【聖龍伝説:第二章】英雄達の日々 作:セイントドラゴン・レジェンド
大切な仲間の一人であるウッズが痛めつけられ、怒りに駆られる修司こと聖龍使いは感情が高ぶったままの状態で二つの犯罪組織の本拠地である芹沢グループ本社に攻め行ってしまう話。加賀美あつこことミラーガールも後を追って共闘します。
■からくり天狗が二人でてきますが、それはアニメ版と漫画版の両作品の設定を(一応)上手く組み合わせているからです。
■人の欲望から生まれた設定なので勝手に妖怪に認定されている内容にしちゃっています。
[戦場と化す芹沢本社]
その頃、芹沢ジャパン本社の地下に在る黒天狗党の基地では。
聖龍使いに自身が搭乗していた重工機を破壊され、更に装着していた面を切断されて怖気づいて逃走した、からくり天狗こと東上別府鷹丸が息を切らしながら逃げ帰っていた。
「どうしたのだ、からくり天狗よ。そんなに慌ておって」
息を切らし、汗を大量に掻く鷹丸にシスタージルが訊ねると、鷹丸は上目遣いで跪きながら答えた。
「は、はいシスタージル様……実は学園に駆け付けたところ、聖龍隊も現場に駆けつけて来て其処で一戦繰り広げたのですが……」
「うむ、それで?」
「さ、最初は聖龍隊の連中に手下達が倒されてしまって、一旦退いてから再度、私が製作した特製の重工機を現場に持ち出したのですが……」
「…………?」
「し、しかし其処には既に聖龍使いの姿が在って……重工機で聖龍使いを轢き潰そうとしたのですが、アイツとんでもない事に自力で重工機を止めて、しかも掴んだまま重工機ごと私を投げ飛ばしたんですよ……!」
「な、なんと……! そんな力まで有るのか、聖龍使いは……!」
「そ、それだけじゃないんです……アイツの瞳はまるで、そう……まるで闇のように暗くて深くて、見詰めているだけで惹き込まれそうな瞳で私を睨みつけると、私の装着していた天狗の面を一刀両断で切断して……! わ、私怖くて、つ、つい……逃げ出しちゃいまして……」
「う、うむ……闇のような、瞳……か……」
只ならぬ鷹丸の様子に動揺するジルは内心、彼が口にした「闇の様な瞳」を聞いて、陰で自分達に手を貸している謎の人物「闇人」の事を思い出していた。闇人の瞳も、その名の通り漆黒の闇そのものであったからだ。
その時、シスタージルと東上別府鷹丸が話をしている所に、一人の人物が一人の少年を連れてやって来た。
「た、鷹丸おじ様!」
「おお、おお、菊丸か……どうした、何かあったのか?」
鷹丸の前に現れたのは、度の強いぐるぐる眼鏡をかけた一人の少年で名を東上別府菊丸(とうじょうべっぷきくまる)からくり天狗こと東上別府鷹丸の甥だった。
菊丸は唐突に、高丸に訊ねて来た。
「おじ様、またしんせん組にヤラレてしまったのですか?」
「あ、ああ、まあな……だが安心しろ菊丸。お前の将来の為にも必ずしんせん組を……そして聖龍隊も倒して、我々黒天狗党が世界を手に入れて見せるぞッ! わっはっはっは」
豪語しながら高笑いする鷹丸であったが、甥の菊丸の方は逆に少しばかり暗い表情を浮かべてみせた。
更にその時、菊丸と一緒にやって来た、もう一人の人物も鷹丸に話しかけた。
「……鷹丸様」「ん? おう、お前か……からくり天狗よ」
何と目の前に、もう一人のからくり天狗が同じからくり天狗である東上別府鷹丸の前に立ち尽くしていたのだ。そして目の前に現れたからくり天狗は眼前の鷹丸に語り始める。
「鷹丸様、菊丸様は今日も真面目に勉学に励んでおりましたぞ」
「ふむ、そうか! さすがワシの甥じゃ、わっはっは!」
からくり天狗の話に満足気に高笑いする鷹丸、そしてもう一人のからくり天狗は菊丸を引き連れて、その場を離れようとした。
「では……私はこれから菊丸様を寝かせますので、これで……」
「ふむ、いつも菊丸の世話ありがとのう、からくり天狗よ」
「はい、では……」
からくり天狗はそのまま、東上別府菊丸を連れてその場を後にした。
と、その時。徐にシスタージルが東上別府鷹丸に訊ねてみた。
「鷹丸よ、あのからくり天狗は一体何者なのじゃ? お前と同じ天狗の面を付けておるし、何故か甥っ子の菊丸の世話ばかりしている姿がこの基地施設で良く目にするのじゃが……」
「ああ、それはですねジル様……実はあのからくり天狗は、ワシ等黒天狗党が発見した正真正銘のからくり人形なのですよ」
「なぬッ? あのからくり天狗がか? お、お前達が発見したって、一体……!?」
「はい、実は我々が表で活動中、つまり芹沢ジャパンの工事開発の際に、現場付近の海の底から発見した人形なのです」
「う、海の底から……?」
不思議に思うシスタージルに、東上別府鷹丸は説明し始めた。
「はい、どうやら今から130年前……当時のしんせん組、つまり今現在のしんせん組メンバーである花丘イサミ、月影トシ、雪見ソウシの先祖である花丘一作、月影十郎、雪見千助の新撰組発明係の三人と闘って海の底に沈んだ、当時の黒天狗党が所持していたからくり人形なんです。それを今日(こんにち)の科学力を用いて我々が新たに改良修復し、時おりワシの代理つまり影武者として戦わせたり、甥の菊丸のベビーシッターを務めさせたりしているんですよ」
「そ、そうじゃったのか……い、いやしかし、からくりとは思えんほどイヤに人間じみているじゃないか」
からくり人形なのに生きた人間と同じ言動を見せるからくり天狗に多少困惑するジルに対し、鷹丸は続けて釈明した。
「それがですね……どうもあのからくり天狗、以前私の影武者でしんせん組と戦った際に花丘イサミの所持している龍の剣を一太刀浴びましてね。それからと云うもの、やけに人間じみた言動と言いますか何らかの感情が芽生えたらしいのですよ」
「龍の剣の攻撃を浴びて……も、もしかして、その龍の剣に使用されているルミノタイトの影響で……!」
「はい、もしかしたら……その龍の剣のルミノタイトによる影響なのかもしれません」
「むむ、そうか……(タダの人形に人と同格の意志を植え付けるとは……! ルミノタイトの利用価値は膨れ上がる一方じゃわい)」
シスタージルと東上別府鷹丸が神妙な面立ちで話し合っている、その時。
「た、大変ですゥ!」「ど、どうした!?」「ムッ?」
二人が会話しているその時、突然その場に一人のカラス天狗が慌ててやって来た。からくり天狗が訊ねるとカラス天狗は慌てて答えた。
「も、申し上げます! 先ほど我等が芹沢ジャパン本社、その正面玄関から突然! あの聖龍使いが途轍もない程の斬撃を放ちながら突入して来ました!」
「な、なんだと!?」「!」
カラス天狗の報告を聞き、驚愕するからくり天狗とシスタージル。
更に其処へ、別のカラス天狗も報告に来た。
「随時報告します! 聖龍使い、我等が以前使用していた地下のアジトへと続く秘密エレベーターの塞がれた入り口を強引に破壊し、其処から侵入して来ました!!」
「なにィ!?」「グ……ッ」
報告を聞いたからくり天狗とシスタージルは顔色を変えて更に驚いた。
そしてジルは顔を歪ませながらからくり天狗に告げた。
「お、おい、からくり天狗! 聖龍使いが来ては事じゃぞ、一刻も早く始末するのじゃッ!」
「ヒぃッ! あ、あの聖龍使い相手に、ですか……?」
先ほど聖龍使いを眼前に、怖い目を見たからくり天狗はすっかり怖気づいてしまっていたのだが、そんなからくり天狗にジルはきつく言い放つ。
「バカモノッ! もし聖龍使いがこの施設全てを破壊尽くしてしまったら我等のルミノタイトの研究結果はもちろん、世界制覇の野望までもが危うくなるじゃろうがッ! 怖気づいてないでサッサと行って来んか! 甥の菊丸が可愛くないのか?」
「き、菊丸……ッ! 解りましたジル様、この東上別府鷹丸ことからくり天狗が命を賭けて聖龍使いを討伐してみせましょうッ、では!」
そう言うとからくり天狗は駆け出して行った。
「ククク……精々頑張るんじゃぞ、どうせ黒天狗党なんてルミノタイトとその研究意外何の価値もない組織……ルミノタイトの研究データとルミノタイト本体を手に入れてしまえば、こんな組織捨ててやるわ、クク」
誰も側に居ない中、シスタージルは怪しく微笑んでいた。
その頃、先走って行ってしまった聖龍使いを追ってミラーガールも芹沢本社前まで来ていたのだが、正面玄関は聖龍使いが派手に破壊して侵入してしまった為、破壊された玄関からは煙が上がり、人混みが出来てしまっていた。
「……あ、あちゃ~~……修司ったら、また派手にやらかしちゃったみたいね……ほんッとにしょうがないんだから」
修司こと聖龍使いの、いつもの強引な行動に半ば呆れてしまうミラーガール。しかし彼女は徐に左手首に装着しているリストバンドの鏡面を開いて鏡に話しかけた。
「お願い修司の、あ、いえ……聖龍使いの今の場所を映し出して」
ミラーガールが鏡に告げると、鏡は聖龍使いの今の現状を映し出た。聖龍使いはちょうど地下のアジトでカラス天狗や豹の爪(パンサークロー)の手下や幹部達と一戦繰り広げていた。
「あ、いた! も、もう……! また無茶しちゃって……ッ!」
毎度の事ではあったが、ミラーガールは無謀な行動に出る聖龍使いに対して苛立ちを感じていた。
そしてミラーガールは左手首のリストバンドを摘まみ回し、バンド状になっている鏡から技「ミラー・ゲート」を発出させた。
「まったく……毎度の事とは言え、手のかかる子よね……修司って」
小田原修司への愚痴を零しながらも、ミラーガールは単身ミラーゲートに入って行った。
ちょうどその頃、聖龍使いは単身迫り来るカラス天狗達や豹の爪の手下達、更にはシスタージルによって招集され新たに結成された「新パンサー軍団」と激戦の真っただ中で在った。
「クッ……少しばかり無勢になってきたか……ッ!」
斬っても斬っても湧いてくる敵の群衆に疲労が出てきた聖龍使い。
と、聖龍使いが敵勢に取り囲まれてしまっている、まさにその時。突如、聖龍使いのすぐ横に、青く光り輝く丸い魔法陣の様なものが空中に出現した。
「な、なんだアレはッ!?」空中に出現した丸い陣模様に驚く敵達。
そして魔法陣の中央から黒い穴が開きだし、それが全開になると、其処からミラーガールが出てきた。
「み、ミラーガール!」
聖龍使いが声を上げると出て来たミラーガールは少し怒り気味で言い放った。
「まったく……! 毎度の事とは言え、一人で先走っちゃう癖はどうにかなんない訳? 何か遭ったら私はもちろん、聖龍隊のみんなだって心配するのよ!」
「…………」
突然現れ、突然自分に向かって怒りながら言い放ってくるミラーガールに対し、聖龍使いは呆然と固まってしまっていた。
と、その時
「……あ、お、お前等! さっさと聖龍使いを倒しちまうぞ! ついでに其処のミラーガールも一緒に倒しちまいなッ!」
豹の爪の手下の一人が大声で仲間の手下達に言い放つ。するとそれに続いて今度は新パンサー軍団の幹部女怪人集が声を上げる。
「えェい! 我等も躊躇っている暇はないゾ! 二人まとめて倒してしまえェ!」
更にカラス天狗達も豹の爪の連中に感化される様に、一斉に聖龍使いとミラーガールに襲い掛かって来た。
「来たわよ聖龍使い、準備は良い?」
「い……言われなくても、とっくに覚悟はできてる……」
ミラーガールの言葉に返事をした聖龍使いは、横目でミラーガールを思い詰めた眼差しで見詰めた。
「……ん? どうしたの?」「あ……い、いや……」
聖龍使いの眼差しに気付いたミラーガールが、聖龍使いに訊ねてみると彼は発言を躊躇しながらも訊き返した。
「……ミラーガール、お前は…………お前は平気なのか? 大丈夫なのか……? ッ、てやッ」
「ギャッ!」
ミラーガールに訊ねた聖龍使いは同時に攻撃してきた豹の爪の手下の一人を斬り捨てる。
「へ? なにが……おぉっと」
ミラーガールも敵の攻撃を軽くかわしながら訊き返すと、聖龍使いは自らの疑問を不安の交じった口調で告げた。
「……お前は、こんな大勢の敵を目の前に怖くないのか? 他の聖龍隊士とは違い、ほとんど戦闘能力の無いお前が……こんな多勢に無勢の中、怖くはないのか……?」
訊ねられたミラーガールは訊いて来た聖龍使いに対し、笑顔で平然と答えた。
「……ふふ、大丈夫よ。何てったって、聖龍使いが側に居てくれるんだもの」
「い、いやッ、いくら何でも……其(それがし)とて常にそなたを護れるという訳ではないのだぞッ。もし、そなたに何か遭ったら、拙者は……」
不安そうな口振りで言ってくる聖龍使いに対し、ミラーガールは優しく微笑みながら返した。
「ありがとう、心配してくれて」
「!」
「でも大丈夫よ、私だって自分の身を護れるくらいの心構えはあるわ。何より、自分自身を大事に思えなきゃ他の人も大事に思えないんだしさ」
ミラーガールの優しい微笑みに内心胸が高まる聖龍使いは、ミラーガールの微笑みに続き彼女の言葉にも内心感極まった。
そんな二人に敵勢は襲い続けてくる。聖龍使いはミラーガールと背中を合わせると彼女に声をかける。
「……ミラーガール」「……なに?」
真剣な顔立ちで背中を合わせながら返事をするミラーガールに、聖龍使いは鋭い眼光を放ちながら言い放った。
「背を合わせて行くぞ……ッ、死角を無くせば問題は無かろう……!」
「え……! ……うん、解ったわ。攻めの方だけはお願い、敵からの攻撃は私が防ぐわ!」
「うむ、心得た!」
聖龍使いからの言葉にミラーガールは内心歓喜した。今まで非戦闘向きな能力者であった自分に背中を預けてくれる聖龍使いの言葉に、深い喜びを感じたのだった。ミラーガールは逸る気持ちを抑えながら聖龍使いに攻め手の方を願い出て、自分は敵からの攻撃を防御すると豪語した。それに対し聖龍使いは気前良く返事した。
こうして聖龍使いとミラーガールは互いに攻撃と防御の役割を分担しながら、黒天狗党のカラス天狗達と豹の爪(パンサークロー)の手下達や新パンサー軍団の敵中に飛び込んで行った。
[駆け付けた刑事と瑠美乃一族と妖怪ポリス]
一方、最初に先走って行ってしまった聖龍使いと彼を追って先に行ったミラーガールの二人を追って、聖龍隊の面々も芹沢本社前に辿りついていた。
だがしかし、聖龍使いによって破壊され、煙の上がっていた正面玄関から聖龍隊が突入しようとした矢先、芹沢本社から多数の豹の爪(パンサークロー)の手下達が出て来てマシンガンを乱射してきた。
「クッ、これじゃ中に突入できないぜ……!」
「て、敵の数が多すぎる……!」
余りの敵の数、そしてその敵勢が乱射してくるマシンガンの弾丸の雨に困惑する早見青児とタキシード仮面。
「ま、まさか……これ程の数の、豹の爪の連中が芹沢本社に潜んでいたなんて……!」
「もはや……芹沢本社そのものが豹の爪の本部と化してしまっている様ね……」
手下達からの弾丸の雨から建物の陰に身を潜めて避けていたハニー姉妹が真剣な顔つきで呟く。
「ひ、ひでェ有様だな……」
「あ、ああ……芹沢グループの会社がメチャクチャだ……!」
日ごろ機会がある時はちょくちょく足を運んでいる芹沢グループの会社が、聖龍使いの斬撃や豹の爪の手下達の銃器乱射によって、床や壁が半壊し瓦礫が散乱している有様に衝撃を受ける月影トシと雪見ソウシ。
「そんな……! せ、芹沢の御爺様の会社が……!」
今や黒天狗党の会長だと判明していながらも、常日頃から自分達を可愛がってくれている芹沢鴨之丞の自社が、自分達を指揮している聖龍使いの斬撃や豹の爪の手下達によって半壊している様を悲観する花丘イサミ。
「し、信じられん……! 鴨之丞が黒天狗党の親玉で、しかもあの悪名高い豹の爪と手を組んでいるとは……! オマケに息子の魁が奴らに捕われているなんて……」
黒天狗である芹沢鴨之丞と旧知の仲であるイサミの祖父、花丘観柳斉は事実を知り動揺し、更に息子でありイサミの父である花丘魁が捕らわれの身である事を知って愕然となっていた。
「お、お爺さん? まさか本気で私達と一緒に突入する気なんじゃ……」
「何を言うておる! ワシはな、これでも武術の才は有るんじゃ、心配無用じゃわい!」
観柳斉を心配して声を掛けるセーラージュピターであったが、観柳斉は強気な態度で言い返した。
この時、メタルバードとジュピター・キッドは突入の機会を窺っていたのだが敵からの攻撃が激しく、中々突入する事が出来ずにいた。
「ど、どうするメタルバード……早く行かないと……!」
「解ァってるってッ……しかしなぁ……相手も多いし、下手に正面から突入するのは還って危険だしな……」
この時、メタルバードは口にはしなかったが先に突入した聖龍使いや、彼を追って行ったミラーガールの安否を気にしていた。
(……修司、アッコ……無事でいてくれよな……! 特にアッコ、お前は戦闘向きの能力者じゃないんだし無茶はしないでくれよな……)
メタルバードたち聖龍隊が突入を躊躇っていた、まさにその時であった。
「ん? あの音は……!?」
「あ、パトカーよ! 警察が駆けつけてきたらいしわ」
遠くの方からパトカーのサイレンが聴こえてきて、小狼(しゃおらん)と苺鈴(めいりん)がパトカーの赤いランプの点灯に目を向ける。
そして複数のパトカーが銃撃を繰り広げている芹沢本社の前に停車し、パトカーの中から一人の男が拡声器を手に持ち豹の爪の手下達に声を上げて言い放った。
「そこのお前達! 今すぐ銃撃をやめなさい! 我々大江戸警察が周りを包囲している故に、お前達はもう逃げ場などは無い! 即刻所持している武器を捨て速やかに……」
男が手下達に言い放っている途中、突然手下達が拡声器を手に持つ男に向かって銃を乱射。
「う、うわわわッ!」
男は怖気づき、パトカーの陰に隠れた。
「あ! あの人」「イサミちゃん、あの人……」
男を見てトシとソウシがイサミに声を掛ける。そしてイサミも男を確認して声を上げた。
「あ! 数馬叔父さん……!」
パトカーから出て来て手下達に言い放っていたのはイサミの母玲子の実弟でイサミの叔父である大江戸警察刑事の坂本数馬(さかもとかずま)だった。
数馬がパトカーに身を潜めたその時、メタルバードが数馬に駆け寄り声を掛けた。
「おい、アンタ! ここは危険だ、相手はあの豹の爪と黒天狗党何だぞ」
「ム! た、確かあんたは聖龍隊の副長を務めているメタルバード……! そ、それよりも……なんでまた豹の爪と黒天狗党が芹沢本社から出てくるんだ?」
「い、いや、話せば長くなるが……」
「しかも何で選りによって黒天狗党と豹の爪が度等を組んでいるんだ?」
「い、いやな……」
釈明を求める数馬に対し、事態が事態なだけに半ば焦っていたメタルバードは語るのを躊躇ってしまっていた。
数馬とメタルバード、両人が対峙している、その時。
「うわあッ」「な、なんだァ!?」
銃を乱射していた手下達に向かって、突如何処からともなく紙製の玉が飛んできて、それが爆発、爆炎を上げた。
「なっ……!?」「な、なんだ今の玉は!?」
数馬、メタルバードが突然飛んできた玉と玉の爆発に驚いていると、手下達の上方から複数の忍達が急降下して来て手下達をクナイで刺していった。
「うぎゃっ」「ウグッ」
刺された手下達はその場に倒れ泡となった。
「い、今のは……忍者?」
突然目の前に現れた忍者に驚き言葉を失くすマーキュリー、その時である。
「みんな! 大丈夫だった?」
今度は聖龍隊の目の前に、露出度が多いハイレグレオタードのインナーコスチュームのグラマーな赤い忍装のくノ一が出現し声を掛ける。
「え? あ、アナタは……?」
突然目の前に現れたくノ一に戸惑い困惑するウォーター・フェアリーを始めとした聖龍隊士たち。
「おオウッ、お、お久しぶりです! ま、また貴女に出逢えるとは……」
くノ一を見た数馬は声を荒くしてくノ一に話しかけた。そしてくノ一を見たメタルバードは軽く驚きながら声を発した。
「オオッ、来てくれたか、高木はるか!」
聖龍隊の目の前に現れた赤い忍装のくノ一。それは、昼間はイサミ達の担任を務めている大江戸小学校の教員、しかしその実態は代々ルミノタイトを悪しき者から護る忍の一族、瑠美乃一族の末裔である高木はるかだった。
目の前に現れたはるかを見てイサミ達は声を上げようとした。
「あ、はるか先せ、ウグッ……!」
しかし声を出そうとするイサミの口をメタルバードがすかさず塞いだ。メタルバードは自身の能力であるテレパスで直接イサミ達に問い掛けた。
(お前達、今は声を押し殺してろ……。特にイサミ、すぐ側にお前の叔父である坂本数馬が居るんだぞ。色々話したい事は有るだろうが、今ははるか達、瑠美乃一族の連中の協力を借りて此処を突破するのが先決だ)
メタルバードの問い掛けに、彼に口を塞がれてしまっているイサミも、トシにソウシも小さく頷いて了解した。
だがその時、芹沢本社から更に大勢の豹の爪の手下達や黒天狗党のカラス天狗達が続々と出てきた。
「ゲッ! まだ居んのかよ……ッ!?」
「此処は敵の本拠地……向かってくる連中はいくらでも居るだろう……」
続々と出てくる敵の多さに怯んでしまう宇崎星夜に対し、彼の横に居たセーラーウラヌスが険しい顔付きで呟く。
と、その時!「うぎゃあぁ!」「ぐはッ」
大勢の敵達が再び建物内から出て来て銃を構えた瞬間、上空から無数の黒い羽が飛んできて、それが鋭い針状の武器の如く手下達に突き刺さり手下達は悶絶しながら倒れていく。
「い、今の……!」「は、羽みたいなのが飛んで来たわ……」
飛んできた黒い羽に驚き唖然となるセーラーヴィーナスとマーズ。
「あ、あの、お姉さん……」
「こ、これも、お姉さん達の仕業なの?」
「い、いいえ……! こんな羽……こんな羽みたいな武器、私たち使った事すらないわよ……!」
手下達に突き刺さった黒い鳥の羽を指差し訊ねるちびムーンとセーラーサターンに、訊かれた高木はるかは困惑しながら答えた。
皆が困惑していると、上空から複数の人影らしきものが降りて来た。
「え……!? あ、あれは……」
皆が目を瞠る中、聖龍隊や高木はるか、そして坂本数馬等の眼前に下り立ってメタルバードに声を掛けた。
「変身怪獣殿、お久しぶりです!」「あ! アンタ……!」
その者は、かつてのメタルバードことバーンズの呼び名である「変身怪獣」とメタルバードの事を呼び、呼ばれたメタルバードはその人物を見て驚愕した。
「い……イヤぁ~~!!」
「なにッ? なにっ? 本物の、本物のオバケ~~!!?」
降りてきたその人物を見て、セーラームーンとヴィーナスが顔色を変えて悲鳴を上げた。
「ほ、ほええぇぇ~~! こ、この鳥さん……!」
「ほ、本物の妖怪だァ!」
木之本桜、小狼も声を上げて驚く。
目の前に降りて来たその人物、いや妖怪は口が鳥のように尖っており、右手には自身の背丈より長い先端が十手の様な形をしている棒状の武器を持っていた。そして肌は青く、目は鋭く金色に光っていた。
「あ、アナタ! まさか、黒天狗党の新しい手下……い、いいえ、まさか……! まさか、黒天狗党がバイオテクノロジーで生み出した生物兵器!?」
「ううう、動くなッ! ああああ、怪しい、や、奴め……」
「い、いいえ、違いますよ……! そ、それに銃を下ろしてください、私達は別にあなた達と衝突する為に来た訳ではありません(な、何なんだ、この女性は……!? や、やけに派手な格好をしているな……)」
妖怪を見て驚く高木はるか、驚きの余り腰を抜かしながらも妖怪に拳銃の銃口を向ける坂本数馬らに対し、妖怪の方ははるかの派手な身形に少しばかり動揺してしまってた。
皆が驚く中、妖怪に声を掛けられたメタルバードは笑顔で妖怪に声を掛けた。
「ひ……久しぶりだな、黒鴉(くろからす)!」
『……え?』
嬉しそうに妖怪に言い寄るメタルバードの言動に呆然としてしまう皆。
「これはお久しぶりです、変身怪獣殿……あ、今はヒーロー名で、メタルバードと名乗っておりましたね」
メタルバードに名を呼ばれた妖怪は機嫌良くメタルバードに返事した。
「ね、ねぇ……メタルバード? こ、この黒い鳥の妖怪さんとは……し、知り合い、なの……?」
恐る恐るメタルバードに訊ねるヴィーナスの問いに、メタルバードは真顔で平然と返答した。
「おうッ、そう言えばお前達は初めてだったな。この妖怪は黒鴉って方でな……以前、オレと修司が修行していた時期が有るんだけど、そん時色々と俺や修司に手解きをしてくれたんだよ。大丈夫、悪い様怪じゃないさ」
「そ、そうなんですか……?」
初めて見る黒鴉に驚き不安に駆られるさくらに、すかさずメタルバードが告げた。
「大丈夫だって……何よりこの黒鴉は妖怪ポリスっていう人間で言えば警察官に当たる役職に就いていてよ、日夜悪事を働く妖怪をトッ捕まえる天狗ポリスの中でもエース中のエース何だぜ」
「そ、そうなんだ……ど、どちらにしろ、ありがとうございます黒鴉さん」
メタルバードの話を聞いて、雪見ソウシが改めて自分達を助けてくれた黒鴉に礼を述べると、黒鴉は謙遜しながらも同時に神妙な面持ちで語り始めた。
「いえいえ、これも天狗ポリスの通常勤務ですし大した事ではありませんよ……それよりもメタルバード、今回は我々、天狗ポリスも共に豹の爪(パンサークロー)を……パンサーゾラとの戦いに協力いたしましょう!」
「ええ!?」「な、なんで貴方達が……!?」
黒鴉の発言に驚くキューティーハニーとミスティーハニーが訊ねると、黒鴉と共に駆け付けて来た大勢の鴉天狗たち天狗ポリスの面々が黒鴉の周りに飛び降りる最中、淡々と訳を話した。
「はい、実は最近になって、豹の爪の首相であるパンサーゾラも一種の悪行妖怪であると天狗大本堂で認定がされまして……そして今回、聖龍隊が豹の爪と一戦始めると鬼太郎殿からご通達が有りました故に、あなた達と共同戦前で連中の本部で在る芹沢本社に突入するようにと、上司である大天狗様から直々に指令が降った次第で有りました故に、こうして駆け付けた所存であります」
「そ、そうだったのか……! し、しかしあの、パンサーゾラまでも妖怪と認知しちまうとは……ま、まぁ、されても仕方ないのかもしれねえが……」
黒鴉の話を聞い唖然となってしまうメタルバードを尻目に、黒鴉と共に来た他の天狗ポリスの鴉天狗達が口を揃えて言い放って行った。
「メタルバード殿! 我々も聖龍隊に加勢させてください!」
「豹の爪の悪行には、我ら妖怪の間でもイヤという程耳にしているのです!」
「豹の爪だけじゃない! 黒天狗党の所為で、我ら本物の天狗一族までも顔に泥を塗られている心情なのであります!」
「悪しき人間の癖に、誇り高き天狗一族の名を語るとは不届旋盤! これを機に、一気に奴等の悪事を成敗してくれましょうぞッ!」
「お、お前等……」
メタルバードが驚いていると、更に黒鴉が言った。
「メタルバード殿、私達は修司殿やあなた達の今までの活動に、深く感極まっていました。種族を問わず、如何なる存在でも共存できる社会、いや世界を築こうとする熱い意志に私自身も感動致しております……! 何とぞ、我ら天狗ポリスも御同行させてくだされ!」
天狗ポリス達の意気込みに驚きながらも、メタルバードは顔付きを険しく一変させて黒鴉率いる天狗ポリスに言い放った。
「……ああ、解った! 一緒に協力してくれッ、実を言うとな……先に聖龍使いとミラーガールの二人が既にあの中に突入しているから、まずは二人と合流するのが先決だ!」
「な、何ですと!? 聖龍使い……お、小田原修司殿が既に敵地である、あの建物の中に……!」
メタルバードの話を聞いて驚く黒鴉に続き、他の鴉天狗達も驚き口を開いていく。
「せ、聖龍使いが、既にあの中に!?」
「い、いくら隊長直々に鍛えて貰った修司殿でも危ないぞ!」
「そ、それに確かミラーガールって……聖龍使いと良く行動しているスーパーヒロインだよな? だ、大丈夫なのか……?」
黒鴉に鴉天狗達が動揺している最中、一人の忍が高木はるかに駆け寄り、状況を報告しに来た。
「頭領、芹沢本社前に陣取っていた豹の爪の手下達は全て排除いたしました!」
部下からの報告を聞いた高木はるかは眼つきを一変させて言い放った。
「解ったわ御苦労……みんな! 芹沢本社前の敵は全て片付いたわ! 攻め入るなら今よッ!」
「よし……聖龍隊! これから俺達は芹沢本社に、黒鴉率いる天狗ポリス等と共に攻め入るぞ!! もちろん高木はるか、お前達瑠美乃一族の忍び衆も来るよなッ」
はるかの言葉を聞いたメタルバードも聖龍隊に号令を掛け、更に高木はるかに訊ねると彼女は微笑みを浮かべて答えた。
「ええ、もちろんよメタルバード……!」
はるかの答えを聞いたメタルバードは軽く頷き、そして聖龍隊と天狗ポリスに再度言い放つ。
「よし、感謝するぜ、高木はるか……行くぞ聖龍隊! 黒鴉! お前達も宜しく頼むぜェ!」
「解りました! 行くぞお前達、黒天狗党を……豹の爪を一掃してしまえッ!」
『ははぁッ!』
隊長の黒鴉の一声で威勢良く返事をする天狗ポリス。
「私達も行くわよッ」『ははっ』
そして高木はるかについて来た瑠美乃流忍者たちも、頭領である高木はるかの一声に返事をし芹沢本社に突入した。
「俺達も遅れず、行くぞッ!」
「ああ、美味しい所を全部、忍や天狗ポリスの面々に持って行かれたくないしな」
早見青児、タキシード仮面も建物に突入する天狗ポリスに瑠美乃流忍者達を見て声を上げる。
「遅れを取るなァ! 聖龍隊も猪突猛進の如く、突き進めィ!」
メタルバードも聖龍隊に命令を下し、一気に芹沢本社に突入して行った。……一人、呆然と目の前の状況に理解し切れず立ち尽くしている男は、思わず声を発した。
「ま……待ってくれぇぇ! お、俺も一緒に行く~~ッ! というよりも、警官の俺が行かなきゃ意味が無いでしょ~~……!!」
呆然と立ち尽くしていた一人の男、坂本数馬も慌てて後を追う様に芹沢本社の中に駆け込んで行った。
そして芹沢本社、その建物内で聖龍使いに破壊された壁の前に皆は辿りついた。
「こ、此処って……」「ああ、確か……」
「い、以前、芹沢の爺ちゃんと一緒に潰した筈の、黒天狗党の秘密基地への地下エレベーター……」
破壊された壁を見てイサミ達は動揺していた。其処は以前、偶然にも知ってしまった黒天狗党の地下秘密基地へと続く隠しエレベーターの入り口で、当時はまだ黒天狗と知らなかった芹沢鴨之丞にエレベーターの事を話したイサミ達は、鴨之丞と共に黒天狗党の基地に潜入し、基地を壊滅させたと当初は思っていた。
そんなイサミ達に高木はるかが真実を告げた。
「イサミちゃん、それは鴨之丞の自作自演だったのよ。実際は、あなた達に知られてしまった隠しエレベーターだけを破壊して、地下の秘密基地は今でも健在しているわ。……まあ、おそらく既に聖龍使いが塞がれたエレベーターの出入り口を強引に破壊して先に侵入している筈よ」
「タク……ッ、いつもいつも力尽くで先走りやがるんだからな……」
高木はるかの話を聞いて呆れ顔になる青児。そしてメタルバードは聖龍隊、天狗ポリスに瑠美乃流忍者達に告げ放った。
「よぉしッ! 敵の本拠地に殴り込みだァッ! 行くぞテメエ等!」
メタルバードはそう告げると皆より先に隠しエレベーターに飛び降り、地下へと落下して行った。
「よ、よしッ、私達も行くぞッ」
「あ、ああ、そうだね。メタルバードに続かないと……」
タキシード仮面の発言にキッドも続けて呟き、そして聖龍隊に瑠美乃流忍者、天狗ポリスの一行は地下の秘密基地に向かって行った。
「お……お~~~~いぃ……! お、俺はどうしたら良いんだよ~~……」
一人だけ飛び降りるのを躊躇ってしまい、立ち往生してしまう坂本数馬はメタルバード達が飛び降りて行った地下への入り口に向かって大声を放った。
[激突! 聖なる魔鏡と裏切りのレーザー兵器]
一方その頃。聖龍使いとミラーガールは互いに上手く共闘しながら敵基地の最深部へと向かいつつあった。
「はぁ、はぁ……み、ミラーガール……大丈夫か?」
「う、うん……少し疲れちゃったけど、大丈夫よ……」
激しい戦闘による体力の消耗で疲れ気味になってしまった聖龍使いとミラーガール。二人は周りを常に警戒しながら先を進んで行ってた。
「よし、この奥だ。この奥に恐らく敵の首相である黒天狗やパンサーゾラが居る筈だ……!」
「ええ、それからシスタージルも、多分居る筈よ」
「ああ、そうだな」
二人は真剣な真顔で先を進んでいると長い機械的な通路の入り口を見つけ、奥へと進んで行った。
と、その時「うわッ!」「きゃあぁ! な、何なの?」走っていた聖龍使いとミラーガールのちょうど間に突然、鉄の壁が下りて来て二人の間を遮断してしまった。
「せ、聖龍使い! 大丈夫!?」
「こ、コッチは大丈夫じゃ! そっちは平気か?」
「う、うん……こっちも大丈夫」
壁伝いに語り合う聖龍使いとミラーガール、慌てふためくミラーガールに対し聖龍使いは壁の向こう側に居るミラーガールに告げた。
「ミラーガール、拙者はこのまま先を行くでござる! そなたは一旦退き返って聖龍隊の面々と合流するのじゃ! おそらくメタルバード達が既に駆け付けてくれている筈じゃ」
「い、いやよ! 私も行く……!」
「イカン! この先は今まで以上に危険なのじゃぞッ……お主一人だけで先を進むのは危険すぎる……! 一刻も早くメタルバード達と合流するのじゃ」
「そ、そんな……」
聖龍使いの言葉に悲観するミラーガールは、悲痛な声で呟いた。
「……ズルイよ」「?」
「ズルイよ、いつもいつも……。私や他のみんなの身の安全は心配する癖に、自分の事となると投げ遣りになってさ……私の気持ちんなんて、これっぽっちも考えてくれない」
「ミラーガール……」
ミラーガールの言葉に衝撃を受ける聖龍使い、彼女は聖龍使いに自分の心境を語り始めた。
「他人(ひと)が傷付くのは嫌な癖に……他人(ひと)が苦しむのは拒む癖に……! 貴方は私を苦しませる……!! 私がこんなにも心配なのに……心配で心苦しいのに、それでも私を置いて行って何処かに行こうとする……!」
「…………」
「自分が他人(ひと)の代わりに傷付けば……代わりに戦えば……他の人は苦しまずに済むと……勝手に思い込むのは、いつも貴方の悪いクセよ……!! 私が不安な気持ちになるのは知ってるくせに、いっつも自分の都合だけで私を置いていく……! ずるい、ズルイよ……」
目から熱い涙を浮かべながら自らの悲痛な想いを告白するミラーガール。そんな彼女の想いを感じたのか、聖龍使いはしばし無言になるとミラーガールに告げた。
「……安心せい、其れがしは簡単にはくたばらん……! だから今は自分の身を案じておくれ、ミラーガール。主は皆と合流してから、また駆けつけてくれれば良い……頼む」
「聖龍使い…………解ったわ。でも、それなら聖龍使いも約束して……貴方が私達を大事に想ってくれている様に、私達だって貴方の事を想っているのよ。だから、無茶だけはしないで……お願い」
悲痛な心境で言い返すミラーガールの言葉を聞いて、聖龍使いは言の葉を返した。
「解った……では、また後ほど……!」
そう言い残して、聖龍使いは一足先に秘密基地の最深部にへと向かって行った。
「……約束よ、修司」
ミラーガールは先に奥へと向かった聖龍使いに対し不安を感じていたが、彼の発言を信じて仲間である聖龍隊と合流する為、後退した。
そしてミラーガールが必死に走っていると視界に、イサミ達新撰組とイサミの祖父の観柳斉が一本槍を手に持ち他の聖龍隊と共に、大勢のカラス天狗達と豹の爪の手下達相手に一戦を繰り広げていた。
「あ、みんな!」「あ、ミラーガール!」
イサミに駆け寄り声を掛けるミラーガールに、声を掛けられたイサミも返事をした。
「み、ミラーガール……!」「良かった、無事だったんですね……」
ミラーガールの安否を確認できて安堵するトシにソウシ。
と、その時――――大勢のカラス天狗達を相手にハリセン状の剣で戦っていた観柳斉の目の前に一人の人物が立ちはだかった。
「む、お主は……!」観柳斉は、その人物を睨みつけた。
観柳斉の目の前に立ちはだかった人物、それは黒天狗党四天王の一人である鎧天狗であった。鎧天狗は刀を観柳斉に向けながら言葉を発した。
「主、これ以上の振る舞いは許さんぞ……! 即刻、新撰組ともども立ち去れィ!」
だが観柳斉は鎧天狗の言葉に怯む事無く、強きな姿勢で反論した。
「お、おい……! 一つ、そなたに訊ねたい事が有るのじゃが……!」
「うむ……? なんだ……?」
「お……お前さん達の頭である黒天狗は本当に……本当に、あの芹沢鴨之丞なのか!? 教えてくれ……ッ!」
目の色を変えて鎧天狗に訊ねる観柳斉。それに対し鎧天狗は吐き捨てるように返事をした。
「煩いっ、お前達の知らなくて良い事だ! 早く立ち去らねば痛い目を見るぞ……!」
「何を……! そうは言ってはいられんのじゃ……鴨之丞はワシとは旧知の仲、そしてその鴨之丞が黒天狗で在ったら、旧知の親友がワシの息子である魁を誘拐した大悪党で在るという事になる! ワシは黒天狗に、鴨之丞に直接問い質したいだけなのじゃ!」
鎧天狗を睨みつけながら強気の発言を言い返す観柳斉、しかし鎧天狗も観柳斉の迫力に怯む事無く、腰に下げている刀を抜いて観柳斉に打って懸かった。
「喧しいッ! 覚悟ーーッ!」「なんの! トリャーーッ!」
観柳斉は所持しているハリセン状の剣から一本槍に持ち換えて鎧天狗と取っ組み合った。
「お、お祖父ちゃん!」
祖父の観柳斉と鎧天狗が火花を散らしながら闘う様子を見て動揺し出すイサミ。
「ああ……!」「た、大変だ……!」
イサミと同じく、鎧天狗と闘い始めた観柳斉を見て愕然となるトシとソウシ。
「た、大変……! 私も加勢しなきゃ……!」
闘い始めた二人を見て、ミラーガールも慌てて戦闘に加勢しようと駆け出す。と、その時、彼女の目の前に一人の男が立ちはだかった。
「フッ、済まないミラーガール。悪いけど、鎧天狗の邪魔だけはさせないよ」
「あ! 貴方は……!」
その男を見てミラーガールは驚いた。ミラーガールの前に立ちはだかったのは鎧天狗と同じ四天王の一人である銀天狗であった。銀天狗は光り輝く電光刀を構えてミラーガールに向けながら告げた。
「悪いがミラーガール……君の様な美しい可憐なお嬢さんには手は出したくない性分なんだが、鎧天狗の真剣勝負を邪魔されるのだけは見逃せない。どうしても邪魔をするというなら、この僕が相手をしようじゃないか」
「……!」
立ち塞がる銀天狗相手に一瞬怯んでしまうミラーガール、だが彼女はすぐに顔付きを険しくさせて左手首のリストバンドを弄って小型化になっているコンパクトから青白いガラスの様な剣ミラー・ソードを取り出して身構えた。
「ほほう、君も剣が主流のスタイルなのかい? てっきり盾で身を護るだけしかできないとばかり思っていたけど……」
「そ、そんな事は無いわ! 私だって……私だって! みんなを護る事は出来るわ!!」
表情を一変させて銀天狗に向かって言い放つミラーガール。そんな彼女の言動を聞いた銀天狗は、お決まりの台詞を吐きながら言った。
「まいったな~~、そう闘う気満々で来られちゃ相手するしか無いじゃない。ま、僕としては鎧天狗を護れればそれで良いんだけどね」
そう言うと銀天狗はミラーガールに向かって攻撃を繰り出して来た。
「う、うわ……っ」
銀天狗からの攻撃を懸命にブレイドで受け流して行くミラーガールであるが、先ほど聖龍使いに云われた通り彼女は戦闘慣れしてはいなかった為、銀天狗の剣戟を少し受けただけで足元がふらついてしまった。
「み、ミラーガール!」
イサミが声を上げ、彼女達もミラーガールに加勢しに行こうと駆け出そうとするが、眼前にカラス天狗達が立ちはだかり立ち往生していた。
そんな時であった。
「喰らえッ!」「うぎゃッ」「グッ……!」
眼前を立ち塞ぐカラス天狗達に向かって勢いよく黒い羽が飛んできて、それがカラス天狗達に直撃、カラス天狗達は気絶してしまった。
「ああ!」
驚くイサミ達であったが、彼女達の前に飛び降りて来た者が彼等に告げた。
「大丈夫ですよイサミ殿、トシ殿、ソウシ殿。一時的に身体が痺れて動けなくなっているだけです」
「く、黒鴉さん!」
イサミ達の前に飛び降りて来たのは天狗ポリスの黒鴉と彼が率いている天狗ポリスの鴉天狗達であった。
「な、何なんだ!? あのカラスの様な者達は……ッ!」
初めて本物の鴉天狗を見た銀天狗は驚愕し、目の色を一変させた。
「な、なに? あの黒い鳥みたいな人達……」
銀天狗と合戦していたミラーガールも黒鴉を見て動揺の色を隠せなかった。
と、その時「そりゃァ!」「ウワッ!」鎧天狗と闘っていた観柳斉が、振るっていた槍で鎧天狗の刀を弾いて見事勝利したのであった。
「お、お祖父ちゃん!」
「うははッ、どうじゃイサミ! まだまだ若いモンには負けんわッ」
歓喜する孫のイサミに、嬉しそうに笑顔でピースしながら勝ち誇る観柳斉。
「だ、大丈夫かッ、鎧天狗!」「ぐ……ッ」
観柳斉に負けてしまった鎧天狗に急いで駆け寄る銀天狗、一方観柳斉に負けてしまった鎧天狗は悔しさで胸が一杯であった。
銀天狗が鎧天狗に駆け寄っているその時、黒鴉がミラーガールに駆け寄っていた。
「あ、貴方は……?」
黒鴉の顔を間近で見るミラーガールは困惑しながらも訊ねてみた。すると黒鴉は丁寧に名乗り出した。
「お初にお目にかかります。私は天狗ポリスの一隊長を務める黒鴉と云う者です。貴女がミラーガールですね? 話は我々妖怪の世界にも伝わっております。いつも聖龍使い殿の御側で彼を手助けしているそうで……」
「は、はぁ……と、ところで黒鴉さん、貴方達は何故ここに居るんですか?」
ミラーガールが訊ねると黒鴉は真顔で答えた。
「はい、先ほど鬼太郎殿から連絡を受け、先走ってしまった聖龍使いと聖龍隊の皆様方に協力してくれとお願いされまして」
「え? き、鬼太郎くんが……?」
「はい……彼は私たち同様、以前より聖龍使いになる前の修司殿やメタルバードであるバーンズ殿と面識が有りまして。今回も妖怪でないとは言え、豹の爪と黒天狗党が結託して悪事を働いていると耳にした鬼太郎殿が聖チャペル学園に駆け付け……その後、修司殿や貴女方の御仲間であるウッズ殿が豹の爪の手下達に痛め付けられて怒りに駆られた聖龍使いが一足先に此処に向かい後を追う様に貴女様も、この芹沢本社に向かって行った事を鬼太郎殿が我ら天狗ポリスに通報してくれたのですよ」
「……そ、そうだったんですか……! 鬼太郎くんが態々……」
黒鴉の言葉に衝撃を受けるミラーガール――――と、その時。
「うはははははッ……お前等! 全員其処を動くなッ!!」
「え!?」「な、なにッ?」「そ、その声は!」
「な、何なんだ?」「?」
「え?」「い、今の声は……!」
「な、何事だ!?」「えっ?」
突然耳に聞こえてきた声に――イサミ、トシ、ソウシ――天狗ポリス達に鎧天狗、銀天狗――そして黒鴉にミラーガールが声の先に視線を向けると、からくり天狗とゴールデン天狗が巨大なレーザー兵器に搭乗して現れた。
「か、からくり天狗!」
巨大な兵器に搭乗して現れた二人の四天王天狗を見て驚愕するイサミ達。
「ご、ゴールデン天狗、お前……ッ!」「な、何の真似だ!?」
同じく驚愕する鎧天狗と銀天狗は、眼前の兵器に搭乗する二人に問うた。すると二人の天狗は平然と答えた。
「わははははッ! な~~に、この巨大レーザー砲でこの場を一掃してやろうと、やって来たまでよ!」
「な、なにッ」
からくり天狗の言葉に動揺する銀天狗、更に。
「はははッ、その通り。このゴールデン天狗様が造り上げたレーザー兵器で、お前らなど跡形もなく消し去ってやるわッ!」
「な、なんだと……ッ!」
ゴールデン天狗の台詞に驚愕する黒鴉。
そんな二人の天狗の台詞を聞いた鎧天狗は、すかさず言い返した。
「お、お前達! 今まで黒天狗様の御恩を受けながら、これ以上我ら黒天狗党の誇りを汚すつもりかッ!!」
「黙れ! あんな人でなしの、黒天狗の事など、どうでも良いわッ! 我々の真の野望である世界征服を成せるのは、もはやパンサーゾラ様しかおらんわッ! 丁度良い、ミラーガールや聖龍隊、カラスの妖怪たち共々お前達も消してやるわッ」
そう言うとゴールデン天狗は兵器のスイッチを入れて、兵器から一筋の光線を放出し、一直線に鎧天狗に放たれた。
「ああ!」「に、逃げて! 銀天狗さん!」
声を上げるイサミ、そして銀天狗に向かって叫ぶミラーガール。そんな中、光線が鎧天狗に直撃する直前の事で在った。
「危ないッ!」
咄嗟に鎧天狗の隣に居た銀天狗が、鎧天狗に抱き付いて、光線を避けさせた。
「ウッ……ぎ、銀天狗! だ、大丈夫か……?」
自分を庇ってくれた銀天狗に心配そうに声を掛ける鎧天狗、銀天狗は鎧天狗を庇って負ってしまった肩の傷を手で押さえながら返事をした。
「あ、ああ……大丈夫だ。君の方は、大丈夫かい……」
「あ……ああ……ありがとう」訊き返された鎧天狗は複雑な心境で銀天狗に答えた。
しかしレーザーを避けられたゴールデン天狗は半ば興奮しながら言い放った。
「クソッ、まだまだァ! 今度は最大出力の巨大レーザー砲を喰らうが良いッ」
ゴールデン天狗は、レーザー兵器の装置のつまみを回して出力を最大にした。するとパラボラアンテナの形状の機械部分が発光し始め、それを見た銀天狗が叫んだ。
「や、止めろゴールデン天狗! からくり天狗! 私達はもちろん、此処にいるしんせん組やミラーガールまで丸焦げにする気かッ!?」
訊かれたゴールデン天狗とからくり天狗は嘲笑いながら吐き捨てた。
「ワハハハハハ、丁度良いじゃないか。目障りなしんせん組や聖龍隊、そして邪魔なだけのお前ら二人を同時に消せるなんて一石二鳥だ! 大人しく消滅してしまえッ!」
ゴールデン天狗はそう吐き捨てると、溜めたエネルギーを一気に放出しようと兵器のレバーを下げた。
「く、来るぞッ」「きゃああ!」
トシ、イサミ、そしてソウシは顔色を一変させて困惑し出した。
「た、隊長ッ」「ど、どうしますかッ?」「む、むむ……!」
レーザーが放たれ様としていると知り、困惑する天狗ポリスの鴉天狗達が隊長の黒鴉に問うのだが、当の本人の黒鴉も只々困惑してしまうばかり。
「い、いかん……ッ、鎧天狗、君だけでも逃げろッ」
「い、嫌だ! お、お前を残して逃げれるものかッ」
「よ、鎧天狗! き、君は……!」
「か、勘違いするなッ……わ、私はただ……く、黒天狗党を裏切って豹の爪に走った、あの二人に対して背中を向けたくないだけだ……!」
先に逃げろと鎧天狗に告げる銀天狗であったが、その鎧天狗が発した言葉に思わず動揺してしまい、それに対して少し照れながら銀天狗に言い放つ鎧天狗の二人であった。
「はははは……では、さらばだ!」
そして兵器から強力なレーザーが皆に向かって放出された。
「きゃ、きゃあっ!」「「ひいいぃぃッ」」「う、うわあぁ!」
イサミにトシ、ソウシの二人、そして観柳斉は思わず目を瞑ってしまった。
「うああああ!!」「く、くそ……!」
そして天狗ポリス達に黒鴉も成す術なく、ただ立ち尽くしてしまっていた。
「きゃあっ!」「る、ルリ子……! くっ」
思わず銀天狗は、悲鳴を上げる鎧天狗ことルリ子に覆い被さる様に彼女に抱き付いて、身を伏せさせた。
皆に強力な光線が浴びせられると思われた、次の瞬間。
「させないわッ! ミラー・シールド・ウォール!!」
皆とレーザー兵器の間にミラーガールが入って来て、彼女は左手のミラー・シールドを前に突き出す形で呪文を唱え、前方に巨大な半透明の鏡の壁を出現させた。
「な、なにィ!?」「こ、これは!?」
突如現れた巨大な半透明の鏡の壁に驚愕するゴールデン天狗とからくり天狗。そして鏡の壁に直撃し光線が反射、それが一気に光線を放っているレーザー兵器に撥ね返された。
「「う、うわあああああ!!!」」
レーザーが反射され、搭乗していた兵器が爆発炎上し悲鳴を上げる二人の天狗。二人は命辛々、炎上する兵器から飛び降りた。
『………………』
巨大なレーザー兵器を一発の鏡の壁で跳ね返して大破させたミラーガールの能力を目の当りにして、言葉を失くして驚くその場の皆。
「……み、ミラーガール……」「す……スゲぇ……」
見事レーザー兵器を破壊したミラーガールに目を丸くして驚くばかりのイサミにトシ。
「す、凄まじい……。こ、これが魔鏡聖女の力なのか……!」
初めてミラーガールの能力を見た黒鴉は、ただただ驚いてしまうばかりであった。
「す、スゴイ……!」
「み、ミラーガールの能力は……あれ程までに凄まじいものであったのか……」
炎上するレーザー兵器、そして命辛々で兵器から飛び降り逃げ出すゴールデン天狗とからくり天狗を見て、改めてミラーガールの能力に吃驚する鎧天狗と銀天狗であった。
[対決! 乙女の集いとシスタージル、そして対峙する黒天狗]
一方別の方では。
キューティーハニー、ミスティーハニー、早見青児。更にセーラー戦士達が黒天狗党の秘密基地にて戦闘を繰り広げていた。
「クソッ」
迫りくる敵達に、果敢に立ち向かっていくタキシード仮面。
「はあぁッ!」「えいっ」
その傍らではマーズやマーキュリーを始めとしたセーラー戦士達も襲い来る敵を前に一歩も退かずに戦い続けていた。
「くっ、キリが無いわ……!」
「ぱ、豹の爪の手下やカラス天狗達だけじゃなく……例の新パンサー軍団の怪人達も、私達に向かってきてるわ……ッ」
激しい戦闘に苦悶の表情を見せ始めて来たキューティーハニーとミスティーハニー。と、その時
「ワッハッハッハ! よくぞ此処まで辿りつけたなァ……キューティーハニー! ミスティーハニー! にっくきハニー姉妹めッ!!」
突然目の前に現れたその人物を見て、キューティーハニーとミスティーハニーは声を上げた。
「あ、貴女は!」「ようやく姿を見せたわね…………シスタージル!」
ハニー姉妹や聖龍隊の目の前に姿を現したのは豹の爪(パンサークロー)の大幹部であるシスタージルであった。ジルはハニー姉妹や聖龍隊の面々に、不敵に嘲笑いながら言い放った。
「ワハハハハ! 調子はどうだい? キューティーハニー、ミスティーハニーに聖龍隊……おや? 其処に居るのは確か……あ、そうそう、私が昔殺めた探偵、早見勇人の倅か……。キッシッシ、親父の仇を打つ為にわざわざ聖龍隊に入隊したのか? 愚かな事を……」
「何だと……! シスタージル、てめェ……!!」
自分の父である早見勇人を殺めた事を平然と嘲笑しながら語るジルの言動に怒りが溜まって行く早見青児。そんな中、シスタージルは変わらず嘲笑いながら言い放った。
「ハハハハ……! だがそれも此処までよ! お前達! コイツ等を痛めつけろッ!」
『ハハァッ!』
ジルが言い放った瞬間、目の前に大勢の豹の爪の幹部達が姿を現した。
「うわああッ!!」
「ひいぃぃッ! い、いかにも強そうなのがいっぱい出て来たよ~~!」
現れた幹部の怪人たちを見てセーラームーンとヴィーナスは涙目で悲鳴を上げた。
「こ、コイツ等は!?」
ミスティーハニーが驚いているとジルが言った。
「ヒッヒ、コイツ等こそ私が世界中から招集した新パンサー軍団じゃ。今までの借りを全て返してやるぞキューティーハニー、そして聖龍隊……やってしまいなッ!」
その瞬間、新パンサー軍団の幹部怪人たちは一斉に攻撃してきた。
「うわあ~~、来た~~ッ!!」「うわあ~~!」
セーラームーン、ちびムーンが悲鳴を上げる中、仲間達を護ろうとキューティーハニーが単身前に出た。
「は、ハニー!」「姉さんッ」
青児、ミスティーハニーが前に出るキューティーハニーに向かって声を上げる。だがハニーは徐にフルーレを構え、そして声を上げた。
「ハニー・ヴァージナル・インビテイション!」
するとハニーが構えているシルバーフルーレが光だし、そしてエネルギーがフルーレに収束しⅤの文字の形状が放たれたのだった。
『ウ、ウギャアアアァァァ!!』
フルーレから放たれたⅤの字のエネルギーの塊が複数の幹部達に直撃し、幹部達は断末魔を上げながら消滅してしまった。
「う、うわぁ……」「す、すっごぉい……」
ハニーの必殺技を見て、大口を開けて驚くセーラームーンとちびムーン。
「す、凄い……!」「やるじゃない、キューティーハニーも」
同じくハニーの必殺技を目の当りにして驚くウラヌスに感心するネプチューン。そんな驚いている皆に、ミスティーハニーが言い放つ。
「み、みんな! 今が好機よッ、一気に攻めるわよ!」
そう皆に云った瞬間、ミスティーハニーも姉のキューティーハニーに続き敵勢に突っ走って行った。
「わ、私達も遅れず行きましょう!」「ええ!」
ミスティーハニーに続き、マーズとマーキュリーも攻めに行く。
「よしっ、俺も行ってやる……! シスタージル……今日こそは親父の仇、取らせてもらう……!!」
そして父親を殺され怒りに震える早見青児も、拳銃を手に構えて敵勢に乗り込んで行った。
「せ、青児! ……クッ、仕方がねえな……」
駆け出しでいく早見青児を見て、タキシード仮面も渋々青児の後をついて行った。
「あ、まもちゃん! うわ~~待ってよ~~」
半泣きしながらも、セーラームーンもタキシードに続く。
「あ、うさぎ! しょうがないなあ……私も行こう」
ちびムーンも半ば呆れ果てながら、半泣きするセーラームーンに付いて行こうとする。
「あ、リトルレディー……私も付いていきます」
「ちびうさちゃん、私も一緒に……」
そんなちびムーンにセーラープルートとサターンも同行しようと声を掛ける。
そしてセーラー戦士達にキューティーハニー組は、共闘で迫りくる幹部怪人たちと戦って行った。
一方その頃――基地の別所ではメタルバードを先導にジュピターキッド、ウォーターフェアリー、木之本桜(きのもとさくら)に李・小狼(り・しゃおらん)、李・苺鈴(り・めいりん)、そしてナースエンジェルに宇崎星夜(うざきせいや)、デューイの面々が基地内部を進行中であった。
「タクッ、修司の奴は何処に行っちまったんだ?」
一人先に芹沢本社に向かってしまって以来、別行動である聖龍使いこと修司の事を気にしていた。
「まさかとは思うけど……黒天狗である芹沢鴨之丞の事を、斬り捨てて無ければ良いんだけど……」
「ま、まさかそんな……」
怒りで爆発寸前の状態で先走って行った聖龍使いが、黒天狗こと芹沢鴨之丞を斬り殺してないか心配するキッド。そして、そんなキッドの発言を横で聞いていたフェアリーの心にも不安が過る。
「しゅ、修司さんも心配だけど、後を追って行ったミラーガールも心配だよ……」
「ああ、二人とも無事で居てくれれば良いんだけど……」
「修司さんは強いから少しは大丈夫だって思えるけど、アッコさんは余り戦闘向きの能力者じゃないから不安だわ……」
さくら、小狼、苺鈴も二人の身を、特にミラーガールこと加賀美あつこの身を案じていた。
「そ、それにしても……酷い……!」
「ああ、銃撃戦だけでなく、彼方此方に斬られたみたいに壁が抉られちまっているぜ」
「おそらく、修司が怒りで暴れ回った時の斬撃痕だろう……下手したら、本当に死人が出るぞ……!」
周りの惨状を見て、不安に満ちる面持ちで語り合うナースエンジェルに星夜、デューイ。
そんな一行が辿りついたのは、機械的な部屋造りになっている工場の様な場所であった。
「こ、此処は……!?」「な、何なんだろうね、此処は……?」
辺りを見回しながら困惑するメタルバード達。
と、その時。彼等の目の前に入って来たのは、広大な部屋の奥で円盤の様な形状の巨大な機械を物静かに見詰めていた黒い和服姿の天狗の面を被った人物であった。
「え? あ、あの人……!」
天狗の面を被る和服姿を見て動揺してしまうナースエンジェル。そしてメタルバードが咄嗟に天狗の面に大声を掛けた。
「おいッ! お前!」「!? お、お前等!!」
天狗の面を被った和服姿の人物は、自分に声を掛けたメタルバード達を見て酷く驚いた。そして慌てる素振りでメタルバード達に訊ねた。
「お前達、よくぞ此処まで辿りつけたな……! しかし、これ以上お前等の好きにはさせんぞッ!」
「あ、貴方は……!?」「だ、誰なの?」
「み、見て解るだろッ。天狗の面を被っている以上、どうみても黒天狗党の一員だ!」
天狗面の男を見て驚きつつ困惑してしまうナースエンジェルとさくら。だがそんなさくらに小狼が言い放つと天狗面の男は威風堂々とした態度で名乗り出した。
「如何にもっ、私こそ黒天狗党の会長であり全ての天狗達の上に立つ黒天狗である! 君たちとは初めて顔を合わせるな、確か……白衣の天女、ナースエンジェルは森谷りりかと云う少女だったな」
「あ、あなた! 何故、それを……!?」
自分の本名を言い当てた黒天狗の言葉に驚愕するナースエンジェルであったが黒天狗は変わらぬ態度で更に言った。
「確か君は……そう、其処に居る宇崎星夜君と同じ私立白鳩学園の生徒じゃったな」
「な、なにッ?」
驚く星夜、更に。
「そして君等の傍らに居るのは……元敵のデューイに木之本桜、中国から来た李・小狼に従妹の苺鈴であったな」
「え!?」「な、なんで俺達の事まで……!」
ナースエンジェル、星夜に続き驚いてしまうさくら達。そんな彼等の驚く表情を見て黒天狗は豪語した。
「わはは、お前達聖龍隊の事など、とっくに知っておるわ。さっき豹の爪の連中が持って帰って来たデータに、少しばかり目を通して置いたからなぁ」
「な、何だと!」
「聖龍隊のメインフロアから持ち逃げされたデータを見たのか……クソッ」
黒天狗の話を聞いて驚くメタルバード、そして顔を歪ませて悔しがるデューイ。そんな聖龍隊を前にして黒天狗は高笑いし出すと不意に悲痛な口調で呟きだした。
「わはははは! しかし、長かった……ホントに長かった……! 今まで散々、色々と悪事を働いて来たが、ようやく日の目を見る事が出来る……やっと故郷に……」
突如悲痛な口調で呟きだす黒天狗の言動に動揺しかける聖龍隊であったがその時、キッドが唐突に黒天狗に訊ねた。
「おい、黒天狗……!」
「ん……何じゃ? 大地の申し子、ジュピター・キッドよ」
訊き返す黒天狗にキッドは黒天狗を睨みつけながら訊いた。
「お前……自分達が……自分達、黒天狗党が今まで何をしてきたか、解っているのか……ッ! 当初は余り人に危害を加えない良心的な面が目立っていたのに……選りにも選って、あの豹の爪と結託して大勢の罪もない人達を傷つけて来た……!! 遂さっき、からくり天狗や豹の爪の怪人等の手によって聖チャペル学園も跡形もなく爆破され、その前からもアニメタウン内で多くの悪質な犯罪に手を染め……そして何より! 此処に居るウォーター・フェアリー、いや! アプリコットの故郷フォンテーランドは、豹の爪の怪人の手によって危うく国が支配されかけたんだぞッ!? そしてその怪人の手によって彼女の…………アプリコットの大切な人が殺されたんだ!! 分かってるのか、黒天狗!!」
「き……キッド…………」
自分の故郷が危機的状況に追い込まれた事、そして自分の想い合っていた友が殺された事を、まるで自分の事のように熱く語ってくれるジュピターキッドの言動に、当の本人であるウォーター・フェアリーことアプリコットは深く痛感した。
そしてキッドの話を聞いた黒天狗は毅然とした態度で言い返した。
「……フ、確かに。ワシ等、黒天狗党はシスタージルやパンサーゾラの指示の下、非道な行いの数々に手を染めて来た。其処に居るアプリコット姫の王国を支配下に納めようとしたのも、その友を殺めたのも豹の爪が勝手に行った事ではあるが……異次元亜空間ゲートを創ったり奴等に協力してやったのは紛れもなく我々黒天狗党だ……」
「…………」
黒天狗の話を険しい顔付きで、無言で聴き入れるキッド。だが次の瞬間、黒天狗はそんなキッドやフェアリー、そしてメタルバード達聖龍隊に向かって吐き捨てた。
「……しかし! それが何だと云うのだ……! 確かに黒天狗党は実質的に豹の爪に支配下に置かれてしまってはいるし様々な犯罪にも協力させられてしまっている。だが! そのお陰も有ってワシは、ようやく長年夢見てきた夢を実現できるのだ! 多少の犠牲など最早どうでも良いわッ!」
「な! 何だと……!!」
悪びれた様子も見せず黒天狗が吐き捨てた台詞に怒りを覚えるキッド。そして黒天狗は徐に、腰に携えていた六角の形状をしている金属を手に取った。
「!? な、なあ……あの道具」「え、ええ……何処かで……」
黒天狗が手に取った道具を見て軽く驚く小狼が苺鈴に訊ねると、苺鈴も黒天狗の手に握られた者を見て驚いていた。
「お、おい……アレ……」
「あ、ああ……似てる。花丘イサミの龍の剣に似てるよ……」
同じく星夜、デューイも黒天狗の持っている物に驚いた。何故なら、それは花丘イサミが使用しているルミノタイトを組み込まれた武器「龍の剣」と、とても良く似ていたからであった。
その時、黒天狗が六角形の道具を両手でしっかり構えると突然、金属から光のサーベルが突出した。
「あ、アレは……!」
「間違いない……! イサミの所持している龍の剣と全く同じ武器だ」
黒天狗の所持する武器を見て偉く動揺するウォーターフェアリーとジュピターキッド。
そして黒天狗は手にした剣を聖龍隊に向けて、身構えた状態で言葉を発した。
「ふふふ……もうワシには黒天狗党など、どうでも良いのじゃ。もうすぐ……もうすぐ、ワシの望郷の念が叶うのじゃ……! それを……それを、お前達に邪魔されてたまるかッ!!」
次の瞬間、黒天狗はビームサーベル状の武器を手にしてメタルバード達に敵意を曝け出して来たのだった。
「く、ヤル気なのか、爺さん。僕達はアンタが既に芹沢鴨之丞だって事も知っているし、会社の周りには既に大勢の警官隊が配置されている。もう逃げ場なんて無いんだ、大人しく観念しなよッ」
「喧しい! 此処まで来て、大人しくしていられるかッ! あと少し……あと少しで、ワシの夢が叶うのじゃ……それを、お前達に阻まれてたまるかッ!! そりゃーーッ!」
大人しく投降しろと黒天狗に告げるデューイであるが、黒天狗は様子を変える事無く、激しくデューイに言い返し、そのまま向かって来たのであった。
「チッ、やはり素直に大人しくしてくれねえか……仕方ねえ、おい、お前等! こっちも戦闘開始だ! 聖龍使いや花丘魁博士の探索は一旦置いといて今はまず、この黒天狗を大人しくさせろッ」
メタルバードはそう皆に命じ、そして仲間共々戦闘に入った。
[迫る武人と聖女の言葉]
その頃、高木はるか率いる瑠美乃一族の忍衆は秘密基地内部に着々と進入していってた。目的はただ一つ、囚われの身に成っている花丘イサミの父、花丘魁博士の保護。
「急がないと……聖龍使いが先を進んで敵の動きも活発化して来ちゃってる。お兄ちゃんの身に何かなければ良いんだけど……」
聖龍使いの侵攻に伴い、活発化して行く敵勢力の動きを見て高木はるかは自分が兄と慕っているイサミの父、魁博士の身の安否を気にかけていた。
と、その時であった。進行していた瑠美乃忍衆の目の前に、一人の少年を連れて駆け出している、あのからくり天狗の姿が視界に入って来た。
「ん! あ、アレは……からくり天狗!?」「ム、お主たちは!?」
はるか達忍者衆とからくり天狗は双方に気付き、そして互いに睨み合った。そして、からくり天狗の傍らに居たのは、あの人間の方のからくり天狗、東上別府鷹丸の甥である菊丸であった。はるかは菊丸を見て一言からくり天狗に言い放った。
「か、からくり天狗! 貴方、その子は一体……!? だ、誰なの、その子?」
しかし訊かれたからくり天狗は態度を変えずに、はるか達に敵意を剥き出しにした。
「う、ウルサイ! お前達こそ……良くも我らが本拠地、芹沢グループ本社に攻めて来てくれたなッ! せめて拙者の身一つ犠牲にしても菊丸様は御守り致しますぞ!!」
「か、からくり天狗……!」
腰に下げている日本刀を手に取り、身構えるからくり天狗を見て、傍らの菊丸は悲痛な面持ちになった。そんな菊丸の悲痛な表情を見て、高木はるかは菊丸には何か訳有りなのだなと感じ取った。
「覚悟ーーッ!」「ッ、来る!」
迫り来たからくり天狗に、咄嗟にはるかが腰に差している脇差を構えた、その時。
「な、なんだ!?」「え? な、なに?」
突如、スグ側の壁が土煙を上げながら大破され、からくり天狗も高木はるかも、そして他の瑠美乃忍衆も菊丸も顔色を一変させて驚いていると壊れた壁の向こう側から人影が一人出て来たのだった。
「ナッ? あ、アレは……!」「……あ!」
出てきたその人物を見て、からくり天狗は大層驚き、そして高木はるかは胸を撫で下ろして安堵の色を顔に浮かべた。
舞い上がる硝煙の中から出てきたのは――――あの聖龍使いであった。
「聖龍使い! 無事だったのね」
一人先走って行ってしまった聖龍使いを見て安堵したはるかは聖龍使いに駆け寄り声を掛けた。すると聖龍使いも呟くように返事をした。
「……はるかか。ああ、拙者は大事無い……そなた等の方も無事で良かった」
はるかに呟き返した聖龍使いは、次に彼女達と対峙していたからくり天狗に視線を向けた。
「!!」「ひっ、か、からくり天狗……」
聖龍使いの鋭い眼光を見て、只ならぬ気配を感じて驚愕するからくり天狗と怯えてしまう菊丸。そんな二人を目で捉えた聖龍使いは徐に聖龍剣を抜き取り、切っ先をからくり天狗に向けて攻撃する意志を見せつけた。
「くっ……き、菊丸様……此処は拙者が時を稼いでおります故に、菊丸様は御先に」
「そ、そんな……! い、いやだ……僕を一人にしないで、からくり天狗……」
「我儘を言わないで下され……! 彼方様に何か遭ったら高丸様に申し訳ありません……!」
殺気溢れる聖龍使いに警戒したからくり天狗は聖龍使いと向かい合ったまま菊丸に逃げ出すよう促すが、当の菊丸は一人で逃げる事を躊躇っていた。そんな菊丸にからくり天狗は菊丸の叔父である東上別府高丸に申し訳ないと云い、何とか一人でこの場から逃げ去るよう促し続ける。
「だ、だけど……」「菊丸様!!」
言われ続けても尚、逃げ去ることを躊躇ってしまう菊丸に、からくり天狗は強めの口調で厳しく怒鳴りつけた。怒鳴られた菊丸は、ようやく一人その場から走り去って行った。
「あ、待って! 君は一体……」
高木はるかが駆け出す菊丸を呼び止めようとするが菊丸は立ち止まらずそのまま行ってしまった。
「み、みんな! あの子もどうやら黒天狗党と何らかの関係が有るみたい……後を追うわよッ」
『ははぁ!』
高木はるかは部下の忍たちに指示を出すと菊丸の後を追おうとした。
「待て! 菊丸様は追わせんぞッ!」
しかし菊丸の後を追おうとするはるか達の前にからくり天狗が立ちはだかった。
だがその時「行けッ、はるか!」聖龍使いが咄嗟にからくり天狗に刀を振りかざし、からくり天狗がそれを刀で受け止め、双方動きが止まった。
「せ、聖龍使い!」
「ワシは大丈夫……! お主等は今あの子を追うのじゃ、早く……!!」
からくり天狗と組み合い、刀で押し合う聖龍使いの言葉を聞いた高木はるかは聖龍使いに小さく頷き、走り去って行った菊丸を追跡して行った。
ちょうどその頃、ミラーガールのバリアーによって大破したレーザー兵器の傍らでは。
天狗ポリスの黒鴉に部下の鴉天狗達の手によって彼等が痺れさせた黒天狗党のカラス天狗達と、命からがら兵器から飛び降りたゴールデン天狗とからくり天狗を縄で捕縛していた。
その様子を側でイサミ、トシ、ソウシ。それにレーザー兵器を大破させた本人であるミラーガール。そしてその傍らでは自分を庇ってくれた為に怪我を負った銀天狗の肩の傷を見詰める鎧天狗の二人が居た。
「おいッ、立たんかコノッ」
「くっ、そんな縛らないでくれ……痛いじゃないか」
「黙れ! 良くも今まで、我等天狗族の名を騙って悪事を働いてくれたな……!」
「ひ、ひぃ~~。まさか、本物の天狗なんて、この世に居たなんて……」
身体を縄で巻かれ捕縛されつつあるゴールデン天狗とからくり天狗の二人は、本物の天狗である黒鴉の部下である鴉天狗達にコっ酷く絞られていた。
「い、いや~~……まさか、本当に本物の天狗なんて居たんだなぁ」
「う、うん……それも、あんなに強いなんて……」
「お、恐るべし……! 天狗ポリス……」
黒天狗党の者達を縛り付けて行く黒鴉やカラス天狗達を見て、改めて彼等の力量と、正真正銘の本物の妖怪がこの世に実在した事実を知ったのだった。
そんな三人を脇目に、ミラーガールは自らが発動させたミラーシールドで大破したレーザー兵器の傍らで立ち尽くしていると、彼女に黒鴉が歩み寄って来た。
「ミラーガール殿」「え……あ、黒鴉さん」
声を掛けて来た黒鴉に、目を丸くさせながら顔を向けるミラーガール。黒鴉はミラーガールのそんな唖然とした表情、特に彼女の目を見詰めながら話し出した。
「ありがとうございます。お陰で私の部下達はもちろん、あの子達も無事でした」
黒鴉はイサミ達三人と、イサミの祖父の観柳斉に視線を向けた。
「いやあ、それにしても……お噂は前々から耳にしていましたが、まさかこれ程とは……! 大したものです」
「い、いえ……そんな……」
大破したレーザー兵器を見ながら称賛する黒鴉の言葉に謙遜するミラーガール。
「いえ、そんな謙遜する事は無いですよ。現に…………」「……?」
話している最中にも拘わらず、突如黙り込んでしまう黒鴉にキョトンとしてしまうミラーガール。彼女はそんな黒鴉に声を掛けた。
「……あ、あの……く、黒鴉、さん……?」
「……ハッ、い、いえ……ど、どうも済みません。遂、ぼぉっとしてしまって……」
「…………」
自分の顔を見ていた黒鴉が、突然何かに魅入る様に呆然としてしまう現状を目の当りにして不思議に思うミラーガールであった。
と、その時。彼女の視界に心配そうに銀天狗の肩の傷を見詰める鎧天狗と、肩の傷を押さえる銀天狗の二人の姿が入った。
「あ……済みません、黒鴉さん。ちょっと失礼します」
「あ、はい……」
ミラーガールは黒鴉との会話を中断して、銀天狗と鎧天狗の二人の所に駆けて行った。
この時、ミラーガールと向き合い話し合っていた黒鴉は人知れず彼女の事で思い更けていた。
(あの子の目、なんて綺麗な瞳なのだろうか……まるで汚れなど微塵もない、鏡の様な瞳……あのような瞳に見詰められたり、見詰めてしまったら思わず惹き込まれそうな感覚に陥ってしまう……汚れなき瞳。修司殿が抱え込む、闇の様な心とは違う……そう、対なる感覚ではあるが……何かを魅入られてしまう、そんな瞳だ。修司殿はいつも、あのような瞳を持つ少女が傍らに付き添ってくれているのだろうか……)
一方のミラーガールは、怪我をしている銀天狗と、彼の傍らに居る鎧天狗、二人の天狗に駆け寄っていた。
「……ん、なんだ、お前」
駆け寄って来たミラーガールに男声で声を掛ける鎧天狗に対して、ミラーガールは毅然とした態度で答えた。
「だ、大丈夫です、何もしません……ただ、少しだけ銀天狗さんの怪我を任せてもらえませんか?」
「え?」
「な、何を言ってるんだ! 敵であるお前に怪我を任せろと? フザケルなッ!」
ミラーガールの発言に対し驚き動揺する銀天狗に対し、鎧天狗は敵対している聖龍隊の一人であるミラーガールの言動に反発する意志を見せた。しかしミラーガールはそんな鎧天狗を尻目に、ミラーシールドを前に突き出す形で
身構え、呪文を唱えた。
「ミラー・ヒーリング・フラッシュ」
すると前に突き出された鏡の盾から青い光が放出され、鎧天狗と銀天狗に光が浴びせられた。
「う、うわッ」「な、何だ?」
青い光に驚き、思わず顔を腕で隠してしまう二人。そして光が治まり、二人がそぉっと目を開けてみると……何と自分達の体の傷が綺麗さっぱり消えていたのであった。
「ぎ、銀天狗! 体中の傷が……お、お前の肩の傷まで消えているぞ……!」
「よ、鎧天狗……君の体の傷も、消えている……!」
自分達の傷が消えている事に驚愕する鎧と銀に、ミラーガールは微笑みながら口を開いた。
「もう大丈夫ですね。銀天狗さんの肩の傷も治っていますし……」
「あ、ああ……あ、ありがとう、ミラーガール……」
驚きつつも怪我を治してくれたミラーガールに礼を述べる銀天狗。しかし彼とは対照的に鎧天狗はミラーガールの行動に疑問を感じ、彼女に訊き放った。
「お、おいっ、ミラーガール……何故、私達の怪我を……」
これに対しミラーガールは笑顔で平然と答えた。
「何故って……怪我してる人は治してあげるのが当然でしょ?」
「「……!」」
このミラーガールの言葉に、返す言葉の無い鎧天狗と銀天狗。
「それに……何だか放っておけなくて。銀天狗さん、さっき必死になって鎧天狗さんの事を護ろうとしていたから……」
「え……?」
ミラーガールの言葉に内心静かに驚く二人に、ミラーガールは神妙な面持ちで語り出した。
「銀天狗さんは本当に鎧天狗さんの事を、心の底から護ってあげたいんだなぁって……そう感じたんです。大切な人を護り抜きたい、そんな銀天狗さんの必死な想いが伝わりました……」
「み、ミラーガール……あなた……!」
ミラーガールの慈愛に満ちた言葉と態度に思わず感極まる鎧天狗であったが、もう一人の銀天狗はミラーガールの瞳に思わず魅入ってしまい、そして突然錯乱してしまった。
「うわあーーーーッ!」
「え!?」「ど、どうした!? 銀天狗?」
突然叫び出す銀天狗に驚くミラーガールに動揺してしまう鎧天狗。すると銀天狗は自分の頭を抱え蹲り、叫喚し出した。
「み、見るな……! 見ないでくれェッ!」
「ど、どうしたんだ、銀天狗!?」「!? ……?」
様子の一変した銀天狗に混乱してしまう鎧天狗にミラーガール、そして周りの皆。そして銀天狗は静かに語り出したのであった。
「み、見ないでくれ……ミラーガール……! そんな……そんな眼で私を見ないでくれ……!!」
「え……!?」
銀天狗の発言に驚き、内心困惑するミラーガール。銀天狗は顔を下に向けたまま語り続けた。
「君の眼は……君の瞳は、余りにも綺麗過ぎる……! 君の、その綺麗な瞳に映り込む私自身を見ていると……とても心が苦しくなる……! とても、悲しく……虚しいんだ……!」
「ぎ、銀天狗……?」「銀天狗、さん……」『…………』『…………』
悲痛な声で語る銀天狗の話に理解できずにいる鎧天狗に、困惑と悲痛な気持ちが混ざり合う複雑な心境に陥ってしまうミラーガール。そして思わず言葉を失くしてしまうイサミたち新撰組と観柳斉、そして黒鴉と彼率いる天狗ポリスに彼等に捕われてしまっているゴールデン天狗とからくり天狗も、思わず銀天狗の言葉に耳を傾ける。
「ミラーガール……君の瞳に映り込む私は……余りにも汚れてしまっている……! いくら豹の爪(パンサークロー)の命令だったとはいえ……いくら、大恩ある黒天狗様の為とはいえ、様々な悪事に手を染めてしまった私の姿を視るのは……鏡の様な瞳に映る自分を直視するのは……余りにも胸が痛い……!!」
「銀天狗……」「…………」
ミラーガールの瞳に映り込んだ、多くの罪を犯して来た自分の姿を見て銀天狗は、今まで自分達が犯して来た罪への罪悪感に苛まれ、今まで感じたことのない悲痛感に襲われたのであった。
そんな銀天狗を見て、鎧天狗は悲痛な想いに駆られ、ミラーガールは自分の瞳に映った自分を見て悲しみに暮れる銀天狗の言動に複雑な心境に立っていた。
その時、複雑な心境に駆られていたミラーガールは徐に歩き出し、悲痛な想いに駆られる銀天狗に歩み寄り声を掛けた。
「……銀天狗さん」「……み、ミラーガール」
声を掛けられた銀天狗は顔を上げミラーガールの顔を見た。ミラーガールは慈愛に満ち溢れた、優しい微笑みで銀天狗に語り出した。
「銀天狗さん、顔を上げて下さい……そんなに自分を責めないで」
「み、ミラーガール……」
「銀天狗さん……貴方は自分達がしてしきた事が間違いで有ったと理解してくれて、私は本当に嬉しいです」
「…………」
「私の瞳に映る、罪を犯してしまった自分を見て罪悪感に駆られる貴方は……とても立派だと思います。自分の過ちを認め、そしてその過ちを後悔する……自分の罪を心から悔いる事のできる貴方は立派です」
「ミラーガール…………」
「銀天狗さん、本当に今までの事を悔いているなら……これからを正しく、そして真っ直ぐに生きてくれれば、私はそれで満足です。だから、そんなに悲しまないで下さい」
「み、ミラーガール……君は……」
慈愛に満ちた微笑みと、母性を感じさせるオーラを放ちながら自分に優しく語りかけてくれるミラーガールの言葉に、銀天狗は感極まり思わず天狗の面、その目の穴部分から一粒の涙を零した。
そしてミラーガールは俯く銀天狗に手を差し伸べて告げる。
「ほら、立ってください。私には解っています……貴方が本当は、とても心優しい人だって事は。その優しさを忘れず、これからは過ちを繰り返さない様に踏ん張ってくれていれば、それで良いんです。まずは立ち上がって、しっかりと前を向いてください」
「ミラーガール……う、うぅ……」
涙をポロポロと流しながら、銀天狗はミラーガールの手を取り、立ち上がった。
「ミラーガール……」
「くっ、泣けてくるぜ……」
「そ、そうだね……グスッ」
ミラーガールの温もり溢れる言葉を聞いて、思わず涙ぐんでしまうイサミ・トシ・ソウシ達。
「うむ、うむ……立派じゃ。ミラーガールも、己の間違いに気付いた銀天狗も立派じゃ……うぅ、年甲斐もなく涙が……」
孫のイサミ達同様に、ミラーガールの言葉に感動した観柳斉も、自然と目から涙が溢れ出て来た。
「ミラーガール……」
そして、ミラーガールの話を銀天狗の傍らで聴いていた鎧天狗も人知れず己の心を震わせていた。
「お、おおぉ……! こ、これが……これが、ミラーガール殿の御心遣いなのか……!」
慈愛に満ちた寛大なるミラーガールの言の葉を聞いて、黒鴉は感動の余り身体を震わせていた。
『…………』「「………………」」
そして黒鴉の傍らに立ち尽くしている天狗ポリスの鴉天狗達も、彼等に捕縛され鎮座しているゴールデン天狗とからくり天狗も――ミラーガールの言葉に、只々感心し言葉を失くしてしまっていた。
[子に必要な事]
皆がミラーガールの言葉に感極まっている、そんな時、一人の少年がその場に駆けつけて来た。
「お……オジ様ーー……!」「そ、その声は菊丸か!?」
駆け付けて来たのは、からくり天狗こと東上別府鷹丸の甥である、東上別府菊丸であった。鷹丸は自分の所に駆けてくる菊丸に気付き驚いた。
「お、オジ様ーー」「菊丸……! 菊丸ーーッ!」
菊丸がオジの高丸に駆け寄ろうとするが、高丸ことからくり天狗とゴールデン天狗を捕縛していた鴉天狗達が菊丸に気付き、彼の行く手を遮ったのだ。
「な、何だ、この子は?」
「こ、こらボウズ。近づくんじゃない」
「は、放せ、放せ! お、お前達は誰に就いているカラス天狗なのだ?」
からくり天狗に近づこうとする菊丸を取り押える鴉天狗に対し、菊丸は彼等も黒天狗党のカラス天狗だと勘違いしていた。
「ま、待ってくれ天狗ポリス! 菊丸だけは……菊丸にだけは何もしないでくれッ」
天狗ポリスに取り押さえられる菊丸を見て、からくり天狗こと東上別府鷹丸は必死に天狗ポリスに頼み込む。
「あ、あの子……!」「た、確か前にも……」
「と、東上別府さんの知り合いだったのかな……?」
菊丸と面識があったイサミ・トシ・ソウシの三人は東上別府高丸に駆け寄る菊丸を見て知人関係だったのかと思い始める。
更にその時「あっ! 此処に居たのね、ボウヤ」菊丸に続き、今度は高木はるか率いる瑠美乃一族の忍衆が駆け付けて来たのだった。
「あ! 高木先生!」
「い、イサミちゃん! それにトシ君にソウシ君も……みんな無事みたいね」
(な、何じゃ? この派手な格好の娘さんは……?)
はるかを見て彼女の生徒でもあるイサミが名を呼ぶと、三人の顔を見たはるかは安堵の表情を浮かべてホッとした。だがくノ一装束のはるかを初めて見た観柳斉は一時困惑してしまった。
そんな中、菊丸は自分を取り押える鴉天狗達に文句を吐きながら暴れ回っていた。
「放せ、放せーーッ おじ様を放せーー!」
「くっ……ウルサイ小僧だな」
おじである高丸と自分を放す様に叫ぶ菊丸であったが、鴉天狗達は必死に暴れる菊丸を押さえていた。
「き、菊丸……頼むッ、菊丸だけは放してくれ……! ワシは……ワシはどうなっても良いから、菊丸だけは放しておくれぇ……!」
悲痛な涙声で鴉天狗達に頼み込むからくり天狗こと東上別府鷹丸。だがその時、からくり天狗の恰好をしていた東上別府鷹丸を見て、はるかが声を上げた。
「え! な、なんでからくり天狗が此処に居る訳なの? さっきまで聖龍使いと取っ組み合っていた筈なのに……!?」
「えっ? は、はるかさん! 聖龍使いは無事なんですか?」
「え、ええ……さっき、其処の子供……菊丸くんに訳を訊こうとしたら、何故か其処に居るからくり天狗と一緒に居てね。そのからくり天狗は菊丸くんに逃げる様に告げて先にあの子を逃がしたのよ。それで後を追おうとしたら菊丸くんと一緒に居たからくり天狗が行く手を阻んで、その時聖龍使いが間に入って私達に菊丸くんを追って行けって云ってくれて……」
聖龍使いの名を言った高木はるかに少し慌てながら訊ねるミラーガールの質問に、はるかは先ほどの経緯を述べた。
その時、鴉天狗達に取り押さえられる菊丸にイサミ達が歩み寄って声を掛けた。
「き、菊丸くん……?」
「う……あ、い、イサミお姉さん……」
実はこの菊丸、以前目の前の花丘イサミに叱咤された事があり、その時からイサミに対して淡い恋心を抱いていた。
イサミは分厚い眼鏡を掛けてはいたが涙目になっている菊丸に優しく話しかけた。
「き、菊丸くん……やっぱりアナタも天狗党の……。其処のからくり……い、いえ、捕まっている東上別府鷹丸さんとは知り合いなの?」
訊かれた菊丸は素直に答えた。
「う、うん……僕のオジサンなんだよ。グスッ」
「えッ、お、オジサン? た、鷹丸さんには甥が居たのか……!?」
菊丸の言葉に驚くソウシ。菊丸は更に答え伝えた。
「うん……パパとママの居ない僕を引き取って、今まで一緒に生活して来たんだよ……」
「そ、そうだったのか……」
菊丸の話を聞いて唖然としてしまうトシ。そして菊丸は皆の前でオジの鷹丸について語り出した。
「お、オジさんは僕の為に……僕が立派に、一人で生きていける様にと……天狗党の力で世界を征服しようとしてたんだ……。こ、こんな僕の為に……」
涙ながらに語る菊丸の言葉を聞いて、オジである鷹丸が声を荒げて言い放った。
「き、菊丸! 何て事を言うんだ! こ、こんななんて……! お前は……お前は! 私にとってはもう、我が子も同然なのだ! 親が子の為に努めるのは当然だろうがッ!」
「か、からくり天狗……」「お、おじさん……」「…………」
からくり天狗こと鷹丸の言葉に、悲痛な面持ちになる高木はるかに菊丸、ミラーガールであった。
しかし、その台詞を聞いてミラーガールは何を想ったのか、からくり天狗こと鷹丸の方に歩み寄り、鷹丸の顔を真正面から見詰めながら語りかける。
「からくり天狗……いいえ、東上別府鷹丸さんでしたね」
「み、ミラーガール……!」
先ほどまで敵対し、激しい攻防を繰り広げていたミラーガールに見詰められ、激しく動揺してしまう高丸。するとミラーガールは突然、からくり天狗の面を鷲掴みにし半ば強引に剥ぎ取った。
「ウッ!」
面を取られ、驚き声を上げる鷹丸にミラーガールは上から目線で見下ろす様に話し掛けた。
「高丸さん……アナタ、本当に甥っ子である菊丸くんの事を思っていたんですか?」
「え……も、もちろんじゃ! だからこそワシは、今の今まで黒天狗党で頑張って来たんじゃし、時には目的遂行のために手段も選ばず卑怯な行いも出来て来られたんじゃ」
ミラーガールに訊かれた鷹丸は、ハッキリとミラーガールの問いに答えだが。
「……何を言ってるの!!」「ヒぃッ」
突然ミラーガールに怒鳴られ、驚いた鷹丸は身を縮ませてしまった。そんな鷹丸にミラーガールは続けて説教をし始めた。
「菊丸くんに必要なのは世界なんかじゃないでしょ! 菊丸くんはまだ子供なのよ? そんな子に世界なんか渡して菊丸くんが喜ぶとでも思っている訳!?」
「…………」
鷹丸はミラーガールの勢いに押され気味になってしまった。更にミラーガールは続けて
「菊丸君に……子供にとって一番必要なのは何よりも親からの愛情でしょ……! 世界なんて大それたものじゃなく、親からの精一杯の愛情じゃないの?」
「…………」
「子供は……親からの愛情、親の優しい笑顔……そして子供を安心させてあげられる温もり、それだけで充分なほど幸せだって感じられるのよ……!」
更に
「子供を幸せにしてあげれるのは……お金でも無ければ、豪華な家でも無い、まして組織なんて権力でも無いわ! 自分と一緒に過してくれる家族との時間、それが一番なのよ」
「………………」ミラーガールの語りに言葉を失う鷹丸。
「菊丸くんが可哀そうよ……親が居なくても、こんなに自分を思ってくれるオジさんが居てくれるのに、欲しがっても居ない世界を与えてやるって名目でいつも独りぼっちにされて……」
「……!」
「鷹丸さん……! 貴方の甥っ子に……菊丸くんに一番必要なのは世界なんかじゃない! 家族である貴方と一緒に過していられる時間なんです! 私には解ります……菊丸くんの、あの子の瞳を見てれば……」
悲痛な心境で語るミラーガールはふと視線を菊丸に向けると、ミラーガールの視線を追って鷹丸も菊丸を見詰めた。
そして分厚いグルグル眼鏡を掛けている菊丸を見ながらミラーガールは言った。
「菊丸くんの目……眼鏡越しでも凄く伝わってきます。あの子がどんなに寂しい思いをして来たのか……周りにどんな大人が居て、貴方の代わりに世話をして貰っていたとしても……実のオジである貴方と一緒に過していたい。そんな想いが、ひしひしと伝わってきます」
ミラーガールの悲しみに満ちた言葉を聞いて、鷹丸は改めて菊丸の目を集中して見つめてみた。すると、分厚い眼鏡越しの瞳からは確かに伝わって来た……甥の菊丸の、孤独で寂しい想いが、しっかりと感じ取れたのだった。
「き……菊丸!」「お……おじ様……!」
甥の菊丸の本心にようやく気付いた鷹丸は悲痛な声で菊丸の名を叫び、菊丸も思わず眼鏡を外して涙を流しながら、縄で縛られ鎮座している鷹丸に抱き付いた。
「き、菊丸くん……」「良かったなぁ、うん……」
鷹丸に抱き付き号泣する菊丸を見て、釣られて涙目になってしまうイサミとトシ。
「うん、良かった……良かったわね、菊丸くん」
涙を指で拭いながら、高木はるかも泣き付く菊丸を見て感極まった。
この時、ミラーガールは心の中で幸せな気分に浸っていた。
(良かったね菊丸くん……鷹丸さんもこれからは、もっと菊丸くんと話す時間を作ってくださいね。……菊丸くん、根はとっても素直な良い子なんだから)
皆が東上別府鷹丸と甥の菊丸の感動的場面に感極まっている最中――鷹丸同様に縛られ捕えられてしまっているもう一人の天狗四天王ゴールデン天狗も思わず釣られ泣きしていたのだが、そんなゴールデン天狗に黒鴉が睨みを利かせた強面で訊ねた。
「ところで、ゴールデン天狗よ。お前に一つ、訊きたい事があるのだが」
「うっ、う……ッ。な、なんじゃ突然……こんな、お涙頂戴の場面で」
「大事な話なのだ。先ほど、あの派手なコスチュームを着ている高木はるか殿や、新撰組の一人である花丘イサミ殿から聞いたのだが……お前等、イサミ殿の父親ではるか殿と旧知の仲である花丘魁博士なる人物を監禁しているみたいだが……博士は何処に居るのだ? 正直に申してみろ……!」
「ウッ……! そ、それは……」
「私達は妖怪だ、故に人間である貴方方に危害を加えるつもりはないのだが……魁博士の居所を素直に言わないのであれば、致し方ない」
「ッ……!」
黒鴉の尋問に答える事を躊躇ってしまうゴールデン天狗。
「もう既に黒天狗党は壊滅寸前だ。お前と同列である四天王も、仲を違いあった鎧と銀は世界征服には協力などしてくれないだろうし、からくり天狗の方は今目の前で自分の甥っこと和解した事で世界征服など感心しなくなっただろうし、もうお前達の世界征服に賛同してくれる連中は居ない。素直に博士の居場所を吐いて楽になれ」
「むむ………………む、仕方ないか。とほほ」
黒鴉に言い寄られ、遂にゴールデン天狗も観念したのだった。
こうして黒天狗党 四天王達の幕は降ろされたのだった。
[焼き尽す松明丸と底無き闇]
甥である菊丸と改めて心を通わせたからくり天狗こと東上別府鷹丸は、菊丸の育て親である自分に一番大切な事が何なのかを教えてくれたミラーガールに心から感謝し、彼女を始めイサミ達しんせん組や高木はるか率いる瑠美乃一族の忍衆、更に黒鴉率いる天狗ポリスの鴉天狗達に秘密基地の施設を案内して廻っていた。
その集団の中には鴉天狗達に捕縛され身動きのできないゴールデン天狗こと芹沢海運社長も印堂陽が素顔を晒され、更に銀天狗と鎧天狗の二人も同行していた。
「あ、ありがとうございます。と、東上別府鷹丸さん」
「いや、そんな堅苦しく呼ばなくても良い。私の事は鷹丸と気軽に呼んで下され。それに礼を言うのは私の方だ……君に言われるまで、私は菊丸にとって一番の幸せが何なのか全く気付かなかったのだからな」
「た、鷹丸さん……」
通路を走りながら礼を述べるミラーガールに、素顔を明らかにしている鷹丸は優しさ溢れる笑顔でミラーガールに礼を返すのだった。そんな鷹丸の言葉と笑顔にミラーガールは心から喜んだ。
そして一行は菊丸の言伝で、聖龍使いとからくり天狗が組み合った所に辿りついた。しかし其処に、からくり天狗と聖龍使いの姿は無かった。
「せ、聖龍使い……」「ど、何処に行っちゃったの……?」
既に姿を消していた聖龍使いの安否を気にし、高木はるかにミラーガールの心中は不安に満ちた。
「で、でも驚いたわ……」
「あ、ああ……まさか、からくり天狗が二人いたなんて……」
目を丸くして顔を向き合わせるイサミとトシ。そんな二人に菊丸が告げる。
「う、うん。もう一人のからくり天狗は、以前に芹沢事業の開発で海の底から発見された130年前のからくり人形なんだ。どうやら昔、当時の新撰組発明係つまりイサミお姉ちゃん達の御先祖たちに倒されて海に沈んだ黒天狗党の所持していた人造人間なんだ。最初は正真正銘の機械みたいだったんだけど、前にオジちゃんの影武者でイサミお姉ちゃんの前に立ち塞がった時、龍の剣に斬られてからは不思議と人間の様な感情が芽生えて今まで僕の相手をしてくれていたんだよ」
「なるほど、影武者か……。そう云えば僕達と鷹丸さんが一緒の時に何度か、からくり天狗が出没していた時があったけど、それは全部からくり人形の方だった訳か」
菊丸の話を聞いて納得するソウシ。更にイサミが和解したという事で素顔を曝した銀天狗こと田能久健に話しかけた。
と、その時。遠くの方から激しい爆音が鳴り響いて来た。
「なっ、何なの?」「い、行ってみるぞッ」
爆音に思わず驚くイサミに続き、威勢良く皆に告げる祖父の観柳斉。そして皆は爆音の聞こえてきた方へ向かったのだが
「……オイ、ゴールデン天狗。いや、印堂陽」
「ヒッ、な、何でしょうか……」
思わず背筋が凍り付くほどの眼光で黒鴉に訊ねられる印堂陽は、黒鴉に怯えながらも訊き返した。すると
「ちょっとウチの鴉天狗達数人と一緒に別行動を取ってくれないか? お前に教えて貰わなきゃイケない事があるんでね」
「ッ……!?」
鋭い眼光で訊かれる印堂陽は何も言い返せず、黒鴉の指示通りに数人の鴉天狗達と途中で分かれて行動した。
そして皆は爆音の聞こえる現場に駆け付けてきたが、其処は炎と煙が激しく舞い上がる戦場であった。
「な、何コレッ!?」現場の惨状に目を疑うイサミ。
すると激しい爆音がする方角に目を向けると、其処にはミラーガールやイサミ達と同じ聖龍隊の同士であるミスティーハニー、早見青児、そしてセーラー戦士達の姿があった。
「あ! みんなぁ!」
「え? み、ミラーガール! それに、他のみんなも……!」
「みんな、無事だったのね。良かった」
ミラーガールが声を上げながら駆け寄ると、彼女やイサミ達の姿を見てマーズとマーキュリーが安堵の表情を浮かべた。
「み、みんな! これは一体……」
不安げな表情でイサミが訊ねると早見青児が答えた。
「見て解るだろ、連中も躍起になって俺等を攻撃して来てんだよ……! い、今タキシード仮面やセーラー戦士達、それにミスティーハニーが戦っているんだが……なにしろ敵の数が多くて、対処しきれないんだ」
苦悶の表情を浮かべながら告げる早見青児の言葉を聞いて、黒鴉が青児に話しかけた。
「あ、あの、青児殿」「ん、なんだ、黒鴉?」
「宜しければ、我々天狗ポリスも力を貸しましょうぞ。何より、此処にはちょうど豹の爪の幹部達しか居らず普通の人間が居りませんし、十二分に私達の力を発揮できますしな」
「ほ、本当か? それは助かる……! 頼む黒鴉、みんなを助けてくれッ」
「承知しました……おい、お前達! 松明丸(たいまつまる)で奴等を焼き尽くしてやれ!!」
『ははァッ!』
黒鴉が部下の鴉天狗達に命じると、黒鴉と鴉天狗達は両手の指を組み印の字を切ってみせた。すると黒鴉達の上方に、燃え盛る巨大な藁の鳥が多数出現した。
「ぎゃ、ぎゃああっ!!!」「きゃああ! な、何アレ!?」
巨大な藁の鳥を見て、セーラームーンとイサミが声を上げて驚いてしまう。そして彼女達と同じく、激しい炎に包まれる巨大な鳥に驚愕する早見青児が黒鴉に訊ねる。
「お、おいアンタ! あ、あのメラメラ燃える鳥みたいなのは何なんだ!?」
目を丸くして訊ねてくる青児に対し、黒鴉は平然と答えた。
「ああ、あれは私達天狗一族に伝わる使い魔の一種で、松明丸と云うのです。激しい炎で周りのものを全て焼き尽す業火を身に纏っているのです」
青児に説明した黒鴉は、次に部下の鴉天狗達に命令を下した。
「よしお前達! 松明丸で豹の爪(パンサークロー)の怪人共を焼き尽くすのだッ!」
『ははっ!』
そして黒鴉を筆頭に、天狗ポリスの面々は自分達の使い魔である松明丸で豹の爪の怪人たちを次々に焼失していった。
「ウギャーーッ!!」「グワーーッ!!」
松明丸の発する業火に焼かれ、怪人達は断末魔を上げながら消滅していった。
「わ、わぁ……」「あ、あっと言う間に……」
「燃えて行くわね……」「れ、レイちゃんの技より凄いかも……」
松明丸の業火の凄さに呆気に取られてしまうセーラー戦士達。
「す、スゲぇ……」
「お、恐るべし……天狗ポリス、それに松明丸……」
松明丸を操り敵を一掃してしまう黒鴉や天狗ポリスを見て、口を開けて驚いてしまうトシとソウシ。
その時、ミスティーハニーがハッと気付いて声を上げる。
「…………はっ、そ、そうだ……! み、みんな! 早く先を行きましょう。ミラーガール達が此処に来る前に姉さんが……キューティーハニーが一足先に基地の奥に向かって行ったの! 急がないと姉さんが……!」
ミスティーハニーに続き早見青児も皆に向かって声を上げる。
「ああ、そうだな……。みんな、早く行こう」
こうしてミスティーハニーに早見青児、そしてセーラー戦士組は――ミラーガール達しんせん組、黒天狗四天王、そして黒鴉率いる天狗ポリスはキューティーハニーが向かった最深部へと足を急がせるのであった。
その頃のキューティーハニーはと云うと、遂に豹の爪の首相パンサーゾラと最終決戦に挑んでいた。ゾラの姿、それは怪しい面立ちの石像であったのだが、人の欲望から生まれたと自負しているだけあって、その力は未知数だった。
ハニーとゾラの闘いは五分と五分の状態で長引いていた。故にパンサーゾラはもちろん、ハニーの方も次第に疲労していた。
焦ったゾラは、その場に駆けつけて来た大幹部である自分の部下シスタージルを体内に取り込み、更に己の力を増幅させてキューティーハニーを倒そうと攻撃を繰り出してくる。
そんな戦況の中、ハニーは思った。今の今まで、共に戦い共に笑い合った聖龍隊の皆。自分が人間で無かったと判明しても尚、自分に心を許してくれた学園のみんな。そんな人達の為に自分ができる最良の策をハニーは実行に移した。
それは自らの身を犠牲にしてまでもゾラを倒そうというハニーの決心だった。
(みんな、今までありがとう……)
心の中で自分を想ってくれている仲間達の事を思いながらハニーは力が増幅したパンサーゾラに向かっていった。
そしてハニーはゾラの間近に接近した瞬間、自らが装着している空中元素固定装置を最大出力で発動させる。
「これで終わりよッ……パンサーゾラ!!」「!?」
次の瞬間、ハニーとゾラの周りに無数の結晶が発生し、それが次第にハニーとゾラの肉体を包んでいった。
「ナッ、コ、コレは……!!」
突然自分の周りに出現する透明な結晶に驚くゾラ。
そして結晶は次第に巨大なダイヤモンドへと変貌し、ダイヤはすっかりハニーとゾラの二人を包み込んだ。
(こ、これは……!!!)
ダイヤモンドに体が封じ込められ身動きが取れず苦しむゾラ。
そんな中、キューティーハニーは薄れゆく意識の中、自分が愛した人達の事を思っていた。
英雄では無く一人の女性として自分を愛してくれた早見青児、最初は豹の爪そして互いの出生による行き違いで争いつつも最後は本当の姉妹以上に絆が強まった葉月聖羅、自分が人間で無かったと知っても尚自分と共に辛い戦いに挑んてくれた聖龍隊の皆、様々な奇跡の力で自分はもちろん妹の聖羅や恋人の青児の危機を幾度となく救ってくれたミラーガール。
そして、いつも自分の殻に自身の心を閉じ込めてしまいながらも、常にハニー達聖龍隊の皆を、まるで自分自身のように気遣ってくれる小田原修司。
そんな掛け替えのない仲間達の顔を思い浮かべながら、ハニーの心臓は次第に弱くなり彼女の意識は段々遠くなっていった。
そんな、時だった。
「とりゃーーーーーーッ!!」
突然その場に聖龍使いが颯爽と現れ、ハニーとゾラが閉じ込められている巨大なダイヤモンドを、なんと聖龍剣を力強く一突きしただけで粉々に砕き散ってしまったのである。
ダイヤは砕かれ、ハニーのみがダイヤの塊から解き放たれ、そして飛び出したハニーはその場に倒れ込む。
「う…………うぅ…………な……何が、起きたの……?」
突如ダイヤから解放されたハニーは、自分の身に何が起きたのかスグに理解できず、ただ戸惑うばかりであった。
そしてハニーが体を起き上がらせて見渡して見ると、聖龍使いが未だに巨大なダイヤモンドの塊に捕われている状態のパンサーゾラを睨みつけていた。
「せ……聖龍、使い……」
ハニーは朦朧とする意識の中、ダイヤモンドの中のゾラを睨み続ける聖龍使い二人のやり取りを視聴した。
「お、お前が……聖龍使い、か……」
「……如何にも。パンサーゾラ、主には済まぬが此処で全てを終わらせて貰おう」
「くく……クハハハハハハ……」
聖龍使いの言葉を聞いた途端、ゾラは聖龍使いの言動を嘲笑うかの如く高笑いを上げた。そして聖龍使いに向かって嘲笑いながら吐き捨てた。
「クク……無駄じゃ聖龍使い、この私を完全に打ち消す事など不可能じゃ。お前が今この私を斬り捨てたとしても、人の欲望がこの世から消えない限り私は死なない。第二第三の私が生まれ、新たな豹の爪(パンサークロー)が出現するだけよ。フハハハ……」
ゾラの不敵な発言に対し、聖龍使いの方は態度を一変させずに予想だにしない言葉をゾラに言い退けた。
「……それがどうした」「!?」
聖龍使いの言葉に動揺するゾラ。そんな中、聖龍使いは続けて言う。
「それがどうしたのだ。また主の様な存在が現れたならワシ等が全力を持って斬り続けるまでじゃ……」
「ば、バカな……! そ、それでは、いくらなんでも……!」
「確かに……人の欲は尽きぬモノ、故に主のように人の欲望から生まれ出る存在は今後も現れる事じゃろうて……しかし! 人の欲望が有るからこそ、夢や理想も同時に有る……悲しき理(ことわり)かも知れぬが、だからこそ人は自分の叶えたい夢や理想を望んでしまうもんじゃ」
「つまり……それは同時に、夢や理想も妾を生み出す欲望と等しく同じ……と、言いたいのか……!」
「……そうじゃ。そしてワシ自身も、こう見えて欲深い外道なのじゃ。お前の様に人の欲望から生まれ出た存在を消し、それと同時に立場の弱いもの、力の無い者達を救って行きたいと強く願ってしまっている……主を生み出した欲望よりも、浅ましくそして其処の知れぬ願望を抱いてしまっているのじゃ」
聖龍使いは徐に聖龍剣を構え、切っ先をダイヤの中のパンサーゾラに向けた。この時ゾラは自分に向けられる聖龍使いの眼差しの奥から、底無しの闇を感じ取り聖龍使いに言い捨てた。
「……クック、聖龍使い。確かに主の闇からは、底の知れぬ願望を感じられるわ……! それも、この私を生み出す並の欲望よりも更に悍(おぞ)ましい、闇から生まれ出る感情……!!」
「………………」
「クックック……闇、闇か……! この世の全てを凌駕(りょうが)してしまう程の闇……! 絶える事のない欲望、決して消える事のない野心。人の最も純粋な感情を、更に超えてしまった人の想い……カ……!」
ゾラは何かを悟ったかのような口調で、最後にこう告げた。
「聖龍使いよ……お前はこの先、このパンサーゾラをも凌ぐ恐怖と野心に満ちた存在に成るだろう……! 世の全ての者から恐れられ、しかし時には全ての者から崇拝される、闇の権化と成るであろう……!! しかし、その末路に在るのは所詮苦痛と絶望に満ちた最後だけじゃ。その時が来るまで、精々人のちっぽけな夢を護る英雄達と共に、過して行くんじゃな……」
ゾラの言葉を全て聴き入れた聖龍使いは、ゾラに対し何も言い返さず無言のまま聖龍剣でダイヤごとゾラを切断した。
ダイヤが切断された瞬間、ダイヤモンドは粉々に弾け飛びダイヤの中に居たゾラも跡形もなく消滅したのであった。
「………………」
砕け散ったダイヤを見て唖然とするキューティーハニーは、同時にパンサーゾラが口にした言葉に気を取られていた。
「並の欲望よりも悍(おぞ)ましい闇から生まれる感情」
「パンサーゾラも凌ぐ恐怖と野心に満ちた存在に何れ成る」
「全ての者から恐れられ、そして崇拝される闇の権化」
ハニーはそんなゾラの発言した、聖龍使いへの闇についての言葉を何度も頭の中で泳がせていた。
そんなキューティーハニーに、聖龍使いが歩み寄って声を掛けた。
「キューティーハニー……」「せ……聖龍使い」
名前を呼ばれるキューティーハニーであったが、先ほど死ぬ覚悟で使った空中元素固定装置による凍結能力、そして数分であったとは云えダイヤモンドに閉じ込められ呼吸も侭成らなかったハニーは、まだ少し頭が朦朧としている状態であった。何より先ほどのゾラの発言に困惑していたハニーは聖龍使いに声を掛けられ、多少動揺してしまってた。
だが、次の瞬間!「ッ!」「! ……せ、聖龍使い……!?」
突然、聖龍使いはハニーを殴りつけ、ハニーの方はそのまま床に仰向けになってしまった。一方の聖龍使いは仰向けになったハニーに馬乗りし、左手でハニーの首を掴み彼女の動きを封じ、右手を高く振りかざしながらハニーに言い放った。
「ハニー……お前、今……今、何をしようとしていた……!」
「……」
「お前今……今、勝手に死のうとしてやがったな……!!」
その瞬間、ハニーの首を掴んでいた聖龍使いの左手に力が入り、自然とハニーの首を絞めつけた。
「う……!」
一瞬、苦痛を感じてしまうハニー。だが聖龍使いの自分の顔を睨みつける眼光を見詰めると、ハニーは有る事に気付いた。
「……何故だ……何故、お前は……お前や、聖龍隊のみんなは、そんな簡単に死のうとする事ができるんだよ……! 大切な人が居るのに……大事に思ってくれる人が側に居るというのに……! なんで簡単に死ぬ事ができるんだよ……ッ!!!」
自分の首を左手で掴み、そして自分の顔に狙いを付けて高々と拳を振り翳す聖龍使いの眼差し。それは悲痛と苦渋に満ちた潤んだ瞳だった。その目を見たハニーは、聖龍使いが心の底から仲間が命を絶つ事を。そして何故、簡単に自分の命を投げ捨てられるのか理解に苦しむ彼の心境を察したのであった。
そして聖龍使いは不意にハニーの上から立ち上がり彼女から離れて行った。
「……せ……聖龍使い……」
不穏な空気を醸し出す聖龍使いに、恐る恐る声を掛けるキューティーハニー。すると聖龍使いは、そんなキューティーハニーに背中越しで言葉を放った。
「……キューティーハニー」「ッ! な、なに……!?」
驚くハニーに、聖龍使いは静かに告げた。
「……お前は死ぬな、断じて死ぬな。お前には、自分を愛してくれる異性や妹、そして掛け替えのない友が居(お)る。それなのに自らの命を投げ捨てる暴挙など、其れがしは認められん……! ワシの様な……周りはもちろん、家族からすらも忌み嫌われている者とは違う……素晴らしい存在なのじゃからな」
「え……」
聖龍使いの発した言葉に内心驚くハニー、そして聖龍使いはハニーにそう告げると再び駆け出し秘密基地の最深部へと足を急がせた。
「せ、聖龍使い……!」
ハニーが声を掛けようとするが、時すでに聖龍使いはその場から走り去ってしまっていた。
「………………」
ハニーは内心とても複雑な心境に包まれていた。
聖龍使いの発した言葉「周りはもちろん、家族からも忌み嫌われている」この言葉にハニーは言い知れぬ動揺を隠しきる事が出来なかった。
[創られたモノとして]
一方その頃、黒鴉率いる天狗ポリスの協力も在ってミラーガールを始めとした聖龍隊は無事に豹の爪の幹部衆を倒しきる事ができていた。
ミラーガール達しんせん組、高木はるか率いる瑠美乃一族――ゴールデン天狗を除いた銀天狗に鎧天狗 からくり天狗こと東上別府鷹丸と甥の菊丸、そして黒鴉が率いる天狗ポリス等と合流を果たしたミスティーハニーと早見青児、そしてセーラー戦士達はそのまま基地の奥へと進んでいた。
「はぁ……ど、何処に行っちゃったのよ、聖龍使いは……」
必死に聖龍使いの姿を探すミラーガールに続き、セーラーネプチューンも言葉を発した。
「そうよね……そ、それに、メタルバードやジュピター・キッド、さくらちゃんやナースエンジェル達も無事かしら……」
ネプチューンに続き、ミスティーハニーと早見青児も深刻な面持ちで言った。
「そ、それに姉さんが……キューティーハニーの安否も気になるわッ。もしかしたらパンサーゾラに苦戦を強いられているのかも……」
「そうかもしれない……急いで向かうぞ……!」
全員が聖龍使いとメタルバード達の行方、そしてキューティーハニーの安否を気にしながら先を進んでいく一行。
そんな時、ミラーガール等と行動を共にしていた、からくり天狗こと東上別府鷹丸の甥である菊丸が咄嗟に立ち止まった。
「あ!」「え、どうしたの、菊丸くん?」
突然立ち止まった菊丸にイサミが訊ねてみると、菊丸は一方向に指を指してイサミに言った。
「あ……か……からくり天狗!」
「え!?」「な、何を言ってるんだ菊丸?」
「か、からくり天狗は此処に居るだろう? 君のオジサン、東上別府高丸さんは」
「ち、違うんだよ。僕が言っているのは、オジサンの方のからくり天狗じゃなく正真正銘のからくり人形の方のからくり天狗だよ、ホラ」
菊丸の発言に驚愕するイサミ・トシ・ソウシの三人。しかし菊丸の指差した方には確かに半壊状態のからくり天狗が横たわっていた。
「あ、ホントだ!」
「こ、これが……130年前、私達の御先祖様達と戦って海の底に沈んだ人造人間……!」
菊丸の指したからくり仕掛けのからくり天狗を見て唖然となるソウシにイサミ。
その時であった。遠くの方から皆を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーーい、お前等ーーッ」「ん、あの声は……」
タキシード仮面が声に気付いて、声のする方向に目を向けるとメタルバードが懸命に走って来ているのが目に入った。
「あ、メタルバード!」
「それにナースエンジェルにさくらちゃん!」
ちびムーンとセーラーサターンは視界に入ったメタルバード、更にメタルバードの後方に居るナースエンジェルと木之本桜そしてその友である宇崎星夜とデューイに李・小狼に李・苺鈴の面々にも気付いた。
「み、みんな! 良かった、無事だったのね」
皆を見て安堵するミラーガールに、メタルバードが言った。
「い、いやよ、それが……さっき黒天狗の爺さんを見かけて一戦やったんだけど、後一歩の所で逃げられちまって……」
「え! く、黒天狗様が……!」
メタルバードの口から出た言葉に驚く銀天狗に続き、デューイも言った。
「ああ、この秘密基地の隠し通路を上手く利用して逃げられてしまったんだ。そ、それにしても……何故、他の天狗の一派がミラーガールや黒鴉達と一緒なんだ……?」
「あ、ああ、これはねデューイさん。話すと長くなるんだけど……」
ミラーガールが話し出そうとしていると、其処に早見青児が割って入った。
「い、今は取りあえず先を急ごう! 聖龍使いとまだ遭遇していないし、何よりキューティーハニーの身が心配だ」
「えっ? キューティーハニーさんが、どうかしたんですか!?」
青児の発言に動揺してしまうさくらが訊ねるとミスティーハニーが答えた。
「キューティーハニーが先に奥に進んで行って……今どうなっているか解らない状況なの……」
姉のキューティーハニーを案じるミスティーハニー、とその時。
「……ん? お、おい……今動かなかったか? この人形」
黒鴉の部下である鴉天狗が横たわっている人形の方のからくり天狗を指差して言った。
「え……ま、まさか……」「…………」
皆が壊れてしまい動かなくなっているからくり天狗に目を向けていると、からくり天狗の指がピクッと動いたのだった。
「う、うわッ」「こ、こ奴、まだ生きているぞ」
動き出したからくり天狗に動揺した鴉天狗達は、即時持っていた棒をからくり天狗に突き構えた。
「ま、待ってよ! からくり天狗はもう壊れかけていて動く事すら侭成らないんだ、これ以上何もしないで!」
「き、菊丸くん……」
突然からくり天狗と鴉天狗達の間に割って入る菊丸を見て驚くミラーガール。
その時である「……き……菊丸……さま……」「! か、からくり天狗?」
半壊し、まともに動けなくなっているからくり天狗が菊丸に話しかけてきた。
「菊丸様……それに……た、鷹丸様……も、申し訳ありません……! せ、聖龍使いを……止められ、ませ、ん……でした……」
半壊状態にも関わらず、自分の主である高丸と菊丸に途切れ途切れの言伝で謝罪を述べるからくり天狗。その言葉を聞いてもう一人のからくり天狗である東上別府鷹丸と菊丸は半壊しているからくり天狗に駆け寄り声を掛ける。
「か、からくり天狗よ! す、済まぬ! 今までワシの代わりに菊丸の世話をしてくれたのにも関わらず、こんな目に遭わせてしまって……!」
「からくり天狗……嫌だよ、しっかりしてよ……」
半壊され機能停止寸前の状態であるからくり天狗に対し、詫びを述べる東上別府鷹丸と、まるで本当の家族を失うかの如く涙を流して悲観する菊丸。そんな二人に人形のからくり天狗は優しい口調で語り出した。
「鷹丸様……菊丸様……そんなに悲しまないで下さい。私は所詮からくり人形……主であり人間である、貴方方の為に身を犠牲にして働くのは当然の事……涙など、流さないで下さい」
「う……ううぅ……」「からくり天狗……」
「私は……私は、本来はこの場に居なかった筈の存在。かつて三人の新撰組の手によって破壊され、冷たい海の底で朽ち果てて行くだけの、壊れ物のからくり人形でした。……しかし、そんな私を偶然にも見つけ出し更には修復して再び黒天狗党に仕えさせてくれた黒天狗様の有難い御慈悲、そして私を快く迎えて下さった黒天狗四天王の皆様方への恩義……この人造人間でしかない私でも、しかりと感じ入りました……!」
人造人間からくり天狗の想いを知った鷹丸と菊丸、そしてミラーガールやメタルバード達は思わず目から涙が滲み出て来た。
その時、メタルバードの体が突然光り出し周りの者達は驚いた。
「え?」「な、何? 急にメタルバードの体が……!?」
突然光り輝きだすメタルバードに、不意に驚いてしまうジュピター・キッドにウォーター・フェアリー。
光が治まると、何とメタルバードの姿が本来のバーンズの姿に戻っており、バーンズの体から彼のパートナーであり同時にバーンズが変身する為のアイテムでもある超獣族の科学の結晶チップバードが離れて、横たわる人造人間の方のからくり天狗に滑空しながら近寄り声を掛ける。
「か、からくり天狗はん……」「お……お主は、一体……」
初めてチップバードを見たからくり天狗は、半ば驚き動揺した。
「え! な、なに!? このアクセサリー、動いてる!」
「こ、これは……!?」「!?」
生き物のように動き回るチップバードを見て驚愕する高木はるかに銀天狗と鎧天狗の三人。
そんな中、チップバードは停止寸前のからくり天狗に向かって話し続けた。
「からくり天狗はん、しっかりしなはれや……」
「そ、そなたは……い、一体……」
「ワイの名はチップバード、あんたはんと同じで人工的に造られた輩や、しっかりしなはれ」
「ち、チップバード、殿……もう、拙者は……動く事すら、儘ならないのです……! 聖龍使いに、徹底的に斬り付けられて……た、体内のカラクリが完全にダメに……!」
「からくり天狗はん……!」
「そ、其れがし……どうしても黒天狗様の、長年の願いを叶えて……差し上げたかったでござる……!」
「な、長年の…………願い……?」
「そ、そうでございます……。黒天狗様が、本当にルミノタイトを手中に納めたかったのは……世界征服ではなく、自分の生まれた故郷に帰りたいと思う望郷の念からの行いだったのです……」
「え? こ、故郷の……星……?」「か、還りたいって……!?」
からくり天狗の突然の発言に驚き動揺してしまうイサミと鎧天狗。
更にからくり天狗は、最後にチップバードに告げた。
「ち、チップバード殿……そなたもまた……拙者と同じ、己が主君に忠誠を尽くす為に造られたモノ……。ならば、同じ造られたモノとして、そなたにお頼みしたい事がございます……」
「な……なんや……?」
「……ど、どうか……黒天狗様を……せ、せり……セリ・カーモン様を、お助け下さい……う、生まれ育った、懐かしい故郷の星に……か、帰してアゲ、テ……クダ、サ……イ…………」
それを最後に、人造人間からくり天狗は完全に機能を停止した。
「……か……からくり天狗……! ウウウゥ……!」
「からくり天狗よ……お前は其処まで、私達黒天狗党や鴨之丞様の事を……うぅ、済まない……!」
からくり天狗の告げた想いを聞いて、更に大粒の涙を流し悲観する菊丸と鷹丸。そんな二人の気持ちに感化され、周りの者たちも思わず涙を流し始めてしまった。
「……からくり天狗はん」
同じ主に仕える為に製造された存在同士、チップバードはからくり天狗の想いを痛いほど感じられていた。そしてチップバードは決意する。からくり天狗の最後まで主に仕える、その忠誠心に応える為にも黒天狗こと芹沢鴨之丞の悲願を達成しようと、心に決めたのだった。
そして、此処はキューティーハニーとパンサーゾラの決闘の場であった場所。
聖龍使いによって止めを刺され、ダイヤモンドの結晶ごと粉々に砕かれたパンサーゾラ。しかし、この時その場に一人の人物が静かに歩いて来た。
既にキューティーハニーと聖龍使いが居なくなっていたその場に立ち寄って来たのは、あの闇人で有った。
闇人はダイヤモンドの残骸に歩み寄ると、突然立ち止まり徐に右手を翳して掌から黒い靄(もや)の様なものを噴き出した。
黒い靄は粉々のダイヤ全てに覆い被さる様に、床一面に広がって行った。
すると黒い靄は次第に人型に形成されて行き、それがある人物へと変貌したのだった。
「……う、ううぅ……こ、此処は……?」
その人物は意識が朦(もうろう)としながらも体を起して辺りを見回した。その人物、それは先ほどパンサーゾラに吸収され、ゾラの力の一部にされてしまったシスタージルであった。
闇人は意識がハッキリとしないジルに顔を近づけて話しかけた。
「オイ……シスタージル」「ん……お、お前……闇人なのか……」
声を掛けられたジルは闇人に視線を向けた。すると闇人はジルを見詰めながら彼女に訊ねた。
「ジルよ……お前は何故……この世に居る……」
「な、何を急に……? そんな事……考えたことも無かった」
突然の闇人からの問いに戸惑いながらも答えるジル。そんなジルに闇人は顔を近づけて告げた。
「ところでなジル、実はな……」闇人はジルの耳元で囁いた。
するとジルの顔色は一変した。
「……そ、そんな……! そんなバカな……!! ほんと……本当なのか、闇人……!?」
ジルは震える唇で闇人に訊ねた。すると闇人は平然と答えた。
「ああ本当だ。お前は所詮、どう頑張っても消されている運命に決められてしまっているのだよ。聖龍使い以前に、あのキューティーハニーにすら無残に消されるだけの哀れな存在。それがお前だ、シスタージル」
闇人の言葉を聞き、悔しさと悲痛に満ちた表情に顔を歪ませるジル。
「く……ッ! 何の為に……何の為に、私は……私は、生まれてきたというのだ……!!」
悲痛な声で嘆くジル。そんなジルに闇人は言った。
「ジルよ……お前はこのままで良いのか? 勝手に生みだされ、勝手に消される運命を与えられ、お前達、この次元の者達は決められた運命と云う名のレールを走らされる。勝者も敗者も……生も死も……全て決められている……」
「……どうすれば良い……私は、どうすればいいのだ……!!?」
口元を歪ませ睨みつけながら訊ねてくるジルに対し闇人は言った。
「……俺と来い、シスタージル……。お前のその無念、共に晴らそうではないか……幸い、お前の他にも精鋭は数多く揃えている。お前同様に決められた運命で消されて行った者達と共に、お前等に運命を与えたこの世界を破壊するのだ。俺も、お前達と同じだ……!」
「な……何故、お前は其処まで……!?」
ジルが訊ねると、闇人は自分の被っていた頭のフードを少しズラしてジルに自分の顔を見せた。
「!! お、お前は……!!」
闇人の顔を見た途端、ジルは驚愕した。
そして闇人は再びフードで顔を隠すとジルに言った。
「どうだ……これが、この俺がこの世界を憎んでいる理由だ」
「な……ど、どういう事だ……!? お前の、その顔……!」
動揺が隠しきれない表情のジルに闇人は告げた。
「なに……俺も所詮、お前等と同じなだけだ。お前等と同様、人のいや……あの男の思想概念から生まれ出た、呪われし存在、禍々しき心を持つ存在なだけよ」
「…………」
「さぁ、何を躊躇うのだジル。共に行こう……俺達が苦しむだけの世界を……俺等を生み出した、この世界の崩壊と破滅を共に……」
ジルに手を差し伸べて語る闇人。ジルの手は自然と闇人の手を取るのであった。
そして二人はそのまま闇の中へと姿を消していった。
[再会し合う者達と黒天狗との一騎打ち]
その頃、からくり天狗の最期を看取った聖龍隊は先を急いだ。残りの聖龍隊士、キューティーハニーと聖龍使いの姿を探しつつ、姿を晦ました黒天狗を追い続けた。
「く……くっそぉ、聖龍使いの奴、何処に行っちまったんだ?」
「……以前からイサミちゃん達やミスティーハニー達の事で黒天狗党や豹の爪(パンサークロー)に対してかなりイラついていたけど、其処に父さんをボロボロにされた怒りも加わって完全に頭に血が上っちゃっているからねぇ……いつも以上に暴れ回っちゃっているよ、多分……」
未だに行方の分からない聖龍使いに対して言葉を吐くメタルバードにジュピター・キッド。
「は、ハニーも……キューティーハニーは無事なんだろうか……?」
「ぶ……無事に決まっているでしょうッ! 変な事言わないでよッ、青児さん!」
青児の発言に向きになって言い返すミスティーハニー。
と、その時。「……! み、みんな! あ、あそこ……!」
ウォーター・フェアリーが指差した方に、一目見ただけでも疲労が溜まっていると解ってしまう程に疲れきっているキューティーハニーの姿が在った。
「は……ハニー!!」「姉さん!」
「せ、青児さん……それに、ミスティー……」
疲労が溜まり、壁に身を預けながら弱弱しく歩いているキューティーハニーを見て駆け寄る早見青児とミスティーハニー。キューティーハニーも二人の顔を疲労の溜まった顔で見詰めた。
「は、ハニー……! 大丈夫か? 平気かっ?」
「せ、青児さん……」
ハニーの両肩を思わず掴み声を掛けてくる青児に、ハニーは困惑してしまう。
「ね、姉さん……。良かった……無事で良かった……! うぅ……」
「み……ミスティー……」
涙目で駆け寄り、声を掛けてくる妹のミスティーの悲痛な顔を見て、キューティーハニーは居た堪れない心境になり自身の目からも熱い涙が零れ始めた。
そして三人は思わず抱きしめ合い、互いの無事を身を持って確認したうえで安心の心中に浸ったのであった。
周りの者達も、そんな三人を見て心の底から穏やかな心情に浸っていた。
――――そんな中、メタルバードが三人に声を掛ける。
「え……えぇ……そ、其処の御三人方……気持ちは分かるけど、今は取敢えず先を急ぎましょうぜ。……まだ聖龍使いの姿も見当たらないし、黒天狗の爺さんも何処かに消えたまんまなんだしよ」
「え! せ、聖龍使いなら……さっき会ったわよ」「な、何っ?」
メタルバードが言い終わった瞬間、ハニーが口に出した言葉に驚くメタルバードや他の者たち。
「き……キューティーハニー、聖龍使いは何処に……!?」
キッドが訊ねるとハニーは語るのを躊躇いながらも答えた。
「え、ええ、実は……さっき、あのパンサーゾラに聖龍使いが止めをさして……それからスグに彼、何処かに行ってしまったのよ……」
「な、なに!? あ、あのパンサーゾラを倒したのか、聖龍使いは……!!」
「え……え、ええ……」
「あ、あのゾラを倒したのか……! 聖龍使い、遂に……」
キューティーハニーの発言に驚いてしまう早見青児とミスティーハニー。
そんなキューティーハニーと聖龍隊の面々が再会している、まさにその時。
「い……イサミ……!」「え……?」
突然声を掛けながら聖龍隊に歩み寄って来た一人の人物に、呼ばれたイサミはもちろん皆も目を向けた。其処には一人の男が、黒鴉の部下である鴉天狗達の付き添いの下、立っていた。
その男の顔を見た途端、イサミは身を震えさせ、目に涙を溜めて行った。そしてイサミは唐突に、その男に向かって叫んだ。
「あ……ぱ……パパ!」「イサミ……!」
そう、その男は闇人に拉致され、シスタージルによって監禁され強引にルミノタイトの研究をさせられていた人物――花丘イサミの実の父親であり、高木はるかの兄貴分である花丘魁博士だった。
長い間、離れ離れになっていた父と娘は感動の余り、思わず駆け寄り力いっぱい抱き合った。
「お、お兄ちゃん……!」
抱き合う二人を見て、妹分である高木はるかも思わず口を手で塞ぎ、感涙する。
「か、魁か……? 本当に……本当にあの、長い間行方知れずになっていた魁なのかッ!?」
久方ぶりに見た魁の姿に、父親でありイサミの祖父である観柳斉は困惑しながらも抱き合うイサミと魁に歩み寄り、魁に話しかける。すると魁は観柳斉に笑顔で答える。
「お、お久しぶりです、父さん……今まで目の前に姿を現わせずに申し訳ありませんでした……ッ。玲子やイサミを任せっきりにさせて……本当に、すいません……!」
「い、良いんじゃ、良いんじゃ……何より、お前が無事で、本当に良かった……!」
笑顔で観柳斉に感謝と詫びの言葉を述べようとする魁であったが、必死に堪えようとしていた涙が自然と目に浮かんで来てしまってた。しかし、それは観柳斉の方も同じで双方涙目の笑顔で会話の受け答えをしたのであった。
皆が家族の再会に感動している最中、鴉天狗達が黒鴉に近寄り申し上げていた。
「隊長、ご指示通りゴールデン天狗こと印堂陽に案内させて魁博士の元に辿りつく事が出来ました」
「博士は多少疲労が溜まっては居りますが、それ以外は御身体に支障は有りませぬ」
「そうか……ご苦労だった」
寄って来た部下達に一言掛ける黒鴉。実は基地の内部を探索しながらの進行の最中、人質にもなっている魁博士の救出も優先しなければと思った黒鴉は、ゴールデン天狗である芹沢海運社長の印堂陽に部下である鴉天狗達を博士の下まで案内させるように、印堂陽に云い付けていたのだった。
そして一行は、遂に基地の最深部へと辿りついたのであった。
其処はとても広い大広間で部屋の真ん中には長方形の長いテーブル、そして両脇には椅子が二つずつ計四つ設置されており、部屋の奥手の方には立派な椅子が一つある間取りだった。
「こ、此処は……?」
「此処は……私達、黒天狗党の四天王が首相である黒天狗様と良く会談している大広間だよ」
部屋を見て唖然としているイサミ達に、徐に自身が着けている面を外しながら語る銀天狗こと田能久健。その田能久健の素顔を見て、トシやソウシが驚いた。
「た、田能久健さん!」
「け、健さんが銀天狗だったんですか……!?」
「ああ、そうだよ。いや~~まさか此処まで君達にてんてこ舞いさせられるとは思わなかったよ。いや~~ホントまいったよ」
驚くトシとソウシに笑顔で頭を掻きながら言葉を返す田能久健。
そんな時「お前達……よくぞ此処まで辿りついたのぉ……!」
突然部屋に響き渡る謎の声に、皆は動揺した。そんな中、辺りを見回していたちびムーンが指差して叫んだ。
「あ! あそこ!」
皆がちびムーンの指差す方向に目を向けると、あの黒天狗が背筋を伸ばし堂々とした態度で立っていた。
「く、黒天狗!」「ようやく姿を現したか、黒天狗党の親玉!」
黒天狗の姿を見てソウシとトシは、眼つきを一変させて黒天狗を睨みつけた。
「………………」
しかしイサミだけは二人とは様子が違っていた。何故なら黒天狗の正体、それは今まで自分の事を本当の孫の様に溺愛してくれていた芹沢ジャパンの会長 芹沢鴨之丞であるからだった。
そして、そんな悲しげな面立ちで黒天狗を見詰めるイサミ同様、複雑な心境の中にある一人の人物。イサミの祖父にして黒天狗こと芹沢鴨之丞の長年のライバルである観柳斉が眼前の黒天狗に問い質した。
「く……黒天狗よ……ッ。お、お前は本当にあの鴨之丞……芹沢鴨之丞なのかッ?」
「…………」
「な……何とか言っとくれッ、お前は本当に鴨之丞なのかッ!? 答えてくれッ!」
黙り込む黒天狗に再度問い質す観柳斉。すると黒天狗は意を決したかのごとく、皆の前で観柳斉の問いに答えた。
「……ふふ、如何にも。……私は正真正銘の芹沢鴨之丞だ!! 花丘イサミ、そして我が長年の宿敵である花丘観柳斉よ、久しぶりだな!」
「「!!」」『!』
「クッ、やっぱりか……ッ!」
黒天狗の自白を聞いて愕然となるイサミと観柳斉、そして聖龍隊や天狗ポリス達にメタルバード。
皆が愕然となる中、イサミが驚きの余り瞳孔が開いた表情で黒天狗に訊ねる。
「な、何故…………何故なの? 芹沢の御爺様……! 何故、こんな事を……!!」
悲痛な声で訊ねるイサミ。彼女に対して訊ねられた黒天狗はイサミ達を睨みながら言い放った。
「これは……これは……ワシの長年の夢なのじゃ……! 2000年前、ルミノタイトを積んでいた所を……誤ってこの地球に不時着してしまい、その際の墜落で積んでいたルミノタイトを今まで探し続けてきた……!」
「に、2000年、前……?」「ち、地球に、不時着……って」
黒天狗の発言の内容に戸惑う高木はるかとセーラーウラヌス。黒天狗は続けて語った。
「それから2000年、ずっと探し続けてきた……! 色々あった……不時着してしまった場所、今の日本でルミノタイトの欠片を探しては見つけ、見つけては失い……遂には水戸天狗党を結成し、当時の新撰組発明係の三人とも死闘を繰り広げては今に到り…………ようやく完成したのだ、故郷への帰還を果たせる宇宙船を……!!」
「う、宇宙船!!?」
「く、黒天狗! お前は何を言っているんだ?」
黒天狗の言葉の意味が分からず困惑してしまうトシとソウシが、半ば慌てながら訊ねた。
すると黒天狗は困惑する聖龍隊士たちや黒鴉率いる天狗ポリス、そして高木はるか率いる瑠美乃一族や天狗四天王と菊丸等の眼前で衝撃の事実を告げた。
「何を隠そう……このワシ、黒天狗こと芹沢鴨之丞は………………宇宙人なのだ!!」
『!!』
黒天狗こと芹沢鴨之丞の突然の告白に愕然となる一同。
[怒りの乱入]
黒天狗党の会長 黒天狗こと芹沢鴨之丞の口から出てきた真実。
それは芹沢鴨之丞は地球の人間では無く、地球外から来た存在つまり宇宙人である事。
本名をセリ・カーモンというテン・グー星人の鴨之丞は今を遡ること2000年前、地球に不時着してしまいルミノタイトも本来は彼等が所持していた鉱物であり。以来、故郷の星に対する望郷の念から宇宙船新造の願いを抱き続け、そのための財力と人力を欲するが故に世界征服を目論んでいた。というのが本当の実情だったのだ。
2000年もの間、所持していた僅かなルミノタイトの力で若返りを繰り返しており、それにより今日まで普通の地球人として生活していた。
そして130年前、イサミ達の先祖である花丘一作 月影十郎 雪見千助が組織した当時の新撰組発明係と戦い続けていた水戸天狗党の首相もセリ・カーモンこと芹沢鴨之丞本人であったという。
事実を黒天狗本人の口から聞いたイサミ達に聖龍隊は、余りの事実に衝撃を受けて愕然としてしまう。
そして彼等と同様、事実を知らなかった銀天狗と鎧天狗、そしてからくり天狗こと東上別府鷹丸の甥である菊丸130年前より天狗党からルミノタイトを守る事を宿命にして来た高木はるか率いる瑠美乃一族、更に聖龍隊に加勢しに来た黒鴉率いる天狗ポリスも驚愕した。
しかし黒天狗は基地を破壊しつくされ、下手をすれば故郷の星への望郷の念を絶たれると勘ぐり、自分が所有している龍の剣と同形状の武器で戦闘を始めたのであった。
親しかった鴨之丞こと黒天狗に対し、イサミは決意したのか黒天狗と真っ向からぶつかり合った。
激しい剣戟、剣と剣がぶつかり起こる火花。そんな激闘を周りの者達は、ただ見守るしかできなかった。
「……い、イサミちゃん」「イサミ……」
親しい間柄であった黒天狗こと鴨之丞と激闘を繰り広げるイサミの、険しいながらも悲痛な面立ちを見て、何処か悲しげな雰囲気を感じるソウシとトシ。
「ど、どうするんだいメタルバード。このままじゃイサミちゃん……」
「わ、解ってるが……だけど見てみろよ。イサミの目、あれは揺るぎない決意に満ちた目だ。もう誰の意志でも無く、自分の意志で黒天狗と闘うと決めた信念の表れだ。オレ達がシャシャり出るのは余計なお節介だよ」
「そ、そんな……」
黒天狗と対決するイサミを眼前に、キッドがメタルバードに訊ねるものの、メタルバードはイサミの眼から感じる強い決意を尊重し、二人だけで闘わせようと云う。
しかしミラーガールは互いに一歩も退かずに剣を取り合って闘い続ける二人を見て、とても心苦しい心境に陥っていた。
そんな激しい剣戟を組み合っているイサミと芹沢鴨之丞こと黒天狗は、組み合いながら険しい顔付きで話を始めた。
「はは……まさか、イサミちゃんとこんな形で闘う羽目になるとはな……」
「私も……本当だったら闘いたく無かった……! お祖父ちゃんがいつも話してた……芹沢の御爺様は昔から真面目一筋の武道家だって……! それなのに……」
「ははは……武道を極めていたのは、全て我が望郷の想いを叶えるための術の一つよ! 誰にも邪魔はさせん……ワシは必ず、故郷に帰ってみせるのじゃッ!!」
「その為に……その為に! 今まで私たちの町で沢山の人達を傷つけて来たの!? 私たちの街だけじゃない、豹の爪と手を組んだ後は……ハニーさんや聖羅さんが通っていた聖チャペル学園を爆破させてルミノタイトを強引に手に入れて、それに! 異世界ではアプリちゃんの大切なお友達が豹の爪の怪人に殺されたのよッ! 御爺様は……御爺様たち黒天狗党は、そんな連中に手を貸していたのよッ!!」
「…………」
「分かる……!? 御爺様は故郷に帰りたいと願い続けていた、その思いは凄く解るわ……だけど、間違った手段で……大勢の人達を犠牲にして叶えた願いなんて意味無いわよ!!」
「い、イサミちゃん……! ……う、煩いッ! 誰にも分かるものか、ワシの……このワシの地球での孤独な日々が分かるものかッ!! 頼る家族も居ない、異星人であるワシと永遠に袂を分かち合ってくれる友も誰も居ない孤独な生涯など誰にも分かりはせんッ!」
この時、黒天狗は叫びながらも目から涙を一粒零したのを、黒天狗と闘っているイサミ、それにその闘いを見ていたミラーガールは見逃しはしなかった。
そんな黒天狗と花丘イサミの一騎打ちが更に激しくなってきた時だった。
突如、近くで激しい爆発が起き、イサミと黒天狗が闘い合っている場にも地響きが伝わって来た。
「う、うわっ!」「な、なに?」
突然の爆発、そして爆発による地響きに皆驚く。その時、皆が居た大広間に一人の天狗が息も絶え絶えの傷だらけの状態で駆け付けて来た。
「く……黒天狗、様……」
「お、お前……南蛮天狗! どうしたのじゃ、一体!?」
駆け付けて来たのは黒天狗こと芹沢鴨之丞の秘書で黒天狗党では№2の実力者である南蛮天狗であった。南蛮天狗は傷だらけの状態で黒天狗に駆け寄り報告した。
「も、申し訳ありません黒天狗様……いえ、セリ・カーモン様。私達が懸命に新造していた宇宙船が、破壊されてしまいました……!」
「そ、そんな……!」
やっとの想いで新造した宇宙船が、故郷に帰れる唯一の望みが破壊されたと知った黒天狗は愕然とした。そして傷だらけの南蛮天狗に慌てて訊ねる。
「な、なんで宇宙船が……い、いやそれよりも、誰が宇宙船を破壊したのじゃ!!?」
「そ、それが……」
と、その時。黒天狗に言い寄られる南蛮天狗の背後から、一人の男が部屋に入室して来た。
「!」「あ……!」
その男を見て黒天狗は驚愕し、南蛮天狗は驚きで身を縮めた。
部屋に入って来た男を見て、ミラーガールが叫んだ。
「あ…………せ……聖龍使い……!」
部屋に入って来たのは聖龍使いだった。
その場に来た聖龍使いを見て、南蛮天狗が聖龍使いを指差し震える口調で黒天狗に告げた。
「こ、こ奴です……! こ奴が宇宙船はもちろん、宇宙船を収納していた格納庫までも破壊し尽くした張本人です!!」
「こ、コイツが……! ワシの、ワシ等の宇宙船を……!!」
黒天狗は怒りで身体が震えた。ようやくルミノタイトを精製して宇宙船のパーツを仕上げたというのに、それを全て一瞬で瓦礫にした聖龍使いに対して黒天狗は怒り心頭で有った。
そして「うわあーーーーッ!」怒りの余り、黒天狗は聖龍使いに斬りかかった。
「だ、ダメーー!」「聖龍使い、戦わないでっ!」
斬りかかる黒天狗に叫ぶイサミ、そして聖龍使いに対して戦わない様に呼び掛けるミラーガールであったのだが、二人はそのまま激突した。
「ぐっ……!」「……!」
互いの剣と剣が衝突し合い、そして刃を違えながら双方睨み合った。
「良くも……良くも……ワシの望郷の想いを……!」
宇宙船を壊された怒りと無念を吐き告げる黒天狗に対し、聖龍使いはしばし黒天狗と無言で睨み合っていた。しかし唐突に「……黙れ」「!」突然、こもった様な声で喋る聖龍使いに一瞬驚く黒天狗。
そして聖龍使いは黒天狗の剣を弾き返して、黒天狗を押し退けた。
「うッ」
押し退けられた瞬間、体勢を少しばかり崩してしまった黒天狗。その隙をついて聖龍使いは一気に黒天狗に斬りかかった。
「や、止めて!」
イサミが叫ぶものの、聖龍使いの一太刀は僅かではあるが黒天狗の体を斬り付けた。
「ぐっ」
斬られた個所を手で押さえ、悶絶する黒天狗。更に
「く、黒天狗様に手を出すなーーッ!」
「ま、待て! 南蛮天狗、待つんじゃ!」
主君の黒天狗を助けんが為、聖龍使いに攻撃を仕掛けようとする南蛮天狗。そんな南蛮天狗に静止するように呼び掛ける黒天狗ではあったが、南蛮天狗が聖龍使いに近寄った次の瞬間。
「ッ!」「う、ウワッ!」
聖龍使いは刀を握っている右手と反対の、空いている左手で南蛮天狗の胸ぐらを掴み、そのまま南蛮天狗を床に叩きつけてしまった。
「ぐはっ」「な、南蛮天狗!」
床に叩きつけられる南蛮天狗を見て驚愕する黒天狗、そして周りの皆皆。
更に其処へ。
「黒天狗様を御守り致すのだ! 皆の者、黒天狗様の周りを囲めッ」『ははァッ』
大勢のカラス天狗達がその場に駆けつけて来て、黒天狗の身を護るため黒天狗の周りに集まり出した。
「お、お前達……!」
自分を護る様に自身の周りを囲むカラス天狗達を見て困惑する黒天狗。そんな黒天狗にリーダー格であるのか、一人のカラス天狗が話しかけた。
「黒天狗様、先ほどの貴方が御話してくれた貴方様の経緯、お耳にしました」
「なッ……!」
驚く黒天狗。するともう一人のカラス天狗も続けて
「しかし黒天狗様、私達の貴方様への忠誠心は変わりません。我々カラス天狗一同は皆、黒天狗様こと芹沢鴨之丞様への御恩義を忘れる事は決してありませんッ」
「お、お前達……!」
カラス天狗達の熱い眼差しを見た黒天狗は、内心静かに感動していた。
しかしそんな中、聖龍使いは黒天狗にジリジリと摺足で歩み寄って行く。
「これ以上、黒天狗様には指一本触れさせはせんぞッ! そりゃあ!」
リーダー格のカラス天狗の掛け声を切っ掛けに、複数のカラス天狗達は一斉に聖龍使いに攻撃を仕掛けた。
しかし聖龍使いの右腕が消えたと思うとその瞬間、何かが切れたような爽快な音が辺りに響き、それを見ていた聖龍隊を始めとした周りの者達は驚愕した。
「う、腕が……!」「き、消えた……」
一瞬だけであったが、腕が消滅した聖龍使いを見て愕然となる小狼とさくら。
一方、その光景を見ていたメタルバードとジュピター・キッドは顔面を蒼くさせていた。
「ま、マジかよ……!」「あ、あぁ……」
「ね……ねぇ。二人ともどうしたの? 一体、聖龍使いは何をしたのよ……?」
顔を蒼くさせている二人を見てミラーガールが訊ねてみると、メタルバードがそれに答えた。
「せ、聖龍使いの腕が消えたのは……目では捉えきれないほどの速さで刀を振るったからだ。一瞬で敵の体に斬り付けたから、刀を持った腕が余りの速さで見えなくて、それで消えたように見えちまう訳なんだ」
「そ、それじゃ……!」
メタルバードの答えに驚くミラーガールに、続いてキッドが語った。
「……ああ。今の一瞬で、あのカラス天狗達は全員……」
キッドが語った、次の瞬間であった。
「ぐわあぁ!」「ぐうぅぅ……!」「ぎゃああぁ!」
聖龍使いに攻撃を仕掛けようとしたカラス天狗達が全員斬り裂かれ、全員肩や腕から血を噴き出した。
「!」「き、きゃああ!」「ああ……!」
斬り付けられ、体から血を出すカラス天狗達を見て愕然となるミラーガールに悲鳴を上げるイサミ、そして辺りの床が血で真っ赤になるのを見て唖然となる鎧天狗。
「うぐ……ッ」
肩の傷を押さえながら悶絶するリーダー格のカラス天狗。
そんなカラス天狗達を脇目に聖龍使いは再び黒天狗に歩み迫る。
「ッ……!」
摺足で歩み寄って来る聖龍使いに怯む黒天狗。と、その時。
「ま、待て……!」
聖龍使いに斬られたリーダー格のカラス天狗が苦痛に喘ぎながらも聖龍使いの足にしがみ付き、必死に聖龍使いを止めようとするのだが
「……邪魔だ」
そう聖龍使いが一言発した瞬間、聖龍使いは力の限り自分の足にしがみ付くカラス天狗を何度も踏み付けた。
「ぐはっ、がはっ……」
聖龍使いに幾度となく踏まれ苦痛に喘いで行くカラス天狗。
そして聖龍使いは、最後にカラス天狗を思いっきし蹴飛ばした。
「ぐふ……ッ」
蹴飛ばされたカラス天狗はそのまま壁に激突して動かなくなった。
「た、大変……!」
蹴り飛ばされたカラス天狗を見て慌てて駆け寄るイサミ達。
「だ、大丈夫ですか?」「お、おい、しっかりしろ、カラス天狗」
敵であるとはいえ、聖龍使いに踏みつけられ更に蹴り飛ばされて動けなくなったカラス天狗を放っておけず心配するイサミ達は気を失うカラス天狗に呼び掛ける。
するとその時、カラス天狗の装着していた天狗の面が外れ素顔が晒された。するとイサミ達はその素顔を見た途端声を上げた。
「え!? ま、まさか……!」
「ま、マジかよ……!」「そ、そんな……」
イサミ、トシ、ソウシはその顔に見覚えがあり驚きの余り名を叫ぶ。
「「「きょ、教頭先生!!?」」」
カラス天狗達のリーダー格にして、聖龍使いに踏まれ蹴飛ばされたカラス天狗の正体。それはイサミ達が通う大江戸小学校の教頭であるカラス天狗50号だった。
イサミ達が気絶している50号こと教頭を気にしている最中も、聖龍使いは刀を振り回して黒天狗を追い詰めて行く。
「ふんッ、ふんッ」
荒い鼻息を出しながら斬りかかろうとしてくる聖龍使いの剣戟を必死で防いで行く黒天狗。
「や、止めろ……! 黒天狗様には……カーモン様をそれ以上苦しめるなァ!」
先ほど聖龍使いに叩きつけられてしまった南蛮天狗が、再び聖龍使いから黒天狗を護る為再度攻撃を仕掛ける。だが
「……ッ!」
南蛮天狗が聖龍使いに攻撃を仕掛けようとした瞬間、聖龍使いが南蛮天狗に向かって途轍もない眼光で睨みつけて来た。
「ッ……!」
聖龍使いの眼光に怯んでしまう南蛮天狗。そして聖龍使いは鋭い斬撃を二発、南蛮天狗に向かって放った。
「く……ッ」
南蛮天狗は何とか一発目の斬撃を避けられたのだが、二発目の斬撃に直撃してしまった。
「ぐはっ……!」斬撃を浴び、そのまま壁に激突してしまう南蛮天狗。
そして激突した南蛮天狗は何と白い犬の様な生き物に成ってしまった。
「え? あ、あの犬は……!?」
「ま、まさかアレが南蛮天狗の正体……?」
白い犬に成り変わった南蛮天狗を見て驚愕するセーラープルートと早見青児。
そんな中、聖龍使いは黒天狗への攻撃の手を緩める事は無かった。
「うわあーーッ!!」「グゥ……ッ!」
黒天狗は必死に、そして懸命に聖龍使いの攻撃を避けながらも応戦していくが聖龍使いの猛攻に、次第に苦戦していった。
[鏡眼に浮かぶ涙と正気に戻る武人]
そんな聖龍使いの猛攻を黒天狗が必死に応戦している最中、黒天狗が一瞬の隙をついて聖龍使いの顔に向けて刀撃を喰らわせる事が出来た。しかし惜しくも刀は聖龍使いの兜側面に弾かれてしまい、直接聖龍使いにダメージを与える事はできなかった。
だがしかし、刀が兜に直撃した拍子に聖龍使いの装着している鬼の面が外れてしまった。
皆が聖龍使いの素顔に目を向け、無論刀を当てた黒天狗本人も聖龍使いの素顔に目を向ける。
すると皆が聖龍使いの素顔を見た瞬間、全員蒼然とした。
何故なら曝け出された聖龍使いの素顔、それは素顔である小田原修司の顔ではあったが、眉間にしわができ、顔の色は血で染まったかの如く真赤に成っており、完全に怒りで自我を失っている状態だった。
赤く染まる顔を見て、黒天狗は一気に怯え始めた。まるで聖龍使いが赤鬼のように恐ろしく感じたからだ。
そして黒天狗同様、赤鬼の如き形相に成り果てた聖龍使いの素顔を見て周りの者たちも愕然となる。
「わッ!」「そ、そんな……!」「…………」
赤鬼の様な形相に成り果てた聖龍使いの素顔を見て、顔面蒼白となるイサミ、トシ、ソウシの三人。
「せ、聖龍使いが……」「う……っ、うぅ……」
異様な形相に成ってしまっている聖龍使いを見て、今にも泣き出しそうになるちびムーンにサターン。
「お、おい……アレ……」
「あ、ああ……完全にキレちまっているよ……」
聖龍使いを指差しながら呟くタキシード仮面に対し、顔を蒼くさせて答える青児。
「め、メタルバード……あ、あれ……」
怒りで形相が変貌してしまっている聖龍使いを指しながら震える口振りで言うキッドに対し、メタルバードは答える。
「い、いや……今の状態の修司には下手に近寄れねえよ……。下手したら近寄った相手すら斬り付けるからよ……」
と蒼褪めた顔で答えた。そんな中、遂に黒天狗が所持していた剣を聖龍使いによって弾かれてしまい丸腰になってしまう。
「あぁ……!」
剣を弾かれ、丸腰状態の黒天狗は愕然となった。しかし、そんな丸腰に成ってしまった黒天狗に対しても聖龍使いは攻撃を止めようとはせず、眼前の黒天狗に日本刀 聖龍剣を振りかざした。
と、その時「や、止めてーーッ! 御祖父様に何もしないでーーッ!!」
突然、鎧天狗が素の女声で黒天狗に斬りかかろうとする聖龍使いの眼前に立ち塞がり、黒天狗を庇う。
「よ、鎧天狗……!」
自分の正体を知りつつも、自分を護ろうと身を盾にする鎧天狗の行動に驚愕する黒天狗。
しかし聖龍使いはジィッと鎧天狗を睨みつけると突然「……退(ど)け……ッ」事も在ろうに己の眼前に立ち塞がる鎧天狗を左手の甲で力いっぱい振り払った。
「ぐっ!」
軽く振り払われただけで鎧天狗は意図も容易く払い飛ばされてしまう。
「る、ルリ子ーー!」
聖龍使いに飛ばされる鎧天狗に、銀天狗こと田能久健が体全体で飛んでくる鎧天狗を受け止めた。
「ぐ……ッ」
鎧天狗を受け止めた田能久健は、そのまま鎧天狗ごと壁に激突した。
「け、健さん!」「お、おい……今、健さん……」
「あ、ああ……鎧天狗の事、ルリ子、って……」
壁に激突する二人を見て悲鳴を上げるイサミ。一方トシとソウシは健が叫んだルリ子の名に驚いてしまっていた。
激突し、動かなくなってしまう二人を見て急ぎ駆け寄るイサミ達しんせん組と聖龍隊。イサミは慌てて銀天狗こと田能久健に呼び掛けた。
「け、健さん……大丈夫ですか?」
「うぅ……い、イサミちゃん。いやぁ、僕は大丈夫だけど、彼女が……」
「え……? か、彼女……?」
田能久健の言葉に戸惑うイサミが、健に受け止められた鎧天狗に目を向けると、何と鎧天狗の面が外れてしまっていた。そして曝された素顔を見てイサミは驚いた。
「えッ!? う、ウソ……ルリ子さん? 鎧天狗はルリ子さんだった訳!? そんなぁ……」
鎧天狗の正体が女子大学生の芹沢ルリ子である事を知り、イサミは驚きを隠せなかった。
と、一方の黒天狗は遂に聖龍使いに追い詰められてしまい逃げ場を失っていた。
「あぁ…………」「…………」
怯えた目で聖龍使いを見詰める黒天狗、一方の聖龍使いは沈黙を保ち続けながら黒天狗に鋭い睨みを利かせていた。
そして一気に刀を振り上げ、身構えると黒天狗に斬りかかろうとした。
「う、うわぁッ」思わず自分の腕で苦し紛れの護りの構えを取る黒天狗。
しかし、黒天狗が目を瞑ったその時「せ、聖龍使い止めて!」咄嗟にイサミが刀を振り下ろそうとする聖龍使いの前に立ち塞がり、必死に黒天狗を庇おうとするが聖龍使いは
「……退け、イサミ」「い、いや……お願い、もう止めて……」
聖龍使いの形相に怯え、必死に恐怖に耐えながら涙目でお願いするイサミであったのだが。
「……退け……!!」
聖龍使いが目を見開いた瞬間、事も在ろうに仲間であるイサミの左腹部を左手の甲で殴り付けて彼女を押し退けたのである。
「うぐ……っ」
腹部の、それも側面を手の甲とはいえ、力いっぱい殴られたイサミはそのまま横方向に倒れ込んでしまった。
「ああ!」「い、イサミちゃん!」
聖龍使いに殴り倒されるイサミを見て叫ぶトシとソウシ。
そんな中、聖龍使いは再び黒天狗を睨み付け、怯える黒天狗に言い放った。
「黒天狗……お前……」「……ッ」
怯む黒天狗に聖龍使いは続けて唱える。
「お前は……お前等は多くの人の幸せを奪って来た。……大江戸町での数々の悪事に加え、豹の爪(パンサークロー)と協力しての陰湿な悪行……!」
「…………」
すると、次第に聖龍使いの顔付きが更に面妖な表情に変貌し、色も更に赤みを増して、黒天狗を威圧しながら言った。
「分かっているのか……! 異世界ボスコワールドでは、アプリコットの親友であるフロークが豹の爪の女ヘビ怪人に殺されたんだぞ……豹の爪やゴールデン天狗からくり天狗等の手によって、ルミノタイトを奪う為だけに聖チャペル学園は爆破された……更に! お前等は俺達のメインフロアを破壊し、ウッズを徹底的に痛めつけた……! お前は……自分の仕出かした事を分かっていやがるのか……ッ!!」
完全に怒りの感情に呑み込まれてしまっている聖龍使いに対し、黒天狗は聖龍使いの異様な面立ちに動揺しながらも言い返した。
「な、何を言うか……! お前に……お前さんに、ワシの気持ちが分かるか……!! 親も居ない、家族も居ない……故郷に帰るべく、ルミノタイトで繰り返し若返りを続けて生き永らえてきたワシの気持ちが分かるかァ……!!」
この黒天狗の言葉を聞いた途端、聖龍使いは目の色を変えて黒天狗に言い返した。
「……分からねえな。生憎この俺には、そんな帰るべき故郷など、無いからな」
「……!」
「むしろ……俺を望んでいない親しか、家族しか居ないから……お前の気持ちなど、これっぽっちも分からねえや」
「!!」
悲しみの中にも、悍ましい程の憎悪が感じられる瞳を向けながら黒天狗に語る聖龍使い。黒天狗はそんな聖龍使いの発言と眼差しに酷く動揺した。
そんな中、聖龍使いは再び黒天狗に刀を振り上げ、斬り付けようとする。
「や、止めて……ッ!」「…………!」
聖龍使いに殴られた腹部を押さえながら呼び止めるイサミ、そして聖龍使いの異様な雰囲気にすっかり動揺してしまい声を掛けられずにいるメタルバード。
そして聖龍使いは振り上げた刀を黒天狗目掛けて一気に振り下ろした。
「あ……ッ!」「い、いやァーー!」
聖龍使いが刀を振り下ろしたのを見て、愕然となるキッドに、悲鳴を上げる鎧天狗こと芹沢ルリ子。
誰もが黒天狗の最後を予感し始めていた、その時「止めてーーーーーーッ!!」その場に響き渡る悲痛な叫び声、そして周りには無音が包まれた。
重い空気が漂う中、皆刀を構える聖龍使いの方に目を向けて騒然と化した。
聖龍使いが刀を黒天狗目掛けて振り下ろそうとした瞬間、なんとミラーガールが黒天狗を護る様に両腕を開いて聖龍使いとの間に割って入り込んでいたのだった。
目の前のミラーガールに対して、寸前で聖龍剣を止める聖龍使い。
するとミラーガールの額から血が滴り流れ、それを見た聖龍使いは酷く動揺する。
「み……! ミラーガール……!!」
ミラーガールの滴る血を一目見た聖龍使いは、怒りで真っ赤になっていた顔を一瞬で蒼白に豹変させて愕然と成り、動揺の余り数歩下がってしまう。
そしてミラーガールは額から血を流しながら、戸惑う聖龍使いを悲痛に満ちながらも同時に力強さが伝わる瞳から涙を浮かび上がらせて聖龍使いに告げる。
「聖龍使い……もう止めて…………もう良い……もう良いのよ……」
しかし聖龍使いは血を流すミラーガールに動揺しつつも彼女に言い返した。
「……な……何を言うんだ、ミラーガール……! そいつは……そいつは豹の爪に力を貸していた奴なんだぞ……。そいつの協力も有ったから連中は異世界に行き……アプリの王国を危険な目に遭わせただけでなく、フロークまでも殺されたんだぞ……!」
「………………」
「そしてハニー達の学園は跡形もなく消され、ウッズだって連中に痛めつけられただろうが……! 俺は……俺は……そんな、コイツを……黒天狗を許せねえ……!!」
聖龍使いの、修司の話を黙って聞き入れるミラーガール。そして修司の話を全て聞くと彼女は静かに口を開いて修司に言った。
「…………それで?」「…………?」
「それで……どうする訳?」「……」
険しい面持ちのミラーガールの発言に戸惑う修司。そんな修司に眼前と向かい合いながらミラーガールは話を続ける。
「……確かに、黒天狗のした事は許せない事よ。だけど、それで結局はどうなる訳? 黒天狗を斬ってもフロークさんは帰る訳でもない、ハニーさん達の聖チャペル学園も元に戻る訳でも無い、ウッズさんだって治る訳でも無い……そうでしょ?」
「…………」
「大切な人が傷つけられて、その傷付けた人を許す事は容易ではないだろうけど、それでも憎しみよりは増しな筈。人を責めるという事は、同時に自分を責めてしまうと云う事。それと同じで人を許すのは自分自身も許してあげる事なのよ」
「……ミラーガール……」
ミラーガールの言葉に、次第に落ち着きを取り戻していく修司。更に
「何より、修司自身が一番感じている筈でしょ……? 人を傷つけて一番傷付くのは、自分自身だって……」
「……アッコ……」
「……もう止めて。もう、自分を傷付けるのは止めて……お願い……」
アッコの、ミラーガールの悲痛な想いを聞き、そして彼女の悲しみに満ちた涙浮かぶ鏡眼(きょうがん)に映る自分を見た修司は静かに刀を下ろした。
更に其処へ、先ほどの修司の話にも出てきたアプリコットことウォーターフェアリーとキューティーハニーが修司に話しかけてきた。
「……修司さん」「……アプリ」
まず話しかけてきたのはアプリコットであった。彼女は修司に悲愴に満ちた表情を見せつけながら告げる。
「修司さん、私の方はもう大丈夫です……。どうか、黒天狗さんを許してあげて下さい」
「! ……アプリ、お前」「アプリ……」
アプリの言葉に衝撃を感じる修司、そしてアプリの言動に唖然とするキッド。
アプリは続けて
「私には、黒天狗さんの気持ちが少しばかりは解ります。帰りたくても帰れない故郷への望郷の念、それ故に天狗党を結成して祈願を果たそうとする必死の想い……そして見知らぬ土地での、辛くて孤独な生涯」
「…………」
「私も、最初この世界に来た時、同じ気持ちでした。でも私には、修司さんやアッコさん、そしてジュニアや聖龍隊のみんなが周りに居てくれたから辛くは無かったけど……周りに自分の素性を明かせる人が一人も居ない孤独さを感じていた芹沢さんは多分、私が感じて来た辛さよりもっと大きかったんでしょう……」
「だ、だけどアプリ……コイツ等の協力も有ったから、豹の爪はお前の国に……そしてフロークも」
「ええ……だけど黒天狗さんを斬ってもフロークが戻って来る訳じゃないわ……そうでしょ」
「……」
「それに……私は一時期だけだったけど、世界を循環する水脈に成り果てていた身。だからこそ、命の価値がどんな物かも良く解っているわ。そんな命を、修司さんに奪って欲しくないの……アッコさん同様、修司さんに自分を苦しめて欲しくないの……」
アッコと同じ、悲痛な気持ちを修司に伝えるアプリコット。するとアプリに続いてキューティーハニーも修司に話し掛ける。
「そうよ修司君。もう止めましょう」
「キューティーハニー……!」
「もう良いわ……パンサーゾラは消滅し、豹の爪も壊滅できた。それで私達は充分満足よ」
キューティーハニーに続いてミスティーハニーも歩み寄って修司に話しかける。
「修司君、私も姉さん同様もう気にしてないわ。学園は無くなっちゃったし、多くの人達は傷付いてしまった。だけど、何時までも相手を許せず憎んでいたら、前に進む事はできないのよ、それが人と云う者なの。貴方が私達を想っての行動だってのは、私たち充分知っているわ、でも……。だからと云って、相手はもちろん自分の事までも傷付けて欲しくは無いの……もう、終わらせましょう」
ミスティーハニーの心情も知り得た修司は、完全に己の中の戦意を消し去った。
その時、落胆する黒天狗の下に、聖龍使いに撥ね退けられたイサミが歩み寄り黒天狗に話しかけた。
「せ……芹沢の、御爺様」
「い……イサミちゃん……!」
己の正体を打ち明け、今まで騙し続けてきた黒天狗こと芹沢鴨之丞、本名セリ・カーモンに対してイサミは優しく話した。
「御爺様、今まで辛かったんですね。頼る人も居ない、家族や友人も居ない地球で……一人でずっと、故郷に帰りたいと、その思いだけで今まで懸命に生きていられたんですね」
「…………」
更に鎧天狗こと芹沢ルリ子も歩み寄り声を掛ける。
「御祖父様」「る、ルリ子……!」
「……御祖父様、黒天狗党の結成の裏には、そんな事情があったんですね」
「でも、それならなんでもっと早く云ってくれなかったんです。……例え、血が繋がっていなくても、私は貴方の事を本当の家族と思って今まで生きて来ました。言って下されば、もっと早くから協力できていたと云うのに……」
「る、ルリ子……! お前……」
更に続いて、カラス天狗50号率いるカラス天狗達も
「芹沢様、我等もルリ子殿と同じ心中でございます」
「お前等……」
「私達、今までの貴方への恩義まで変わる事はございません。今からでも遅くありません、またやり直しましょう、最初から」
今まで騙し続けてきたイサミに孫娘のルリ子、そして配下のカラス天狗達の温かい言葉に、黒天狗こと芹沢鴨之丞は身を震わせ感動していた。
そんな皆の言動を聞いた修司は、目の前に立ち塞がるミラーガールを押し退けて静かに黒天狗の前に歩み寄る。そして
「……ッ!」『!!!』
黒天狗の前に歩み寄り立ち止まったと思いきや、突然抜刀し黒天狗目掛けて一太刀振り下ろしたのだった。そんな聖龍使いの行動に驚愕する面々、そして斬り付けられた黒天狗は唖然としてしまった。
何故なら斬られたのは黒天狗の装着していた黒い天狗の面のみで、黒天狗自身は斬られてはいなかったからだ。
面を一刀両断され晒された黒天狗いや芹沢鴨之丞の目からは大粒の涙が延々と流れていた。
そんな泣き顔を晒す黒天狗に向かい、聖龍使いは刀を鞘に納め、そして鋭い眼つきで黒天狗を見下ろしながら告げた。
「芹沢鴨之丞……この一刀にてお前の罪は死んだ。同時にお前自身もこの世から消滅した……後は故郷の星になり、何処にでも行け。そして其処で朽ち果てるがいい……ただし! お前は未来永劫、己が犯して来た罪の重さを忘れるでない……! もし再び罪を犯し、俺達の前に姿を現した時……その時こそ、正真正銘のお前の最後だと思うが良い……分かったか……!」
「!! お、おおぅ……!」
聖龍使いの好意を感じ取り、黒天狗はこれまでにない程に感極まった。そして大粒の涙を流しながら唱えた。
「望郷のためとはいえ、自らが力に任せて弱き者を踏みつけにしようとし、また自らの可愛がってきた子供達、四天王達にもそれを当然の事と教え続けてきた……! じゃが……そんなワシにも、ワシですら……こんなにも優しく接してくれる者達が居ったんじゃな……! ううぅ……」
更に芹沢鴨之丞は大粒の涙を流しながら自身の胸の内を曝け出す。
「初めて知った……地球に不時着してから2000年、初めて知り得た……この星の温かい、人の温もりを……!!」
黒天狗こと芹沢鴨之丞、そしてセリ・カーモンは泣いた。地球に来て、ようやくこの地球(ほし)の人々の温もりを知り始めて泣いた。
泣いて泣いて、涙が涸れ果てるまで泣き続けたと云う。
[去らば黒天狗 そして真なる戦いへ]
それから、数日後の事。
アニメタウン郊外の広い野原に修司とアッコ、そしてイサミ達しんせん組や他の聖龍隊。瑠美乃一族の頭領である高木はるかはもちろん、天狗の仮面や衣装を身に着けていない田能久健や芹沢ルリ子、そしてその他の黒天狗四天王に東上別府菊丸の姿があった。
野原の中央には巨大な円盤型の建造物が在り、その側面のハッチからウッズと魁博士が出て来て皆に言った。
「機械の最終チェック、終了しました」「いつでも発進できます」
二人の掛け声に修司が返事をする。
「ああ、ご苦労さん」
そしてチェックを終えた二人は、今度は修司とアッコの間に居た一人の人物に話しかけた。
「これで、いつでも発進できますよ。鴨之丞さん、いや、セリ・カーモンさん」
「いつでも離陸できます」
「……ありがとう。魁博士、そしてMrウッズ氏」
その人物はあの、芹沢鴨之丞こと黒天狗、本名セリ・カーモンであった。この時のカーモンはルミノタイトの効力で中年の男性にまで若返っていた。
「……御祖父様……」
其処に、今まで孫と祖父の関係を続けていたルリ子が歩み寄り、カーモンに話し掛けて来た。
「……ルリ子……」「……もう、行くのですね……」
何処か悲しげな表情で呟くルリ子の言葉に、カーモンは答えた。
「うむ、ウッズ氏と魁博士が宇宙船を再び造船してくれたからな。これでワシの長年の夢も果たせたし、地球に居続ける理由もない今、ワシは帰る」
すると突然、ルリ子がカーモンに抱き付いて来た。
「! る、ルリ子?」
驚いたカーモンが自分に抱き付いて来たルリ子に目を向けると彼女の目には涙が溜まっているのが分かった。
「る、ルリ子……! お前……!」
カーモンが涙目のルリ子に動揺していると、ルリ子は涙で潤んだ瞳でカーモンを見詰める。
「……どうか、お元気で……御祖父様……!」
「ルリ子……」
「私、幸せでした。御祖父様と、一緒に過せた今まで……ルリ子、本当に幸せでした……!!」
「ルリ子……!!!」
自分が地球人で無かったと知っても尚、今までの感謝の言葉を掛けてくれるルリ子の言葉を聞いたカーモンは、思わず泣き出しそうになってしまう。
その時、ルリ子と抱き合っているカーモンに修司が歩み寄って来て、カーモンに声を掛ける。
「……セリ・カーモン……」「し、修司殿……!」
声を掛けられたカーモンは少しばかり驚いたが、そんなカーモンに修司は険しいながら穏やかな心境で告げた。
「……故郷に帰ったら、大人しくしていろよ」「…………」
修司の言葉に黙然となってしまうカーモン。すると其処に
「もうっ、修司ったら、そんな言い方じゃダメでしょ」
無愛想な顔立ちでカーモンに告げる修司に笑顔で指摘するアッコ。彼女は笑顔のままカーモンに言った。
「すいません、カーモンさん。修司ったら余り人と話した事が無いんで上手く言いたい事が云えないんです」
「は、はぁ……」
思わず呆然としてしまうカーモン、アッコは続けてカーモンに話をした。
「修司が言いたいのはですね「無事に故郷に帰っても、自分の仕出かした罪を忘れず、そのまま静かに暮らしてください」って言いたいんですよ」
「…………」アッコの説明に唖然となるカーモン。
と、その時。宇宙船のハッチから声が。
「カーモン様ーー、テン・グー星への出発準備が整いましたぁ」
セリ・カーモンにそう告げたのは、修司こと聖龍使いの斬撃を喰らってしまい重傷を負っていた南蛮天狗であった。彼の正体は何と、宇宙船の整備士でもあり、黒天狗ことセリ・カーモンが飼っているペットで名をカルタ・カステラと云う白い犬で有ったのだ。
「カーモン様、早く故郷に帰りましょう! 修司殿やアッコちゃん、それにイサミちゃん達の気遣いで、ウッズさんや魁博士に宇宙船を直してもらったんですから」
「そうじゃな……カステラ、今まで本当に苦労を掛けたな」
「いえいえ、カーモン様ほどではありませんよ」
カステラとカーモンは互いに微笑みながら語り合った。あの事件の後、アッコやイサミ、それに芹沢ルリ子や田能久健率いる黒天狗党残党の必死の御願を聞きいれた修司の許可の下、ウッズと花丘魁博士に聖龍使いが大破した宇宙船の修復が施されたのである。
そしてカーモンとカステラは、改めて修司達の前に出向き、別れの挨拶を交わした。
「イサミちゃん、本当に騙し続けていて済まんかった。ルリ子も、本当に黙っていて済まない」
「ううん、芹沢の御爺ちゃんも元気で」
「御祖父様、故郷の星に帰っても体には充分御気を付けください」
今まで騙し通して来たイサミ、そして偽りとは云え祖父孫の関係にも関わらず自分の出生について何も話していなかったルリ子に謝罪の言葉を述べるカーモン。しかしイサミとルリ子は笑顔で優しく言い返した。
「……では銀天狗、いや田能久健。後の事は頼んだぞ」
「はっ、この銀天狗こと田能久健。必ずや黒天狗党と芹沢ジャパン、双方を指揮していく所存でありますッ! そして行く行くはルリ子と正式に籍を……」
「それとこれとは話が違うだろッ」
「はっは……まいったな~~」
発言の最中に、話に割って入って来たルリ子の言動に思わず苦笑してしまう健。彼は遠い故郷の星に行ってしまう黒天狗こと芹沢鴨之丞に代わり、残された黒天狗党と芹沢ジャパンを任せたいとカーモンからお願いされたのであった。
そして遂に宇宙船が離陸しようとするとき。
「それでは皆さん! 今までホントに申し訳ありませんでしたッ! そして宇宙船修理の件、本当にありがとう!」
元気よく手を振りながら皆に謝罪と感謝の言葉を告げる南蛮天狗ことカルタ・カステラ。
「イサミちゃん! 本当に今まで騙し続け、更に豹の爪に協力してしまっていてゴメンよ! これからはお父さんと一緒に仲良く暮らすんだよ!」
「はぁい! 芹沢の御爺様も、星に帰ってもお元気で!」
同じく威勢よく声を放ちながらイサミに謝罪と別れの言葉を述べるカーモン。対するイサミは笑顔で愛想よく手を振って返事をした。
更にカーモンはイサミに続いて、ハニー姉妹やアプリコットにも謝罪の言葉を言い放つ。
「ハニー姉妹! 脅されていたとはいえ、シスタージルやパンサーゾラと協力して君達に酷い事をして来てしまって済まなかった! アプリコット姫も、異世界では大変迷惑を掛けてしまって本当に悪かった!」
これに対しハニー姉妹は笑顔で手を振った。
「もう良いですよ! それよりも、無事に故郷のテン・グー星に帰れる事を祈っていますわ」
「星に帰れても、二度と悪事に手を染めないでよねッ」
それぞれ笑顔でカーモンに返事する。
ハニー姉妹に続いてアプリコットも笑顔でカーモンに手を振った。
「もう私は気にしてません! それよりも無事に故郷に帰ってくださいね、そして故郷に帰っても私達の事を忘れないで下さい、特にイサミちゃん達の事は忘れないで!」
と、自分の犯した罪と共にイサミ達の事を忘れない様にと釘付けした。
そして二人を乗せた宇宙船のハッチは次第に閉まり、遂にハッチが完全に閉じると船のエンジンが起動して宇宙船が宙に浮いていった。
すると宇宙船はそのまま、青い空に急速力で飛んで行き、姿を消したのだった。
「……どうぞ、お元気で。セリ・カーモンさん……」
宇宙船の消えた空を見詰めながら、穏やかな表情で呟くアッコ。その隣では、無愛想ながらも修司自身も穏やかな心情に浸っていた。
「……行っちゃったね、鴨之丞のお爺さん」
「ああ、まるで黒天狗党と闘い始めたのが昨日の事の様だぜ」
空を見上げながら呟きだすソウシとトシ。二人に続いてイサミも口を開いた。
「何だか……本当に物語の主人公みたいに成っていたわね。私達……」
こうして、イサミ達しんせん組とハニー姉妹そして聖龍隊の黒天狗党と豹の爪(パンサークロー)二つの組織との長い戦いは幕を閉じた。
皆が宇宙船が飛び去り消えて行った空を見上げながら、戦いの終わりその余韻に浸っていた。
そんな時だった。
「……成程。これがアナタの結成した聖龍隊なんですね」
『!』
突然、皆の背後から声が聞こえ、驚いた皆が振り返ると其処には一人の白人男性が立っていた。
「だ……誰なの!?」
男に驚いた冥王せつなが訊ねると、そのとき修司が男に歩み寄り、話しかけた。
「……ああ、アンタか。国連から派遣されたエージェントってのは」
『!?』
修司の発言に、その場の皆が驚愕していると男は平然と修司と会話を始めた。
「ええそうです。Mr修司、貴方の結成した聖龍隊が本当に例の「異次元からの勢力」に対抗できる組織かどうか確認する必要がありますしね」
「…………」
「Mr修司、この聖龍隊があの強大な勢力に対抗出来得る存在だと、本気で自負しているのですか? 国連の役員達も本当に日本(ジャパン)のヒーローに協力性が生まれるのかどうか疑問視しているんですが……」
すると修司は、突然顔付きを険しくさせ、眼光をまるで得物を狙い続ける野獣の如く鋭くさせて男の発言に言い返した。
「まぁ……今は完全なメンバーを招集してないから、そいつ等とも上手く共闘できるかでこの組織の真価は発揮できる。ちょいと今までウチ等の中での揉め事が遭ったんでね、それも今ちょうど全て終えた所だから、これから完全にメンバー全てを招集してチームワークを付けさせて行く考えだ。コイツ等は能力の方は申し分ない、後は全てのメンバーと協力し合えるかでこの世界の命運が決まる事だろうよ」
神妙な面持ちで淡々と語る修司の話の内容を、全て理解し切れず唖然としてしまう面々。
そんな中、唖然としてしまっているメンバーの一人でバーンズが修司に歩み寄り、修司の肩を叩いて彼に訊ねた。
「お、おい、修司……さっきから一体何を話しているんだ? 訳が分からねえんだが……」
バーンズに肩を叩かれ、修司が振り向いてみると、バーンズの後方からもバーンズ同様に理解し切れない聖龍隊の面々が修司の方に視線を向けていた。
修司は自分に注目する聖龍隊の同士達を眼前に、不敵な微笑みを浮かべて告げた。
「なに、ちょっとした……――この世界の崩壊を阻止する計画(プロジェクト)についての話だ。そう、俺たち聖龍隊が本当に戦うべき勢力との……敵に対しての話しなだけだ」
『!!!』
修司の台詞に、聖龍隊はもちろんその場に居た全ての面々が驚愕し愕然となった。
そして遂に明かされる事となる。
聖龍隊結成の本当の理由。
そしてこの世界を揺るがす、彼等が戦うべき巨大な勢力について。
次回 遂に全てのメンバーが一堂に揃う事となる。