【聖龍伝説:第二章】英雄達の日々 作:セイントドラゴン・レジェンド
■王女の年齢設定は作者個人の独断で決めています。
[共生する王女]
その日、修司は一人で自室で書類事務等の仕事に手を付けていた。
ひたすら目の前の書類を黙々とペンを走らせ書類の山を片付けて行く修司。
その時である。ドアを叩く音が二回聞こえ、修司はドアに向かって声を放った。
「どうぞ」
するとドアが開いて一人の少女が部屋に入って来た。
「修司さん、お食事の準備ができました。下にどうぞ」
「ああ、ありがとなアプリ」
無表情の真顔で修司は少女に礼を言った。
そして修司はペンを置き、部屋を出ると一階のリビングに降りて行く。
三階から螺旋状の階段を置いて行き二階、一階と降りると足をリビングに歩ませる。
そしてリビングのドア前に着くとドアノブに手を掛け部屋に入った。
「あ、修司様」「よッ、ご苦労さん」
其処にはいつもの様に気軽にウッズとウェルズが修司を見て声を掛ける。
「よ、修司。相変わらず書類系統の仕事は苦手で偉く時間が掛かっているんだなァ」
「うるせぇ」
同居しているバーンズがいつもと変わらぬ様子でちょっかいを掛けてきた。修司も日常的なやり取りである彼に言葉を吐いた。
「あ、義兄さん。どうだい、書類の方は片が付いた?」
「いいや、まだまだ多いぜ」
義弟のジュニアに言われた修司は頭を掻きながら返事する。
「はは、いつも真面目にやっていれば山なんてできませんよ」
「うるせぇ、俺は体動かしている方が性に合っているんだよ」
ウッズに言われた修司は目を細めながら横目で睨みながら言い返した。
「ふふふ……」そしてその眼前の情景を見ていた少女が思わず微笑んだ。
上着には水色の長袖の厚手の洋服、更に厚手のジーンズを着用し、頭には赤い宝石が填められた水色のカチューシャをしている少女。
水色のふわふわな髪をなびかせ、妖精族独特の尖った耳、そしてルビーの様に赤く綺麗に輝く瞳。
そんな少女、アプリコットを見て修司は内心穏やかな心情に浸った。
そして皆それぞれ席について食事を始めた。修司は食事の最中、アプリに訊ねた。
「なぁアプリ、どうだこの世界での生活は。少しは馴染めたか?」
訊かれたアプリは修司に微笑みを向けながら答えた。
「あ、はい。何とか……」
「まぁ、最初は慣れない事も多々あるだろうし、解らない事が有ったらジュニアやウッズに気軽に訊け。二人は結構世話焼きだしな」
「い、いや……私達は別に其処まで世話焼きって訳じゃ……」
「う、うん……」
ウッズとジュニアは多少戸惑いながらも返事をした。
「そうだぜアプリ。オレだってついているからよッ、何でも訊いちゃってくれよな」
「お前は淫らな事教えそうだから止めて欲しい」
「ガーーッン……」
修司に反論されショックを受けるバーンズを尻目に、修司は話をアプリに戻した。
「ま、まぁ焦らずゆっくり慣れて行けば良いさ。俺等の仲間も比較的アプリ、お前には優しくしてくれるだろ?」
修司に訊かれたアプリは笑顔で答えた。
「い、いえ。比較的というよりも、皆さんスゴく優しく接してくれますし……こんな何も解らない私に色々と教えてくれて、私は凄く幸せです」
「ん、そうか。ま、それなら良かったけどよ」
修司は再び料理に手を付き始めた。
「……あ、そうだ。ところでアプリ、お前は二階の客室を今は寝泊まりに使っているけど」
「え……は、はい」
「何か有ったら容赦なくこれ使え。俺が許可する」
食事の最中、突然修司はテーブルに拳銃を置いた。
「! こ、これは……!」
拳銃を見たアプリは目を丸くして驚いた。そんな彼女に修司は平然と言い退けた。
「ああ、これは云わば自己防衛用だよ。ホラ、お前の隣の部屋ってバーンズだからな。危なくなったら容赦なく撃て」
「て、おいッ。何でオレが隣に居るだけで危険なんだよッ。オレがアプリに何かするとでも想ってるのか……」
「うん想ってる」「失礼ながら私も」「俺もだ」「当然、僕もね」
「ガァーーーーーーッン!」
修司だけでなくウッズやウェルズ、そしてジュニアにまでも言われ大ショックを受けるバーンズ。
そんな彼等を見てアプリコットは微笑みながら人知れず、内心思っていた。
「ふふっ……(こんな楽しい食事は、フローク達と旅しながら良くしてたなぁ。自分の分の食事までオッターに食べられそうになって慌てるタッティ、良く揉めていたわね。……そして、それを見ながら一緒に楽しく食事をしながら私と話をしてくれていたフローク……)」
アプリはかつてフローク達との楽しい日々を思い出していた。
[王女と聖龍隊]
更に後日。この日アプリコットは聖龍隊の面々と一緒に地下のフロアに居た。
「……と、いう訳だから。少しはこの世界の事は分かった?」
「は、はい。ありがとうございます、亜美さん」
アプリは水野亜美から色々と、この世界の事情や生活に必要な知識を教えてもらっていた。天才児の水野亜美にしてみれば、アプリコットに此方の世界の基礎知識を教えるのは月野うさぎに勉学を教えるよりも遥かに容易い事であろう。
それを少し離れた所から見ていたアッコは修司に微笑みながら話していた。
「アプリちゃん、次第にみんなとも馴染めて来れたわよね」
「あ、ああ。まぁな」
修司もアプリと亜美のやり取りを見て小さく返事をした。
「ちぃ~~スッ、修司さん、アッコさん、こんちわ」
「お、トシか。オス」
「こんにちは、トシ君。それにイサミちゃんにソウシ君。あら、今日はケイ君も居るのね」
「こんにちはアッコさん」
「どうもアッコさん。今日もいつもと変わらずお美しい」
「にんにちはーー、アッコおねえちゃーん」
やって来たのは新撰組のメンバーで小学五年の月影トシと同級生の雪見ソウシ、紅一点の花丘イサミ、そしてトシの弟で幼稚園児のケイであった。トシは何時もの様に調子よく挨拶をし、イサミは礼儀正しく頭を軽く下げて挨拶を修司とアッコに交わす。そして女性好きのソウシは毎度の如くアッコに右手を折り曲げ律儀に礼をする。最後にトシの弟のケイは元気よくアッコに挨拶を言った。
「はい、こんにちはケイ君」
アッコはしゃがみ込み、ケイと同じぐらいの視線で挨拶を返した。
そしてやって来た四人はアプリコットの方に視線を向けた。
「アプリさん、最初の時よりも活き活きとして来たわね」
「うん、最初ぼく等の前に出てきたときは、何処かオドオドしていたからね」
「ま、仕方ねえんじゃねえの? 何てったって、コッチの世界とアッチの世界はすんげェ違うんだしよ」
アプリコットを見たイサミ・ソウシ・トシはそれぞれ想った事を口にした。以前アプリから向こうの異世界ボスコワールドの事やフォンテーランド、更には其処で起こった豹の爪(パンサークロー)との戦いや、かつてアプリコットの身に起きた王位継承の際の出来事を粗方聞いていた。
「……それにしても健気だよなぁ。向こうの世界では色々と遭ったって言うのに……」
ソウシが思わず呟くとイサミも続いて口を開いた。
「そうだよね。世界の為に泉に身を投じたなんて、少し複雑……」
イサミが沈鬱な表情で呟くと今度はトシが口を開く。
「しかもアッコさん達の話じゃ、豹の爪と一戦していた時に友達が蛇の怪人に殺されたって言うよな……辛い筈なのに、もう大丈夫なのかな」
心配そうにアプリを見つめるトシにアッコが優しく話しかける。
「大丈夫よトシ君。アプリちゃんはそんなに弱い子じゃないわ。それに、また彼女が心細くなったり心苦しくなった時は私達で支えてあげればいいのよ。そうじゃない?」
「え、ええ……」訊かれたトシは思わず呆然となる。
そしてアッコは平然とイサミ達四人に言い放った。
「人ってのはそんなに完璧じゃないの。どんなに強くっても必ず挫折してしまうし、逆に挫折から立ち上がっても辛かった時を思い出して再び苦境を感じてしまう時も有る。だからこそ人は、そんな時に誰かに支えて欲しい様にできているのよ」
『……!』
「人というのは、互いに支え合って生きて行くからこそ、人なのよ」
アッコの言葉を聞き、イサミ達はもちろん、修司自身も人知れずアッコの言葉に衝撃を感じた。
それからしばしの時が流れ、アプリコットは今度は森谷りりか達と会話をしていた。
「大変だったのね、アプリさん」
「そうだよな。世界を救う為に一度は泉に身を投じたなんて……」
「色んな世界が有るんだね」
アプリと会話をしながら複雑な心境に陥るりりか・星夜そしてデューイの三人。彼等に対してアプリコットは微笑みを向けながら言葉を返した。
「で、でも今はこうして皆さんと居られる訳ですし、そんなに思い込まなくても大丈夫ですよ、はい……」
三人に暗い顔で言われたアプリコットはどうにか三人の気を元に戻そうと手振り羽振り言うが、その時星夜が口を開いた。
「……そういや。以前、アプリさん同様に自分の命を散らそうとしたのが居たな」
「え? そ、それって一体……」
星夜の発言に驚くアプリが訊くと、星夜は目を細めて横のりりかを見詰めた。
「……え!?」
星夜の視線に戸惑うりりかに続いてデューイもりりかを細目で見詰めながら呟いた。
「そういやそうだったね。りりかもボク達に何も言わずに一人で死のうとしていたよね。アレには未だに根に持つよ」
「も、もうデューイまで……。もう済んだ事なんだし、言いっこなしにしましょ。ね」
思わず苦笑しながら星夜とデューイに言葉を返すりりか。その会話を聞いたアプリコットはりりか達に訊ねてみた。
「あ、あの……り、りりかさんも昔その……自分の、命を……」
動揺しながらも訊くアプリに対し、訊かれたりりかも動揺しながら答えた。
「あ……い、いいえ。私の場合は実際は死ぬ事は無かったの……そう、アッコさんが私の所に……私が命を散らそうとした時に来てくれて、私の行為を全力で止めてくれたから……」
「え……? あ、アッコさんが? それって……」
「うん。実は……――」
森谷りりかはアプリコットにその時の話を聞かせた。
自分の中に命の花が封印されている事実を知ったりりかは一人自ら命を絶とうとしていた矢先、其処に加賀美あつこが現れ命を絶とうとする自分を叱咤してくれた事。そして彼女の持つセイント・コンパクトから聖なる光が放出されると、命の花だけが解放され、りりか本人も無事に今でも存命できているのだとアプリコットに語った。
森谷りりかの話を聞いたアプリは呆然となった。
「そ、そうだったんですか……そんな事が……」
自分と同じように、自らの命を散らそうとした人が、それも自身と同じくらいの歳の少女で存在していた事にアプリは驚いた。
その時、アプリはりりかの話すアッコのコンパクトについて何かを想った。
「あ、アッコさんがコンパクトから光を出したって……」
「ああ、アッコさんのコンパクトってのはアプリさんも知っているでしょ? アッコさんのコンパクトには私たち以上に不思議な力が有るみたいで、今までもそれで私達助けられてきたのよ」
りりかに続いてデューイも神妙な顔でアプリに言った。
「ああ、彼女のコンパクトの力には毎度驚かされるよ。もう尋常じゃないよ」
「はは、俺から言わせてもらえれば、此処に居るみんなが最早尋常じゃないぜ」
デューイの発言に思わず苦笑しながら呟く星夜。
そんな中、りりかは続けてアプリに語った。
「アッコさんのコンパクトは、私や他のみんなのと違ってミラーガールに変身するだけでなく他にも色んなものに変身する事が出来るのよ。老若男女(ろうにゃくなんにょ)、それに様々な動物や物にもね」
「そ、そんなに……っ?」
りりかの語りに驚くアプリに、りりかは平然と続けて語る。
「そうよ。それにたしか、アプリちゃんも既に聞いているだろうけど、アプリちゃんが身を投じた命の泉の前にアッコさんが来た時もコンパクトが光り輝いて、そしたら突然目の前にアプリちゃんが現れた事を。多分それもアッコさんの持っているセイント・コンパクトの力なのよ」
「…………」
りりかの話にアプリは下を向いて唖然となってしまった。実はこの世界に来てからしばし経ったある日、修司とアッコから何故アプリが命の泉から復活できたのか、その経緯を聞いていたのだ。
加賀美あつこが命の泉の前に立ったその時、突然コンパクトから光が放出され、アッコが眩しさゆえに目を閉じてしまい、そして再び目を開けてみると目の前に自分が居たという。
何故自分が蘇ったのか、何故アッコの意志とは関係なくその様な事が起ったのかは、コンパクトの持ち主であるアッコ本人にも解らない事ではあったが、当初この事実を二人から聞いたアプリは愕然となった。
「……え、ええ。その話は修司さんとアッコさんから聞きました。まさか私が再びこの姿で現れたのは、アッコさんのコンパクトに寄るものだったとは……」
「……もしかして、後悔している訳じゃ……無いわよね?」
「……え?」
「だから……命の泉から蘇った事を、後悔しているんじゃ無いわよね? アプリちゃん」
りりかに訊かれたアプリコットは彼女の質問に対し、穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「……いいえ、そんな事はありません。私はまた大切な友達と再会する事ができましたし、修司さん達にも出逢えて良かったって思っているの。アッコさんの御蔭で私は新しい人生を歩めることが出来たんだし、全然不幸だなんて想ってはいません」
これを聞いたりりか達はアプリに微笑みを返しながら口を開いた。
「……そう、良かった」
「そうだぜ。生まれ変わった積りでこれからも一緒に楽しく過そうぜ」
「そう、生きていれば色々とあるけどその分幸せだと感じられる事も沢山ある。人の一生ってのは不思議とそんなものなんだから」
アプリコットの穏やかな微笑みと言葉に、りりか・星夜・デューイ達は心から安堵した。
そして更に。
「ふふふ、アプリちゃんの髪ってホントに綺麗な水色だよねぇ」
「そ、そんな。皆さんの髪だって素敵ですよ」
アプリコットは月野うさぎ等セーラー戦士達と楽しくお茶会をしていた。
その場にはアッコも居り、少し離れた所には地場衛と修司にバーンズ、そしてジュニアとウッズ親子も遠目で女子達を見ていた。
「……いやぁ、女子達のキャッキャウフフを見てるのは実に幸せな時間だよなぁ」
「お前……ホントにあれだよな」「……コイツ」
女子達の楽しそうな雰囲気を見てニヤけるバーンズを見て冷めた目になる修司と衛。
「ふふ、それにしても色んな性格の人達が居るんですね、聖龍隊には」
「そうでしょアプリちゃん。聖龍隊にはホントに色んな人が居るから飽きる事が無いのよね」
「あ、飽きる事が無いって……」
「見世物じゃないんだから……」
アプリと楽しく会話するアッコの発言に、木野まことと火野レイは弱冠複雑な心境で言葉を返した。
その時、ふと冥王せつながアプリコットに話しかけた。
「そういえば……何だかアプリコットちゃん。少し声のトーンが、ほたると似ていますね」
「ブーーーーッ」
「修司!?」「義兄さんッ?」「何ジュース吹いてんだよッッ!」
せつなの発言に思わず口に含んでいたオレンジジュースを吹いてしまう修司に驚くバーンズとジュニア、そして衛。
「えっ? そ、そうですか……?」
「そう言えば、アプリさんの声、言われてみると、ほたるちゃんと声が似てるね」
せつなの発言に戸惑うアプリに、せつなの発言に賛同するちびうさ。
「そうよね。確かに言われてから注意深く耳を澄ますと、二人の声って結構似てるわね」
「そうね、何だか双子みたいにソックリよ」
微笑みながら火野レイと愛野美奈子も二人の声が似ている事に賛同する。
「あ、確かに言われると凄く似ていますね、私とアプリさんの声」
「……うん、まぁ。確かに、似てる? のかな……」
似ていると言われたほたるもアプリの声と似ている事に気付き、アプリも多少困惑しながらも微妙に納得した。
そして修司はジュースが少しばかり気管に入ったのか咳き込んでしまっていた。
「ど、どうしたんですか修司様?」
修司の吹き零したジュースを布巾で拭き取りながらウッズが修司に訊く。
「い、いや、ちょっと……」
偉く動揺しながらウッズに言い返す修司。彼はこの時内心想っていた。
(お、おいおいちょっと……ま、声優同じだからな。だけどお前らそれ以上は変に気付かないでくれよな……下手したら二次元人という意識を持っちまうからな)
修司は皆が、自分達が二次元人で有る事を気付く事を内心恐れていた。
「…………」
この時ジュニアは、女子達と楽しそうに話しているアプリコットに横目でチラチラと視線を向けながら自分のコップにジュースを注いでいたのだが。
「――……ん? オイっ、ジュニア! ジュースが溢れちまってるぞ!!」
「え? うわっ!」
衛に言われコップに目を向けてみると、コップからジュースが溢れていた。
「お、おいジュニア! どうしたんだ? お前らしくないぞ……ッ」
「い、いやちょっと……ごめん、気が散ってた」
修司に言われたジュニアは軽く動揺しながらも謝った。
(どうしたんだ、一体……?)
ジュニアのいつもと違う様子に戸惑う修司、一方彼の父親のウッズは様子の可笑しいジュニアを何処か想っている様な表情で見詰めていた。
[王女の能力]
更に後日の事。此処はアニメタウン地下にある聖龍隊管轄の地下フロア、その闘技場である。
修司は其処に市長としての仕事を済ませて闘技場に入って来た
「ふんふん、お前等調子はどうだ…………ん!? な、何だこれは!!?」
闘技場に入った修司の目に最初に入ったのは、頭上にフワフワと浮かび上がっている大量の水が。
修司が驚いていると其処にバーンズが声を掛けに来た。
「よ、修司。今日の処務は終わったのか?」
「あ、バーンズ。な、何だこの巨大な水の塊は!?」
頭上に浮いている水の塊を指差して訊ねるとバーンズは平然と答えた。
「ああ、これはアプリの能力を今ウッズ達と一緒に検証していた所でよ。この水の塊はアプリが作ったものなんだ」
「え? アプリが……!?」
修司が驚いていると今度はアッコと如月ハニー、葉月聖羅、そして早見青児が歩み寄って来た。
「あ、修司。やっとお仕事終わったの?」
「あ、ああ。今さっきな」
声を掛けてきたアッコに動揺しながら返事をする修司。
「あら修司君、今ごろ来たの?」
「悪かったな今ごろで」
ハニーの発言に修司はムッとしながらも言葉を返す。
「修司君! あのアプリコットちゃんの能力だけど、結構凄いわよ……!」
「あぁ……い、一体、アプリの能力って……」
半ば興奮する聖羅に修司も目を丸くして訊いてみると青児がそれに答えた。
「いやな……あのアプリって子の能力ってのが、これまた水を自在に操る能力みたいでよ」
「ん、水? 水といや、マーキュリーやネプチューン、さくらのウォーティ(水)、それにハニー、お前のルージュアローのスプラッシュと同じ能力なのか?」
修司が訊き返すとハニーがそれに答える。
「まぁ、同じ水系統の能力では有るんだけど、彼女の場合は何処にでもある普通の水ですら自由自在に操る事ができるのよ」
「……なるほど。つまり周りの水を自在にコントロールする事がアプリコットの特殊能力って訳なんだな」
「ま、そういう事だ。ホレ、確かフォンテーランドでも魔法騎士と言っていた龍咲海の攻撃である水の技を受けそうになった時も、あの子無我夢中とはいえ水を生きモンみてぇに操って攻撃を回避しただろ? あの能力をジュニアが親父に言ったみたいで、ウッズ自身もアプリの能力を調べて置きたいって言うから今もああやってウッズやジュニアが見守る中、水のコントロールを制御しようとしてるんだよ」
バーンズの向けた視線の先にはウッズとジュニアが見る中、必死に空中の水を制御し続けようと両腕を一杯に衝き揚げるアプリコットの姿が有った。
「あ、ああ……まさかアプリの奴があんな能力を持っているとは……」
若干、苦悶に満ちた表情を浮かべながら空中の水を維持しようとするアプリを見て唖然となってしまう修司。
「ウ……っ」「…………」「……あ、アプリさん」
苦悶の顔になるアプリを不安げに見守るウッズとジュニア。彼等を見て修司は口を開いた。
「た、大変そうだな、オイ。まぁ、能力の制御は一番欠かせない要点だからな。徹底的にしねえとな」
「うむ、そうだな」
修司の発言にバーンズは首を頷きながら返した。
「……それにしても。まさか豹の爪の連中が異世界に行っていたとはな」
「そうね。向こうでは一国を支配しようとしていたけど、修司君やアッコちゃんの活躍で防がれて良かったわ」
「……だけど、アプリちゃん。その時に大事な親友を一人豹の爪の怪人に殺されたのよね……私達も行っていれば防げたと思うと」
思わず暗鬱な表情になる三人に、修司は告げた。
「お前達、そんなに自分を責めるんじゃねえよ。第一、過ぎた事を今さらクヨクヨしても始まらねえだろう。この先同じような悲劇が起きない様に頑張れば、それで良いじゃないか」
修司のこの言葉に、ハにー達は少しばかり肩の荷が下りた。
と、その時。
「ん? 電話が」
突然修司の携帯が鳴り、修司はポケットから携帯を取るとすぐさま皆の所から少し離れた所に移動して通話を押して電話に出た。
「はいもしもし、小田原ですけど……ん、お前……キーオか、どうした?」
電話に出たのはミラーナイトで有る姿桐男ことキーオであった。彼は神妙な口振りで修司と会話をした。
「……修司。お前遂に異次元亜空間ゲートを完成させたんだな」
「あ、ああそうだが……そ、それで何だ?」
「何だじゃねえよ。お前達が行った先の異世界ボスコワールドでお前、いやアッコが命の泉の前でもコンパクト発動させて消滅したアプリコット姫を蘇らせちまったみたいだな。しかも豹の爪(パンサークロー)も異世界に来てるわ例の魔法騎士の三人も迷い込んで来やがって……! 一体今回の件(くだり)でどれだけの物語や次元の軸に歪みが生じたか解ってるのか!?」
「そ、そりゃあ……」
指摘された修司は何も言い返せなかった。
「大体、お前の今回のゲートによる行動は余りにも尋常じゃねえよ。いっくらこの世界の国連を納得させる為にとはいえ突拍子も無く別の世界に足を運んじまうなんて……お陰で二次元三次元双方の世界にどんだけ影響が出ると思っているんだよ」
「……な、何だ?」
キーオと電話で会話している最中、突然修司の頭上から大量の水が振り被って来た。修司は全身ずぶ濡れになりポタポタと水滴が体から落ちて行く。
「に、義兄さん!?」「修司、大丈夫?」
ジュニアとアッコ、そしてウッズやバーンズに、ハニー・聖羅・青児、そしてアプリコットも修司の所に駆けつけてきた。
「な、何事だ……?」
目を丸くしパチパチさせながら自身に何が起きたのか理解できず困惑する修司にジュニアが言った。
「じ、実はアプリが少し疲れたから水の塊を下ろそうとしたんだけど手元が狂って義兄さんの方に飛んで行っちゃったんだ……」
ジュニアに続き、水を謝って修司に被せてしまったアプリコット本人が修司に謝罪した。
「ご、ごめんなさい修司さん! こんなに濡らしてしまって……」
申し訳無さそうに気欝な表情で謝るアプリに、修司は真顔で言った。
「あ、ああ……いや、大丈夫だ。そんなに気にするな」
修司はアプリの手違いを快く許してあげ、そのまま闘技場から出ようと歩き出した。
「さ、さぁってと、着替えてくるか」実は、修司は内心こう思っていた。
(いやぁ~、丁度良い所に水かけてくれたぜ。ま、携帯は新しく買い変えなきゃいけないけどな)
修司は水にぬれて使用できなくなった携帯を濡れきったズボンのポケットに収納した。
「……め、珍しいな。修司がキレないなんて……」
「え、ええ。そうよね……」
「あの子、結構キレやすいんだけどな……」
珍しく怒る事の無かった修司に軽く驚く青児たちハニー組。
「だ、大丈夫かな……」
「あ、ああ気にしなくても大丈夫だよ。何か有ったら僕が間に入るから」
水を掛けてしまった事を気にするアプリに、ジュニアが優しく話しかけてくれた。
そんな二人の様子を見てアッコは確信した。
(……やっぱり。ジュニア君、アプリちゃんの事好きなんじゃないのかしら。向こうの世界で最初に彼女の顔を見た時から様子が可笑しいし……)
そんな彼等の様子を遠くからウッズが神妙な面持ちで見ていた。
[湖のほとりで]
更に数日後、この日は木之本さくら達と共にアニメタウンのすぐ郊外にある湖、通称《主湖(ぬしこ)》に修司たちは足を運んでいた。
湖脇の歩道で並んで歩くさくら、小狼(しゃおらん)、苺鈴(めいりん)、そしてそれをビデオで撮影する知世。そして修司の隣でべったり彼に寄り添い、修司の腕に抱き付きながら並んで歩くアッコ。上から下まで完全防寒の身形をしてジュニアと一緒に歩くアプリコット。最後に一番最後尾で、たった一人で修司達に付いて行くバーンズ。
彼等は湖のほとりでのんびり湖を眺めたり、持参してきたパンの欠片を湖の水鳥に上げたりと和んでいた。
「ふぅ、寒いのに良く行こうって気になれるな、お前等」
目を細めながらさくら達に言う修司に対し、一緒に同行して来たケルベロスが一言返した。
「修司はんはもう少し外に出ようって気にならへんのかねぇ。事件とか無い時はめっさ部屋に閉じこもりっきりさかいし」
そんなケルベロスの言葉に修司は無表情で平然と返した。
「俺は極力体力とかを温存させたいんだよ。ほら良く言うだろ……動かざること山の如し、てな」
「いやいやいや、武田信玄の名言を変な風に言うんじゃありませんッ。お前のは単なる出不精なだけだろ」
修司の発言に異議を唱えるバーンズ。
「……くシュッ」
「! だ、大丈夫? やっぱり家に居た方が良いんじゃ」
「あ、大丈夫。まだ少し今の環境に慣れて無いから……」
突然可愛らしいくしゃみをしたアプリを気にして声を掛けるジュニアに対し、アプリは平気な態度を取って見せた。
「ふふ」そんな二人の様子を側で見ていたアッコは思わず微笑んだ。
そんなアプリコットに修司は告げた。
「おいアプリコット、お前は寒さに弱い体質なんだし家で大人しくしていた方が良いんじゃないのか? 下手したら凍るぞ」
アプリコットは水を司る妖精。故に寒さに非常に弱く、気温の低い環境にいると凍り付いてしまう事が有る。
だがアプリは何処か暗い表情で修司に言葉を返した。
「だ、大丈夫です…………」
様子の可笑しいアプリを気にした修司とアッコは彼女に訊いてみた。
「……どうしたんだ? なんか暗いぞお前」
「どうしたの? アプリちゃん……」
二人に訊かれたアプリコットは重い口を開いて話し出した。
「え、えぇ……その……――――最近、周りの目が、どうも気になって……」
「周りの目……?」
キョトンとなる修司達に、アプリは続けて語った。
「いえね、今はジュニア君と一緒に町中を見て回っているんだけど……周りの人の中には私の容姿を気にする視線が感じられるのよ……」
暗鬱な表情で語るアプリの話に、修司達も悲痛な想いに駆られる。
「まぁ……やっぱり、私の容姿がみんなとは少し違うのは分かっているんだけど……。私のこの目を怖がる子供も中には居るんで……」
「アプリ……」
塞ぎ込むアプリを見て悲痛な面持ちになるジュニア。
確かにアプリコットは妖精で人間とは全く別の種族である。故に耳の形状や彼女の赤い瞳を周りの人々は異質なものを見る目でアプリを見てしまっていたのだ。
気落ちするアプリを見て、ジュニアが声を掛ける。
「……だ、大丈夫だって。その内、周りの人達もアプリの容姿を気にしなくなるよ」
「……ほんと?」
訊き返すアプリに修司がジュニアに続いて告げた。
「ああ、そうだよ。人ってのはなアプリ、自分とは違う者を見ると遂そっちを見ちゃう様にできているんだよ。お前の独特な形の耳に赤い瞳だって同じだよ」
「そ、そうかな……」
「ああそうだよ。実際一昔前は日本に外国人が来た時、それだけで珍しいって思った日本人が観光客で有る外国人にも拘らずサインを貰っていた時期が日本に有ったんだからな」
この修司の発言を聞いた小狼は内心思った。
(修司さんって、一体どの時代に生まれて来たって思うほど古い事柄を知っているよなぁ。ほんとに11なのか疑問に思うわ)
そして修司の発言に続き、アッコも優しい口調でアプリに笑顔を見せながら話しかけた。
「そうよアプリちゃん。確かに人って、自分より少し違う人に対してついつい目を向けてしまいがちだけど、そんなの人の勝手よ。アプリちゃんが良い子だってのは少なくとも此処に居るみんなや聖龍隊のみんなが解っているから。そんなに塞ぎ込まないで」
「あ、アッコさん……はい、ありがとうございます」
アッコや修司の励ましに、少しだけ元気になったアプリコットであった。
「そうだよアプリちゃん。気にしなくても大丈夫だからっ」
さくら達もアプリに励ましの言葉を掛ける。
「そうですわ。人は人、自分は自分です。私達は貴女が優しい素晴らしい人だってのはちゃんと理解していますわ」
優しい温和な口調で知世もアプリに言葉を掛ける。
「そうよアプリ。周りの人の言う事なんて気にしちゃ負けよ」
「そうだ。見ず知らずの人の言葉なんて気にしたらダメだぜ」
苺鈴、小狼もアプリコットに励ましの言葉を言った。
「ありがとう、みんな……」アプリはさくら達に感謝の言葉を返した。
その時、ふと小狼が有る事に気付き修司に訊いて来た。
「あ、そう言えば……あの修司さん」「ん、なんだ小狼」
「は、はい。そう言えば、アプリコットの歳っていくつ位なんですかね……?」
突然アプリの年齢を訊かれて不意を突かれる修司であったが、戸惑う事無く平然と答えた。
「ああ、一応こっちで精密検査とかして色々と調べてみたんだけどよ、肉体的な年齢でアプリは10歳だ。ほぼ俺等と同じよ」
「ほへぇ~……アプリちゃん私達とあんまり歳変わらないんだね」
「ま、まぁ……あ、それとさくらちゃん」「ん? なに?」
「わ、私の事は気軽にアプリって呼んでも良いわよ。向こうの世界でもそう呼ばれていたから」
微笑みを浮かべながらアプリはさくらに言うと、さくらは少し動揺しながら返した。
「あ、で、でもそんな、呼び捨てはちょっと……女の子同士なんだし「ちゃん」付けで呼び合おうよアプリちゃん」
「ま、まぁ、さくらちゃんがそうしたいって言うなら無理強いはしないけど……どっちにしろ、これからも宜しくね、さくらちゃん」
「うん、これからはずっと一緒だよアプリちゃん」
笑顔で話し合うアプリとさくらの会話にアッコも入り込んだ。
「うん、その通りね。これからは一緒に聖龍隊を盛り上げて行きましょう、さくらちゃん、アプリちゃん」
『はいっ』
アッコの言葉に元気よく返事をする二人の少女を見てその他の五人は穏やかに微笑んでいた。
[王女の変身と悔やむ本心]
更に更に後日。とある工場地帯で大規模な火災が発生し、聖龍隊は現場に駆けつけていた。
そして其処で彼等が見たのは、何らかの怪しい実験をしていたであろう痕跡と、豹の爪(パンサークロー)の一派と銀天狗率いる黒天狗党の面々であった。
聖龍隊は真っ先に火災の消火から手を付けた。
「お、おい! これはいくら何でも火事がでか過ぎじゃ! 消防隊はまだ来んのか!?」
手首から高圧の水流を放つ「水流拳」で火事を消して行く聖龍使いは大声でメタルバードに叫んだ。
「い、いやそれが……! まだ到着すんのは先みたいで……」
「くっ、これでは人手が足りんぞ……ッ! 先ほどからマーキュリーやネプチューンの水技や、キャプターのウォーティ(水)で何とか火を食い止めてはおるが……!」
聖龍使いの視線の先には自分達の技で必死に火災を消そうとしているマーキュリーやネプチューン、そしてさくらの姿が有った。
「そっ、そう言えば! メタルバード、キューティーハニーはどうしたのじゃ!? ハニーのスプラッシュの力も使わねば余計に火消しに時間が掛かるぞい!」
「そ、それだけど……ハニーはミスティーや青児と一緒に逃亡した豹の爪の連中を追っちまって居ねえんだよ!」
「なぬっ? それはいかんぞ……これでは火の手が治まらんし、下手すればすぐ隣の居住区に移り火してしまうかもしれんぞ……!」
困り果てた聖龍使い、しかしその時「お待たせ!」ジュピターキッドがその場に颯爽と駆けつけてきた。
「お、キッド!」「どうしたのじゃ? 随分遅かったではないか」
「そ、それがね……」
二人に訊かれたキッドが口元を苦笑させて後ろを振り向くと、聖龍使いとメタルバードの二人もキッドの視線を追う様に彼の視線の先を見た。その途端、二人は驚愕してしまった。
『…………え、ええぇぇ!!?』
驚愕した二人は声を上げて叫んだ。
二人とキッドの視線の先には、青い衣をまとい、目には水色に輝く蝶のアイマスクを被った、背中に薄い透明な虹色の羽が生えている少女が居たのであった。
聖龍使いは動揺しながらもキッドの訊ねた。
「き、キッド……そ、そのお嬢さんは……ま、まさかッ?」
少女を見ていたその時、聖龍使いが感付いた。そんな聖龍使いにキッドは複雑ながらも口を開いて二人に事情を話した。
「ああ、二人が気付いての通り、アプリだよ。能力が覚醒して、水を自在に操れるようになると背中に虹色の羽が現れるんだ。ま、後は素顔を隠す意味で顔に蝶の仮面を付けてもらっているんだけどね」
「ど、どうも……」『…………』
前に一歩出て恥ずかしそうに頭を下げるアプリコットに対しすっかり風貌の変わった彼女を見て呆然と固まる二人。
その時。
「ちょっと誰か! こっち来て手伝って!」「火の勢いが急に激しく……!」
ネプチューンとマーキュリーの必死の声に、聖龍使い達は気付いた。
「あ……! ど、どうするよ、おい」「う、うむ……」
自分達の手すら空ける事が出来ない二人は困惑していた。が、その時キッドが声を上げた。
「よし……行こうか」「う……うん」
キッドに声を掛けられ、アプリコットはキッドと共に走り出した。
「あ」「お、お前等」
聖龍使いとメタルバードが唖然とする中、二人はそのままネプチューンとマーキュリーの所に駆けて行った。
「ん……! あなた、まさかアプリちゃん?」「え? で、でもその姿は……!?」
容姿の変わったアプリを見て驚き困惑するネプチューンにマーキュリー。
更に其処へさくらも駆け寄って来てのだが、彼女もまたアプリコットの姿を見て驚いた。
「ほ、ほえぇぇ! あ、アプリちゃん、姿が変わっちゃってる……!」
さくらにも驚かれたアプリは彼女に微笑みながら言った。
「う、うん……なんか能力覚醒させたら勝手に姿が変わっちゃったのよね……」
「ふ、ふぅん……」
呆然となってしまうさくら。だがその時、突如吹いて来た強風で火災は一層激しさを増した。
「あ、いけない! このままじゃ……!!」
激しくなった炎を見て驚愕するネプチューン達に、キッドが言い放った。
「さ、三人とも! 今は大量の水が必要だ。何でも良いから水を大量に出すんだ!」
「え……? で、でも……」
突然キッドに言われ軽く戸惑ってしまう三人にキッドは強く言い放つ。
「良いから! 後はアプリに任せるんだ!」
言い寄られた三人は訳の分からぬまま技を使った。
そして大量の水が辺りに出現した時だ。
「良しこれなら……! アプリ!」「は、はい!」
キッドが声を上げると、それと同時にアプリは両手を前に突き出す様に構え集中した。
「……えい!」
彼女が両手を開く様に左右に手を突き出すと辺りの水は生き物の様に動き出した。
『え!?』「ほえぇ!」
その光景を目の当たりにしたネプチューンとマーキュリー、そしてさくらは身を震わせるほど驚いた。
そしてアプリはそのまま、大量の水を辺りの燃え盛る炎に被い被せるようにかけた。大量の水は見事に辺りの火災を全て消し去った。
『…………』
それを見ていた三人と二人は呆然と立ち尽くし、アプリの側で見ていたキッドは静かに微笑んだ。
そして鎮火し、瓦礫の山に成り果てた現場を目の当たりにしている時、少女三人がアプリに言い寄っていた。
「すごいわアプリちゃん!」
「ほんとねぇ。まさか私達が出した水までも操る事が出来るなんて」
「い、いえ、そんな……」
マーキュリーとネプチューンに褒められ照れてしまうアプリコット。
「ほんとにスッゴイよアプリちゃん! お陰であっという間に火が全部消えたよっ」
「あ、あの……力になれて良かったわ……」
半ば興奮するさくらにアプリは恥かしげに返事した。
「ま、まさか……アプリコットにあんな力が有るとは……」
「へへ、彼女だってスゴイ能力者なんだよバーンズ」
アプリの能力を見て呆然となるメタルバードにキッドは鼻を擦りながら何処か自慢げに返事する。
その時、聖龍使いの目に三人の人影が入って来た。
「む、あれは……ムムッ! 主等は……ッ!」
聖龍使いは彼等を見て怒りに駆られた。何故なら其処に居たのは、火災を起こした張本人である銀天狗達と二人のカラス天狗の姿であったからだ。
彼等と目が合った聖龍使いは怒りに駆られた状態で銀天狗に責め寄った。
「おい銀天狗!」「せ、聖龍使い……!」
聖龍使いは銀天狗の胸ぐらを掴み、彼に対して怒声を放った。
「お主! これはどう言う事じゃッ! 何故(なにゆえ)この様な事を仕出かしたのじゃッ!? 主は悪人にしてはまだ良心的な方じゃというのに……! 下手をすれば火の手が居住区にまで広がっていたのじゃぞッ!! なぜこんな事を!!!」
物凄い権幕で言い寄られる銀天狗は苦悶に満ちた口振りで答えた。
「す、済まない、本当に……今の私達には何も出来ないのだ……。ジルが、シスタージルが完全に私達、黒天狗党を牛耳って無理やり……ほ、本当に済まない」
申し訳無さそうに悲痛な声で謝罪する銀天狗であったが、聖龍使いの怒りは収まる様子は無かった。
その時「銀天狗様に手を出すなぁ!」銀天狗と同行していたカラス天狗の一人が怒りに駆られる聖龍使いに動揺し、所持していたバズーカ砲を乱射した。
「うわぁ!」「きゃあっ」
しかも聖龍使いだけでなく、近くに居たメタルバードやマーキュリー達にバズーカ攻撃が行ってしまった。
「あぁ!」
その内の一発がアプリコットにも向かって行く。
「逃げるのじゃお主等!」
聖龍使いは掴んでいた銀天狗の胸ぐらを放し、銀天狗を突き飛ばすと仲間達の所に駆け寄る。
その時、バズーカが焼け残った建物の瓦礫に直撃し、それがアプリコット目掛けて倒れて来たのだが「くっ……!」すぐさまキッドがアプリコットを庇い彼女に覆い被さる様に身を盾にした。
轟音と共にキッドとアプリコットは火の粉舞う煙に包まれた。
「き、キッド! アプリコット!」
煙に飲み込まれる二人を見た聖龍使いにメタルバード達は急ぎ二人の所に駆け寄って行った。
その間に銀天狗は二人のカラス天狗に半ば強引に引っ張られながら、その場を後にした。
「さ、銀天狗様、今の内に……」
「さ、触るな! お前達、何て事を……!」
銀天狗は自分の部下であるカラス天狗達を睨みつけた。
「ぎ、銀天狗、様……!?」
睨みつけられたカラス天狗二人は動揺してしまった。そして銀天狗は二人のカラス天狗に向かって言い放った。
「い、いくら私を助けるためとはいえ、女の子達が近くに居る中でバズーカを撃つ奴があるかッ! 愚か者めが!」
「ぎ、銀天狗様……」
「間違っていたのは……咎められるのが当り前なのだよ、今の私達は……! いくらジルの、豹の爪(パンサークロー)の命令で此処の工場で密かに研究をし、そして爆発させてしまったのは私達なのだよ……! 聖龍隊が来なければ本当に死人が出ていても可笑しくは無かった……! 今の私達は正真正銘の……外道に成り下がってしまっている……!!」
自分等が犯した愚行を心の底から悔む銀天狗。しかし今の黒天狗党には豹の爪に抗う力は無い。銀天狗は今の黒天狗党の置かれた状況に落胆していた。
一方、アプリを庇ったキッドは彼女諸共、瓦礫に埋まってしまっていた。
「キッド! アプリ!」
聖龍使いは必死に瓦礫を退かしていく。
更に現場に居た他の聖龍隊も駆け付け、聖龍使いと共に瓦礫を退ける作業を行った。
そして「あ! キッド! アプリ!」瓦礫の下からキッドがアプリに覆い被さる状態で二人とも発見できた。
「キッド! アプリ!」聖龍使いが二人に声を掛けると、二人とも微かに反応した。
「大丈夫、軽い怪我しかしてないわ」
二人の様子を見たマーキュリーが呟く。
「よし、急いで二人とも運ぶぞ!」
メタルバードが告げると、皆で協力して気を失ったキッドとアプリコットを地下のメインフロアまで輸送した。
[仲間なら]
そして地下のメインフロアに戻った一行はすぐに二人の治療を行った。
幸い二人とも大事は無く、すぐにキッドとアプリは意識を取り戻した。
「ふぅ、ごめんねみんな、心配掛けて」
「別に良いさ。それよりも軽い傷で良かったじゃねぇか」
皆に心配させてしまった事を詫びるジュニアに、バーンズが微笑みながら言葉を返す。
「済みません、私が逃げ遅れた為に……」
「良いのよアプリちゃん」
「そうよ、二人とも無事だったんだし、済んだ事よ」
頭を下げるアプリに優しく言葉を返す水野亜美と海王みちる。
「そうだよアプリちゃん、ジュニア君同様、二人とも無事で良かった」
満面の笑顔で二人の無事を喜ぶさくら。
と、その時。「おいっ、大丈夫か?」
「じゅ、ジュニア君にアプリちゃんが怪我を負ったって……!」
「あ、キューティーハニー組」
先ほどの火災の現場で逃避した豹の爪(パンサークロー)を追っていた早見青児に如月ハニー、そして葉月聖羅達が帰って来た。
「わーーッ! あ、アプリちゃん達が怪我したってーー!!?」
「ウッ、み、耳がキーンとする……」
更に其処へ他の聖龍隊員も二人の安否を気にして駆け付けてきたのだが、相変わらずの月野うさぎの高い大声に思わず耳を塞ぐバーンズ。
「あ、皆さん……」
駆け付けてくれた皆を見て唖然とするアプリに、アッコが駆け寄った。
「あ、アプリちゃん! 大丈夫? 怪我したって聞いたけど……」
動揺した状態で訊いて来たアッコに、アプリは優しく答えた。
「あ、アッコさん。私もジュニアも大した事は有りませんので大丈夫です」
「そ、そう。それなら良かった」
ホッと胸を撫で下ろすアッコ。
「み、皆さん。心配掛けてしまって、申し訳ありません」
駆け付けてきた皆に頭を下げるアプリに皆は安堵に満ちた顔を浮かべる。
「いや、大丈夫だったんならそれで良いんだ」
「良かった、何も無くて」
安堵の表情でアプリに言う地場衛とちびうさ。
「それにしても、まさか黒天狗党まで今回の火災に関わっているなんてな」
「ああ、豹の爪だけならまだしも、まさか黒天狗党までこんな酷い事をするようになるなんて……」
今回の大規模火災に豹の爪だけでなく、彼等の支配下に置かれた黒天狗党までもが関与している事に驚きを隠せない月影トシと雪見ソウシ。
「ウチの叔父さんも、最近黒天狗党が豹の爪の人達と一緒に銀行に押し入ったり大学の研究データを奪ったりと、余りにも行動が過激に成っているって……」
自分の母方の叔父で大江戸警察の警部、坂本数馬(さかもとかずま)から色々と、現在の黒天狗党の行動を聞いていた花丘イサミが悲痛な面持ちで語る。
そんな時「おいジュニア!!」物凄い権幕で小田原修司がその場にやって来た。
「に、義兄さん……」
自分の名を叫びながら早足で歩み寄る修司を見て唖然とするジュニア。
そして修司は皆が見ている前でジュニアに歩み寄ると、いきなりジュニアの左頬に拳骨を入れてジュニアを殴り付けた。
「し、修司!」「修司……!」「ジュニア!」『!』
目の前で突然ジュニアを殴りつける修司の行動に驚くバーンズにアッコ、アプリコットとその場の仲間たち。
「に、義兄さん……」
修司に殴り倒されたジュニアは、殴られた頬を押さえながら修司を見詰めた。
修司の顔は厳つい強面の、そして何処か必死さが伝わる雰囲気を醸し出していた。そんな修司はジュニアを睨みつけながら彼に怒鳴り散らした。
「ジュニア! 一体さっきの行動は何なんだ!! 下手したらアプリだけでなくお前自身も死んでたぞ!!!」
「に、義兄さん……ごめん」
修司に怒鳴られ小さく頷き謝るジュニア。
そんな半ば興奮状態の修司に仲間達が言い寄る。
「お、おい修司……! そんな殴る事無いだろ?」
「そうだぜ。ジュニアはアプリコットを護ろうとして、それで……」
半ば興奮する修司に衛と青児が言い寄ろうとすると、修司は二人を睨み付け言い放った。
「何を言う! 弱い癖に体張って女を護ろうとするんじゃねえよ!! まったく!」
ジュニアの行動に怒りの言葉を吐き捨てる修司にアプリが言い寄る。
「し、修司さん。ジュニアは私を庇ってくれたんです……そんなにキツく言わないでください……」
すると修司はアプリを睨みつけて彼女に言い放つ。
「アプリ……! お前が来てくれたお陰で火災が速急に消火できたのは大いに結構だ。だがな! もう少し、いや絶対に自分の命を捨て去る真似だけはするんじゃねえぞ……!!」
「え……!?」
修司の言葉と眼光に深く動揺するアプリコット。
その次の瞬間、何と修司は左腰に下げている聖龍剣を抜き取り、切っ先をアプリコットに向けた。
「え……!!」「お、おい!」「し、修司!?」
突然自分に聖龍剣の切っ先を向けられ驚くアプリコットに、そんな修司の行動に驚愕するバーンズとアッコ、そして周りの仲間たち。
そして修司はアプリコットに刀の切っ先を向け、更にアプリコットを鋭い眼光で睨みながらアプリに告げ放った。
「……良いかアプリ。お前も既に聖龍隊の一員だという事は自覚しているだろ。なら良く覚えておけ……! 聖龍隊の一員になった以上、俺の命令無しに勝手な行動はするな! そして俺の許可なしに死ぬ事は許さん!! 肝に銘じておけ……ッ!」
そうアプリに言うと修司は彼女に向けていた聖龍剣を鞘に納めてその場を立ち去った。
修司が居なくなり、辺りは蒼然とした空気に包まれ、アプリの肩に重い空気がのしかかった。
その時、呆然と立ち尽くしてしまうアプリコットに如月ハニーが歩み寄り、アプリの肩をポンと叩くと同時に彼女に声を掛ける。
「アプリちゃん、大丈夫?」
「は、ハニーさん……は、はい」
少し戸惑いながらもハニーに返事したアプリは修司に殴られ倒れ込んでしまったジュニアに歩み寄り手を差し伸べる。
「じゅ、ジュニア。大丈夫?」
「う、うん。なんとか……」
ジュニアはアプリコットの手を掴み、彼女に立たせてもらった。
「ご、ごめんなさい。私が逃げ遅れた為にジュニアまで怒られちゃって……」
「い、いや。アプリが謝る事は無いさ……」
ジュニアに謝罪するアプリコットに如月ハニーが優しく微笑みを浮かべながら話しかけた。
「大丈夫よアプリちゃん。修司君も本気であなた達を怒っている訳じゃないんだから」
「え? そ、それって……」
ハニーの言葉に動揺するアプリに今度は愛野美奈子と火野レイが声を掛ける。
「アプリちゃん、そんなに気にしなくても良いのよ」
「そうよ。修司君のあの言動は単に心配の裏返しなんだから」
「う、裏返し……?」
レイの発言に困惑するアプリに水野亜美が優しい微笑みで答えてあげる。
「そうよ。彼のあの言葉には、彼自身の願いが込められているの」
「願い……」
亜美に続いて冥王せつなが神妙な面持ちでアプリに告げる。
「そう、彼は常に誰かが……自分の仲間である私達が傷付き、そして死んでしまう事を恐れてる。いつも優しい人達が傷付く事を不安に思っている……だからこそ厳しい言い方ですが、その言葉の裏には絶対に死なないでくれ……そんな本心が見え隠れしているんです」
せつなにそう言われたアプリコットは思わず黙り込んで、思い更けてしまう。そんな彼女に最後はアッコが少し悲しそうな面立ちでアプリコットに話す。
「アプリちゃん、これだけは分かってちょうだい。修司はいつも、あんな態度を取っているし普段から自分の本音とか真意とか、他人に見せない様にしているから誤解されやすいんだけど……修司は誰よりも私達の事を気にかけてくれている、心の底から心配してくれているの……。でも修司は素直じゃないから普通に人と付き合う事ができないでいるけど、本気でアプリちゃんや貴女を護ろうと体を張ったジュニア君が心配だったからこそ、あんなに感情的になってしまったの。それだけは、理解して」
アッコから修司の本心を聞いたアプリコットは感極まり呆然となってしまう。
しかしその時、地場衛と早見青児が口を揃えて修司への鬱憤を吐いた。
「だけどなぁ~~、アイツの場合はいっつも自分の都合だけしか考えていないからなぁ」
「そうだよなぁ。俺達には「無謀な真似は済んな!」とか「死ぬんじゃねえ!」って言いながら、自分は無茶な事ばっかするし本気で死んでしまうような無謀な真似ばかりするし、正直修司って自分勝手なんだよなぁ」
修司への本音を吐き散らす衛と青児に、月野うさぎと如月ハニーが続け様に言い放った。
「まもちゃんっ、そんな事言わないの!」
「そうよ青児さん。確かに修司君は自分で言っている事と自身の行動は全くの逆だって事は多々有るけど、本気で私達を大事に思ってくれているのは事実なんだから、そんなに避難しないで上げてよ」
「う、うむ……」
「ま、まぁ……そうだけどよ……」
自分達の彼女に言われ反論できない男二人、と其処に今度は愛野美奈子が笑顔で話し出す。
「そうそう、修司君ってああ見えて意外と私達の事を気にしちゃっているのよねぇ。それに結構年期の入った様な台詞を言うから、まるで父親みたいな言動もするのよ」
「ち、父親……?」
思わずキョトンとなるアプリに美奈子は答えた。
「そう、アレは夏場の頃だったわね。私が新しく買った服をみんなに見せに来たんだけど、その時修司君私の服装見て「オイっ、露出し過ぎだろうが!」って怒鳴ったのよ。まぁ、あの時の服は確かに足とか腕の部分が曝け出ていたけどそんなに怒鳴る事無かったのに……ホント普通の洋服だったのに、あの時は結構口喧しく言われたわ……」
苦笑しながら語る美奈子の発言にアッコが言葉を返す。
「でも美奈子さん、修司は友達である美奈子さんが周りからイヤらしい目で見られたくないからこそ、そんな発言したんじゃありませんか?」
アッコに続き天王はるかが口を開く。
「そうだね。彼は親友であるボク達の事を考えて、それでいつも余計な事まで言ってしまうんだよ」
「…………」
はるかの話を聞いて神妙な面持ちで考え込んでしまうアプリ、そんな彼女にジュニアが場を締めくくる様に話し合った。
「簡単に言えばだねアプリ……義兄さんは、小田原修司はイヤという程、僕たち聖龍隊の皆を想い過ぎているんだよ。ま、悪く言えば心配性なんだよね」
「そ、そうなの……」
「だからさ、そんなに気にする事は無いよ。義兄さんが僕を殴りつけたのも、僕の事を本気で心配してくれているからこそ思わず手を挙げてしまっただけだからさ。アプリもそんなに気にする事は無いよ」
「う、うん。ありがとう、ジュニア……」
そんなジュニアとアプリコットのやり取りを見て周りの女子達は一同に二人の男女の関係を暗示していた。
[母の面影]
それから数日後、その日はとても肌寒い日であった。
「…………ジュニア?」
アプリコットはジュニアの姿が見えないのに気付いた。彼女は修司に訊ねてみた。
「修司さん、ジュニアが見えないんですが……」
「ん? ジュニア? そう言えば見てねえな」
アプリに訊かれた修司であったが彼もジュニアの所在は分からなかった。
「どうしたんだ? ジュニアに何か用事か?」
「い、いえ、ちょっと……」
アプリコットは話すのを躊躇う素振りでその場を後にした。
「……どうしたんだ?」
アプリの真意を理解していない修司は不思議に思った。
そしてアプリは修司の次にウッズの所に足を運び、ジュニアの所在を訊ねた。
「う、ウッズさん」
「あ、アプリさん。どうしましたか?」
「あ、あの……ジュニアは今、何処に居るか解ります?」
「あ、ジュニアですか……確か、少し前にちょっと散歩に行ってくると言って出て行きましたが」
「え、そうですか……。ちょ、ちょっと私、ジュニアに言いたい事があるので出かけます」
「え……で、でも今日は冷えますよ。アプリさん御身体の方は」
「大丈夫です。それにすぐ帰りますので」
アプリの身体を気遣うウッズに反し、アプリコットはそのまま家を出て行ってしまった。
寒さに極端に弱い彼女は厚手のソックスに、白のズボン。水色のコートを羽織り、更に白いマフラーを首に巻いた完全防備で、少し急ぎながら足を進ませた。
修司の家を出ると外の気温は10℃前後程しか無く、アプリコットは思わず身体を身震いさせ、まずは家の近くからジュニアの姿を探し始めた。
一方、修司は徐に地下のメインフロアに足を運んでいた。フロアには仲間のバーンズやアッコ、そして女子メンバーが居た。
「おいみんな、ジュニア見なかったか?」
「ん? ジュニア?」「ううん、見て無いわよ」
修司の問い掛けに真顔で答えるバーンズとアッコ。
「そうか……いやな、さっきアプリがジュニアを探していたからよ。ジュニアの奴は何処に行っちまってるんだろうなって思ってよ」
「え!? ……そ、そっか。ようやくアプリちゃん、ジュニア君の気持ちに気付いてくれたのかな? あ、それとも、もう気付いていたけど言い出す機会が今まで無かったから、今日言い出すつもりなのかな?」
「ん? 気持ち?」
アッコの台詞にキョトンとする修司。だが他の女子達も口を揃えて言う。
「あは、アプリちゃんもやっぱ女の子だからね」
「そうよね、そうよね。アプリちゃん、やっとジュニア君の気持ちに応えるつもりかな♡」
「???」
月野うさぎ、愛野美奈子の台詞を聞いてもピンとこない修司。
「しっかしなぁ……。ちょっと前まで子供と思っていたジュニアがねぇ……成長って早いモンだぜ」
バーンズの発言に更に困惑する修司は、遂に痺れを切らしバーンズに訊ねた。
「……おいバーンズ、それにみんなも、一体何を話しているんだ? アプリは一体ジュニアに何を話す積りなんだ?」
『…………!?』
この修司の一言に、その場の皆が一同に唖然としてしまった。
そして感の鈍い修司にバーンズが歩み寄り、間近で修司に言い放った。
「お前な、前々から鈍いなとは思っていたけどよ……もう少し恋愛とか人の心境とか理解しろよッ!」
「!? な、何が……?」
バーンズに言い寄られた修司は動揺しながら訊き返すと、バーンズとアッコは修司に呆れ顔を向けながら述べた。
「……あのな修司。お前、ボスコワールドでのジュニアの様子に気付いていなかったのか?」
「だから何が?」
「ジュニア君、アプリちゃんの顔を一目覗いた時から様子が変わったの、気付いているでしょ?」
「…………ああ、そう言えば、そうだったな。でもそれが何?」
全く気付かない修司に、如月ハニーが告げる。
「修司君、ジュニア君はアプリちゃんを好いているのよ」
「……好いているって……ああ、仲間としてか」
「違うわよ! 一人の女の子として、アプリちゃんを好きになったのよ! ジュニア君は!」
姉の言い分にすら理解しない修司に、妹の葉月聖羅が厳しく反論した。
「……へ? ジュ、ジュニアが? で、でもジュニアや俺達がアプリに逢ってから、まだそんなに月日は経ってないぞ?」
すると修司の発言に木野まことが言い返した。
「人を好きになるのに出逢った時期は関係ないわよ。何てったって瞬間的に、そう一目惚れしていたって可笑しくはないわよ」
「だ、だけど確か……ジュニアは9でアプリは10。アプリの方が年上だぞ」
「歳なんか関係ないわよ。それにジュニア君って、もしかしたら年上のお姉さんタイプが好みなのかもしれないんだし」
まことに続き、火野レイも修司に言い放つ。
「うぅむ……」思わず腕を組み考え込んでしまう修司であった。
と、その時。其処にウッズがやって来て修司に声を掛けた。
「修司様どうしたんですか? そんな考え込んでしまって」
「あ、ウッズ。いやな、今みんながジュニアの事で色々と言ってくるんだよ」
「え? ジュニアに何か……?」
息子のジュニアの話と聞いて反応するウッズにアッコが答える。
「ウッズさん。どうもジュニア君、アプリちゃんの事、好きみたいなんですよ」
「え! ジュ、ジュニアが、あのアプリコットさんを……!」
アッコの発言に驚きを顔に表すウッズ。
「ま、まさか……ジュニアが……アプリさん、を……?」
「? ……」
この時、ウッズの様子が一変し動揺したのを海王みちるは見逃さなかった。
「……どうしたんですかウッズさん。何か不都合な事でも……?」
みちると同じく、様子の変わったウッズに気付いて冥王せつなが訊ねると、ウッズは戸惑いながらも答えた。
「い、いえね……ただ……」「ただ?」『……?』
皆が注目する中、ウッズは静かに修司達に話し始めた。
その頃アプリは一人、日も半ば落ちて更に冷え込む中、ジュニアを探し続けていた。
「…………あ、あれ。ジュニア……!」
アプリコットは一人公園のベンチに座りこむ全身防寒着姿、両手に手袋を嵌めたジュニアの姿を発見した。
アプリは公園に駆け込み、静かにベンチのジュニアに歩み寄る。そしてジュニアに優しく声を掛けた。
「……ジュニア」「! あ、アプリ……」
自身の丸い顔同様に、目を丸くして驚くジュニア。アプリコットはそんなジュニアに告げる。
「……隣、良い?」「え? う、うん……」
アプリはジュニアの隣に座ると、神妙な面持ちでジュニアに話しかけた。
「ねぇ、ジュニア」「な、なに?」
アプリの声を聞くたびに動揺するジュニアに、アプリは変わらず話し掛ける。
「……ジュニア。その、前から訊こうと思っていたんだけど」
「…………」
「あの……」アプリコットは意を決してジュニアに訊ねてみた。
「……ジュニアは、私の事、どんな目で見ているの?」「……え?」
訊ねられたジュニアは異常なまでに動揺し、そして困惑した。
「ど、どんな目って……」
動揺しながらも訊き返すジュニアに、アプリコットは神妙な面持ちで訊く。
「う、うん……なんかね、前々から、そう……向こうの世界で最初、ジュニア達と逢った時から、ジュニア私にだけ言動が他の人と違うから。それで遂……」
「……」訊かれたジュニアは思わず顔を背けてしまう。
「わ、私の勘違いだったら謝るけど……ジュニアは、私の事、普通の人と……他の聖龍隊のみんなと違う存在だって見ている訳? ……町の人達と同じで、私の容姿が気になるの?」
「! ち、違う! そんなんじゃないよ!!」
「じゃ、じゃあ何で私だけ他のみんなと違う目で見るの!?」
アプリの問い掛けに思わず興奮するジュニアに対し、アプリも過敏に反応して興奮してしまう。
そしてジュニアは静かにアプリコットに話し出す。
「……実は」「……実は……なに?」
「実はね……アプリコット。あ、貴女は……」
戸惑いながらも語ろうとするジュニア。次の瞬間、ジュニアの放った言葉にアプリコットは深く動揺し驚いた。
「実はアプリ、貴女は………………母さんに、似ているんだ」
「……え?」
「アプリ、君は……僕の死んだ母さんと、瓜二つで……それで遂、みんなとは違う目で見てしまっていたんだ」
「…………」ジュニアの言葉に呆然となるアプリ。
そしてジュニアはアプリコットに軽く頭を下げて謝った。
「ご、ごめんね。勝手に死んだ人と一緒にして……」
「じゅ……ジュニア……」
一方、場が戻り聖龍隊の地下メインフロア。皆、ウッズの話を聞いて唖然としてしまっていた。
そんな状況の中、修司がウッズに訊ねる。
「そ……そうなの? ウッズ……」
修司の問い掛けにウッズは神妙な面持ちで答えた。
「はい、私も最初、アプリコットさんを見たとき驚きました。……亡くなった妻に、とてもそっくりで……」
ウッズの告げた話に、その場の皆は表情を固めた。
「……そ、それじゃ、ジュニアはアプリの事……」
話を聞いて動揺しながらもウッズに訊ねるバーンズに、ウッズは答えた。
「ええ、おそらくアプリさんに亡くなった妻の、いえ母親の面影を思い出しているのでしょう」
「そ、そんな……!」
驚愕の事実に驚く水野亜美。
「……そ、そんなに似ているのか? ジュニアの母親とアプリは?」
バーンズが訊ねると、ちょうど其処に足を運ばせていたウェルズがバーンズの問いに答える。
「ああ似ているよ……あの日、土砂崩れで死んだ義姉さんと、とてもな」
何処か悲しみが感じられるウェルズの言葉に修司達は居た堪れない心境になった。
以前よりジュニアの母親の死については既に周知の事で有ったからだ。
その時、ウッズは徐に胸ポケットから一枚の紙を取り出し、みんなに見せた。
「ウッズこれは……! こ、これ……!!」
修司はその紙を見て驚いた。其処にはウッズと布に包まれた乳児を優しく抱えているアプリコットと瓜二つの女性が白黒ではあったが映っていたのだ。
「う、ウッズ、これは……」
「はい。産まれたばかりのジュニアと私、そして家内の姿です」
「なにッ!?」
同じく写真を見たバーンズは表情を一変させて驚いた。
「ほ、ほんとにアプリちゃんそっくり……」「え、ええ……」
写真を見たハニーと聖羅は口を揃えて呟いた。
「ほ、ホント似てるわ」「ほんとね……」
木野まこと、水野亜美も目を丸くして呟く。
写真を見続ける皆にウッズは告げた。
「ま、まぁ。この写真は白黒の写真で解り難いとは思うのですが、妻はアプリさんと違って髪の色はブラウン、そして目の色はアプリさんとは逆で透き通った空色でしたけど、それ以外は本当にアプリさんと瓜二つなんですよ」
ウッズの話を聞いたバーンズは、驚きながらも口を開いた。
「……そもそも、小人族に、写真なんて有ったんだ」
「有っちゃ悪いかッ。まぁ、人間が持っているカメラとは根本的に違う一種のピンホールカメラみたいな投影機だけどな」
バーンズの発言に反論するウェルズ。
「何かよ、ウッズ。お前とお前のカミさん、かなり背恰好が違くない? 明らかに身長に差があるよ」
写真を見た修司が訊ねるとウッズは真顔で答えた。
「ああ、そうですね。家内と私達は元々種族も違いますし、平均身長が根本的に違いますから」
「種族が違う?」
「ええ……実は家内は、私やウエルズと違って、妖精なんですよ」
「ん!? お、おい。小人族と妖精族って違う種なのか?」
バーンズが訊くとウェルズがそれに答える。
「ああ、良く勘違いされるんだが、俺たち小人族と妖精族は全くの別種族だ。俺たち小人族は地に足を着いた三頭身の種族で、妖精族は背中に薄い羽の生えた五頭身の種族なんだよ。ま、要するに羽の有る無いの大きな違いが有る種族なんだよ」
ウェルズの話を聞いて更に呆然となる修司達。
「そ、そうだったのか……ま、まさか、アプリとジュニアの母親が似ていたとは……」
唖然となる修司。
そしてその頃、自分がジュニアの母親に似ていた為ジュニアは思わず周りの皆とは違う目で見てしまっていた事をジュニア本人から告白されたアプリコットは呆然としてしまっていた。
「ジュニア……あなた」
「……ごめんね、本当に。変に思わせちゃって」
「う、ううん……ジュニアが何で私にだけ態度が違うのか解れたから良かったわ」
ジュニアとアプリコットは誰も居ない公園のベンチで二人っきりで話を続けた。
「あ、あの……アプリ」
「うん? なに、ジュニア?」
ふとジュニアがアプリに声を掛けると、彼女はジュニアに満面の頬笑みを向けた。この時ジュニアはアプリの微笑みから眩しい程の輝きを感じた。
ジュニアはアプリの微笑みに動揺しながら訊ねる。
「そ、その……少しは、この世界には、慣れたかい?」
するとアプリコットはしばし考えるとジュニアの問いに答えた。
「……うん、まぁ……少しずつだけど、最初の頃よりは慣れたわ」
「そ、そう。良かった……」
ジュニアは微笑みを浮かべたが何処か不自然な感じであった。
そしてジュニアは意を決したかのようにアプリに訊ねた。
「ね、ねぇ、アプリ……」「なに?」
「そ、その……もう、大丈夫?」
「え? な、なにが大丈夫なの?」
「その…………フロークさんの事」「!」
その瞬間、アプリコットの表情は一変した。
「……まだ、辛い筈だよね。簡単には、立ち直れないのは、僕自身すごく解るよ」
「……」
ジュニアの話を聞きながら黙り込んでしまうアプリ、そんな彼女にジュニアは淡々と話を続けた。
「僕もね、母さんが死んだ時は、かなり泣いたみたいだけどね。小さい頃で記憶が曖昧だけど、三日、いや、一週間にも一カ月にも感じられるぐらい泣き通したみたいに記憶に残っているよ」
「…………」
大切な人を失った悲しみの記憶。アプリコットはそんなジュニアの話を黙って聞いた。彼女自身もジュニア同様、大事に想い合っていた人を亡くしてしまった悲しみを知っているからだ。
そんな悲痛な心境のアプリコットにジュニアは優しく語りかける。
「……アプリ。もしさ、また辛くなったら……フロークさんの事思い出して辛くなったら、遠慮なく僕に言ってよ」
「え?」
「あ! も、もちろん僕じゃなくても、アッコさんやハニーさん、それに他の聖龍隊のみんな、誰でも良いから言ってよ。少しは相談に乗ってあげられるから」
「じゅ、ジュニア……」
「僕もね、少し前……昔の事思い出してしまって、それで周りのみんなに酷い事をしてしまった事があるんだ」
「そ、そんな事が……」
「でもね、その時だ。義兄さんが僕に言ってくれたんだ。「何のために俺やみんなが居るんだ、一緒に苦しみや悲しみを共感する為だろうと。仲間なら一人だけで苦痛を背負い込むんじゃない、何のための聖龍隊なんだ」って僕に言ってくれたんだ」
「……」
「辛い想い出、悲しい記憶、その想いを全身全霊で受け入れてくれる、それが聖龍隊なんだよ」
「! 想いを、全部……受け入れる……」
ジュニアの言葉を聞いて愕然となるアプリコット。そしてジュニアは徐にアプリコットに顔を近づけて彼女に話しかけた。
「あ、アプリ……」「な、なに?」
寒さでなのか、二人とも顔の頬を赤く染めて顔を向き合わせた。そして震える口調で互いに話し合った。
「あ、あのさ……その……この先もさ、何が有っても、一緒に居よう」
「……うん」
ジュニアの言葉に小さく頷きながら返事するアプリ。
その時、ジュニアがアプリコットの体に起った有る異変に気付いた。
「ん? あ、アプリ……! 手が」「え……あ」
目を向けてみるとアプリコットの手の甲が霜やけ以上に赤くなっており、凍傷寸前の状態であった。
「た、大変ッ、急いで帰ろう。少し冷えた環境に居過ぎたみたいだ」
「う、うん」ジュニアはアプリを連れて家に帰ろうとした。
と、その時。「あ、そうだ。……これ、少し小さいかもしれないけど使って」
そういうとジュニアは自分が嵌めていた手袋を取り外しアプリに手渡した。
「え? い、良いの?」
咄嗟のジュニアの行動に動揺するアプリが訊ねると、ジュニアは笑顔で答えた。
「うん、大丈夫だよ。使って」
ジュニアに言われるがままに、彼の手袋を自分の手に嵌めるアプリコット。
手袋は小柄なジュニアの物で有ったが為に、少しばかり小さかったが、先ほどまでジュニアが嵌めていたので手には心地よい温もりが伝わって来た。
ふとアプリコットはジュニアの顔を見詰めた。彼の優しさ溢れる穏やかな表情に、アプリコットは何とも言えない安心感を垣間見た。
「どう? 何とか嵌められるかい?」「うん、凄く温かい……」
手渡された手袋から伝わる温もりに静かに安堵するアプリコット。
そしてジュニアは唐突に、アプリに身を寄せて彼女の肩を抱き寄せた。
「え? ちょ、ちょっと、ジュニア?」
困惑するアプリに、ジュニアは優しく囁いた。
「ごめん、少しだけ、良いかな?」
呟くようにアプリに言ったジュニアの顔は、何処か寂しげな雰囲気を醸し出していた。
ジュニアの顔を見たアプリコットは人知れず悟った。幼い頃に母親を亡くしたジュニアは人知れず、母の温もりを求めているのだと。そしてその温もりを死んだ母に酷似している自分に投影しているのだと。
アプリコットは肩を寄せるジュニアに何も言わず、そのまま身を寄せ合って修司の家に二人一緒に帰って行った。
再び生を成してこの世に姿を現したが、同時に大事な親友を失ってしまった少女は、自分の生まれた世界とは別の世界で新しい生活を、そして新しい絆と温もりを得た。
少女と少年はゆっくりと身を寄せ合いながら足を進ませる。
二人の関係が進展するのも、まだまだ時間が掛かるかもしれないが、ゆっくり確実にそれぞれ進んで行くのもまた事実。