【聖龍伝説:第二章】英雄達の日々 作:セイントドラゴン・レジェンド
[雨の中の一人と独り]
暗くジメジメとした6月後半。
この日も朝から雨が降り続き、空には分厚い雲が覆われていた。
そんな雨の中を、いつも以上にドンヨリと暗い顔立ちで修司は歩いていた。
「……あ~あ、ホントにヤダねぇ、雨は」
強くも無く弱くも無い雨足の中、修司は顔をムスッとさせて家路に着いていた。
そんな時、丁度十番街公園の前を通り過ぎようとした時だった。修司の目に一人の少女の姿が入った。
「ん? あれは……ちびうさじゃねえか」
雨が滴る中、公園の中央付近に有る植物の蔦(つた)が張巡られた屋根付きのベンチに一人座りこんでいた。
「……はぁ」
ちびうさは下を向きながら深いため息をついた。
「どうしたんだ、ちびうさ」「え? あ、修司さん……」
独りで煩悶の表情を浮かべるちびうさに修司は歩み寄り声を掛けた。
「どうしたんだ、こんな雨の中独りで居るなんてよ。風邪引いちまうぜ……あっ、母親に似て風邪は引かねえかもな。何とかは風邪引かねえって言うしよ。ひっひひ」
「…………」
小馬鹿にされても何も言わないちびうさの様子を察し、修司は気になり出した。
「……ちょっと良いか。よいしょっと」
修司は元気の無いちびうさの隣に腰を下ろした。
そして暗い表情を浮かべるちびうさに語り始めた。
「どうしたんだよ、いったい。またうさぎと喧嘩しちまったのかい? 一応は親子なんだし、仲良くしてやんなよ。毎回喧嘩ばっかじゃしょうがないぜ。衛だって余計な気ィ使っちまうかもしれねえしよ」
語る修司に対し、ちびうさが重い口を開いて訊ねて来た。
「……ね、ねぇ。修司さん」「ん? 何だい、ちびうさ」
「ま、前から聞こうと思っていたんだけど……」
「ん?」「そ、その……修司さんの家族って、どんな感じだったの?」
「!」
神妙な顔で訊いて来たちびうさの発言に対し、修司は内心驚愕した。
「……何で、その事聞いてくるんだ?」
訊かれた修司は突然、明るかった顔を暗く無表情にさせた。
「そ、その……前にウッズさんから聞いた事が有るの。修司さんは、その特殊な心を持っているからって、周りの人達から疎外されて来たって。か、家族からも同じように扱われて来たって、そう聞いたの……」
「……そ、そうか。ウッズから聞いていたんだな」
悲痛な面持ちで語るちびうさに対し、修司は悲愴な顔付きで呟いた。
「あっ、で、でもウッズさんを怒らないで上げて。ウッズさんは私達に修司さんの事を理解してもらおうと敢えて私達に伝えてくれたの!」
「あ、ああ……分かったよ、ちびうさ」
必死に発言するちびうさに修司は小さく言い返した。
「そ、それで修司さん。あ、あの……修司さんの家族って、どんな」
ちびうさが訊ねながら修司の顔を見上げてみると彼の顔は暗く冷たく、そして重たい顔付きになっていた。
「あ、あっ……べ、別に言いたくないなら無理に言わなくても良いですよ。誰にだって知られたくない過去の一つや二つは有りますものね……っ」
慌てふためきながら修司に言うちびうさに対し、修司は徐にちびうさの顔を見つめた。
「……いや。この際だ、お前にも言っておくよ。余り他人に自分の過去を話した事は無いんだけどな」
そして修司は少しばかり暗い表情を浮かべながら、ちびうさに語り始めた。
「……そう。俺は生まれ付き、心に闇が、いいや。心そのものが闇でできていた。故に周りの人間に対し不快感や不信等の感情ばかり抱いてしまっていた。そして、俺自身が周りを不快に思うのと同じように周りの人間も俺に対し不快感を感じたり俺の言動を疑ったりし始めて……。そんな連中に対し俺自身も更に不快や不信を抱くようになって行っちまって遂には身内からも煙たがれる様になっちまったって訳だよ」
「……」
「俺自身も、どうしようもできずにいた。こんな人を疑い、人を嫌ってばかりいる自分自身によ……。まっ、少なくとも、この町に来てからは少しばかりはマシになったのかもしれないけどよ。未だに俺の心には、決して晴れない闇が延々と覆っている心境だよ……」
「し、修司さん……」
修司の話を聞き、更に悲痛な面立ちになってしまうちびうさ。
そんな彼女に修司は続けて
「だからよ、ちびうさ。これはホントに、俺のワガママなんだがせめてお前や他の仲間達だけは親や家族と仲良くして欲しいと、そう願っている」
「……」
「実の家族とも不仲なんて不幸は、もう俺だけで充分だ。お前やうさぎ、そして衛や他の戦士達とは今後も末永く、仲睦ましくしてほしい。……だからよ、ちびうさ。もしなんか辛い事とか悲しい事が有ったらよ、ホントにいつでも良い。ウッズやアッコに遠慮なく話してみろ。ウッズはホントに聖龍隊の皆の事を思ってくれているしアッコは人が良過ぎるほどの御節介焼きな女なんだしよ」
「って、う、ウッズさんやアッコさんに話せって? 普通其処は『自分に言ってみろ』って言う所じゃないの……?」
思わず呆れながらも修司に言い返すちびうさ。
「い、いや……正直、俺は余り人の悩みはもちろん相談相手としては役不足だからよ。俺よりもウッズやアッコの方がしっかりとした相談してくれるぞ。アッコもいつも為になる話ししてくれるしな……意外だけど」
これを聞いたちびうさは真顔で修司に言った。
「……修司さん、いつもアッコさんに色々と相談に乗ってもらっているよね」
「え゛っ」
「確かにアッコさんって何処か頼れるって云うか、人の悩みとか真剣に聞いてくれるからね。相手の悩みもまるで自分の事の様に想い考えてくれるし……一緒に居るだけで明るくなれる、そんな人よね」
「あ、ああ。そうかもな……」
ちびうさの発言に頬を掻きながら言い返す修司。
修司はすぐさま話題を変えた。
「あ、そ、それでちびうさ。お前は何で此処に一人で居たんだ? うさぎと喧嘩しちまったんなら落ち着くまで家に居ねえか? 此処じゃ風邪引いちまうぜ。後で衛に電話して迎えに来させるからよ」
「あ、ありがとう……で、でも」「ん? 何だ、どうした?」
「……良いの? 其処までしてくれるなんて……」
「な、何を言うんだよ。俺たちゃ仲間だろ。何より落ち着くまで家でゆっくりさせるだけで謙遜するな」
「……」
「誰にとっても居場所になってくれるのが聖龍隊なんだしよ……」
「……修司さんにとっての居場所も、聖龍隊なの?」
薄暗い眼差しの修司に問うちびうさ。すると修司はちびうさの顔を見つめながら答えた。
「まぁな。そしてこの先も、誰にとっても居続けられる居場所。俺はそんな組織に聖龍隊を成長させていきたいと、願い続けている」
「!!」
修司の言葉に驚くちびうさ。
居場所の無い少年が、自らの居場所として組織した聖龍隊。
だが、それは同時に他の居場所の無い者達の居場所としても機能する様な組織に成長させていきたい。
そんな少年の思想に驚く、未来から来た少女。
そして、そんな組織はこの先更に多くの居場所無き者達にとっての居場所になっていく事を少女は、そして語った少年はまだ知らない。
[個性として受け入れろ]
神妙な面立ちで会話する独りの少年と一人の少女。
そして少女が徐に少年に話し出す。
「で、でも私も。修司さんの気持ちが少し解る気がする」
「えっ?」
ちびうさの発言に動揺する修司。
「私……未来では周りからママに、そうこの時代のうさぎに似ていない事で色々と言われ続けて……それで逃げる様にこの時代に来たし」
「!」ちびうさの台詞に内心驚愕する修司。
彼自身も自らも逃げる様にこの世界(二次元界)にやって来ていたので、ちびうさの言葉が胸に突き刺さった。
そんな修司は話し出し気落ちするちびうさに語り出した。
「そ、そう云えば聞いたけどよ、ちびうさ。お前は容姿や風貌でも周りから親と似ていないって色々と言われていたんだったな」
「う、うん……」
「ま、まぁ確かに。髪の色も形も、両親とも似ていないのは事実だしな」
「……」
顔を下に向かせて黙り込んでしまうちびうさ。
「まぁ、だが考えてみろちびうさ」「……」
「……よくよく考えてみたらよ。うさぎ自身も親とは似ても似つかねえじゃねえかよ。父とも母とも髪型が違えば髪色も違う……言っちゃなんだけど、親と似ないのはおそらく遺伝だよ」
真顔で平然と言い切る修司にちびうさは何も言い返せなかった。
「何より俺は別に良いと思うぞ、お前の髪型に髪色。親に似ていないのも個性的で、俺は気に入っているぞ」
「……」
笑顔で告げた修司の言葉に言葉を失くすちびうさ。
「何よりちびうさ。親と似ていないからって、それだけで自分を追い詰める必要なんて無いんだぞ。うさぎも衛も、そして他のセーラー戦士達だって、お前の事をちゃんと思ってくれている。お前は確実に周りから愛されている存在なんだ」
「……」
「だからよ、ちびうさ。別に自分と親とを比べる事は無いんだ。『お前はお前、親は親』何だからよ。考え込む必要なんて皆無なんだよ」
「し、修司さん」
「そんなに深く考えるな。愛されているなら、そして相手を愛する事ができるならそんな自分を大事にしろ」
「う、うん……」
修司の発言に首を小さく頷けるちびうさ。
「何より、お前はうさぎのそうクイーン・セレニティの娘として愛されているんじゃない。お前はお前、ちびうさだからこそ皆が愛してくれているんだよ。愛されるのに親とか身内とか関係ねえ。お前が優しい良い子だからこそ大事にされているんだよ」
「……」
「俺から見たら羨ましい限りだよ。優しい家族、自分を思ってくれる周りの人達。俺はいくら望んでも、願っても決して手に入れられないものを、お前は持っているんだからよ……」
「し、修司さん……」
悲しげに語る修司を眼にして、ちびうさは思わず涙目になる。
「それによ。お前とうさぎは似ている所だってちゃんと有るじゃねえか」
「へ? ど、どんな?」
「例えばだな……確かに髪色に髪型は違っちまっているけど、結構特殊な髪型には違いないしよ」
「ま、まぁ……言われてみれば、そうだけど……」
ちびうさは複雑そうな面立ちで答えた。
「性格だって結構似ている所が有るじゃねえかよ。ホントに仲の良い親子だなって感じられるぞ」
「そ、そうかな……」
「そうだぜ。……俺なんか母親から『修司と母さんってウマが合わないわよね』って言われちまったよ」
「う、ウマが合わないって?」
「ああ、簡単に云えば性格が合わないって事だよ。ホントに俺と母さんは性格とかが合わなかったからよ喧嘩もすれば互いに距離を置いたりと色々有ったよ」
「そ、そんな……」
親と性格が合わなかった為に互いに距離を置かざるを得なかった親子の存在にちびうさは驚愕してしまった。
「……実の親子でもな、ウマが合わないって事が有るんだよ。そんな子供の俺から見れば、ちびうさは恵まれた子供なんだぜ。だからこそ、余り喧嘩せず仲良くして行って欲しいんだよ」
「……」
「おっ、すまねえ。何気に陰気臭い事ばっか話しちまったな。お前を元気づけさせようとしていたのにウッカリ暗い事ばっかり話しちまって。ダメな男だよな、俺って」
苦笑し後頭部を掻きながら申し訳無さそうにちびうさに向かって言う修司。
「し、修司さん」
「……でもなちびうさ。敢えて親と違う個所を、逆に受け入れるって手も有るぜ」
「う、受け入れる?」
「そうだ。うさぎもお前も特殊な髪型では同じだろ。でもうさぎとは根本的に違うのも事実だ。だったら、その部分も自分の魅力として、個性として受け入れていけば良い」
「……」
「この世はな、みんな同じ何て事はないんだ。皆それぞれ違うからこそ世の中ってものは成り立っているんだ。皆が違うからこそ諍(いさか)いや争いが絶える事が無い。だけど同時に皆が違うからこそ世界は魅力的でかつ面白いんだと俺は思う」
「……みんなが違うからこそ、世界は、面白い」
思わず呆然となるちびうさ。
「そうだ。皆が違う、皆が個性的だからこそ世の中は面白いし一人一人が輝いていけると俺は信じている。実際、聖龍隊のみんなだってそうだ。性格はもちろん能力(ちから)だって違うからこそ互いに助け合ってイケる事ができただろ? みんなが違うから互いに助け合える……だから仲間と云う存在も有るんだよ」
微笑みながら語る修司の話を聞き、ちびうさはただただ呆然となりながら聞き続けた。
「そ、そうだよね。みんなが違うから世界は魅力的なんだよね」
「ああ、そうだ」
話を聞いたちびうさは笑顔で修司に言い返し、修司も笑顔でちびうさに返答した。
更にちびうさは、修司に訊ねてみた。
「し、修司さんも、うさぎや私の髪型、素敵だって思ってくれているのよね」
「ん? ああ、そうだぜ。逆に個性的すぎて印象が強過ぎるぐらいだ」
「そっかぁ……そう云えばアッコさんも不思議な髪型だもんね」
「ん? そっか? まぁ、確かにアイツの髪型も周りとは少しばかり違うかもしれねえけど特別気にしちゃいねえからな」
「もう~、レディーの髪を気にしないなんて失礼だよ」
「……別にアイツの髪なんて気にするほどの事じゃないと思うんだけどな」
思わず顎をしゃくらせて言い返す修司。
「……でも修司さんだって、そんな意味では個性的だよね」
唐突に修司に告げるちびうさ。
「そ、そうか……?」
「そうだよっ、だからこそ一緒に居て楽しくなれるんじゃない」
ちびうさの言葉に表情を固める修司。彼は彼女に訊いた。
「な、なぁ、ちびうさ」「ん? なぁに?」
「お前は、怖くないのか? 俺の事がよ……」
「へ? な、何で……」
「……俺みたいに余り笑う事も無い無愛想な男がよ。不気味な面の俺を、怖いとは思わないのか……一緒に居ても、平気なのか?」
「な、なに言っているの? 修司さん全然怖くなんて無いよ!」
「……」
「確かに、最初に修司さんと出逢った時は余り笑顔を見せてくれる事が無かったから少しばかり接する事ができなかった……。だけど一緒に居る内に、ホントに面白い人だなってホントに周りと違うからこそ魅力的だなって、そう感じたよ」
「…………」
「修司さんは、ううん、無愛想な人は誰だって怖いだけだよ。でも笑顔になっていれば人は誰だって」
「俺のその笑顔が怖いと思った事は無いのか」「え……」
突然の修司の発言に驚くちびうさ。修司はちびうさに続けて話した。
「俺の笑顔そのものは怖くないのか。気味の悪い、見ているだけで不快になる笑顔を良く思えるのか……」
「き、気味が悪いって……え、笑顔の事だったの? だ、誰がそんな事を……」
動揺するちびうさに、修司は続けて語った。
「……昔っから、俺の笑った顔、笑顔は気味が悪いと周りから言われて来たんだよ。『気味が悪い』等と言われ続けて、今では上手く笑う事すらできない。いや、笑う事が怖くなっちまった。俺が笑えば、また周りを不快にさせる。お前達までも同じように言うのかと思い、俺は極力笑う事をしなくなった。……今では心から笑顔を見せる事など、俺にはできなくなっちまった」
「し、修司さん……!」
「正直俺は……お前と違って、存在そのものが醜いからな。仕方が無いのかもしれないけどよ」
修司の告発に驚愕したちびうさは彼に告げた。
「だ、大丈夫だよっ。修司さんの笑顔は不気味でも醜くも無いよっっ」
「……ちびうさ」
「修司さんの笑顔はスッゴク素敵だよ。いつもの悲しそうな顔よりも明るさに満ちた笑顔は周りの人達だって、私達だって明るくさせてくれるよ」
「…………」
「も、もう修司さんの顔を不気味だなんて言う人は、少なくとも聖龍隊には居ないわ。だからそんな事言わないでよ」
「ちびうさ……」
必死に自分を元気づけようとしてくれるちびうさの気持ちを感じた修司は微かであるが口元を笑わせた。
「……ありがとう」「う、うん」
小さく礼を言った修司に、ちびうさも首を小さく頷かせて返事した。
更にちびうさは平然と笑顔で修司に発した。
「それに修司さん。私を含めて他の人に笑顔になって欲しいんだったら、まず自分が笑顔にならなきゃ。相手が笑顔を見せてくれるには、まず自分から相手に笑顔を見せなきゃいけないよ」
「ちびうさ……それって完全にアッコの受け売りだよな」
「イ゛ッ……ま、まぁね……」
指摘され思わず苦笑するちびうさ。
そんな彼女の顔を見て、余計に口元を微笑ませる修司だった。
[6月の花と言葉]
「さ、さあってと。いつまでも雨ん中居たんじゃ風邪引いちまうな、そろそろ帰るか」
「あ……う、うん……」
一通り話を終えて修司は帰ろうと発したが、ちびうさは何処か複雑な面持ちで有った。
「……ん? どうした、ちびうさ。まだ何か気になる事でも有るのかい?」
修司が訊ねると、ちびうさは複雑そうな表情を浮かべながら答えた。
「う、うん……じ、実は…………私、修司さんが来る前まで、うさぎに贈るプレゼントの事で悩んでいたの……」
これに対し、修司は少々驚いた。
「え? ぷ、プレゼント? な、なんだ。うさぎと喧嘩していたんじゃなかったのか。い、いや、勘違いしちまっていたようだな。悪りィ悪りィ」
修司は目を丸くさせながらちびうさに謝った。
「そ、それで……悩んでいるプレゼントって、何のプレゼントだ? 何か祝い事か何か有るのか?」
「う、うん。今度の30日、うさぎと私の誕生日なの。それで私からはうさぎに何を手渡して良いのか考えてたの」
「うん? ……あ、そう云えばお前達って、確か同じ誕生日だったな」
修司はウッカリ二人の誕生日を忘れていた。
「お、可笑しいかな……親子で同じ誕生日だなんて……」
上目使いでちびうさが呟く。
「い、いや。別に、大丈夫だろう。ウッズとジュニアだって親子で同じ誕生日なんだしよ。変じゃないと思うぜ」
「う、うん……」
修司の言葉に小さく頷いたちびうさ。
そんな彼女に修司は訊ねた。
「そ、それで……お前はうさぎに何を贈ろうと思っているんだ?」
するとちびうさは思い詰めた表情で修司に答えた。
「そ、それが、まだ決まって無くて……」
「お、お前はどんなプレゼントを贈りたいって思ってるんだ?」
「そ、それは……見当もつかなくて……何か買いたくても、私ほとんど御金持ってないし……」
ちびうさは下を向いてしまった。
「そうか……それじゃあ、ちびうさ」
「うん?」
「……アレなんて、どうだ?」
修司が指差した先には、公園内で自生している色とりどりの紫陽花(あじさい)であった。
「あ、アジサイ……」
ちびうさは唖然とし、二人は傘を差して紫陽花の所まで歩み寄った。
「公園の紫陽花なら金は掛からないからお前でも手に入るだろ。もし管理人とかに何か言われたら俺が事情話しておくからよ」
「う、うん……でも」「ん?」
「な、何でアジサイなの?」
ちびうさが修司に訊ねると、修司は無表情で語り始めた。
「いやな。どうしても6月って紫陽花ってイメージが有るからよ。6月の花として贈ってやればうさぎも喜ぶだろ」
「……」「そ、それとも女に花って固定概念は気障っぽいか、な」
「う、うぅん! 凄く素敵だと思うよ。だ、だけど、アジサイかぁ……」
ちびうさは鮮やかながら妖しい紫色の紫陽花をジッと見つめた。
そんな彼女に修司は更に告げた。
「……なぁ、ちびうさ」「うん」
「お前は紫陽花の花言葉を知っているか?」
「あ、アジサイの?」
ちびうさは思わずポカンとしてしまった。
「紫陽花って云うのはなジメジメした雨期を中心に開花するから余り良いイメージが無くてな。正直、多くある紫陽花の花言葉も暗いイメージの言葉が目立つんだよ」
「た、例えば、どんな?」
「まぁ、色々あるが『移り気』『高慢』『無情』『浮気』『あなたは冷たい』とか聞いてて余り気持ちの良い言葉が目立つんだ」
「そ、そうなんだ……」
薄暗くなっていく表情を浮かべるちびうさに、修司は軽く笑みながら続けた。
「で、でもなちびうさ。他にも紫陽花には『強い愛情』『辛抱強い愛情』『元気な女性』とか。うさぎに似合う花言葉も有るんだぜ」
「そ、そうなの。確かにうさぎには元気な女性が似合うもんね!」
ちびうさは笑顔になった。
「そうだろ。他にも『自慢家』や『一家団欒』(いっかだんらん)って言葉も有るんだ」
「そうなんだ……! うさぎは結構、自分の活躍を自慢するし、それに一家団欒なんて言葉は素敵よね」
ちびうさは眼を輝かせ始めた。
「だろ? お前たち親子には似合いだと思うんだが……」
ちびうさに語り続ける修司は更に続けて彼女に話した。
「それにな、ちびうさ。この紫陽花にはもう一つ、俺が一番素晴らしいと素敵だと感じる花言葉が有るんだよ」
「え。そ、それって、どんな言葉なの?」
思わずちびうさが訊ねると修司はちびうさにその言葉を聞かせた。
雨音に修司の言葉がかき消される中、ちびうさの耳にはしっかりとその言葉が入った。
ちびうさは修司から伝えられたその言葉を耳にし心から驚き感動した。
「! そ、そんな言葉も意味していたの……!」
「ああ、これならお前達親子には一番似合うんじゃないのか? 俺自身この言葉が一番、紫陽花の花言葉では胸に響くんだよ」
「そ、そうなの……」
修司の発言を聞き、ちびうさは内心複雑で有った。
「……俺自身、この言葉が意味しているモノを感じられた事が今まで無かったからな。せめて、お前やセーラー戦士達はもちろん他の仲間達にはこの言葉を一番感じて欲しんだよ。俺が感じられない分、みんなに感じていて欲しいんだ……」
「し、修司さん……」
「お前やうさぎ、そしてセーラー戦士達の間には今までいろんな確執とかが有ったけどな。これからは何が有っても大切な繋がりを結びつきを失うことなく末永く仲良く生きていて欲しんだよ。……俺は、そう心から祈っている」
空虚な瞳で発言する修司の眼を、ちびうさはジッと見ていた。
「……大丈夫だよ」「え」
ちびうさは唐突に修司に云った。
「大丈夫だよ、もう私は何が有ってもみんなと絆を失う様な事には成らないわ。それに修司さんにだって、いつか家族の温もりを感じられる日が必ず訪れるわよ」
「ち、ちびうさ」
「わ、私にだって感じられたんだもの。何時か修司さんにだって家族の温かさが感じられる筈よ」
「ちびうさ……フッ、済まねえな。幼いお前に励まされちまうなんて俺もまだまだだ」
笑顔で励ますちびうさに対し修司は微笑しながら返したのだった。
そしてちびうさは更に修司に言い放った。
「それに、修司さんは聖龍隊を誰にとっても居続けられる場所に、組織にしたいんでしょ?」
「あ、ああ」
「つまり聖龍隊を家族みたいにしていきたいって事だよね。そうでしょ」
「か、家族……聖龍隊を、か」
「うん、そうだよ。誰にとっても居場所で有り続けられるって事は誰にとっても家族で有り続けられるって事じゃない。楽しい事も、辛い事も一緒に感じられる……それが聖龍隊だって、私は思うよ」
「…………」
ちびうさの言葉に修司は無言になって考えた。
聖龍隊結成は、ただの自己満足そう多くの非業の運命を辿る二次元人を救い修司自身の心の悲痛も一緒に消し去ろうと考え結成された、修司の自己満足で生まれた組織。
そんな聖龍隊を家族の様な集いにしていく……修司は内心とても複雑で有った。
そんな無言になった修司に続けてちびうさが言った。
「わ、私は聖龍隊って素敵だと思うよ。色んな力の持ち主や性格の人達が集まっていて、みんなと一緒に居るととても楽しいしこれから先も聖龍隊は存在し続けて欲しいって思う。修司さんだって私達と一緒に居るの嬉しいでしょ。私やうさぎ達だって修司さんやアッコさんそれに他の聖龍隊のみんなと一緒に居るのが凄く楽しいし嬉しいよ。これからも色んな人達を聖龍隊に誘って結びつきを作っていこうよ。ね」
「ちびうさ……」
自分より幼いちびうさの優しい励ましを聞き、修司の心は穏やかになっていった。
「……ま、まぁ。長話はこれ位にして、そろそろ帰るか。ちびうさはこの後どうする?」
「う、う~ん。ま、まぁ折角誘われたんだし、しばらく修司さんの家でゆっくりしていく」
「そ、そうか。それじゃ、一緒に行くか」「うん」
二人はそうして公園を出て行った。
その道中
「ちびうさ。誕生日の日にはウッズと一緒に公園の紫陽花伐り取ってウッズに包んでもらうか」
「え、ウッズさんに」
「ああ。あいつなら上手く綺麗に包装してくれることだろうしな。やっぱり贈り物は綺麗な状態で手渡さないとな」
「うん、そうだよね。あ、ところで修司さんは私やうさぎの誕生日には来てくれるの?」
ちびうさは訊ねてみた。すると修司は何気なく返答した。
「あ、ああ。済まない、実は他に予定が有ってな。俺は行けないんだ」
「そ、そうなの……」
「だからよ、ちびうさ。俺がウッズに頼んで置くから一緒に紫陽花の花を刈り取って家で綺麗に包装してからうさぎにプレゼントしてやれよ。俺がさっき言った花言葉をうさぎに伝えてやれば、うさぎも絶対喜ぶ筈だからよ」
「う、うん」
「……ところで、ちびうさ」「うん?」
「もう少し離れて歩かないか」「何で?」
「い、いや……幼い女の子と一緒に歩いていると危険な人物じゃないかって思われないかなって……」
「大丈夫だよ、もう。別に修司さん怪しくないんだし」
「そ、そうかな……」
「もう、修司さんはホントにもう少し自分の容姿に自信を持ちなさいよッ。そんな弱気じゃアッコさんに嫌われちゃうよ」
「な、何で此処でアッコが出てくる訳……?」
「折角何だし、修司さんの傘に入れてよ、ねっ」
ちびうさは突然、自分の傘を折りたたみ修司の傘に入り込んで来た。
「う、うわっ。ちょ、ちょっとちびうさ……」
「別に良いでしょ。たまにはアッコさん以外の女性とも仲良くしてくれたって……」
「で、でもな……」
「別に修司さんは怪しくも怖くも無いんだから、堂々としていれば良いのよ」
ちびうさの発言に渋々合意する修司。
「わ、わかった。で、でもな、ちびうさ……」
「ん?」「……せめて、この事だけは衛には云わないでくれよな」
「へ? 何でまもちゃんにだけは言っちゃダメなの?」
不思議がるちびうさに対し、修司は神妙な面持ちで語った。
「……だってよ、自分の愛娘が知人とは云え男と相合傘で歩いているなんて父親にしてみれば気持ちの良い事じゃないだろうしよ。下手したら俺、衛に殺されるワ……」
修司は苦笑いしながら呟いた。
「は、ハハハ……ま、まさか。大丈夫だよ、まもちゃんなら……多分」
ちびうさも苦笑いしながら修司に向かって呟いた。
小雨の降り続く中かつて孤独に囚われていた少女と未だに孤独の中で生き続ける少年は雨の中を歩いていった。
[紫陽花と家族]
あれから数日後。
修司とウッズの計らいで修司宅の地下の広い部屋を貸し切らせてもらい月野うさぎとちびうさ親子の誕生会が開かれた。
「いや~、同時に誕生日迎える親子って珍しいよな」
「何言ってるんだい。僕と父さんだって同じなんだよ」
笑顔で誕生会を楽しむうさぎやちびうさ更に他のセーラー戦士達に交じって参加している変身怪獣にジュニアが会話をしていた。
「あ、あの……うさぎ」「ん? な~に、ちびうさ」
「そ、その……これ」「うん? これは……」
「わ、私からの、誕生日プレゼント……」
ちびうさはうさぎに綺麗にデコレーションされた紫陽花の花束を差し出した。
「うわぁ、キレイな紫陽花。それに包装もちゃんとしてるわね」
「う、うん。さっき、ウッズさんと一緒に公園のアジサイを取って来てそれにウッズさんがちゃんと包装してくれたの」
「え? 公園の紫陽花を……か、勝手に取っても大丈夫かしら……」
亜美が呟くと、一緒に居たウッズが語った。
「ああ、それなら大丈夫ですよ。あらかじめ公園の管理者には報告していますし何より市長で有る修司様の許可も下りてますので安心してください」
「なるほど。それなら別に大丈夫だね」
ウッズの言葉にはるかが呟く。
「ご、ゴメンなさい。私、お金とかも無いし、他にうさぎに渡せる物ないからタダの公園のアジサイになっちゃって……」
「大丈夫よちびうさ。貴女のプレゼントも、私は凄くうれしいわよ」
下を向きながら呟くちびうさに優しく話すうさぎ。
「……ところでよ、みんな。修司は何処に行っちまったんだ? 姿が見えねえけど」
変身怪獣の言葉にすかさずウッズが放つ。
「ああ、修司様なら、今日は用事が有ると云う事で家にもいらっしゃらないんですよ」
「なんだよ、仲間の誕生日ぐらい祝ってやればいいものを」
「もう良いさ変身怪獣。アイツは仲間の誕生日何かどうでも良いんだろうぜ」
変身怪獣の発言に対して衛が顔をムスッとさせてボヤいた。
そんな顔をしている衛にちびうさが言った。
「そ、そんな事無いよ、まもちゃんっ」「え?」
「し、修司さんだって色々と事情が有るんだしさ。怒らないで上げて」
「あ、ああ……」
修司を弁明するちびうさに、衛は何も言い返せなかった。
この時、変身怪獣はウッズに訊ねてみた。
「お、おいウッズ。修司はホントに今日は何か予定とか有ったのか?」
するとウッズは複雑そうな面立ちで答えた。
「い、いえ……実は修司様、未だに人の多い所とか苦手でして。此処で誕生会を開かせてくれてはいるのですが一緒に参加するのだけは躊躇ってしまって……」
「タクッ、仕方のねえ野郎だな」
愚痴をこぼしてしまう変身怪獣。
「ところでちびうさちゃん」「ん? なに、ほたるちゃん」
「何でうさぎさんのお誕生日プレゼントに紫陽花を選んだの?」
土萠ほたるがちびうさに訊ねてみると他のセーラー戦士達もちびうさの発言に注目し始めた。
「そう云えば、何で紫陽花を?」
まことの質問にちびうさは答えた。
「う、うん。やっぱり6月のイメージにピッタリかな……って」
「そう云えば、アジサイの花言葉って何か陰湿なのが多かったような」
美奈子が上目使いで思わず呟いた。
「言われてみれば……確か移り気とか高慢とか、結構陰湿な言葉が有った様な……」
顎元に指をやりながら語るみちるに、せつなが言った。
「も、もう花言葉は関係ないですわよ。6月をイメージする綺麗な花なだけなんですから……」
「で、でもね。みんな……」
突然ちびうさが会話を断ち切るかの如く言い始めた。
「あ、アジサイの花言葉には、他にも色んなそう、うさぎに似合う言葉だって有るんだから」
「え?」「た、例えば?」
亜美とまことが眼を丸くしてちびうさに訊ねた。
「う、うん。辛抱強い愛情とか、元気な女性とか……一家団欒なんて言葉もアジサイには有るんだよ」
「ほぉ~、辛抱強い愛情……か」
「今まで激しい戦いを繰り広げて来たセーラー戦士達には相応しい花言葉だね」
ちびうさの台詞を聞き納得する変身怪獣とジュニア。
更に笑いながらレイや星野が告げる。
「そうね、それに元気な女性ならうさぎにピッタリだし」
「元気が有るっていうより、元気が有り余っているけどな。キッシッシ」
「何よ、二人とも……」
二人の発言に頬を膨らませるうさぎ。
その時、ちびうさは更に皆に言い切った。
「そ、それにね、みんな。アジサイの花言葉で私、うさぎやみんなにピッタリだなって感じられる言葉が有るの」
「え?」「な、何なの? その言葉って……」
美奈子とレイは思わず唖然としながらも、ちびうさに訊ねた。
するとちびうさは皆に伝えた。
あの日、修司が自分に伝えてくれた彼が最も素敵だと感じる紫陽花の花言葉を皆に伝えた。
全員、これを聞いて胸の内が熱く感じた。
「……あ、紫陽花の花言葉には、そんな言葉も有ったのね」
眼を丸くして驚くレイ。
「……素敵ね。その花言葉」
亜美は眼を輝かせて穏やかに感動していた。
「……私達セーラー戦士達にとっては何よりも身に沁みる言葉ね」
まことは胸に拳を当てながら呟いた。
「で、でもね、みんな。この言葉はセーラー戦士だけの言葉じゃないよっ」
「え? それってどういう事なの? ちびうさちゃん……」
ちびうさの発言に思わずキョトンとするほたるはちびうさに訊いた。
そしてちびうさは真剣な顔で皆に言い放った。
「わ、私達セーラー戦士だけでなく、この言葉は聖龍隊にとっても大切な言葉なのよ」
「た、大切な言葉……」呆然となりながら呟く衛。
「うん。聖龍隊だって、今ではもちろん、この先も沢山のお友達を助けて行く人達の集いなんだよ。そんな人達と同じ気持ちで集まる私達は既に立派な家族何じゃないのかな。私はそう思うの」
力強いちびうさの発言に皆ただ驚愕するしかできなかった。
そんなちびうさに、うさぎが語りだした。
「……そうね、ちびうさ」「う、うさぎ」
「確かに。私達セーラー戦士はもちろん、聖龍隊のみんなだって今じゃもう家族同然の、いいえ、それ以上の結びつきが有るんだものね」
「うさぎ……」ちびうさは目を輝かせた。
「私も同じよ。聖龍隊はもう私達にとっても、そして他のみんなにとっても家族以上の関係だものね。この先も、今以上に多くの人達とそう云った結びつきを作っていければ素敵よね」
「う、うさぎ……」
愛情と優しさに満ちたうさぎの瞳を見つめながら、ちびうさは静かに感極まっていた。
その場に居たセーラー戦士達に変身怪獣、そしてジュニアもちびうさが口にした花言葉に胸を熱くさせて感動していた。
ちびうさが皆に伝えた、小田原修司が最も愛してやまない紫陽花の花言葉。
それは
『家族の結びつき』