別に故意では無かった。
単純に、ユーリが使っている獲物――槍に興味を持ち、軽く振っただけ。
しかしユーリとは異なり、筋力などは鍛えていないアルトリア。槍の重さやリーチの長さに振り回された結果、持っていた槍を地面に落としてしまう。
「あ」
金属質な音と共に、割れるような鈍い音。
嫌な音だ。
槍の穂先が折れてしまった。
――不味い。どうしよう。
壊すつもりはなかった。しかし、この槍の持ち主はユーリ。装飾などは施されておらず、無骨で地味な槍ではあるが、彼女にとっては大切な物だろう。
誤魔化すべきか? 或いは、これと同じものを購入する?
だが、アルトリアにはそんな伝手は無いし、口八丁で誤魔化した所でバレてしまう。何故か分からないが『妖精眼』でも持っているんじゃ無いか? と疑ってしまう程、彼女の勘は鋭い。
「ど、どうすれば……」
「一体、何がどうしたのかしら?」
「わっ!?」
外に出ていたユーリが戻って来た。
穂先の折れてしまった槍を前にして、慌てふためいている姿を見られてしまう。
「…………その。どうか、命だけは」
殺されはしないだろう。
命の危機に直面してしまいそうな、壮絶な罰は受けるかもしれない。
土下座しそうな勢いで謝罪するアルトリア。
しかし、ユーリの反応はアルトリアにとって予想外のものだった。
「そう。壊れてしまったのね。別に気にしなくても良いわよ。所詮は武器。何時か壊れてしまうのは、当然というものよ」
「え? 怒ったりしないの?」
「貴方はいい加減、私に対する人物像を改めた方が良いんじゃないのかしら? わざと壊した訳では無いのだから、責めるつもりは全く無いわ」
「……じゃあ、故意で壊したら?」
「それは勿論殴るつもりだけど」
「やっぱり物騒じゃん!」
極端すぎるのではないだろうか?
アルトリアにとってのユーリと言う人物像は、今だ改善の余地がない事が証明されてしまった。
「けれど、やっぱり槍を使う事が出来ないというのは困りものね。エクターの所に行って、直して貰おうかしら」
「エクター?」
聞き馴染みのない名前に、アルトリアは首を傾げる。
「そう言えば、貴方はまだ会った事が無かったかしら? 丁度良い機会だし、私と一緒に行く?」
「うん! 行きたい!」
母親とのお出かけ。
ましてや、自分の行ったことのない場所に向かうのだ。
食いつかない筈がない。
(けれど、エクターか。お母さんの口ぶりからして、少なくとも村の皆よりは仲が良さそうだけど一体誰なんだろう。……いや、お母さんと仲が良いって事は、逆にヤバイ人と言う可能性もあり得るかも?)
だとすれば一体どんな人物なのか?
軽く想像してみるものの、悪い想像しか思い付かない。
「何をしてるの。さっさと出かける為の準備をしなさい。ここから余り遠くはないとは言え、森の中を歩くから最低限の準備は必要よ」
「は、はーい」
不安だな。
そう思いつつも、アルトリアは早速出かける為の準備を行うのだった。
※
「成程。エクターか。……そう言えば、随分昔にそんな名前を聞いたような」
「え!? 本当なの!? マーリン!」
エクターの下へと向かう道すがら、持って来た『選定の杖』を使ってマーリンとお喋りをするアルトリア。
予想外の情報源に思わず食いつく。
「とは言え、随分と昔の事だ。同じ名前の、全くの別人と言う可能性だって考えられる。余り期待しない方が良い。……そもそも、記憶も曖昧だからね」
「なーんだ。期待して損した」
先頭をユーリが歩き、その後ろをアルトリアが付いて行く形で森の中を歩いていた。
ユーリが強い事は知っているが、果たして自身の獲物である槍を持っていなくて大丈夫なのか?
と少なからず心配したものの、草むらから襲い掛かってきた獣の顔面をノールックでぶん殴った後、靴の裏を何度も何度も叩きつけている姿を見て、無用な心配だった事を理解する。
と言うか、槍を持っていない時の方が普段よりも狂暴じゃなかろうか。
「もしかすると、彼女が武器を持っている理由は、自身の胸の内に秘めている野生本能を封じ込める為なのかもしれないね」
「うん。槍を直す事が最優先」
マーリンの失礼すぎる推測に対して、大いに頷きながら同意の意を示す。
自分は大丈夫、とでも言わん口ぶりではあるが、アルトリアも向こう見ずな性格をしている為、人の事は言えない。
魔猪の氏族と呼ばれている『予言の子』も伊達では無いのだ。
さして大きなハプニングが発生する事無く、目的地が見えて来る。
そこは岬。
海全体を一望できる場所。
端の部分に、一件の建物が建てられている。
但し、ユーリやティタンジェルの住人達が住んでいる小屋の様な見た目はしていない。
全体的にゴツゴツと角ばっており、備え付けの煙突からはモクモクと煙が立ち上っている。
その建物を一言で説明するのであれば。
「工房だ!」
初めて目にした工房に、アルトリアは興奮を露わにする。
呼応するようにして、頭頂部分に生えているアホ毛もぶんぶんと粗ぶり始める。
生きている中で、一度は行ってみたいなと思っていた場所の一つ。まさか、酸いも甘いも経験していない年頃にも関わらず訪れる事が出来るなんて。
アホ毛と共に、握っていた『選定の杖』も振り回してしまう。
「興奮するのは別に構わないが、振り回し過ぎた結果『選定の杖』を海に放り投げると言うのは止めてくれたまえよ! ソレを失ってしまえば、君と私。双方共に、困ってしまうからね!」
「安心してよマーリン! そんな事、絶対にしないから!」
「激しく不安だ!」
工房へと辿り着き、ユーリはその扉を開ける。
しかし、鍵が掛かっているのかガチャン! と言う音が響くのみ。
扉が開く様子はない。
「あれ? もしかして、留守だったりする?」
「離れなさい。アルトリア」
扉に近づこうとするアルトリアを止め、ユーリが扉に近づく。
一体、何をするのだろうか? もしかすると、この工房を利用している者にしか分からない、秘密の解除方法があるのかもしれない。
流石は工房。私の期待を越えて来る! と、瞳をキラキラと輝かせるアルトリア。
ユーリは――思い切り扉を。正確に言うのであれば、取っ手の真横を思い切りぶん殴った。ドゴン! と鈍い音と共に、ユーリの拳は扉を貫いた。
「え?」
まさかの強硬手段に、思わず呆気に取られてしまうアルトリア。
そんなアルトリアをよそに、ユーリは内側から扉の鍵を開ける。
「さ。開いたわよ。中に入りなさい」
「いや、それしても良いの!?」
「問題無いわ。後で直すから」
「……うん。全然問題しかないと思うけど」
慌てふためくアルトリアとは対照的に、風で靡いた白色の髪を抑えているユーリは落ち着いている。
この人、どうしてヤバイ事したのに平然としてるんだろう?
足音が聞こえて来る。
ドタドタと、激しい音が。
大層お怒りなのだろう。
到着すると同時に、怒声混じりに叫ぶ。
「お前は一体、何度言ったら分かるんだ! 扉が閉まっているからと言って、壊すなって言ってるだろうが!」
「仕方ないでしょう? 鍵を掛けられてしまっているのだから。安心しなさい。後で、ちゃんと元通りにするから」
「何も安心できんわ! そもそも、扉を壊さなければ良い話だろうが!」
アルトリアの目の前に現れたのは、他の妖精とは異なり、一度顔を見たら忘れられないような、強烈な見た目をした妖精だった。
髪の毛量は多く、頭どころか顔全体を覆い尽くしてしまう程。
容姿はアルトリアの想像通り、と言うべきなのか。何処か偏屈そうで、頑固そう。
現在進行形で怒っている真っ最中と言う事もあってか「怖いなぁ」と思ってしまう。
原因は自身の母親が行った奇行な訳だが。
体躯は小さく、ずんぐりむっくりなんて言葉が似合う。
アルトリアは出会った事が無いが、もしかすると土の氏族なのかもしれない。
何かしらの作業を行っている最中だったのか、手にはトンカチが握られており、今まさにユーリに振り落とさん勢いだ。
「そう言えば、紹介が遅れたわね。この子が私の娘であるアルトリア」
「……ど、どうも」
怒りが収まって居ない最中だというのに、空気も読まずにユーリはアルトリアを紹介して来る。
とんでもないキラーパスだ。
怒り心頭な相手を前にして、一体何を話せば良いのだ?
「まだ話は終わって……。そうか。お前が、ユーリの言っていた娘か。しかし『予言の子』を引き取るなんて、物好きだな」
「『予言の子』だから引き取った訳じゃないわよ。そもそも『予言の子』なんていう称号には興味がないし。単に、引き取りたいと思ったから引き取っただけよ」
「……そうか」
理由は定かではないものの、怒りが収まったようだ。
「えっと、貴方がその……エクターさん、って事で良いんですよね?」
「さん、なんて不要だ。呼び捨てで構わん。そうだ、儂がエクターだ。普段はこの工房で、武器や防具を作っている……しがない鍛冶師だ。それで、今日儂の所に訪ねてきた理由はなんだ? まさか、娘を紹介する為に来た訳ではないだろ?」
「鋭いわね。実は槍を壊してしまったの」
そう言って、穂先の折れてしまった槍を見せるユーリ。
エクターは不愉快そうに顔を顰める。
「作ってから、余り時間が経っていない筈だがもう壊したのか! 全く、お前は武器の扱いがなっていないと言ってるだろうが! もっと、武器を大切に扱え!」
「壊したのは私じゃなくてアルトリアだから。私は何も悪くないわ」
「え!? 私!?」
「自分の娘に罪をなすりつけるな! 結果がどうであっても、壊れる原因を作ったのはお前だ! 反省しろ!」
怒りが収まらなかったのか。或いは、アルトリアに責任をなすりつけようとした態度が気に入れなかったのか、エクターがユーリの頭部を叩く。
力が強かったのか、首がガクン! となる。
しかし、ユーリがやり返す事はなく、痛そうに頭を抑えるだけ。
「あれ?」と、思わずアルトリアは思ってしまった。
普段のユーリであれば確実にやり返していたから。
エクターは2人に背を向け、工房へと向かう。
ついてこい、と言う事なのだろう。
アルトリアとユーリは、エクターの背を追う形で工房へと足を踏み入れる。
暫く通路を歩いた先に広がる光景。
思わず「……凄い」と呟いてしまう。
そこにあるのは鍛冶場。
アルトリアが物語を読み、想像を巡らせた物が。否、想像を巡らせた物以上の光景が自身の眼前に広がっていた。
燃え盛る業火を宿す炉に、熱された鉄を打つ為の鉄床。壁には、鍛冶を行う際に使われる道具が一通り並んでいる。
その他にも、使用用途は不明ながら様々な道具が置かれており、ある種芸術作品と見紛う光景を作り出している。
「…………!」
テンションが最高潮に達し、言葉にならない程の興奮を覚えるアルトリア。
無意識に、鍛冶場への第一歩を踏み出そうとして、盛り上がった床に足を取られてしまう。しまった、と思った時にはもう遅い。
アルトリアは体勢を崩し、そのまま勢いよく転びそうになり……。
「気を付けなさい」
「あ、ありがとう。お母さん」
ユーリの腕に支えられる形で、何とか怪我を負う事は免れた。
「この工房は長い年月が経っているせいなのか、あっちこっちガタが来てしまっているの。見て回る際は、足元に注意しなさい」
「うん。分かった。……けど、お母さんって詳しいんだね」
当然と言えば当然だ。
アルトリアは初めてここに来るが、ユーリは何度も工房に来た事があるのだから。恐らくは、武器の修理や依頼とかで。
しかし、ユーリの返答はアルトリアの予想とは異なるものだった。
「そうね。私は昔、ここに住んでいたから」
「へー。ここに住んでたんだ。良いなぁ、ちょっと羨ましい……って、え!?」
一体どう言う事なのか?
詳しい内容を聞こうとするが、ユーリはエクターと話をしていた。
「出来れば修理して欲しいけれど、多分依頼で一杯になっているでしょ? 修理が済むまでの間、代わりの槍が欲しいのだけれど」
「あるにはある。が、お前に適した槍があるのかどうかまでは分からん。取り敢えず、槍は修理に出すって事で良いんだな?」
「ええ。お願い。長くなっても構わないから」
話終えたタイミングで、ユーリに質問しようとしたアルトリア。
「アルトリア。私はここで済ませないといけない用事があるから、貴方はここで遊んでいなさい」
「おい。言っておくが、子供を喜ばせるような物なんておいて無いぞ。そもそも、ここには武器もおいてあって危険だ」
「あの子も、もう子供と言う年齢じゃないわ。そうそう危険な事など起きない筈よ。と言う訳だから、暇を潰しておきなさい」
言い終わると、何処かへと行ってしまうユーリ。
エクターも「儂も仕事があるからな。見る分には構わないが、気を付けろよ」と言い残した後、鍛冶場に戻ってしまう。
残ったのはアルトリア1人だけ。
「何やら、面白い話が聞けたね。まさか、彼女がこの工房に住んでいたなんて」
訂正。1人と一本だった。
厳密に言うので有れば、マーリンは『選定の杖』を介して会話を試みている為、1人と数えた方が良いのかもしれないが。
「そうだよね。まさか、お母さんがここで住んでいたなんて。ちょっと意外だったかも」
だが、もしもソレが本当だとすれば、エクターの頭を思い切り叩かれた時、やり返したりしなかった理由にも納得が行く。
恐らく、ユーリにとってエクターは保護者のようなものだったのだろう。
(という事は、お母さんの小さい時の事とかも分かるかもしれない! うわぁ、とても気になる!)
思えばアルトリアはユーリと言う妖精を知らない。
彼女がどういう人物なのか。何が好きで、何が嫌いなのか。どう言った事を好み、どう言った事が嫌いなのか。それらは分かる。伊達に、彼女の娘として十数年を生きてきた訳ではない。
しかし、彼女の過去については知らない。
ユーリは一体、どのような過程を経て今の彼女になったのか?
何度か本人に聞いた事はあったもののはぐらかされてしまい、未だに分かっていない。
『妖精眼』で心の内側を見たものの、自身の過去に対する感傷は存在しているが、感傷を抱く事になった原因までは分かっていない。
何度もしつこく質問した結果、余りの鬱陶しさに両頬を思い切り抓られてしまった、触れてはいけない領域。
だが、この工房内にユーリの過去に関連する何かが存在しているかもしれない。
何もせず、只大人しくする――なんて選択肢は存在しない。
「よし! マーリン! 私たちの手で、お母さんの過去を探るぞ!」
「分かった。可愛い弟子の頼みだ。私も手を尽くそうじゃないか。……話は変わるが、彼女にバレてしまった時の言い訳とかは考えているのかい?」
早速動き出そうとして、ピタリと体が止まる。
この事がユーリに知られてしまえば、まず間違いなくお叱りを受けるだろう。
想像するだけで、震えが止まらなくなってしまう。
しかし、今更好奇心を抑える事なんて出来ない。
「うん! そうなってしまった時に考えよう!」
「……少々心配ではあるが、分かった。それじゃあ、張り切って行こうじゃないか!」
マーリンの言葉に呼応するように、アルトリアは拳を握って手を天井に向かってあげるのだった。
※
エクターの工房内は、狭いように見えて意外にも広い。
テーブルに並べられている武器や防具や髪飾り。
アルトリアも女の子。
髪飾りに関しては興味を惹かれたものの、今優先すべきはユーリの過去に関する手掛かり。後ろ髪を引かれながら、誘惑を振り切る。
「やっぱり、簡単には見つからないか」
「何かしら彼女の私物が置いていれば、そこから予想を立てる事も出来るが、何も見つからないとなると厳しいか」
工房内をうろちょろしていたら、家主であるエクターに怒られるかもしれない。
しかし、他でもない家主は何も言ってない。
駄目とも。禁止とも。言っていない。
つまりアルトリアが工房内にて何を行ったとしても、エクターが怒ったりする事はないという訳だ。流石に限度はあるだろうが。
「うーん。全然見つからない!」
「弱ったな。昔、ここに住んでいるのであれば、手掛かりの1つや2つは見つかると思っていたが。……見通しが甘かったようだ」
「こうなれば、棚の隙間とかそこの部分に『選定の杖』を差し込んで、マーリンに様子を見てもらうしか」
「え? ちょっと待って欲しい。アルトリア。一応、それは『予言の子』である事の証明として、とても重要なアイテムだから。間違ってもそんな風に使ってはいけないよ! というか、棚の隙間や底の部分に手掛かりは無いと私は思うよ!」
一通り、工房内を――尚、エクターの仕事の邪魔にならない様に――探してみたがユーリの過去に関連する物は無かった。
他に、探してない場所はあっただろうか?
或いは、何か見落としている場所は無かっただろうか?
考える事に気を取られてしまっていたせいか、ユーリの忠告はすっかり頭の中から抜け落ちてしまっていた。
盛り上がってしまった床に足を取られ、盛大にこけてしまうアルトリア。
助けてくれる人は誰もいない。
ビタン! と大きな音が鳴り、全身を強く打ち付ける。
「痛い!」思わず声を上げるアルトリア。
しかし、ソレだけでは終わらなかった。
彼女の直ぐ傍。
丁度、転んでしまった先の正面には、武器が置かれていた。恐らくは、エクターが作った武器なのだろう。
素人目に見ても、かなり高品質な武器だ。
そんな武器が、アルトリアが転んでしまった衝撃で支えを失ってしまう。大きく傾き、床に転んだままのアルトリアに向かって――倒れてきた。
「……ッ!」
直撃すれば、頭蓋をかち割ってしまう。
咄嗟に、アルトリアは両手を使って武器の刀身を挟み込む。
――真剣白刃取り。
アルトリア自身は知らないが、難易度の高い技を成功させた、奇跡的な瞬間だった。
しかし、喜んでも居られない。
「ま、ずい! これ、とっても……重い!」
体を鍛えるのではなく「魔術」の練習に傾倒してしまっていたせいなのか、アルトリアにとって両手を使って挟み込んだまま武器の進行を遅らせる、というのはかなりの重労働だった。
今は届いていない。
だが、数秒後にはどうなってしまうのか分からない。
命の危機を感じ、眠っていた力が目覚める、なんて都合の良い展開は起こらない。少しずつ。確実に、重量を持った武器はアルトリアへと近づいてくる。
「アルトリア! くっ……いや、いざとなれば、私が……」
「何か手があるの!? だったら、早く出して欲しい、かな! このままだと、私、結構危ないかも、しれないから!」
そろそろ両手が限界だ。
腕が小刻みに震え始め、次第に力が抜けて行ってしまう。
不味い。コレは不味い。
武器がアルトリアの頭蓋を割り、グロテスクな中身を覗かせるまでのカウントダウンは既に始まっている。
(うおおお! 転んだ拍子に武器が倒れてしまって、倒れた武器に巻き込まれる形で死んじゃった、なんて展開は絶対に嫌だ! 多分、お母さんとか私の死を悲しむ前に、私の間抜けな死に方を嘲笑うに決まってる! 絶対に、絶対に嫌だ!)
例え気迫がどれだけあろうとも、体力が回復する事はない。
現実は非情。
とうとう力尽きたアルトリア。
抑えの無くなった武器は勢いよく倒れ、アルトリアの頭蓋を割る――その直前。
「お前は一体、何をしているんだ?」
かなり呆れたような声と共に、つい先ほどまでアルトリアに襲い掛かって来ていた筈の剣が宙に浮く。
違う。たまたま通りがかったエクターが持ち上げてくれたのだ。
「やけに騒がしいと思ったから様子を見てみれば、一体何がどうしてそうなった? と言うか、大変な目に遭ったのなら助けを呼べば良かっただろうが」
「……あ、言われてみれば」
エクターの言う通りだ。
両手を使う事は出来なくても、声を出す事は出来る。
真剣白刃を行いながら、エクターやユーリに助けを求めれば良かったのだ。
気が付くと同時に、顔から火が出てしまいそうな程の恥ずかしさを覚えるアルトリア。取り敢えず、立ち上がった後に助けてくれたお礼を口にする。
「その、エクター。助けてくれてありがとうございます。お陰で、お母さんに笑われずに済みました」
「一体何がどうなったら、アイツが笑う事になる? あのまま行けば、笑いごとでは済まされない大惨事になると思うが」
改めて、過去のユーリに繋がる手掛かり探し、と行きたい所だが疲れてしまった。こんなに頑張って探しても見つからない、と言う事は存在していないのかもしれない。
諦めて工房内の見学でもしようかな? と考えていると、エクターが予想外の一言を口にする。
「お前、アイツの昔の話が気になるのか?」
「え!? もしかして、教えてくれるの!?」
「別に全てを話すつもりはない。只、工房内でウロチョロされてはかなわん。また、さっきのような事が起こってしまえば、儂にも迷惑が掛かるからな」
「アハハハ。……その節は、本当にごめんなさい」
エクターに招かれる形でアルトリアがやって来たのは小さな小部屋。
如何やら、来客用の部屋らしい。
小さいテーブルに、2脚の椅子。
片方の椅子にエクターが座り、片方の椅子にアルトリアが座る。
マーリンも話は聞いておきたいだろうな、と思い『選定の杖』は壁に立てかけておく。
「さて。取り敢えず、最初は奴との出会いから話す事にするか」
そう言うと、エクターは語り始める。
ユーリと言う名の妖精の、過去について。
※
幾つもの武器が並べられた倉庫。
そこでユーリは、自身に適した代替品の槍を探していた。
槍は幾本も存在しているものの、自身の眼鏡に叶う品は無い。如何にもこうにもしっくりこない。槍選びは難航していた。
「……はぁ。少し、休もうかしら?」
誰も居ない倉庫で、1人事を口にする。
適当な木箱を椅子の代わりにして、ユーリは腰を落ち着かせる。
(ここに来ると、嫌でも思い出してしまうわね)
ユーリは倉庫の天井を見上げながら思い出す。
自身の、小さい頃を。
今はもう朧げな過去について。
ユーリと言う名前は本名ではない。そして、彼女は妖精でもない。
彼女は人間。
妖精國としては余り珍しくもない、凡人類史から漂流して来た1人。
本名を、邦城 百合と言った。
衝撃の新事実! と行きたかったのですが、私のガバによって何となく察している人もいたと思います。
感想見た瞬間、心臓が止まるかと思うくらい驚いてしまったのですが、人は何故あのようなガバを起こしてしまうのでしょうか?
おまけに、最新の誤字報告でティタンジェルではなくティンタジェルと言う事実を知りました。今の今まで、アルトリアの故郷の村の名前を間違ってしまっていた、と言う事実が余りにも恥ずかしすぎる!
腹を切ってお詫びしたい所存ではございますが、そんな事をした所で誰も得をしないので、これからも引き続き本作を投稿し続ける所存です。
尚、11話以降に関しては完成していない為、一度毎日投稿はストップとさせて頂きます。が、そこまで長い期間は空かないと思うので楽しみにお待ちください。