【聖龍伝説:第二章】英雄達の日々   作:セイントドラゴン・レジェンド

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 ちびうさが未来に帰還する話を自分なりに捏造しています。バトルシーンにつきましては少し迫力不足な部分が有りますので、其処は申し訳ありませんが脳内補完してください。
 今回は非常にクレイジーな性格のキャラが登場します。


十五夜の怪奇

[秋の夜の優雅なる月見]

 

 この日、修司は自宅にて静かに月見をしようと準備をしていた。

 時は十五夜の夜。夜の天候は良好と天気予報でも開示されていた為、修司は台所で月見用の団子を作っていた。

 其処に、団子を飾る為の木製の台をウッズが運んで来た。

「修司様、台はこの通り持って来ましたよ」

「おう、ありがとなウッズ」

 ウッズは修司のすぐ隣に団子を飾る台を置いた。

 一方の修司は団子の素になる白玉粉を水と練っては丸めて団子状に成形すると、すぐさま沸騰した鍋に入れていった。

 そんな修司にウッズは重い口調で話しかけた。

「ところで修司様。今日でしたよね……ちびうさちゃんが未来に帰ってしまうのは……」

 悲愴な面立ちで修司に言うウッズ。実は先日セーラープルートこと冥王せつなから、十五夜の夜にちびムーンことちびうさを未来の時代に送らなければいけないと、修司に伝えていたのだ。

 この事は既に月野うさぎを始めとしたセーラー戦士達はもちろん、他の聖龍隊の皆も周知していた。

 これに対し修司は団子製造の作業を行いながらウッズに言う。

「……まぁ、仕方がねえよ。ちびうさは元々この時代の人間じゃないんだしよ。帰るべき所に帰る、それが普通なんだからな」

 修司は複雑な心境で呟いた。

「……せめて、心良く送ってやろうぜ。少しでもちびうさに良い思いを感じてもらえるように。そして多くの思い出を未来に持って行ってくれる様に……な」

「………………」

 修司の発言に言葉を失くしてしまうウッズ。

 

 

 そしてその日の夜。

 雲一つない晴天の夜空に見事な満月が燦然と輝く十五夜の夜空。

 提言通りプルートの能力で未来に送られ、そして帰還していくちびうさ。彼女は聖龍隊の皆と別れの挨拶を交わし、修司からは手土産としてランドセル程の大きさの風呂敷を渡された。

 そしてプルートはちびうさを遥か未来の、ちびうさが本来居るべき時代へと送っていった。

 

 ちびうさの居なくなった時代、現状に少しばかりの寂しさを感じつつも聖龍隊は十五夜の満月を眺めつつ、修司の拵えた月見団子を口に運んで行った。

「そう云えば修司君。貴方がちびうさちゃんに渡した風呂敷、アレは何なの?」

 火野レイが修司に訊ねてみると、彼は自作の団子を口にしながら答えた。

「ああ、アレは俺が作ってやった団子だよ。未来で両親や仲間たちと一緒に食ってくれって渡してやったんだよ。まっ、今でもちびうさの両親、特に母親は団子にガッついているがな」

 レイにそう云うと修司は横目で団子を口いっぱいに頬張る月野うさぎに視線を向ける。

 更に彼女に対し、こんな台詞も吐いた。

「……フッ、団子頭が団子を頬張るとは……ニッ」

 思わずニヤケてしまう修司。

 しかしレイに続き土萠ほたるが暗い面立ちで修司に声を掛けて来た。

「……修司さん」

「ん、ほたるか。どうした、顔が暗いぞ」

 ほたるは何処か寂しげな暗い表情で修司に訊ねた。

「修司さん……修司さんは、寂しくない? ちびうさちゃんが未来に帰っちゃって……居なくなっちゃって……」

 悲痛な眼差しで修司を見つめながら訊ねるほたるに対し、修司は顔色を変えずにほたるに言った。

「ほたる。別にちびうさが未来に帰るのは前々から耳にしていただろ。それに、あいつが元居た時代に帰るのは俺達が家族の所に帰るのと同じなんだ。ただ帰るべき所に帰るだけなんだから、そんな悲観的になるな」

「…………」

「……ほたる。お前がそんなに悲しんでいたら、未来に帰っちまったちびうさに申し訳ないだろう。悲しむんじゃ無く、未来でもちびうさが元気に過ごしていられる事を願う事の方が大事なんじゃないのか」

 親友のちびうさが居なくなった事を寂しく思い悲痛な心境に陥るほたるに修司は笑顔で語った。

 そんな修司に対し、ほたるは微笑みながら返事をした。

「修司さん……うん、そうよね。ちびうさちゃんは帰るべき家に帰っただけなのよね。悲しんでいたらちびうさちゃんに悪いわよね」

 明るく答えるほたるに修司も口元を微笑ませてほたるに自製の団子を差し出した。

「さぁ、俺が作ったみたらしだ。早く口にしねえと硬くなっちまうからドンドン食えよな」

「はい」

 ほたるも笑顔で返事をすると修司の差し出した団子に手を伸ばして美味しそうに頬張った。

 そんな修司と土萠ほたるの様子を見ていた天王はるかと海王みちるは二人の様子に微笑みながら会話をし出した。

「修司君も良い事言うわね」

「ああ、その通りだ。彼って時おり突拍子だけど、相手の真意を突く言動を口にするから驚きだよね」

 修司の言動に彼を称賛するみちるに、彼女に続いて語るはるか。

「……そう言えば、せつなから聞いたけど……彼って一体何者なのかしらね?」

「え? それって、どういう事なんだい?」

 突然のみちるの発言に驚くはるかが訊ねてみると、みちるははるかに顔を向け話した。

「実は……以前せつなから聞いた事が有るんだけど、彼女やちびうさちゃんが居た未来の時代には彼に関する情報が丸っきりなかったみたいなのよ。何より、未来のセーラー戦士達は、私達は小田原修司なんて人物の名前を知っていないって言うの」

「え……で、でも現に今……」

 動揺してしまうはるかに、みちるは続けて語る。

「それにね、彼だけでなくこの聖龍隊のみんなの事も……いえ、聖龍隊と云うフレーズも耳にした事は無いみたいで」

「そ、そんなバカな……! み、未来では聖龍隊の存在そのものが記録はもちろん、ボク達未来のセーラー戦士の記憶にも無いって言うのかい?」

 唖然とするはるかは周りを見回した。今、自分達の前で楽しそうに各々月見を楽しむ聖龍隊の仲間が。キューティーハニーやナースエンジェル、カードキャプターに新撰組。そしてミラーガールに関する記録が、ちびうさと冥王せつなの来た未来には何一つ無い事に、天王はるかは驚きを隠せずにいた。

 

 

 

 その頃。別のアニメタウン地区では…………。

「……くっ。奴め、何処に行きやがった……!」

 多少息を切らした険しい強面の男性が一人、夜の町中を駆けまわっていた。

 その時、男性のスグ側の電柱の真上に一人の人物が姿を見せた。

「はぁ……ん! お前! もう逃がさんぞ……!」

 男性が上を見上げると、電柱の上で男性を見下ろす人物の存在に男性は気付いた。

 その者は男性をしばし見下ろしていたが、すぐさま電柱から電柱へと次々に移動して行く。

「ぐっ! 逃がしはせん!!」

 男性は厳つい顔付きでその者を追尾して行った。

 

 

 

 

[帰還不能]

 

 時を同じくして。

 少し離れた街路の片隅に時空の亀裂が発生した。その亀裂からは二人の少女と女性が出現した。

「さぁ、着きましたわよリトルレディー……あ、あれ? 此処は……」

「ん? どうしたのプー……あ、あれあれ? 此処って……」

「え、ええ……どう見ても……アニメタウンですよ、ね」

 町の片隅に現れた二人組。それは未来に帰還した筈のちびムーンとセーラープルートだった。

「な、なんでまた、アニメタウンに戻って来ちゃったのプー?」

「い、いえ……私にもさっぱり……」

 未来に戻ろうとした筈が、何故か過去であるこの時代に戻ってしまっている事に困惑してしまう二人。

「……と、とりあえず。もう一度時空の扉を開いてみますね」

 プルートが再び時空間の移動を行おうとステッキを構えてみたが、何故か能力が使用不能に陥っていた。

「な、なんで?」「そ、そんな……!」

 突然の事態に愕然とし困惑するちびムーンにプルート。

 と、その時。

「きゃっ」「な、何?」

 二人の目の前に突如、飛び降りる様に一人の人物が姿を現し、二人は吃驚した。

 そして二人は目の前に飛び降りて来た人物の全体像を見て、更に驚き声を上げる。

「あ!」「あ、あなたは!」

 するとその者はフードで顔を隠しながら、驚くちびムーンとサターンに赤く光る鋭い眼光で睨みつけた。

『!』睨みつけられた二人は驚き、言葉を呑み込む。

 

 二人を睨みつけたその者は、以前にもちびムーンやプルートの目の前にも現れた事のある人物。そう、あの黒ローブ姿。

 ローブ姿は二人を赤い眼光で睨みつけながら、怪しくニタリと口を笑わせてみせると、徐に自身の右腕を後に構えた。

「……え」「な、何する気……?」

 不安に駆られる二人。そんなちびムーンとプルートに向かって突然、ローブ姿は構えた右腕を前に振り払う形で振るうと右腕から黒い刃状の物体が飛び出て二人目掛けて飛んで来た。

「え!」「き、きゃあっ」

 咄嗟の事で何もできず驚いてしまう二人に黒い刃は迫る。

 

 その時だった。「ハアァァ!」

 突如一人の男が現れては、ちびムーンとプルートに迫る黒い刃を自身の左手で弾いた。

 突然目の前に現れた男に驚愕する二人に、男は声を掛ける。

「大丈夫かッ?」

「……え、ええ」「な、何とか……」

 目を丸くして驚く二人が、ふと現れた男の左手に注目してみると、二人は更に驚いた。

 自分達に向かって放たれた黒い刃を弾いたその左手は人の手では無く、全くの異形の手で有ったからだ。

「あ……貴方は……」

 驚きながらも男に訊ねるプルートに、男は振り返りプルートの問いに答えた。

「俺か……俺は鵺野鳴介(ぬえのめいすけ)。ちょっと訳有りでな、この黒のローブ野郎を追っていたところなんだよ」

 男の名を聞きプルートは仰天した。

「えぇ! あ、貴方があの霊能力教師の鵺野鳴介? 以前修司君からも少しは話は聞いているし、教師の間でも貴方の評判は色々と耳にしてるわ! で、でもなんでその貴方が寄りにも寄ってあの黒ローブを……」

 以前、修司こと聖龍使いやミラーガールと共闘した事を二人からはもちろん、表の職である教師としても鵺野鳴介の事を聞いていた冥王せつなは、そんな彼が何故あの黒ローブを追っているのかをぬ~べ~に訊いた。

 するとぬ~べ~は強面ながらも神妙な顔立ちでプルートに返した。

「いや、話すと長くなるが……むっ、いかん! 離れろ!」

 ぬ~べ~とプルートが話をしてる正にその時。黒ローブが三人に向かって勢いよく跳び蹴りをしてきた。

「きゃあっ」「あ!」

 黒ローブの攻撃を寸での所で回避するプルートとちびムーン。

 未だ自分等の状況に困惑する二人に対し、黒ローブは執拗に二人に攻撃を続けた。

「! あ、危ない!」

 何と目の前で黒ローブは右手から漆黒の刀の様な物質を出現させ、それでちびムーンを攻撃しようとした。慌てたプルートは彼女を護る為、ちびムーンに抱き付き身を挺して庇った。

「ぷ、プー!」

 ローブの刀がプルートに喰らうであろう、その瞬間。ぬ~べ~が二人を護ろうと鬼の手でローブの刀を掴み、動きを封じた。

「……あ! 貴方……!」

 ぬ~べ~の行動に驚くプルートに、必死で刀を受け止めているぬ~べ~が顔を歪ませながらプルートに告げた。

「は……早く逃げるんだ……! こ、コイツには何か、得体の知れない力が秘められている……!!」

 彼の言葉から只ならぬ危機感を感じたプルートは急ぎちびムーンを連れてその場から離れようとした。

 しかし「止めなさいッ」ぬ~べ~に迫っていた黒ローブに向かってちびムーンが攻撃を仕掛けた。

「り、リトルレディー!?」「き、君は?」

 ちびムーンの行動に驚くプルートとぬ~べ~に対し、ちびムーンは黒ローブに向かって言い放った。

「アナタ! 前から私達に対して色々としてくれちゃっているけど何な訳!? 何より、私達を助けてくれたゲジマユの小父さんにこれ以上ヒドイ事はさせないわよッ」

「お、小父さん……」

 ちびムーンに小父さん呼ばわりされたぬ~べ~はショックを受ける。

 

 そして黒ローブはそんなちびムーンに向かって今度は黒い弾の様な物を放った。

「!」「リトルレディー!」

 黒い弾がちびムーンに向けられたその時「ハアァっ」ぬ~べ~が鬼の手で黒い弾を握りつぶした。

「大丈夫か君!」「は、はい……」

 ぬ~べ~に声を掛けられたちびムーンは思わずキョトンとしながらも返事をした。

 更にぬ~べ~は動揺している二人にふと訊ねた。

「そう言えば……君達は確か、聖龍隊の一員でセーラープルートとちびムーンだったよな。何故君等が此処に……?」

「あ、あの……それは話せば此方も長くなっては仕舞いますが……」

 訊ねられたプルートは少し慌てた様子でぬ~べ~に言い返す。

 だが、そんな時にも関わらず、黒ローブは三人に迫って来た。

「むっ、話は後にしよう。今はコイツを何とかしなければ……!」

 ぬ~べ~は二人にそう言いながら迫りくる黒ローブを睨みつけた。

 そしてプルートにちびムーンも黒ローブ相手に戦闘態勢をとった。

 

 

 

[黒き存在]

 

 一方、その頃の聖龍隊の面々は。

「……ぷはっ。もう食えねえ……」「テメエは食い過ぎだ」

 膨れた腹を軽くポンポンと叩くバーンズに修司がこぼす。

「それにしても美味しかったわね。修司の作ってくれたみたらし団子」

「ま、まあな」

 満足気に笑顔で修司に呟くアッコに、修司は戸惑いながらも返した。

 

「……ふぅ、それじゃもう夜も遅い事だし、ここ等でお開きにするか」

「ああ、そうだな」

 衛と青児の発言を切っ掛けに皆それぞれ帰ろうとしていた。

 

 その時。修司の通信機が突然鳴り響いた。

「ん、なんだ?」

 すぐに修司は通信機を手に取り、スイッチを押して耳を押し当てると通信機から聞いた事のある声が聞こえて来た。

「修司……! 修司!」「ん!? その声は……キーオか?」

 通信機から聞こえて来たのは姿桐男ことミラーナイトのキーオであった。彼は少し切羽詰まった様な口振りで修司に言った。

「修司……! 例の黒ローブがまた町に現れたぞ……!」

「な、なにッ? それは本当かキーオ」

 キーオから聞いた修司も半ば驚きながら訊き返す。

「ああ本当だ。鏡の国から見ているんだが童守地区でそいつは暴れ回っている。あの鬼の手を持つ教師とな……オマケに何故かちびムーンとセーラープルートまで一緒に居やがる」

「!? ちょ、ちょっと待て! なんでその二人まで一緒なんだ? つ、遂さっきその二人なら未来に……」

「それは俺も分かってる。ただ今は童守町に二人とも居て、鵺野と一緒に黒ローブと戦っているんだ! もしかしたら、次元のバランスが変調した影響なのかもしれない……!」

「……!」

 キーオの言葉に修司は自身の言葉を失くす。

「……前にも言ったが、俺はもうお前の行動には口を出さねえ。この一件もお前自身の意志で決めろ、良いな修司」

 そう修司に言い残し、キーオは通信を切った。

 

「修司? 今の通信なに?」

 アッコが訊ねるが、修司はしばし口を紡ぎ言葉を発しなかった。

 そして意を決したかの如く修司は皆に告げた。

「……みんな! すぐに童守地区に出動だ! 準備しろ!!」

「え!?」「な、何か有ったの?」

 突然の修司の指令に驚く火野レイに如月ハニー。そして騒然となる皆に修司は更に言った。

「グズグズしてられねえ、早く行くぞ! 急がねえとちびムーンもプルートも危ないぞッ!」

『え!』

 修司の発言に驚愕する一同。

 そして皆、すぐさま童守地区に向かった。

 

 

 そして場は戻り童守町。

 其処では未だに鵺野鳴介ことぬ~べ~とちびムーン、プルートが黒ローブと激しい攻防を繰り広げていた。

 しかし黒ローブは一向に弱まる気配を見せる事無く三人に迫り続けていた。

 更に黒ローブはセーラー戦士二人が放つ技のを、左手の平から黒い渦の様なものを作り出し、その渦が戦士の技を吸収して攻撃を無効化してしまうのだった。

「な……何なの? この人……」

 今まで経験した事の無い事態に動揺し愕然としてしまうちびムーンは、次第に疲労が表情に見えて来た。

「わ、技が全部……左手から吸収されてしまうなんて……!」

 プルートも疲労しきり、膝をついてしまっていた。

「く、クソ……ッ。ようやく学校で発生し続けていた怪奇現象の根源を見つけたのに……このままでは……ッ!」

 ぬ~べ~も霊力を使いきり疲れ切っていた。

 そんな三人に対し黒ローブは只ならぬ威圧感を醸し出しながら少しずつ歩み寄って来た。

 そして最前線に座りこんでいるちびムーンの眼前まで歩み寄ると腕を上げてちびムーンに攻撃しようとした。

「に、逃げてくださいッ」「いかん、止めろ!」

 プルートにぬ~べ~が叫ぶ中、非情にも黒フードは攻撃の手を緩めようとはせずちびムーンに腕を振り下ろした。

「!」思わずちびムーンが目をつぶった、正にその時。

 

「アロー(矢)!」

 黒ローブがちびムーンに手を振り下ろした瞬間、掛け声と共に複数の矢が黒ローブ目掛けて飛んで来た。

 飛んで来た矢は黒ローブの体を突き抜け、そのまま後方の民家の塀にフードを固定し身動きを封じてしまった。

「え!」「い、今のは、もしや……!」

 飛んで来た矢と掛け声に驚くちびムーンとプルート。

 そして声の方に目を向けると、満月輝く夜空に一人の背中に翼を生やした少女がちびムーン達を見つめていた。

 その少女を見てちびムーン、プルートは歪ませていた顔に笑みを浮かべて少女の名を叫んだ。

「さ……さくらさん!」「さくらちゃん!」

 黒ローブに攻撃をしたのは聖龍隊の一員であるカードキャプターの木之本桜(きのもと さくら)だった。

「だ、大丈夫ですか? プルートさん、ちびムーン」

 さくらは颯爽と飛び降りて疲れきっている二人に声を掛けた。二人は疲労に満ちた表情でさくらの顔を見つめながら訊ねた。

「そ、そう言うさくらちゃん……あなたは何故、ここに居るの……?」

 プルートの言葉にさくらは首を傾げながら答えた。

「そ、それがですね……修司さんがいきなり、童守町に行くぞって言って……な、何よりお二人が、ちびムーンとプルートさんが危ないって言い出したんで何が何だか……」

 唖然としてしまう三人であったが、アローを受けて身動きを封じられていた黒ローブが、塀に突き刺さった矢を自身の体に突き刺さったまま半ば強引に抜き出した。

 そして体に矢が刺さったまま、アローを放ったさくらに向かって話し出した。

「……お前」「! しゃ、喋った……!」

 今までまともな言葉を話す事が無かった黒ローブが、今初めて普通の人語を喋った事にさくらは驚きを隠せなかった。

 そして黒ローブは数歩歩いてさくらに寄って来ると更に言葉を発した。

「お前……木之本桜。お前の放った矢は、案外イテえな……」

「……」

 只ならぬ威圧を感じさせている黒ローブに警戒しながらも黒フードの言葉に耳を傾けていた。

 そんな彼女に黒ローブは自身の左肩に刺さった矢を指差しながらさくらに言った。

「ほれほれ。この矢、後もう少しで心臓に突き刺さっている所だったよ。いやぁホントに危なかったよぉ~~」

 小馬鹿にするような間延びした喋り方で体に突き刺さる矢に対して語る黒ローブに、さくらは表情を険しくさせて黒ローブから視線を逸らさずにいた。

 だが、そんな木之本桜に対し、黒ローブは唐突に彼女に一言吐いた。

「これなら――……簡単に人が殺せるな」「!!」

 黒ローブの言葉に愕然となるさくら。そして顔面蒼白になりつつあるさくらに対し黒ローブは続け様に吐き捨てた。

「どうしたの? 何で黙っているの? 凄いじゃない、簡単に人が殺せる力が有ってさ。みんな羨ましがるよ」

 しかしさくらは黒ローブの発言に何も言い返す事が出来ず、暗い顔立ちで下を向いてしまっていた。

 すると黒ローブは自分に刺さっている矢を、まるで呑み込んで行くかのように体内に吸収し、更に体の傷跡も一瞬で消えてしまった。

 黒ローブの発言に言葉を失くし黙り込んでしまうさくらから感じる只ならぬ空気に困惑するちびムーンとプルート、そして鵺野鳴介。

 と、その時。他の聖龍隊士たちも駆けつけて来た。

「さくら、大丈夫かーーッ」

 最初に声を上げたのは小狼(しゃおらん)であった。だが声を掛けられたさくらは彼に対しても何も言わず、ただ下を向いていた。

「……ど、どうしたんだ? さくら……」

 異様な雰囲気のさくらに小狼は動揺しながらも心配して声を掛けた。しかし彼女は暗い顔立ちを変える事無く黙ってしまう。

 小狼に続き、タキシード仮面とセーラー戦士たちも駆け付けて、疲れきっているちびムーンとプルートに歩み寄った。

「ち、ちびムーン!」「う……うさぎ!」

 セーラームーンを見て思わず抱き付くちびムーン。

「ぷ、プルート! 何故、君とちびムーンが此処に……!?」

「え、エンディミオン! それが……」

 駆け付けて来てくれたタキシードに困惑しながらも話そうとするプルート。

 その時、駆け付けて来たセーラー戦士達に向かって黒フードが再び話し出した。

「おやおや。セーラー戦士達もお出ましか」

「! あ、アナタ!」「しゃ……喋った……!」

 言葉を発した黒ローブに目を丸くして驚くマーズとマーキュリー。そして彼女達に姿勢を向けた黒ローブは続けてセーラー戦士達に向かって意味深な台詞を吐いた。

「クックック、しかしまぁ……良くも此処まで戦う為の力を、争いの戦力を増やして来れましたねぇ皆さん」

「! な、何ですって!」

 黒ローブの発言に怒りを感じるジュピター。

 そして彼女同様にセーラー戦士達が黒ローブを睨みつけている最中、ネプチューンは黒ローブの声を聞いてふと思った。

(……うん。どうも若い男の声みたいね。……あれ、でも。何処かで聞いた事のあるような声だわ)

 ネプチューンが一人思い更けていたその時、黒ローブは彼女達に向かって暴言を吐きながら指差しながら歩み寄って来た。

「さあさあ、このオレをどうするんですか? マーズの炎で焼き殺す? ジュピターの電撃で感電死させる? ウラヌスの剣でひと思いにグサリと刺し殺す? さあさあ、どんな殺し方でオレを消すつもりだい?」

 黒ローブの台詞に怒りを感じつつあるセーラー戦士たち。その時、暴言を吐き続ける黒ローブにタキシードが迫っていった。

「いい加減にしろッ! この野郎!」

 黒ローブの両肩を掴み掛るタキシード仮面。だが黒ローブは態度を変えず、掴み掛かって来たタキシードに向かって発した。

「……アンタもむごいな」「! な、何だと……!?」

「だってそうだろ? 結局どんな世界だろうと、そんな国だろうと、何れは滅びる。それなのに再び娘を滅びゆく未来に……いや、存在しなくなる未来に送って行っちまうんだからな」

「!!」

「……ヒッヒッヒ。どんなにもがいても変えられない運命は……いや、歴史と云う名の運命は繰り返され続けるモンなんだよ。お前達、天星の戦士達の前世の如く、何れお前等は滅び去るのみの存在だ。それなら、苦しみながら運命を迎えるよりも、幸せに満ちている今の内に消してやった方が何倍も良いだろう。……そう思わないかい? エンディミオン様よ」

「…………」

 黒ローブの台詞に口元を歪ませるタキシード。彼が黒ローブの言葉に気を取られているその時、黒ローブはタキシードの顔を一瞬で掴むと一気に力を入れた。

「ぐはっ……!」

 突然顔を掴まれ、更には力強い握力で其処の知れないほどの激痛に苦しみだすタキシード。

 それを見ていたセーラー戦士達に聖龍隊の面々は驚愕し、そして黒ローブはタキシードを掴んだまま高く飛び上がり、空中でタキシードの顔を下に向けるとそのまま急降下して彼の頭を地面に叩き付け減り込ませた。

「た、タキシード仮面!」「衛!」

 同士のメタルバードに早見青児はコンクリの地面に減り込み、そして反応しなくなったタキシードを見て愕然とした。

 黒ローブはタキシードを地面に減り込ませると掴んでいた手を放し聖龍隊の一同に姿勢を向けた。

「あ……あなたは、一体……」

 顔を蒼褪めさせて、震える口調で言葉を発するミラーガール。

 そんなミラーガールを視界に捉えた黒フードは突然、右手から黒い刀を出現させてその刀でミラーガールに勢いよく迫って来た。

「ミラーガール!」「!」

 危機迫るミラーガールに声を上げるジュピターキッド、そして驚き呆然と立ち尽くしてしまうミラーガール。

 だがその時「ふんっ」ミラーガールを護るかの如く、彼女と黒フードの間に聖龍使いが入り込み黒フードの斬り込み攻撃を聖龍剣で受け止めた。

「せ、聖龍使い……!」

 ミラーガールが眼前の聖龍使いに声を掛ける中、黒ローブも自分の攻撃を止めている聖龍使いに向かって意味深な発言を言った。

「……お前は、いつまで偽り続けるつもりだ? ただ苦しいだけなのに……ずっとずっと仮面を被ったままだ……哀れましい事だなオイ」

「……!!」

 目の色を変える聖龍使いに黒ローブは話し続けた。

「コワいんだろお前は。真実を知られて皆に、周りの者が苦しんでしまう事を……いや、それよりも、お前自身が周りに忌み嫌われてしまう事を……常に怯え続けているんだろう?」

 黒ローブの言葉に人知れず動揺する聖龍使い。次の瞬間、黒ローブは聖龍使いの腕を掴み、そのまま彼を投げ飛ばした。

「そりゃっ!」

 投げ飛ばされた聖龍使いはそのまま民家の塀の壁に直撃し、動かなくなった。

「せ、聖龍使いッ!」

 投げ飛ばされた聖龍使いを見て目の色を変えて驚くミラーガール。

「て、テメエ!」「クソっ、良くも聖龍使いを!」

 それを見ていた男子達が眼つきを険しくさせて黒ローブに攻めていった。

「私達も行くわよミスティー!」「ええ!」

 男子達に続き、ハニー姉妹も黒ローブに向かって行った。

 

 

 

[存在しない世界]

 

 突如町中に現れた黒いローブ姿に攻撃をしていく聖龍隊の隊士たち。

 一方ナースエンジェルは、疲労しきっているちびムーンにプルート、鵺野鳴介。そして黒ローブによって地面に叩きつけられたタキシード仮面の体力や怪我を回復させてあげていた。

 そして黒ローブに攻撃して行く聖龍隊はすぐ近くの空き地にまでフードを誘導できていた。

「そりゃあッ!」「えいッ!」

 トシは龍の珠を蹴り飛ばし、ソウシは龍の牙で弓矢を飛ばして黒ローブを攻撃。

 しかし黒ローブは二人の攻撃をなんなく回避し続け、まるで空を浮く感じで右に左にへと移動を続ける。

「ハァっ」「食らいなさい!」

 キューティーハニーとミスティーハニーの姉妹による二重攻撃も、黒ローブは軽く避け続けていった。

 終いには皆、遂に息を切らして疲労の色が顔に浮かび上がっていた。

「み、みんな! 大丈夫ですか?」

 仲間の体力を回復させ終わったナースエンジェルが皆の所に駆けつけて来た。

「な、ナースエンジェル……!」

「そ、それが……この黒ローブ、さっきから攻撃をかわしてばかりで……」

「そ、それに一部の能力や技も変な黒い渦みたいなので打ち消されちゃって……」

「え!?」

 ハニー姉妹の発言に驚きを表すナースエンジェル。

 そんな中、黒ローブが彼等に近づき怪しい雰囲気を醸し出しながら皆に挑発した。

「もう終わりかい? もっと楽しもうぜ……もっと戦おうじゃないか……君達が今までしてきたようにね」

 まるで戦いを楽しんでいる様に言われ激昂した早見青児は黒ローブに向かって怒鳴り散らした。

「テメエ! それはどう言う事だ!!」

 すると黒ローブは嘲笑うような口振りで言い返した。

「ヒヒっ、だってそうじゃないか。お前達はその能力(ちから)でどれだけの敵を殺して来たんだい? それとも、自分達が助けて来た連中だけが命ある者で、自分達に牙を向いて来た敵は生き物と認識していないのかぁ?」

 黒ローブの言葉に黙り込んでしまう一同。彼は更に聖龍隊に向かって吐き捨てた。

「ヒャヒャヒャヒャ、人を殺せる力で人を助ける、お前達って面白いよなぁ」

 嘲笑いながら吐き捨てる黒ローブの言動に次第に鬱憤(うっぷん)を募らせる一同。

「……それじゃ、もう終わらせてあげますか。人間、夢を見過ぎたら目覚めが悪いもんな」

 そう言い終わると黒ローブは再び右手に黒い刀を出現させて聖龍隊に向かって斬撃を放った。

「くっ……!」

 ハニー姉妹は飛んでくる斬撃をフルーレで弾き返しながら必死に応戦し続ける。

 その隙を狙って黒ローブは瞬時に移動をし、ナースエンジェルの背後に回った。

「え?」

 ほぼ一瞬で移動した黒ローブにナースエンジェルは唖然としてしまったが、次の瞬間黒ローブはナースエンジェルに刀を振り下ろそうとした。

「り、りりか!」思わず星夜が声を上げた、その時。

 ナースエンジェルに刀を振り下ろそうとする黒ローブ目掛けてエネルギー弾が飛んで来て黒ローブは直撃寸前で回避した。

「い、今のは!?」

 ナースエンジェルが光の弾が飛んで来た方向に目を向けると、其処には民家の屋根の上に佇む一人の人物が目に入った。

「あ、アナタは!」

 キューティーハニーはその者の姿を見て驚愕してしまった。その者の名はプリンス・ゼラ。かつては豹の爪の幹部であったが今現在は脱退し、一人放浪中の人物。

 プリンスゼラは微笑みながらハニー達聖龍隊に向かって発した。

「ふふ、お久しぶりですね、キューティーハニー、ミスティーハニー。そして聖龍隊の皆様方」

 聖龍隊に挨拶をしたゼラは視線を黒ローブに向けると、落ち着いた表情で平然と黒フードに告げた。

「……貴方ですね。最近アニメタウンはもちろん、世界中の平穏を乱しているという黒いローブ姿の人物は」

「な、なにッ?」

 青児を始めとした聖龍隊の者達はゼラの発言に驚いた。黒ローブの男、彼はアニメタウンのみに有らず世界中に出現している様だ。しかも平穏を乱しているとの事実に、聞いていた聖龍隊の者達は皆目の色を変えて驚いた。

 そして突然出現したプリンスゼラに対し、先ほど黒ローブに投げ飛ばされ壁に直撃しふら付いている聖龍使いに肩を貸しているミラーガールが訊ねた。

「ぜ、ゼラさん……! それは、どういう事ですか……!?」

 訊かれたゼラは華麗に微笑みながらミラーガールの質問に答えた。

「ミラーガール。私は今の今まで、様々な国を巡り旅をしてきました。そして各国でその黒ローブの起こしている異常な現象についての情報を耳にして来たんですよ……その者はアニメタウンにも出没している異次元からの魔獣が出現すると、決まって一緒に姿を現して世界のあらゆる町や都市を破壊しているんです」

「えっ!」「な、なんだって……!」

 ゼラの発言に再度驚くミラーガール、そしてジュピターキッド。

 そしてゼラの発言に黒ローブが文句の如く告げた。

「オイオイ、ゼラさんよ……ネタばれみたいな台詞は御免こうむるぜ。それに破壊行為ならアンタの方が十八番(おはこ)だろ? そんな反感的に言うんじゃねえよ」

 黒ローブの台詞に対しゼラは微笑しながら返した。

「ふっ、確かに。私も以前は破壊による破壊行為ばかり繰り返して来ました……それも人の欲望から生まれ出た自身の宿命であったが為に。しかし黒い方、私には人の欲すなわち人の感情で生まれた限り欲望以外の感情だって有るのです。故にもはや私には破壊による行為など無意味に感じて来たのです。……キューティーハニーやミラーガールを始めとした聖龍隊の英雄達、彼等の様な心が私にも有るのではないかと。そう思う事ができるようになりました」

 黙り込む黒ローブにゼラは続けて話した。

「……世界は確かに人のエゴや欲で満ち溢れています。しかし、そんな世界であっても……いえ。そんな世界だからこそ人の愛や心の美しさを信じ続けていきたいと……そう願っている者も居るんです。私も少しばかり信じてみたく成って来たんですよ、人の心の美しさに……ね」

 ゼラは微笑み話しながらキューティーハニーの顔をジッと見つめた。

 実は数日前、ゼラと如月ハニーは二人だけで話をした事が有り、その際ゼラはハニーに自分の母親であり豹の爪の首領パンサーゾラは人の欲望から生まれた存在であるが為に、万が一ゾラを倒せたとしても欲望の化身である以上二度三度と復活し、その度に豹の爪は蘇ってしまうのだと。そしてハニーに共に欲望の無い世界へ行こうと彼女を誘ったのだがハニーは「それでも自分はこの世界を愛し、そして自分を愛してくれる人達と共に生きていく」との言葉を聞きハニー同様、自分自身もこの世界に残って少しでも人の心を感じ取ろうと思い直していた。

 そんなゼラに黒ローブは彼の内情を知ってかこんな台詞を吐き捨てた。

「……ハハ、ハハハハ! 何を言っていやがるんだアァン? そんな世界だから?? そもそも偽りのお前等には所詮何もできん! 偽物の愛や絆でな~にができる!! フザケタ事言ってんじゃねえぞ、腹が立つ!!」

 物凄い権幕で怒鳴り散らす黒ローブ。

 

 

 と、そんな黒ローブの視界に、彼が相手をしナースエンジェルに回復させてもらったちびムーンにプルート、そして鵺野鳴介と黒ローブに叩き付けられたタキシード仮面。更には投げ飛ばされた聖龍使いがミラーガールに肩を貸してもらいながら入って来た。

「アナタ! 今度は負けないわよっ」

 体力が全回復したちびムーンは黒ローブを睨みつけながら言い放った。

「今度は負けません……。何より、仲間が居れば負ける気なんか有りません!」

 ちびムーンに続きプルートも黒ローブに向かって豪語した。

「こっちは全員戦闘可能だ! 降りて来い!!」

「さっきは良くも私を地面に減り込ませてくれたな……! まだ頭が痛い……」

 眼光鋭い強面で言い放つぬ~べ~と、未だに痛みが残り頭を押さえてしまうタキシード仮面。

「……む……」

 そして聖龍使いはジッと黒ローブを睨むように見つめながら無言を保った。

 

 双方共に互いに怯みもせず、しばし睨み続けた。

 

 

 

[影でうごめく黒]

 

 そしてしばし聖龍隊と睨み合っていた黒ローブは何を思ったか、突然民家の屋根から飛び降りて聖龍使い達の眼前に立ち尽くした。

 黒ローブは素顔をフードで隠したまま聖龍使いや聖龍隊を見つめ、そして一言発した。

「まぁ……今日はこれ位で勘弁してあげますか」

 黒ローブの一言を聞いて聖龍使いは目を見開いて反応し、そして他の聖龍隊は怒りをあらわにするかの如く言い放った。

「な、なんだと!」「お前、逃げる気か!?」

 これを聞いた黒ローブは嘲笑うような口振りで聖龍隊に言い返した。

「はははは、大丈夫だ諸君。俺とお前等はまた再び相見(あいまみ)える時が必ず来る。俺はね、ただ……そんな君等に一言言って置きたいんだ……」

 聖龍隊はジッと黒ローブの言葉に耳を傾けていた。そして黒ローブは唐突に聖龍隊に告げた。

「もうすぐ、全ての物語は終わりを迎える。それまでその偽りの人生を味わってくれたまえ……それだけだ」

 この発言に一同キョトンとした。しかし聖龍使いは眼光を鋭くさせて一人黒ローブを睨み続けた。

 そして一言発した黒ローブは少しずつ後退して行きながら目の前の一同に一言。

「それでは皆さま……さようなら」

「あ、待て……」早見青児が黒ローブに駆けつけようとしたその瞬間。

 黒ローブは後の壁の中にスゥっと呑み込まれる様に消えた。

 

「……!」

 皆、その様を見て目を丸くして驚き言葉を失くした。

「い、今のは……」タキシード仮面が動揺しながら言葉を発する。

 そしてその場に只ならぬ空気が漂う中、皆呆然としてしまっていた。

 

 

 

 

 そして皆が落ち着いてから。聖龍使いは最初に黒ローブと一戦していた人物。以前にも面識のある鵺野鳴介と対談した。そして彼から話を聞いて聖龍使いは驚いた。

「……何っ!? 鵺野鳴介、それは真でござるか?」

 訊かれた鵺野鳴介ことぬ~べ~は神妙な面持ちで 聖龍使いを始めとした聖龍隊に話をした。

「ああ本当だ。最近やっと分かったんだが、あの黒いローブ姿の奴がウチの学校を始めとした各所に死霊怨霊の類を呼び寄せていたんだ。以前、君やミラーガールの協力を得られた後にも童守小を始め、その周りの地区にも怪奇現象が多発してな。俺が行って除霊とかしていたんだが、ある日怨霊の群れに遭遇して後一歩の所で倒せると思った矢先にあの黒ローブが現れて、霊の集合体に向けて手を伸ばした瞬間、集合体の霊力が更に強大になったんだよ。更に別の事件でも悪霊や邪悪な妖怪を手引きして生徒を襲わせていた事もあってな。今夜も家に帰る途中に出くわしてそれで追っていたんだ」

 ぬ~べ~に続きプリンスゼラも皆に話した。

「私もあの黒ローブの事は世界各地で耳にしていますよ。……以前からアニメタウン各所に出没している魔獣、それが今では世界中に出現しているんですが、あの黒ローブが彼等を先導しているらしいんです。実際に魔獣と共に姿を現しては彼等に様々な指示を出している様な手振りまで目撃されています」

 しかしゼラの話を聞いていた聖龍使いは目を細めながらゼラに言った。

「ゼラ、なんでお前が其処までの事俺達に教えるんだ? さっきもナースエンジェル助けてくれたけど、今一お前の事は信用できないんだよなぁ……そもそもなんでお前が世界中を飛び回っているんだ?」

 訊かれたゼラは微笑みながら返答した。

「聖龍使い、それは私自身の目でこの世界を知り、そして自分にとっての心を何とか見出そうと思いまして、それで世界中を旅していたんですよ。しかし今では世界中何処に行っても魔獣や魔獣を先導している黒ローブの事で持ちきりでしばし町に帰ってみたんですよ。まぁ、まさか黒ローブがアニメタウンにまでも出現しているなんて思ってもみませんでしたけどね」

「…………」 

 ゼラの話を聞いても彼に対して不信の眼差しを向ける聖龍使いを見て、ミラーガールが口を開く。

「聖龍使い! 前にも言ったけど、少しはゼラさんの事信じてあげましょうよ! 昔は昔、今は今でしょ」

「だ、だけど……」

「だけどじゃない! ゼラさんは真剣に自分と向き合う為に世界中旅しているのよ! 修司ったらホント人の事信用しないわよねッ! そこ悪いクセよ!」

「……」

 ミラーガールに怒鳴られ黙り込んでしまう聖龍使い。

「ははは、聖龍使いが言い包められちゃっているよ」

 思わず見ていたぬ~べ~が笑いながら聖龍使いに言葉を発する。

「ほほう、聖龍使いにあそこまで言うとは……ミラーガールは案外気が強いんですねえ……って、え? み、ミラーガール。今何と……今聖龍使いの事を修司って……!」

 ミラーガールの発言の中に修司と云うフレーズが入っていた事を気付いたゼラが呆然としながらミラーガールに訊ねてみた。

「あ、いや、そのな……」

 聖龍使いが動揺しているとミラーガールが笑顔で彼に言う。

「もう良いじゃない修司。ゼラさんは既に敵じゃないんだしさ」

「だ、だけどな……」

「……もう少し信じてあげましょうよ。私だってゼラさんには素顔明かせるわよ、ホラ」

 そう言うとミラーガールは顔に付けているマスクを取って素顔を見せた。

「え……! あ、アナタは……」

「へえ、これがミラーガールの素顔か。結構カワイイじゃないか」

 ミラーガールの素顔を見たゼラは驚き、そしてぬ~べ~は笑顔で褒めた。

「へへ。ゼラさん、貴方といは初めましてじゃないけど、ぬ~べ~先生、貴方に素顔を見せるのは初でしたね。初めまして、私加賀美あつこと云います」

 素顔を見せたミラーガールは初めて素顔を見せるぬ~べ~に笑顔で自己紹介をする。

 そしてゼラが驚きながらミラーガールに訊ねた。

「ま、まさか……あの加賀美あつこですか? キューティーハニーに変身してミスティーハニーの暴走を止めたり、更には死んでしまった彼女を生き返らせたあのミラーガールが同一人物だったなんて……!」

 真実を知って驚きを隠せないゼラ。

「……やれやれ」

 そして聖龍使いは半ばミラーガールの行動を見て観念したのか、ミラーガールに続き素顔を明かそうと鬼の面に手を伸ばした。と、その時。

「ウッ……!」

 鬼の面に手を伸ばした瞬間、ゼラが一瞬怯み思わず後退してしまった。

 そんなゼラに青児とタキシード仮面が言ってあげた。

「そんなに怯えなくても大丈夫だぜ、ゼラ」

「ああ、最初に見た顔とは全く違うからな」

 二人がそう言うと、聖龍使いは鬼の面を外してゼラに素顔を見せた。

「え……ッ! あ、アナタは確か……市長の小田原修司じゃないですか! な、何故あなたが……!!」

「……其処は別に良いだろ」

 驚くゼラに修司は顔をムスッとさせて返事をした。

「ん? おいアンタ。何をそんなに驚いているんだ。確かに聖龍使いが小学五年生だったなんて驚きだが、何もそんなに驚く事無いじゃないか」

「あ……い、いえ、別に其処に驚いている訳では……」

 ぬ~べ~に言われたゼラは内心、動揺と驚きで一杯であった。何故なら最初に見た聖龍使いの素顔、それが尋常でないほどの異形の顔付きであったからだ。

 その時、ぬ~べ~が唐突にゼラに話しかけた。

「……まぁ、俺はアンタが昔何をやっていたかは知らんが、今を必死に真剣に生き直そうとしているなら応援してるぞ。何だかアンタを見ていると身近にいる奴を思い出してな」

 笑顔で発言するぬ~べ~の言葉に聖龍使いこと小田原修司が訊ねた。

「……もしかして、その身近な奴って玉藻の事か? まっ、確かに少しゼラと似ているかもな。元敵とか銀髪とか……」

「ああ、玉藻に結構似ているよな。アイツも今じゃ人間社会でちゃんと生きているからな」

 ぬ~べ~の言う玉藻とは。かつてぬ~べ~と死闘を繰り広げた妖狐である。今では人間の社会で医者として生きていて少しずつ人の心を理解して来ているみたいだ。

 

 聖龍使いは次にぬ~べ~に助けてもらったセーラープルートとちびムーンに話を訊いた。

「……それで。お前達は何で此処に? 未来に帰ったんじゃなかったのか?」

 訊かれたプルートは暗鬱な表情で答えた。

「そ、それが……普通にタイム・ワープをしていたら何故か此処に辿りついてしまいまして……再度時の扉を開こうとしても何故か能力が使えなくなってしまっていて……」

 プルートに続き、ちびムーンも聖龍使いに語った。

「そ、そうなの……すぐに開こうとしたんだけど、能力事態使えなかったの……」

「ふーーん……」

 聖龍使いが考え込んでいると、其処にメタルバードが話に入って来た。

「オッ、それじゃ、またお前等一緒にこの町に居られるじゃねえかよ。プルートは戻ってくる予定ではあったけどよ、またちびムーンも未来に帰れるようになるまでこの町に居ろよ。そうしようぜセーラームーン」

 メタルバードが笑顔で調子よく訊ねると、セーラームーンも笑顔でちびムーンに言ってあげた。

「うん構わないわ! そう言う事でまたしばらく一緒だねちびうさ」

「う、うん!」ちびムーンも笑顔でセーラームーンに返事をした。

 

 その時、聖龍使いの肩をポンと叩いてゼラが訊ねて来た。

「ん? なんだゼラ」「いえね、ちょっと訊きたい事が有りまして……」

 ゼラは神妙な顔つきで聖龍使いである修司に訊ねた。

「……実は世界中回って色々と情報を耳にしているんですが……小田原修司、貴方は今日本にアジア初となる英雄集団を結成させて魔獣の群れを一掃する計画を国連と共同で進行しているという情報を耳にしまして……もしかして聖龍隊がその集団なのですか?」

 訊かれた修司は今までにない神妙な表情でゼラに告げた。

「……今はまだ黙っていろよ。まだ計画は進行中何だからよ……分かったか」

「……まぁ、あなたには色々と貸しが有りますしね。今は黙っておきましょう。何より、何れは貴方の口から皆に伝えられる筈ですしね」

 ゼラと修司が神妙な面持ちで会話を密かにしていた、その時である。

 

「あっ、そうだ。修司さんから貰ったお団子大丈夫かな? あれから大分時間が経っちゃっているけど……」

 ちびムーンが徐に修司から受け取った風呂敷を開けて見てみると、団子はすっかり冷めて硬くなっていた。

「あらあら」「これじゃ硬くて食べられないわね」

 マーズとマーキュリーが苦笑しながら呟くと、すかさずぬ~べ~が場に入って来た。

「ま、待て待て! 硬いからって捨てちゃ勿体無いだろうがッ。要らないんだったら俺が貰うッ」

 よだれを垂らしながら風呂敷の中の団子に覆い被さるぬ~べ~を見て呆然としてしまう一同。

「え? な、何、この人……」

 呆然となるジュピターに続きプルートが呟いた。

「き、聞いていた通りの貧乏人ですわ……」

「ま、待て! オレだって修司の手製の団子は食いてえんだ! オレにも寄越せ!」

 更に其処にメタルバードも入り、ぬ~べ~と団子の取り合いが始まった。

「は、放してくれ! 今月もカップ麺ばっか食っていて財布も空っぽなんだ! 少しは慈悲の精神ぐらい見せてくれよッ、英雄のくせに!」

「ウルセエ! 金欠教師に言われたか無えわ!」

 

 そんな状況を見ていた修司は人知れず考えていた。

(……今はまだみんなに言わない方が良いな。まだ異次元亜空間ゲートも完成していないし、もう少し黙っておこう)

 

 聖龍隊は未だに知らない。修司の行おうとしている広大な計画に。そして自分達が立ち向かう敵の巨大な勢力に、今は誰も知る余地も無かった。

 

 

 

 ところ変わって此処は大江戸町、黒天狗党の地下基地。

 其処ではかねてより黒天狗党を支配下に置いた豹の爪、その幹部であるシスタージルが首を傾げながら悩んでいた。

「……う~~ん、黒天狗党を支配下に置けたのは良かったが……未だにルミノタイトの研究は進まぬし、何とかならんのか……」

 一人悩んでいると、シスタージルの前に一人の人物が現れた。

「……お困りの様だな。シスタージル」

「ム! お、お前は誰だ! な、何故此処に……!?」

 目を丸くして驚くジルが訊ねると、その者は少しずつジルに歩み寄って来た。しかもその手には別の何者かが身動きを取れない状態で首根っこを掴まれ引き摺られていた。

 その者は何と、先ほどまで聖龍隊と一戦していた黒ローブであった。黒ローブはジルに言った。

「まあ、俺が何者かは別として……これは手土産だ、好きにしてくれ」

 そう言って黒ローブは引き摺って来た人物をジルの前に差し出した。

「ムッ、こいつは……!」

 その人物を見て驚くジルに、黒ローブが答える。

「ああそうだ。ルミノタイトの研究権威者である花丘魁(はなおか かい)博士だ。今お前等が総出で探している男だろ? コイツにルミノタイトの研究をさせれば、お前等豹の爪の懐は潤うんじゃないのか?」

「あ、ああ。まさしくその通りだ……し、しかし何故お前が我々に魁博士を……」

 動揺するジルに黒ローブは更に「……ついでだ。これもやろう」そう言ってジルに何かの紙切れを差し出した。

「これは……い、異次元亜空間ゲート?? 何じゃこれは?」

「それはなジル……今国連が秘密裏に行っているプロジェクトの一部だよ。異次元空間を自在に移動して自由に異世界と交流を持つようになって各異世界にある貴重な鉱物やエネルギー源を手にしようと今開発が進んでいるんだが、それは異世界に自由に行き帰りできる異次元亜空間ゲートの設計図だよ。これを使って異世界に出向いてお前達の欲しい物をその世界から略奪していけばお前達の懐は潤うだろ」

「な、なに! 異世界に……。し、しかしお前は、一体何故我等にこの様な物まで……」

 不思議がるジルに黒ローブは怪しく語った。

「いやな、お前等に少しでも力を貸してあげたいだけだよ。……そしてゆくゆくは聖龍隊を倒せる力を豹の爪に手に入れて欲しい訳だ」

「何? 聖龍隊を倒す? お前の目的はそれか……だ、だがそれだけで我等に……」

 初めて見る黒ローブの言動に疑いを感じるジルに対し、黒ローブは彼女に近寄り手ぶり羽振り語った。

「なに、良く言うじゃないか……敵の敵は味方、と……俺は少しでもあんた等と協力して英雄達を消し去りたいだけなんだよ」

「む……」

 まだ少し疑うジルに対し黒ローブは止めの言葉を発した。

「疑いはごもっとも。だけど魁博士が居ればルミノタイトの研究も捗るんじゃないのか? アンタはこの男を好きにして存分に働かせればそれで良いじゃないか」

「……む、分かった。魁博士と亜空間ゲートの設計図は有りがたく貰っておこう」

 話を聞いたジルは渋々黒ローブの意見に賛同した。

 

 そしてジルはふと黒ローブに訊ねた。

「話は分かったが……ところで、お前は一体……」

 訊ねられた黒ローブは彼女に顔を向けて一言名乗った。

 

 

 

 

「俺か……オレの名は…………やみびと《闇人》」 

 

 

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