【聖龍伝説:第二章】英雄達の日々 作:セイントドラゴン・レジェンド
[chapter:人混みでの再会]
この日修司はアッコに声をかけられ十番高校に足を運んでいた。
どうやらこの日は十番街高校の学園祭の様だ。
アニメタウンの市長である修司は前もって十番高校の学園祭は知っていたのだが別に行こうとは思ってはいなかった。
だがアッコやうさぎ達に呼ばれ、修司は半ば強引に学園祭に連れて行かれてしまっていた。
「……ふぅ、アッコに連れて来られたのは良いが……何だよ、人混みで逸れちまったじゃねえか」
アッコと一緒に行動していた修司だっだが、学園祭での人混みでお互い逸れてしまった。
「う~む、どうしよう……」
困り果てた修司は取敢えず売店でイカ焼きと焼きそばとソフトドリンクを購入して近くのベンチに座って食事を始めた。
「まぁ、慌てても仕方がねえ。取敢えず腹ごしらえでもしとくか」
そして修司が食事を食べ終わりかけた時のことであった。
目の前を一人の女子高生が歩いていたのだが、その女生徒が持っていた荷物を落としてしまい困惑しているのに修司は気付いた。
修司は無意識に女生徒に歩み寄り、彼女が落としてしまった荷物を拾い始めた。
「あっ……ありがとうございます」
「いや、これぐらいお安いご用ですよ」
修司と女生徒が何気なく言葉を交わしながら、双方共に顔を初めて見合わせた。
すると二人とも互いの顔を見てハッと驚いた。
「あっ……」
修司は顔を見て目を丸くした。
「あ……」
そして女生徒も修司の顔を見て目を丸くする。
「こ……これはどうも……」
「こ、こんにちは……まさか市長さんも学園祭に来ていらしたんですね……」
修司と顔を合わせた女生徒。彼女の名は《大阪なる》セーラームーンこと月野うさぎや同じ学校の生徒の水野亜美等の親友だった。
実は修司は彼女と以前にも顔を合わせた事があるが、なるの方は修司には気付いていない様子。
「……あ、そうだ。これ、運びましょうか?」
「え……い、いや、大丈夫ですよ」
唐突になるに荷物を運ぼうかと訊ねる修司に、なるは戸惑った。
「いやいや、女性に運ばせるのもアレですし……よいしょっと、何処までですか?」
「あ……そ、それじゃ一緒に行きましょうか……」
少し強引であったが修司はなるの荷物を手分けして持ち上げ、なるも最後は承知して修司と一緒に荷物を運んだ。
そしてなるに導かれ、修司は彼女と同級生たちが催している出し物屋にやって来た。
「ぐりおーー、荷物運んで来たわよっ」
「ありがとなるーー」
出し物屋に来ると、なるはグルグル眼鏡の男子生徒に声をかけた。
「あ、それじゃ修司君、此処にお願い」
「あ、はい……」
なるに言われ、修司は彼女が指定した場所に荷物を置いた。
「ん? なる、誰か一緒かい?」
グルグル眼鏡の男子生徒が修司と会話しているなるに訊ねる。
なるは平然と男子生徒に答えた。
「ああ、さっき校内で遇ったんだけど、私が荷物を落としてしまって困っている所を助けてくれて……ほら、ぐりおも知っているでしょ? 若くしてアニメタウンの市長に就任した小田原修司君」
「ど、どうも……」
なるに紹介され、男子生徒に頭を下げる修司。
そしてなるから聞いた男子生徒は半ば興奮して修司に駆け寄り拍手した。
「えっ? お、小田原修司!? ど、どうも初めまして! 自分、海野ぐりおと言います! 修司さん、あなたの結成させた聖龍隊の活躍は常に拝見させてもらっております! と、特に自分セーラームーンを始めとしたセーラー戦士達の大ファンなんです!!」
「えッ……あ、ああ、そうですか。それはどうも……」
いきなり興奮する海野ぐりおの反応に戸惑う修司。
その時、修司に駆け寄るぐりおになるが告げた。
「はいはいぐりお、もう其処まで。修司君が驚いちゃっているわよ。さあ、貴方はお客さんの相手をして……売り上げ期待しているわよ」
なるにウィンクされながら告げられたぐりおは顔を赤くさせて返事をした。
「あ、ああ……分かったよ。それじゃ修司さん、ゆっくりして行って下さい」
修司に言うと、ぐりおはお客の対応に戻って行った。
「……」
ぐりおに言い寄られ、呆然としている修司になるが優しく話しかけて来た。
「修司君、大丈夫?」
「え、あ、ああ、大丈夫です」
修司は軽く動揺しながらもなるに返事をした。
「ゴメンなさいね。ぐりおったらスーパーヒロインの事になると、もう夢中になっちゃって。いつも聖龍隊の活躍した記事をスクラップした本を私に見せに来るんですよ」
「…………」
修司は半ば驚いた。なるが聖龍隊の話題を笑顔で話している事に唖然としてしまっていたからだ。
彼女は聖龍隊を、聖龍使いを憎んでいる筈だと云うのに。
[今を生きる乙女]
その後すぐ、なるは修司に荷物を運んでくれた御礼として出し物屋で売られている缶ジュースを修司に奢ってあげた。
二人は学園祭用に校内に用意された長椅子に座ってジュースを口にした。
「さっきはありがとね修司君。さ、私からのお礼よ、遠慮なく飲んで」
「あ……は、はい。ありがとうございます、それでは頂きます……」
唖然としながらも、なるからの発言に受け答えする修司は缶ジュースのタブを開け、中のジュースを口に含ませた。
そして修司はジュースを3分の2程飲み干すと、意を決してなるに話しかけた。
「あ、あの……なるさん……」
「ん? なに? 修司君」
笑顔で訊いてきたなるに修司は躊躇いながらも、彼女に訊ねる。
「あ、あの、なるさん……実は……聖龍使いの事で、その……」
聖龍使い、その言葉をなるが聞いた次の瞬間。彼女の顔が一変した。
一瞬で表情を変えたなるを見て、修司は内心動揺した。
「………………」
そして黙り込んでしまうなるに、修司は恐る恐る声をかけた。
「……な、なるさん」
しかし未だになるは声を発する様子を見せない。
修司は少し暗鬱な表情で呟いた。
「……そうですよね、簡単には許せない筈ですよね。……貴女の初恋の相手を殺めた男など……」
修司は苦心ながらになるに呟いた。
かつて大阪なるが恋してやまなかった意中の人物、それはセーラー戦士の敵であったネフライトであったのだが、修司こと聖龍使いがネフライトを斬り倒した事をなる本人の前で告げたのだった。
初恋の男を、例え本当は悪人であったとは言え手に掛けてしまった。それによりなるに心から怨まれている事を聖龍使いこと小田原修司は覚悟していた。
そして意を切る様になるが呟くような小さい声で修司に訊ねた。
「……修司君は、聖龍使いが仕出かした事、知っているの……?」
「! …………はい、彼から聞いています。貴女の初恋の相手、ネフライトをその手で斬り殺したと云う事を」
「……そう」
なるは修司の発言に対し、小さく返事した。
修司は一層、重たい空気を感じていたその時。
今度はなるの方から修司に訊ねて来た。
「……ね、ねぇ。修司君」「は、はい……」
「修司君は、どう思う? ……聖龍使いの行いを」
修司は多少、答えるのに躊躇ったが正直になるに答えた。
「……正直、仕方無かったとは思います。今回は聖龍使いが倒した事ですが、もしかしたら彼が、ネフライトが敵視しているセーラー戦士によって倒されていたかもしれませんし……今回はたまたま聖龍使いが倒しただけの事です。大変申し訳ありませんが……」
この修司の発言を、なるは黙って聞き入れていた。
そして、封を切る様に唐突になるは重い口を開いた。
「……ふぅ、そうよね。ネフライト様がセーラー戦士を始めとした英雄達と敵対していたのは事実だし……結果的には聖龍使いのした事は、正しい事とはまだ言えないでいるけど倒されても文句は言えないのも事実よね」
軽く溜息を衝きながら口を零すなるの言動に、修司は困惑しそして訊ねた。
「……貴女は、聖龍使いの事は憎くないですか?」
「……え?」
困惑してしまうなるに、修司は続けて訊ねた。
「彼は……聖龍使いは覚悟しているんです。確かに斬らねばならなかった命とは言え、命は命。その命を自らの手で刈り取る事で誰かから憎まれる事も、彼は平然と毅然とした意志で受け止めて行こうと、そう意識しているんです。その者を殺めなければ他の命や心が傷付け破壊されてしまう、何よりその者の存在も更に罪により汚れてしまう……そうなる前に聖龍使いは自ら命を刈り取り、そしてその命を生涯背負い続ける覚悟で今なお戦いの渦中に自ら身を投げ出しているんです」
修司から聖龍使いの意志と覚悟を聞いたなるは唖然としてしまった。そして彼女は重い口を開いて修司に訊ねた。
「……修司君」「は、はい」
「彼は……聖龍使いは、どんな人なの?」
訊ねられた修司は答えに困ってしまい、逆になるに訊き返してしまった。
「そ、それは……な、なるさんは、どう思います? 聖龍使いの事……」
訊き返されたなるは暗鬱ながらも穏やかな表情で答えた。
「そうね……彼は、聖龍使いは……おそらく、誰よりも辛い筈よ」
「え……?」
なるの発言に修司は目を丸くして驚いてしまった。
そしてなるは続けて修司に語った。
「誰かを護る為に誰かの命を奪う……でもそれは、奪っている聖龍使いの方が命を奪われた人よりも苦しんでいる筈よ。誰かから憎まれる事も毅然とした態度で受け止め、そして自ら激しい戦いの渦中に飛び込んで行く彼は……誰よりも命の重さを知り、そして誰よりも苦しみながら延々と戦い続けている……少なくとも、私にはそう感じられたわ。彼と向き合った時から……ずっとね」
なるの話に修司はただただ驚くしかなかった。
何より、修司は覚悟していた。初恋の男性を殺され、なるは聖龍使いを心から憎んでいる物だと思い込んでいたからだ。
そんな彼女から、聖龍使いは誰よりも苦しんでいる、と告げられた修司は内心驚きで一杯であった。
そんな修司に、なるは自分の顔を笑顔にして告げた。
「何より、私はもう気にしていないわ。クヨクヨしてたってネフ様が戻って来る訳じゃないんだし今の私には、ちゃんと側に居てくれる人が居るんですもの。いつまでも昔の事を嘆いていたら今の彼氏にもネフ様にも申し訳ないわ」
「え、今の彼氏……?」
なるの発言に修司は驚いた。
「ええそうよ。さっきあなたと握手を交わしたぐりお、彼が私の新しい彼氏なのよ」
「! そ、そうだったのかい……」
呆然としてしまう修司に、なるは更に自分の気持ちを告げた。
「それにね、修司君。人間いつまでも過去ばかり向いてちゃいけないと、私は思うわ。どんなに苦しい時でも前を向いて生き続けなきゃ、人間はダメになると私は思うの。だから私は今を精一杯生きているわ、だから聖龍使いにも言って置いて。私はもう落ち込んでないから、貴方もいつまでも過去ばかり背負ってちゃいけないって」
「あ……ああ」
なるの発言に呆然となりながらも返事をする修司。
と、その時。
「おーーい、なるーー、ちょっと手が足りなくなってきたから手伝って~」
教室から海野ぐりおが顔を出してなるを呼ぶ。
「あ、はーーい。それじゃ修司君、あなたも聖龍使いもこれから頑張るのよ。応援してるわ」
なるはそう云うと修司にウィンクをしながら教室に戻って行った。
「……大阪、なる…………」
なるからの言葉に、修司は愕然としながらも内心とても穏やかだったという。