ、ヤメロってお前等ッ」
激しい枕投げをする男達に必死に制止しようと修司は二階のフロアから枕投げの場になってしまっている広間に向かって叫びかける。
しかし男達の熱は収まらず、修司同様ケンカ沙汰状態の枕投げを必死に止めようと大気光とジュニアが男達を宥めるが、それでも収拾がつかなかった。
「ヤッ、止めろってお前等、ブハッ」
更にこの時、二階に居た修司にも覗かせていた顔に枕が直撃してしまった。
「……て、テメエ等……!!」
顔に直撃を喰らった修司は、完全に頭に血が上り、一人静かに二階の奥に姿を消して行った。
と、其処に女子組が何事かと様子を見にやって来た。
「い、一体何事ですか、ブワッ」
運悪くコテージに入って来た冥王せつなの顔に枕が直撃してしまった。
「せ、せつなさんっ」「ちょ、ちょっとみんな! どうしたの一体?」
倒れるせつなに寄るレイ、そして激しく枕投げ合戦をする男達に大声で呼びかけるアッコ。
そんな女子達に、懸命に枕投げを止めようと必死になっている大気とジュニアがボロボロの状態で歩み寄る。
「た、大気さん」「どうしたの二人とも。何が発端でこんな事に?」
ボロボロの二人に美奈子と聖羅が訊ねてみる。すると二人は疲れ切った様子で答えた。
「そ、それがですね。最初にバーンズが、聖龍隊の女子たちでは誰が一番カワイイかって話し出して、それが切っ掛けで」
「そ、それで、結局誰が一番カワイイとか、あの子が一番可愛いんだよって軽く揉めだして……段々エスカレートして行って最終的にはこんな状況に……」
大気とジュニア、息を切らしながらも二人が事のあらすじを話ししている、その時。
「……て、テメエ等……!」
「ん? ……ゲッ! し、修司!?」
バーンズが二階のフロアに目を向けると、其処には大量の枕を担ぎあげた修司が怒りに満ちた表情で枕投げをする男達を睨むように見降ろしていた。
「テメエ等……俺完全にキレたよ、キレちゃったよ……! そんなにスリリングな枕投げをお望みとあらば、この俺も直々に、そして遠慮なく、ブン投げてあげちゃうよォ……!!!」
異様な眼つきで見降ろす様にギロリと男達を睨みつけると、修司は下の男達に容赦なく大量の枕をまるでマシンガンの如く投げてきた。
「ぎゃーーッ」「うわ止めろ、ってウワー~」
「ヒイィィっ」
「ってオーーイ、二階から投げてくるなんて卑怯、ってうわぁ」
逃げ惑う男共であったが、頭に血の上った修司の耳には何も入らず、ただただ逃げ惑う男達と、その男達に枕の弾丸を浴びせ続ける修司。
「ちょ、ちょっと修司止めるんだ、ってウワッ」
制止しようと声を上げたはるかにも流れ弾が直撃してしまった。
「ちょ、ちょっと! 余計収拾着かなくなっちゃったわよッッ!」
花丘イサミが叫ぶ最中も、更に修司は逃げ惑う男共に枕の雨を浴びせ続けた。
そんな状況を目の当りにしたアッコは暗い顔で唐突に女子達に云った。
「……ねぇ、みんな」「えっ? な、なに、アッコちゃん」
レイが訊くと、アッコは暗い表情で目を見開きながら言い放った。
「……みんな、耳を塞いでおいて……!」
そう呟くように皆に言うと、アッコは何処からともなく一本の五寸釘と手に収まる小さな黒板を手に持って構えた。
「! あ、アッコちゃん。ま、まさか……」
女子達が深く動揺していると、アッコは徐に左手に持ったミニ黒板に五寸釘の先端を当てた。
「ヒぃッ」
アッコの行おうとしている事を悟った女子達は耳を塞いだ。
そして。
ギィ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……
アッコは釘で黒板を思いっきり引っ掻き、鳥肌が立つほどの奇怪な音を出した。
コテージ内に音は鳴り響き、男達は鳥肌を立たせながら喚いた。
「ヒぃ~~~~ッ」「こ、この音だけは止めてくれ~~ッ」
「アアアアアアアァァァ」
鳥肌になる肌を押さえながら涙目で喚き叫ぶ男達。
「ギャアァ~~~~~~~~~~~~~~~~~」
バーンズなど、それこそ正真正銘のギャ○スの断末魔の如き叫び声を上げて叫喚した。
そしてアッコが黒板を引っ掻くのを止めると、男達は体の力が抜けた様に、その場に崩れ落ちる。
「……ハッ、はぁ」
黒板を引っ掻いていたアッコ本人も奇怪な音に多少苦しんでいた。
そんな中、男達が床に這いずる様に苦しんでいる時、二階の修司は担ぎ上げていた枕を全て床に落とし、そしてフラフラと足を動かすと階段を降りようと片足を一段降ろした、次の瞬間。
ドサッ ドガッ ゴドッ ガタンッ
修司は物凄い勢いで階段から転げ落ちてしまった。
「ギャアアァッ!」「し、修司ぃ!」
激しく転げ落ちた修司を見て驚愕する衛とアッコ。
「に、義兄さん!」「オイィっ、落差55度は有るぞあの階段!」
ジュニアとバーンズも悲鳴の様な声を上げなら皆と共に倒れ込む修司の元に駆け寄った。
「し、修司?」
アッコが震える口調で話しかけると、修司はボソリと呟いた。
「あ、あの音は、流石に効いたぜ……」
そして修司は最後に息絶えるようなリアクションで呟いた。
「……お、おのれ……ば、幕府の、い、イヌ、が……ガクッ」
『……?!』
その場の皆が一同に修司の発言に動揺しながらもキョトンと呆然としてしまう。
そんな修司の言動にバーンズがようやく有る事に気付き、修司に激しく言った。
「……あ、って寺田屋か! ってゆーか、そんな解りにくいボケ言ってんじゃねえよッ!」
「い、いや~~、階段から転げ落ちるって云えば、やっぱ寺田屋かな~~って……」
激しくツッコミながらも呆れかえってしまうバーンズに苦笑しながら言い返す修司。
そしてバーンズ同様、女子達や男子達も呆れかえってしまっていた。
そんな中、トシが思わず一言発した。
「……ところで、寺田屋って、何の事ッスか?」
これを聞いた修司は思わず体全体が真っ白になり蒼白な顔になってしまった。
そして修司は顔面蒼白で震える口調でトシに言った。
「な、なぁ。と、トシ……俺、お前があんまし勉強とかできない奴だって事は重々理解しているけどよ……寺田屋ぐらいは知っておけよ。お前の御先祖が、新撰組が関係している事件なんだよ」
「えっ!? ほ、ホントっ?」
「ほんとだよ……せめて先祖が関係した事のある事件ぐらい知っておこうな……幕末の英雄達が不憫で仕方がねえよ……」
思わず涙ぐんでしまう修司であった。
「そ、それにしても……小学生で、もう寺田屋について知っているんですね。修司君は……」
現役教師の冥王せつなが目を丸くして言うと、それに答えるかのようにジュニアが言った。
「ああ、義兄さん結構歴史とか好きなんだよ。この前も夜一人でNHKの歴史秘話ヒストリア見て泣いていたし」
「ジュニア! 別にそれは言わなくても良いだろッ」
ジュニアの発言に修司が慌てて怒鳴ると、デューイが意外そうな顔で修司に訊ねた。
「えっ? し、修司が泣いているのかい?」
「い、いや……その……」
戸惑う修司に代わりジュニアが答えた。
「うん号泣ってレベルじゃ無かったとはいえ泣いてたね。結構歴史物とか見ると涙脆くなっちゃうんだよ義兄さんは」
すると修司は開き直って堂々と言い放った。
「べ、別に仕方ないだろ。歴史ってのは人の心を熱くさせるモンなんだからよ」
「そんなモンか?」
思わずバーンズが訊ねるが、それに対して修司は釈然と続けた。
「そうだ! 歴史とは壮大なるドラマである」
「完ッ全にヒストリアからの受け売りだね」
目を細めながらジュニアが修司に言う。
その時、唐突にイサミが修司に訊いた。
「ふぅ~~ん、ところで修司さんは歴史ではどんなのが一番好きですか?」
「うん、やっぱり戦国とか幕末とか……時代が変わろうって場面が一番好きだな。そしてそんな時代の偉人達は皆己が信念の元、必死に修羅場を潜り抜けて行く。其処に憧れるんだよなぁ」
目を輝かせながら言う修司に続き、美奈子も目を輝かせながら訊いた。
「そ、それじゃ、修司君って好きな戦国武将っている? 私はやっぱり伊達男の由来になった伊達政宗が好きなんだけど」
「ああ、俺はやっぱ人々から恐れられた織田信長だな」
「ウワやっぱっ」「性格から見てやっぱりって思っていたよっっ」
修司の発言に驚愕するバーンズとジュニア。
と、その時である。
「お前らどうしたんだッ。外までバカ騒ぎが聞こえて来たぞッ」
「あ、叔父さん」「ウェルズさん」
皆が目を向けると、ドアからウッズとウェルズが入って来た。
「あ、お前等。何処行ってたんだ、タク」
修司が呟きながら横目で睨みつけてみると、ウェルズの背中にまるで隠しているかのようなビニール袋が目に入った。
「……おいウェルズ。その背中のビニール袋は何だ?」
細目の眼光で睨みながら修司がウェルズに訊くと、彼は慌て出した。
「イッ……こ、これは……」
次第に冷汗を掻いていくウェルズの持っていた袋を半ば強引に奪った修司は袋を漁ってみた。
「……なになに。チーかまにサラミにスルメいか、そして……缶ビール3本」
修司は冷え切った目でウェルズを睨みつけた。
「ヒィィっ」
怯むウェルズに修司が低い声で睨みながら言う。
「お前なぁ。なぁにアルコール買ってきてんだぁ? 俺等がとっくに眠っていると思って、俺が寝ている間に飲もうって魂胆だったな。良い度胸してるじゃないのウェルズくん」
「ヒッ、ヒィィ……」
腰を抜かし怯えきってしまうウェルズ。
そんな修司とウェルズを尻目に、バーンズや衛・青児が袋を漁る。
「……酒は飲んじゃいけない決まりとはいえ、せっかく買ったのを捨てるのは勿体無いしオレたちで食っちまおうぜ」
「あ、俺チーかま食いてえ」「それじゃ俺はサラミ」
「ってオイオイ其処の三人、俺が買って来たモン勝手に食おうと済んじゃねえよッ」
袋を漁る三人にツッコむウェエルズ。
「おい修司、お前も食わねえか」
バーンズが訊くと修司は平然と返した。
「ああ済まん。俺、歯磨いた後は何も口にしたくない性分なんだ」
「え、マジッ?」
「ああホント。虫歯になるのも嫌だし、歯を磨き終わった後にまた何か食べて再度歯を磨くのも面倒臭いんで歯を磨いたらもう何も食べない様に習慣づけているんだよ」
「そ、それじゃ、お茶とかは?」
「ああ、お茶も口にしねえよ。カテキンとか歯にくっ付いてそれで虫歯になるのもヤダし喉乾いたら水で充分だろ」
「意外に健康的だなッッ!」
そんな会話を一通り終えると、修司は階段を上がろうとした。
「て、し、修司?」「し、修司君。あなた怪我は?」
アッコとハニーが階段を上がろうとする修司に声を掛けると、修司は平然と言い返した。
「ん? 別に大丈夫だ」
「って本当に大丈夫なのっ?」「あんなに激しく落っこちたのにっ?」
女子達が困惑しながら訊くと修司はまたも平然と答える。
「うん。俺、柔道とか得意なの知っているだろ。あれ位の階段なら受け身取りながら落ちていけば何とも無いぜ」
『ウッソォっ!?』
男子・女子共に全員唖然とした。
「それじゃ俺はもう寝るわ。お前等も早く寝ろよな」
そう言い残して修司は二階に上がって行った。
[夢と星空]
その夜。
男は男、女は女のコテージで皆ぐっすりと深い眠りに就いていた。
そして女のコテージの一室では、加賀美あつこも他の女子達と一緒に熟睡していた。
しかし、彼女はこの時、とても印象に残る夢を見ていた。
「……やめてください……やめてください。やめてください総長! うわあっ!!」
「止まれっ、止まるんだーーっ……ぎゃっ」
「止めてください修司さん!」
「止まって……! お願いだから正気に戻って修司……ぐはっ」
「せ、セーラームーン。キューティーハニー……ぐっ、もう止めてくれーーッッ」
「海斗、海斗……お願い……誰か……誰か、修司さんを……総長を止めてあげて……!」
悲痛な嘆き、血に染まって行く人々、眼前で死んでいく愛する者達。
暗闇の中、そんな人々の叫び声がしっかりとアッコの耳に響き渡る。
そして彼女の視界が良好となり、辺りを見回してみると……眼前には無数の死体、足元には大量の血がまるで海の如く広がっていた。
そんな息も詰まる状況の中、無数の死体の山に立つ一人の人物。
背恰好から歳は20前後の男性。男はアッコに背中を向けて一人血塗れの死体の山に血塗れの剣を手にしながら立ち尽くしていた。
すると突然、男はアッコの方に振り向いた。
アッコの見たその男の顔は黒い影で覆われていた為人相は判別できなかったのだが、ギロリとした恐ろしい瞳がアッコを睨み付けるように見詰めてくる。その瞳からは正気や光は感じられず、何処か悲しげな眼差しをアッコに向けて来た。更にその瞳からは真紅の如き赤い一筋の血の涙が流れていた。
アッコが恐怖で全ての感覚がマヒしている、まさにその時、その男の口が動いた。声は出ていなかったがアッコの脳裏にはしっかりと男の言葉が伝わった。
「オ レ ヲ コ ロ シ テ ク レ」
そしてアッコが見ている夢は突然暗転する。
「はっ…………」
その瞬間、アッコは部屋に敷かれていた布団の中で目を覚ました。
目を開け、上半身を起き上がらせて辺りを見回すと、周りにはいつも笑顔を振りまいてくれる友が、仲間達が穏やかな寝顔を浮かべながら床に就いていた。
(い、今のは……今のは、夢? ……今の夢って……)
加賀美あつこは先ほど見た夢で感じた言い知れぬ圧迫感を以前にも感じた事が有った。
それは以前、自分の過している町が、愛してやまない町が完全な廃墟となり辺りに無数の惨殺死体が転がっている夢をアッコは見ているのであった。その夢には見た事の無い少女達や今の仲間達の死体も有り、更に血塗れの刀を自身に衝き付ける男性を……しかもその男の顔をハッキリと見る事はできなかったがアッコにはその男が修司であると確信していた。
先ほど見た夢に出た男、そして修司の名を口にしながら耳に入る悲痛な嘆き。あの夢に出た人物も修司であったのか。
アッコは一理の不安を感じ取ってしまった。
それは以前見た夢に死体で出て来た緑のコスチュームの男性。それは現在の仲間であるジュピターキッドのコスチューム姿と酷似しているいたのだ。
いつもは呑気で陽気なアッコではあるが此処で一つの予感が頭によぎった。
あの夢は未来を暗示している夢、すなわち予知夢と云うものであったのだろうかと。キッドと瓜二つの男性は未来のキッド本人では無いのだろうかと。
アッコは以前自分はもちろん仲間達の能力等に対して更に好奇心が湧きあがり、図書館に自ら出向いて霊能力や超能力の本を読み漁っている時予知能力と呼ばれる一種の超能力に分類される特殊能力の事を知ったのであった。
更にその予知能力の一種に予知夢と呼ばれる能力が有り、寝ている間に見ている夢が後の自分が目にする、つまり自分が体験する出来事が夢に映り出すと云われている。その予知夢は以前木之本桜から伝え聞いているドリーム「夢」のカードでさくら自身が見た事のある夢もまた予知夢であったと云う。しかしさくらカードの様な特別な道具が無くても人はその予知夢を見る事が有るらしく普通の日常を送っている人すら見る事が有るらしい。そんな一般人の見た予知夢の中には後に自分に降りかかる事故等のアクシデントやテレビ等のマスメディアに大々的に取り上げられる世界的大事件等も数多くあり、そんな予知夢の御蔭で自身の命が助かったと云う事も珍しくないと云う。
自分が垣間見た二つの夢、それは未来で起き得る出来事なのではないのか。
それなら自分が見た夢が後の未来で起きる事なので有れば、その夢に出て来た無数の仲間達の亡骸そして血に塗れた刀を向ける血の涙を流す人物はまさか。
気分の悪い夢を見たアッコは目が覚めてしまい一人布団から起き上がり寝室から抜け出ると彼女は一階に足を運んだ。
アッコはコテージ内の水場でコップ一杯の水をグイッと飲み干し、風に当たって気を落ち着かせようと玄関から外に出ようとした、その時。
玄関に向かおうとしていたアッコがふと窓に目を向けると、窓の外から隣の男子達が寝泊まりしているコテージから出てくる修司の姿が目に入った。
「! し、修司……!」
驚いてしまうアッコだったが、コテージから抜け出す修司の事が気になってしまい、彼に気付かれない様こっそり修司の後を付けて行った。
修司の後を付けて行くと・彼は一人、静かにあぐらを掻いて夜空を見上げていた。
「…………修司」
アッコは修司に気付かれない様、修司の後方に位置している木の陰から修司を覗き見ていた。
だが、その時。
「……誰だ、其処に居るのは」「!」
突然振り向いた修司は後方の木に向かって声を上げ、思わずアッコは驚いてしまう。
更に修司はアッコが身を隠している木に向かって呼び掛ける。
「誰だ。出てこい」「……」
修司に言われ、アッコは観念して木の陰から姿を現した。
「何だアッコか。どうしたんだ、隠れたりして」「……ご、ごめん」
思わず謝ってしまうアッコに修司は無表情で言い返した。
「……別に謝る事はない。ただどうしたんだと訊いているんだ」
修司に訊かれ、アッコは顔を下に向けながら申し訳無さそうに言った。
「そ、その。修司がコテージから出て行くのが窓から見えちゃって……どうしたのかなって。それで思わず修司の後を付けて来ちゃったの」
アッコの話を聞いた修司は表情を変えずにアッコに言葉を返した。
「そ、そうだったか。いやな、何だか目が冴えちまって。それで折角こんな綺麗な星空が見える所まで遠出して来たんだし夜風に当りながら星空でも眺めていようかなって」
「そ、そうだったの……」
アッコに事情を話すと修司は再び胡座を掻きながら満点の星空を眺め始めた。
「……」
星空を見上げる修司を見つめながら、アッコは先ほど自分が見た夢を思い出していた。
眼前に広がる無数の死体。辺りに響き渡る多くの人達の悲痛な叫び声。そして血に染まる刀を持つ、修司と思わしき一人の男。
アッコは不安であった。就寝前にルナやアルテミスから聞かされた、修司の心に有ると云う悲しみに満ちた深い闇。そして先ほどの夢で二度目にあたる予知夢と思われる自身が見た忌わしき夢。
もし本当にあの夢が予知夢で有ったのなら、今目の前に居る修司は……。
言い知れぬ不安に駆られるアッコ。
しかし修司の何処か悲しげな顔を見詰めていたアッコは修司に歩み寄り、彼に訊ねた。
「ね、修司」「ん、なんだ」
「……隣、良いかな」「……え?」
思わずキョトンとする修司を尻目に、アッコは修司の了解を待たずに彼の隣に体育座りで座り込んだ。
有無も言わさず、いきなり自分の隣に座り込むアッコに修司は内心驚き呆然としてしまった。
アッコは修司の隣に座り込み、彼と同様に夜空に視線を向けて星空を眺めた。そして彼女は星空を眺めながら修司に呟くような小さな声で訊ねた。
「……ねぇ、修司」「……なんだ」
「……私って、修司の側に居ても良いの?」「……え」
思いもよらないアッコの一言に驚き彼女の方に目を向ける修司。
彼女は更に続けて修司に訊いた。
「私は修司の力になっている? 修司を支えてあげられている? ……私は、修司にとって必要な存在になってあげられている?」
星空を見上げながら自分に訊いてくるアッコに修司は目を丸くして驚いた。
アッコや仲間はもちろん、今まで家族にすら言われた事の無い言葉だったからである。
何より、自分にとって必要な存在になってくれる存在すらしていなかった修司には、このアッコの発言は寝耳に水の衝撃であった。
星空を見上げながら自分に訊いてくるアッコの横顔は、何処か悲しくも寂しそうな、そして何とも言えない神秘的な雰囲気を放っているのを修司は感じ取っていた。
修司はそんなアッコの横顔をしばし見詰めると星空に視線を戻し、夜空を見上げながらアッコに告げた。
「……別に。俺は何とも思っちゃいねえよ」
「! ……え」
動揺するアッコに修司は続けて言った。
「……何より俺は、必要な存在じゃない奴を身近に置いておくほどお人好しじゃねえ。お前はクラスでも頭が良い方なんだし少しは察しろ」
これを聞いたアッコは修司の言葉に驚き、そして心の中は歓喜に満ち溢れた。
余り良い発言とはお世辞にも言えないが、アッコには修司が自分に伝えようとしている思いがしっかりと伝わった。
必要な存在だからこそ修司はその者を友として、そして同士として側に居させるんだと。大事な存在だからこそ目の届く所に居させるんだと。
アッコは静かに座りながら修司に近づき、彼に密着するように寄り添った。
そして彼女は思った。……例えこの先どんな事が有ろうと……どんな未来が待っていようと、修司が自分を始め今の仲間達を必要としてくれる限り、自分も修司を必要とし修司の側に居続けようと心に決めるのであった。
星が輝く夜空の下、二人の少年と少女は寄り添いながら満点の星空をしばし眺めていたと云う。