星を追う子に春の祝福を   作:ロドリゲウス666

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 テュフォンちゃん可愛いやったー!

 という訳で、テュフォン・エフェメロスが新たに実装されたので新話を投稿します。

 評価、感想、誤字報告ありがとうございます。


22

 

 もう少しで、アルトリアは16歳になる。

 16歳を迎える事が出来れば、彼女は旅に出る。『予言の子』としての務め。巡礼の旅だ。

 

 不安はある。本当に、私なんかが出来るのだろうか? と。

 しかし、自分で決めた。

 

 自らの意思で、旅に出たいと。そう思った。

 だからこそ、後悔はない。

 

 

 

 

 

 

 普段と変わらない日常。

 

 朝起きて、朝食を食べる。朝食を食べ終えた後は、マーリン師事の下、魔術の練習を行う。その後は読書で時間を潰したり、畑を耕したり、森に遊びに出かけたり。

 

 思い思いの時間を過ごす。

 アルトリアにとっての当たり前。

 

 大切にしたい、愛しい日常。

 そんな日常が壊れたのは、村から訪問者がやって来た時だ。

 

「一体、何の用なのかしら?」

 

 ユーリの仕事は『獣狩り』。主に、村の近辺に出没した獣を狩る事によって、村の安全維持を行う重要な役目だ。

 今日もまた、そんな『獣狩り』への依頼だと思っていた。

 

 違うと理解したのは、訪問者の数が余りにも多かったから。

 ティンタジェルの村長を始めとして、十数人にも及ぶ数の妖精達。表情は硬く、『獣狩り』の依頼に来た様子ではない。

 

「何か用かしら?」

 

 違和感を感じながらも、普段と変わりのない態度で応対するユーリ。

 代表として、ティンタジェルの村長が前に出る。

 

「今日は一つ、お願いがあってやって来たんじゃ」

 

「お願い? 『獣狩り』の話ではないのかしら?」

 

 首を横に振って否定する村長。

 視線が、アルトリアに向けられる。

 酷く冷たい。此方を見下す視線。

 

 肌が泡立つ。

 きっと、何か良くない頼み事だ。

 

「ああ。儂らは今の今まで『予言の子』を匿って来た。それもこれも、全ては妖精國に存在する全ての妖精の為じゃ。だが、お前の娘は率直に言って『予言の子』たり得る実力を持っていない」

 

「私も暇じゃないの。結論を言いなさい」

 

「儂らは証明して欲しいんじゃ。彼女が『予言の子』であると。その為に、村の外れで工房を構えている鍛冶師を殺して欲しい」

 

「……え?」

 

 村長の要求。

 聞いた瞬間、アルトリアの頭の中は真っ白になった。

 

 村の外れで工房を構える鍛冶師。間違いなく、エクター。それなりに親交があり、邪険に扱いながらもアルトリアに良くしてくれる。

 

 きっと本人は認めないかもしれないが、アルトリアの友人。

 大切な友人を殺せと、村長はそう言った。

 

(……やらなくちゃ、いけないのかな?)

 

 アルトリアは『予言の子』だ。例え、どれだけ否定したとしても、その称号が剥がれる事はない。一生、背負わなければいけない。

 そう思ったから、覚悟を決めた。

 

 だったら『予言の子』として、村の皆の頼み事は聞かなければいけないんじゃないか? 例えどれだけ嫌だと思っていても、皆がそう望んでいるのなら……。

 

「は? どうしてわざわざ、貴方達に認めて貰わないといけないのかしら? そもそも『予言の子』だと認める為に、エクターを殺せと言っている事自体が意味不明ね。貴方達が死ねばいいと思うわ」

 

「ちょっ、お母さ……」

 

「黙りなさい。アルトリア。貴方は嫌だと言えないかもしれないけれど、私は言うわよ。嫌ね。嫌よ。本当に嫌。こんな提案をするなんて、貴方達は全員頭がおかしいんじゃないのかしら?」

 

 空気が悪くなる。

 村の妖精達はユーリを突き刺さんばかりに睨みつけ、今にも襲い掛からんとしている。

 

「……わしらの要求を受け入れる事が出来ない、と言うので有ればお前の娘を女王に引き渡さなければいけなくなる」

 

「その言葉を待っていたわ」

 

「へ?」

 

 隠し持っていたのか、槍を握りしめ思い切り振る。

 殺すつもりはないらしい。

 

 平べったい刀身が、村長の頬に直撃。ビンタを行うように。しかし、ビンタよりも破壊力が高すぎた為、村長は思い切り吹き飛ぶ。

 それが始まりだった。

 

「逃げるわよ! アルトリア!」

 

「いや、最初に話し合いを……!」

 

「した所で意味なんて無かったわ。どうせ、エクターを殺すか殺さないかの二択。殺すなんて論外だし、殺さなければ向こうの良いように使われるだけ。だったら、三つ目の選択肢を選ばなければいけないわ。全員をぶちのめす、って言う合理的で最善の選択肢を」

 

「合理的でも無ければ、最善でも無いと思う!」

 

 抗議の声を上げるも、時すでに遅し。

 既にユーリは村長をぶん殴り、戦いは開始されている。

 

 巻き添えを食らわないように物陰に隠れるアルトリアとは対照的に、ユーリは嬉々として妖精達に突っ込んでいく。

 魔法を発動するよりも速く。

 

 真白の髪が僅かに舞う。

 槍を振るい、刀身を使って吹き飛ばすか、石突の部分を使って突き攻撃を行い、迅速に相手の意識を削り取っていく。

 

 魔法を発動しユーリを倒そうとしても、狙いを定める事は難しい。魔法を行使したとしても回避されてしまう。

 或いは、発動するよりも先に意識を削り取られてしまう。

 

 回避は行っているものの、多少の被弾など覚悟の上とばかりに肉薄。

 身を焦がす業火。全身を麻痺させる雷撃。一度中に取り込まれれば、意識を失うまで留まり続ける水球。直撃を食らえば、骨が折れてしまってもおかしくない土塊。

 

 全てが、危険な魔法だ。

 

 にも関わらず、ユーリは僅かに口角を上げて戦いを楽しんでいるような素振りを見せる。縦横無尽に駆け回り、魔法を食らっても野生の獣を彷彿とさせる獰猛な笑みが消え去る事はない。

 

 それが妖精達の目には不気味に映ってしまうのか、誰かが「ヒッ!」と、短く悲鳴を漏らす。一歩、後ろに下がってしまう。

 

 妖精達にとって、理解の範疇に留まる存在は好ましい。何故なら、それがどういう物なのか知っているのだから。面白い物であれば、もっと嬉しい。

 

 玩具として遊ぶ事が出来るから。

 

 逆に、理外の存在には普通以上に恐れを抱いてしまう。当然だ。訳が分からないのだから。どうやって扱えば良いのかも分からないし、どう扱うのが正解なのかも分からない。

 

 下手を打てば、死んでしまうかもしれない。

 妖精達にとって、理外の存在は暗闇だ。

 

 明かりで照らそうとしても、先の見えない暗闇。そこに何が存在しているのか分からないから、本能的に引き返してしまう。

 

「く、来るな!」

 

「諦めなさい」

 

 恐怖と言う名の真綿が、ゆっくりと首を絞める。

 とうとう我慢できなくなったのか、感情のままに叫ぶ妖精。

 

 恐怖を振り払うように放った魔法は、しかしユーリの頬を掠った程度。曲がり也にも、恐怖に打ち勝つ事が出来た、と捉える事も出来るがそんなのは只の慰めにしかならない。

 

 槍を横薙ぎに振る。

 目で追う事しか出来ない速度で、平べったい刀身が妖精の横っ腹に叩きつけられる。ボキベキメキ、という骨の折れるような音がアルトリアの耳に届く。

 

 どうか、聞き間違いであって欲しい。

 横から強烈な力が加わる。踏ん張る事も出来ず、妖精は勢いよく吹き飛ぶ。そのまま木の幹に体を強く打ち、気絶。

 

 彼の安否が心配だが、生憎気にしている暇など無い。

 1人。また1人と妖精がやられていく。

 

 全員が全員アルトリアには行使する事が出来ない「魔法」を行使する事が出来る。

 どれだけ性根が腐って居ても、実力は水準以下。

 

 そんな妖精達が、バッタバッタと薙ぎ倒されていくのだ。良くない事と頭の中では理解していたものの、爽快感を覚えてしまう程に圧倒的。

 

 もっとユーリの雄姿を見ようと、物陰から身を乗り出してしまったのが良くなかったのだろう。

 妖精の1人と目が合った。

 

『妖精眼』によって、彼が何を考えているのか分かる。

 急いで逃げなければいけない。

 

 頭の中では理解していたのに、体が思うように動かせなかった。当然だ。こういった荒事に、アルトリアは慣れていない。

 

 逃げ出すよりも先に、距離を詰められてしまう。ようやく体が動き、伸ばされた手から逃れようとするが間に合わない。

 アルトリアは妖精に捕まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 柄の部分。

 その長さを利用して、妖精を倒す。

 

「グェッ!?」と、蛙潰したような無様な声が聞こえる。

 大変気分が良い。

 

(さて。これで全員、倒したと思うけれど。他に誰か残っていたかしら?)

 

 周囲をグルリと見回せば、正しく死屍累々。

 鼻から血を流す者。歯が折れている者。顔が赤く離れている者。腹を抑えている者。力なく項垂れている者。木の枝に身を預け、ぶら下がっている者。目の端に涙を浮かべている者。

 

 全てユーリがやった結果だ。

 後悔はしてないし、反省なんてする訳もない。

 

「おい『獣狩り』! そこから動くなよ!」

 

 そろそろアルトリアを連れてここから逃げ出すべきか、と考えているといけ好かない声が聞こえて来た。

 仕留め損ないがいたのか。

 

 距離を詰め、迅速に槍を振るう――という事は出来なかった。

 何故なら、妖精は人質としてアルトリアを取っていたから。

 

 片腕を使い、首部分を拘束。苦しそうに表情を歪ませているものの、妖精にとってはどうでも良いらしい。

 もう片方の腕は魔力が充填されており、いつでも「魔法」を放つ事が出来る状態だ。

 

「魔法」の直撃を食らえば、アルトリアの命の保証は出来ない。

 だからこそ、ユーリが足を止めるには十分過ぎた。

 一つ言いたい事があるとすれば。

 

「……貴方達の目的は『予言の子』なのでしょう? なのに、その『予言の子』を人質に使うというのは、手段と目的が入れ替わっていないかしら?」

 

「だ、黙れ! よくも皆を倒してくれたな! こっちには『予言の子』が居るんだぞ! 大人しく、私の指示に従え!」

 

 気が触れている、としか言いようのない金切り声と共に、ギリギリ会話が成立している妖精。

 精神的にギリギリ、と言った所だろう。

 

 対応の仕方を間違えれば「魔法」がアルトリアに放たれてしまう事だろう。

 

 ――どうするべきなのか。

 

 そんなの、決まっていた。

 

「分かった。私は何もしないから。アルトリアを解放しなさい」

 

 ユーリは手に握られていた槍を落とした。

 

 

 

 

 

 

 自分のせいで、こんな事になってしまった。

 自分がもっと強ければ。

 或いは、救世主トネリコのようになれれば。

 

 もしかしたら、こんな風に人質になる事なく、ユーリと肩を並べて戦う事が出来たのかもしれない。

 

 尤も、アルトリア自身戦いは好きではない。出来る事なら戦わず、皆ハッピーで生きていきたいと思っている。

 絶対に叶わない、と理解していても。

 

「ッ! お母、さん! 武器を、離しちゃ、駄目……!」

 

「『予言の子』の紛い物は黙れ! そして、貴様は死ね! 薄汚い『獣狩り』がァ!」

 

 武器を手放す。

 それは戦いの場において、絶対にやってはいけない行為だ。

 妖精が何をしようとしているのか。

 

『妖精眼』で心の内を見なくても、分かってしまう。

 

 迸る魔力と共に、放たれた「魔法」は無抵抗のユーリに直撃する。そのまま、ユーリは燃え盛る業火に全身が包まれ炭と化す――光景を幻視した。

 

 だが、間に割って入るように、草むらから巨大な石が飛んで来た。

 

「へ? 石?」

 

 突如やって来た石に気を取られてしまい、「魔法」の発動が遅れてしまう妖精。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 石は囮だった。

 自分自身を鼓舞するような雄叫びと共に、草むらから姿を現すのは1人の妖精。外見は少女的で、アルトリアと同年代に思える。

 

 策も何も考えていないのだろう。

 妖精がした事は至極単純。

 真っ直ぐ突き進む事。

 

「ッ! 何なんだ! お前は!」

 

 突然やって来た、新たな脅威。

 

 優先すべきはユーリの方だが、理解するよりも先に体が動いてしまう。放たれる「魔法」は、しかし直撃はさせまいとアルトリアが腕に噛みついたお陰で僅かに狙いが逸れる。

 

 それでも妖精の横。

 着弾と同時に、軽く爆発。

 怯むことなく、進み続ける。

 

「邪魔をするんじゃない! 『予言の子』の紛い物が!」

 

「その子に、触れるな!」

 

 妖精は距離を詰める。

 手を伸ばせば、アルトリアに手が届く距離まで。

 

 拳を強く握り締めて、妖精はアルトリアを虐げる邪悪な妖精の顔面を思い切りぶん殴る。

 邪悪な妖精は軽く吹き飛び、偶然にも地面に埋まっていた石に頭部を直撃させて、気を失ってしまう。

 

 アルトリアは拘束から逃れる事が出来た。

 首の圧迫感が無くなると同時に、咳き込むアルトリア。

 

 彼女に向かって手を差し出すのは、アルトリアを助けてくれた妖精。態度は何処かよそよそしいが、アルトリアの手助けになりたいという気持ちは伝わる。

 

「貴方が無事で、良かった」

 

「……あれ? もしかして」

 

 アルトリアは目の前の妖精に見覚えがあった。

 記憶が正しければ、二回程交流があった筈だ。

 

 一回目は、友達と言う名の主従契約を結ばれそうになった時。二回目は、杖を盗まれてしまった挙句、森に住まう野生の獣に襲われそうになった時。

 

 きっと、彼女自身もアルトリアがどの辺りを思い出しているのか予想がついているのだろう。酷く気まずそうにしながら。でも、しっかりとアルトリアの目を見ながら言う。

 

「貴方に助けられた恩を返しに来たの。……あの時は、私を助けてくれてありがとうございました」

 

 頭を下げて、妖精は感謝の気持ちを伝えるのだった。

 顔を上げた瞬間、突然アルトリアを突き飛ばす。

 一体何を!? と、文句を口にしようとした。

 

 伝える事は叶わなかった。

 アルトリアが先程まで立っていた場所に飛んで来たのは紫電。アルトリアはそこにはいない。代わりに、アルトリアを突き飛ばした妖精が居た。

 

 雷撃を全身に受け、声を上げる事も出来ずに倒れる。

 魔法が放たれた方向を見れば、辛うじて意識を保っていた妖精が1人。ユーリが槍をぶん投げ、即座に鎮圧する。

 

 だが間に合わなかった。

 

「そん、な。どうして! どうして私なんかを……!」

 

「……私にとっては本物……だったから。だから、そんな風に、自分を……卑下しないで」

 

 アルトリアを心配させまいと、ニッコリと微笑む妖精。

 限界が来たのか、意識を失う。

 握っていた手は力が抜け、弱々しく倒れる。

 

 何も出来なかった。『予言の子』の筈なのに。全ての妖精を救う事が出来るだけの力は持っている筈なのに、目の前にいる妖精1人を救う事さえも出来ない。

 

 自責の念で如何にかなってしまいそうになる。

 肩を叩かれる。

 

「悪いけれど、時間は無いわよ。騒ぎを聞きつけて、他も貴方を確保する為に動き出すでしょうね。アルトリア。覚悟を決めなさい」

 

 それは一体、何の事を言っているのか?

 多数の悪意に晒されてしまう事?

 誰かが傷ついてしまう事?

 

 目を覆いたくなるような、現実を直視しなければいけない事?

 分からない。分かる筈もないし、分かりたくもない。

 

 けれど、アルトリアには「はい」以外の選択肢など存在していなかった。だって、それが自分で選んだ選択だったから。

 

 

 

 

 

 

 状況は明らかに不味かった。

 村の連中の動きを察知出来ていれば、多少なりとも対策を講じる事も出来ただろう。だが、現実は何も出来ていない。

 

 後手に回っている。

 このままではジリ貧だ。

 

 戦いにおいて恐ろしいのは奇襲。意識の外からの攻撃だ。何の対策を打つ事も出来ず、相手のペースに呑まれてしまう。

 

 そして、一度奇襲に成功されてしまえば、次もまた同じ事が起きるのではないか? と言う心理的な負担が働き、精神を摩耗してくる。

 良くない兆候だ。

 

 出来る事なら、誰にも知られていない場所で身を隠したい。

 

(だけど……)

 

 ユーリはちらりと、自身の背後をついてくるアルトリアを見る。

 その表情は酷く暗い。無理もない。以前助けた妖精が、自らを盾にしてアルトリアを守ったのだ。

 

 結果的に、アルトリアが怪我を負う事は無かった。

 しかし、精神的にかなり堪える筈だ。

 

 彼女は誰かが傷ついてしまうなら、自分が傷つく事を選んでしまう。根本的に、誰かを陥れるということが出来ない優しい子。

 だからこそ、この状況はアルトリアに対して、更に心理的負担を強いてしまう。

 

 ユーリの限界が来るよりも先に、アルトリアに限界が来てしまうだろう。

 

「取り敢えず、エクターの工房に向かいましょう。あそこなら、まだ追手も来ていないでしょう。それに、事情を話せば協力して貰えるはずよ」

 

 無関係であるエクターを巻き込んでも良いのだろうか?

 

 ティンタジェルの連中から嫌われている上に、暗殺の依頼までお願いして来るレベル。無関係と言い張るには若干無理がある気もしなくないが、当の本人は何が起こっているのかまだ分かっていないだろう。

 

 だが、他に頼れる者もいない。

 2人だけでは、じきに限界が来てしまう。

 

 仮に責められたとしても、それは自分が受け止めれば良い。巻き込もうと考えてしまったのは自分自身。その程度の覚悟も出来ずに向かうなんて話にすらならない。

 

「頑張りなさい。もう少しで、体を休める事が……ッ!」

 

 この場にいては不味いと、直感が囁く。

 

「今すぐここから離れなさい!」

 

 方向を変え、後ろから付いて来たアルトリアも連れてその場から逃げる。

 それから間もなくして、無数の魔法が降り注ぐ。

 

 たった一つでさえ、まともに食らえば重傷は確実。出鱈目とも呼べる、人知の及ばない奇跡が束になって襲い掛かって来る。

 直撃を回避する事は出来ても、衝撃によって体が軽く吹き飛ばされてしまう。

 

 咄嗟にアルトリアを抱きしめて、地面を転がる。

 体に鋭い裂傷を刻んでしまったが、抱きしめて守ったアルトリアは無事。

 

「お母さん!」

 

「……不味いわね。向こうは、此方の動きを呼んでいた、と言う事かしら?」

 

 此方を見下す様にして、高所を取る数名の妖精達。

 村の妖精達だろう。

 距離を詰めるにしても、高低差が有り過ぎる。高所を取られてしまっている、というのも痛い。

 

 身を隠せる場所は多々あれど、魔法の前では無力。

 呆気なく撃ち破られてしまう事だろう。

 

「走るわよ! アルトリア! ここを切り抜けるには、それしかないわ!」

 

 撃退する事は難しい。

 そもそも襲撃者を倒した所で、伏兵が潜んでいないという保証もない。

 

 村にはそれなりの数、妖精が居た。

 仮に全員が敵に回った場合、何度も襲撃が起こる可能性がある。

 考えたくないが、受け入れなければいけない事実。

 

 目的はエクターの工房に辿り着き、匿って貰う事。

 ここで余計な時間を使う訳にはいかない。

 

 アルトリアの手を引き、走る事でその場を切り抜けようとするユーリ。無論、向こうだってユーリの狙いは分かっている。

 だからこそ、容赦なく魔法を放って来る。

 

 しかし、ユーリには人とは違う特別な特性がある。コレを上手く利用できれば、切り抜ける事だって夢物語ではない。

 敵の狙いが自分では無く、別だった事に気付くのはそれから数秒後。

 

 放たれた魔法が向かう先は、ユーリが手を引いているアルトリア。

 

(ッ! しまった!)

 

 考えてみれば当然の事だ。

 戦いにおいて、弱い奴から狙うのは定石。

 

 ましてや、村の連中の目的は『予言の子』であるアルトリア。彼らにとって、アルトリアの安否などどうでも良い。

 

 引き渡しを行う際に、顔を確認できる状態であれば死んでいようが生きていようが問題はない。そう言う認識なのだろう。

 妖精らしい、粗雑で反吐が出そうな考え方。

 

(……いや。人間であっても、同じ事はするか)

 

 頭の冷静な部分は、思わずそんな事を考えてしまう。

 極論、ユーリはどうでも良い。

 

 自分達の目的を邪魔して来るから、ついで感覚で殺そうとしているだけ。だからこそ、ユーリはアルトリアを見捨てれば命が助かる確率は高い。

 

 尤も、村長との一件で二桁にものぼる数の住人達をぶちのめしてしまっている訳だが。何方にしても、絶対殺すリストの仲間入りは果たしているかもしれない。

 

「まあ、そんな事はしないんだけど」

 

 間に合わない。

 直感的に理解する。

 どうするべきなのか? 何をするべきなのか?

 

 考えずとも、ユーリの体は動く。アルトリアに助けられた妖精と同じように。何の躊躇いも無く、アルトリアの体を突き飛ばす。

 

 力調整をミスしてしまい、結構な距離吹き飛ばされてしまった挙句、数回程バウンドしてしまうのはご愛敬。

 魔法の雨を全身に食らってしまうよりも、数倍はマシだろう。

 

「本当、嫌になるわね」

 

 嬉々として襲い掛かって来た村の連中に向けた言葉か。

 

 或いは、アルトリアを優先させてしまった自分に向けた言葉なのか。

 言葉の意味は本人も知る事なく、全身を呑まれてしまう。幾つもの魔法が重なった結果、黒い本流へと変わったソレに。

 

「お、お母さん!」

 

 全身土塗れになりながらも、アルトリアは叫ぶ。

 しかし、ユーリからの返答はない。

 

 何故なら黒い本流が消え去った後、残ったのは辛うじて人としての原型は留めているものの、明らかに人間と呼ぶには色々と足りない何かしか、そこには存在していなかったのだから。

 

「…………………………え? な、んで? だって……そんな…………え? ……お母、さん?」

 

 現実を受け入れる事が出来ず、両掌で顔を覆って目の前の現実を否定する。

 ある種の現実逃避だ。

 

 自分が今、置かれている状況すら忘れてしまうくらい。

 アルトリアは錯乱してしまう。

 

 当然、そんな彼女を村の連中が見逃す訳もない。錯乱しているアルトリアを気絶させた後、村の連中はアルトリアを運んで消える。

 誰も居なくなる。

 

 残ったのは、かつて人だった物。

 

「……さて。これは一体、どうしたものかな?」

 

 と、自称花の魔術師が1人。

 




 
 テュフォン・エフェメロスが実装されたのはとても嬉しいですが、周年や夏イベの事も考えると石が……石が足りない……!

 おのれ、型月。
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