【聖龍伝説:第二章】英雄達の日々 作:セイントドラゴン・レジェンド
難産を経験してしまった女性の心情を自分なりに表現しております。少しでも女性の助けになれるお話で有れば良いのですが……。
[心満ちる聖女]
時は九月
この日、夏休みが終わったばかりのツバメ学校では。
「うふふ……うふ……」
何故か朝から満面の笑みを浮かべっ放しのアッコの表情が修司の目に入りっぱなしだっだ。
「……どうしたんだアッコ? もう朝からずっとその調子だけどよ」
変に笑顔に成りっ放しのアッコに疑問を感じ、修司が訊ねると彼女は修司に満面の笑みを見せつけながら答えた。
「あ、修司。だって嬉しいんだもん」
「? 何がだ? 何か有ったのか?」
思わず眉を吊り上げて不思議がる修司に、アッコは訊いた。
「へへ、忘れちゃった? もうすぐ私の誕生日なのよ」
「……ああ、そう云えばそうだったな」
話を聞いた修司はポカンとしながらアッコに答えた。
そんな修司の顔を見て、アッコは修司に強めの口調で訊いた。
「って何よ、修司は私の誕生日は嬉しく思ってくれてないの?」
「い、いや、そんな事は無いが……でもたかが誕生日ぐらいでそんなに嬉しがるなんてよ……」
修司が言うとアッコは笑顔で平然と言った。
「あら、嬉しいのは当然でしょ。家族や周りの人が自分の生まれた日を……生まれて来てくれた事を感謝して祝ってくれる大事な日なんだから」
「祝ってくれる…………ねぇ」
アッコの言葉を聞いた修司の顔は無愛想ながらも、何処かしら暗鬱な表情をしていた。
その時、アッコの親友の浪花モコが近づいて来てアッコに訊いた。
「ねぇアッコ、今年の誕生日もやっぱアッコの家でやる積りなの?」
モコの問い掛けにアッコは笑顔で答える。
「うん、そのつもりよ。今年はキーオも呼んでみようかなって思っているわ」
「え、キーオが♡あ、それじゃ私もその日は目一杯おめかしして行くわね♡」
【キーオ】と云うフレーズを聞いたモコは表情を一変させて喜んだ。
この時、修司は人知れずアッコに対して言い知れぬ感情を馳せていた。
[友からの気持ち]
後日、修司の家に集まった聖龍隊の面々がアッコにささやかながらの誕生日会(少し早いが)を開催していた。
「アッコちゃ~~ん!」
「少し早いけど誕生日おめでとう~~!!」
大きな声でパーティの開催を告げる言葉を放つうさぎと美奈子。
アッコは大きな声に若干引きながら二人を始め、皆に礼を述べた。
「あ、あは……あ、ありがとうございます。皆さん……」
そして女子達は各々アッコに誕生日の贈り物を手渡して行った。
「はい、アッコちゃん」「少し早いけど、おめでとう」
「此方こそ、ありがとうございます、レイさん、亜美さん」
「はい、うさぎちゃんと私からはこれね」
「うわぁ」
美奈子から綺麗な包装で包まれた箱を受け取り、アッコは目を輝かせた。
「あ、アッコさん。これは、私とほたるちゃんから……」
「き、気に入ってくれると良いんですが……」
ちびうさとほたるも小さいながら包装されている箱をアッコに手渡した。
「うふ、大丈夫よ。二人ともありがとう」
小さい二人から小さい箱を受け取ったアッコは穏やかな笑みを浮かべていた。
「私とみちるさんからはこれ、皆もいっぱい食べてね」
木野まことは海王みちると協力して大きなデコレーションケーキを運んできた。
「うわぁ、大きい」
「それにデコレーションも立派!」
「カワイイ飾り付けですね」
花丘イサミ、森谷りりか、木之本桜もケーキの飾りつけに興奮した。
「アッコちゃんおめでとう」「おめでとう」
如月ハニー、葉月聖羅姉妹も笑顔のアッコに祝福を言う。
「うわあぁ、みんなありがとう」
満面の笑みでアッコは皆に礼を言った。
「………………」
しかし、皆とは離れた場所に立っている修司はアッコや皆の会話の中には入ろうとはしていなかった。
「? 修司、君はアッコちゃんに何かプレゼント渡さないのかい?」
無言でしかも無愛想な顔で立っている修司にデューイが話しかけると、修司は横目でデューイを見ながら戸惑う様に発言した。
「あ、ああ……そ、それは……」
修司が戸惑っているとアッコが代わりに話した。
「あ、デューイさん。修司の方はちゃんとした誕生日の時ウチに呼ぶから、その時に渡してくれるんで大丈夫です」
「あ、そうなのかい。修司は良いね、ちゃんとした誕生会に呼ばれてさ」
アッコはこのデューイの発言に続き、実に申し訳無さそうな表情で皆に言った。
「ごめんねみんな、私も本当はみんなを呼んであげたいのは山々だけど……」
この発言を聞きバーンズがすかさずアッコに言う。
「別に良いさアッコ、言っちゃなんだがこんな大所帯がお前ん家に行く方が返って迷惑になっちまうだけだし、誕生日本番は家族やお前のクラスメイトだけで楽しくやってれば良いさ」
「うん、ごめんね……ま、それでもこうして前日にみんなが誕生日開いてくれて私は凄く幸せよ」
バーンズに言われ、本当に幸せそうな笑顔を浮かべるアッコ。
この時、ケーキをテーブルに置いた木野まことが思わずポロリと口を零した。
「……アッコちゃんは良いよね、自分の誕生日を祝ってくれる家族が居て」
木野まこと、彼女は幼少時に両親を事故で亡くしており、現在は一人暮らし。
そんな彼女に側で立っていた修司が重い口を開いて彼女に言った。
「まこと、別に家族が居る居ない関係ねえだろ、自分の誕生日を祝ってくれる奴が一人でもいれば、それだけで十分じゃねえか……家族が居ても必ず祝ってくれる訳でもないんだからよ」
「え……?」
修司の発言に思わずキョトンとするまこと。
そんな二人の会話を尻目に、アッコは大量のプレゼントを目の前に切り分けてもらったケーキに舌鼓しながら一言発した。
「うふふ、友達が多いと誕生日も何度も味わえるから良い気分ね」
「!」
このアッコの言葉を聞き、彼女を見ていた修司の何かが切れた。
「……」「ん? おい修司、何処に行くんだ?」
突然部屋を出ようとする修司にバーンズが声をかける。
「……ちょっと、気分が悪いから部屋で休む」
返事をする修司の顔は何処か暗鬱な表情であった。
「し、修司、大丈夫? 少し顔色が悪いわよ……」
修司の顔色を見て心配したアッコが声をかけるが、修司は俯いたまま無愛想に返事した。
「……大丈夫だ」
「ほ、ホントに大丈夫? 今にも倒れそうな位顔が蒼いけど……」
「大丈夫だって言っているだろ!!」「!」『!』
修司を心配して声をかけるアッコだが、修司はそんな彼女にいきなり声を上げて怒鳴る。
アッコはもちろん、他の面々もそんな修司に驚いた。
「し、修司……」
突然怒鳴られ動揺してしまうアッコに修司は小さい声で呟いた。
「……済まない、少し一人にさせてくれ」
そう言って修司はアッコや誰とも視線を合わようとせずリビングから去っていった。
「ど、どうしちゃったんだろう……修司君」
突然豹変した修司の態度にまことはもちろん全員が驚き唖然としてしまった。
そしてアッコ自身もいきなり自分に怒鳴って来た修司の言動に戸惑いながらも、修司の心情を気にかけていた。
修司はそのまま部屋に駆け込むとベットの上に腰を下ろし一人頭を抱え塞ぎ込んだ。
この時の修司の顔は何とも言えない苦悶に満ちた禍々しい表情だった。
[母に愛されて]
後日、アッコの誕生日当日。
毎年来てくれる親友のモコや大将、ギョロ・ゴマ・チカ子、そして大将の弟の少将やドラ、更には転校生である姿桐男ことキーオを招き、アッコは誕生会を自宅で開いた。
しかし修司だけは何故かアッコの誕生会に姿を見せていなかった。
「まったく、修司ったら一人だけ遅れてくるなんてさ」
「ああ! せっかくアッコが呼んでくれているって言うのによ」
遅れてくる修司に愚痴を言うモコと大将。
そんな二人にアッコが言った。
「まぁまぁ二人とも、私は別に気にしてないわ。修司だってちゃんと来てくれる筈よ」
そんなアッコを神妙な面持ちでキーオが見つめていた。
その時。
「……遅れて済まない」
少し暗い表情で修司が遅れて部屋に入って来た。
「あ、修司」
修司の顔を見て喜びの表情を浮かべるアッコ。
だがモコや大将は遅れて来た修司に不満をぶつける。
「修司! アッコの誕生日に自分だけ遅れてくるって、どういうつもり!?」
「まったくだぜ! アッコはお前が来るまでロウソクに火を付けるの待ってようって言ってくれていたんだぞ!」
二人に怒鳴られながらも、修司は何も言おうとはしなかった。
そんな二人を宥める様にアッコが優しく宥める。
「二人とも、そんなに怒鳴らなくても良いわよ。修司はちゃんと来てくれたんだから。それじゃ、修司も来た事だしパーティー始めましょっ」
アッコは笑顔でその場にいる皆にパーティーの開始を宣言し、通常通りに誕生会を進行して行った。
そしてケーキのロウソクの火をアッコが吹き消し、皆に切り分けられたケーキが手渡されると今度は皆がそれぞれアッコにプレゼントを手渡して行った。
「…………」
修司はいち早くケーキを食べ終わり、部屋の隅っこで壁に寄り掛かりながらプレゼントを手渡されてるアッコを遠目で見ていた。
「はいアッコ、誕生日おめでとう」「ありがとうモコ」
一番仲の良いモコから受け取ったアッコ、二人は互いに交じりっ気なしの満面の笑顔でを浮かべてた。
「あ、アッコ、お、おめでとう……ほ、ほらよプレゼントだ。ありがたく受け取れよ」
「はいはい、大将もありがとう」
少し頬を赤くしながらアッコにプレゼントを渡す大将にアッコは笑顔で返事をした。
そしてモコはアッコにプレゼントを手渡すと一目散にキーオの所に駆け寄り、彼に話しかけた。
「キーオ、まさか貴方がアッコの誕生会に来てくれているなんて……♡」
「あ、ああ、まあな……」
目をハートにしながらキーオに言い寄るモコに軽く対応するキーオ。
そんな最中も、修司は一人部屋に片隅にジッとしていた。
「……修司」
家に来てからほとんど会話をしようとしない修司に良い様のない不安を感じるアッコ。
(あの日から修司は、余り話してくれない……何か気に障る事しちゃったのかな……)
以前、修司の家で彼が激怒して以来、双方共にまともに会話をしてはいなかったのだ。
その時、家の奥から声が聞こえて来た。
「アッコ~~、ちょっと来て手伝ってくれる?」
アッコを呼ぶ声は、彼女の母親である加賀美恭子であった。
「え、は~い、今行く。みんな、ちょっと待ってて」
母に呼ばれてアッコは部屋を出ていった。
アッコが部屋を出ると同時に、キーオは一人立ち尽くす修司に話しかけた。
「おい修司、一体どうしたんだ? アッコお前の事気にしていたぞ」
キーオはアッコが修司の様子を心配していた事を修司本人に伝えた。
だが修司は無愛想な表情を変えず、ただ無言であった。
そんな修司に愛想を尽かしながらも、キーオは告げた。
「……なぁ修司、お前とアッコに何があったのか知らねえが、アッコの方はお前の事を凄く気にしているんだ。せめてその後手に持っているプレゼントぐらい渡してこいよ」
キーオの視線の先には、修司の背中にまるで隠し持っている様に修司が手にしている小さな包み箱であった。
「……」
「ほら行ってこいよ。アッコの事だから笑顔で受け取ってくれるだろうよ」
キーオに言われ、修司は暗い面立ちのままアッコの所に行った。
その頃、アッコは母親の手伝いをしながら母と会話していた。
「まったく、ママもいい歳なんだからこんな重たい物一人で運ぼうとしないでよ」
「えへ、ご、ごめんねアッコ、手伝わしちゃって……」
母親の恭子は腰に手を当てながらソファーに座りこみアッコに言う。
どうやら仕事で使う機材を一人で移動させようとした際、思わずギックリ腰になってしまったようだ。
「はい、と……これでもう良いわね。それじゃ私はみんなの所に戻るわね」
そう言ってアッコが母親の作業場から出ようとすると、母はアッコを呼び止めた。
「あ、待ってアッコ」「ん? なぁに?」
突然呼び止められるアッコ、母は彼女に手招きしながら呼び掛ける。
「ちょ、ちょっと良いかな……」「ん?」
ポカンとしながらもアッコは母に歩み寄る、すると母は突然アッコの腕を引っ張り彼女を半ば強引に座らせた。
「え? ま、ママ?」
突然の母の行動に驚き動揺するアッコ。
そして母親は隣にアッコを引き寄せると……優しく、だが同時に力強くアッコを抱きしめた。
「……ま、ママ……?」
突然の母親の行動に驚くアッコ。母親はそんなアッコに優しく話した。
「……良かったわねアッコ。あなたはこんなにも周りから愛される子に育って……ママは幸せよ」
「! ま、ママ……」
突然母親の口から飛び出す言葉に驚愕するアッコ。
しかしこの時、アッコは母親に抱き付かれたうえ、母からの言動で呆然としてしまった為に開きっ放しになってい部屋のドア前に立ち尽くしている修司に気付かなかった。
そしてアッコを抱きしめる母親の加賀美恭子は、更にアッコに優しく語り続けた。
[産まれてくれて]
「……アッコ、本当にありがとう」「え?」
突然自分に礼を言いだす母の言動にアッコは目を丸くした。
母は続けてアッコに涙声で悲痛ながらも優しい口調で話し続けた。
「本当にありがとう……ママ、最初は怖かった。……産まれても……産まれても、またすぐに死んでしまったらどうしようって……」
「! ま、ママ……!」
アッコには母親の言葉の重みが痛いほど伝わった。
実はアッコの母親はアッコを産み落とす前に、一度女児を出産していた。そう、アッコにとっては姉にあたる子供だった。
だがその女児は未熟児の状態で産み落とされ、生後たったの三日で死んでしまったのだという。
アッコ本人も既にこの事は話に聞いていたので今母親が自分に聞かせてる言葉の重みが心に深く突き刺さる様に身に沁みていた。
母親は更にアッコに優しく語った。
「本当はママ、あなたをお腹に宿した時、すごく不安でしょうがなかった……ママね、本当は最初の出産の時からずっと思ってたの。……二度と妊娠したくない、子供なんて欲しくないって……!」
「!? ……え?」
母親の言葉に愕然となるアッコ。ふとアッコが母親の顔に視線を向けると、いつもの陽気で明るい母親の目から涙が零れているのに気付いた。
「ま……ママ……」
涙目の母親の顔を見たアッコは驚愕すると同時に、とても居た堪れない心境になった。
母親は更に続けてアッコに真意を伝える。
「最初の出産ですぐ死んでしまったあなたのお姉ちゃん……あの子が死んだ後、ママは凄く辛かった、死んでしまった子に凄く申し訳なかった。せっかく産まれて来たのに、母親なのに何もできない間々死なせちゃって……私は子供なんて産んじゃいけないのかな……自分の子供すらまともに産んであげられないダメな人間なのかなって、何度も思っちゃったの……。アッコを妊娠した時は、正直喜びよりも不安で胸がいっぱいになって、不安で不安で……正直こんなダメ親が妊娠しても良いのかなって、自分を責め続けたわ……」
「! ま、ママ! そんな……ダメ親だなんて……!」
一度目の出産で死んでしまった娘を想い、自分を責め続けていく母親。自分をダメな親と自負する母親の言動にアッコは愕然とし、そして同時に深く悲しんだ。
そんな母親は、涙目のまま表情を穏やかな笑顔にしてアッコに話し続ける。
「……でもね、アッコが無事に……元気な女の子でお腹から出て来て、その後も何事も無く元気にすくすく育ってくれて……。ママ本当に良かったって思えた、アッコを産んだ事、アッコの母親である事を、ママは誇りに思えたの」
「ま、ママ……!」
母親の悲痛ながらも喜びに満ちた発言に、アッコは胸が張り裂けそうなぐらいの衝撃を受けた。
「そんな……そんなアッコが今でも元気に、そしてたくさんのお友達に愛される子に育ってくれて、ママはもう何も言う事は無いわ。誰にでも優しく、そして誰にでも笑顔を振りまいてくれる……アッコ、あなたはまさにママにとっての希望なのよ……」
「ママ……」
「アッコ、産まれてくれて……ママの子として産まれてくれて、本当にありがとう……!」
「ママ……うっ……」
母親の涙ながらの言葉を聞き、アッコの目頭は自分の意志とは反対に熱くなり、遂にはアッコの目から一粒の涙が零れ出てしまった。
親子は互いに抱きしめ合った。
親は優しい子を産め、無事に育ってくれた事を。
娘は自分を誰よりも愛してくれる親の子供として産まれて来れた事を。
互いに深く感謝しつつ、時を忘れて抱きしめ合った。
このとき、アッコの心情は感無量なほど感化していた。
母親が自分に言ってくれた、自分の、母親としての感謝の言葉を、そして思いに。
[妬みの眼差し]
母親と抱き合っている、まさにその時。アッコはふと自分に向けられる異様な視線に気づいた。
アッコが徐に閉じていた目蓋を開けて見ると、彼女の目に入って来た眼差しに、アッコは愕然とした。
何と部屋のドア前に修司がおぞましい程の険しい顔付きで立っていた。しかも彼の眼光は異様な眼差しで、アッコ本人を睨みつけていた。
まるで激しい嫉妬に満ちた、異様なまでの眼光で修司は母親と抱き合っているアッコを睨み続けていた。
「…………」「……!」
修司の異様な表情を見入っていたアッコ、だが修司はアッコと視線が合うとハッと気付いたのか、逃げるようにその場から早足で去っていった。
「(し、修司……!)ま、ママ、ちょっとごめん……」
「あ、アッコ……?」
自分を抱きしめてくれている母親の腕を振り解き、アッコは部屋を飛び出した。
すると部屋を飛び出した所に、足元に小さな包み箱がくしゃくしゃに握り潰されて放り捨てられていた。
アッコは包み箱を拾うと、すぐさま親友達が居るリビングに足を急がせた。
そしてリビングに駆け込むと、アッコは部屋を見渡してみた。だが修司の姿は何処にも無かった。
「あ、アッコどうしたの? 突然部屋に飛び込んできて……」
リビングに飛び込む勢いで入って来たアッコに目を丸くして訊ねるモコ。
アッコはそんなモコに訊ねた。
「も、モコ! 修司は……修司見なかった?」
焦った口調で訊ねてくるアッコに軽く動揺しながらも、モコは答えた。
「え、修司? さ、さっき部屋を出て行ってから見てないけど……」
モコの答えを聞き、困惑してしまうアッコ。
その時、玄関の方から物音が聞こえた。アッコはすぐに玄関の戸が開いた時の物音だと云う事に気付き、急ぎ玄関に向かった。
「あ、アッコ!」
モコの呼び止めも耳に入らず、アッコは玄関の床を見渡した。
するとアッコが見慣れている修司の靴だけが無くなっていた。
「し、修司……!」
アッコは急ぎ自足の靴を履き、玄関を飛び出した。
そして自宅前の道路の真ん中で左右を見回してみたが、既に修司の姿は無かった。
「……修司」
さっき修司が自分に向けていた異常なまでの嫉妬や憎悪に満ち溢れた眼差しにアッコは動揺し、そして居た堪れない心境に陥った。
そして彼女は徐に、部屋の前で拾った握り潰された包みに目をやった。
箱にはくっきりと手形が残っているほど、強く握りつぶされていた。
アッコは徐にくしゃくしゃの包装紙を開き、そして潰れてしまっている箱を慎重に開けて中を覗いてみる。
すると、中に入っていた物を見てアッコは驚いた。
彼女は箱に入っていた物を手に取り、それをジッと見つめた。
[己に向ける憎悪]
一方修司は、アッコの家を飛び出してそのまま自宅の自室に飛び込む勢いで入ったきり誰とも顔を合わせようとはしなかった。
「お、おーーい、修司ーー、どうしたんだよ、おーーい」
部屋に入りっ放しの修司を気にしてバーンズが声をかけるが、返事は無かった。
「……おーーい、修司……てわっ、何だよウッズ」
部屋に声をかけるバーンズの手首をいきなり引っ張るウッズは、バーンズに言った。
「バーンズさん、何があったか解りませんが、今の修司様には何言っても意味がありませんよ。しばらくそっとしておいた方が……」
「うむ……」
「……それに、修司様の部屋は完全な防音ですから、部屋の外でいくら怒鳴っても部屋の中に声は届きませんよ」
「えッ? そ、そうなの……?」
思わず目を丸くして驚いてしまうバーンズ。
そんな時。
「ごめんくださーーい、ウッズさん居ますか?」
「え、今の声……」
玄関からウッズを呼ぶ声、それは紛れも無くアッコの声だった。
ウッズは玄関に足を運び駆け付けると、其処にはアッコが立っていた。
「あ、アッコさん。どうしたんですか? 何か……」
ウッズがアッコに訊ねると、彼女は思いきった様子でウッズに頼んだ。
「……ウッズさん、修司と話させてください。お願いします!」
そしてアッコは突然ウッズに頭を下げた。
ウッズは動揺しながらも、アッコの言動を見て何かを悟った。
そして
「分かりました、どうぞお上がり下さい」「ありがとうございます」
ウッズはアッコを家に上げ、そして修司の部屋の前まで連れて来た。
「……それではどうしましょう。内線電話で直接修司様に問い掛けましょうか?」
ウッズは部屋の中にいる修司とどうコンタクトを取るかアッコに訊ねた。するとアッコは首を横に振りながら返事した。
「いいえ大丈夫。コンパクトに内蔵されている通信機で直接修司と話をするわ。できるなら修司とちゃんと話しできるように部屋に入れてもらえるよう取り計らってみる」
「わ、分かりました」
ウッズにそう云うとアッコはコンパクトを開いて、中に内蔵されている通信機で部屋の中の修司に呼び掛けた。
「修司、修司。聞こえているんでしょ? お願いだから出て来て、話をさせて」
しかし通信機からは微塵の声も聞こえて来ない。
「お願い修司……私、貴方に謝りたいの! お願い、直接あなたに伝えたいから出て来て……!」
すると部屋のドアノブが動き出し、部屋の戸が開いて修司が顔を見せた。
「し、修司……」
修司の顔を見たアッコは後ろめたさの様な心情であった。だがそれは修司も同じだった。
修司は下を向いたまま暗鬱な表情でアッコに呟くように言った。
「……あ、アッコ……その……」
下を向いたままアッコに話そうとする修司、だがアッコはそんな修司に言った。
「……修司、二人っきりで話せるかな?」
「…………」
修司は軽く首を前に振って頷いた。
そして二人はそのまま修司の部屋に入って行った。
それを見たバーンズが一言。
「……このまま修司がアッコをベッドに押し倒して「止めなさい」
バーンズの発言を有無を言わさず制止させるウッズ。
そして、部屋に入った修司とアッコは自室のベッドの上に二人とも腰を下ろして話をしようとしていた。
この時、下を向いたままの修司にアッコは話しかけた。
「……修司」「……うん」
「……顔を見て。私の顔を」
アッコに言われ、顔を上げてアッコの顔を見た修司は驚いた。
彼女の頭には車百合(くるまゆり)の髪飾りが付けられていたからだ。
「あ、アッコ……それ……」
修司は車百合の飾りを見て驚いた。
何故ならそれは思わず自分が握り潰してしまったアッコへの誕生日プレゼントだったからだ。
「あ、アッコ、それは……」
「どう似合うでしょ? まぁ修司がくれた物だから似合って当然だけどね」
驚き動揺する修司に平然と笑顔で語るアッコ。
修司はそんなアッコに訊いた。
「お、お前、何故……」
彼は驚いた。彼女に、アッコに向けてしまった激しい嫉妬の眼差し、そして妬みによって握り潰してしまったプレゼント。それでも自分に向けてくれる彼女の笑顔と優しい態度に、修司は内心驚きでいっぱいだった。
そして修司は恐る恐る、アッコに訊ねた。
「あ、アッコ……あの、さっきは……」
修司が言おうとすると、アッコは修司の手の上に自分の手を重ね修司に言った。
「……修司、ごめんね」「? な、なんでお前が謝るんだよ」
突然謝るアッコに修司は戸惑ったが、アッコは続けて修司に語った。
「私、修司がどんな家庭で育ったか、余りよく知らないけど……正直、良い思い出で無かった事だけは耳にしているわ。それなのにあんな光景見せちゃって……」
「……」
思わず黙り込んでしまう修司に、アッコは更に話し続けた。
「修司の気持ちも考えずにママと一緒にいた光景を見せびらかしちゃって、本当にゴメンね……」
そう云うとアッコは何の前触れも無しに、修司を抱き寄せた。
「! ……アッコ……!?」
いきなり修司を抱き寄せたアッコ、彼女は修司の体を包み込むように腕を回し、優しく抱き締めてあげた。この時、修司はアッコの腕から何とも言えない母性の様な温もりを感じ取っていた。
そしてアッコは修司を抱き締めながら、修司の耳元に優しく囁(ささや)いた。
「ゴメンね。私が修司にしてあげられるのは、こんな事だけで……修司の力になってあげたいのに……もっと修司に幸せになって欲しいのに、私にはこれぐらいしかしてあげられなくて……ゴメンね修司」
アッコの言葉に修司は驚き、そして深く動揺した。
修司はアッコに抱き締められたまま、彼女の耳元に囁き返した。
「……あ、アッコ。何で……なんでお前が謝るんだよ。お前は何も悪くない……ただ俺が勝手に、自分勝手にお前の幸せを妬んでしまっただけなんだ、お前が謝るのは可笑しいよ」
修司は自分の体に抱き付くアッコの両腕を振り解き、下を俯いたままアッコに告げた。
「アッコ……」「……なに?」
「……お前の、お前の気持ちは良く分かったよ。……済まないけど、今日はもう帰ってくれないか……一人で、一人でいたいんだ……」
「……うん、分かったわ。また明日、いつものように気持ち良く過して行こう、約束ね修司」
暗鬱な表情で告げられたアッコは悲愴な面立ちで修司に優しい口調で返事をした。
そしてアッコは修司に背を押されながら半ば強引に部屋から出された。
この時、修司の瞳からはキラリと輝く水滴があるのをアッコは一瞬であったが見逃さなかった。
部屋から出されたアッコはしばし部屋の前で立ち尽くし、思い更けた。
(……修司、私どうしたら……どうしたら修司に幸せだと感じてもらえるのか、まだよく分からないの……私には、親に愛されてない人生なんて経験した事がないから、修司の苦しみが未だに理解できないでいるの…………でも私、いつか必ず修司にも幸せだって感じてもらえるよう、これからも修司の側に居るからね……修司にとって、幸せがどんな物なのか、少しずつ答えを探して行くわ)
一方、アッコを部屋から出した修司はベットに潜り込み一人自己嫌悪に陥っていた。
いつも自分を思ってくれるアッコに向けてしまった激しい妬みの眼差し……それでもアッコは自分の事を大事に思ってくれている。
そんな彼女に妬みの眼差しを向けてしまった自分に対し、修司は憎悪の念を募らせて行った。
アッコだけでは無い、いつも自分に笑顔を見せてくれる学校の友であるモコや大将、聖龍隊の仲間たち。修司は時おり、そんな仲間達に対しても妬みの念を向けてしまっている。
修司は自分を友として見てくれるアッコ達に向けてしまう妬みの眼差し。その眼差しを向けてしまう自分自身を、心の底から憎んだ。