星を追う子に春の祝福を   作:ロドリゲウス666

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初投稿です。


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 その日、ティンタジェルに一隻の舟が流れ着く。

 目も眩むような財宝と、白い布にくるまれた赤ん坊が1人。

 

「アルトリア、と言う名前の赤ん坊」

 

「予言は本当だったんだ。この子こそが『予言の子』」

 

「この子が16歳になった時、私達は救われる」

 

「育てなければいけない。私達が救われる為に」

 

「この子の全てを、私達に使わせる為に」

 

 一隻の舟を囲むようにして現れる、幾人もの妖精達。彼・彼女達はティンタジェルに住まう妖精達。

 誰も彼もが、舟と共に流れ着いて来た赤子の来訪を祝福する。

 されど、ソレは表面上のものでしかない。

 

 全てが嘘。

 何もかもが嘘。

 嘘。嘘。嘘つき。欺瞞だらけ。

 

 未だ赤子である彼女――アルトリアの目には、彼・彼女達の本音が見えた。アルトリアを嫌っている事を。蔑んでいる事を。見下している事を。

 彼・彼女達の頭の中にあるのは、舟に積まれた大量の宝物だけ。何故なら、ティンタジェルは壊滅寸前の村だったのだから。

 

 宝物が運ばれてこなければ今年の税を納める事も出来ず、村の妖精達は全員露頭に迷ってしまっていた事だろう。

 だからこそ、宝物が流れ着いた事には心の底から感謝する。

 

 おまけとして付いて来た『予言の子』に対しては、邪魔だなと言う悪意を隠そうともしない。

されど、彼女は『予言の子』。

 

 妖精達を救ってくれる存在だ。

 詳細は知らない。

 しかし、妖精達を救ってくれるというのであれば、さぞかし素晴らしい存在なのだろう。さぞかし素晴らしい存在だとすれば、きっと私達に利益を齎してくれる事だろう。なに、使えない役立たずだったら売ってしまえば良い。

 

 こんなにも弱々しいのだ。

 どうせ、逃げる事なんて出来はしない。

 妖精達が考えている事は同じだった。

 

 全員が全員、悪意や害意に染まっている。

『予言の子』を目の前にして、膝を付いて祈っている妖精も居るが所詮は上辺だけ。

 

「この子が16歳になるまで育てる事にしようか」

 

 誰かが呟けば、妖精達は賛成する。

 

「でも、どうやって育てる? どうせ、私達の事は内心で馬鹿にしている筈だ」

 

 根拠のない被害妄想。

 しかし、ソレを否定する者など誰もいない。

 

「それに女王の軍にバレてしまうのも面倒だ。……やっぱり、今すぐ売りに出してしまう方が良いんじゃ無いか?」

 

 ――女王の軍。

 

 その言葉を聞き、妖精達は一斉に黙ってしまう。

 冬の女王モルガン。

 

 彼女が課している重たい税こそ、今まさにティンタジェルが危機に直面している原因だ。おまけに、裏切り者には容赦しない。『予言の子』を見つけたら、即刻引き渡せと言うお触れだって出ている。

 バレてしまえば、どうなるか分からない。

 

「あ、そうだ! 思いついたわ」

 

 閃いた、とばかりに快活な声を上げる妖精。

 

「馬小屋で育てれば良いのよ。まさか、女王の軍だって『予言の子』を馬小屋で育てるなんて思いもよらない筈だわ」

「成程。家畜と同じ扱い、と言う事か」

「それは悪くない」

 

 常識など存在していない。

 そもそも、妖精と言う存在自体が気分屋みたいなものだ。

 悪意も、善意も存在しない。

 

 ただただ純粋。

 故に、どれだけ悪しき行為に手を染めたとしても、罪悪感を抱くことはない。ソレが悪い事だという自覚すらないだろう。

 

 かくして悍ましき決定は為され、アルトリアと呼ばれた赤子は村の妖精達に引き取られる――筈だった。

 地面を踏みしめる音。

 

 妖精達が意見を出し合っている喧騒の中、その音は聞こえた。

 誰か音の聞こえた方向を見れば、やって来るのは1人の妖精。

 彼女もまた、住人の一員。

 

 にも関わらず、先程の喧騒は鳴りを潜める。

 彼女に対して幾つもの不躾な視線が向けられる。

 

 美しい妖精だ。

 真白よりも尚、白い髪は肩に掛かる程度に伸びている。顔立ちは整っているものの、どこか無機質。

血の様な真っ赤な瞳に宿る感情は「無」。

 

 背は高く体格は細め。

 白いカーディガンらしき衣類を肩から羽織り、その下は膝の丈程の長さのあるスカートを身に纏っている。

 

 普通の服装。

 しかし、手に持つ槍のせいで彼女の見た目は、幾人もの妖精達が居る中でも浮いている様に感じられた。

 

「……獣狩り」

 

 誰かが呟くが、意に介した様子もなく、アルトリアと無数の宝を乗せた舟に近づこうとする。しかし、1人の妖精――村長と呼ばれている初老の男――が女性の前に立つ。

 

「ユーリよ。一体、何の用だ? 申し訳ないが、獣狩りにお願いしたい仕事はない」

「分け前を貰いに来たの」

 

 単刀直入。

 自身がここにやって来た理由を簡潔に答える。

 ユーリと呼ばれた妖精。

 

 住人である妖精達がざわつく。

「ふざけるな!」と、怒声混じりの野次まで聞こえて来る。

 村長と呼ばれている妖精は、やや弱ったように顔を顰めながらも、ユーリを刺激しないように丁寧に受け答えを行う。

 

「……済まんが、それは了承できん。この宝は、村を維持する為に必要なものだ。理解はしているだろう? この宝が無ければ、村は終わってしまう」

 

「そうね。じゃあ、構わないわ。宝に関しては、諦めてあげる」

 

 尊大な態度。

 だが、妖精達は何も言わない。

 只、ユーリを睨みつけるだけ。

 

「代わりに、その子を頂戴」

 

 ユーリが指差す。その先に居たのは、白い布でくるまれた赤子。

 いずれ、全ての妖精を救うと言われる『予言の子』。彼女は、他でも『予言の子』を自身の分け前として要求して来た。

 

「な、何を!?」

「宝は要らないわ。私はその子が欲しい」

 

「分かっているのか? その子は『予言の子』だぞ!」

「それがどうかしたのかしら? どうせ、貴方達の事だもの。粗雑に扱うのでしょう? けれど、私は違うわ。私は大切にする。だって、母親と言うものに興味があるのだから」

 

 村長は何かを言おうとしていたが、話はコレで終わりだとユーリは通り過ぎる。

 舟の周囲を囲むように、幾人もの妖精達が集まっている。

 ユーリが近付いても尚、道を空けようとはしない。

 

 向けられる視線は「余り調子に乗るなよ」と言った、反抗的な意志が感じられた。

 が、どうでも良い。

 ユーリは有象無象に興味はないのだから。

 

「退いてくれるかしら?」

 

 水晶のように透き通る声。されど、極寒のように冷え切った声はユーリの前に立ち塞がる妖精達、全ての耳に届く。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 誰も、何も言わない。

 立ち塞がるように存在していた集団が割れ、ユーリが進む為の道が作られる。感謝を口にする訳でもなく、妖精達を一瞥する訳でもなく、舟にのせられている赤子に近づく。

 両手を使って、優しく抱きかかえる。

 

「後はどうぞお好きに。それじゃあ、さよなら」

 

 用は済んだと、妖精達に背を向けて、その場を後にするユーリ。

 背に向けられた幾つもの苛烈な視線に対して、ユーリが何らかの反応を示す事はなかった。酷くどうでも良い、と背中が語っていた。

 

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