星を追う子に春の祝福を   作:ロドリゲウス666

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感想、評価、誤字報告ありがとうございます。


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 その日、悲劇が起きた。

 切っ掛けはほんの些細な事。

 

 ユーリとアルトリアが住まう家は、お世辞にも奇麗とは言えない。

 おまけに、かなり狭い。それもその筈、家自体はユーリ自身が自らの手で自作した、完全手作り。

 

 作った当初は、自分一人で住むつもりだった為、出来も、大きさも、必要最低限。

 取り敢えず、雨風を凌げれば問題ないという感じだった。

 

 いい加減に作ってしまったからなのか、木製の床は凸凹が妙に多い。足を躓いて転んでしまう事も珍しくなく、赤子だった頃のアルトリアは良く足を躓いてしまい、大泣きしてしまう事も何度かあった。

 

 長い間住んでいる、家主のユーリでさえ転んでしまう事がある為、その凶悪さは計り知れない。下手を打てば、死んでしまう可能性だって考えられる。

 

 最悪ではないが、極めて最悪に近い事件が発生した。

 

「……さて。どうやって隠そうかしら」

 

 床の凹凸に足を取られ、勢いよく転んでしまったユーリ。初めて転んだ訳ではない。手をつき、被害を最小限に抑えようとした。

 

 しかし、そこら辺に偶然置かれていた『選定の杖』。ソレを思わず手に取ってしまい、転倒。手をつく事によって被害を最小限に抑える事は出来たものの、その代償として『選定の杖』は真ん中からぽっきりと折れてしまった。

 

 怪我を負わない代わりに、『選定の杖』が犠牲になってしまった。等価交換を行うので有れば、もう少しマシな代償は存在しなかったのだろうか?

 

『予言の子』の証明である、唯一無二の杖を代償とした結果が、転倒の防止なんてやってられない。

 

 もしかすると、転倒した先の床が崩れてしまい、そこに偶然発生してしまった空洞に堕ちてしまい命を落とす――と言う可能性は無きにしも有らずだったが、『選定の杖』を失ってしまうよりはマシだ。

 

 今からでもやり直しは出来ないものか。

 うん。無理だ。

 

 ユーリは人外染みた回復能力や、野生動物なみの直感を備えているが、残念ながら時間遡行など持っていない。

 

 時間遡行能力を持つ妖精を見つけ、時間の巻き戻しを行う――と言う方法もあるが、流石に手間だ。

 

「ちょっと!? 君は一体、何をやっているんだい!? 『選定の杖』がポッキリ折れてしまっているじゃないか!?」

 

 聞き覚えのある声。

 イケメンらしい雰囲気が漂うが、何処か胡散臭さが拭えない。分かりやすい表現としては、結婚詐欺師が一番適切かもしれない。

 

「マーリン。起きていたのね。……そして、杖が折れてしまっていたとしても、声は届くと。質問なのだけれど、杖が折れてしまった事によってそっちに影響が及んだりするのかしら?」

 

「いいや。杖が折れてしまった、と言う事は分かるが、此方に影響は何もないさ。心配してくれてありがとう」

 

「は? 私が心配? 貴方には、以前の畑の恨みがまだ残っているの。杖が折れてしまったのと連動して、貴方の背骨辺りが真っ二つに折れ曲がってくれれば、多少なりとも溜飲が下がった所なのだけれど……残念ね」

 

「……そ、そうかい」

 

 憎悪に塗れたユーリの発言。

 彼女が以前、とある騒動に巻き込まれてしまった際。自信を巻き込む形で事態が解決した事に対して、未だに納得がいっていないのだろう。

 

 と言うか、そういう形に落とし込んだマーリンを恨んでいる。

 今も尚。

 

「話は変わるが、一体どうするつもりなんだい? 『選定の杖』は『予言の子』だと証明する為に、無くてはならないものだ。アルトリアが旅を行う際にも、きっと役に立つ筈だ。だからこそ、直さなければいけない」

 

「それは勿論分かっているわ」

 

 言われなくても。

 しかし、問題はどうやって直すべきなのか?

 ユーリは改めて、折れてしまった『選定の杖』を見る。

 

 何とも不思議な見た目をしている。所々に装飾が施され、豪奢な見た目をしている。されど、それが鼻につくという訳ではない。

 寧ろ、見つめ続けていると何処か心が安らぐ。

 

(私は妖精では無いのだけれど、ね)

 

 不幸中の幸いだったのは、折れてしまったのは杖の持ち手。装飾部分は壊れておらず、持ち手部分を如何にかする事が出来れば、修復は可能だろう。

 

「何かいい方法はあるのかい?」

 

「良い方法ではないけれど、一つ考えがあるわ」

 

 ユーリは、折れてしまった『選定の杖』を手に、外に出る。

 向かう先は森。

 それも、奥深く。

 

「私の記憶が確かなら、この先のとある樹から出ている樹液。その樹液には、強力な接着要素があるの。ソレを使えば、折れてしまった部分をくっ付ける事が出来る。その上、外れてしまうという懸念を払拭する事が出来る」

 

「成程。『獣狩り』だからこそ、知る事が出来る森の情報と言う訳か」

 

 時々、獣が襲い掛かって来るというハプニングに見舞われたものの、危なげなく対処する事が出来た。

 目的地に到着。

 

 全体をくまなく探してみれば、樹液を発見する。

 指先で撫でるようにして採取。杖の折れてしまった断面と樹液を塗った後、くっ付ける。

 

 今はまだ乾いていない為、接着力が弱い。しかし、暫く時間を空けて乾かせば、折れてしまった同士がくっつくだろう。

 

「さて。それじゃあ戻りましょうか」

 

 元来た道を進み、家へと帰るユーリ。

 家に到着した頃には、樹液は渇いていた。

 これには一件落着。『選定の杖』がポッキリ折れてしまった、と言う事実は葬り去られる――訳も無かった。

 

「マーリン。仮に貴方がアルトリアだったとして、この杖を見た時に違和感は感じるかしら? 私としては、感じなければ良いなと思うのだけれど」

 

「私だったら確実に違和感を感じるね。だって、折れてしまった所を接着した部分。明らかに変な色に変わっているじゃないか」

 

 マーリンが指摘した通り、乾いた樹液は変な色合いになっていた。

 相応しい表現は、ヘドロ色だろう。

 

 一見すれば、完備な杖。

 されど、持ち手の真ん中の部分を見れば、杖を褒めたたえる感想など全て吹き飛んでしまいそうな、酷く気持ち悪い色。

 

 採取した時は透明な色合いだったのに、一体どうしてこうなってしまったのか?

 

「……やっぱりそうよね。やり直しね」

 

 接着面の樹液を無かった事にする為、再び杖を折れた状態に戻そうとするユーリ。しかし、驚異的な接着力は伊達ではなかった。

 折ろうとするが、中々折れない。

 

「接着面が気持ちの悪い色合いになっている事は確かだが、再び折るというのは違うんじゃないかな? 何か、他にいい方法が……あ」

 

 マーリンが説得するよりも先に、バギッと嫌な音が室内に響き渡る。

 無事『選定の杖』から、ヘドロ色の接着剤を排除する事は出来た。その代わり『選定の杖』はもっと酷い状態で、折れ曲がってしまうのだった。

 

 

 

「前よりも状況は悪化してしまっているね」

 

 一見すれば、爽やかな声。

 しかし、言葉の節々からは隠しきれない焦りが感じられた。

 

 当然だ。

 振り出しに戻ったどころか、寧ろマイナスに突入してしまったのだ。これでどうして平静でいられようか。

 

「発想を変えましょう」

 

 若干取り乱しているマーリンとは対照的に、自然体のユーリ。状況は悪化しているにも関わらず、焦りは一切見られない。

 と言うよりは、少なからず焦ったり、こんな事態を招いてしまい反省するべきではないのだろうか? と思わなくもない。

 

 思わなくもないが、言った所で本人は開き直る事だろう。

 だから何も言わない。

 

「発想を変える? 具体的に、何をするつもりなんだい?」

 

「杖を修理するのではなく、新たに代わりの杖を作成すれば良い。勿論、本物を諦めるつもりはないわ。けれど、私たちの手では如何にもならない事が分かったから、杖を直してくれる専門家に頼みましょう。その間に、作った偽物で時間を稼ぐ」

 

「悪くはないと思うが、そもそも偽物はどうやって作るんだい? これほどまでに精巧な杖が相手では、贋作を作るにしても時間と労力が凄まじい事になってしまう」

 

 マーリンの指摘は尤もだ。

『選定の杖』は、唯一無二のデザイン性。おまけに、細かな部分にまでこだわっており、偽物を作るのは相当難しい。

 

「けど、やるしかないわ。私には、こんな事をしでかしてしまったという責任があるの。それに、私はエクターの下で数十年暮らしていたのよ? 手先の器用さであれば、他の妖精にも負けない自信があるの」

 

 適当な丸太と、偽物を作り出す為の道具を取り出す。

 気迫は真剣そのもの。

 ユーリは本気で『選定の杖』の偽物を作り出すつもりだった。

 

「まさか! 本当に『選定の杖』の偽物を作る事が出来ると、君はそう言うつもりなのかい!?」

 

「全力を尽くすわ」

 

 ユーリは道具を手にし『選定の杖』の贋作を作る為に、動き始める。

 全ては、自身のミスを無かった事にする為に。

 それから数時間が経過する。

 

「うん。無理ね」

 

 ユーリの目の前に転がっているのは、『選定の杖』の贋作と呼べない代物。杖としての体裁は保っているし、可能な限り意匠は施されている。

 

 しかし、装飾品は無理だった。

 

 木彫りだけでは如何にもならない。布に手を出さなければいけないし、そもそも木の色は茶色一色なので、本物に似せる為に色を付けなければいけない。

 

 全ての工程を終わらせるまでの時間は、少なく見積もっても今日中には終わらない。木彫りだけなら、一日以内に終わらせる事も出来るが、全ては不可能。

 

 やってられない。

 その事実に気付いた瞬間、ユーリは木彫りの為の道具を投げ捨てていた。

 

「せめて、装飾品が無ければやりようもあったけれど」

 

「うん。私たちは、壊れてしまった杖を如何にかする為に色々としているのに、その杖を壊すんじゃ意味がない。だから、装飾品を壊そうとする手を止めるんだ!」

 

 声しか聞こえない筈なのに、マーリンの慌てようが脳裏に浮かんでくる。きっと、本物はさぞかし慌てているのだろう。

 

「仕方ないわね。別の方法を取りましょう」

 

「まだ他に策があるのかい?」

 

「ええ。実は、村の外れ。かなり歩いた先に、古びた泉が存在している。噂なのだけれど、そこに物を投げ込むと、泉の中に住まう妖精が現れて投げ込んだ物を新品の状態で返してくれるという話よ」

 

「もしもソレが本当なら、私たちにとっては願ってもない話だ。一つ聞きたいのは、杖の偽物を作る前にその泉に行った方が良かったんじゃないのかい?」

 

「五月蠅いわよ」

 

 今の今まで頭の中からすっぽりと抜け落ちてしまっていた。

 何はともあれば、善は急げ。

 未だ、アルトリアが家に戻って来る気配はないが時間は有限だ。

 

 折れてしまった『選定の杖』と、声のみの存在であるマーリンを引き連れて、噂の泉までやって来る。

 周囲は緑の濃い森によって囲まれている。泉には大量の藻が生えており、奇妙な岩まで設置されている始末。

 

 おどろおどろしい雰囲気が漂って来るが、ユーリにとって重要なのは噂が本当なのか、否かだ。

 早速、折れてしまった杖を投げ込む。

 

「…………」

 

 何の反応もない。

 やっぱり嘘だったか、と思った瞬間。カッ! と泉が光輝く。

 泉の中から姿を現すのは、見目麗しい見た目をした妖精。

 

「貴方は杖を落としてしまいましたね」

 

「ええ。そうよ」

 

「貴方が落としてしまったのは、此方の杖? それとも此方の杖? もしくは、此方の杖? 一体、どれなのでしょうか?」

 

 妖精が水面から取り出すのは、3本の杖。

 不思議な事に、全て見た目は一緒。

 どれが本当なのか分からない。

 

「そう言えば、マーリンは『選定の杖』を介して会話を行っている、と言う話だったわね。つまりマーリンの声が聞こえた方が、本物と言う事になるわ。マーリン、何かしゃべりなさい」

 

「…………」

 

 ユーリの言葉に対して、マーリンからの返答はない。

 泉の中で何かが起こってしまったのか。

 はたまた、悪ふざけの類なのか。

 

 何方にしても、ユーリの中でマーリンの好感度が下がってしまう。

元々マイナスだった為、更にマイナスだ。これで、仮に本人に会う事が出来れば、出会った瞬間に顔面パンチが決定してしまった。

 

「さて。貴方が落としてしまった本物はどれですか? もしも嘘を吐くようものなら、貴方をこの泉の中に沈めてしまいます。正直に、回答して下さいね」

 

 成程。どうやら、噂話という物は信じるべきではないらしい。

 

 噂話を誰が流布したのか定かではないが、現実は酷いものだ。或いは、獲物を絡め取る為に泉に住まう妖精自身が噂話を流布したという可能性もあり得る。

 

「……そう。私が落としてしまった、本物の杖を選ばないといけないのね」

 

 見分けは付かない。

 全て本物に思ってしまう。

 

 正解が分からず、自身の命の危機に直面している。こんな時、一体どうすれば良いのか? 

 答えは簡単。元凶をぶちのめしてしまえば良い。

 

「分からないから貴方をぶちのめす事にするわ」

 

 護身用に持っていた槍。

 手首のスナップを利かせ、空を切り裂く音と共に回転。手に力を込める事で回転を止め、鋭い切っ先を泉の妖精へと向ける。

 

 地面を蹴り、泉の妖精との距離を詰める。

 

「へ?」

 

 まさか、正解の杖を選ぶのでは無く、暴力的手段で問題を解決するなど考えもつかなかったのだろう。

 どこぞの妖精騎士のように、呆けた表情を浮かべながら、刀身が顔面に炸裂した。

 

 

 

 それから数分後。

 

「ごめんなさい。こんな事をしてごめんなさい。もう、金輪際こんな事をしないと誓うので許して下さい!」

 

 ユーリの手によって、徹底的にボコボコにされた湖の妖精。水面に両手両足を付け、土下座と言う神技を披露する。

 声には泣きが入っており、暴力が堪えていることは明白だった。

 

 行いは邪悪ではあるものの、今の様子は幼気な少女が柄の悪い大人たちから暴行を受けている風にも見えてしまう。

 心優しい者であれば、泉の妖精の姿を見て、罪悪感に心を打たれるだろう。

 

 だが、残念な事に目の前にいるのは暴力を振るった張本人。

 心など痛む筈はなく、罪悪感を覚える事もない。

 

「そう言うのは良いから。私が言いたい事は分かるでしょう? さっさとしないと、貴方の首を切り落とすわよ」

 

「ひっ! ひぃっ!? わ、わ、分かりました! 分かりましたから! 刀身を使って、私の頬を叩かないで下さい!」

 

 見目麗しい見た目は霧散し、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってしまった顔を引きつらせながら、泉の中に潜る妖精。

 暫く時間が空き、泉の中から金色に輝く杖、銀色に輝く杖、ユーリが落としてしまった杖の三つが手元に戻って来る。

 

「こ、これでどうか許して下さい! お願いします! お願いします! もう、こんな事はしないって約束しますからぁ!」

 

 半ば、悲鳴を上げるように叫ぶ泉の妖精。

 水面から姿を現さなかったのか、ユーリの事が恐ろしいからだろう。もしかすると、顔も見たくないのかもしれない。

 

「…………」

 

 目的の品は手に入った。

 にも関わらず、ユーリの顔色は優れなかった。

 

 それもその筈。手元に存在する杖たちは、全て折れてしまったままだ。金や銀に変わろうとも、杖が修復していなければ意味がない。

 深く、長い溜息を吐くユーリ。

 

「全く。無駄足だったわね」

 

 言葉の節々から感じる怒り。

 敏感に察知したのか、泉の底から情けない声が聞こえて来た。が、ユーリは無視して自宅に戻るのだった。

 

 

 

 最後の手段、とばかりにユーリが用意したのは大きな鍋。

 手には読みかけの古びた本。

 本に書かれている内容に従って、適切な材料を入れていく。

 

「私が思うに、そろそろ諦めてアルトリアに本当の事を話した方が良いと思うんだけど。君はどう思うんだい?」

 

「私は私に出来る、最善を尽くすのみよ」

 

 カッコいい事を言っているものの、そもそもの発端はユーリが『選定の杖』を壊してしまったからだ。ソレに、動機としては壊してしまったという事実を無かった事にしたい、と言う何とも俗っぽい理由だ。

 

 彼女の背景を知る事が出来れば、カッコイイセリフも雰囲気が削がれてしまうだろう。

 

 鍋の中の色合いは、次第に茶色から緑へと変わっていく。グツグツと煮込めば、うっかり吸い込むと何かしらの疾患を患ってしまいそうな湯気が漂って来る。

 

 室内には、青臭さと酸っぱさを混ぜたような、何とも言えない匂いで充満してしまう。室内でやるのではなく、外で行えば良かった、と後悔するが時既に遅し。

 

 かくして、古い本に記されていた秘術が完成。

 秘術の名は「合成の儀」。

 

 入手した経緯こそ偶然――『獣狩り』としての務めを果たした際、成功報酬として渡された物――ではあったが、この秘術こそが最後の手段。

 

 ツボの中に幾つかの物を入れる事によって、それらを一つにまとめるという効果を持つ。それぞれが、別の種類であればどうなってしまうかは未知数。

 

 しかし、ユーリがいれるのは3本の杖。

 

 泉の妖精からカツアゲ。基、実力行使でぶんどって来た、普通の杖と、銀の杖、金の杖。三つ全てが壊れてしまっているものの、合成する事によって元の杖に戻す事が出来るのではないか? と言う企みだ。

 

 本音を言えば、結果は見えている。結果が見えていると言って、何もしていないにも関わらず諦めるなんて事は出来ない。

 

「止めるんだ! 私たちに残されているのは、アルトリアに全てを話す事、それだけだ! 馬鹿な真似をするんじゃない」

 

 静止は無意味。

 ユーリは躊躇いなく、3本の杖を鍋の中にぶち込む。

 巨大なお玉を使い、鍋をかき混ぜること暫く。

 

 突如、カッ! と眩い光が室内を埋め尽くす。咄嗟に、目を瞑ってしまうユーリ。同時に、鍋が勢いよく爆発。

 破片を無差別にばら撒きながら、粉々に砕け散る。

 

 立ち篭もる砂埃。

 軽く吸い込んでしまい、咳を行うユーリ。

 

 ゆっくりと目を開く。

 鍋の残骸。その中心には、一本の杖が。

 

「だから言ったじゃないか! 絶対に無理だって! 悪い予感しかしないって!」

 

 3本の杖を合成した結果、何とも言えない微妙な色合いの杖が完成した。折れていた持ち手は直っているものの、色が駄目。

 

 神々しかったあの見た目は一体何処に行ってしまったのか、おどろおどろしい見た目に変わり果ててしまっていた。接着剤として使用した樹液よりも酷い。

 

 これならまだ、樹液で杖全体をコーティングさせた方がマシと言えるだろう。

 

「……成程。ここまで、と言う訳ね」

 

 万策は尽きた。

 ユーリに出来る事は、アルトリアの帰りを待ち、彼女に怒られるのみ。

 

 親が子に怒られる、と言うのは酷く屈辱的な事。出来る事なら、杖を壊してしまったという事実を無かった事にして、親としての威厳を保ちたかった所だが全ては叶わない願い。

 

「今更だけど、何もしなかった方が良かったのかもしれないわね」

 

「本当に今更だな!?」

 

 変わり果てた『選定の杖』を通して、抗議の声を上げるマーリン。

 そして、来てしまう。

 扉が開く。

 

 木の軋む音と共に、姿を現すのはユーリの娘。

 アルトリアだ。

 

「ただいま……って、何!? この匂い! 変な匂いがするんだけど、お母さん一体何をしたの!? グロテスクな料理でも作って、失敗しちゃったの!?」

 

 顔を歪ませるアルトリア。

 気持ちの悪い色合いをした『選定の杖』が目に入る。

 

「あー! お、お母さん!? これ、何したの!? 一体、何をしたらこんな事になるの!? と言うか、何があったの!?」

 

 自分の大切にしていた杖が、見るも無残な姿に変わってしまっていた。アルトリアの反応は至極当然の事だった。

 しかし、次の第一声で話の流れは変わる。

 

「もう! 折角エクターが頑張って作ってくれたのに、酷過ぎるよ! エクター、私が持ってる杖を完全に再現する為に、結構時間をかけて作ってくれたのに!」

 

「……偽、物? つまり、アルトリア。この杖は、貴方が普段持っている物とは別、と言う解釈で良いのかしら?」

 

 状況を理解する事が出来ず、質問するユーリ。

 

「そうだけど。ほら、本物はここにあるし。偽物を作って貰おう、と思った理由としては前に杖を盗まれた事があったでしょ? 流石に、もう一回盗まれるのは嫌だなー、と思ってエクターに相談してみたら、快く偽物を作ってくれたの。……って言うか、本当になんでそんな風になったの? 私が外で遊んでいた間に、一体何がおこったの?」

 

 一から十まで説明を行えば、きっと疑問に感じているアルトリアの瞳が、何とも言えない瞳に変わってしまう事は確実だ。

 

 具体的に言うので有れば、ジト目。

 その為、ユーリは誤魔化す。

 

「話すと長くなるから、省略するわ」

 

 

 

 

 

 

 誰も彼もが寝静まる時間は。

 獣の声は愚か、虫の音すらも聞こえない。

 静寂に包まれた世界。

 

 外に出る事は危険だが、ユーリは外にいた。テーブルと椅子を持って来て、優雅に読書を行う。

 当然、暗闇の中ではまともに読書を行うことなど不可能な為、火を付けたカンテラをテーブルの上に置いている。

 

 今日。

 一日を通して、ユーリは疑問を抱いた。

 マーリンと呼ばれている、アルトリアの師匠。

 

 彼は自身を花の魔術師と名乗っており、『選定の杖』を介して声のみを届けている状態だ。『選定の杖』が存在しなければ、マーリンの声が届く事はない。

 

 にも関わらず、今日は朝から晩までの間、マーリンの声は聞こえた。

『選定の杖』とは異なる。

 

 見た目だけを似せた、偽物の杖から。

 ここまで手掛かりが揃ってしまえば、推理する事は簡単。

 

「つまり、貴方は最初から『選定の杖』を介して、なんて条件が無くても会話する事が可能なのでしょう? マーリン」

 

 ユーリが背後を振り返る事はない。

 しかし、直感が囁く。

 

 自身の背後に、誰かが居ると。

 強烈な殺意を向けながら。

 

「一体、何時から気付いていたんだ? 俺の存在に」

 

「確信できたのは今日かしら? 話し方も崩れているし、もしかしてそっちが素なのかしら? マーリンって、名前も偽物の可能性が高くなったわね」

 

 確信したのは今日。

 しかし、何となく違和感のような物は感じていた。

 本来であれば、2人しか存在していない空間。

 

 にも関わらずユーリの直感は、この場に三人が居ると囁いていた。

 見る事は出来ず、感じとる事が出来ない3人目。

 それこそがマーリン。

 

 或いは、マーリンを名乗っていた誰か。

 

 緊迫した空気。一つでも対応の仕方を間違えれば、このままユーリは殺されてしまう事だろう。尤も、間違えようが、正解しようが、殺されてしまう可能性の方が高い気もするのだが。

 

「――止めなさい。貴方が私をどうしようと勝手だけれど、私を殺そうとするのは止めておいた方が良いわ。殺そうとした所で、私は死なない。貴方が手を出すというので有れば、私も動かなければいけなくなってしまうの」

 

 隠し持っていた槍を、自身の背後に突き付ける。

 誰も居ない。

 しかし、誰かが存在している。

 

 殺し合いに発展すれば、標的の姿が見えないユーリが不利だ。しかし、自身の直感と、遺伝性の不老擬きを利用すれば善戦する事は出来るだろう。

 

 そう。善戦する事は。

 

 直感によって、マーリンが何処に存在しているのか何となく分かる。しかし、同時にマーリンが自身よりも遥かに格上の存在である事も理解してしまった。

 

 妖精騎士ガウェインと比較した場合、向こうに軍配が上がるだろう。だが、ユーリにとっては何方も同じ。等しく強者だ。

 

 だからこそ、ユーリに出来る事は善戦し、場を搔き乱す程度。

 勝利する事は難しい。

 

「正直な話をすれば、私にとってはどうでも良いのよ。貴方がマーリンだろうが、そうじゃ無かろうが。透明人間だろうが、得体のしれない何かであろうが。私にとって一番重要なのは、貴方があの子の師匠であるという事。貴方は、あの子を気遣ってくれているという事。……だから、どうかお願いします。もう少しだけ、このままの関係でいさせて下さい。あの子が16歳になり、旅に出る。それまでの間で構いません」

 

 槍を引っ込め、椅子から立ち上がり、背後にいるマーリンに向かって頭を下げる。自分はどうなっても良い。

 だけど、それは今じゃない。

 

 ユーリの思いが伝わったのか。或いは、只の気紛れなのか。

 目の前に存在していた気配も、濃密な殺気も、フッと消えた。

 

 見逃された。

 そう解釈しても、問題無いのだろうか。

 

「後、もう少し。後もう少しで、あの子は16歳になる」

 

 短くも、愛おしい時間だった。

 願わくば、無事に16歳を迎えて欲しい。

 空を見上げ、心の中でそう呟くのだった。

 





 昨日、ようやくトリニティ・メタトロニオスをクリアしました。
 終盤は泣いちゃいましたね。
 とても面白いシナリオでした。

 ですが、ラスボスはマジで大変でした。
 32ターンも消費するって、中々無いと思うんですが、皆さんどうやってクリアしました?

 今年の冬をもって第2部が終わってしまう、と思うと寂しくなりますが、楽しみでもあります。
 とりあえず、アーマードマシュから超合金DXマシュにすることが出来たので、種火周回で率先して使用していこうかな、と思います。

 何気に、今回はノーコンでクリア出来たのが私の密かな自慢です。
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