【聖龍伝説:第二章】英雄達の日々   作:セイントドラゴン・レジェンド

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 前回のバカンス編の第二章です。主人公とヒロインが星空を眺めていた翌朝から話は始まります。
■ヒロインのギャンブル運が強いのは、中の人繋がりです。(名探偵コナンのキャラ)


真夏のバカンス 後編 襲い来る闇

[起床する英雄達]

 

 修司とアッコが二人っきりで星空を眺めていた翌朝。

 

 誰よりも早く起きたウッズが一人、男女共に朝食を摂れるようコテージ付近の広場に設置されている木製のテーブルにコップや皿などの食器を並べ準備をしていた。

 其処に今度は木野まことと冥王せつなの二人がやって来た。

「あ、おはようございます。まことさん、せつなさん」

 ウッズは食器を並べながら二人に挨拶をした。

「おはようございます、ウッズさん」「お早うございます」

 まこととせつなも笑顔でウッズに挨拶を交わした。

「ウッズさん、一人で朝食の準備ご苦労様です」

「いえいえ。いつも修司様やウェルズ、ジュニア、バーンズさんの朝食も毎朝準備していますので慣れっこですよ」

 笑顔でウッズに話してくるまことに対して、ウッズも笑顔で会話した。

「でも一人では大変でしょ? 私達もお手伝いしますわ」

「え? し、しかし……」

 戸惑ってしまうウッズにまこととせつなが告げた。

「良いんですよ。一人暮らしでいつも食事の準備も自分でしていますんで大勢の食事の分をするのもどうって事ないですよ」

「私も。いつもはるかやみちる、ほたる達の食事を用意していますんで手慣れていますし、どうかお手伝いさせてください」

「は、はい……分かりました。それでは、お願いします」

 そしてまこととせつなもウッズと共に皆の朝食の準備を進めた。

 

 その後、皆が続々と起床し部屋から出て来た。

 女子達の方は起き上がると各々髪を整える為に手洗い場に集まっていた。

 うさぎは自分の髪を整える前にちびうさのを、みちるはほたるの髪を先に櫛で整えてあげる。

 と其処へ、アッコも未だ眠気が取れてない様な呆然とした顔付きでやって来て挨拶をした。

「お、おはよう……」「あ、おはようアッコちゃん」

 寝惚け眼のアッコに挨拶を返す美奈子。

「どうしたの? 何だか目が冴えてないわよ」

「あ……ちょっと、昨日の夜に目が覚めちゃって、少し寝不足で」 

 訊いて来たハニーに対しアッコは呆然としながら答える。

 そしてそのままフラフラと歩き鏡の前に立つと、蛇口をひねり水を出し両手に水を溜めて顔を洗い、パジャマのポケットから櫛を取り出して髪を梳かした。

(あ~~あ、昨日は修司と結構長く星を見ていたから、まだ眠い……)

 

 そして男女ともに朝食が用意されたテーブルに集合し、皆で食事を摂ろうとしたその時。

「ん? おいみんな。修司が居ねえぞ」

 バーンズが修司の姿が見えない事に気が付いた。

「お、そうだな。まだ寝てるんじゃないのか?」

「そういや、起こしても中々起き上がろうとなかったしな」

「しょうがねえなぁ」

 互いに顔を見合せながら呟く衛と青児に続き呟くウエルズ。

 と、其処へ……。

「いやぁ済まん済まん」

 修司が寝惚け眼で皆の所にやって来た。

「あ、おい修司。やっと起きたのか」

「済まん、まだ眠くて……ふ、ふわぁ」

 バーンズに声をかけられた修司は大きな欠伸を出しながら席に座った。

 ふと修司が皆の顔に目を向けると、全員何かに驚いたような表情で自分を見つめているのに気づいた。

「……ん? お前等、何で俺の顔をそんなに見ている訳? こんな不細工な顔眺めていたって何の得も無いよ」

 自虐交じりの台詞を吐く修司に、レイと亜美が口をそろえて修司に云った。

「だ、だって、修司君……」「あ、貴方……」

「んん? なんだよ二人とも。そんな寝首を掻かれた様な顔して」

 半分寝惚けている様な虚ろな目で二人を見ながら訊ねる修司に小狼(しゃおらん)が告げた。

「だ、だって修司さん、貴方……」

「ん? 俺が何だって?」

 思わず小狼に訊き返す修司に今度は星野(せいや)が事実を修司に告げる。

「し、修司、君……ま、前髪がピンと立っちゃっているよ……ッ」

 何と修司のスポーツ刈りでリーゼントの様に頭の前に伸びている髪の毛の部分がピンと上に向かって曲がっていた。

「ん……何だこれか。大した事ないじゃないか」

そう云いながら修司は食事を黙々と食べた。

しかし修司の髪型に目を丸くして驚きっぱなしの一同は修司の髪型に目が行ってしまって食事どころじゃなくなっていた。

 唖然とする空気の中、勇気を出して夜天が修司に声をかけた。

「……あ、あの、修司」「なんだよ」

「あ、あのさ……まずその髪、恐らく寝癖でしょ? そのままにしておいたら形が残っちゃうし、早く水で濡らして来なよ」

 修司の変な寝癖に軽く動揺しながら修司に云う夜天、だが修司は彼に平然と言い返した。

「ああ、別に濡らさなくても自然に戻るから良いよ」

「戻んの!?」

 修司の発言に衛が愕然となり思わず叫んだ。すると修司は更に続けて述べた。

「うん、何か毎朝結構な頻度でこんな寝癖が立っちまうんだけど、何か知らない内にピーンと自然に戻って行くから別に濡らさなくても良いだろう」

「って自然にってッッ! お前の毛髪は形状記憶合金かッッッ!!」

 修司の言動に目を飛び出させてツッコむ青児に修司が虚ろな目で平然と続けて述べる。

「まあ、合金って訳じゃないけど、元から俺の毛って剛毛だからな。形状合金と云われても別に構わんよ」

 そのまま修司は上に曲がりきった寝癖のまま食事を続けた……。

 

 その後食事を済ませ、各々自由に行動をとっていた。

 修司の方は相変わらず一人で部屋の一角に座りながら持って来た漫画を読んでいた。

「…………」

 只一人部屋で黙々と漫画を読んでいる修司に隣のコテージから態々アッコがやって来て声をかける。

「ねぇ修司。あなたは外出ないの? みんな外で散歩したりとかしてるよ」

 アッコの問い掛けに修司は本から視線を離さず返事した。

「俺は一人でのんびりと過しているのが性に合っているんだよ」

「もうっ」

 脇目も振らずにのうのうと読み漁る修司に愛想を尽かし、アッコは部屋を出る。

 そしてアッコが一階のフロアに目をやると、其処ではバーンズ・衛・青児が何やらトランプゲームをして騒いでいた。

「はいオレの勝ちッ♪」「チッ、ついてねえぜ」

「運だけはどうしようもできないからな」

 楽しそうに騒いでいる男達を見て、アッコは少し気になり声をかけた。

「ねぇ三人とも、なんのゲームしているの?」

 アッコが訊ねるとバーンズが気分よく答えた。

「おおアッコ。ちょっとポーカーを三人でやっていた所だ」

 これを聞いたアッコは少しばかり驚いた。

「えっ、ポーカー? ギャンブルじゃないの」

 そんなアッコに衛と青児が口を開く。

「あはは、ギャンブルって言っても金を賭けている訳じゃないよ」

「ああ、単なる遊びだよ、遊び」

「ふ、ふ~~ん……」

 思わず呟くアッコ、だが楽しそうな男子達を見ているとアッコは次第にポーカーに興味が湧いて来た。

「……ねぇ三人とも」「ん? なんだアッコ?」

 訊ねてくるアッコにバーンズが訊き返すと、彼女は笑顔で訊き返して来た。

「ねぇ、私にもできる? そのポーカー」

『!!?』アッコの突然の発言に驚愕し動揺する男子達。

「な、なぁ加賀美。お、前がポーカーって……」

 思わずキョトンとする衛は動揺しながら訊ねると、アッコは平然と返答する。

「なんかちょっと興味が湧いちゃってね。少しやり方教えてよ」

「ま、まぁ良いが……」

 呟くように返事する青児は、アッコにポーカーのルールなどを教えてみた。

 

 それから数十分後。

「ふぅ、退屈だなぁ……おや? 何だか急に静かになったようだが」

 漫画を一通り読み終えた修司は部屋から出ると、何故か静寂に包まれたような雰囲気が漂っているのに気付いた。

 皆、何処にそして何をしているのか修司が気にし出した、その時。下のフロアから複数の人の声が聞こえて来た。

 修司は一階に足を向かわせると、フロアに男子や女子達が集っていた。

「ん? 何の騒ぎだ?」

 不思議の思った修司は皆に声をかけた。

「おい、いったい何だ、こりゃ?」

「あ、修司君。実は……」「ん?」

 目を丸くして驚いているハニーに言われ、修司が見てみると其処ではアッコを含めた4人がポーカーをしていた。

 だが「はい、フルハウス♪」

 満面の笑顔で自分の手札を見せつけるアッコに男3人はただ唖然としているだけであった。

 そんなポカンとしている男達にアッコはこう告げた。

「へへへ♪いや~、これでもう50連勝しちゃったわ♪」

 このアッコの発言に修司は愕然とした。

「! ちょ、ちょっと待て。お、おい、アッコの奴、まさかポーカーで……」

 修司が先に見ていた者達に訊ねると火野レイが答えた。

「う、うん……アッコちゃん、かれこれポーカーを50連勝していて、衛さん達一度もアッコちゃんに勝ててないの……」

「! ま、マジかよ……」

 驚いていると、再びアッコが手札を見せて発する。

「ヤッホぅ♪また出ちゃった、ロイヤル・ストレート・フラッシュ」

『!!』アッコの見せた手札に全員愕然とした。

 何故ならロイヤル・ストレート・フラッシュはポーカーでは最も強い上に最も揃う確率が低い事は周知の事実だったからだ。

 しかし修司はアッコの「また」という言葉に疑問を持ち、ゲームに参加しているバーンズに訊ねた。

「お、おい。今アッコの奴、「また」って言っていたけど、もしかして前にも……」

 修司に訊かれ、バーンズが呆然とした表情で云う。

「あ、ああ……た、確か今ので3回目だったような……」

「えっ、三回目? ぽ、ポーカーってそんなにロイヤルが出るもんなのかッ?」

 これに対して衛が答えた。

「いや、かなりの天文学的数字での確率で低いわ。……こ、こんな調子で俺達一勝もアッコから勝ちを取れてないんだ……」

 そして痺れを切らした風に青児がアッコに願い出る。

「あ、アッコ! もう一回、もう一回だけ勝負させてくれッ」

「え、またですか? でももう飽きちゃったしなぁ」

 呟くアッコに青児が続けて告げる。

「も、もう一回。な、何なら今度は何か賭けても良いぞッ」

 この青児の発言に、ハニーと修司が続けて待ったをかけた。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ青児さん! いくらなんでも、のめり込み過ぎ」

「そうだぞ青児、みっともない。勝負は諦めが肝心ってよく言うぜ」

「だ、大丈夫だ! 此処まで勝ち続けていれば、いくら何でも運は使い果たしている筈だ! さぁ加賀美、もう一勝負ッ」

「そんなぁ……あ、それじゃ……確か何でも賭けて良いのよね」

 執拗に勝負を望んでくる青児にアッコは微笑みながら訊く。

「あ、ああ、こうなったら何でも言う事聞いてやるぜ! さぁ言ってみろ!」

「ふふ、それじゃ…………」

 アッコは青児に何を賭けるか伝えた。そして青児も周りの者達も、その賭けを聞いて愕然とした。

『……え、ええぇ!?』

「お、おいそんな……!」「あ、アッコさん、それはいくら何でも……」

 男子達は己の耳を疑う様に驚愕し、目を丸くした。

 だが女子の方は笑顔になって男子達に云う。

「あら、たまには良いじゃない。そう云うのも」

「そうよね。タマには男子達にもやってもらうのも良いわよね」

「そ、そんなぁ……」

女子達に男子達が騒いでいる中、青児は再度アッコとポーカーを仕掛け合った。

「……良いか、加賀美」「ええ、何時でも良いですよ、青児さん」

 そして男のプライドを賭けたポーカー対決が始まった。

 

 そして。

 

 

 

[離別した隙を狙って……]

 

 そして時は過ぎ、此処はコテージ近くのキャンプ場。

 此処で昼食のカレーを人数分、大量に作っている聖龍隊の面々が居た。

 だが其処に、女子達の姿は無かった。

 

 辺りには鍋を温める為のかまどにくべる薪を斧で割る音が響き渡っていた。

「くっ、手が痛くなって来やがった……」

「文句を言うな。お前が負けたのが事の発端なんだからよ」

 薪を割っていて赤くなった手を見詰める青児に、不機嫌そうに睨みながら衛が言う。

「早く割り終わらせてくれよな。まさか手伝う羽目になるとはよ……」

「ウッセエッ、テメエも文句言わずヤレ!」

「し、しかし……まさかアッコさんが「昼食の準備は男子達が全部やってくれるなら、また勝負しても良いわよ」なんて言うと思わなかったぜ」

「ど、同感……」

 調理用の大きな鍋にご飯を炊く為の飯盒(はんごう)を大量に運びながら愚痴を言うトシとソウシに、調理場の星夜とデューイが声をかける。

「おい二人とも、早く準備しないと間に合わねえぞ」

「少し急ごうよ」

 そして奥の流しでは大気光が米を研ぎながら声を上げる。

「急いでください。お米が研げても入れる飯盒がなければ意味ありません」

 そしてその隣の調理場では小狼(しゃおらん)と夜天、星野、そして修司等が肉や野菜等の具材を切っていた。

「まったく、何で俺等が全員分調理しなきゃならないんだ」

「文句言っても仕方ないぞ星野」

 具材を切りながら愚痴を零す星野に云う夜天に続き、隣で調理をしている修司も口を開く。

「その通りだ、文句言っても仕方がねえ。サッサと終わらせる為にも早く済ませようぜ」

 修司が手早く具材を切っていると、薪にするための木材をバーンズとジュニアが運んで来た。

「タックよォ、青児の奴がムキになるからだぜ」

「は、はは。まさかアッコさんがあそこまでギャンブルに強いとはね……」

 思わず苦笑してしまうジュニア。

 そして木材を運び、所定の場所に置いたバーンズが一言発した。

「ん? そういや女達は何処に行っちまったんだ?」

 すると修司がバーンズの方に顔を向けて答えた。

「ああ、俺達に調理の方は全部任せて女達は山ん中を散歩してくるってよ」

「まったく、好い気なもんだぜ……ってオイ、修司! お、お前……」

「ん? どうした……! え、ええ!?」

 バーンズが修司の顔を見て声を上げると、皆も続いて修司の顔に視線を向けた。

 すると修司は目から大粒の涙をボロボロと流していた。

「し、修司! お、お前、泣いているぞ……!」

 目を見開いて驚く衛が震えた口調で修司に訊ねると、修司は平然と答えた。

「……仕方ねえだろ、タマネギ切っていたら俺だって泣いちまうよ」

 見てみると修司の前のまな板の上には大量のタマネギが山盛りにされていた。

「な、何だ、タマネギかよ。お前が泣くから何事かと思ったけど、ただのタマネギの涙か……」

 胸を撫で下ろしながらホッとするバーンズ。

「だ、だけどよ修司。そんなにタマネギ使う必要あるか?」

 山盛りのタマネギを指差しながら星野が言うと、すかさず修司が言い返した。

「何を言うんだ。カレーにはタマネギを大量に入れるのが相場だろ」

「そ、そう何すか?」

 思わず訊き返してしまう小狼に修司は更に言った。

「そうだぜ。タマネギ入れればそれだけ旨味も増大するんだからな。あ、それにしても目が痛てェ……」

 

 

 その頃、女子達の方は。

「いやぁ~、空気がおいしいわねぇ」

「ホントですねぇ、それに心なしかとっても涼しいですし」

 胸一杯に空気を吸い込む美奈子に、隣で歩く花丘イサミが笑顔で声をかける。

「でも何だか悪いわね。男子達だけに食事の準備してもらうなんて」

「たまには良いじゃないですか。いつの時代も女だけが家事をしているなんて野暮ですよ」

 海王みちるの言葉にアッコが笑顔で言い返す。

「ねぇねぇ、みんな。もう少し奥に行ってみない?」

 ちびうさが森の奥を指差しながら皆に云う。

「そうね。どうせ食事の準備が終わるのもまだまだだろうし、もう少し散歩してから戻りましょう」

「そうですね。青児さん達も手慣れてない料理とかで手古摺っているだろうし、もう少し時間を上げるつもりで散歩してみましょうか」

「そうよ、アッコちゃんの云うとおり、たまには男にも家事とかの大変さを感じてもらわないと」

 せつなの発言を聞き、ハニーと聖羅も口を揃えて合意し、皆森の奥へと足を進めた。

「ふふふ、ホント賑やかですわぁ。撮り応えがあります」

 ビデオカメラを片手に穏やかに微笑む知世であった……。

 

 そしてしばらく森の中を歩いていると、辺りに霧が出て来た。

「あ、霧だ」「おかしいな、こんな時間時期に霧が出てくるなんて……」

 最初に霧に気付いたさくらに続き、はるかも急に発生した霧に違和感を感じていた。

 

 この時、彼女達は気付いていなかった。

 少し離れた木の陰からヒロイン達を見詰めている、一人の存在に。

 

 

 

[霧の中から]

 

 しばらく霧の出る森の中を歩いていた時、水野亜美が有る事に気付いた。

「……ね、ねぇ、みんな」「ん? 何、亜美ちゃん?」

 訊ねてくる亜美にレイが訊き返すと、亜美は不安そうな顔で皆に告げた。

「こ、此処……さっきも通った気がするんだけど……」

「! あ、亜美! 貴女もそう思う!?」

「え! そ、それじゃ、せつなさんも……!?」

 辺りを見回してみると、光もほとんど感じられない様な濃い霧に包まれていた。

「う、うそ……! 私たち迷子?」

 涙目で動揺するうさぎにレイが言い放った。

「う、うさぎ! こんな時こそ冷静にならないとっ」

「ど、どうしよう……」「こ、怖いですぅ……」

 思わず肩を寄せ合うさくらと知世。

 

 と、女子達が半ば怯え掛けている、まさにその時。

「……ウギャアァ…………」「! な、なに?」

 突然辺りに鳴り響く不気味な獣の泣き声に、女子達は動揺した。

「だ、大丈夫ですよ。もしかしたら野生動物の泣き声かもしれませんし……」

 動揺する女子達を必死で宥めようとする如月ハニー。

 

 しかし、その思いは叶わなかった。

「ウギャアアァ!!」『きゃああぁ!!』

 彼女達の目の前に異様な姿の大猿の怪物が現れた!

「な、なに? このサルの様な化物は!?」

 聖羅が大猿を見て声を上げる。

 更に、最初に現れた猿に続き、今度は複数の群れで猿の怪物が 多数出現した。

「イヤアアァ!!」

「な、何よーーッ! このサルの化物はーーっ!?」

 大猿を見て泣き喚くうさぎと美奈子に、レイが強めの口調で言い放つ。

「二人とも泣いてないでッ、今はこの怪物たちを倒すのが優先よ!」

「その通りよ。こんな時こそ変身しないでどうするんですかッ!」

 レイに続き、聖羅も強めの口調で泣き叫ぶうさぎと美奈子に云う。

 

 そんな中、猿の怪物たちは少女たちに襲いかかって来た。

「きゃああっ」

「い、今はとりあえず走りましょう! この状況じゃ、走りながら変身するしかないわ」

 木野まことの発言を皮切りに、少女達は必死になって走り出した。

 そして走りながら各々に変身しようとした。

「て……テクマクマヤコン!」

 アッコもコンパクトを手に呪文を唱えた! ……しかし

「……え? な、何故? 何故か変身できない!」

 深く動揺するアッコに続き、他の女子達も口を揃えて叫んだ。

「そ、そんな!」「わ、私達のも機能しないわ!」

 何と他の変身系ヒロイン達も呪文を唱えても、己の姿が変わる事ができずにいた。

「そ、そんなぁ!」「な、何で変身する事が出来ない訳?」

 突然の事態に驚愕し動揺する苺鈴(めいりん)と知世。

 と、その時。

「ギャアアオオォォ」

 何と木の上から猿の怪物が二人目掛けて落下して来た。

『き、きゃああ!』

 牙を剥き出しにして鋭い爪を振り下ろそうとする大猿に驚き怯む二人。

「危ない!」

 その時二人を庇う様にイサミが前に出て龍の剣で大猿を攻撃しようとした。しかし

「……! そ、そんな、何故……!?」

 なんとイサミの持つ龍の剣も、通常はビームサーベルの様な刃が飛び出てくる筈なのだが、それが飛び出して来なかった。

「ギャアアォ!」「! ぐっ」

 大猿はそのまま落下し、鋭い爪でイサミを斬り付けようとしたが彼女は寸での所で回避し何とか直撃だけは避けられた。が少しばかり腕を斬り付けられてしまい思わずイサミは斬られた個所を手で押え込んだ。

「い、イサミちゃん!」「だ、大丈夫?」

 斬り付けられたイサミに駆け寄る天王はるかと森谷りりか、二人は怪我をしたイサミの肩を担ぐように倒れた彼女を立ち上がらせて再び走りだした。

「さ、さくら! カードや、カードを発動させるんやッ」

 息を切らしながらさくらに問い掛けるケルベロスの言葉を聞き、さくらはカードをレリース(封印解除)しようとした。だが

「あ、あれ? け、ケロちゃん! カードのレリース(封印解除)が発動しないよ」

「な、なんやてッッ?」

 さくらカードの使用までもが何故か不能になっていたのであった。

 対処しようにも自分達のアイテムによる変身が不能になってしまい、どうする事もできなくなってしまった少女たち。

 

 少女達は死に物狂いで森の中を駆け抜け逃げ続けるしかなかった。

 

 その頃、キャンプ場では男子達が女子達を首を長くして待っていた。

「あ~~、腹減ったよ~」

「トシ、何も言わないで……僕ももうダメ……」

 トシ、ソウシ共にお腹を空かせて座り込んでいた。

「う、うさぎ達はいったい何処まで行っちまっているんだか……」

「お、お団子……遅過ぎるよなぁ……」

 衛と星野も待ちくたびれていた。

「しかし……いくら何でも遅すぎるよね。まさか迷った訳じゃ……」

 ジュニアが呟くとバーンズがすかさず返した。

「そんな訳ないだろう。此処の森はそんなに広くねえし、何よりしっかり者のハニーや亜美たちが一緒なんだから迷ったりする訳ねえよ」

 しかしバーンズの発言に大気光が反応する。

「だ、だけどバーンズ。確かにちょっと遅過ぎる様な……何かみんなに遭ったんじゃ……」

 そしてこの時、一人座り込みながら冥想するかの如く黙り込んでいた修司。

 

 その時「修司、助けてっ」「!! あ、アッコ?」

 突然修司の耳にアッコの声が聞こえて来たのであった。

 何か有ったのか……修司はそう思い、立ち上がると手元に置いてあった聖龍剣を手に取り走り出した。

「!? お、おい修司どうした!?」

 突然走り出した修司にバーンズも他の男達も驚いた。

 そして修司は脇目も反らず、単身森を、山の中を駆け抜ける。

「!」この時、キーオは走り出す修司を見て人知れず驚いていた。

 

 

 その頃、女子達の方は。

「きゃあっ」

 森の奥に逃げ込んだ少女たち。

 しかし不思議な事に逃げても逃げても同じ場所に辿りついてしまい、更に周りを大猿の化物に囲まれてしまう。

「ど、どうしよう……」

 うさぎが怯えた口調で呟く。

 頼りの変身もできず、ただただ怯える少女たちを大猿の化物は顔にある六つの赤い目で睨みつけていた。

 そして大猿の群れは次第に女子達に距離を詰めていき、少女達に更なる威圧感を与えていく。

「………………」

女子達は額から汗を掻き始め、恐怖で顔が引き攣って来た。

そして大猿たちは黒味の掛かる体毛を怪しく不気味に光沢を輝かせながら近寄り、そして。

『ギャアァオオォォ!!』

 群れは一斉に女子達に襲いかかった。

「し、修司ーーーーーーッ!!」

恐怖で溜めこんでいた感情を吐き出す様に、アッコは修司の名を叫んだ。

 

 その時。一筋の白い閃光が少女たちの目に入った。

『!?』

そして眼前まで襲いかかって来た大猿の化け物が一体、真っ二つに切り裂かれた。

「い、今のは?」

せつなが動揺しながらも目を丸くして言うと、斬り倒された大猿の背後から一人の少年が現れた。

 少年を見てアッコは声を上げた。

「……し……修司!」

 目の前に現れた修司を見て歓喜するアッコ、そして驚く女子達。

 大猿の群れは修司に視線を向けた。

 自分を睨みつけてくる大猿の群れに、修司も睨み返す。その顔はいつにも増して険しく、目は闇そのもので有るかのように大猿の群れに対し一向に怯む事も無く、ガンとして視線を逸らさない修司。

 そんな修司の闇の如く漆黒の瞳に見入る様に女子達も見詰めてしまっていた。

 アッコ自身も、最初に暴走した聖龍使いの時の修司を見ているのだが、その時の様な異様な闇の瞳で修司は大猿の群れと睨み合っていた。

 

 そして封を切る様に、修司は聖龍剣を鞘から抜き出し身構えながら言い放った。

 

 

 

[武人 斬り捨て候]

 

「悪鬼羅刹(あっきらせつ)……それは敵も己も同じ事……ただ違うは、奪う者と……護る者!」

 言い放った修司は単身、大猿の群れの中に突っ込んで行った。

「ギャアアオオォ」

 大猿たちは巨大な鋭い牙を剥き出しにして修司に襲いかかる。

「そりゃああッ!」

 襲い来る大猿の群れに修司は斬り込んで行った。

 

 女子達が目の前で次々に修司が大猿の化け物を斬り倒して行くのを唖然と見ていると、他の男子達も駆けつけて来た。

「み、みんな大丈夫か!?」「ま、まもちゃんッ!」

「ハニー、聖羅無事か?」「せ、青児さん」「な、何とか……」

 男達が現れて少しばかり安堵の表情を浮かべる少女たち。

「さくら、苺鈴(めいりん)、知世、平気かッ?」

「し、小狼(しゃおらん)くん……」

「しゃ、小狼ーーッ」「な、何とか平気です……」

 駆け付けた小狼に思わず抱きついてしまう苺鈴。

「り、りりか!」「せ、星夜!」「な、何がどうなってるんだ?」

 宇崎星夜とデューイもりりかの所に駆けつける。

「い、イサミ!」「イサミちゃん、大丈夫かい?」

「と、トシ、ソウシ、何とか……」

 イサミは先ほど大猿に斬り付けられた個所を手で押さえながらトシとソウシに返事する。

「あ、アッコ! これはいったい……!」

「き、キーオ……そ、それが……」

 キーオの問い掛けにアッコは唇を震わせながら話しかけようとする。

「ど、どうしたんだ?」「こ、これは!」

 駆け付けたバーンズとジュニアが見てみると、目の前の無数の大猿の様な六つ目の化け物が修司相手に乱闘している最中であった。

「お、おいアッコ! こ、こりゃいったいッ?」

 慌てふためきながらバーンズがアッコに訊ねる。

「そ、それが……いきなり現れて、襲いかかって来たの……」

 アッコは怯える眼差しでバーンズに答えた。

 

 そんな中、修司は更に大猿たちに斬りかかり、次々に化物達を倒して行った。

「お、おい……修司、一人で戦っているけど、みんなは何故変身して戦おうとしないんだ?」

 衛が皆に問い質すと、レイが言い返した。

「そ、それが、何故か変身が出来ないのよ……」

「へ、変身ができない?」レイの返事に目を丸くさせ驚く衛。

 それに続いてさくらも発言した。

「そ、そうなの……何故か解らないけどみんな変身できないし、それに私のカードも使えないんです!」

「な、何!? カードが、使えない……!」

 さくらの発言に動揺し愕然となる小狼。

 

 そんな最中も、修司は迫りくる大猿の化け物の群れを斬り続けて行った。

「お、おい衛、お前も早く修司に加勢しろよ……ッ」

「わ、分かってる……」

 青児に指摘され、衛もタキシード仮面に変身しようとするのだが……。

「……! そ、そんな! 俺も変身できない……!」

「な、何だと……!?」

 他のヒロインたち同様、地場衛もタキシード仮面に変身する事ができなかった。

「な、何故だ……! 何故、変身できないんだ……!!」

 深く動揺してしまう衛、そんな中修司は未だに迫りくる大猿の群れを豪快に斬り倒して行く。

「ど、どうしよう……!」「…………」

 困惑するトシにソウシ。

 

 其処にバーンズが皆に斬り込んで行く修司を差しながら言い放った。

「お、お前等! 修司に近づくな! 攻撃に巻き込まれるぞ!!」

 差された修司の方は脇目も振らずに、ただただ大猿の群れを一刀両断に斬り続けていた。

 その太刀筋は豪快ながらも流れる様な、力強い太刀筋。

 そしてそんな太刀筋で斬り続ける修司の目は漆黒の闇そのものではあるが、とても活気に満ち溢れていた。

 そして。

「てぃやあぁっ!」「ギャッ!」

 最後の一匹を修司が袈裟切りに一刀両断したその時、何と斬られた大猿の背後にあった木までもが切れてしまい、そのまま木は大きな音を立てながら倒木する。

『ええぇぇ!!』『う、ウソ~~ッ!』

 大猿だけでなく後の木さえも切り倒してしまった修司の行動に、男子も女子達も目を丸くして驚愕してしまった!

 そして修司は険しい表情を変える事無く、唖然としてしまっている仲間達に正面を向けて一言発した。

「……いかんいかん、つい力(りき)が入り過ぎて余計なモンまで斬っちまったぜ」

 そう言うと修司は不敵に口元を微笑ませて見せた。

『………………』

 そんな修司に皆、呆然とした顔付きで見入っているその時。

「ウオオオオォォォ…………」

 先ほどまでの大猿とは違い、鈍くて思い声質の唸り声が響いて来た。

「な、何っ?」

 アッコや皆が動揺し、辺りを見回していると。

「ウオオオオオオオオォォォ!!」

「なッ!」「イ゛ッ」「う、うそ……!」

 目の前に現れたのはさっきまでの大猿とは一回りも大きい更に巨大な大猿の化物だった。

 更にその大猿は先ほどの大猿とは少し容姿が異なり、肩や腹の部分にはまるで骨が露出しているかのような白い装甲があり、六つ目は更に不気味に八つの蜘蛛(くも)の様な目が顔に縦に並んでおり、牙も更に曝け出す様に剥き出しになっていた。

 

 大猿より巨大な巨猿は丸太の様な腕を振り上げ、修司目掛けて思いっきり振り下ろした。

「ム!」

 修司はすぐさま後方に移動し巨猿の攻撃をかわし退けた。

 巨猿は攻撃の手を緩める事無く、鋭い爪で修司を斬り裂こうと丸太の如き太い腕を振り回した。

「くっ、てやっ」

 修司は鋭い爪での攻撃を刀で必死に受け止めながら巨猿の攻撃を防ぐ。

 そんな修司を見て、バーンズもジュニアも居ても立ってもいられなくなった。

「く……おいジュニア、オレ達も行くぞ!」「あ、ああ!」

 そしてバーンズはチップバードを大声で呼び、ジュニアは腰に付けていた大地の鞭を手に取った。

「チップバード!!」「そりゃっ」

 呼ばれたチップバードは上空から飛んできてバーンズの右手に収まるとバーンズはチップを胸に当てながら台詞を唱えた。そしてジュニアの方も鞭を地面に叩き付け変身しようとした。

「メタル・イン! …………あ、アレ?」「え……?」

 しかし二人も他の面々と同じく変身ができなくなっていた。

 バーンズは困惑しながらチップに訊ねた。

「お、おいチップ……へ、変身できないぞ……」

「そ、そうやけど、ワテも何故変身できへんか解らん……」

 チップの言葉に益々動揺してしまうバーンズ。

 仲間達は変身する事も出来ず、ただただ見ているだけしかできなかった。

 

「ウギャアオオオオォ!!」「そりゃあっ!」

 そんな最中、修司の剣戟は一層激しさを増して行くばかりだった。

 

 

 

[身を盾にして]

 

 大猿を睨みつけながら、修司は意味深な発言を言う。

「生きるとは……誰かに悔いを強いる事だ」

 そう呟くと、修司は大猿の懐に刀を刺し入れそのまま上方に振り上げた。

「ギャアァオッ」

 大猿は悲痛な雄叫びを上げながら後に退いた。

 猿の腹は少しばかりの切れ目が見えたのだが、この時修司は不思議に思った。

 何故なら傷口からは血など一滴も出ず、傷の裂け目からは何とも言えないドス暗い靄(もや)が垣間見えた。

 

 大猿は傷口を手で押さえながら、再度修司に攻撃しようと鋭い爪で攻撃してきた。

 修司も刀を構えて攻撃に身を備える。

 だがその時!「…………マテ!」

 猿の耳に謎の声が響き、猿の動きがピタリと止まった。

「! ……」『!?』

 動きの止まった猿に睨みを利かせながら牽制する修司、そして突然静止する大猿に困惑する同士たち。

 そして猿は何を思ったか、姿勢を女子達の方に向けた。

「えっ?」

 動揺する女子達、そしてその時。

「……ウゴオォォォ!」

 大猿は女子達に飛び掛かってきた。

『きゃああぁっ!』『あ!』

 女子達は悲鳴を上げ、男たちは愕然となりながらも大猿の速さは異常で女子達に後一歩の所まで迫りつつ有った。

 だが次の瞬間。

 目をつぶっていたアッコは静かにまぶたを開いてみた。すると眼前には。

「ぐ……ッ!」

 まぶたを開けて見てみると、何と修司が大猿の右腕からの鋭い爪による攻撃を左肩で受け止めていた。

「!! し、修司……!」

 左肩から滲み出ている血を見て、アッコは愕然となった。

 そして修司は大猿に厳つい顔で睨みつけながら言い放った。

「……お、おい、エテ公」「ウ゛ッ」

「お前に……一つ良い事を教えてやるよ……昔から、日本にはこんなことわざが有るんだぜ…………肉を切らせて、骨を断つ……ってな!」

 そう言うと修司は左肩に受け止められている大猿の腕を左手でしっかり掴み大猿の腕の動きを封じた。

 腕を掴まれ大猿が一瞬怯んだその瞬間、修司は右手の聖龍剣を力いっぱい大猿の腹に突き刺した。

「ウギャッ」

 刺された瞬間、大猿は悲鳴のような声を上げ、突き刺した聖龍剣は大猿の背中にまで貫通していた。

 それを見た女子達に男子達は目を見開いて愕然としてしまった。

 そんな男子や女子を尻目に、修司は聖龍剣を貫通させたまま刀柄を逆手に持ちかえてそのまま真横に引き、大猿の腹を切り裂いた!」

「ギャオッ……」

 大猿は最後に断末魔を上げて、そのまま地面に倒れ込んだ。

「……はぁ、はぁ……」

 修司は多少息を上げながら倒れ込む大猿を見降ろした。

 そんな修司にアッコは困惑しながらも声をかける。

「し、修司……大丈夫……?」

 少し蒼褪めた表情で修司に話しかけるアッコ。

 そんな彼女に修司は険しいながらも穏やかな表情の顔を振り向かせ口を開く。

「はぁ……アッコ、お前の方は大丈夫か? 誰か怪我してないか?」

「え……あ、あの……わ、私は大丈夫、ただイサミちゃんが腕を怪我してしまって……」

「そうか、なら早くキャンプ場に戻って手当てをしねえと……」

 動揺しながらも答えるアッコに修司は平然と答えるが、彼は自然に左肩を押さえているのを見て、アッコは修司に強めの口調で言った。

「ちょ、ちょっと修司! イサミちゃんもだけど、貴方の怪我だって治さなきゃッ。な、何か傷口も深いみたいだし、血だって結構出ているし……」

 心細い口調で言ってくるアッコに、修司は少し強がりながら返した。

「別に、大丈夫だこれ位。それより体の弱い女の方を先に治してやるのが礼儀ってもんだろ?」

 この修司にアッコは強気な姿勢で言い返した。

「ちょっと! それはある意味差別よ修司!」「へ?」

 いきなり叫んで来たアッコに、修司も周りの仲間達も驚いた。

 目を丸くする修司に、アッコは言い放った。

「女は体が弱いからって……勝手に女の子を弱い生き物にしないでよねッ! 確かに男の子よりは体は丈夫じゃないかもしれないわよ……だ、だけどそれだけで弱い生き物って決めつけないでよッ!」

 アッコの強気な発言に目を丸くして驚く修司は、唖然とした表情のままアッコに言った。

「い、いや、そんなつもりじゃ、その…………悪かったよ、俺が悪かったから」

 アッコに顔を見詰められながら何も言い返せず、素直に謝る修司。

 そんな修司にアッコは続けて話した。

「ふぅ、それに修司も怪我が酷いのは変わらないでしょ。修司だってちゃんと治さないと、分かった?」

「は……はい……」

 アッコに言い寄られた修司は何も言い返さず、ただ素直に返事した。

 

 それを見た男達に女たちは修司とアッコの関係性を改めて垣間見えたのであった。

 

「さぁ早く戻ろう」

「そ、そうだな……それじゃみんな、戻るとするか」

 アッコと修司が声を発して皆もキャンプ場に戻ろうとした、その時。

「…………え?」「ん? どうしたアッコ?」

 キャンプ場に向かおうと歩き出そうとした矢先、アッコが突然ピタリと止まり固まった。

 そして彼女は徐に指を指した。

「あ、あれ……」「ん……!」

 修司も皆も、アッコの指差した方角に視線を向けた。

 

 

 霧のたちこもる森の中、指差した方には一人の人物が立っていた。

 その者は全身黒いローブを身にまとい、両手には黒い手袋。そして顔はローブについているフードを深く被っていた為、判別する事ができなかった。

 その者は有無も何も言わず、ただアッコや修司達に姿勢を向けて立ち尽くしていた。

「……お、お前は……お前は、誰だ……ッ!」

 動揺しながらもバーンズは震える口調でローブ姿の者に問い掛けると、ローブ姿の者は一歩一歩前に進みながら、まるで骨を折るような不気味な音を立てながら二・三歩歩いた。

 すると突然動きを止めたかと思うと、修司やアッコ達に向けて怪しげな台詞を、しかも口に布を押し当てたようなこもった声質で言い放った。

 

「ウンメイハ、カエラレタ……ウンメイハクルッタ……オマエタチニアルノハ、ハメツノミライ……ホロビノサダメ、ダケダ……!」

『……………………』

 

 黒ローブ姿の者が発する怪しくも不気味な発言に、一同呆然となってしまっていた。

 そんな中、修司とキーオだけが黒ローブの発言に対して微動だにせず表情を人知れず険しくさせていた。

 そして深い霧の中、黒ローブの者は森の中霧の中に姿を消して行った。

 ローブの者が消え去ると、森の中に立ち込む霧も自然と晴れた。

 

 男子達も女子達もローブの男が吐いた台詞にただただ愕然となりながらも立ち尽くしてしまっていた。

 だが、修司とキーオだけは何かを理解しているかのように険しい顔付きだったという。

 

 

 

[昼食を食べて]

 

 キャンプ場に戻った一行は、まずイサミの腕と修司の左肩の傷を手当てしたのち、皆でテーブルを囲んで男子手製のカレーを食した。

 

 しかし皆、先ほど目の前に現れた黒ローブの存在に考え込んでしまい、とても食事をする気分ではなかった。

 そんな中、アッコに肩の負傷を手当てしてもらった修司は椅子に座りながら無言でひたすらカレーを食べ続けていた。

「…………」「はむ……むぐむぐ……」

 アッコも食事が喉を通らず呆然としていたが、彼女が隣を見てみると、隣の修司は脇目も逸らさずカレーに食い付いていた。

 アッコは多少呆れながらも修司に訊いた。

「……ふぅ、ねぇ修司、貴方さっきあんな目に遭ったのに良く食べていられるわね」

「うぐうぐ、何を言ってるんだ、あんなに戦ったんだから腹減るのは普通だろうが……はぐ」

 アッコの問い掛けに対しても平然と食べ続ける修司。

 そんな時、衛が重い口を開いた。

「……な、なぁ、みんな」「うん?」

 バーンズが呟くように答えると、衛は続けて語った。

「さ……さっきのは、いったい何だったんだろうな……」

『………………』

 衛の発言に皆、顔を暗くさせ何も言えなかった。

 だがその時、天王はるかが重い口を開いて皆に話した。

「……ボク達、以前あのローブ姿に会っている事が有るよ」

「! な、なんだって!?」

 思わず立ち上がるバーンズに続き、他の男子達も目を丸くして驚愕した。

 だが、そんな状況の中修司は態度を変えずカレーを食べ続けてた。

 そして天王はるかに続き、他の女子達も口を開いて語った。

「う、うん。私たち……以前あのローブ姿の人に会った事が有るの……」

「え? そ、そうなんですか? さくらちゃん」

「ほ、本当なのさくら!」

 さくらの発言に衝撃を受ける知世と苺鈴(めいりん)。

 続いてアッコが皆に語る。

「ええ、前に……そう聖狐ちゃん達に助けられた時が有って、その時私たちの目の前にあのローブ姿の人が現れた事が有るのよ……」

 アッコの発言に場の空気が重くなって行った。

 そんな重たい空気の中、修司がカレーを頬張りながら告げた。

「もぐ……考えたって仕方がねえよ、もぐ……あのローブ野郎が何者かは解らねえが、今は取りあえず食って置こうぜ。折角俺たちが作ったカレーなんだからよ……ほい、おかわり」

 修司は空になった皿をウッズに渡すと、ウッズはご飯とカレーを皿に盛り修司に山盛りのカレーを手渡した。

 新しく盛られたカレーを再び食べながら、修司は続けて皆に話す。

「それに、いつまでも考え込んで頭ばっかり使っていたら頭がショートしてウツになっちまうぜ。どんなに考えてもあの野郎が何モンかなんて解んねえんだし、そんなに深く考えるなみんな。もしかしたらその内解るかもしれねえんだしよ」

 修司の言葉を聞き、不思議と安堵していく面々。

「……そうね。確かに考えていても分からないものは分からないんだし、考えていても仕方ないわね」

 安堵の表情で火野レイが告げる。

「そうですね……もしあのローブの人が現れたら、今度こそ皆で協力して倒したり何だりすれば良いだけですね」

「おおぅ、穏やかな性分のせつなが倒せば良いだけって、かなり意外な発言かますねえ」

 冥王せつなの発言に少し驚きながら言い返すバーンズ。

 そして笑顔に戻って行くみんなを見ながら修司が言い放った。

「そうだぜみんな。無理やり考え込んだって仕方がねえよ。今は落ち着いてのんびり腰を据えて待っていれば、もしかしたらまたローブ野郎が出てくるかもしれねえんだしよ」

「はは、そうよね……って、し、修司君? 何であのローブの人が男だって言うの? 野郎って言っているけど、顔は見えなかったわよ」 

 修司の発言を聞き、疑問に感じたレイが修司に訊くと、修司は少しばかり動揺しながら答えた。

「あ、ああ……もしかしたら男かなって、勝手に思っちまっただけだよ、アハ…………お、おいウッズおかわ……〔ゴンッ〕」

「テメエっ! それでもう5杯目だぞ、少しは遠慮しろよなッ! オレたちだって御代りしたいんだからよッ!」

 ウッズに御代りを催促しようとする修司の頭を引っ叩いてツッコむバーンズに、修司はドヤ顔で言い返した。

「何を言っている訳? 俺はだね、変身できない男たちに代わって戦ったんだよ? 少しは多めに食べさせてあげようって考えは無い訳? 変身しなきゃ何もできない奴が偉そうな事言ってるんじゃないよ」

「ウワッ、マジで殴りたくなるツラして言いやがるなテメエ……!」

「ははは、褒めても何も出せないですよバーンズ君」

「いや褒めてねえからッ! 毎度の事だけど褒めてませんからねッッ!」

 

 結局修司はその後、全部で6杯もカレーを食べたという。

 一方、仲間達は自分達の前に現れたローブ姿の存在に一抹の不安を残したまま。

 

 

 その夜。

 修司は一人、コテージ内の水飲み場に立っていた。

 彼の手元にはコップ一杯の水と何かの錠剤のPTP (press through package) 包装の束が有った。

 修司は包装から錠剤を一つ取り出し口に含ませるとすぐさまコップに入っている水を口に運び錠剤を流し込んだ。

 修司が錠剤を飲み込んだ、その時。

「おい、修司。ちょっと良いか」「……キーオか」

 水飲み場にいた修司にキーオが声をかけに来た。

「修司、話がある……」「……」

 キーオに手招きされ、修司は彼に導かれて誰もいないリビングフロアに足を運んだ。

 しかしこの時、修司は自分の手元に置いていた錠剤の包装束をそのままにしてしまっていた。

 

 そしてリビングフロアにて、キーオは修司に神妙な面持ちで話を始めた。

「修司、お前は既に気付いているかもしれないが……昼間のあのローブは……」

 話を聞く修司も神妙な面持ちでキーオに返した。

「……ああ。恐らく、あのローブは、そう……例の」

「……遂に活発に動き出して来やがったな。お前は一体どうする積りなんだ?」

「……いや、まだ準備の段階なんだ。実はチップバードがウチに来てからは奴の協力も有って予想以上に基地内部の設備増強や町の至る所に強襲されても大丈夫なようにミサイルなどの設備も出来上がっている。後は仲間の完全な招集と団結力……まだ時間が掛かるがいづれ完全な物にしていきたいと思っている」

「なに? あのチップバードに其処までの能力があるのか?」

「ああ、超獣族の技術の賜(たまもの)でな、アイツ一体でスーパーコンピューター何百億台っていう程のデータを保存できるんだよ。それに超獣族の技術も一つ残らずデータとして保存されているから、それを人間の技術力で応用できる範囲まで利用すれば、今後の俺たちにとってはかなり力になるだろう……」

「そうか……だけどよ修司。お前がこの先も集めるキャラクターが、他のキャラクターや他次元のお前と絡むとどんな結末になるか予測できないんだぞ。本当に二次元界を保つ事ができるかどうかも……」

「…………」

 修司は下を向き無言となったが、それでもキーオは話を続けた。

「お前がこの先集めようと思っているキャラ達は確か……さくらや小狼達と同じCLAMPキャラの【魔法騎士】(マジックナイト)、主に電脳世界で活躍している【コレクターユイ】を始めとする三人の女たち……そして例の兵器に改造されてしまった少女の計七人だ。まぁ、もしかしたらこの先更に別のキャラクターも関わる形で聖龍隊と共闘するかもしれないが……いづれにしろ、かなり二次元界の運命の歯車をお前は狂わせてしまっている。それは分かっているか……」

 キーオに問われた修司は閉じていた重い口を開き、彼に話した。

「……ああ、それは十分に分かっているさキーオ。何より、もう運命が狂ってしまった存在は既に多数いる……葉月聖羅、森谷りりか、そして冥王せつな……彼女達は本来なら、もう……」

「……ああ、それはそうだ。しかし、その三人だけじゃないのも分かっているよな。あくまでその三人は《消える筈だった存在》という運命だったんだからな。他のキャラとキャラを会わせたりするのはもちろん、いや他次元のお前が関わっているだけでもう運命が狂ってしまっている。……何より、アッコが……」

 キーオの口調が重くなったその時、修司がキーオに言い聞かせた。

「分かっている。何よりアッコの運命が一番狂ってしまっているのは俺にも理解できる……本来はただ面白半分に色んなものに変身するだけのあいつが魔鏡聖女なんて存在に変身しちまったのも、俺がこの次元に来ちまったのが原因なんだろ? ……薄々気付いていた」

「そうか、分かっているんだな……それじゃ修司、アッコがどんな存在、どんな二次元人かも分かっているよな」

「……」

 キーオの問い掛けに再び無言となり、更にキーオを見詰める修司。そんな修司にキーオは話し続ける。

「修司……アッコに何かあれば……三次元人のお前の介入により、アッコの存在が二次元界に直接支障をきたす様に成って来ている……もしアッコに何かあれば……他のヒロイン達にどんな影響が出るか……」

「……」

 相も変わらず無言を続ける修司に、キーオは少し口調を強くして言った。

「分かっているだろっ。アッコはこの二次元界では最も神祖に近い存在だってことを……! もしあいつに何か有ったら他の変身系のヒロインやキャラクターは……」

 キーオの話を一通り聞いた修司は、スッと立ち上がり上に向かう為の階段に足を進ませた。

「お、おい……ッ」

 階段に足を進ませる修司を呼び止めようとするキーオ。

 そんなキーオに向かって、修司は発したのだった。

「……キーオ、お前の言いたい事は凄く分かる。だが、もう運命が狂ってしまっているのは止めようのない事実なんだ。もう立ち止まる事も許されない所まで俺は来ちまった……」

「…………」

 神妙な顔で修司を見詰めるキーオに、修司は続けて発した。

「だけどなキーオ……俺は、アッコはもちろん他の二次元人も救って行きたいんだよ。これは本当に俺のワガママみたいなもんなんだけどな、俺はこの世界の素晴らしい連中をどうしても助けていきたいんだよ……俺と違い、心の美しい素晴らしい存在を……俺は後世まで残して行きたいんだよ……」

「し、修司……」「フッ……」

 修司は最後に小さく微笑むと、そのまま二階に上がって行った。

 キーオは一人、その場に立ち尽くしてしまっていた。

 

 

 一方、此方は女子側のコテージその就寝部屋。

 女子達は昼間の一件の事もあり、いち早く就寝の準備をして寝付こうとしていた。

「……ふぅ~、今日は色々と災難だったわ」

「そうね、まさか変身が出来ないなんて……」

 疲れた表情で溜息をつく美奈子に続き、ハニーも思い詰めた表情で呟く。

「それにしても……あのローブ姿の人は、一体何者なんでしょうか……?」

 布団の上に腰を据えながら思い更けるせつな。

「ほんと……あれは一体……」

 下を俯き悩み更けるアッコ。

 そんな時………………

「……ん? 知世ちゃん、何をさっきから見ているの?」

 さくらはビデオカメラに見入っている知世に声をかけた。

「あ、さくらちゃん。いえね、私が昼間に撮影したビデオのチャックをしているんですよ。修司さんの活躍もバッチリ撮れているか確認しておきたいですし、何よりあのローブの人を写したシーンに何らかの手掛かりが有るかも知れませんしね」

 笑顔でさくらに答える知世は例の黒ローブ姿を撮ったシーンに映像を停止させた。

 だが。

「……あ、あれ? 可笑しいですわ」

「ん? 何が可笑しいの知世ちゃん」

 訊ねるさくらに知世は答えた。

「い、いえ……何故なのか分からないのですが、黒いローブの人の姿を撮ったシーンだけ何故か酷くボヤけてしまっているんです」

 知世に言われて皆ビデオの映像を見てみると、確かに黒ローブが映ったシーンはボヤけていてローブ姿はハッキリと映ってはいなかったのだ。

「な、何故こんなに荒れているんだろう……別にビデオの調子が悪い訳じゃないんだし……」

 ビデオを見て木野まことが口を開くと知世は別のシーンに映像を切り替えた。

「ほら見てください、森に入ってからでは綺麗にみんなの映像がしっかり撮れているんですけど……え、な、なぜ……」

「ん? どうしたんですか知世さん」

 土萠ほたるが知世に訊ねながらビデオに目をやると、其処には異様な映像が映っていた。

「……え。な、何でこんな…………」

 ほたるに続き他の女子達もビデオに見入った。

 ビデオに映っていた映像には、何故か女子達の顔が全員歪んでおり不気味な容姿に見えてしまっていたのであった。

「こ、これは一体……」

 動揺するハニーに知世が動揺しながらも言った。

「ど、どうも、途中からみんなの顔がこんなに歪んでしまっているんです……そ、そう、確かあの時、霧が出て来たところから皆さんこんなに顔が歪んでしまっているんです……」

「き、霧が出た時から!?」

 知世の発言に驚く海王みちる。

 そして知世は更に映像を進めてみた、その時。

「きゃああっ!」

 突然知世が悲鳴を上げ、思わず手にしていたビデオを放り投げてしまう。

「ど、どうしたの? 知世ちゃん」

 心配になって駆け寄るアッコに、知世は震える指でビデオを指しながら震える口調で言った。

「……あ、あ……あの……」「? …………」

 ただならぬ知世の顔付きに動揺してしまうアッコは、恐る恐るビデオを手に取り映っている画像を目にしてみた。

「……! え……っ!」

 其処に映っていたのは紛れも無くアッコ自身の姿であったのだが、他の女子達が顔が歪んでいる中、自分だけは顔が歪むどころかまるでバラバラに砕かれたかのような奇形な顔付きになっていた。

 これを見たアッコ、そして他の女子達は顔を蒼褪めた。

 更にこの時、映像を見た花丘イサミが蒼褪めた顔を引き攣らせながら口を開いた。

「ね、ねぇ……みんな……そ、その画像の、アッコさんの奥の、木の陰に……」

 イサミに言われ、再びビデオの画像に注意深く凝視すると。

 

 

 木の陰に、此方を見詰めている黒いローブ姿の人物が立っていた。

 

 

 

 

[いざ帰ろう]

 

 翌朝、皆はコテージを発つ為いろいろと大忙しで有った。

 部屋は綺麗に掃除をし、ゴミは全てお持ち帰りする為に一つに纏めていた。

「ふぅ……メンドイなぁ……」「サボるんじゃないぞ」

 面倒臭がる修司に喝を入れるバーンズ。

 そして男達が着々とコテージを出る準備をしている、その時。

「……ん? これは……」

 水飲み場を掃除していた衛の目に、錠剤の包装束が入った。

 

 

 そして皆バスに乗り込んでいく中、修司は女子達の疲労しきった顔を見て声をかけた。

「おいどうしたんだお前等? そんなに暗い顔しやがって」

 これにアッコが疲れ切った顔で答えた。

「それが……昨日ちょっとね、みんなでホラーな話をしていたから、あんまり眠って無いのよ……」

 アッコは昨晩、知世の撮ったカメラに映り込んでいた自分達の歪んだ顔や黒ローブ姿の事は上手く伏せ、修司に苦笑しながら答えた。

 すると修司は真顔で平然と言い返した。

「えっ、ホラ話? どんなホラ話したんだ? うさぎがテストで満点を取った事? りりかが珍しくドジしなかった事? さくらの背が一気に伸びた事? お前の胸がでかくなったって事?」

 完全に【ホラ】では無く【ホラー】と聞き取れた上で小馬鹿にする発言を口にする修司にキレるアッコではあったが、睡眠不足なため怒る気にもなれなかった。

 

 そしてコテージを発とうとする間際。

「皆さん、もう大丈夫ですか? 出発しますよ~~」

 運転服のウッズが皆に声をかけた、まさにその時。

「あ、ちょっと良いか? 今朝掃除していたら水飲み場の所に何かの錠剤の束が置かれていたんだが……」

 地場衛が錠剤の束を高く持ち上げみんなに見せ付けた。

「衛さん……その薬……」

 亜美が訊ねると衛は錠剤の包装に記載されている薬名を読んでみせた。

「んっとな……ま、マイスリーって包装のラベルには記載されてるな」

「え? マイスリーですって?」

 薬の名を聞いた亜美は半ば驚いた。

「ん? 亜美ちゃん、マイスリーって何なの?」

 うさぎが亜美に訊くと、亜美は薬について説明した。

「ええ……確かマイスリーって一種の睡眠薬……いえ睡眠薬よりは効力が弱い睡眠安定剤の一つよ。寝付けが悪い時や不眠症の時に、就寝前に飲む薬だった筈よ」

「ふぅん……って誰だ? この薬を落とした張本人は?」

 衛がバス内の皆に大声で訊ねる中、修司は正直に名乗り出す事ができずにいた。

 そんな修司の気持ちを汲み取ったのか、衛に向かってウッズが名乗りを上げた。

「あ、衛さん。実はその薬、私の何ですよ」

「え、ウッズの……?」

「ええ、お恥ずかしながら、最近少し寝不足でして……」

 少し照れくさそうな仕草をしながらウッズが言うと、衛はウッズにマイスリーの錠剤束を手渡した。

 錠剤を渡されたウッズに修司がアイコンタクトでウッズと意思疎通した。

(済まねえウッズ……)(いえいえ、手慣れておりますよ)

 

 そしてウッズはバスを走らせ、一路アニメタウンに帰路を向かわせた。

「……ふぅ、それにしても……あのローブの奴は一体誰だったんだろうな……」

「ああ、結局分からずじまいだな……」

 地場衛と早見青児はローブ姿の者について神妙な面持ちで考え合っていた。

「ねぇ、知世ちゃん。昨日、あなたが撮ったあのビデオは……」

「え、ええ。今は皆さんには話さないで置きますわ……」

 木野まことは知世に昨晩、皆で目を通したビデオの映像について今は伏せておこうと結論を出した。

「ふぅ……ねぇ修司、昨日はともかく結構楽しめたでしょみんなとの旅行」

「…………まぁな」

 アッコの問い掛けに修司は無愛想な面構えで返事をした。

 

 と、その時。

 コテージを離れしばらく森の外側をバスが走行中の時であった。

 肘をつき頬に手を当ててバスの車窓から外を眺めていた女子たちの目に驚愕の光景が映った。

 

 自分達が乗車しているバスをじっと見つめる黒ローブ姿が女子等の目に入った。

「!! ちょ、ちょっと止めて!」

 突然声を上げてバスを制止するように叫ぶ女子の一人であるレイの声に驚く車内、そしてウッズが車を急停止させ女子達が再びローブ姿が立っていた所に目を移すと、其処は誰もいなかった。

「い、今のは……」「……」

 言い知れぬ不安と恐怖で心細くなった女子達は顔を蒼ざめさせた…………。

 

 

 

 

[嵐を呼ぶ幼稚園児]

 

 そして一行は一抹の不安を感じたまま、アニメタウン近くまで来ていた時。。

 バスを走らせていると公道の端っこで何やら自家用車が停まっており、一人の男が車の前方部分を開けてエンジンを覗きこんでいた。

「あれ? あの車……」

 バスを運転しているウッズの目にその男の姿が止まると、ウッズは迷わずバスを停めて男に話しかけた。

「こんにちわ、どうしましたか?」

 訊ねてみると男は困り果てた顔でウッズに訳を話した。

「あ、どうも。実は車のバッテリーが上がってしまって……どうしようもなくて……」

 訳を聞いたウッズは笑顔で男に言った。

「そうでしたか、それは災難でしたね。宜しければウチのバッテリーから電気を少し分けましょうか?」

「え、良いんですか?」

「ええ良いですとも。修司様、少し時間が掛かりますが大丈夫ですよね」

「ああ、大丈夫だぜ」

 修司は無愛想ながらもウッズに返事した。

「いや、ありがとうございます!」

 ウッズの言葉を聞き、男は笑顔で礼を述べた。

 その時、車の中から女性が一人出て来て顔を見せて男に訊いてきた。

「あなた、どうしたの?」

「おお、みさえ。バッテリーの電気を分けてくれるって」

「ええホント? どうもありがとうございます」

 車から出て来た女性もウッズに礼を述べた。

  

 そしてウッズがバスのエンジンからコードを引っ張り、男性の車のバッテリーと繋げて電力を補充させてあげていた。

 この時、バス車内の修司と車から出て来た女性の目と目が合った。

 そして女性は思わず声を上げた。

「え……う、うわぁ!」

「! な、なんだよみさえ。急にでっけえ声なんか出しやがって……」

 突然声を上げる女性に驚き、男は女性に訊いてみると女性は半ば驚いたような顔で男性に告げた。

「だ、だって貴方! ば、バスん中にウチの市長の小田原修司が乗ってるのよ!!」

「な、何だって!?」

 女性の発言に男も驚愕した。

 自分の顔を見て騒ぐ女性に、修司はバスから出て顔を見合わせた。

「どうもこんちは。アンタ等、俺の町の者かい?」

 修司が訊ねると二人は腰を低くして名乗り始めた。

「どうも市長さん。私(わたくし)かすかべ区に住んでおります野原ひろしと云うものです」

「その妻のみさえです。本当に車のバッテリーは感謝しております」

「いえいえ、それはウッズの意思なんですから俺では無くウッズ本人に言うべきですよ」

 三人が話をしていると、車の中から一人の男児が出て来た。

「ねぇねぇ母ちゃん、なんで年下のお兄さんなんかに頭下げているの?」

「あ、しんのすけ。この人はただのお兄さんじゃないのっ、ウチの町の新しい市長になった小田原修司さんよ、ご挨拶なさい」

 女性は男児に告げると、男児は修司の顔を見詰めながら挨拶と共に自己紹介をした。

「ふぅん……初めまして、オラ野原しんのすけ5才、好きな食べ物はおネギたっぷりの納豆ごはんだゾ」

「あ、初めまして、市長の小田原修司だ。よ、宜しく……」

 男児につられ思わず自分も頭を下げて名乗ってしまう修司。

 そんな時、バスから他の女子達も降りて来た。

「こんにちは」「初めまして」

 笑顔で挨拶を交わす女子を見て、男児は目をキラキラと輝かせて女子に話しかけて来た。

「おおぉ、キレイなお姉さんだゾ……は、初めましてお姉さん方! お、オラ野原しんのすけと云います! 今回はウチのひろしのドジに巻き込んでしまってホントっ、申し訳ありませんでした! よ、良ければお詫びのしるしに今度お茶しませんかッ」

「って悪かったな! 俺だってまさかバッテリー切れになるとは思わなかったんだよッ」

 男児の発言に声を上げる男性。しかし次は男性の方が不抜けた面構えになって女子に話しかけて来た。

「い、いや~~、どうもスイマセンほんとに。どうでしょうか、バッテリーのお礼に今度一緒に食事でも……」

「ゴッホン」『ウ゛ッ』

 その時男性と男児の後ろにいた女性は大きな咳をわざとらしく出すと、男と男児はギョッと驚いた。

 そして〔ごんっ、ごんっ〕

 男性と男児の頭に女性は殴りつけ、二人の頭にはでっかいタンコブが湯気を出しながらできていた。

『……………………』

 そんな頭に大きなコブを作っている二人を見て愕然となる修司たち。

「だ、大丈夫ですか?」

 思わず心配したアッコが二人に話しかけると、男児は再び平常の顔付きでアッコに話し出した。

「おお、将来とても美人になれそうなお姉さんですなぁ。将来が楽しみですのぉ」

「あ、あらヤダぁ。そんな、美人になれそうだなんて……こ、これ以上キレイになったら、私、どうしよう♡」

 言われたアッコは思わず頬を赤くさせたが、男児は更に続けてアッコに告げた。

「う~~む、しかし胸の大きさはこの先どうなるんでしょうかねぇ? このまま変わらずか、はたまたちゃんと成長できるんでしょうか、悩みどころですなぁ」

〔ピキッ〕『ギクッ』

 男児の一言にアッコの中で何かに罅が入った。そして修司や仲間達は一瞬で顔色が変わったアッコに酷く動揺してしまう。

 アッコは怒りを感じていたのか、拳をプルプルと震わせていた。

「ん? どうしたのお姉さん震えちゃって……あ、そうかお便秘ですなぁ。いけませんぜ若い子が便秘なんて、ウチのみさえ何かしょっちゅう便秘になってはピリピリしちゃって……お姉さんも体には気を付けなさい」

 顔色の変わったアッコに男児は続けて話すが、アッコの態度や様子は一向に変わる気配は無く仲間達はゾッとした。

 そんなアッコにバーンズが静かに話しかける。

「あ、アッコ……相手は子供何だし、耐えろよな、うん……」

 話しかけられたアッコは暗い面持ちでバーンズに顔を向けた。

「……」

 無言でバーンズを睨むように見るアッコに、バーンズは再度話しかけた。

「な、なぁアッk……」〔ガシッ〕「! え!?」

 アッコは突然バーンズの胸ぐらを掴むとそのままバーンズを地面に押え込み、もう片方の左手でバーンズの腹を悲痛な心情を口にしながら殴り付けた。

「そんなこと私だって分かっているわよッ!」「ぐはっ」

「私だって子供相手には良識ぐらい持っているわよッ!」「ぐふっ」

「でも気にしているんだからね、私はッ!」「ごほッ」

「どうせ私はみんなと違って胸は大きくないわよッッ!」「がはっ」

「私はどんだけ胸の事気にしながら生きて行かなければいけないのよッッ!!」

「ごばっ……」

 執拗に胸に対するコンプレックスを口にしながら、涙目でバーンズの腹を殴り続けるアッコを見た女子達や男子達は次第に蒼褪めていき、思わず火野レイが一言呟いた。

「い、いつものアッコちゃんじゃない……」

 しかし周りの男子や女子が蒼褪めていく中、男児である野原しんのすけは呆然となりながらも心の中で思っていた。

(……あ、アレ? 可笑しいゾ……オラ、この光景、見慣れているゾ……)

 そしてそんなアッコの様子を見ていた修司も内心嘆きながら思っていた。

(ウウゥ~~……アッコ~~、それ完全にネネちゃん化しちゃってるよ~~……バーンズが殴られうさぎになっちゃってるよ~~)

 

 

 そんな状況を横目で呆れながら見ていたキーオは人知れず思っていた。

(あ~~あ、こんな連中でホントに大丈夫なのかねぇ? この先、本当に二つの次元を護れるのかねぇ……)

 

 

 その後、聖龍隊の皆は無事にアニメタウンに帰れましたとさ。

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