【聖龍伝説:第二章】英雄達の日々   作:セイントドラゴン・レジェンド

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 遂に念願だった異次元亜空間ゲートが完成し喜ぶ修司。そして一部の仲間たちと共に異世界に行ってみる事にした修司。
■80年代アニメの「ボスコワールド」とのクロスです。余りにも古いですがどうぞ見てください。


ボスコワールドでの出逢い

[chapter:完成した亜空間ゲート]

 

「やりましたーー!」「遂にやったでーーッ」

 ある日ウッズとチップバードは大きく歓喜の声を上げた。

「遂にやりましたーーッ、遂にゲートが完成しましたよッ。ホントにありがとうチップバード!」

「いやいやぁ、ワテもおもろいモン造れて満足ですわぁ。しっかしまさか修司はんがこんなもんを造ってほしいとは驚きですわぁ」

 互いに手を取り合いながら喜び合う二人、いや一人と一羽。そして二人の背景には巨大なリング状の機械的な物体が存在していた。

 

 後日、修司はアッコを呼び出し地下の研究開発機関のフロアに彼女を招いた。其処にはウッズにウェルズ、そしてジュニアとバーンズにチップバードの姿もあった。

「修司。今日はどうしたの? 急に呼び出したりして……」

 首を傾げながら修司に訊ねるアッコ。すると修司はアッコに巨大なリング状の機械を見せながら彼女に話した。

「やぁアッコ。実はな、兼ねてよりウッズに造らせていたモンがやっと完成してな。このリング状の機械なんだが……」

「ん、機械? この大きな輪っかみたいなのがそうなの?」

「ああそうだ。最近チップバードがやって来て超獣族の技術も取り入れ、更には俺やウッズの人脈も駆使して様々な学者の協力も得て、やっと完成したのがこれだ!」

 修司は威勢よく機械に向けて平手を突き出してアッコに言い放つ。

「ふ~~ん、それで。これは一体何なの?」

 未だに何の機械か解らないアッコは修司に訊ねると、修司は堂々と語った。

「オオ! これは通称《異世界亜空間ゲート》っていう代モンだ」

「?? いせかいあくうかんゲート?」

 キョトンとするアッコにウッズが説明に入った。

「アッコさん、これはですね。簡単に言うと様々な異世界、すなわち別の世界や次元に自由に行き帰りできる装置なんですよ。これを使えば様々な世界と交流を持つ事が可能となり世界的にも更に発展できる事でしょう」

「へ、へぇ~~……」

 ウッズの説明にポカンとなるアッコは修司に訊いてみた。

「そ、それじゃ修司……この機械を使えば色んな世界。例えば妖精の世界とか、魔法が当り前の世界とか、自由自在に行く事が出来るの?」

「ああ、そうだぜ。まっ、まだ装置を完全に起動させてはいねえからな、ちゃんと別世界に行けるかどうかはこれから確認するんだ。それに上手く他世界にも行ける様なら、ついでにその世界と交流を持ってみようかなと思ってよ。それでお前を呼んだ訳だ」

「わ、私を?」

「ああ。お前は相手が自分と少し違う存在であろうと心を許せる女だからな。相手側にとっちゃ自分達に対してしっかり向き合ってくれる奴なら心を許してくれるだろうしな」

「そ、そう……」

 思わず呆然としてしまうアッコ。

 

 そしてウッズは装置を起動しリングの周りから電流が流れ始め、リングの中心から黒い狭間が発生し、最終的にリングには黒い入口の様なのが開いた。

「よし、これで第一段階はクリアだな。後は中に入れて、更には別の世界または時代に行ける様になっていれば良いんだが……」

「へ? 別の時代?」

 腕を組みながら思い更ける修司にアッコが訊ねると、修司は答えた。

「あ、ああ。もしかしたら空間軸じゃ無く時間軸も左右しちまって下手したら過去の時代とかに出ちまうかもしれねえんだよ」

 修司がアッコに言うと、次に修司はゲートに一緒に入るジュニアとバーンズに呼び掛ける。

「よ~し、今からゲートに入るけど準備は良いか?」

「ああ、平気だぜ」「こっちも大丈夫」

「よし。そんじゃ入ってみますか」

 バーンズとジュニアに確認をとった修司はゲートを潜(くぐ)り、そして修司に続きバーンズ・ジュニア・アッコも静かにゲートを潜って行った。

「……それじゃ、私達は修司様達が帰って来るまでのんびりと待機していますか」

「そうだな。もしかしてしばらくは帰って来ないかもしんねえしな」

 ウッズとウェルズ兄弟は修司達がゲートに入って行くのを確認すると、気を落ち着かせて二人とも椅子に座って待機した。

 

 それから数十分後……。

『ウワーーーーッ!!』 

 ウッズとウェルズがそれぞれ読書や筋トレをして待機していると、ゲートから修司達が慌てて出て来た。

「な、何事ですかっ?」「ン!? ん?!」

 兄弟は慌てて戻って来た修司達に驚愕していると、修司が慌てふためきながらウッズに言った。

「ウッズ急いでゲート閉めろ! 早く!!」

『???』ウッズ・ウェルズは訳が分からなかったが、次の瞬間。

「ウギャアアオオォォ……!」

 ゲートから小型ではあったが肉食恐竜が数頭飛び出して来た。

「きゃああっ!」

 一頭の恐竜がアッコ目掛けて飛び掛かり、彼女に伸し掛かった。

「このヤロッ」

 咄嗟に修司がアッコに伸し掛かる小型肉食恐竜を殴り飛ばす。

 恐竜はそのまま殴り飛ばされると、ジュニアの鞭とスタンバトンに変形したチップバードを持ったバーンズが必死に恐竜たちをゲートに押し戻して行く。

 そして全ての恐竜を押し戻したのを確認したウッズはすぐさまゲートの電源を切断し、ゲートを閉めた。

「はぁ……はぁ……」

 急いで戻って来た修司達は皆、目を丸くして息を切らしていた。そんな修司達にウエルズが訊ねてみる。

「ど、どうしたんだみんな? 一体、何が……」

 すると息を切らしながら修司が答えた。

「ど、どうするも何も……げ、ゲートを出た途端、はぁ……辺り一帯がジャングルでよ……見回していたら突然あの恐竜たちが、ラプトル達が群れで襲って来やがったんだよ。お、恐らくは多分……ジュラ紀とかの恐竜時代にゲートが繋がっちまったんだな。はぁ……」

 汗を大量に掻きながらウエルズに話す修司に、今度はアッコが訊ねた。

「はぁ……ね、ねぇ。修司……こ、この後もやっぱり、またゲート潜る訳なのよね……」

 冷汗を掻きながら訊ねてくるアッコに対し、修司も汗を拭いながら返した。

「ああ。今度は空間の軸とか色々と調整してから再度潜るわ。まぁ、恐竜時代で無くなるのは確実だから安心しろや……」

「……安心できないわよ」

 修司の話に涙目で返事をするアッコ。

 そして数分後。ウッズが機械の調整をして再度ゲートを開いた。

「よーーし、もういっちょ行きますかッ」

「……義兄さん、全然へこたれてないね」「ああ、全くだ……」

「前向きなだけマシと思ってあげよう……」

 調子よくゲートに進む修司に対し、他の面子は不安なのか、やや暗い表情であった。

 

 それから、また数十分後。

『ギャアアアアアアアァァァァァ!!』

「今度は何だ一体ーーッ!!?」

「てーーッ! なんで矢が続々とゲートから飛んでくる訳なんですかーーッ!?」

 再び修司達がゲートから飛び出して来たのだが、彼等と一緒にゲートから無数の矢が飛んできていた。

「ウッズーーーーッ!」「分かってます!」

 修司に言われる前からゲートの電源を遮断する作業に入るウッズ。

 そして再びウエルズは動揺しながらも目を丸くして皆に訊ねた。

「……こ、今度はどうしたんだ?」

 すると修司がド肝を抜かれた様な真顔で言った。

「そ、それが……関ヶ原の戦場だったみたい……」

「関ヶ原……って戦国時代かーーッい! なに? 今度は江戸に入る前の日本に行っちゃった訳? マジ半端ねえなオイ」

 眼球を飛び出させるほど驚愕するウェルズ。

 と其処に弓矢が数本ほど突き刺さった状態のバーンズが歩み寄って来た。

「!? バ、バーンズ! お前、矢が……!!」

 ウェルズに指摘され、バーンズは目を細めながら言い返した。

「ああ、修司はもちろん、お前の甥っ子のジュニアも、そしてアッコも、オレの事盾にしやがって……いっくらオレが死なねえ体だって言うのによ……」

 そう言うバーンズの目には薄ら涙が浮かんでいた。

 それから再度機械の調整をして、修司達は三度ゲートを潜ろうとしていた。

「……次は何が来るかな?」

「……平和な時代とか、平穏な世界ならもう何処でも良いわ」

 乗り気な修司に対して、アッコやバーンズジュニアは暗鬱な気分であった。

 

 それから数十分後。

 今度は、修司達は静かに、そして目を満丸にさせて半ば驚いている様な表情で帰って来た。

「ん? 今度は何処に行ったんだ?」

 皆の状態に異常に気になったウエルズが訊くと、修司は半ば興奮した状態で答えた。

「……き、桔梗……桔梗の旗印が、寺を囲んでいた……燃え盛る炎の中に、懸命に抗う武士の姿、有り……」

「……? ……て、まさか……! 本能寺!? 今度は明智の謀反の現場を目の当たりにして来ちゃった訳なの君達はッ!!」

 修司以外のアッコ、バーンズ、ジュニアは続けて話した。

「うん……凄かった……」

「多勢無勢の中、必死に抵抗していたぜ。信長さん……」

「戦国最大の事件を目撃する羽目になるとは……」

 すると修司が目を輝かせて皆に言った。

「歴史 それは壮大なるドラマである」

 その発言に対しバーンズが突っ込む。

「いい加減にしろよッ、この歴史バカ!」

 それに続いて修司が更に吐く。

「よーーし、今度は幕末にでも行ってみっか!」

『いい加減にしろ!!!!』

 歴史好きの修司に叫ぶ三人。

 

 

「はい。また機械調整してみました……。今度も何処に出るかは分かりませんが……」

 ゲートの調整を終えたウッズが気落ちした表情で皆に告げた。

「よし! 次も行ってみよう。歴史が変わる瞬間を、またこの目で見たいわ」

 二度も歴史的光景を目の当たりにした修司は目の色を変えて心踊っている心情であった。

『…………ハァ』

 だが修司以外の三人は、また危険な目に遭うのかと思い気持ちが下がっていた。

 その時、修司が唐突に発言した。

「よし。誰か、先にゲート潜って今度はどんな所か様子を見に行ってこいや」

『え!』修司の無茶ぶりにアッコ、バーンズ、ジュニアは愕然とした。

 するとアッコは突然バーンズを押しだし叫んだ。

「そ、それならバーンズに行ってもらいましょう!」「え?」

 困惑するバーンズを尻目に、アッコに続きジュニアも動揺しながらも口を開く。

「そ、そうだね。バーンズなら何が有っても死ぬ事は滅多に無いんだし、適任だね」

「!?! な、なに言っちゃっている訳お二人さん!? 毎度の事とは言え酷くねえ!?」

 しかし涙目で叫ぶバーンズの声を無視して修司達はバーンズを押し出し無理やりゲートを潜らせようとする。

「わっ止めろ、止めろってば……! わっ!」

 抵抗虚しくバーンズは強引に真っ先にゲートを潜らせられた。

 

 それから数分。

「……だ、大丈夫かな?」「……」

 ジュニア、アッコが心配する中、バーンズが一人平然と戻って来た。

「あ、バーンズ」「どうだ? 今度は安全な世界か?」

 アッコと修司に訊かれたバーンズは真顔で答えた。

「大丈夫みたいだ。何だか草木生い茂る、風の気持ち良い森に出たぜ」

 バーンズの言葉を聞き安堵した一同は穏やかな表情になった。

「よし、それじゃ異世界に行ってみますか」

「うん。今度は大丈夫な世界みたいだし早く行きましょう」

 安全が確認され安堵した修司とアッコは真っ先にゲートを潜って行った。

「良し、ボクも行こうっ」

 二人に続きジュニアも駆け足でゲートを潜って行った。

「あ、おい。俺が確認したんだからな。俺を置いて行くなよッ」

 そして最後にバーンズがゲートを潜り、全員が向こう側の世界に行ってしまった。

 

「……ふぅ、全員行っちまったな」

「それじゃ、皆さんが戻って来るまで上でのんびりお茶してますか」

「オッ、良いな。兄貴、俺も頂くぜ」

 残ったウッズとウェルズはゲートを開放したまま上の階に上がって行った。

 

 

 

 

[心地よい風吹く森の中で]

 

 そしてゲートを潜った修司達は穏やかな風が吹く森の中に出た。

「う~~~~ん……風が気持ち良いわ~~」

 森の空気と流れてくる爽やかな風を背伸びしながら堪能するアッコ。

「へぇ~~……結構、自然豊かな良いとこじゃん」

 周りを見渡しながら修司が呟く。

「確かに。森も風も、そして動物も活き活きしてやがる」

 修司に続きバーンズも辺りの森の情景を見ながら呟いた。

「……何だか、昔住んでいた森を思い出すなぁ」

 本来は親指ほどの小人族であるジュニアは周りの森を眺めて昔を思い出していた。

 

 と、その時。森の奥から人の話し声と誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。

「ム? 誰か来たぜ」「ど、どうする……?」

 バーンズとアッコに続き、修司が皆に言う。

「いや待て。下手に隠れて見つかったら怪しい奴と思われて敵視される可能性も有るし、此処は様子見も兼ねて堂々としていようぜ」

 そして森の奥から二人組が荷物を抱えながら歩いて来た。

「……よし。食料はこれで十分だね、オッター」

「ああ、久々にまともな食材で料理ができるから腕が鳴るよ」

 その二人は修司達とばったり顔を合わせた。

「……あ」「ん? どうしたフロー……んん?」

 二人は修司達を見て呆然とした。

「あ……」『…………』

 そして修司達もその二人を見て内心驚きで一杯であった。

 何故ならその二人は、カエルの獣人と毛の生えた動物の獣人の二人組で有ったからだ。

「あ……そ、その……こ、こんちは……」

 二人と目が合った修司は苦笑いしながらも挨拶をした。

 一方カエルの獣人達は修司達を見て半ば驚きながらも声を掛けた。

「……き、君達は……一体……」

「だ……誰なんだ?」

「い、いや。そのーー……」

 修司を始め、アッコ達も何と答えて良いのか困惑していると、動物の獣人が修司達を指差しながら言った。

「あれ? 珍しいなぁ。妖精族の方々がボスコの森にやって来るなんて」

「ん? ボスコの森?」

 獣人の発言にキョトンとなる修司であったが、獣人は更に修司達に訊ねてきた。

「どうしたんです、こんな所で……? 何やら不思議な服装ですが、もしかして旅の方ですか?」

 訊かれた修司は咄嗟に受け答えてしまう。

「そ、そうなんです! 俺たち旅の者で、ちょっとこの森を通り抜けようと思っていましたら、此処の美しい自然に感動いたしましてそれで思わず立ち止まってしまっていたんですよ。ははは……」

「そうですか……あ、良ければ御一緒にどうです? まあこの森はそうそう迷うほど深くは無いですが、初めてでしたら道案内しますよ。ちょうど森を抜けた所に僕等の住いも有る事ですし」

「え……あ、ああ! は、はい、ありがとうございます。いや助かります、はい」

 カエルの獣人に言われ修司は快く返事をした。

 

 そして修司達はカエルの獣人達に連れられ共に森の中を歩いて行った。

 その時、バーンズが小さな声で修司に訊ねていた。

「な、なぁ。修司……お前、なんでまた旅行者なんて言いやがったんだ?」

 訊かれた修司は真顔で小さく言い返した。

「なに、今は余計な事は言わないで置いた方が、向こうが混乱する事は無いだろ? 折を見てちゃんと話すつもりだからよ。今は俺に任せてくれや」

「ん……」

 思わず口を閉ざしてしまうバーンズ。

「お、おい……フローク、こいつ等大丈夫なのか? 見た事のない連中だけど……」

 その時、もう一人の獣人がカエルの獣人に訊ねると彼は平然と真顔で答えた。

「いや大丈夫だろ、何だかこの人達悪い人には見えないし」

「そ、そうだが……」

 快く修司達の案内を言い出すカエルの獣人に対し、初見の修司達に少し挙動不審を抱く獣人。

 その時、カエルの獣人が修司達に自分の名を語った。

「あ、そうだ。自己紹介がまだでしたね、遅れてすみません。自分はフロークと云います」

 彼に続いてもう一人の獣人もオドオドしながらも名乗った。

「じ、オイラは……オッターと云います。よろしく……」

 彼等に続き、修司達も名乗り始めた。

「ど、どうも初めまして。俺は小田原修司」

「か、加賀美あつこです」

「僕はジュニア。ジュニア・j・プラント」

「オレはバーンズだ。ところでオッターって言ったなアンタ」

「え? は、はい、そうですが、何か……」

「いやな。お前ってその……な、何の動物なのかな~って……」

 オッターへの質問に訊いたバーンズ以外のメンバーは内心ドキッとした。いくら相手が獣人とは言え、率直に何の動物かを訊くのは失礼なんじゃないかと思ったからだ。

「へ、オイラ? オイラはカワウソだけど……」

 幸い、訊かれたオッターは怒る様子も見せず普通に答えてくれた。

 

 そして修司達はカエルのフロークとカワウソのオッター等と共に森の中を進んでいった。「

 

 

 

 

[気球船の中で]

 

 フローク達に連れられ修司達は森を抜け出た。

 すると森の入口には大型の気球船が定着していた。

「おおぅ、これはでっけえなぁ」

 気球を一目見て修司が呟く。

「ホントね。結構立派だし」

 修司に続きアッコも気球を見て呟く。

 と、その時。修司達が気球を眺めていると、中から一人のカメの獣人が出てきた。

「お帰り、フローク、オッター。少し遅かったね」

「ああゴメンゴメン。ちょっと森の中で旅の人達に出逢ってね。念のため森で迷わない様、一緒に歩いて来たんだ」

 出てきたカメの獣人はフロークとオッターを出迎えるとフロークは質問に答えながら修司達の方に視線を向けた。カメの獣人もフロークの視線を追う様に修司達に視線をやった。

「おお珍しいな、この辺に旅人が寄って来るなんて……これも数年前のあの出来事で少しは世界が潤ってきたからかな……」

「お、おいタッティ! その話は厳禁だろッ」

「あ……! す、済まない……」

 突然カメの獣人が話していると、いきなりオッターがカメの獣人に向かって制止させる発言を言い、カメの獣人は申し訳無さそうに謝った。

「ん……?」その様子に何かを感じたバーンズ達。

 だが修司だけは一人、二人の会話を聞いて人知れず悲愴に満ちる表情を浮かべるフロークの様子に気付いていた。

 そんな二人の会話が醸し出す重く悲しい空気の中、カメの獣人はその場の空気を変えようと修司達に歩み寄り彼等に握手を求めた。そして同時に己の名を語った。

「あ、ああ……は、初めまして。僕はタッティと言います。ど、どうぞ宜しく」

「あ、ああ……こ、此方こそ……」

 修司は慣れない握手に多少困惑したが、何とか平常通りにタッティと握手を交わした。

 そして修司に続きアッコやバーンズ達もタッティと握手を交わす。

「……どうも。あ、ああそうだ。良かったら気球の中でゆっくりして行きませんか? これも何かの縁ですし……少し狭いかもしれませんがボスコ号の内装は居心地が良いですよ」

「え、上がって大丈夫ですか?」

「ええ、これも何かの縁ですし……あ、それに旅をしているなら一度フォンテーランドに行く事をお勧めしますよ」

「え? フォンテーランド?」

 フォンテーランドの言葉に反応する修司に彼と会話していたタッティが語った。

「はい。僕等の住んでいるボスコの森の近隣にフォンテーランドという国が有るんです。其処に行けば色々と観光する事が出来ますよ」

「そうですか。あ、それなら其処にすぐに行きたいんですが、どうしたら行けますか?」

 修司が訊ねると其処にフロークが歩み寄って来て機嫌よく修司に言った。

「それでしたら僕等がフォンテーランドまで送って行きますよ。このボスコ号に乗ればあっという間に着きますし」

「え、良いんですか? 其処までしてくれるなんて……」

「別に構いませんよ。さっきタッティも言っていましたが、これも何かの縁ですし、それに僕等もちょうどフォンテーランドに行こうと思っていたところなんですよ」

 そう言うとフロークは修司達をボスコ号の中に招き入れた。

「ささ、どうぞ中へ」

「は、はい。それでは、お言葉に甘えて……」

 言われるままに気球船の中に入って行く修司達。

 

 そして修司達が気球船内に入ると後からフローク達も続けて船に乗り込んだ。だが突然、一羽の九官鳥が修司目掛けて飛んできた。

「ワーー。ダレダ、ダレダ、オマエラダレダーー」

「うわっ、なんだこの鳥?」

 飛んできた九官鳥に動揺する修司。その時フロークが九官鳥に向かって呼びかけた。

「こらッ、スピーク。お客さんに向かってイタズラするんじゃない!」

 すると九官鳥は大人しくなり、フロークの方に飛んで行くと彼の肩に乗っかった。フロークはすぐさま修司に謝罪を申した。

「ごめんよ。こいつ結構イタズラ好きで……まさか初めて見る君等に対してもちょっかい掛けるとは……」

 しかし修司は謝罪を述べたフロークに温和に話し返した。

「い、いやいや。初めての人だったからこそ警戒しちゃったのかもしれませんし大丈夫ですよ」

 修司とフロークが話をしているとタッティが二人の所に歩み寄って来て修司に話しかけた。

「ははは。えぇっと、確か修司……だったね。今からボスコ号を動かしてフォンテーランドまで行くけど、君達はこのまま向こうまで行っても大丈夫かい?」

 訊ねられた修司は快く返事した。

「ええ、俺達は何時でも構いませんよ。何よりそのフォンテーランドとやらを早く見てみたいですしね」

「そうか。いやね、あそこは今では水の溢れる素晴らしい大地になっていましてね。多くの旅人が立ち寄る名所なんです。君達もきっと気に入る筈だよ」

 そう言うとタッティ操縦席に歩いて行った。

「よぅし、そんじゃオイラは厨房で昼メシ作ってくるわ」

 オッターが厨房に向かおうとすると、フロークが彼を呼び止めた。

「あ、オッター。作るんだったら彼等の分も一緒にお願いできるかな? さっき食材なら大量に買ってきたから大丈夫だろ?」

「え、彼等のって……旅の人達の分も?」

「ああ。どうせなら一緒に食事しても良いだろ」

「あ、いいえ。俺達は其処まで……」

 修司が遠慮しているとフロークがすかさず言い返す。

「いやいや、御遠慮なさらず。フォンテーランドまで行くまで軽く食事でも。旅仲間気分でね」

「あ、その…………わ、分かりました。ありがとうございます」

 無理に断るのも失礼かと思い、修司はフロークの誘いを受けた。

「よし。それじゃオッター宜しく。君の料理の腕を振るってくれよ」

「オオっ、任せとけっ」

 威勢良くフロークに返事するとオッターは厨房に駆け込み料理を始めた。

 

 そしてボスコ号が発進し、修司達はフローク達の計らいでフォンテーランドまで連れてってもらった。

 それから修司達はフローク達とオッターが腕を振るって作ってくれた、この世界の料理に舌鼓をし堪能しながら楽しく会話していた。

「……なるほど。貴方達はつい最近まで世界中を旅してまわっていたんですね」

「ええ、数年前から世界中を旅してましてね。今回は少し羽休めも兼ねて故郷であるボスコの森に立ち寄っていたんです」

 食事をしながら会話を挿む修司とフローク。此処で修司は折を見たような眼つきでフロークに訊ねてみた。

「ところで……フロークさん」

「あ、そんなに他人行儀な呼び方は……。フロークと気軽に呼んでください」

「そうですか、それでは改めまして……フローク、これから俺達が行くフォンテーランドって、どんな国なんだい? 君たちと同じ容姿の人達が暮らす国なのかい?」

「いや。フォンテーランドは主に君たちと同じ妖精族が治めている王国なんだ。此方では妖精族は位の高い身分で、僕達森の住人はタダの民間人なんだよ」

「ふ~~ん……(なるほど。つまりフォンテーランドは妖精族による貴族社会で、彼等が住んでいる森の住人達は単なる近隣の村に住んでいる存在で身分が低いのか……と、言う事は)」

 フロークの話を聞いて修司は、更にフローク本人に訊いた。

「ところでフローク。其処は王国って言うけど、それじゃやはり王家の人とか居るのかい?」

「いや、王家は今はもう訳有ってないんだ……今は総理大臣が代わって国を治めている筈だよ」

「そ、そうか……」

 この時、修司はフロークの顔色が微妙に暗く変わったのを見逃さなかった。

 そして修司は唐突にフロークに告げた。

「……ところでフローク。俺たちちょっと、その総理大臣さんに会いたいと思うんだが」

「え?」「なにっ?」「え!」

「ちょ、ちょっと修司! いきなり何言うのよッ」

 修司の突然の発言に話を聞いていたフローク、バーンズ、ジュニア、そしてアッコは驚いた。

「え? え? ちょ、ちょっと修司? き、君は何故いきなり大臣に会いたいなんて言うんだい……?」

 驚くフロークに訊かれた修司はいかにも神妙な面持ちで答えた。

「いやな……実はなフローク。俺達は国から国を巡っては、其処の国と色々と交流を結んで行く一種の使節団みたいな存在なんだよ。だからこそ王国の重役である総理大臣と少しは話をして交流を持ちたいと、そう思っているんだ」

「…………」

「それでだなフローク。出来ればで良いんだが、俺達をそのフォンテーランドの総理大臣のところまで案内してくれないか? なに、無理にとは云わない。フォンテーランドまででも構わないし、可能であるなら総理大臣の所まで連れて行ってくれれば、それで良いんだよ」

 修司の話を聞いたフロークは目を丸くして黙り込んでしまっていた。そして同様に修司の仲間達も同じ様子であった。

 フロークはしばし考え込んだが、修司に口を開いた。

「……分かった。君達を総理大臣の所まで連れて行ってあげるよ。実は総理大臣とは昔からちょっとした旧知の間柄でね。頼めば君達と話しぐらいはしてくれると思うよ」

「そ、そうか助かるよフローク。そんじゃフォンテーランドに着いたら宜しくな」

「ああ」

 快く修司の相談を受諾してくれたフローク。しかし修司の提案に、彼にアッコが耳打ちで訊ねた。

「ちょ、ちょっと修司。何いきなり。使節団って、しかも国から国へってウソばっかり……」

 耳打ちで話してくるアッコに対し、修司もヒソヒソ声で話した。

「なに、世界から世界へってのを国から国へって言っちまっただけだ。それに交流を求めるってのは嘘じゃないだろ。一応この世界の国、フォンテーランドの総理大臣とウマが合った時を見計らって正直に話すから良いだろ別に。ほら、良く言うだろ……嘘も方便って」

「…………」

 呆れてアッコは修司に何も言えず黙ってしまった。

 

 そして一行はそのまま気球船ボスコ号に乗ったままフォンテーランドに向かって行った。

 

 

 

[水の国 フォンテーランド]

 

 修司達を乗せた気球船ボスコ号は無事にフォンテーランドまで辿り付いた。

 フロークとオッターの案内の元、彼等と共にこの国を治めている総理大臣の所まで町中を歩いて移動していた。

「ふ~~ん、結構豊かな国柄だな。町の人達も活気だっているぜ」

 町の中や其処で暮らす人々の表情を見てバーンズは、彼等がいかに充実した生活を送っているのかを悟った。

「良い街並みね。住んで居る人達も何だか幸せそう」

 アッコも人々の笑顔を見て穏やかな心情になる。

「ああ、此処も数年前までは酷く荒れていたけどね。今では皆が必死になって王国を復興させたからこそ活気ある国になってくれたんだけどね」

「ん? 荒れていた?」

 オッターの発言に反応した修司が思わず言うと、オッターは挙動不審な口調で言葉を発した。

「あ……い、いやね。ちょっと……」「ん?」

 と、その時。

「あ、着いたよ修司」

 フロークが修司達に向かって言葉を発した。彼の視線の先にある建物を手で差しながらフロークは言った。

「此処がこの国を治める宮殿だ。この中に総理大臣のエンダー氏が居る筈だよ」

「おお、そうか。ありがとなフローク」

 修司はフロークに礼を言った。

「いやいや。それじゃ中に入ってエンダーさんに君達の事を話してみるよ。……分かってくれれば良いんだけど」

「難しいと思うぜ。あの爺さんかなりの頑固者だし、俺達や余所者に対しては何かと突っ掛かって来るし……」

「お、おい。大丈夫なのか……」

 オッターの発言に不安を感じるバーンズ。

 

 と、その時。

「おい、お前等!」「ん? なんだいアンタ等」

 宮殿に入ろうとした修司達を止めたのは、其処の門兵達で有った。

「お前等、妙に変な身形だな。それに見た事の無い面構えだし、何者なのだ」

 すると兵士達と修司達の間にフロークが入り、兵士達に訳を話そうとした。

「ま、待ってください。彼等は……」

 だが兵士たちは問答無用で剣を抜いて切っ先を修司達に向けた。

 そして危機を感じた修司は咄嗟に腰に下げていた聖龍剣を抜き、兵士達に向かって一瞬で刀を振るった。

「うわっ」兵士たちは驚き、そして怯み腰を抜かした。

 更に自分達が修司達に向けていた剣が物の見事に切断され、更に兵士たちは驚いた。

 それを見ていたフローク、オッター、そしてアッコ達も目を丸くして驚いてしまった。

 修司は腰を抜かし座り込んでしまう兵士達に刀を向けた。

「ヒッ」

 怯える兵士達の恐怖を感じる瞳を垣間見た修司はすぐさま聖龍剣を鞘に納めつつ、兵士達に向かって発した。

「俺達は別に敵意などは無い! ただこの国の総理大臣で有らせられるエンダー殿に話が有って来た! 速急に御会いさせてくだされ!!」

 この時の修司が放つ異様な闘争心が感じられる瞳を見て、アッコ達やフローク達は呆然としてしまった。それは先ほどまでの子供らしい目付きとは違う、何処か気高さが感じられる熱い眼(まなこ)だった。

 その時、宮殿の奥から一人の老人が護衛の兵士たちを連れて駆けつけてきた。

「何事じゃ一体!」

「あ、大臣。じ、実はこの者らが大臣に会わせろと、急に剣を振って来まして……」

「なに?」

 門兵の一人が老人に話をすると、聞いていた修司が突然老人に対して膝を着き、頭を下げて丁寧語で述べた。

「……お初にお目にかかります。自分、他国より参った小田原修司と言う者です。このたびは突然貴方様の兵士に向かって刀を振り回した事、深くお詫び申し上げます」

 頭はもちろん、体までも低くして、しかも丁寧語で述べる修司を見て、老人達はもちろんアッコ達やフローク達も驚いてしまった。

「我ら、このたびフォンテーランドと友好的な関係を築きたい所存で有りまして、この国を治める総理大臣エンダー氏に会いに来た所存。何とぞ宜しくお願い申し上げます」

 修司の丁寧な言動を目の当りにし、老人は修司に声を掛けた。

「……そうですか。それは遠いところから遥々フォンテーランドにようこそ。ワシがこの国の総理大臣のエンダーじゃ」

「おお、貴方が。総理、御無礼の所業、お許しください」

 顔を上げ、エンダーの顔を見ながら謝罪を述べる修司に、エンダーは笑顔で話した。

「いやいや……おい、お前達。この者には悪意はない。……修司殿、どうぞ中へ」

「ありがとうございますエンダー殿。……アッコ、バーンズ、ジュニア。中に入るぞ」

「あ、ああ……」「わ、分かった……」

 エンダーに招かれ修司に続きバーンズ、ジュニアも宮殿内に入って行く。

「あ、ちょっと待ってください。ふ、フロークさん達は……」

 アッコは招かれてないフローク達を差してエンダーに言い放った。

 するとエンダーはフローク達を見てハッとした。

「オオっ、なんじゃお前達か。修司殿ばかり目が行ってしもうたから気付かんかったわ」

 何とエンダーはフローク達の事は目に入ってはいなかったのだ。

 思わず呆然としてしまうアッコにオッターが告げた。

「良いんだよ別に。この爺さん、いつもこんな感じなんだ……」

「は、はぁ……」

 そしてフローク達も修司がエンダーに言った御蔭で共に宮殿内に入る事が出来た。

 

 

 

[サムライと遭遇]

 

 そして宮殿内で修司は、エンダーに対して眼前で膝をつき頭を下げて深々と申し上げた。

「……と言う訳です、エンダー殿。我々は各世界を渡り歩いては其処の王国と友好的な関係を築きたいと思い、こうしてフォンテーランドに辿り付いた訳なのです」

「うむ……」

 修司から、彼等が異世界からやって来た存在で、自分達はただ王国の者達と友好的な関係を築いていきたい一心で有ると聞いたエンダーは神妙な面持ちであった。

 そして話を聞いたフロークにオッターも寝耳に水の如く驚いていた。

「ま、まさか修司が、いや君達が異世界から来ていたなんて……」

「ご、ごめんなさいね。早く言えないで……」

 驚くフロークに申し訳無さそうに言うアッコ。

 そしてエンダーは修司から粗方の話を聞くと修司に言った。

「……分かった。主等の話を信じよう。何より先ほど、貴方の瞳から感じた騎士道にも通じる熱い闘争心。その精神を持って居る貴方が悪しき者とは到底思えん。どうぞ心行くまで我が国でごゆるりとして下され」

「はい。寛大な気遣い、感謝の所存であります」

 修司はエンダーに礼の言葉を述べ、後方にスッと下がる様に腰を上げた。

 

 それから修司達は宮内の兵士たちと様々な会話をして情報を得ると、宮殿の中庭で兵士から剣を交えないかと言われた。修司も快く真剣で立ち合う事を承諾した。

「あ~~あ、私何だかつまんない」

 兵士たちとの会話、更に外交などの難しい話ばかりでアッコは退屈していた。

「だったらちょっと外に行ってろ。ついでにこの王国内の情景も堪能しとけ。まだ俺達の知らない名所とか有るかもしれないしよ」

「う、うん……分かった」

 修司に言われアッコは宮殿を出ようとすると兵士の一人がアッコに声を掛けた。

「あ、もし。名所でしたら良い所を知っていますよ」

「え、何処か良い所でも?」

「はい。此処よりしばらく行った所に《命の泉》という名所があるんですよ。今はかなり人の集まるフォンテーランドの名所になっているんですよ」

「へぇ……分かりました行ってみようと思います。教えて下さってありがとうございます」

「いえいえ、大事な客人ですし……あ、もし道に迷われたら国内の各所にいる兵士に訊ねてください」

「はい、どうもありがとうございます」

 アッコは兵士に笑顔で礼を述べるとそのまま宮殿外まで早歩きで行ってしまった。兵士たちは笑顔で礼を述べるアッコの背中を見届けながら思わず呟いた。

「……何だか、あの子を見てると思いだすな。姫のこと」

「ああ。姫もあの女の子の様に優しい瞳をしていたからなぁ……」

「ん? 姫? この国に御姫様なんていたのか?」

「あっ、いえ……その……」「?」

 二人の兵士の呟きを耳にしたバーンズが訊ねると、兵士たちは何故か黙り込んでしまった。

「は!」「ていや!」

 一方修司は兵士と刀と剣で剣戟を交えていた。

「そりゃッ!」「ウッ」

 互いに一歩も引かぬ健闘であったが、一瞬の隙をついて修司が兵士に刀を振るうと兵士の剣は物の見事に切断された。

「……い、いや……ま、参りました。見事な太刀筋でした、お見事」

 驚いた兵士は腰を抜かしながらもすぐに立ち上がり修司に奮闘を称える意味合いで握手を交わそうとした。

 しかし修司は手のひらを見せる様に前に突き出し兵士に一言発した。

「アンタ、その鎧……結構もろいな」「……へ?」

 修司の一言に呆然とする兵士だったが、次の瞬間。

「! う、うわっ?」

 何と兵士が着用していた鎧までも一刀の如く斬られてしまい、鎧を着てた兵士はもちろん見ていたバーンズとジュニアそしてフローク、オッターそして他の兵士たちも驚愕した。

 その時、それを離れた場所から見ていた総理大臣のエンダーが修司達の所に歩み寄り笑いながら修司に声を掛けた。

「ほっほぅ、いやいや大した腕ですなぁ修司殿」

「お、エンダー殿。いや、此方の兵士の腕も一級品ですよ。一瞬の隙を付けたから良かったものの、下手したら一本取られていましたよ」

 見事兵士を打ち負かした修司を称賛するエンダーに対し修司は謙遜の発言を述べた。

「ほっほ……ところで、修司殿の持参しているその剣、見た事の無い形をしておりますなぁ」

「ん? ああこれですか。これは我が国で作られた日本刀という武器です」

「ニホントウ?」

 修司が使っている、今まで見た事の無い刃物に興味を示すエンダーに、修司は丁寧に説明し始めた。

「はい。日本とは私の生まれた国の名でして、日本刀とは我が国の名を付けた日本で作られる名刀なので有ります。剣の様に相手の体を貫く貫通力はもちろん、相手の体を切り裂く切断力、そして相手からの剣戟を受け止める防御の構えもできる、正に攻防一体の武器なので有ります。そして我が国日本では武士の誇りと気高さの象徴でもあるのです」

「ん? ブシ?」

「武士とは此方の世界で言えば騎士と少し似ている境遇なので有りますが……騎士は剣術を得意とし祖国や主を護る事を誇りにしているのに対し、武士は剣術だけでなく体術等の格闘技を鍛え上げ祖国や主君だけでなく自身の誇りの為にも命を投げ捨てて戦う者を意味しているのです」

「ほう……」

「それから、我々の国で武士は別の名ではこう呼ばれています。……サムライと」

「サムライ……!」

 修司の口から出たサムライと言う言葉にエンダーは衝撃を感じた。更にこの時の修司からは何とも言えぬ威圧感が醸し出され、この威圧感に対してもエンダーは修司に言い知れぬ威圧感と同時に彼の誇りと気高さに深く感極まっていた。

 

 

 

 一方アッコは一人、宮殿より離れた場所にある《命の泉》に来ていた。

 たまたまだったのか穴場にしては余り人が少ない場所であったが《命の泉》と呼ばれる泉だけあって、泉からは何とも言えない神々しさが漂っていた。

「へぇ~……確かに。綺麗な泉ねぇ、何だか心が洗われる気持ちだわ……」

 泉から溢れ出る水の煌びやかな音に耳を傾けながら、アッコは一人泉の前で立ち尽くしていた。

 

 だが、そんな時だった。

 突然アッコのポケットが光が漏れだしたのだ。

「! な、なにっ? まさかまた?」

 アッコがポケットに手を突っ込むと、其処からセイント・コンパクトを取り出した。

 アッコが思った通り、光を放っていたのはコンパクトだった。

「こ、今度は何よ……」

 光り輝くコンパクトを目の当りにして困り果てていると、突然光がより一層強く輝きだした。

「わっ!」強烈な光に思わず目を瞑ってしまうアッコ。

 そして輝きが次第に落ち着き弱まり始め、アッコはそっと目蓋を開いてみた。

 すると彼女の目の前に一人の少女が背中から神秘的な後光を差していて、まるで眠っている様に瞳を閉じた状態で宙に浮いていた。

 それを見たアッコは驚き、思わず声を出す。

「え……! あ、あなたは……!」

 すると少女の後光は突然消え去り、少女は優しく静かに地に足を着き、そのまま倒れそうになる。

「あ! あ、あなた……!」

 アッコは倒れそうになる少女を前から支え込み彼女に声を掛ける。

「あ、あなた、しっかり……!」

 しかし少女は眠ってしまっているかのごとく瞳を閉じており、意識の無い状態であった。

 

 此処でアッコは少女の容姿を再度確認して見た。

 頭には金色の、おそらくは金で出来たティアラの様な髪飾りを装着していて、髪はフワフワで空色に近い水色。耳はエンダー総理大臣と同じ尖った形状をしていた。

 服装は全身青色のワンピースに似た衣を身にまとい、靴は髪の色と同じ水色であった。

「ど、どうしよう……この子」

 困り果てたアッコは少女をどうしようかと悩み更ける。

「ホントどうしよう。此処からじゃ宮殿までは遠いし……」

 悩んだ末、アッコは一番近場でも有るボスコ号に行って留守を預かっているタッティにこの事を相談しようと思い決めた。

「よし、一先ずボスコ号に運んで少しの間だけでも良いからこの子を安静させよう。タッティさんならきっと分かってくれる筈だわ」

 そうしてアッコは少女の肩を担ぎながら静かに少しずつボスコ号まで移動して行った。

 

 

 

[迫りし王国の危機]

 

「……ふぅ~~、これで良いかな。マメにエンジンとかしっかり整備チャックしないとすぐにダメになるからねぇ」

 一人ボスコ号に残っていたタッティは気球船のエンジンチャックを終わらせていた時であった。

「スゥ、スゥ……」

 九官鳥のスピークはボスコ号の奥で昼寝をしていた。

「タッティさ~ん……!」

「ん? この声は……あ、アッコちゃん」

 遠くの方から聞こえる声に気付いたタッティは目を凝らして辺りを見回すと、必死に此方まで移動してくるアッコを視界にとらえた。

「あ、アッコちゃんどうしたの? そんなに慌てて……」

 必死そうなアッコの表情を見てタダ事では無いと感じたタッティはアッコに訊ねてみた。

「た、タッティさん。そ、それが……」

 タッティに駆け寄るアッコは肩に担いだ少女の顔を見つめながら何とか話そうとする。

 しかしタッティはアッコが運んできた少女を一目見て声を上げた。

「! あ……アプリ……!?」「え?」

 少女の顔を見て呟くタッティの顔色は一変した。更にタッティに続き目を覚ましたスピークがアッコに寄って来て大声で鳴き始めた。

「あぷりーー、あぷりーーッ。あぷりガカエッテキターーッ!」

 しかしスピークが大声で鳴いても少女は目蓋を開ける事は無かった。

「あ、アッコちゃん。その子は、一体……」

 偉く動揺しながらアッコに訊ねるタッティに、アッコは答えた。

「そ、それが……命の泉に行ってみたら、その……と、突然現れて……」

 アッコはコンパクトの事は上手く伏せながらタッティに事情を説明した。

 事情を聞いたタッティは血相を変えてアッコに言った。

「と……とにかく中に……!」

「は、はいっ」

 タッティに言われるがままにアッコは水色の少女をボスコ号の船内に運んだ。

 

 

 その頃、フォンテーランドの宮殿入り口では。

「……ん? オイお前たち。一体何の用だ?」

 宮殿入り口を警備している門兵の所に町の住民達が歩み寄って来た。

「お、お前等、一体……」

 歩み寄って来る人々の目には生気が感じられず、異常な様子なのが目視できた。

 そんな時だった。

「ん? な、なんだこれは!? わ、わあッ!!」

 突如兵士たちの首に小さなひも状のモノが巻き付いて来て、兵士たちの首を締めあげた。

 そしてしばし苦しんだ兵士たちは突然スゥっと立ち上がったのだが、その目は住民達と同じく生気が無くなっていた。

「……シャシャシャ。これで後は宮殿内の連中を洗脳すれば……シャシャシャシャ」

 生気を失った住民たちの背後からは一人の女性らしい人影が居た。

 

 その時、修司達は宮殿内でエンダーやフローク達と話し合っていた。

 会話の中で修司達は総理大臣のエンダーとフローク達の経緯を少しばかり耳にしていた。

「なるほどねぇ……つまりアンタ等は数年前、このフォンテーランドを始め世界を救った英雄って奴だったのかい」

「いや、英雄って程でもないよ……」

 バーンズから話しかけられたフロークは何処か暗鬱な表情を顔に浮かべた。

「そうかぁ……数年前までは、この辺り一帯は干からびた大地で覆われ、生きとし生けるもの全てが干ばつに苦しんでいたって訳か」

「その通りです。更に世界を干からびた不毛の大地にしようと企むスコーピオンと言う悪しき魔物の謀略によって更に窮地に立たされてしまっていたのです」

 ジュニアの話にエンダーは解釈を付けて述べた。

「それで? フローク、お前達はその謀略とどう立ち向かって行ったんだ? と言うよりもどうやって世界から水が無くなる大干ばつを防ぐ事が出来たんだ?」

「そ、それは……」

 修司に訊ねられたフロークは酷く戸惑い、何やら語るのを躊躇っている様であった。

 その時だった。修司達が会話している部屋にドッと大勢の兵士たちが傾れ込むように入って来て、修司達を取り囲んだ。

「な、なんだ!?」「え? え?」

 突然の兵士たちの行動に驚くバーンズとジュニア。

「な、なんだ急に?」「え……!?」

 オッターとフロークも状況が呑み込めず動揺してしまってた。

「え、エンダー殿。これは一体……」

「う、うむ……こりゃッ、お前達! 一体全体何事じゃ!」

 修司に言われたエンダーはすぐさま兵士達に向かって怒声を上げたが、兵士たちは微動だにせず何も言おうとはしない。

 その時、奥から一人、兵士たちをかき分けて修司達に歩み寄って来る者が居た。

「シャッシャッシャ、無駄じゃ無駄じゃ。この者らは既に妾の命令しか聞かぬわ」

「ム! お、お前は誰じゃ!」『!』

 目の前に姿を現したのは一人の女だった。エンダーはその者に声を上げ、修司達にフローク達は女を見て愕然とした。

 何故なら女は全身の皮膚がまるでハ虫類の様な鱗で覆われ、顔付きもトカゲや蛇に酷似している恐ろしい顔付きであったのだ。

「と、トカゲ!」

 女を見てバーンズが声を上げたが、女はスグにバーンズに向かって叫んだ。

「トカゲでは無いわ! 妾はヘビじゃぞえ! 此処大事なとこ故以後気を付けるのじゃ!!」

「ヘ、ヘビ……!」

 女怪人の発言を聞いたフロークは一瞬で顔色を蒼褪めさせて身震いさせた。

「ん? ……ふ、フローク? 大丈夫か、おい?」

 蒼褪めるフロークに話しかける修司にオッターが言った。

「ふ、フロークはカエルだから、ヘビとかには滅法弱いんだよ……」

「あ……(な、なるほど)」

 オッターの解釈を聞いて内心納得する修司。

 そんな中、総理大臣のエンダーはヘビの女に向かって問い詰める。

「お、お前は何者じゃ!」

 するとヘビ女は怪しく微笑みながら語り始めた。

「シャシャシャ、妾はメデューサ。今日よりこのフォンテーランドは妾が統治いたす! 刃向かう者は容赦なく殺すぞ!」

「な、何じゃと!」

 メデューサと名乗る女怪人の言動に怒りをあらわにするエンダー。

 その時、メデューサは兵士達に命じた。

「者共! この者らを引っ立てい! 刃向かう様なら容赦なく斬り捨てるのじゃ!」

『ははぁ!』

 兵士たちは何の躊躇も無く修司達やフローク達、そして自分等の上司であるエンダー総理大臣に向かって一斉に攻めてきた。

「ひ、ひいいぃぃ!」 

 多勢に無勢で攻めてくる兵士達に恐れ怯えるオッター。

 だが修司やバーンズ、そしてジュニアはそれぞれ聖龍剣にチップバードそれに鞭を手に取り、自身の武器で迫りくる兵士たちを攻撃して行った。

「うわっ!」「うぐっ」「ぎゃっ」

 修司は聖龍剣でみねうちにしながらバーンズとジュニアに叫んだ。

「お前等! どうもこの兵士たちは何らかの術で操られているみたいだ! 殺さずみねうちで済ませろ!」

 これに対しバーンズとジュニアは不敵に微笑しながら答えた。

「ふっ、そんな事ぐらい分かっている!」

 バーンズはチップバードを警棒の形状に変化させて兵士たちを気絶させて行った。

「彼等の生気のない目を見れば誰だって異常な様子と分かるよ!」

 ジュニアも兵士を鞭で叩きつけながら決して止めは差さずに攻撃していき、三人は次々に迫りくる兵士たちを倒して行った。

「……す、凄い」「あ、ああ。強いな、この子たち……」

 目の前で体格のいい大人相手に戦う修司たちを見て唖然としてしまうオッターとフローク。

「ふむふむ。やはりワシの目に狂いは無かったワイ。彼等は正真正銘の武人じゃなぁ」

 眼前で激しい戦いを繰り広げる修司達を見てニッコリと微笑んでしまうエンダー。

 しかし倒せと倒せと兵士たちは部屋に入り続けて一向に数が減る様子が無かった。

「……はぁ、はぁ。……さ、さすがにキツイわ」

「あ、ああ。そうだな……」

「らちが明かないよ……」

 さすがに体力に限界が見えてきた修司達。その時、修司は咄嗟に懐から球状の物を取り出すと床に投げつけた。

 すると球からは大量の煙が放出され、辺りは黒煙で視界が覆われて行った。その瞬間。

「みんな! 今は一旦退くぞ! エンダー殿、少し御免!」

「て……う、うわッ、な、何を?」

 修司はエンダーを担ぎあげ、そのまま宮殿の窓から外に飛び出した。

「良し、俺達も行くぞ! ジュニア、お前はフロークと一緒に行け。俺はカワウソと一緒に行く!」

「分かった。それじゃボスコ号でまた落ち合おう」「オオゥッ」

 バーンズとジュニアは互いに落ち合う場所を決めてそれぞれフロークとオッターと共に宮殿から脱出した。

 だがジュニアとフロークは上手く宮殿を抜け出せたが、バーンズとオッターは宮殿の中庭にて兵士達に囲まれてしまい身動きが取れなくなっていた。

「わっ、わっ、ど、どうしようバーンズ……!」

「うろたえんじゃねえ! ……仕方がない。おい、オッター。お前、しっかり俺に捕まってろ」

「え? な、なんで?」

「良いから! 早く俺の体にしがみ付け!」

「わっ……分かったよ……」

 バーンズに怒鳴られ訳も分からず彼の体にしがみ付くオッター。そしてオッターがしがみ付いた瞬間、バーンズの体が変形し、彼の体に翼が生えた。

「えええぇぇぇ!!!」

 突然翼の生えたバーンズに目を飛び出させるくらい驚愕するオッター。バーンズは不敵に笑いながらオッターに告げた。

「ふふっ、行くぜオッター! 手ェ放すんじゃねえぞ!!」

 バーンズがそう叫んだ瞬間彼は全速力で空に飛び上がった!

「うぎいいいぃぃぃ!!!!」

 生まれてこの方、経験した事の無い程の速さを体感したオッターは思わず涙を流しながら絶叫した。そんなオッターにバーンズは怒り顔で話す。

「ウルセエよ! 逃げる為何だから我慢しろこれ位!!」

 その時、無数の弓矢が上空のバーンズとオッター目掛けて飛んできた。

「ウワッ、矢が飛んできた!」

「くっ、兵士たちめ、俺達を落とす為に弓矢何かブッ放して来やがった……!」

 バーンズは弓矢を避けながらオッターに言った。

「おいオッター、今は取りあえず逃げるのが先だ! スピード出すから気ィ引き締めろよ!」

「えっ、ちょ、ちょっと待って、ってギャーーッ!」

 オッターに有無も言わさずバーンズは高速で空を飛んで行き、何とか兵士達の追撃から逃れる事が出来た。

 

 

 

[水色の少女の真実]

 

 その頃ボスコ号では。アッコが一人、泉の前で突如姿を現した少女をベッドに寝かせて看病していた。

 少女は相変わらずまぶたを閉じ、意識が戻る事は無かった。

「……この子、大丈夫かな」

 アッコは目の覚める事の無い少女の容態を案じていた。

 その時であった。少女を寝かせアッコが看病をしている部屋にカメのタッティが入って来た。

「どうだいアッコちゃん。女の子は目が覚めたかい?」

「あ、タッティさん。……ダメ、最初会った時からずっと目を開けてくれなくて……」

 気欝な表情を浮かべるアッコにタッティが優しく話しかける。

「大丈夫。特に外傷も無いし、必ず目を覚ましてくれる筈だよ。だ、だけど……」

「だけど……?」

「い、いや……多分、他人の空似だけどね。僕はこの子にそっくりな女の子と昔、逢った事があるんだ……」

「え! ほ、本当ですか?」

 タッティの発言に驚くアッコ。彼女はタッティに訊いてみた。

「そ、その女の子って、一体……」

「あ……その、実は……」「え……」

 訊き出そうとするとタッティは悲愴な表情を浮かべ話すのを躊躇ってしまった。アッコ本人もタッティが顔に浮かべる悲愴な表情を見て躊躇した。

 その時だった。

「だ、誰か来てくれ~~」「タッティ、居るか~い……」

「あれ? 今の声……修司見たいね」

「もう一人はフロークだ。一体どうしたんだろう」

 アッコとタッティが呼び声に気付きボスコ号の入り口前に出てみると、其処にはエンダーを負んぶする修司と息が上がりきったジュニアとフロークが血相を変えて立ち尽くしていた。

「ど、どうしたのみんな? そんなに慌てて……」

 突然の事態に驚き戸惑うアッコ、そんな彼女に修司が告げた。

「は、話は中に入ってからする。……そ、それよりも水を一杯くれ……」

 修司に続きジュニアもアッコに言った。

「ぼ、僕も……走って来たから喉がカラカラだよ……」

「わ、分かったわ。取敢えずみんな中に……」

 アッコは皆をボスコ号に入れて、修司とジュニアに水を一杯差し出した。

 そして落ち着きを取り戻した修司達は宮殿内で起こった出来事の粗方をアッコやタッティに伝えた。

「そ、それじゃ……今、宮殿はそのメデューサって言う女の人に占領されちゃっているって訳!?」

 先ほどの宮殿内での出来事を聞いたアッコは驚愕した。

「あ、ああ。全く、面目ない……」

 悲観する修司であったが、そんな修司にエンダーが述べた。

「修司殿、そんなに自分を攻めないで下され。如何に腕の立つ貴方でもあんなに大勢の兵士たち相手、そうそう簡単には倒せませんわ。何よりあなた方は兵士たちがあのメデューサとかいう女に操られているのを見越してわざと手を抜きながら戦ってくれていた。そんな優しい心中では多勢の兵士相手に逃げるのが一番の得策じゃよ」

「え、エンダー殿……忝(かたじけな)い」

 己の失態を責めないエンダーの言動に修司は頭を下げて礼を述べた。

 アッコはそんな修司を見て穏やかな笑みを浮かべていると、ある事に気付いた。

「ふふ……あれ? ねぇバーンズはどうしたの? それにオッターさんも見えないけど」

 これに対しジュニアがアッコに答えた。

「ああ、バーンズとオッターは一緒に宮殿を逃げたんだけどね。それからは会って無いよ。まぁ、バーンズが居るから二人とも大丈夫とは思うんだけどね……一応はボスコ号で落ち合おうって話はしたけど、まだ着いてないみたいだね」

 するとジュニアの言動に続きタッティが顔を歪ませながら告げた。

「オッターの奴、かなりの臆病者だからなぁ。バーンズに迷惑かけてなきゃ良いけど……」

「ああ、全くだな……」

 タッティの発言に賛同するかのように口を開くフローク。

 そんな皆が疲労に喘いでいる状況の中、アッコはさっきの少女の事を皆に伝えようと口を開く。

「……あ、そうだ。ねぇ修司、みんな。実はさっき私、兵士さんからの勧めで命の泉って呼ばれる所に行ったんだけど……」

「!」「……!」「……ん?」

 アッコの口にした命の泉の言葉に敏感に反応するフロークとタッティ。そして彼等の様子に気付き何かを思う修司。そんな空気の中、アッコは続けて語った。

「じ、実はね、さっき、泉に行ってみたら突然女の子が目の前に現れたの。今は奥のベッドで横にさせてあげているんだけど現れた時からずっと目を開けないし……私、少し心配で……」

 不安そうな表情を浮かべるアッコにエンダーが笑いながら言った。

「ほっほ。アッコちゃんとか言ったね、お嬢ちゃんは。いや実に心優しい女の子だねぇ、君に助けられた少女は実に幸運だな、うん」

 エンダーに続き、修司も口を開いてアッコに訊いた。

「なぁアッコ。その女の子、突然現れたみたいだけど、なんでだ?」

「えっ……そ、それはね……」

 アッコは修司やジュニアはともかく、フロークやエンダーそしてタッティの目の前でコンパクトの事を話すのはどうかと思い、話すのを躊躇ってしまう。

 その時、今度はフロークがタッティに訊ねた。

「な、なぁタッティ、その女の子って、どんな子なんだい……?」

 悲愴な顔つきで訊ねるフロークに対し、訊かれたタッティも同じような顔付きでフロークに言い返した。

「そ、それが…………とても、アプリにそっくりなんだ……」

「!! あ、アプリだって!?」「何じゃと? アプリコット様が……!?」

「ん? ん? な、なんだ急に?」

 タッティの発言を聞いて突然立ち上がるフロークとエンダーに驚く修司。

 そして二人はタッティに駆け寄り、彼を問い詰めた。

「た、タッティ! あ、アプリは……アプリコットが居るのかい!?」

「タッティよ言うておくれ! 姫様は……」

「あ、ああ、ま、待ってくれよ二人とも……まだアプリ本人と決まった訳じゃ。もしかして単なるそっくりさんかもしれないし……な、何より彼女は、アプリコットは命の泉に身を投じてもうこの世に居ないのは二人とも知っているだろッ!」

『!』

 タッティの言葉を聞いてフロークとエンダーは落胆したかのように気落ちした。

「な……何なんだ、この展開……」

「さ、さぁ……」

 突然空気が変わり続ける現状に驚くばかりの修司とジュニア。

 そんな空気の中アッコはオドオドしながら皆に言ってあげた。

「……あ、あの。私と逢った女の子が誰なのかはまだ分からないけど、今は落ち着きましょう。女の子の意識は戻っていないし、バーンズとオッターさんもお戻りになっていない訳だし、少し待っていましょうよ、ねぇ」

 アッコの話を聞き、修司も落ち着いた様子で皆に話した。

「あ、ああ。そうだな……取敢えず俺達はバーンズとオッターが戻って来るまで此処で待機しよう。宮殿内はもちろん、フォンテーランドも今や既にメデューサの支配下になってしまっている訳だし、バーンズが帰ってきたら作戦を練ろう。アッコが泉で逢ったっていう女の子の方は目が覚めたら彼女自身から事情を聴いとこう。それで良いな」

「あ……う、うん」「わ、分かった」

「うむ……確かに、今は取り乱している場合じゃない。一刻も早くフォンテーランドを取り戻さなければ……」

 修司に言われ落ち着くフロークにタッティ、そして事態の収拾を願うエンダー。

「確かに……今はバーンズ達が戻って来るのを待っていよう。無事でいてくれれば良いんだけど……」

「バーンズ……オッターさん……」

 バーンズとオッターの安否を気にするジュニアとアッコ。

 

 

 

[遭遇した少女×3+白き未確認生命体]

 

 その頃、兵士達の追撃を何とか逃げ切ったバーンズとオッター組。二人は小高い丘、其処の原っぱで一休みしていた。

「はぁ……はぁ……な、何とか、逃げ切れたな、おい……」

「ひ、ひぃ……あ、あんな猛スピードで逃げるんだったら、捕まった方がまだマシだ……」

 息を切らし安堵するバーンズに対し、彼の猛スピードでの滑空に恐怖のドン底に陥って涙目になるオッター。

 そんな身を振るわせるオッターにバーンズが告げる。

「て、テメエ……オレ様が命がけで飛んでやったって言うのにその口か……! お、オレが居なかったらお前なんてすぐに捕まって、兵士たち同様にメデューサに洗脳されちまっていたぞ……ハァ」

 息も絶え絶えのバーンズは自身の喉が乾いている事に気付いた。

「ハァ……お、おいオッター。この辺に水とか、無いか……」

「み、水……?」

「そ、そうだ。少しヘバっちまって、喉がカラカラだ。……何処かに水とかねえか……」

「あ、ああ、そうだ。すぐ近くに川が有る筈だよ」

「そ、そうか……す、済まないが、悪いけど、水を一杯持って来てくれねえか……」

「へ? べ、別に良いけど……だ、だけどコップとか、入れ物がないよ」

「そ、それならチップバードを連れて行ってくれ。コイツならコップに変化して水を入れられる筈だ……チップバード、オッターと共に水を持って来ておくれや……」

「ホイホイ、任せなせ王子ーー」

「! な、何だい!? その奇妙な鳥は!?」

 動く姿を初めて見たオッターは、言葉を話ししかも動き出すチップバードに驚き困惑した。

 だがチップバード本人は何も動じず、オッターの肩に乗ると彼に話しかけた。

「オッターはん、オッターはん。今は取りあえず王子の為に水を持ってくる事が肝心でっせ」

「え? お、王子って……ま、まさか彼が?」

「まぁええから、早く川行って水を汲んで行きましょ」

「あ……う、うん……(なんだろ、この鳥。何か妙な喋り方だなぁ)」

 こうしてオッターはチップバードを連れて川に向かって行った。

「……あ~~あ、何でこうなっちまったんだろうなぁ」

 一人になったバーンズはそのまま野原の上で仰向けで寝転がった。

 小鳥のさえずりが聞こえてくる中、バーンズは遂瞳を閉じて眠りに着こうとしてしまってた。

 だが、そんな時。

「きゃああ~~……」「いやあぁ~~……」「はははは~~……」

 何処からともなく女性の悲鳴と笑い声らしき声が聞こえてきた。

「む、この声は……紛れも無くお姉さまの声だ!♡」

 女性に目がないバーンズは飛び起きて辺りをくまなく見回した。

「何処だ? 何処に居るの、お姉さま方?♡」

 目の色を変えて辺りを見回すバーンズ。だが声の主である女性の影すらも辺りには見えなかった。

「あ、あれ? 何処にもお姉さまの声はもちろん、人影すら見えねえぞ…………ん? まさか……」

 バーンズはふと空を、自分の間上を見上げてみた。すると。

『……ぁぁぁぁぁああああああああ』「って何じゃ一体ーーッ!?」

 突如上空から三人の少女が落下し、バーンズは落ちてきた三人の下敷きになった。

 

 

 一方、オッターと共に水を汲みに行ったチップバード達の方はと言うと。

「いや~~、申し訳ありまへんなオッターはん。ワテラこの世界の事は未だによく分からへんで」

「い、いや、此方こそ……」

 気楽に話しかけてくるチップバードに対しオッターは言葉の話せる金属の板であるチップバードに驚き戸惑う様子であった。

 その時、二人が川で水を汲もうとしていると上流から何やら白い物体が流れてきた。

「ん、なんや? オッターはん、何かが向こうから流れて来まっせ」

「あ、ホントだ。なんだろう? この白い物……」

 流れてきた白い物体にオッターが手を伸ばし触れようとした次の瞬間、突然白い物体が水音を出して飛び上がった。

「うわっ!」「な、なんだ!?」

 突然飛び上がった白い物体に驚くチップバードとオッター、しかも白い物体は何やら鳴き声の様な音を出しながらオッターに飛びかかった。

「ぷくー~っ!」「うわあっ! ち、チップバード助けてくれ~~」

 突然自分に飛び掛かる白い物体改め白い生命体に顔面から纏わり付く困惑するオッターを目の当りにしチップバードは半ば戸惑った。

「ど、どうしたら……え、えぇい! こうなったらヤケクソや!」

 チップバードは思い切ってオッターに纏わり付く白い生き物に向かって飛び掛かった。

「そりゃっ!」

 チップバードは白い生き物に飛び付くと軽く電流を流してみた。

「ぷくーーーーッ!!」

 突然流れる電流に驚いたのか、白い生き物はオッターの顔から離れ地面に叩き落ちた。

「な、なんや、コイツは……」「ひ、ひぃ……助かった……」

 地面に寝そべる様に動かなくなる生き物をジッと見つめるチップに、ホッと胸を撫で下ろして安堵するオッター。

 二人は再度動かなくなった白い生き物を注意深く観察してみた。

 

 まず生き物の顔を確認する為、うつ伏せ状態の生き物の体を引っくり返して仰向けの状態にした。

 生き物の目は回っており完全に電撃によって気絶している様であった。

 その身体はまるで餅の様に全身真白でぷにぷにとも、ふわふわとも感じ取れる軟らかい感触の体。

 頭にはウサギの様な細く長い耳、おでこの部分にはルビーの様な赤い宝石の様なのが埋め込まれていた。

 

 二人は無言のまま、その得体の知れない生き物を見ていると、突然目を回していた生き物が細いタレ目の様な瞳に成り意識を取り戻した。

「うわっ、起きた!」「わあぁっ!」

 目を覚ます生き物に再び驚くオッターとチップ。白い生き物は二人を見ると再び不思議な鳴き声を出しながら飛び掛かって来た。

「ぷくっ、ぷく~~っ」「わっ、何なんだよ、さっきから……!」

 飛び掛かられてばかりのオッターは困り果ててしまっていた。

「は、はぁ……どうなっとるんや一体……」

 チップバードも混乱してくる現状にただただ唖然としてしまうばかり。

 

 

 ところ戻ってバーンズの方は。

「ッ、いてて……もう、一体何なのよ……」

「だ、大丈夫ですか、海さん……」

 落下してきた少女の内の青いロングストレートヘアーの青い甲冑を身に付けた少女が腰をさすっていると、心配そうにもう一人の眼鏡を掛けた緑の甲冑の少女が声を掛ける。

「あ、あはは……そ、それにしても私たち、助かったよ。風ちゃん、海ちゃん……」

 最後の一人で後頭部に細い一本の三つ編みをしている赤毛で赤い甲冑を身に付けた少女が苦笑しながら後の二人に話しかける。

 そしてバーンズはと言うと、その三人に気付かれる事無く未だに尻に敷かれた状態であった。

「……あ、あの……」「ん? 今何処からか声が……」

 青い髪の少女はバーンズの声に気付くが、何処から声が聞こえてきたのか気付かなかった。再度バーンズは声を出して少女達に呼び掛ける。

「あの、すいません……どいてくれませんか……」

「へっ? ……! きゃっ」

 バーンズの顔面に思いっきり尻を付いていた眼鏡の緑の甲冑の少女が最初にバーンズの存在に気付き、驚いて思わず声を上げた。

「きゃあ!」

「わっ、わっ……ご、ごめんなさい! だ、大丈夫ですか……?」

 緑の少女に続き青色の少女と赤の少女もバーンズに気付き、赤の少女はバーンズに謝罪の発言を言った。

 だが三人の少女達に乗っかられていたバーンズは何故か怪しくニヤケながら少女達に告ぐ。

「い、いやぁ。大丈夫でしたよ、オレは……お、オレ様結構、体が丈夫なんで平気ですよ平気、ぐひひ……」

「あ……貴方、大丈夫?」

 様子の可笑しいバーンズを見て心配し出す青の少女。

「ま、まさか……何処か頭でも打ってしまったんでしょうか……」

 眼鏡を掛けた緑の少女が不安な心境に陥る。

 だがバーンズはそんな緑の少女の顔を見ながら、彼女にニヤけた面を向けながら言い放った。

「へへ、眼鏡のお嬢さん……桃源郷(とうげんきょう)をありがとう♡」

「へ?」

「へへ、いやね……事故なんだけどね事故…………良い色のパンティーだったよ」

 そう言いながらバーンズは緑の少女に親指を立てながら告げた。

「へ、へ…………い、いやあっ!!」

 緑の少女はようやくバーンズの言動の意味を理解し理解した瞬間、思わずスカートを押さえ顔色を真っ赤に染めて唖然とした。

「何言ってんの、このスケベ!」「うギャオッ」

 スケベ心丸出しのバーンズに蹴りを一発入れる青い少女、バーンズは蹴りを受けて奇声を上げた。

 

 と、その時。

「お~~い、王子~~。遅くなってすんまへ~~ん」

「あ、チップバード、オッター、どうした? 何か遅かったみたいだけど……んん? ど、どうしたんだ? その変てこな生きモンは??」

 バーンズの所に戻ってきたチップバードとオッター。だがバーンズは二人と一緒に居る、いやオッターの頭に乗って二人に連れられている白い謎の生命体を見て目を丸くして驚くバーンズ。

 しかし三人の少女達は白い生き物を見た瞬間表情を一変させ、喜び舞い上がった。

「う、うわぁ! モっコナー~!!」「ぷっく~~!」

 赤の少女が声を上げると、白い生命体も喜んでいる様な素振りでオッターの頭から離れて赤い少女の胸に飛び込んだ。

「モコナ……!」「あなたもこの異世界に迷い込んでいたんですか?」

 笑顔を浮かべて白い生き物に話しかける青の少女と緑の少女。

 三人と謎の生命体のたわむれを見たバーンズとチップバードそしてオッターは何が何だか解らず、困惑し呆然と立ち尽くしてしまってた。

「……あ、あの、お嬢様方? 一体、何がどうなって……」

 バーンズが困惑しながら話そうとすると、眼鏡の緑の少女がバーンズに顔を向けて丁寧に謝罪を述べていった。

「あ、これはどうも済みません。先ほどは突然貴方の真上から落ちて来てしまって……さぞ驚いた事でしょう。誠に申し訳ありません」

 頭を下げて丁寧な言葉遣いで謝った緑の少女は次に自分の名を名乗り始めた。

「ホントに申し訳ありません。私(わたくし)、鳳凰寺風(ほうおうじ ふう)と申します。先ほどは大変失礼いたしました」

「あ、いえ……こ、此方こそ……」

 丁寧に名乗られて思わずバーンズも風につられて頭を下げて言葉を交わした。

 その時、風以外の少女二人が彼女に話しかけてきた。

「ちょっと風! コイツさっき貴女のスカートの中を覗いたのよ! それなのに名前を名乗る上に丁寧に挨拶する事なんか無いわよ、もうッ!」

(う、うわ~~。気の強え姉ちゃんだな~~……レイと良い勝負だぜ)

 内心気の強い発言を口にする青の少女に対してバーンズはセーラー戦士のセーラーマーズこと火野レイの事を思い出していた。

「でも海さん。私たちが彼の真上に落下してしまったのがそもそもの原因なんですし、彼だけの責任として押し付けてしまうのも返って悪いですわ」

「むむ……ま、まぁ。風が其処まで言うなら……」

 風の発言にすっかり言い包められてしまう青の少女。彼女と赤の少女は鳳凰寺風に続いて自分達も名乗り出した。

「まぁ……さっきは悪かったわよ。だけど女の子の下着覗くなんて普通は許されないんだから、貴方は風に感謝しなさいよッ。わ、私は龍咲海(りゅうざき うみ)、初めまして」

 青の少女、龍咲海に続き赤いの少女も元気よくバーンズ達に聞こえる様名乗った。

「はいはーーい! 私は獅堂光(しどう ひかる)14歳! 初めまして鳥ちゃん、ワンちゃん!」

「と、鳥って……」「い、犬……」

 ハイテンションで自己紹介し、更にバーンズを鳥ちゃん、オッターをわんちゃんと呼ぶ獅堂光。

 そんな三人に対して若干唖然としつつもバーンズ達も名乗り出した。

「お、俺の名はバーンズ。バーンズ・ウィングダムズ・キングズだ。宜しくなネエちゃん達」

「あら。素敵なお名前ですね、バーンズさん」

「い、いや……な、何かな……(年上にさん付けで呼ばれるのは初めてだ)」

 風にさん付けで呼ばれた事に多少照れるバーンズ。彼に続きオッターとチップバードも名乗り出す。

「お、おいらはオッター……言っておくけど、おらは犬じゃねえぞ、カワウソだカワウソ」

「えっ? ご、ごめんなさ~い……」

 オッターに対し申し訳無さそうに謝罪する光。

「ワイの名はチップバードっていうさかい。宜しくな、ネエちゃん達。ところでネエちゃん達に懐いている、その大福餅みたいな生きモンはなんや?」

 チップバードが訊ねると、光がその白い生き物を抱き上げながら答えた。

「あ、この子? この子はね、モコナって言うの。いっつも私達に甘えてくるんだ。ねっ、モコナ」

「ぷっく~~」

 光に名前を呼んでもらうと白い未確認生命体モコナは嬉しそうに鳴いた。

「そ、そうなの……と、ところで、あんた等は一体どうしてまた、空から降って来たんだい……」

 呆然としながらバーンズが訊くと、風が丁寧に話をしてくれた。

「あ……そ、それが、話すと長くなりますが……」

 

 その後長い時間を掛けて風はバーンズ達に自分達の経緯を述べていった。

 

 

 

 

[目覚める水色の少女]

 

 その頃ボスコ号では、修司達はバーンズとオッター達が帰って来るのをひたすら待っていた。

 アッコが泉で出逢った少女は未だに目を覚ましてはおらず、アッコはベッドの傍らで未だに目を開けぬ少女を看病していた。

「アッコ良いか」「あ、修司」

 アッコが部屋で少女と二人っきりになっていると、部屋に修司とジュニアが入って来た少女の様子を見にきた。

「どうだ? その子の様子は……」

「ううん、変わらないわ。未だに目を開けないわ……ところでフロークさんとエンダーさんは大丈夫? 少し落ち着いた?」

「ああ、あの二人か。今は取敢えず互いに落ち着きあっている……まさかアッコが連れてきた少女の寝顔を見た途端、あんなに動揺するとはよ」

 フロークとエンダー、二人はタッティから少女の事を聞いた後すぐベッドで横になる少女を見に行ったが、少女の顔を見た途端二人とも愕然とし半ば興奮してしまっていたのだった。

「修司、あの二人……フロークさんにエンダーさんは、この子の事、知っているのかな?」

 鏡の様な瞳に不安と言う感情を詰め込み、半ば潤んだ目で修司を見つめるアッコに、修司は考え悩み告げた。

「うむ……どうやら、エンダーの爺さんやフロークだけじゃない。タッティはもちろん、おそらくは今バーンズと一緒に居るオッターも何か知っているようだしな」

「え? そ、そうなの……?」

「ああ……お前がその子と逢ったって云う命の泉の話をするとフローク達の様子が変わるし、何よりタッティやフロークそしてエンダーが「アプリ」という名前を聞くと血相を変えるからな。おそらくあの子またはあの女の子と瓜二つの少女の名だろう。ま、少し落ち着いたらまた聞いてみるが……」

「…………」

 修司とアッコが会話をしているその時、ジュニアが眠っている少女にふと歩み寄った。

「フロークさんとエンダーさん、なんで女の子の顔見ただけであんなに驚いたんだろう。どれどれ……」

 ジュニアはベッドに寝ている少女の顔をそっと覗きこんだ、その瞬間。

 少女の顔を見た瞬間、ジュニアの顔は真赤になり頭から湯気を放出した。

「ん? どうしたジュニア?」

「い、いや。何でもない……ちょ、ちょっと部屋の外に出てるね……」

 修司が声を掛けるもののジュニアは顔を赤くして目を丸くさせながら部屋を出ていった。

「……どうしたんだ? あいつ」「……」

 相変わらず自分はもちろん相手の恋愛感情には疎い修司の言動に、アッコは内心呆れかえっていた。

 そして一人部屋を出たジュニアは心臓をバクバク鳴らしながら自分を落ち着かせていた。

「はぁ、はぁ……(あ、あの女の子……凄く、似てる……!)」

 

 一方、部屋の外で腰を据えて落ち着きを得ていたフロークとエンダー。二人は床をジッと見つめながら思い更けていた。

「……はぁ、あの子……本当にアプリなんじゃ……」

 思わずフロークが呟くと彼にエンダーが話しかけた。

「じゃ、じゃがフローク。姫様は数年前のあの日に……」

「ああ、解ってるよ。それにしても……驚くほど似ている……もしかして、本当にアプリコットなんじゃ……」

 フロークの発言にエンダーは思わず立ち上がり、言葉を発したフロークに向かって言った。

「じゃ、じゃがフローク……! もし本当にアプリコット様じゃったら、世界に巡る水脈はどうなるのじゃ? た、確かに、あの子はアプリコット姫と同じ容姿で有るが、本当に姫様本人とはまだ決まってないんじゃ。今はひとまず落ち着こう……」

 苦笑して会話を終わらすエンダーであったが、フローク同様水色の衣の少女の事でかなり気が動転していた。

 

 と、その時。

「フローク~~、タッティ~~……」

「ん? この声……オッターだ! 良かった、無事だったんだ。おぉいみんな! オッターが帰って来たぞ!」

 オッターの声を聞いたタッティは大声でボスコ号内のみんなに呼び掛けた。

「おっ、帰ってきたようだな。それじゃ俺はオッターと一緒に居る筈のバーンズと話してくる。アッコお前は引き続きその子の事見ていてくれや。一応外にはジュニアも待機させてあるから何か有ったらジュニアに言うんだぞ」

「分かったわ、任せといて」「ああ」

 アッコと話し終わると修司はすぐに部屋を出て、外に待機させていたジュニアに告げた。

「ジュニア、俺はバーンズと少し話しているからお前はアッコと少女の事見ていてくれ」

「えっ。わ、分かった……」

 考え込んでいたジュニアは突然修司に話しかけられて唖然としながらも返事した。

 

 そして修司がその場から立ち去った、正にその時であった。

「う、う~~ん……」「え……き、気付いた?」

 うめき声が聞こえ、アッコが振り向くとベッドの上の少女の表情が少しばかり動いていた。

 アッコはすぐに意識の戻りかけた少女に強く呼び掛けた。

「あ、あなた……! 大丈夫? しっかりして……」

 すると少女はアッコの呼びかけに反応したのか、そっと目蓋を開いて顔を横にし、自分に声を掛けるアッコの顔を見つめた。

 アッコはその少女の瞳を見て内心静かに驚いた。

 目覚めた水色の髪の少女の瞳が、まるでルビーの様に赤く綺麗な瞳だったからである。

 少女はアッコを見つめ小さな声で訊ねた。

「こ……此処は……」

 訊ねられたアッコは目覚めた少女に優しく答えた。

「此処は気球船の中よ。大丈夫、みんな優しい人だからね」

「気球船……う~~ん……」

 少女は何かを思い出そうとするかのように憂悶の表情を浮かべた。だがアッコはそんな少女を気に掛け優しく言った。

「あ、大丈夫だから。無理して色々と思い出そうとしなくても良いのよ。……何より無事に目を覚ましてくれただけでも良かったわ」

「…………」

 自分に優しく語りかけてくれるアッコ、彼女を目の当りにして少女は心の中で静かに感極まっていた。

 その時、ジュニアがアッコと少女の話し声を耳にして部屋に入って来た。

「あ、アッコさん、どうしたの……?」

「あ、ジュニア君。女の子が目を覚ましたのよ。まだ意識がハッキリしないけど多分もう大丈夫な筈」

「あ……そ、そうかい……」

 ジュニアは目覚めた女の子を直視する事が出来ず、思わず目を背けてしまう。

 一方の少女は未だ少し意識が朦朧(もうろう)としていたが、そんな少女の様子を見たジュニアはアッコに話し出した。

「そ、そうだ。彼女が目を覚ました事を義兄さんやフロークさん達に知らせようか」

「え……フローク……」

 フロークと言う名を聞いた瞬間、少女の顔色が少しばかり変わった。

 それを見たアッコは思い切って目覚めた少女に訊ねてみた。

「あなた……もしかして、フロークって名前に憶えがあるの?」

「フローク……」

 頭を押さえながら考え込む少女に、アッコは更に他の人物の名も述べた。

「……それに、タッティさんやオッターさん。そしてエンダーって名前の総理大臣に心当たりはある?」

「タッティ……オッター……エンダー…………ふ、フローク……ウっ!」

 突然少女は頭を押さえこんで顔を伏せてしまった。

「あ!」

「だ、大丈夫!? ごめんなさい、無理に思い出させようとして……」

 様子の変わる少女にジュニアとアッコは動揺し、アッコは少女に優しく話した。

 しかし、その時。少女は顔を上げると徐に言葉を出した。

「ふ……フローク……ボスコ号……」

「! そ、そうよ! 此処は気球船ボスコ号の中よ! 何か思い出した?」

 動揺しながらもアッコが訊ねると少女は静かに口を開いて呟いた。

「……わ……私は…………」

 

 その頃、修司達はボスコ号から出てオッターとバーンズ組を出迎えていた。のだが何故かバーンズ達と一緒に修司にとっては見慣れない三人組と白い大福モチの様な生き物が一緒だった。

「……おいバーンズ。何がどうなって女三人組とこの大福餅がお前等と一緒なんだ?」

「ぷくー~、ぷくー~」 

 修司は白い大福餅を両手で伸ばす様に引っ張りながらバーンズに訊ねた。

「ああ、このネエちゃん達は通称魔法騎士(マジックナイト)。何か解らないが此処とは別の異世界で有るセフィーロって世界から元居た世界に帰ろうとしていたらしいんだよ。それが何が原因が分からないがこの世界に来ちまったみたいでよ。まぁ、成り行き上、一緒に連れて来たんだよ」

「ふ~~ん……で、この白い大福は?」

「ぷくーーーーッ!」

 修司は更に白い大福を横に伸ばし、大福は奇声を上げた。

「わーーッ! お願いーー、モコナいじめないでーー!!」

 修司に向かって赤毛の少女が喚き、バーンズは目を細めながら修司に言ってやった。

「修司、それはこのネエちゃん達の連れでモコナって言う餅みたいな生きモンだ。それ以上伸ばしたら原形戻んなくなるかもしんねえし、何より光のネエちゃんが泣き出しそうだから止めてやってくれ」

 バーンズは親指で獅堂光を差しながら修司に言ってあげた。

「あ、そうなの? ……ほら、戻って良いぞモコナ」

 修司は引っ張っていた手を放しモコナを解放した。そしてモコナは修司に引っ張られた個所を真赤にしながら涙目で光達の所に駆けて行った。

「ぷく~~……!」

「はいモコナ、もう大丈夫だよ」

「もう大丈夫だからね」

「はいはい、もう泣かなくても大丈夫ですよ」

 泣き付いてくるモコナを優しく撫でて宥めてあげる光に海に風。

「……オッター、何だか更に賑やかになったね」

「賑やかと言うよりも……何だかドンドン状況がややこしくなってきた感じだよ……」

 無事帰還したオッターと話すフロークであったが、オッター本人は喧しくなる現状に若干参っていた。

「はは……と、ところでオッター。君に話しておかなきゃいけない事があるんだけど……」

「へ? なんだいタッティ?」

 タッティは顔を渋くさせてオッターに伝えようとした。

「実は…………アプリコットの事で、ちょっと」

「あ、アプリ……?」

「ああ……実はさっき、修司君やフローク達が戻って来る少し前にアッコちゃんが帰って来たんだけど、彼女がとてもアプリコットにそっくりな女の子を連れて来たんだよ」

「え……!?」

「しかも、その子は何故か解らないけど意識がなく、今はベッドの中で眠っているし……何より、アッコちゃんが言うにはその子は突然命の泉から現れたって云うんだよ」

「お、おい……! そ、それじゃ、まさか……!?」

 タッティとオッターが話しているその時、ボスコ号からアッコが出てきた。

「修司! ちょっと……あ、あれ? 何か人が増えているような……」

 バーンズ達と一緒に見慣れない魔法騎士の三人が居た事に戸惑うアッコ、そんな彼女に修司は訊いた。

「ああ、アッコ、この三人組についてはちゃんと話す。それよりも何か有ったか?」

「はっ、そうだ……。修司、あの女の子が目を覚ましたわ!」

「なに? それは良かった」

 アッコの言葉を聞き安堵する修司に対し、この時フローク・タッティ・そしてエンダーは静かに驚いていた。

 そしてボスコ号の中から、ジュニアが目覚めた少女に付き添いながら一緒に出てきた。

「ジュニア君、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。……あ、貴女の方は大丈夫ですか?」

「え、ええ……ありがとう……」

 少女はジュニアに肩を貸してもらいながら静かに歩き外に出た。

「あ……!」「ん? どうしたんだオッター?」

 少女の顔を見るなり、表情を一変させるオッターにバーンズが気付いた。

 そして少女は未だ朦朧とする意識の中、皆の前に姿を現わした。

 少女を見て呆然となるフロークにタッティ、オッターそしてエンダー総理大臣。虚ろな瞳の少女はそのルビーの様な赤い瞳で修司達を見詰めた。

 その時、フロークが意を決して少女に声を掛けた。

「あ、あの……」「……」

 少女も自分に声を掛けるフロークに視線を向ける。

「あの、もしかして…………アプリかい?」

「……」

「アプリコットなのかい? 僕だよ、フローク。君と一緒に世界中冒険した、ボスコ号のリーダーだよ……!」

(おやっ、フロークの奴、ボスコ号のリーダーだったのか。初耳だな)

 フロークの発言を聞いた修司は彼がリーダーである事実を初めて耳にし少し驚いた。

 そしてフロークに訊ねられた少女は何も喋らず、ただ呆然としていた。

「あ、アプリ……君は本当に、あのプリンセス・アプリコットなのかい?」

「…………」

「答えてくれッ! アプリコット!」

 フロークが強い口調で問い質すと少女は静かに口を開いて呟いた。

「……ふ……フローク……!」

「! あ、ああ……」

 突然自分の名を口に出してくれた少女にフロークは驚き震えた。

 そして少女は更に口を動かしフロークに話し出した。

「フローク……タッティ、オッター。そして、エンダー……!」

「あ……! アプリーーッ!」「フローク……ッ」

 フロークは突然泣き出し、少女に駆け寄り、少女もジュニアの肩から離れてフロークに歩み寄る。

 二人はそのまま力強く互いを抱きしめ合った。

 少女はフロークの耳元でそっと囁いた。

「また逢えたね、フローク……」

 それに対しフロークも泣きながら少女の耳元に優しく囁いた。

「うん、うん……また逢えた……! また逢えたね、アプリ……!!」

 二人は涙が涸れるまで互いを抱きしめ合った。

 修司やアッコ、そしてバーンズに魔法騎士の三人は目の前の状況を理解できず、ただただ立ち尽くしてしまった。

 少女に付き添っていたジュニアは眼前の抱き合う二人を目の当りにして混乱し頭が真っ白になっていた。

 そして泣いてしまっているフロークにつられたのか、タッティとオッターの目からも自然と涙が溢れ出ていた。

 最後に総理大臣のエンダーは自分の目の前の現状を理解する事が出来ず、呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

[戻ってきた時間]

 

 そして日も沈み、辺りが暗くなってきた頃。

 オッターはいつも以上に腕を振るって修司達はもちろん、宮殿から逃げてきたエンダーや魔法騎士の三人にご馳走を振る舞っていた。

 

 この時、修司達は初めてフローク達から水色の髪の少女の事を耳にした。

 彼女の名はアプリコット。かつてフォンテーランドを統治していた妖精族の姫で有り数年前、世界が大干ばつに襲われた際は魔物スコーピオンの魔の手から逃れながら世界中をフローク達と旅していたのであった。

 何とかスコーピオンは倒せ、無事に祖国のフォンテーランドに戻って来られたのだが、彼女には課せられた使命があった。それは王位を継承すると同時に、命の泉に自らの命を捧げる事により干からびた世界に命の根源でも有る水脈を蘇らせ、再び世界を緑あふれる美しい世界に再生させるという宿命であった。そして無事に王位を継承し彼女自身も世界中に命を溢れさせる水脈の一部と成り果てたのだという。

 

 しかし何故かアプリが目を覚ましてみると其処には自分を心配そうに見つめるアッコの姿が目に入ったのだという。

 何はともあれ、フロークを始めボスコ号の船員は大いに喜び、再び目の前に姿を現したアプリコットと共に宴を楽しんだ。

「……ふぅ~~。まさか、あの女の子にそんな事があったのか」

「ああ。まさか命の泉から再び現れるなんて思ってもみなかったけど、ホントに良かった……」

 修司とアッコ、そしてバーンズにジュニア更には魔法騎士の三人に数年前の出来事を、タッティは神妙な顔で語った。

「いやぁ、まっさかあんな感動的なシーンに巡り逢えちゃうなんて、驚いちゃったなぁ」

 食事を口にしながら笑顔で話し出す光。

「ホントですねぇ……それにしても、あのアプリコットさん。何だか辛い使命が有ったんですね」

「そうねぇ。まさか干からびた世界を救う為に泉に身を投じるなんて……まだ子供なのに、可哀そう……」

 タッティからアプリコットの昔の経緯を聞いた風と海は何処か居た堪れない心境だった。

 

 この時、修司はアッコと耳打ちで会話していた。

「ところでアッコ。お前、極力詳しく言ってくれねえけど、なんで命の泉に行ってみたらアプリコットがお前の前に姿を現したんだ?」

 修司に訊かれアッコは複雑ながら修司に事実を語った。

「そ、それがね……泉の前まで来てみたら、突然コンパクトが輝いて……思わず目をつぶって、また開けてみると其処にアプリコットが居たの……」

「な……何だって?」

 事実を聞いた修司は目を丸くして驚いた。

「…………はぁ」

「……ん、どうしたジュニア? オッターが作ってくれたメシが口に合わねえのか?」

「いや……別に」「ん?」

 思わず沈鬱な表情で溜息を吐くジュニアにバーンズが訊ねるが、彼は何も答えずただ一点を見詰めていた。バーンズがジュニアの視線を追ってみると、その先には楽しそうにお喋りし合うフロークとアプリコットが居た。

「え? ほ、ホントなのフローク!? スピークが……」

「ああ、本当だよ。あの時、君が命の泉に取り込まれ光に包まれている時、スピークが君に向かって飛んで行ってしまったんだ。だけど光に弾かれてしまってね……急いで駆けよってタッティに直してもらおうと思ったら、何とスピークの体が本物の生きた九官鳥に、命ある生き物に成っていたんだよ……! ホント、あれには驚いたよ」

「そ、そうね……まさかロボットのスピークが本物の九官鳥に成っちゃったなんて……」

 フロークから、かつて自分が飼っていたロボットのスピークが命の泉に取り込まれる自分が放つ光に触れて本物の九官鳥に成った事実を知り愕然とした。

 そしてバーンズはそんな会話をしている二人を見て改めてジュニアに視線を向けた。

「……! ハッはぁん、成るほどね」

 バーンズはジュニアの心境を悟り、彼の隣に座るとジュニアの肩をポンと叩いて告げた。

「なぁジュニア」「……ん? なに?」

「男はな、ジュニア…………失恋の数だけ成長するんだぜ」

 白い歯を見せながら微笑むバーンズの発言にジュニアは表情を一変させた。

 すると〔ドスッ〕「ウグッ」

 ジュニアは躊躇わずバーンズの腹に一発拳をブチかました。

 

 しかし楽しく食事をする面々の中、エンダーだけは一人だけ暗鬱な表情を浮かべていた。

「うむ…………」

 一人座り込み考え込むエンダー、それに気付いた修司はエンダーに歩み寄って声を掛けた。

「どうしました、エンダー殿」「おおぅ、修司殿。いやな、ちょっと……」

 塞ぎ込むエンダーを気にする修司は彼の隣に座り、再度エンダーに訊ねてみた。

「どうしましたか一体。せっかくアプリコット姫が戻ってきたというのに……まぁ、フォンテーランドの方は明日にでも作戦を練って取り返す算段を取りましょう。この小田原修司、及ばずながら力を貸す所存であります」

「うむ、ありがとうの、修司殿。じゃが、ワシが今危惧しているのは……実は国の事では無いのじゃよ」「?」

 エンダーは思い詰めた表情で修司に自分の心境を語った。

「実はな修司殿……其れがしは恐れておるのです。姫様が再び目の前に姿を現してくれたのは嬉しいのじゃが……姫は世界の水脈を司り、生きとし生けるものに生命(いのち)の糧となる清らかな水を世界中に送り続ける尊い存在じゃった。理由は分からぬが、姫が泉から解放されてしまったら、再び世界は干からびた大地で覆われてしまうのではないかと不安でしょうがないのです……」

 暗い表情で悩み込むエンダーを見て、修司は重い口調で語り出した。

「……確かに。彼女は命の泉で王位を継承し、それと同時に世界中に水を送り続ける水脈に成り変わった。故に彼女が泉から解放されれば、再び世界は干からびてしまうと不安に陥る心情もお察し致します」

「…………」

「……しかしエンダー殿。彼等を良く見てください」

「え……」

 修司に言われ、彼の視線を追って行くとその先には楽しそうに会話をするアプリコットやフローク、そしてタッティやオッターの笑顔が眩しいほど目に入って来た。

「あ……」

 笑顔でフローク達とお喋りをするアプリコットを見て言葉を失うエンダーに、修司は更に語る。

「確かに彼女が泉に自身を捧げた事により世界は救われました。しかし今の彼女はそんな使命も果たし、己の務めを終えた一人の少女です。彼女の犠牲で世界が救われ、世界が活気に満ちた今再びアプリコットは姿を現した。簡単に言えば、彼女の世界を干ばつから救う使命は、もう終わったんじゃないでしょうか」

「う、うむ……」

 修司と話しているその時、エンダーの元にアプリコットが歩み寄って来た。

「エンダー……」「ひ、姫!」

 アプリは神妙な顔立ちでエンダーに話しかけてきた。

「エンダー、フローク達から話は聞いたわ。貴方、私が泉に消えた後、必死にフォンテーランドを建て直してくれたんですってね。……ありがとう、エンダー」

「そ、そんな……! 勿体無いお言葉を……い、いくら一族の宿命だったからと言っても、自らの命を散らして世界を救った貴女に言われるとは……!!」

 アプリの優しい言葉に感極まるエンダー。アプリコットは更に続けてエンダーに語った。

「エンダー……私もね、何で再びこの姿に戻れたのか、なんでアッコさんの前に姿を現したのか、ホントに良く解らないの。でもねエンダー、貴方には悪いんだけど、私は再びこの姿でみんなの前に逢えたのが凄くうれしいの。あの日、干ばつで苦しむ世界の人達の為に自ら泉に身をささげた時から、私は自分の務めを果たし水脈に自ら身を変えた。それが今、再び友達であるフロークやタッティ、オッター、そして私を案じてくれたエンダーとこうしてまた一緒に居られるのが、凄く、嬉しくて……」

「姫……」

 話をするアプリコットの目からは、自然と涙が浮かびあがり、エンダー自身も思わず目から涙が一粒零れた。

 そんな最中、修司はエンダーに続けて告げる。

「エンダー殿、大丈夫ですよ。もしアプリコットが泉から出た影響でこの世界に何らかの支障が出たら、俺たち聖龍隊が全力で助けに駆けつけます。ご安心を」

「し、修司殿……」

 そして最後に修司はエンダーとアプリコットに向かって発した。

「確かに……この世は犠牲がなくては成し得ない事も多々有るでしょう。しかし逆に生きているからこそ、誰かの助けに、力に成ってあげられる事も有るんです。それ故に、命を無暗に投げ捨てる必要など無いんです」

 修司の言葉に二人は衝撃を受けた。

 

 この世には犠牲が、誰かの死が必要にならなければならない事も多々ある。しかし逆に、生きているからこそ誰かの力に、支えに成ってあげられる事もまた事実。

 修司の言葉に二人は内心、感極まった。

 

 その時、修司の会話を聞いて光・海・風の三人が歩み寄って来た。

「あら君、良い事言うじゃないの」

 修司の発言に対して海が言った。

「ほんと。生きているからこそ誰かの力に成ってあげられる……素晴らしい考えですわ」

 穏やかな微笑みを浮かべながら風も海に続いて語る。

「そうだよエンダーのお爺ちゃん! アプリコットちゃんは本当に大好きな友達とまた逢えて嬉しいんだから喜んであげなきゃッ!」

 大きな声でエンダーに言い寄る光に対し、エンダー本人は少し引き気味になって言い返した。

「い、いや。別に喜んでない訳じゃ無くてのぉ……(お、お爺ちゃんって……! しかも姫様に向かってちゃん付けだと……!!)」

 光の呼び方に対して少し苛立つエンダー。

 そんな中、海は修司等を眼前に言い放った。

「そうよ、誰かが無理に犠牲になるなんて悲しいだけだわ。……一緒に居られるからこそ、そして共に生きていけるからこそ皆が幸せになれることだってある筈よ……!」

 海に続き、風も悲痛な面持ちで語った。

「そうですわ……誰かの犠牲で例え世界が良くなっても、結局悲しむ人が生まれてしまうだけですわ」

 そして光も悲しげな表情で話した。

「そうだよ……誰かが苦しんで生きていく世界なんて、ただ虚しいだけだよ……(まさか、セフィーロにあった柱制度の様に自らを犠牲にする人がまだ、別の世界とは言え居たなんて……)」

 三人の少女達の悲痛な想いを聞き、エンダーとアプリコットは居た堪れない心境だった。

 

 そして修司は徐にアプリコットに話しかけた。

「……ま、という訳だ。もし世界に何か有ったら俺等が駆けつけるからよ、心配しなくても大丈夫だぜプリンセス・アプリコット」

 修司に話しかけられたアプリは謙遜しながら話し返した。

「あ、私はもう居ない筈の存在ですし、そんなプリンセスなんて付けなくても良いですよ……え、ええっと。貴方は確か……」

「あ、俺か。そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は小田原修司だ、宜しくな」

 修司の名前を聞いた途端、光達三人が驚いた。

『え、えええぇぇ!!』

「ちょ、ちょっと待ってよ! 確か小田原修司って……」

「は、はい……最近アニメタウンの市長に就任したって云う、あの小田原修司ですか!?」

 驚き唖然となる海に風に修司は言い返した。

「え、なんだお前達、もしかしてウチの町の人間だったのか?」

 すると光がテンションを上げて叫んだ。

「うわ~~ッ、うっそうっそぉ! ホントにあの小田原修司!? わーー初めて見たーーッ!」

「…………」

 テンションの高い光に対し、彼女とは真逆の性格である修司は少しばかり引いてしまった。

 そんな中、修司はアプリコットに自分の仲間達を紹介して行った。

「そういえば君がまだ眠っている時だったからな、改めて皆の事を言っておくよ。既に聞いていると思うが、お前をボスコ号まで運んでくれたのが加賀美あつこ。オッターと行動を共にし、魔法騎士と遭遇したのがバーンズ、俺の相棒だ。そしてベッドから起きた君に肩を貸してあげたのが俺の弟分でジュニアだ」

 修司が仲間達を差しながらアプリに紹介して行くと、それに続いて魔法騎士の三人組も名乗り始めた。

「私達も一応名乗っておくわね。私は龍咲海(りゅうざき うみ)」

「初めまして。私(わたくし)は鳳凰寺風(ほうおうじ ふう)と申します。以後お見知りおきを」

「はーーい、私は獅堂光(しどう ひかる)! 初めまして、アプリちゃん!」

「は、はい。初めまして……」

 光の勢いに若干押され気味になりながら彼女に半ば強引に握手をされるアプリ。

 修司は魔法騎士の三人とアプリコットを見て、穏やかな心情で思った。

(……まさか、魔法騎士の三人がこの世界に迷い込んでいたのは驚いたが……何はともあれ、アプリやバーンズ達と仲良くなってくれて良かったぜ。……そう言えば、確か彼女達が行った異世界セフィーロの柱制度も、アプリの経験した事柄と似ていたからなぁ)

 

 そして修司達聖龍隊側とアプリコット達ボスコワールドのメンバー、更に迷い込んできた魔法騎士の三人とモコナはこうして互いに意気投合し騒ぎまくった。

 

 特にフロークとアプリコットはあの日、アプリが命の泉に消えて以来、二人が得られなかった時間を取り戻すかの如く心行くまで話し合った。

 

 

 

 

[銃声の中の攻防]

 

 そして皆、オッターの手作り御馳走を満足行くまで食べ、そして心行くまで騒いで、すっかり草臥れ掛けていた時だった。

 バーンズは突然、尿意に襲われ一人近くの草むらに静かに移動して其処で排尿を済ませた。

「……ふぅ~~……いやぁ、すっきりしたっと。さて、早く戻らねえと……ん? アイツ等は……」

 この時、バーンズは草の陰から身を隠してボスコ号の前で宴を開く修司達を見詰めていた集団を目撃した。しかも彼等の手には何故かマシンガンがしっかりと握られていた。

「あ、アイツ等は……。こ、こうしちゃいられねえ……!」

 バーンズは集団に気付かれない様、こっそりと修司達の所に戻って行った。

 そして修司に耳打ちで話しかけた。

「おい修司。ちょっと……」「ん? なんだバーンズ。どうした?」

 バーンズは耳打ちで修司に、草陰に隠れている集団について述べた。

「……なんだと? 草むらにマシンガンを持った輩が……だ、だが、この世界にマシンガンなんて……」

 半ば信じられない修司にバーンズは続けて告げた。

「ああ……だが修司。俺はあのマシンガンを持った集団、前に見た事有るぜ」

「え? そ、それは一体……」「ああ、実はな……」

 バーンズが修司に語ろうとした、その時!

「ん……! みんな離れろッ!」

「えッ」「な、何事ですか?」「ん?」

 海・風・光はバーンズの掛け声に反応する。

「え? 何なのバーンズ……?」

 アッコがバーンズに訊ねようとした、その時。

 

「うわぁっ!」「きゃあっ」

 突然修司達を襲う無数の弾丸。それに驚き声を上げてしまうアッコに風。

「きゃあぁっ」「あ、アプリ!」

 突然の急襲に怯むアプリに被さる様に駆け寄り、彼女を護ろうとするフローク。

 騒然となる中、修司は皆に言い放った。

「み、みんな! 一先ずボスコ号に全員入れ! このままじゃ全員ハチの巣だ!!」

「よ、よし……。みんな中に入れッ」

 バーンズも皆に呼び掛け、全員頭を押さえながらボスコ号に逃げ込んだ。

 その時、集団の中の一人の男が叫んだ。

「撃ち方止めッ」掛け声と共に銃声は鳴り止み、辺りは静寂に包まれる。

 掛け声を出した男は小さな声で呟いた。

「よし、これで後は、あの気球船に近づきつつ、奴等が顔を出した途端に銃弾を浴びせてやれば……」

 そして男は、他の集団の男達を誘導しつつ、銃を構えたまま静かにボスコ号に近寄って来た。

 ボスコ号内では、修司達は男達が近寄って来るのを感じながら身を潜めていた。

「ど、どうする? 相手は銃器を持っているし、此方にはフローク達の様な非力な連中が居る。迂闊に飛びだせば銃弾の雨がボスコ号に放たれて、皆それこそハチの巣だぜ」

 身を伏せながらバーンズは修司に言った。それに対して修司は自分の意見を述べる。

「だ、だが。このままじゃ結局俺たち銃弾浴びる事に成るんだぞ……。あぁ、これなら他の隊士達も来させりゃ良かった……」

 修司が戸惑っているその時、彼に声を掛ける者が修司に歩み寄る。

「ね、ねぇ修司君」

「ん、なんだ? 確か……龍咲海だったな。どうした?」

 修司に声を掛けてきた海、その後には光と風の二人も居た。海は修司に小さな声で話した。

「修司君、私たちが囮になるから、貴方は他のみんなを連れて一緒に逃げて」

 海の言葉を聞いて咄嗟にバーンズが反論した

「な、何を言うんだよ。そんな危ない真似、ねえさん達にやらせる訳出来ねえだろう。それにどうやら完全に囲まれちまっているみたいだし、こんな大所帯を連れて上手く逃げられるか保証はねえよ」

 彼女等を戦わせる事に異議を唱えるバーンズであったが、そんな彼に風が優しく答えた。

「大丈夫ですわ。私達にも少しは力が有りますし」

「へ? 力?」

 バーンズが困惑していると光が呟いた。

「大丈夫だよね、海ちゃん風ちゃん。ちゃんと魔法使えるよね?」

 光の発言に、海と風は答えてあげる。

「大丈夫よ、光」

「そうです、私達がちゃんと自分の意志でしっかりと思えば魔法は使える筈ですわ」

 二人の友の発言を聞き、光は目に力を溜めて言い放った。

「……うん! 海ちゃん、風ちゃん。行こう!」

 光がそう言うと彼女は単身ボスコ号から飛び出して行き、光に続いて海と風の二人も外に飛び出す。

「あぁ!」「ね、ねえちゃん達、危ねえぞ!」

 飛び出た三人の行動に驚くアッコとバーンズ。

 しかし飛び出た三人は男達を目の前にしながら怯む事無く、威風堂々と立ち尽くす。

「な、なんだお前等!?」予想に反して目の前に飛び出してきた三人に多少驚く男たち。

 と、その時。突然三人の体を光が包み込み、三人の全身は光に呑み込まれていった。

「わッ!」「な、なに?」

 目の前で三人の身に起る現象に驚くバーンズとアッコ。

 そして修司やアプリコット達が見ている中、三人の姿が光の中から現れた。

 

「ん…………え……な、何だあの姿は?」

 眩しさゆえに目を閉じていたバーンズが目蓋を開いてみると、光・海・風、三人の容姿はすっかり変わっており、バーンズは驚き目を丸くした。

 彼女達の姿はそれぞれ赤・青・緑の洋服に近い身形で有ったが、それが色鮮やかな鎧に身を包み、更に彼女達は、剣柄が鎧と同色の剣を手に握りしめていた。

 光は赤の、海は青、風は緑色の腕が露出した甲冑を装着し、彼女達の眼つきは何処か鋭い力強い眼つきに自然と変化していた。

『な、何ィ?』

 男達は、自分達の目の前で身形を変えた光達を見て愕然とした。

 そして唖然となる男達に、光が剣先を向けながら言い放った。

「オジサン達! これ以上乱暴な事はしないで! さもないと私たちだって黙っちゃいないわよ」

 だが光の忠告を聞いた男達は、最初は戸惑っていたがすぐに眼つきを変えて光達に言い返した。

「ふ、ふざけるな! たかが小娘の三人や四人、俺たち豹の爪(パンサークロー)がビビると思っているのかッ!」

 男の発言に光達は驚愕した。

「え! い、今何て……!」

「ぱ、豹の爪って言えば、良くテレビで報道されている犯罪結社の……」

「そ、それが何でこの世界に居るんですか……?」

 血相を変えて驚く光・海・風の三人であったが、そんな彼女達に豹の爪の男達はマシンガンの銃口を向けた。

「! い、今は驚いている場合じゃないわ。光、風! 人間相手だけど攻撃するわよッ」

「う、うん!」「戦うしかないようですわね」

 海の呼びかけを切っ掛けに三人はそれぞれ身構えた。

「う、撃て!」

 一人の男が声を出した、その時。

「させない……! 炎の矢!」

 獅堂光が十数本はあろうかという炎の矢を出現させ、一斉に男達に向かって乱射した。

「うわあッ」「ひいいっ」

 乱射してくる炎の矢に怯みまくる男たちに、次は海が勝気な微笑みを浮かべながら告げた。

「熱いのだったら冷やしてあげるわね。水の龍!」

 海が唱えた瞬間、彼女の周りに水が渦を巻く様に出現し、現れた水は次第に龍の姿に象られ勢いよく男達に向かって行った。

「う、うわあ!」「ひっ……ご、ごぽ」

 物凄い水圧によって男達は吹き飛ばされ、中には溺れかかる者までいた。

「く、くそぉ!」

 二人の攻撃の範囲外に居た男達が三人に襲い掛かろうとしたその時、風が咄嗟に唱えた。

「碧の疾風(みどりのしっぷう)!」『うわあ!』

 緑色の真空刃が発生し、男達を巻き込んで行った。

「す……すごい……」目の前で勇敢に戦う魔法騎士を見て人知れず衝撃を受けるアプリコット。

「……ハッ、そうだ。ねぇ修司、私達も行きましょうよ。光さん達だけに戦わせるのも何だか居た堪れないわ!」

「あ、そ、そうだな。よし、バーンズ、ジュニア。俺達も出るぞ!」

「待ってました!」

「そうだね、初めて逢った人達だけに戦わせるなんて申し訳ないものね」

 アッコに言われ、修司はスグにバーンズとジュニアに声を掛けて戦意を上げさせた。

 そして四人は一斉に外に飛び出して行った。

「あ、君……」

 飛び出るジュニアを気にし、アプリが心細い声で呼び止めるが彼等の耳には入らなかった。

「行くぜ……ッ、武装!」「テクマクマヤコン!」

「メタル・イン!」「そりゃッ」

 飛び出した彼等はそれぞれ、修司は懐から取り出した鬼の面を顔に装着させ、アッコはポケットからコンパクトを取り出して呪文を唱え、バーンズはチップバードを胸に当てて相言葉を唱えた。そしてジュニアは大地の鞭を地面に叩き付けてそれぞれ変身を完了させた。

「え?」「こ、この人達! まさか……ッ」

 光達は姿の変わりつつある四人を見て驚愕した。

 そして変身を済ませた四人は豹の爪を眼前に、彼等に向かって叫んだ。

「聖龍使い、いざ戦わん!」

「愛と希望を聖なる鏡で護り抜く! 奇跡の乙女ミラーガール!」

「メタルバード、いざ見参!」

「ジュピターキッド、いざ参る!」

『え、えええぇぇ!!?』

 変身した四人を見て愕然となり叫ぶ魔法騎士たち。

「う、ウソでしょ? 市長さん自身が聖龍使い?」

「ま、まさか……彼が結成させた英雄集団をまとめる英雄が、市長の修司君自身だったなんて……!」

「し、信じられない……」

 目の前で姿を変えた修司達を見て、思わず口を開けて呆然となる海・風・光たち魔法騎士。彼女達は以前より、アニメタウンにて修司が市長に就任した事はもちろん、彼が町の英雄達を集めて一つの英雄集団を結成させた事も既に知っていた。

「そりゃあ! 皆の者、やってしまえ!」

『オオゥ!』「まっかせなさい!」

 聖龍使いの掛け声を合図に男達に向かって行くメタルバードにキッド、そしてミラーガール。

「……あ、あの人達、凄い……」

 果敢に戦う聖龍隊を見て、アプリコットは魔法騎士に続いて修司達に対しても偉観した。

 

 そして魔法騎士・聖龍隊の計7人は無事に豹の爪の男達を全員倒す事ができた。

「ケッ、弱くて話になんねえなぁ」

「まぁ、怪我人が一人も出なかったんだし良かったじゃないか」

 暴れ足りない様な素振りのメタルバードに半ば呆れながら話しかけるジュピターキッド。

「うわあっ。アッコちゃんがミラーガールだったなんて!」

「町でも有名な聖龍隊のメンバーがすぐ側に居たなんて……!」

「ふふ、今日はこの世界に迷い込んだり、町で有名な英雄に出逢えたりと飽きないですわ」

「へ、へへ。いやぁ……」

 光・海・風の三人に言い寄られ、多少照れてしまうミラーガール。

「ふぅ~、これで全員かのぉ……」

 聖龍使いはもう豹の爪の輩が周りに居ないか確認をしていた。

 一方、ボスコ号内で修司こと聖龍使いや魔法騎士の戦いっぷりを見ていた面々は驚き過ぎて唖然としてしまっていた。

「……す、凄かったなぁ」

「う、うん……まさか修司君達があそこまで強かったなんて……」

「あ、あの女の子達もまさか魔法であそこまで戦えるなんて……!」

 激闘を目の当りにし、修司達の実力に呆然となるタッティ・フローク・オッターの三人。

「むむ……まさか、修司殿やあの三人の娘子の容姿が変わるとは……!」

 自身の容姿を変貌させて戦う修司達を見て神妙な面持ちで驚くエンダー。

「…………」

 そんな四人と違い、修司達の戦いを見て人知れず魅入ってしまうアプリコット。

 と、その時だった。

「お前等! 其処を動くな!」「え!?」

「え? あ、アンタは……!」

 フローク達が振り返ると、其処にはいつの間にか船内に忍び込んでいた豹の爪の男の一人が背後からアプリコットを押さえ、更に彼女の頭に銃口を突き付けてフローク達に睨みを効かせていた。

「ふ、フローク……」「あ、アプリ……」

 首を男の太い腕で締め付ける様に押さえられ、更に頭に銃口を突き付けられて怯える眼差しのアプリを眼前にしながら、どうする事も出来ないフローク達。

「あ、いけねえ! お姫様が危ねえぜ!」「え!」

 騒然となるボスコ号内の状況に気付いて声を上げるメタルバードと驚愕するキッド。

「お、お前! 姫様を傷付けるんじゃないぞ!」

 エンダーが男に向かって叫ぶと、男は嘲笑うかのように言い返した。

「へへぇ、このガキがお姫様だってのかい? そんなに大切なお姫様なら大人しくしている事だなぁ。まっ、逃げ出した総理大臣を見つけられただけでも儲けモンだけどな。これでメデューサ様にお褒め頂けるぜ」

「! お、お前! あのメデューサの知り合いか!?」

 男が発したメデューサの言葉に驚くエンダーは咄嗟に訊き返した。すると男は不敵に笑いながら答えた。

「知ってるも何も、メデューサ様は今回の作戦の全てを指揮する俺たち豹の爪の幹部だ。勢力拡大の為にこの世界にやって来た訳だが、かなり平和ボケしていたフォンテーランドの連中をメデューサ様が洗脳し意図も容易く王宮はもちろん、国そのものも簡単に占拠できたぜ。爺さん、姫様に傷つけたくなきゃ大人しく俺と一緒に来るんだな」

「ぐ……っ」

 アプリコットを人質にされ成す術がないエンダー達。

「あ、アプリ……!(な、何とかしなきゃ……! だ、だけど、どうすれば……)」

 大事に想うアプリコットが捕えられ何とかしたいと思うフローク。だがどう対処すれば良いか解らず困惑するばかり。

 他の皆もアプリの頭に銃が付き付けられている為、迂闊に動く事すらできなかった。

 だがその時「……ウゴクナ!」「えぇ!?」

 アプリコットを押え込み、彼女に銃を突き付けていた豹の爪の男の背後から謎の声が聞こえてきた。しかも男の頭の後ろに何やら銃口の様な感触が。

 銃の様な感触が後頭部に突き付けられ半ば怯える男に、謎の声は告げた。

「ウゴクナ、ソレイジョウナニカシテミロ。オレノジュウガヒヲフクゼ」

 片言の発言であったが男は動揺した、次の瞬間。

「ぷくーーッ!」「ムグッ」

 怯み動揺していた男の顔面にモコナが飛び蹴りを喰らわせた。その瞬間、男の腕は緩み、すかさずアプリは男から逃げ出した。

「あ、アプリ!」「フローク……!」

 解放されたアプリコットはすぐにフロークの腕の中に飛び込んだ。

「ぐぅ……く、クソ!」

 顔面に飛び蹴りを喰らい、興奮した男は自分の背後から銃を突き付けた者に向かって銃口を向けた。

 だが其処に居た存在を確認して、男は呆然となった。

 何故なら「……グフフ、ドウシタンダ? ソンナニオドロイテ」其処に居たのは、翼を羽ばたかせながら空中に停止し、足に銃口と同じぐらいの太さの木の棒を持っていたスピークであったからだ。謎の声の正体は九官鳥のスピークであったのだ。

「え……? う、うそぉ……」

 余りの事実に驚き過ぎて呆然と立ち尽くしてしまう男。その時、男の肩を後からポンと叩いた人物が男に告げた。

「おい、あんた」「え」

 男が振り返った瞬間、男の肩を叩いた聖龍使いが思いっきり男の顔を殴り付けた。

「きゃは……」顔面を殴られた男は目から星を出して、そのまま気を失った。

 聖龍使いは男が気絶しているのを確認すると、顔をアプリコット達に向けて彼女に訊ねた。

「アプリ殿、怪我はないでござるか?」

「え? は、はい……大丈夫、です……」

 聖龍使いに訊かれたアプリは目をパチパチさせて返事をした。彼女は聖龍使いに変身した修司の言葉使いが変わっていた事に少し動揺していたからだ。

「み、みんな! 大丈夫だった!?」

 船内に駆け込み仲間達。ミラーガールは船内の皆に訊くと聖龍使いが答えた。

「あ、皆の者。大事は無いでござるよ。意外な展開ではあったが名犬ならぬ名九官鳥と白大福がアプリ殿を助太刀したので彼女に怪我はないでござるよ」

「あ……」「しゃ、喋り方が変わっていますね……」

 魔法騎士の海と風はすっかり口調の変わった修司に唖然とした。

「ぷく~~っ……」

 そんな三人の所にモコナが駆け寄り、光に飛び付いた。

「うわあ、モコナ! 良く頑張ったね!」

「ぷく~~……」

 飛び付くモコナを、光は優しく撫でてあげた。

「うわ~~、光のネエちゃん。オレも頑張ったんだから撫でて撫でて」

 モコナが撫でられるのを見たメタルバードは乗じて光に頭を撫でてもらおうと頭を突き出すと、光は嫌な顔一つせずメタルバードの頭を撫でてあげた。

「はいはい、メタルバードも良く頑張ったね。それにしてもバーンズがメタルバードだったなんてね。メタルバードってロボットとか思ってたよ」

「へへ、良く言われます」

 光に頭を撫でられ不抜けた面構えに成るバーンズ。

 そしてキッドはさっきまで男に捕まってしまっていたアプリコットに駆け寄り、彼女に声を掛けた。

「え、ええっと!? あ、アプリコット姫! お怪我はありませんか」

 半ば慌てた素振りで話しかけられたアプリコットはキッドに微笑みを向けながら言い返した。

「え、ええ……大丈夫よ」

 声を掛けられたアプリコットはキッドの慌てた素振りに多少困惑しながらも返事をした。

 

 そして皆は、聖龍使いを話の中心にしてそれぞれ話しあった。

「……まさか、豹の爪(パンサークロー)がこっちの世界にも足を延ばしていたなんて……」

 思い詰めた表情で呟くミラーガールにメタルバードが続けて述べた。

「ああ、と言うよりも……あいつ等どうやってこの世界に来れたんだが。異次元亜空間ゲートはウッズとチップバードが時間を費やしてようやく完成させたのに、まさかコイツ等も自力で同じような装置を作成してたって言うのかよ……」

 メタルバードに続いて聖龍使いも皆にこれからの行動を話し出した。

「それよりもじゃ。話に聞けば、あのメデューサは豹の爪の幹部らしい……急がねばフォンテーランドが危ないぞい」

「た、大変……! 急いで王国に戻って国の人達を助けなきゃ……!」

 国を心配するアプリコットにエンダーが告げた。

「ひ、姫! 貴女は此処で待っていてくだされ! 貴女にもしもの事が有ったら、ワシは……」

 だがアプリコットは憂悶の心境のエンダーにハッキリと伝えた。

「でもエンダー! ジッとしているなんてできないわッ! 私達の故郷が危険な状態なのよ! 国の人達に何か有ったら……!」

 険しい顔付きで言い放つアプリを見て、キッドはフロークに訊ねた。

「ねぇ、あのお姫様って、いつもあんな調子なのかい?」

「あ、ああ。正直、困っている人が居たら放っておく事ができない子なんだよアプリは……。昔はそれで結構振り回されてしまう事も多々有ったしね……」

 半ば呆れ返っている表情で話すフロークに、キッドは穏やかな表情で言い返した。

「そうかい……まぁ、実は僕等の知り合いにも似たような人が沢山いるからね、気持ちは分かるよ……。だけどそれが逆に魅力的な部分かもしれないと、僕は思うよ」

 キッドはミラーガールの方に視線を向けた。

(ふ、何よりミラーガール自身がそんな女性だし……)

 そしてバーンズが聖龍使いに今後の行動について訊いてみた。

「なぁ修司、これからどうするよ」

「うむ、実は拙者に一つ、妙案が有るでござる」

「妙案?」

 ミラーガールが首を傾げながら訊き返すと、聖龍使いは思わせ振りな素振りで皆に言った。

「うむ、実はな……」

 聖龍使いは皆に自分の考えた妙案を伝えた。

 

 

 

[潜入! フォンテーランド]

 

 一晩経った翌日。

 フォンテーランドの国内に、二人組の男にロープで身動きが取れない様に縛りあげられた修司にジュニア、アプリコット達と魔法騎士の三人、計10人の姿が有った。

 彼等は二人の男に逃げられない様ロープで繋がれ、そのまま王宮の入り口まで向かっていた。

 王宮までの道のりの間、エンダーは国の民の一変した様子にド肝を抜いた。

 彼等の首には昨日見た兵士たち同様にヘビの様な物が巻き付いており、全員目に生気が無かったのだ。

「こ、これは一体……」

「み、みんな、どうしたのかしら……」

 一変した民の様子に深く困惑するエンダーとアプリコット。

 そして彼等は男二人と共に宮殿の入り口に辿り付いた。男達は門兵に歩み寄り話しかけた。

「昨日逃げ出した連中と、その一派の輩を捕えた。中に入れてくれ」

「……うむ」「良かろう……」

 二人の門兵は生気のない声でそう言うと、門を開けて彼等を中に入れてやった。

「う、上手く行ったわねバーンズ……」

「まだ喋るな。まだ中に入れただけなんだからよ」

 二人の男は周りに聞こえない様な小さな声で会話した。実はこの二人、アッコとバーンズが変身能力で姿を変えていたのだ。

 彼等は修司の提案の元、アッコとバーンズに豹の爪の男二人に変身してもらい、二人に捕われた振りをしながら王宮に潜入する作戦だった。

「あ、あはは。まさか、アッコちゃんが男の人に変身できちゃうなんて……」

「ちょ、ちょっと意外……」「え、ええ……」

 アッコの変身能力について少しばかり驚く光・海・風の三人。

「ま、まさか捕まった振りをしながら宮殿に入り込むとは……」

「ああ。だけどこれなら周りの目を欺きつつ侵入する事が出来るから一番確実な方法だよ」

 オッターとタッティが辺りを気にしながら話をしているその時、彼等の目に豹の爪の男達が入った。

「へへ、見てみろよ。この国、かなり溜めこんでいるなぁ」

「ああ、これなら少しばかりボーナスって事で懐に仕舞い込んでもメデューサ様には気付かれないぜ」

 男達は両手いっぱいに金銀財宝を持ちながらニヤけた面で話し合っていた。

「む、むむむ……! この国の財源を良くも……!!」

「え、エンダー、落ち着いて……今は我慢しなきゃ」

 怒りに身を振るわせるエンダーをアプリコットは優しく宥めてあげた。

「そうだ、今は何はともかく、大人しく腰を据えている事が大事だ。焦らず、チャンスを待とう……」

 険しい顔付きで修司が皆に向かって呟いた。

 

 そうして、人目を避けた場所でアッコとバーンズに縄を解いて貰った一同は修司に訊いてみた。

「し、修司。これからどうするの?」

 アッコに訊かれた修司は真剣な顔つきで皆に言った。

「そうだな……まず兵士の一人を捕まえて、色々と調べておかないと……」

「な、何を調べるんですか?」

 風が訊ねると、丁度その時、近くまで兵士が歩いて来た。

「おっ、丁度良いな。ちょっくら待ってくれ」

 修司は物陰に身をひそめながら、近くまで兵士が来るのを待った。

 そして「ふんっ」「むぐっ」修司はやってきた兵士の背後に回り込み兵士の首を締めあげ気絶させた。

 そして修司は気絶した兵士を引き摺りながら皆の所に連れて行った。

「す、スッゴ~い! 修司君まるでスパイじゃん」

 修司の行動を見て、光は目を輝かせながら言う。

「別に、大した事じゃねえよ……さて、これは外れるかな」

 光の発言を聞き流しながら修司は気絶させた兵士の首に巻き付いているヘビを強引に取り外そうとした。

 だがヘビは外れるどころか掴んでいる修司の手に噛みついて来た。

「うわ!」

 驚いた修司は咄嗟に手を放すとヘビは再び兵士の首に元の状態に巻き付いた。

「く、くそぉ……ダメか……」

 口元を歪ませ困り果ててしまう修司に、バーンズのポケットから出てきたチップバードが首に巻き付くヘビをスキャンして一言告げた。

「修司はん、このヘビどうやら一種の寄生生命体みたいでっせ」

「寄生生命体?」

「そやっ、このヘビは主の意志とリンクしていて、宿主の首に巻き付くとその人間の意識を操ってしまうみたいや」

「そ、そんな!? な、何とかする事はできないの? チップバード……」

 悲痛な面持ちでアプリが訊ねると、チップバードは皆に聞こえる様に言った。

「このヘビを外すには方法は一つ。このヘビを操っている主を倒すしか有りまへんで」

「あ、主って……」

 風が呟くと修司が真剣な顔つきで言い放った。

「主はアイツしかいねえだろ……豹の爪(パンサークロー)の幹部、メデューサだ!」

 

 

 

 その頃、宮殿の一番奥の玉座では一人メデューサが腰を据えていた。

「グフフ……まさか本当に異世界とやらに来れるとは。あの黒ローブから得た設計図は本物だったのだな」

 メデューサは以前、自分等が支配下に置いている黒天狗党の基地に出向いた黒ローブから入手した設計図の事を思っていた。

「何はともあれ、これでいつでも好きな時に異世界に行ける訳じゃな。この世界の様に自然エネルギーの豊富な世界や、金や銀、レア・アース(超貴重鉱物)の鉱脈が眠る異世界にも自由自在に行ける様になった……これで更に豹の爪の勢力もかなり上がる筈じゃわい。シャッシャッシャ……」

 独特の不敵な笑い声を発声しながら高笑いするメデューサ。

 

 と、その時。

「はっはっは、主等の悪巧みなど上手く行く筈はないじゃろがッ」

「な、何者!?」

 突然聞こえてきた声に驚くメデューサはすかさず訊ねると、彼女の目の前に7人の影が姿を現した。

「お、お前等は!」

 メデューサはその内の4人の顔を見て驚愕した。何故ならその4人の顔をメデューサは既に元居た世界、そして豹の爪の間でも話題に成っている顔で有ったからだ。

 その4人はメデューサに顔を向けながら勢いよく名乗り出す。

「あ、其れがしィ、汚れた魂(たま)を拭(ぬぐ)いとる、あ聖龍使いとは、其の事であ~るぅ」

 歌舞伎口調で名乗る聖龍使いに続き、メタルバードとジュピターキッドも景気良く名乗った。

「疾風の如く空を駆けるは、メタルバードとは俺の事!」

「母なる大地から受け継ぎし自然の猛威! ジュピター・キッド、いざ見参!」

 4人目の最後もメデューサに勢いよく名乗りを上げた。

「愛と希望を聖なる鏡で護り抜く! 奇跡の乙女ミラーガール! 只今参上!」

 そして7人の中でメデューサが見た事も無い3人の少女達も続け様に名乗り出した。

「炎の騎士、光!」「水の騎士、海!」「風の騎士、風!」

『魔法騎士(マジックナイト)レイアース! 此処に現れん!」

「ま、マジックナイト? だ、誰じゃこの子娘達は……ま、まさか聖龍隊の新たな一員だというのか!?」

 初見で有る魔法騎士三人組に驚くメデューサに、聖龍使いは刀の切っ先を向けて一言発した。

「メデューサ! 大人しくせい! まさか一人でワシ等と戦おうと言うんじゃなかろうなぁ」

(ほ、本当に、あの修司君なんだよね?)

(す、すっかり喋り方が変わっちゃっている……!)

(あらあら、本当に変身すると聖龍使いの口調に変わられているんですね。あの修司君は)

 メデューサに向かって言葉を発する聖龍使いを見ながら完全に口調の変わっている言動に対して唖然となる光・海・風の三人。

 だがメデューサは7人を眼前にしながら態度を変えず、余裕を思わせる口調で高笑いしながら吐き捨てた。

「シャッシャッシャッシャ! 誰が一人で戦うつもりか! こっちには部下共も含めてこの国の兵士共も妾が洗脳して思いのままなのじゃ! 皆の者、出あえーー!!」

 メデューサが叫んだ途端、彼方此方から多くの豹の爪の団員達とメデューサに洗脳されたフォンテーランドの兵士達がその場に駆けつけてきた。

「きゃあ!」「ちょ、ちょっと、いくらなんでも多過ぎるわ!」

 豹の爪の男達と洗脳された兵士の余りの数の多さに驚くミラーガールに海。しかし聖龍使いは怯む事無く皆に告げた。

「慌てるでない! 皆で協力すればこれぐらいの敵、あっと言う間に片付けられるわいッ!」

「そ、その自信は一体何処から……」

 聖龍使いの根拠のない自信に風が困惑しているとメタルバードが彼女に言った。

「ハハハ、風のねえちゃん、コイツはいっつもこんな感じなんだよ。ま、ねえちゃん達はオレが全力で護ってやるから安心しなッ」

 するとメタルバードに光が微笑みながら告げた。

「はは、大丈夫だよメタルバード。私達もこんな事、結構経験しているから何とかできちゃうよ。ねっ、海ちゃん風ちゃん」

「ま、まぁね……」

「ふふ、相変わらずですね。光さんは」

 光の言葉に苦笑しながら言葉を返す海と彼女の言動に微笑む風であった。

「よぉし諸君! 洗脳されている兵士達は気絶させ、豹の爪(パンサークロー)の輩は容赦なく叩きのめすぞい!!」

 聖龍使いは声を上げると同時に下っ端と兵士の群衆に突っ込んで行った。

「よし、私達も行きましょう」「ヨシ来た!」

「手加減しなきゃならない相手も居るのが、ちょっとややこしいけど仕方ないか」

 敵勢に突っ込む聖龍使いに続き、ミラーガールとメタルバードそしてジュピターキッドも突っ込んで行った。

「わ、私達も行くわよッ。聖龍使い達だけに戦わせては居られないわ!」

「はい!」「よし、海ちゃん風ちゃん! 行っくわよぅ!!」

 魔法騎士の三人も聖龍使い達に続いて敵勢に突っ込んで行った。

 

 7人の英雄と豹の爪の下っ端&洗脳された兵士達との激戦が今、火蓋を切った。

 

 

[覚醒した姫君と大地の子からの言葉]

 

 聖龍使い、ミラーガール、メタルバード、ジュピター・キッド等は魔法騎士の獅堂光(しどう ひかる)、龍咲海(りゅうざき うみ)、鳳凰寺風(ほうおうじ ふう)の三人と共にメデューサ率いる豹の爪(パンサークロー)とメデューサに洗脳されてしまっているフォンテーランドの兵士達と激戦の最中だった。

「そりゃあ!」

 聖龍使いは迫って来る兵士達に対して、腹部に拳を入れたり首の後ろをチョップしたりして気絶させていた。

「食らえッ!」「ぎゃああ!」

 メタルバードは自信の右腕をコンセントの様な形状に変化させ、それを相手に触れさせ其処から電流を流し兵士や豹の爪を感電させていった。

「はいッ、そちらさんも大人しく寝ていてくださいねッ!!」

「ぎゃあっ」「ぐわっ」

 ジュピターキッドは向かってくる相手に鞭を力いっぱい振り回し、叩きつけていく。

 その光景を影から見ていたフローク達は、ただただ立ち尽くすばかり。

「す、スゴイ……」「あ、ああ……何なんだ、あの子達は……」

 目の前で勇敢に戦う皆を見て愕然とするタッティとフローク。

「あ、あの女の子達、めっちゃ強えぇ……」

「み、見事な太刀筋じゃのぅ。あの魔法騎士と名乗る娘たち……」

 様々な魔法や剣術・弓で戦っている魔法騎士達を目の当りにし呆然としてしまうフロークに感心するエンダー。

「ほ、ホントに凄い……」

 アプリは目の前で大勢の武装した相手に対して一歩も怯む事無く戦い続ける聖龍使い達を見て、目を丸くして唖然としていた。

 だがその時、「水の龍!」海が技を発動させて大勢の豹の爪の男達を激しい水流で押し流した。

「うわあぁっ」

 男達は激流に飲み込まれたのだが、運悪く水流が建物の陰に隠れていたアプリ達の方にまで迫って来ていた。

「あ、危ない!」

 ミラーガールがアプリ達に声をかける。

「い、いけない……!」

 うっかりアプリ達の方にまで技を放ってしまった海は深く動揺した。

 そしてアプリ達の眼前にまで激流が迫りつつ有った。

「あ、あ……! (ど、どうしよう……このままじゃ……)」

 突然迫って来た激しい水流を目の当りにしたフロークは酷く困惑してしまう。

 しかし次の瞬間、アプリが無我夢中で激流の真ん前に立ちはだかり、身を盾にした。

「あ、アプリ!」「あ、危ない!」「姫様!」

 タッティ・オッター・エンダーは自分達を気遣って前に飛び出したアプリに驚愕した。

「あ、アプリ……!!」

 フロークは自分が困惑している最中に飛び出すアプリを見て愕然とした。

 誰もがアプリコットを始め、彼女の後方に居るフローク達にも「水の龍」が直撃してしまうと思った。

 だがその時「……えい!」アプリは目を瞑ったまま両腕を思いっきり開いた。すると眼前まで迫っていた激流は真っ二つに裂けてアプリ達を避ける様に彼女達の両端へと流れて行った。

「……ハッ、はぁ……こ、これは……」

 アプリが目を開けてみると自分の周りが水浸しに成っている現状を確認できた。

「だ、大丈夫!? あ、アプリコット姫」

 キッドが駆けつけて声をかけると、アプリは困惑しながらも口を開いた。

「え、ええ……で、でも一体何が……」

 アプリは自分が何をしたのか、何が起きたのか、また理解できず困惑しきっていた。そんな彼女にキッドが事情を話した。

「い、今きみ……自分達に迫って来た激流を、まるで生き物のように操って真っ二つに裂いたんだよ」

「え? わ、私が……?」

「あ、ああ。そうだけど……じ、自覚無いの?」

「え、ええ。うん……」

 キッドに自分の行動を聞かされたアプリコットであったが、無我夢中での行動だった為、ほとんど記憶に無かった。

「い、今のは……」

「あ、あのお姫さん。何かしたみたいだが……」

「む、無我夢中で水を操ったというのか……」

 アプリの成し得た行動に驚き唖然としてしまうミラーガールにメタルバード、そして聖龍使い。

「あ、あの女の子。水を自在に操れる……の、かな?」

「さ、さぁ……ど、どちらにしろ、何事も無く良かったですわ」

「よ、良かったぁ。私の技で何か有ったらどうしようかと思ったわ……」

 アプリの動作を見て唖然となる光と風に対し、自身の攻撃でアプリ達が何事も無かった事に安堵し胸を撫で下ろす海。

 

 だが、その様子を見ていたメデューサはアプリコットの能力に自然と惹かれた。

「あ、あの小娘。水を操れる潜在能力が有るというのか? ……面白い、本部に連れて帰ってじっくり研究してみるのも一興」

 そしてメデューサは自身の部下達に命じた。

「お前等! その子娘を捕えるのじゃッ!」『オォウ!!』

 命じられた男達は一斉にアプリコットに迫って来た。

「キャアっ」「あ、アプリ!」

 アプリコットが悲鳴を上げ、フロークが声を上げたその時。

「そうは行くかッ、そりゃっ」

 ジュピター・キッドは迫りくる男達に向かって思いっきり鞭を振り当てた。

「うぎゃ!」「ぐひっ!」

 顔面に鞭を当てられた男達は顔を赤くして倒れて行く。

 それでも向かってくる敵達を前にキッドはアプリやフローク達の方を向き、彼等に一言発した。

「済まない、少し宮殿壊しちゃうわ」「へ?」

 キョトンとなるアプリであったがその時、キッドは力いっぱい鞭を宮殿の床に叩き付けた。すると床から巨大な蔓状の植物が生えて来て迫りくる男達を捕えて行った。

「うわあッ」「な、なんだこりゃあ!?」

 捕えられた男達は困惑し、何とか植物から逃れようと精一杯足掻くが植物はより一層強く締め付ける一方で有った。

「ええ!?」「わぁ! く、草が……巨大な草木が生えてきた!!」

「えぇーーッ!!」「ま、マジかよッ!?」

 突如目の前に出現する巨大植物に驚愕するアプリ、フローク、タッティ、オッター達。

「ぬおおおぉぉぉ! きゅ、宮殿がーーッ!!」

 床から生えてきた巨大植物で半壊してしまった宮殿内を見て愕然とショックを受ける総理大臣のエンダー。

 そしてアプリコットは驚き動揺しながらもキッドに訊ねた。

「あ、あの……」「ん? 何だい?」

「い、今の、あなたが」

「あ……ああ、そうだよ。ごめんなさい、君たちを護るためとはいえ、宮殿壊しちゃって」

「あ、良いんです、あの状況じゃ仕方がないもの……と、ところで」「ん?」

 アプリコットは思い詰めた表情でキッドに訊いた。

「あ、あなた……怖くないの? こんなに大勢の、それもあなたや私達よりも大きな人を相手に……」

 訊ねられたキッドは訊いて来たアプリコットに優しく微笑みを放ちながら彼女の質問に答えた。

「そりゃあ、怖くないと言えばウソになる。だけど自分がこうして誰かの、弱い人達の代わりに戦ってその人達を護れるのなら、怖がってはいられないよ」

「……!」

 キッドの発言に衝撃を覚えるアプリ。更にキッドは彼女に向かって優しく告げた。

「弱い人達に代わり、その人達の剣(つるぎ)となり盾(たて)となる……それが聖龍隊さ」

 このキッドの言葉を聞いたアプリコットは自分の心を揺さぶられた。

「……え、ええいお前達、何をしている! さっさとその子娘を捕えるのじゃーーッ!」

 メデューサは再び男達に向かって命令を下したのだが、男達は全員キッドの出現させた植物に捕われてしまって身動きが取れなくなっていた。

「くっ……だ、ダメか。こうなれば、おいッ兵士ども! 捕えるのじゃ……って、え?」

 次にメデューサは自分が洗脳しているフォンテーランドの兵士達に命じようとしたが、兵士達を見てメデューサは愕然としてしまった。

「ううぅ……」「ん~~……」

 何と兵士達は全員、既に聖龍使いやメタルバード、ミラーガール、更には魔法騎士の三人によって気絶させられていた。

「ああぁ!!」

 気絶している兵士達を見て顔面蒼白になるメデューサに聖龍使いは言い放った。

「メデューサよ! もうお前の部下は使えんし、お前によって洗脳されている兵士達は全員眠らせたわッ。大人しくせいッ!」

「ぐむむ……!!」

 聖龍使いに指摘され悔しがるメデューサ。そしてメデューサを睨みつけながらジリジリと迫りつつある聖龍使いとメタルバードとミラーガール、そして魔法騎士の三人。

 しかも逃げようにも部屋の入口には既にアプリコットやフローク達、そしてジュピターキッドが居る為逃げる事もままならない状況であった。

 

 

 

[勇気ある想いと怒りに満ちる心情]

 

 逃げ道すらも無くなったメデューサは眼前の聖龍使い達を前に一人困惑していた。

(く、クッソ~~……このままじゃ……こ、こうなったら)

 メデューサは自分の目に力を入れ始めた。そして「フンッ」大きく目を見開くと、その目は異様に赤く発光し眼前の聖龍使い達を睨みつけた。

「! な、何じゃ! ぐぅ……か、体が……!」

 メデューサに睨まれた瞬間、聖龍使い達は身動きが取れなくなってしまった。

「あっ、あぁ……!」「そ、そんな……僕達まで……!」

 しかもメデューサは咄嗟に態勢を微妙に動かして自分の視界にアプリやキッド達までも捉えており、彼等もまた身動きが取れなくなっていた。

 動けなくなった彼等に対し、メデューサは吐き告げた。

「シャッシャッシャ、我の力強い眼差しに睨まれれば立ち所に金縛りにできるのじゃよ。さぁって、お次はこれじゃ」

 そういうとメデューサは手首から自身の分身である蛇を十数匹も放ち、身動きの取れなくなった聖龍使い達に蛇を向かわせた。

「ヒぃ!」「へ、蛇ですわ!」

 身動きの取れないミラーガールと風は自分達に迫る蛇の群れを見て顔が蒼褪めていく。

「く、くそ……どうするよ、おい」「む、むむ……」

 メタルバードと聖龍使いも成す術が無かった。

「ど、どうしよう体が……」「くそ、このままじゃ……!」

 アプリコットとキッドも動けなくなっていたのだが、それでも蛇たちは容赦なく迫って来る。

「た、大変じゃ……! このままじゃと姫様が……」

 アプリコットの身を案じているエンダーは身動きできない自分自身に行き場の無い憤りを感じていた。

「ど、どうするんだよ。タッティ……」

「い、いや。どうにかしたいのは山々だけど……動けなきゃ何もできないよ……」

 オッターとタッティすら身動きが取れず困惑していた。

「あ……ヘ、ヘビ……」

 フロークは身動きが取れない上に、自分の一番苦手な蛇が自分に近づきつつある現状に、次第に顔から血の気が引いていた。

 その時、皆が動けなくなっている最中メデューサが言い放った。

「シャシャシャ、このヘビ共は妾の分身。お前達の首に巻き付いて其処に倒れている兵士達同様、お前等は妾の忠実な僕(しもべ)となろうぞ」

「な、なに?」「そ、そんな!」

 メデューサの言葉に驚愕するメタルバードに海。

「た、大変! 早く何とかしなきゃ……」

「じゃ、じゃが、どうやって……」

 蛇の事実を知り動揺するミラーガールだったが聖龍使いや他の皆同様、動く事すらできなくなっており、ただただ困惑するばかりであった。

 

 しかしこの時、たった一人だけ動揺する事も無く、内心自身の考えで一杯だった者が居た。

(こ、このままじゃアプリが……動け、動くんだ、ボクの体……!!)

 アプリコットを案じていたフロークは何とか体を動かそうと心の中で足掻き始めた。

 その時、遂に蛇の内の一匹がアプリコットの足元まで近づいて来た。

「あ……!」

 自分の足元に近づく蛇を見て、アプリコットは恐怖で顔が引き攣り始めた。

(あ! アプリ!! く、くっそぉ……!!)

 フロークはこれでもかと、限界ギリギリまで自分の体に力を入れた。そして。

「おりゃああぁ!!」

 何とフロークは周りの皆が金縛りで動けない中、自力で動き出し、アプリコットに近づきつつある蛇の群れを次から次へと蹴り飛ばしアプリから蛇を遠ざけた。

「お、お主! 何故動ける!!?」

 自身の金縛りが解けたフロークを見て驚愕するメデューサ。そして周りの皆も自力で金縛りを解いたフロークにただただ驚くばかり。

「こ、このヤローーッ!」

 そしてフロークは無我夢中でメデューサの方に駆け出し、そしてメデューサに飛び掛かった。

「うわっ、お主何を!?」「うわっ、うわあぁ!!」

 自分が苦手な蛇の女怪人メデューサに無我夢中で飛び掛かるフローク。彼はこの時ほとんど恐怖で何も考えてはいなかったのだが、飛び付きメデューサが動揺困惑していたその時だった。

「……ん? お、おいみんな! 体が動けるぞ!」

 突然自分の体が動ける様になったのに気付いたメタルバードは大声で皆に呼び掛けた。

「あ、本当だわ!」

「そ、そうか! フローク殿がメデューサに飛び付いたから、メデューサの眼力が途絶えたのじゃ! 今が好機ぞ!!」

 聖龍使いは叫ぶと聖龍剣を手に握りしめメデューサに突進して行った。

「こ、このッ!」

 メデューサは自分に飛び掛かって来たフロークの首元を突然左手で掴み上げた。

「ぐッ……!」

 首を締め上げられ苦しむフローク。そんな彼にメデューサが右手でフロークを攻撃しようとした。

 だが「させん!」「グッ!」咄嗟に聖龍使いが、懐から取り出したナイフをメデューサの右手に投げつけ、ナイフはメデューサの右手に貫通した。

「く、くそぉ!!」

 しかしメデューサはすぐさま意識をフロークに戻し今度は己の鋭い牙でフロークに噛みつこうとした。

「ふ、フローク!」「あぁ!」

 アプリコットとフロークが愕然としているその時。

「させるかッ!」

 ジュピター・キッドが鞭を放って、フロークを噛み付こうとしているメデューサの口を半ば強引に締め付けて閉じさせた。

「ぐふっ」

 口を閉じられたメデューサは荒い鼻息を吐いて一瞬苦しがった。

「フローク!」「アプリ!」

 フロークはメデューサから離れてアプリコットの方に駆け寄ろうとした。

 しかし、その時。

「…………ウッ」「……え?」

 フロークの顔付きが一瞬にして変わった。動揺するアプリはフロークに声をかけた。

「ふ……フローク?」「あ…………アプ……リ……」

 アプリの名を呟いたフロークは糸が切れたかの如く、前に倒れ込んだ。

「! ふ、フローク!!」

 倒れるフロークを目の当りにしたアプリコットは突然の事で驚愕し声を上げた。

 そしてフロークが前に倒れ込み、そのうしろのメデューサに皆が目を向けてみると何と彼女の背後から一匹の蛇が長い胴体を見せつけながら顔を覗かせていた。

「な、何あの蛇!?」

 蛇を見て驚くミラーガールにメデューサが彼女の言葉に答えるように吐き捨てた。

「シャシャシャシャ! 油断したな愚か者共め! 妾の尻尾は強力な毒を持つ毒蛇なのじゃ!! このカエルも時期にくたばるじゃろうて!!」

「な、何だと!」「!!」「そ、そんな!」

 メタルバード、聖龍使い、ミラーガールはメデューサの言葉に驚愕した。

「ふ、フローク!」「フローク……!」

 フロークの親友であるオッターとタッティも愕然となる。

「…………!」「あ……!」

 毒を喰らい、倒れるフロークを見て言葉を失うアプリコットと唖然となるジュピター・キッド。

「た、大変!」「急いで回復魔法を……!」

 フロークに回復魔法の処置を行おうと光と風がフロークに駆け寄ろうとするのだが、彼女達の眼前にメデューサが立ち塞がる。

「ど、どいてよ! 急いでフロークに処置を……!」

 海がメデューサに向かって叫ぶと、メデューサは嘲笑いながら吐き捨てた。

「シャシャシャシャシャ、もう遅いわ! 妾の毒は特別な毒で簡単に治療する事はできぬ!! そのカエルはもう終わりじゃ!!」

「! そんな!」

 メデューサの言葉を聞きショックを受けるミラーガール、そしてその場の皆。

「ふ、フローク、フローク! お願い、しっかりして! フローク!!」

 倒れたフロークに必死に声をかけるアプリコット。しかしフロークの表情は既に毒による影響か蒼褪めており、フロークは弱弱しい口振りでアプリコットに話しかけた。

「あ、アプリ……アプ、リ……」「フローク……」

 弱弱しくなり、それでも必死に自分に話しかけてくるフロークの顔を見てアプリコットは涙目で悲痛な表情を浮かべた。

「アプリ……だ、大丈夫、かい……?」

「フローク……私は大丈夫よ。でも今は貴方が……」

 目に涙を浮かべて悲痛な面持ちをするアプリコットの顔を見て、フロークはそっと彼女の頬に手を当てて優しく語り始めた。

「アプリ……ボクは、僕は本当に嬉しかったよ。君にまた逢えて……」

「フローク……!」

「あの日、君が泉に自身を消し去ってから僕は……僕はタッティ達と共に世界中を旅して廻った。君が世界を循環する水そのものに成って僕は、少しでも君の面影を求めて、干ばつの世界から命溢れる世界に生まれ変わったこの世界の彼方此方に足を運んだ……」

「…………!」

「この世界を、命を潤わせる水が君なんだって……自らを犠牲にして世界を救った、プリンセス・アプリコット何だって、そう思って僕は。僕は……! 君の姿が無くなったこの世界で、この心の中にある苦しみをどうにか和らげようと足掻いていた……!」

「……フローク」

「アプリ……また、君のその顔を、笑顔を見れて、僕は嬉しかった、幸せだった……! アプリ、僕は……」

「フローク……」

「アプリ、僕は……僕は……ずっと、君の事を……愛し、て……忘れな、い、よ……」

「フローク!」

 それがアプリコットが聞いたフロークの、最後の言葉であった。

 フロークはアプリコットに看取られながら静かに目蓋を閉じ、永久(とわ)の眠りに就いた。 

「フローク…………いやぁーーーーーーッ!!」

 まぶたを閉じ、息をしなくなったフロークを抱き寄せて、アプリコットは悲しみの余り声を上げて泣いた。

「そ、そんな……」「フロークさんが……」「あぁ……」

 突然のフロークの死に動揺する光・風・海の魔法騎士たち。

「ふ、フローク……ウゥッ」「フローク~~!」

 友の死に泣き出し、泣き喚くタッティとオッター。

「ふ、フローク、主は……!」

 予想に無かった、勇気ある行動で死んでしまったフロークを見て愕然となる総理大臣のエンダー。

「フローク、さん……」

 死んでしまったフローク、そして彼を抱き寄せ悲しみの涙を流し続けるアプリコットを見て呆然となるキッド。

「そんな、フロークさんが……」「ま、マジかよ……」

 目の前で死んでしまったフロークを目の当りにし悲愴な心情に成るミラーガールと突然の事態に酷く動揺するメタルバード。

 そんな騒然となる皆に対し、メデューサは嘲笑いながら吐き捨てた。

「シャッシャッシャッシャッ。おつむの悪いカエルじゃわ。弱いくせに無様に死ににくるとはのう、シャシャシャシャ」

 フロークの死を嘲笑うメデューサの発言に、悲しみに暮れるアプリコット以外の皆が怒りを感じた、その時。

「……お、おま……お前……!」「ん?」

 メデューサが目を向けてみると、其処には体を小刻みに震わせる聖龍使いがおぞましい瞳でメデューサを睨みつけていた。

「お、お前!」

 異様な眼差しで睨みつけてくる聖龍使いを見て驚愕し顔色を一変させるメデューサ。

 聖龍使いはメデューサを睨みながらジリジリとメデューサに歩み寄る。

「お前……! よくも、よくも……よくも、フローク、を……!!」

 そして突然、聖龍使いは駆け出し、メデューサに突っ込んで行った。

「う、うわっ!」

 迫って来る聖龍使いに怯み動揺したメデューサは苦し紛れに聖龍使いの顔を引っ叩いた。すると聖龍使いが装着していた鬼の面が外れ、床に落ちた。

「う……ん? !! な、な……! うわあぁぁ!!!」

 聖龍使いの素顔を見たメデューサは一瞬で蒼褪めた。

 何と聖龍使いの顔は異様な赤黒い顔付きに変貌していたのであった。

「わあ!」「な、何ですの!? あの顔は?」

「しゅ、修司君の顔じゃない!」

 異様に変わり果てた修司の顔を見て唖然となる魔法騎士たち。

「あ、あの顔は……!」

 豹変した修司の顔付きを見て愕然となるメタルバード。そして彼と同じく修司の素顔を見て驚愕したミラーガールが動揺しながらも震える唇で呟いた。

「あ、あの顔、間違いない……修司が、修司が完全に怒ってる顔だ……!」

 ミラーガールの言う怒ってる顔というのは。以前ミラーガールこと加賀美あつこが敵勢力に追い詰められた時、彼女に攻撃をした敵キャラに対して小田原修司が怒りで完全に自我を失ってしまった時の顔である。

「うあああああぁぁぁ!!!」

 そして自我を失った小田原修司こと聖龍使いは一直線にメデューサに突っ走り、メデューサに攻撃を仕掛けていった。

 

 

 

 

 

[王女の慈愛と勇者の墓前で]

 

「うわあああぁぁ!!」

 メデューサの言動に完全に怒りで自我を失った聖龍使いは、異様な顔付きに豹変した素顔をさらけ出しながらメデューサに斬りかかった。

「こ、この!」

 しかしメデューサは斬り込んでくる聖龍使いの攻撃をかわし同時に彼が所持していた聖龍剣を弾き飛ばした。

「うおおおおおおおぉぉぉ!!]

 だが聖龍使いは怯む事無く、今度は先ほどまでメデューサが座していた大理石製の玉座を掴むと、何とそれを片腕で半ば強引に設置されている床から剥がし取り、それをメデューサ目掛けて殴りつけて行った。

「う、うそ!?」「あ、あんな大きな大理石の玉座を軽々と……!」

 玉座を掴み回す修司を見て驚く海と風。

「ば、バカな……! あの玉座だけでも120㌔はあるというのに……!!」

「ひゃっ、120!?」「そ、そんなに重い玉座をあんなに容易く……!」

 エンダーの発した言葉に驚き動揺するオッターとタッティ。

 そして修司は玉座がバラバラに砕け散るまでメデューサを殴り付けると、今度は青痣だらけの醜い顔に成ったメデューサの髪を掴み上げ、そのまま彼女の顔面を王宮の壁に叩き付けた。

「がはッ」

 壁に叩きつけられ苦痛で声を上げるメデューサ、だが修司は壁に叩き付けると瞬時にメデューサの顔面を壁に擦り付けながら横に移動して行った。

「ぎゃあぁッ!」

 激痛で更に苦しみ声を上げるメデューサに修司は容赦なく壁に擦り付け、遂にはボロボロになりまともに声すら出す事も出来なくなったメデューサを床に押し寝かすとその上にまたがり、メデューサの顔面目掛けて力の限り拳で連打して行く。

「うオォ! うおお! うあおぉ!!」

 怒りに満ちた奇声を上げながらメデューサの顔を殴り続ける修司。

「ぐぼっ、ぐっ、がばっ……」

 もはや抵抗する与力すら無くなっていたメデューサは、ただ修司に良い様に殴られ続けていた。

『…………』『…………』「…………」「……しゅ、修司」

 無抵抗のメデューサを、それも傷だらけの血塗れになっているメデューサに対しても容赦なく殴り続け、自身の両拳も血で真っ赤になっている異様な顔つきの修司を見て恐怖で言葉を失ってしまうオッター・タッティ・エンダー達に魔法騎士たち、そして久々に修司の本気のキレ顔を見て唖然となってしまうメタルバードに、自我を失う修司に対してどう対処すれば良いか困惑してしまうミラーガール。

「に、義兄さん……」

 そしてミラーガール同様、怒りで完全に自分を見失ってしまう修司に対して困惑動揺してしまう兄弟分のキッド。

 

 しかし修司が反応の無くなったメデューサを執拗に殴りつけている、まさにその時だった。

「もう止めて…………もう止めてください! 修司さん!!」

『!』

 修司以外の皆が声のする方に目を向けてみた。そして修司も声に気付き、皆と同様声の発声元に目を向けてみた。

 皆が視線を向けたその先には。メデューサの毒に遣られて既に冷たくなってしまったフロークを膝の上で寝かせていたアプリコットだった。

 アプリコットは悲痛な面持ちで修司を涙が浮かぶ瞳で見詰めながら、修司に言った。

「もう、止めてください。修司さん……。もう良いんです、もう…………」

 悲愴な眼差しで自分を見つめてくるアプリコットに、修司は半ば驚きながらも彼女に訊き返した。

「……何故だ。何故、止める……こいつは、メデューサはフロークを……お前の大事な存在を、殺めたんだぞ。何故止めるんだ……」

 内心動揺しながらもアプリに訊く修司に、アプリコットは目に涙をいっぱいに浮かべながら優しい口調で言い返した。

「もう、メデューサは傷だらけです。これ以上、彼女を傷付けなくて良いんです……」

「何を言うんだ……! こいつは、フロークを……!!」

 するとアプリコットは首を横に振り、修司に続けて言った。

「もうフロークは……フロークは、死んだんです。……もう誰にも彼を、死んだ人を救う事はできません。だからもう、メデューサをこれ以上傷付けても、意味は無いんです……」

「…………」『…………』

 アプリコットの言葉に何も言い返せなくなる修司に、言葉を失う他の面々。

「私は……私は……これ以上! 誰かが傷付くのは見たくないんです!! 何より、容赦なく殴り続けられているメデューサよりも、彼女を殴り続けて傷付いて行く修司さんを見る事が一番! ……一番、耐え難いんです」

 アプリコットの沈痛な心境を聞き、修司はメデューサを殴り続けていた自身の拳をようやく静めた。

 そんな静まった修司の顔は次第に普通の、いつもの小田原修司の顔に戻って行った。

 修司の戻りつつある顔を見たミラーガールやメタルバード、そしてジュピターキッドにタッティ達と魔法騎士たちは安堵の気持ちで一杯になり、力が一気に抜けるかの如その場に腰を下ろした。

 

 この後、メデューサは既に絶命していたのだが彼女の魂をミラーガールの《ミラー・ホープ・フラッシュ》で魂を浄化させつつ昇天させてあげたという。

 更にメデューサが死んだ事により、町の人や兵士達の首に巻き付いていたメデューサの分身である蛇が取れた事により洗脳が解け、皆フォンテーランドがメデューサ率いる豹の爪の魔の手から救われた事と、数年前に王位継承と共に命の泉に消えた王女アプリコットの復活と帰還を祝って盛大なセレモニーが行われた。

 そのセレモニーで修司達は国を救った英雄として総理大臣のエンダーや王女のアプリコットに直に表彰された。その中には修司達と共に戦った魔法騎士の三人やタッティ、オッター等の姿も有った。

 しかし表彰をされる側の修司達や魔法騎士の三人にタッティ達、そして彼等を表彰するエンダーとアプリの心は悲痛な想いで一杯であった。

 本来なら此処には自分達よりも表彰されなければいけない人物が居なければならないのに。かつてフォンテーランドを救う為危険な旅路を共に乗り越えた友が、そして何より使命によって人知れず苦しんでいた自分の心の隙間を埋めてくれた、この世で最も自分を想ってくれていた彼が、もう居ない。

 

 表彰を受ける修司達は複雑な心境に有り、彼等を表彰するアプリは人知れず悲しみに暮れていた。

 

 

 

 

 そして場所は変わり、此処はボスコの森。

 森の片隅に小さな大理石でできた墓標が有った。その墓標の前には修司やアッコ、バーンズとジュニア、更に魔法騎士の三人にタッティとオッター、そしてエンダー大臣とアプリが悲愴な顔付きで目の前の墓標に向かい合っていた。

 墓標を前にアプリは白い花束を墓前に供えて、呟くように墓標に話しかけた。

「……フローク、ありがとう。ホントにありがとね、フローク……私、新しく生まれ変わった気持ちでこの先も精一杯生きて行くわ。新しいこの命で精一杯生きて……そして存分に生きて、それで死んでしまう時までずっと私は、貴方の事を忘れないわ。フローク……」

 アプリに続きタッティとオッターも墓標に語りかけた。

「フローク、君は立派だよ。ホントに立派な男だよ……! 君が親友である事は、何よりの誇りだよフローク」

「フロークぅぅ……うぐっ、ぐっ……」

 思わず泣きじゃくるオッターにバーンズが涙を堪えながら叫んだ。

「ば、バカやろーーッ、泣くんじゃねえよ、もう! 泣いてたら……泣いてたら、フロークに申し訳が立たねえよ。グスッ」

「フロークさん……」

「怖かった筈なのに……アプリちゃんを助ける為に必死で……」

「ゴメンなさい、フロークさん。私達の力が及ばなかった為に……」

 涙目になりながらフロークの心境や詫びを述べる光、海、風の三人。

「ぷく~~……」「ふろーく、ふろーく。ナゼシニヤガッタンダーー!」

 一緒に居たモコナとスピークも、フロークの死を悲しむかのようにそれぞれ泣き喚いた。

「フロークさん、アプリコットを助ける為に無我夢中でメデューサに……」

「……(フローク)」

 悲痛な声で呟くアッコに対し無言でフロークの墓標を見詰める修司。

「フロークさん……」

 そしてジュニアはフロークの名を小さく呟くと、彼の墓前の前で墓標を見詰めるアプリにそっと歩み寄り声をかけた。

「……アプリ、さん」「……ジュニア君」

 アプリは自分の目に浮かぶ涙を拭い取るとジュニアの方を振り返った。ジュニアは薄らと目に涙を浮かべながらアプリに話し出した。

「あ、アプリさん。た、他人の僕がこんな事言うのもアレだけど……いつまでも悲しい想いに浸っていたら、それこそフロークさんに申し訳ないよ」

「…………」

「……涙はね、死んだ人に対しての感謝と憐みを表す、あの世への送り水だ。だけどいつまでもその涙を流し、そして悲しみに浸っていたらダメだ」

「ジュニア君……」

「な、何より……フロークさんを少しでも安心させてあげる為にも涙を拭いて、そして精一杯前を向いて生きて行かなきゃ。いつまでも過去を引き摺って生きてちゃいけない。それ以前に、フロークさんの為にも笑顔にならなきゃ……フロークさんの大好きだった、貴女のその笑顔を、決して絶やさない為にも」

「ジュニア君…………ありがとう」

 ジュニアの優しい助言に心救われる心境のアプリ。

 更にジュニアに続き、光たち魔法騎士の三人もアプリを励ます。

「そうよアプリちゃん、元気出して」「う、海さん……」

「そうよ。彼の為にもこれから先を精一杯、一生懸命に生きて行かなきゃ」

「風さん」

「アプリちゃんファイト! 君はまだまだこの先も長い人生が待っているんだし元気出して! いつまでも落ち込んでいたらフロークさん安心して天国に行けないよッ」

「光さん……はい! 私、もう大丈夫です。ありがとうございます、ジュニア君も」

「あ、い、いや……」

 魔法騎士たちの言葉に、更に励みを貰ったアプリは彼女達やジュニアに礼を言い、そして礼を言われたジュニアは照れながらも返事した。

 

 

 

 

[王女の決意と変異し始める異次元]

 

 そして修司達はフロークの墓前の前でタッティやオッター、そしてエンダーとアプリに告げた。

「それでは、エンダー殿。俺達はこれで元の世界に帰還します……今回はその……力及ばず、フロークを……」

 自分の力が足りなかった為にフロークを死なせてしまった事を詫びようとする修司に、エンダーは優しく返事した。

「修司殿、良いのです。フロークは立派に姫様を御守りし、そして死んでしまったのです。修司殿が悪い訳ではないのです、どうか気を確かに」

「はぁ……ありがとうございます」礼を返す修司。

 そしてタッティとオッターは魔法騎士の三人に訊ねてみた。

「修司君達は元の世界に帰るみたいだけど、君達はどうするんだい?」

「私達は修司君たちと一緒に帰るわ。正直どうやって元の世界に戻れるかも見当が付かないから」

 タッティの質問に対し真顔で答える海。

「えぇっと……君達の居た世界と修司君が来た世界は同じ世界なのかい?」

「ええ、そうですわ。まぁ、お陰で確実に私達も帰れますから良かったですわ」

 オッターの質問に優しく微笑みながら答える風。

「ふぅ~~良かった。これで家に帰れるなぁ」

「そうですね……あ、そう言えば光さん。モコナちゃんはどうするんですか? と、いうよりもモコナちゃん、姿が見えないですけど」

 アッコに訊かれた光は平然と返答した。

「ああ、モコナは一足先にセフィーロに帰って行ったよ。モコナはああ見えて結構強力な魔力を持っているから、自力でセフィーロに帰って行けるんだ」

「そ、そうだったんですか……!」

 アッコは目を丸くして驚いた。

「それじゃ、俺達はこれで帰るとしますか」「ああ、そうだな」

 バーンズが呟くと修司が続いて呟く。

「それではエンダー殿、また機会がありましたらその時」

「はい。修司殿、今回は色々とありがとうございました」

 修司がエンダーと別れの会話をしている、その時。

「……あ、あの」「ん? なんだ? アプリコット」

 突然アプリが修司に話しかけてきた。そして彼女は神妙な面持ちで修司にお願いしてきた。

「あの、私…………修司さん、私も一緒に連れて行ってもらえませんか? 修司さん達の世界に……!」

「んん!?」『えぇ!?』「あ、アプリ、さん……!?」

 突然のアプリの発言にその場の全員が驚愕した。

「ひ、姫様! 何を急に訳のわからない事を!」

 アプリの発言に動揺するエンダーに、アプリは毅然とした態度で答えた。

「エンダー……。私、よくよく考えたの。私のこの世界での役目はとうに終えた……だから私は、今度は別の世界である修司さん達の世界で新しい生き方を見つけたいの!」

「し、しかし姫様……」

「私は、死んでしまったフロークの為にもこの先、しっかりと前を向いて生きて行かなければいけない。そして新しい人生を精一杯生きて行く為にも、私は自分の力で生きて行く目標を見つけたいの!」

「ひ、姫……」

「この世界での私の役割は、フォンテーランドの王女としての使命は無事に終えた! だから今度は王女でも無ければ世界を救う王位継承者でも無い! 一人の存在として、アプリコットとして生きて行きたいの!!」

「姫様、貴女は……」

「エンダー、貴方の私を心配する気持ちは良く解るわ。だけど私は新しい人生を歩み出せた、だけどこの世界での私の使命が終わった以上、私がこの世界に居る意味はないわ。だからこそ別の世界で私は、まったく違う人生を歩んで、そして生きて行く目標を、いえ夢を見つけたいのよ。フロークの事を、胸に秘めて……」

「姫様……」

 アプリコットの決意は本物であった。そしてそれを悟ったエンダーはアプリを見詰めながら彼女に告げた。

「……分かりました、貴女の決意は本物の様ですな。もはやワシが何を言っても聞きますまい」

「エンダー……」

「いやいや、これは失礼。しかし今の貴女の目を見ていると、数年前姫様が王位を継承した時を思い出しましたわい。自ら意を決して命の泉に身を捧げた時の姫様の力強い眼差し……今の貴女にはその時の瞳と同じ決意に満ちた力強い意志が感じられます。どうやらワシが想っていた以上に姫様のお心が強く変化した様ですわ」

「エンダー……ありがとう」

 自分の考えを理解してくれたエンダーに礼を述べるアプリ。そして次にアプリとエンダーは修司に顔を向けて訊ねてみた。

「修司さん、その……」

「修司殿、大丈夫でしょうか? あなた方の世界の事なんて姫様は右も左も解らない事だらけなのでしょうが、どうか一緒に貴方達の世界に連れて行かせて貰えないでしょうか?」

「い、いや……しかし」

 突然の事で戸惑う修司に、ジュニアが話しかけた。

「に、義兄さん。別に良いんじゃない? 彼女を連れて行ってあげてさ……」

「じゅ、ジュニア……だ、だけどアプリが上手く人間社会に馴染めるかどうか……お、お前だって中々慣れなかっただろうが」

「そ、それは大丈夫だよ。僕が向こうの世界での事、色々と教えるからさ」

「だ、だけどな……」

 ジュニアの発言を聞いても尚、不安に感じる修司にアッコとバーンズが告げる。

「修司、きっと大丈夫よ」「あ、アッコ。そんな根拠も無しに……」

「修司、少しは良い方向に考えろっていつも言っているだろ。ホントにお前はネガディブ思考何だからなぁ」

「バーンズ、それとこれとは……」

 未だに躊躇う修司の言動にバーンズが言った。

「大丈夫だっての! ジュニアだけじゃなくオレ達で色々と教えてやれば済む話だろう。何より、超獣族のオレや未来人のちびうさだってちゃんと現代の人間社会で暮らせてるんだし大丈夫だって」

「む……」

 バーンズに続きアッコも修司に話し出した。

「そうよ修司。アプリちゃんがちゃんと生活できるように私達で協力し合えば済む話じゃない。聖龍隊のみんなだって同じ事言う筈よ」

「…………」

 しばし黙り込む修司はそのまま考え込み、そして徐に口を開いた。

「……分かった分かった。其処まで言うなら仕方がない。それじゃジュニア、お前が責任を持ってアプリに色々と教えてやれよ。お前は頭が良いんだしな」

「うん、分かった。そういう訳だ、みんな快く迎えてくれる筈だから一緒に行こう、アプリコットさん」

「い、いいえ。私はもう王女でも無いんだし、そんなに他人行儀みたく呼ばなくても良いわ。……アプリで良いわ、ジュニア」

「あ、ああ。宜しくね、アプリ」

 ジュニアとアプリは互いに握手し合った。

 そしてアプリはタッティとオッターに歩み寄ると彼等と話し合った。

「タッティ、オッター……短い間だったけど、アナタ達にまた逢えて楽しかったわ」

「あ、アプリ……」

「アプリ、本当に行っちまうのかい? また一緒に居られると思ったのに……」

 オッターの寂しげな言葉に、アプリは微笑みを浮かべながら言った。

「大丈夫よオッター。私は向こうの世界で新しい生き方を見つけるだけで、もう一生此処に戻らない訳じゃないわ。今度は気が向いたら何時だって会えるわ。だからそんなに寂しがらないで」

「あ、アプリ」「……」

 微笑みながら語るアプリの言葉を聞き何処か居た堪れない心境になるオッターとタッティ。

「クワーー、あぷりーあぷりー」

 タッティの肩に止まっていた九官鳥のスピークがアプリに飛び寄って来た。

「スピーク……」

 アプリは自分の右腕にスピークを止めてあげると、スピークに優しく語り始めた。

「スピーク、ごめんね。アナタにもまた逢えたっていうの、まだ行ってしまって」

「あぷり……」

 悲しげな口調で返事するスピークにアプリは一つのお願いをした。

「……スピーク、アナタに一つお願いが有るんだけど、良いかしら」

「……ナンダ」

「私が居ない間、フロークの事お願いして貰っても良い?」

「エ……?」

 一瞬困惑するスピークに、アプリは続けて語る。

「フロークは私が居なくなった後もずっと私の面影を想って世界中を旅してまわっていた。私の事を想い続けてくれた……だから私も彼を忘れずにまた必ず此処に戻ってくるわ。それまでスピーク、アナタがフロークの側に一緒に居てあげて欲しいの……私も時たま此処に来るわ。お願いできる? スピーク」

 アプリの悲痛な眼差しに見つめながら彼女に言われたスピークは声を上げて返事した。

「……ウン、ワカッタ! あぷりノオネガイキイタ! あぷりノネガイすぴーくニマカセル!!」

「ありがとう、スピーク……」

 アプリはスピークにお礼を言うと、同時にスピークに軽くお礼のキスをしてあげた。

 

 そしてアプリコットは修司達と共にボスコワールドから別の世界である修司の世界、アニメタウンに旅立っていった。

 

 しかしこの時、彼等は気付いていなかった。

 ボスコの森の奥で一人、異次元亜空間ゲートを通って向こうの世界に帰る修司達を望遠鏡で見ていた者が居た。

「……なるほど。まさか聖龍使いは小田原修司で、しかもあちら側も此方と同じく異次元亜空間ゲートを作っていたとは。急いで本部に戻り黒天狗様にご報告せねば」

 森の奥の木の上に居たその人物、それは黒天狗党の諜報活動を主に活動しているカラス天狗だった。

「……しかし、いくら今は豹の爪の首相パンサーゾラとシスタージルに実質的に支配に置かれているとはいえ、余所の世界にまで出向く事になるとは…………まぁ、今は今はで己の主である黒天狗様にお伝えせねば」

 カラス天狗は森の中に姿を消して行った。

 

 

 

 しかし更にこの時、別の人影も森の中に居た。

「……くくくく、まさか最初にこの世界に来てしまうとは。しかも次元の軸が乱れ始めたのが切っ掛けで魔法騎士の三人もこの世界に迷い込んでしまったとは」

 その者は不敵な微笑を呟きながら森の中に姿を消して行った。

「ふふ、まぁこれで更に二つの魂を手に入れられた。しっかり頑張ってくれよな。……イノーバ、そしてスコーピオンよ」

 

 

 

 

[新たなる人生と告げられる計画]

 

 そして修司達は無事にゲートから元の世界に戻る事が出来た。

 皆はまず最初に自分達を待っていたウッズとウエルズに異世界の出来事を伝えたうえで改めてアプリコットを二人に紹介した。

「……あ、あの、修司様。この子が、その王女様、何ですか?」

 アプリコットの顔を見て唖然となるウッズに、修司が平然と言った。

「ああそうだ。ジュニアやアッコ等が来させてやろうって言うからよ、それで一緒にこの世界に連れて来たんだよ」

「は、はい。初めまして、ウッズさん。息子さんのジュニアからは色々と聞いています。これから宜しくお願いします」

「は、はぁ……」

 アプリの顔を見たままの唖然とした顔で返事をするウッズ。

 そして兄のウッズ同様にアプリを見て唖然となるウェルズは、半ば困惑しながらも魔法騎士の三人に話しかけた。

「……そ、それで。アンタ達がセフィーロから無事に帰って来た三人組、か?」

「は、はい。そうです」「どうも初めまして、ウェルズさん」

「わーー、本当に双子だァーー」

 ウエルズを見てテンションの上がる光であった。

 そしてジュニアはアプリに優しく話し掛けて上げながら彼女を誘導してあげた。

「さ、アプリ。少し上でゆっくり話そう。色々と覚えたり、知っておかなきゃいけない事も多々あるし」

「え、ええ……」

 そんな二人を見てアッコは人知れず想い更けていた。

(ふふふ、ジュニア君ったら。アプリちゃんの事となると必死になるわねぇ。やっぱりジュニア君、アプリちゃんの事……)

 そしてアッコが人知れずニヤケているその時、修司の所に光たち魔法騎士の三人が歩み寄って来た。

「あ、あの、修司君」「ん? なんだ海、お前等?」

「そ、その……実に言いにくい事なんですが……」

「ん? 何だよ風、そんなに改まって」

「い、いやね修司君その……申し訳ないんだけど……」

「?」

「そ、そのね……悪いけど、お金貸してくれる?」

「……ハァっ? 何言っちゃってる訳、君たち?」

 突然の彼女達の発言に思わず訊き返す修司に、風が丁寧に訳を話した。

「そ、そのですね修司君。私達、自分の家に帰るまでのお金を持っていないんですよ」

 風に続き海も修司に訳を話す。

「ご、ごめんねホントっ。実は私達、東京タワーからセフィーロに行ってたんだけど、此処から私達の家まで帰るのには運賃が足りないのよ!」

 最後に光も必死に修司にお願いする。

「お願い修司君! ちゃんと返すから!」

 三人のお願いを聞いた修司はしばし考えたが、少しすると三人に気付かれずに不敵な笑みを浮かべた。

「……分かった。貸してやろう」

「あ、ありがとう!」

「まぁ、もちろんちゃんと返して貰うんだが……それじゃ、ウチの連絡先を渡しておくから都合の良い日に三人とも一緒に来てくれや。そこで三人同時に返して貰うから」

「三人同時? 別に一人一人別で、それに銀行の口座に直接返せば済む話じゃ……」

 海が言い返そうとすると修司はすかさず言った。

「良いから良いから。俺が金を貸してやるんだし細かい事は気にするな」

「わ、解りましたわ……」

 風も疑問に思いながらも承諾した。

 

 

 

 それから数日後の休日。

 獅堂光・龍咲海・鳳凰寺風の三人は修司に借りた金を返すべく、東京タワー付近にある喫茶店で待ち合わせていた。

「……遅いわね、修司君」「ええ、何か有ったのですかね」

 腕時計を見ながら呟く海に、彼女に続いて風も呟く。

「むぐむぐ、まあ修司君が此処で待っていてくれって言うんだからもう少し待っていようよ、モグ」

 時間を気にする二人に対し、呑気にパフェを頬張る光。

 その時だった。

「いやぁ済まない。少し遅れちまったぜ」

 修司がその場にやって来た。

「あ、修司君!」「もう、遅いわよ……って、何なの? その格好」

 海が修司の方を見てみると、修司の身形が全身黒のスーツにしかも目には黒のサングラスをかけていた。修司は三人の座っているテーブルに着席して光達と向き合って話し始めた。

「いや済まなかったな。わざわざ此処まで来てくれてよ」

 修司はサングラスを外して三人に言った。

「い、いえ。此方こそお金を貸してくれて、ありがとうございました」

 礼を言う風に続き、光が修司に訊いてみた。

「あ、そう言えば修司君。アプリちゃんはあの後どうしてる? 元気にしてる?」

「ああ、アプリなら元気だぜ。徐々に此方での生活環境に慣れて来ているよ……ジュニアの献身的な指導の賜だよ」

「それは良かったですわ」

「ホントよね。此方の世界も慣れれば居心地良い筈よ」

 風・海の発言の後に、修司は三人の機会を見て神妙な面持ちで話しかけた。

「……ところで。君達に少し話が有るのだが、良いかい?」

「え?」「うん?」「な、何ですか?」

 海は意表を突かれて、光はパフェを頬張りながら、そして風は眼鏡をかけ直そうと触れている時であった。修司に話しかけられ、しばし彼の話に耳を傾ける。

『……って、ええ!?』

 修司の話を聞いた三人は驚愕し修司に訊き返した。

「ほ、本当なんですか? その話……!」

「ああ、本当だぜ。鳳凰寺風」

「本当に、いつでも自由な時に異世界に……フォンテーランドだけじゃなくセフィーロにも足を運べるって言うの?」

「ああそうだ、いつでも自由な時に様々な異世界に足を運べる様に今後はゲートを調整して行くつもりだ。龍咲海」

「ま、またみんなに……セフィーロのみんなに逢いに行けるんだね!」

「そうだぜ。親しいセフィーロの奴等にいつでも逢いに行けるんだぞ、獅堂光」

 修司の話を聞いた三人は目を輝かせた。また何時でも異世界に、セフィーロに行けるようになると思うと胸が高まったのだ。

「だ、だけど修司君。その為に私達にして欲しい事って、一体……」

 海が訊ねると、修司は平然と言い返した。

「なに。ちょっとした行いさ。君達でしかできない事だからこそ協力をお願いするんだ。俺や聖龍隊の連中も協力しながら成し得る、巨大な計画を、な」

 不敵な態度で言い放つ修司の言動に、多少動揺しながらも魔法騎士の三人は再度訊いた。

 

「その、私達にしかできないっていう計画とは……一体……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 国際連合より 小田原修司からの伝達

 

 計画は軌道に乗り始めた。

 もうすぐ全ての準備が整うであろう。

 

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