星を追う子に春の祝福を   作:ロドリゲウス666

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今回は長めです。
誤字報告、感想ありがとうございます。


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 今日も今日とて、家に閉じこもって引き篭もり染みた生活を送る。

 とはいえ、後ろめたい事など何もない。

 

 アルトリアは村の妖精達からは嫌われているし、前回の一件によって更に軋轢は深まってしまった。村に赴こうものなら、前回以上の悪意に晒されてしまう事は確実。

 

 かと言って、森の中で元気に遊ぶ事は難しい。

 アルトリアは弱い。

 妖精達の力をもってすれば、容易に倒す事が出来る獣が相手でも倒すのに手間取ってしまう。或いは、敗北してしまう。

 

『予言の子』であるにも関わらず、こんなに弱くて良いのか? と思わない事もないが、弱いのだから仕方がない。

 一応、強くなろうとはした。

 

 自身の身近にいる、途轍もなく強い妖精。保護者にして母親でもある、ユーリに自分を強くして欲しいとお願いした事はあった。

 満更でも無かったのか、真白の髪を指先に絡めつつ指導してくれたものの、何一つ分からなかった。

 

 結論から言えば、ユーリは他者を教える事が圧倒的と言って良い程に向いていなかった。本人も自覚が無かったのか、少しばかり傷付いた様子を見せていたのはアルトリアの記憶にも新しい。

 

 だからこそ、アルトリアは自身が引き篭もりであるという事実に対して何の恥ずかしさを抱く事も無いし、後ろめたい事も存在していない。

 欲を言うのであれば、もう少し娯楽が欲しい所ではあるが、余り贅沢を言うべきではないだろう。

 

「アルトリア。貴方、村に行って来なさい」

 

 ユーリから、唐突にそんな事を言われた。

 え? と言う一文字で、頭の中が埋め尽くされてしまう。

 

「お母さん、何かの冗談? もう、幾ら愛しい娘が相手だからって、言って良い事と悪い事があるよー」

「私、嘘は吐かない主義なの」

「…………え? 本当に?」

 

 確認するように、ユーリに対して再度問いかける。

 が、既に答えは見えている。

 常時発動してしまう厄介な特性である『妖精眼』によって、ユーリが何を考えているのかは丸わかりだ。

 

 思考を読み取ってしまえば、彼女が言っている事は本気なのだと嫌でも理解させられてしまう。

 

「お、お母さん分かってるの!? あの一件で、私達って村の皆から恨まれたとしてもおかしくは無いんだよ!?」

「でしょうね。あの後、戦利品を受け取りに行った後、もう2回勝負をしたから、合計で3割の貯えを得る事が出来たし」

「何やってるの!? いや、本当に何やってるの!?」

 

 恨まれて当然だ。

 寧ろこの家を襲撃しに来てないだけ温情とも言えるだろう。

 第一、勝手に娘を掛け金に使うなと文句を言いたい。

 

「此方をインチキ呼ばわりしていたけれど、逆に向こうがズルして来たから完膚なきまでにボコボコにしてあげたわ」

 

 ドヤ顔を披露しつつ、サムズアップするユーリ。

 彼女が一体、村長に対してどんな事をしたのか? イメージはそのまま『妖精眼』によって読み取る事が出来てしまう。

 

(め、目もあてられない……村長さん、ごめんなさい)

 

 向こうが卑怯な手を使っていたのだとしても、それでも同情せずにはいられない。思わず、アルトリアは心の中で村長に対して謝罪する。

 

「……そ、それで。どうして私が村に行かないといけない訳? 話を聞く限り、行く理由よりも行かない理由の方が多そうな気がするんだけど」

 

「貴方の言っている事は正しいわ。アルトリア。私もあの村の事は嫌いだし、全員死んでしまえばいいのにと一日に一回は思う事があるけれど、それでも私達の生活とあの村は切っても切り離せない存在なの。口惜しい事に」

 

 物騒な事を考え過ぎではないだろうか?

 思わずツッコミそうになったが、グッと堪える。

 

「そう、切り離せない存在なの。私にも言える事だし、貴方にも言える事よ。アルトリア」

 

 念押しするように、ユーリはアルトリアを指差す。

 小さい頃、人を指差すなと教わった筈だが、母親が娘に対して指を指すのは有りなのだろうか?

 

 アルトリアが指を指してしまった時、指の骨を折ろうとした時の恨みは今も尚、忘れていない。

 何時か、絶対にお礼参りしてやる。

 と思っているが、現状では実現不可能だろう。

 

「だから、私に村に行けって言ってるの?」

「そうよ。いつかは嫌でも行く事になるのだから、今の内に慣れておきなさい。後、子供がずっと家の中に居続けるのも良くないと思うし」

 

 アルトリアの答えは決まっていた。

 恐れる事は何もない。

 今から、自身が振るうのは当然の権利なのだから。

 

「絶対に嫌だ!」

 

 決して外になんて出ないぞと、強固な意志を持って拒絶する。強行手段にも屈しないと、両手両足を使って椅子にしがみつく。

 が、無駄だった。

 

 分かっていた。

 例えアルトリアがどれだけ抵抗した所で、本気を出したユーリを前にすれば、自身がどれだけ無力なのかを思い知らされる。

 

「村に行かないと家に入れるつもりは無いから、覚えておきなさい」

「横暴だー!」

 

 アルトリアと椅子を引き剥がす事無く、椅子ごと外に放り投げる。

 

「後、只村に行くだけでも面白くないでしょう? 誰でも良いから、話をしてきなさい。話題は、天気の話でもして来たら良いんじゃないかしら? 1人だと心細いだろうし、これも持って行きなさい」

 

 村へ行くだけでも一苦労なのに、新たに鬼畜な条件まで付けてきた。

 母は自分の事が嫌いなのだろうか? と思わずには居られないが『妖精眼』によって、それは否定されてしまう。

 

 寧ろ、この状況を楽しんでいる節さえ見られるのだから、悪辣な事この上ない。

 おまけに『予言の子』としての証明である『選定の杖』も粗雑に投げ捨てられた上に、力無く地面に倒れている。

 

 酷過ぎる。

 もっと大切に扱ってくれないだろうか?

 

「それじゃあ、精々頑張りなさい」

 

 最後にそう言い残した後、扉はゆっくりと閉まる。

 地面に倒れている『選定の杖』を手に取った後、アルトリアは大きく息を吸う。

 そして、大きな声でこう叫ぶのだった。

 

「お母さんの、馬鹿野郎!」

 

 

 

 

 

 

『選定の杖』をお守り代わりに。

 強く握り締めつつ、ティタンジェルへと足を踏み入れる。

 

 アルトリアの容姿は目立つ。金色の髪に、庇護欲をそそられる容姿。体つきは未だにお子ちゃまではあるものの、背は順調に伸びている。

 何よりも目を引くのは頭の天辺に生えた、一本のアホ毛。

 

 アルトリアの感情に呼応して、アホ毛自身も様々な反応を見せてくれる。一節によれば、アホ毛を抜く事によって、代わりとなる自分の姿が現れるとかなんとか……と言う話を聞いた事もあるが、真偽のほどは定かではない。

 

(うう、お母さんの馬鹿! 本当に馬鹿!)

 

 しかし、容姿が何だったとしても、きっと多数の妖精達から注目を浴びる事になっていただろう。

 何故なら、アルトリアは『予言の子』なのだ。

 

 いずれ、全ての妖精を救うという役目を担っている少女。

 どれだけそんな役目から。肩書から離れたいと思っても、周囲が逃がしてくれる事はない。羨望と、悪意に満ちた視線で、アルトリアを離してくれない。

 

 思わず溜息が零れてしまう。

 嫌だなぁ、と言う本音が胸中に渦巻く。

 荷が重い。

 

 一体、何処の誰がこんな自分を『予言の子』に仕立て上げたというのだろうか? 弱い事は、他でもない自分自身が知っている。情けない事は、他でもない自分自身が知っている。『予言の子』に向いていない事など、他でもない自分自身が知っている。

 

「辞める事が出来るなら、喜んで辞めるんだけどなぁ」

 

 しかし、辞める事なんて出来ない。

 これは誰かがやらなければいけない事。

 アルトリアは選ばれた。

 

 選ばれてしまった。

 故に、責任を果たさなければいけない。

『予言の子』としての責任を。

 

(……うわぁ。考えただけでお腹が痛くなりそう。本当に、私に出来るなんて思っているのかな?)

 

 想像してみよう。

 例えば、ユーリに聞いてみたら。

 

『は? 『予言の子』としての使命を本当に果たす事が出来るのか? そんな事、私が知る訳ないし、他者に意見を求めているようならまだまだね。少し、そこら辺を走って来なさい。日が沈む頃になったら、戻って来ても良いわよ』

 

 駄目だ。宛にならない。

 あくまでもアルトリアの想像でしかないが、実際にこんな事を言いそうで怖い。しかも、余り参考にならないのだから流石はユーリと言うべきなのか。

 

(いや、全然褒められる事じゃないんだけど! 今だって、可愛い娘に対して虐待まがいな事をしている訳だし!)

 

 他に聞ける人物は居ただろうか?

 建前だけではない。

 純然たる本音で、アルトリアの悩みに答えてくれる人物は。

 

 ……居ない。

 そもそも、アルトリアの交友関係が余りにも狭すぎた。

 現状、ユーリしか親しくない。

 

 村の妖精達は知り合い未満。出来る事なら、余り関わりたくないというのが本音だ。

 

(うわぁ、今更だけど私って友達が全然居ないのかー。この年齢にもなって、友達がゼロ人って不味いかな? ……いや、不味いよね)

 

 ふと、アルトリアは閃く。

 これを機に、友人の1人や2人作ってみたらどうだろうか?

 無論、『妖精眼』を通して相手と接してしまえば、友人関係が容易く破綻してしまう事は分かっている。

 

 しかし、破綻してしまうのが確実だから、と言う理由で逃げるのは如何なものか?

 ユーリから下された指令は、村の誰かと話をする事。そこに、友人関係を結ぶという自己目標を追加した所で、大した負担は生じない。

 

 寧ろ、自分自身でこんな事を考えるとは。私も成長したんだなぁー、と自分を褒めてあげたくなる。

 不意に、肩を叩かれる。

 

「ねえ、聞いてる? あれ? もしもーし」

「あ。ご、ごめんなさい。少し考え事をしていて……。わ、私に何か用?」

 

 後ろを振り向けば、そこには1人の妖精が。

 見た目はアルトリアと同じくらい。

 もしかすると、年齢も一緒かもしれない。

 

「貴方って『予言の子』よね? 私、コレから友達と一緒に遊ぶんだけど、貴方も一緒に遊ばない?」

 

「え? い、良いの?」

「勿論!」

 

 何と言う幸運。

 誰に声を掛けようか? と考えていたが、まさか向こうから声を掛けてくれるなんて。

 

 案内されるがまま、村の中央――人通りの多い場所から、人の気配が少ない場所へ。日の当たっていた村の中央とは異なり、日が余り当たらないせいなのか、薄暗く何処かジメジメとしている。

 

 何か、良くない者でも現れそうな雰囲気だ。

 

「え? ここなの? なんと言うか、少しおっかない場所な気が……」

「貴方もそう思う? 私もそう思う。けれど、ここなら邪魔が入る事も少ないから、ね」

 

 一体何処に隠れていたのか。

 道案内してくれた妖精の合図で、新たに数名の妖精が姿を現す。

 

「さて。何をして遊ぶ? 貴方『予言の子』なのでしょう? だったら、貴方で遊んだ方がもしかしたら楽しいかもしれないわね」

「あれ? 聞き間違いかな? 今、私を使って遊ぶって聞こえたんだけど」

 

 知っていた。

『妖精眼』によって、自身を遊びに誘ってくれた妖精が、一体何を考えていたのか位。善意なんか微塵も無くて、あるのは嫉妬や羨望。憎悪。

 

 けれど、何も心の中で考えている悍ましい事を、そのまま実行する必要なんてない。黒い心を自身の奥底に隠している妖精だって、きっと何体も居る筈だ。

 

 だから、もしかしたら……。

 そんな一縷の望みに掛けてついて来てみたものの、結果はお察しの通り。

 

 こんな目に遭うのであれば、家の中に引きこもっていた方がまだ充実した日々を送る事が出来ていたかもしれない。

 

(いや、まあ。分かってて付いて来た私も私なんだけど……)

 

 逃げるタイミングを失ってしまったのだから仕方がない。

 これから遊びと称して、痛めつけられてしまうのだろうか? 

 抵抗しても無駄だろう。

 

 何せ、目の前にいる妖精達はアルトリアよりも強い。

 おまけに、数の差は歴然。

 アルトリアよりも強い癖に、たった1人のアルトリアに対して徒党を組んで襲い掛かって来る。

 

 慈悲は無いのだろうか。

 逃げようとするよりも先に、背後に回り込んでいた妖精に捕まってしまう。

『選定の杖』を落としてしまうが、気にする暇はない。

 

「さて。どんな風に遊びましょうか? 『予言の子』は、なにか意見でもある?」

「で、出来れば余り危険じゃない方が嬉しいかな?」

 

 言うだけ無料だから、取り敢えずは言ってみる。

 が、期待はしない方が良い。

 

『妖精眼』で心の中を覗いてみれば、随分陰湿な事を考えている。止めてくれ、と頼み込んでも効果は薄いだろう。

 寧ろ、彼女達を余計に喜ばせてしまうかもしれない。

 

(終わるまで、大人しくしておいた方が良いかな)

 

 根本的に、アルトリアは自分の為に怒れない。

 苛立ちはする。腹立たしいと思う。怒りは抱く。

 だが、ソレだけ。

 

 心の中で、一種の摩擦として生じる事は有れど、ソレを外に出す事はない。

 そんな彼女に対して、意気地なしと呼ぶ者がいるだろう。

 

 或いは、心優しいと称するかもしれない。

 はたまた、それこそが『予言の子』に必要な要素なのかもしれない。

 何方にしても、アルトリアは自分の為には怒れない。

 

 しかし、逆に言うので有れば。

 他者の為であれば、怒る事が出来る。

 

(でも、きっと私が傷付いたら、お母さんはとっても怒るんだろうな。……そして、御礼参りと称して、私を傷付けたこの子達をもっと酷い目に……まった。流石にソレは不味い!)

 

 今、ここでアルトリアが傷ついてしまえば、巡り巡って彼女達が傷ついてしまう。ソレこそ、アルトリアが負ってしまった傷など可愛く見えてしまう重傷を。

 

 あの母親であれば、やってのけてしまうとアルトリアは確信していた。

 何せ、粗雑な態度を取っていながらも、何やかんやでアルトリアの事を大切にしているのだ。

 

「ま、待った! 私を傷付けるのは止めた方が良い!」

「はぁ? ここに来て、命乞い? 全く『予言の子』ともあろう人が、命乞いなんてみっともな……」

 

「そうじゃ無くて! 私は、皆の身の安全を守りたいの!」

「……は?」

 

 妖精が浮かべていた醜悪な笑みが消え「え? コイツは何を言ってるの?」とでも言いたげな、呆けた表情に変わる。

 まさか、今から自分達が虐げるであろう人物から「貴方達を助けたいの!」と言われるなんて、思っても見なかったのだろう。

 

 アルトリアとしても、同じ意見だ。

 しかし、このまま行けばきっと良くない未来が待っている。彼女達にとっても、アルトリアにとっても。だから、足掻く。

 

 空気が弛緩する。

 それと同時に、アルトリアは藻掻く。

 

 逃げようとする気配を察し、アルトリアを拘束していた妖精が拘束の力を強めようとする。しかし、藻掻くアルトリアの頭部が顎に当たり、思わず怯む。

 

「よしっ!」

 

 拘束が緩む。

 地面に落ちていた『選定の杖』を拾う。

 

「お、お前……!」

「ごめんなさい! でも、私は皆を守りたいの!」

「一体、何を言ってるんだァ!」

 

 妖精は何かをしようとした。しかし、妖精が何かをするよりも先に、訳の分からない事をのたまいながら『選定の杖』を振り下ろすアルトリアの方が早かった。

 

 ゴッ! と鈍い音が響き、妖精はその場で力なく倒れる。

 全員を仕留めてはいない。

 

 だが、まさかアルトリアが反抗するとは思っていなかったのだろう。

 残った妖精達は、戸惑うような素振りを見せる。

 今がチャンス。

 

「皆、許して! でも、皆を助けるにはこれしか無かったの!」

 

 叫びながら、アルトリアは走り去る。

 きっと、アルトリアの言っている意味など分からないだろう。それで良い。世の中には、知らなくても良い事なんて沢山あるのだから。

 

 そのまま村を出て、自宅近くまで辿り着いたアルトリア。

 全速力で走ってしまったせいか、辛くて苦しい。

 が、かつてない程の達成感はあった。

 

「一体全体どうしたんだい? 前々から観察してはいたが、まさかあんなにも意気地のなかった少女が、相手に対して一発食らわせる事が出来るまでに成長するなんて!」

「む? 誰だ! 私の事を馬鹿にする奴は!」

 

 何処からともなく聞こえた声。

 声の主を探すが、周囲には誰もいない。

 森の奥に誰かが居る、と言う様子も感じられない。

 

 はて? 気のせいだったのだろうか? 思わず首を傾げてしまうが、先程までの声はアルトリアの耳に残っている。

 何とも胡散臭く、果たして信用しても良いのだろうか? と小一時間位は悩んでしまいそうになるイケメンボイス。

 

「何処を探しているのか分からないが、生憎その場に私は居ないよ。何故なら私は今、君が持つ『選定の杖』から話掛けているのだからね」

「え!? 嘘!? この杖って、無駄に豪華な見た目をしている訳じゃなくて、誰かと通信する機能まで備わっていたの!?」

 

 仮にそうだとすれば、驚きの発見だ。

 豪華で、長くて、『予言の子』としての証明以外に何も使い道がないと思っていた。

 

「…………」

 

『選定の杖』を通して聞こえてきた誰かさんの沈黙。されど、アルトリアに対して呆れの様な感情を抱いているのは読み取れた。

 

「私に対して何か言いたい事でもあるの? 場合によっては、私は抗議するけど!」

「……いいや。言いたい事は何もないさ。単純に、個性的な『予言の子』だな、と思っただけさ」

 

 アルトリアを傷付けないように。或いは刺激しないように。当たり障りのない言葉で濁しているが『妖精眼』によって、他者の機微に敏感なアルトリアは分かる。

 コイツ変な奴だな、と内心で思っている事に。

 

「用がないなら帰ってくれない? 私、コレから家に戻ってゴロゴロする用事があるから」

 

 とは言っても、どうすれば『選定の杖』から聞える声を遮断できるのだろうか? もしかすると、選定の杖の装飾の一つに通話を切る為のスイッチとかが存在しているのかもしれない。

 

『選定の杖』を弄り、何処の誰かも知らない相手との会話を終了させようとするアルトリア。声の主は、若干慌てたように叫ぶ。

 

「魔術に興味はないかい?」

「……え? 今、魔術って言った!?」

 

 ――魔術。

 普段、妖精達が扱っているのは魔法だ。魔法と比べれば、魔術は聊か格が落ちてしまう。

 

 しかし、アルトリアは魔法を行使する事が出来ない。

 そんな彼女にとって、魔術を使う事が出来ると言うのは一種の憧れのような物だ。

 

 例え、魔術を行使した所で、妖精達から馬鹿にされてしまうとしても、出来なかった事が出来るようになるというのはとても嬉しい。

 アルトリアの食いつきが思った以上に良かった。ソレに気をよくしたのか、名も知らぬ声の主はやや声を弾ませながら答える。

 

「ああ、勿論だとも。そして、喜ぶという。私は君に魔術を教える事が出来る。……っと、そう言えば、自己紹介がまだだったね。初めまして。『予言の子』。私の名前はマーリン。花の魔術師、マーリンだ」

 

「マーリン。へー、なんと言うか凄そうな名前だね!」

「早速だが、どんな魔術を使ってみたい? 私はマーリンだからね。大抵の要望には答える事が出来るよ」

 

 どんな魔術を使ってみたい?

 そんなの、答えは決まっていた。

 

「私、空を飛んでみたい!」

「…………コイツ。初っ端から飛ばして来るな」

「え? 今、何か言った?」

 

「いいや。何でもない。それも確かに悪くは無いが、最初は日常で使える便利な魔術から覚えた方が良い。例えば、火起こし。他にも、水を出したり、汚れてしまった部屋を掃除したり。魔術に不可能はない。ましてや、この私が教えるマーリン魔術だ。きっと、君も気に入る筈だ」

 

「でも、どうして私に魔術を教えてくれるの? 私が『予言の子』だから、って言う理由は分かるけど……何となく、マーリンはそうじゃない気がする」

 

 アルトリアは『予言の子』だ。

『予言の子』であるからこそ、頼られたり、褒められたり、憎まれたり、妬まれたりと言う事は多いかもしれない。

 

 しかし、それはあくまでも『予言の子』と言う称号が存在しているから。仮に『予言の子』じゃないアルトリアだったら、きっと誰も見向きもしない。

 

(……いや、違うか。少なくともお母さんは『予言の子』とかには興味なさそうだったし。もしかしたら、そんな名前自体も知らないのかも)

 

 マーリンも同じだ。

『予言の子』だから接している面もあるかもしれないが、彼だってアルトリアをちゃんと見てくれている。そんな気がする。

 

「……何。別に、大した理由じゃないさ。君が魔術を学んでくれれば、強くなる。強くなるという事は『予言の子』としての役目を果たしやすくなる。私はね君が『予言の子』としての役割を果たす過程で、とある問題事を解決して欲しいんだ」

 

「問題事? それって、一体?」

「今はまだ、教える事は出来ない。只、何時かは教えよう。……とまあ、私にも打算があって君に魔術を教えるんだ。だから、そこまで警戒しなくても良い」

 

「うん。分かった。それじゃあ早速魔術を教えて……って言いたい所だけど、一応お母さんに言っておかないとな」

「君の母親かい? 村の妖精達があんな風だから、余り期待は出来そうにないと思うけれど」

 

「……いや、お母さんは村の皆と比べると……大丈夫、かもしれない?」

「どうして疑問形なんだい?」

 

 アルトリア自身も断言は出来なかった。

 ティタンジェルの皆と、自身の母親であるユーリ。果たして、何方がヤバイのか? 娘と言う個人的な事情を抜きにすれば、ユーリを真っ先に選びたい所ではあるが、仮に本人の耳に届いてしまえばヤバイ。

 

 最悪の場合、アホ毛を思い切り引っこ抜かれた上に、ご飯抜きになってしまうかもしれない。考えただけでも震えが止まらなくなってしまう。

 

 が、ユーリは断らないだろう。

 魔術はきっと、アルトリアの為になると分かってくれるから。

 

 

 

 

 

 

 自宅に戻った後、アルトリアは事の経緯を説明した。

 幸いにも『獣狩り』としての仕事は無かったのか、ユーリは家に居た。椅子に腰かけて、編み物を行っていた。

 

「……成程。その杖を介して、マリーンと呼ばれる人物から魔術を教わる、と」

 

「言っておくが、私の名前はマリーンじゃ無くてマーリンだから。伸ばし棒を付ける部分を間違えるだけで意味合いは大きく異なってしまうのだから、出来れば気を付けて欲しい」

 

「構わないわ。けれど、条件が2つ」

「聞こうじゃないか」

 

 真剣な面持ちで、ユーリは指を2本立てる。

 

「1つ目は、実際に魔術を実演してみせる事。幾ら魔術に長けているとは言っても、実際に見てみないと信用は出来ないわ。そして、2つ目は私も参加させる事。別に、必ずという訳ではないわ。気が向いた時に、話を聞いて見たいの」

 

「1つ目に関しては、成程。確かに。君の懸念は尤もだ。……だが、2つ目に関してはどうしてなんだい? アルトリアが真面目に魔術を学んでいるのか、その監視でも行うつもりなのかい?」

 

「私も魔術を学んでみたいからだけど」

「…………」

 

 当然と言えば、当然の理由。

 しかし、マーリンは考えても居なかったのか、暫くの間二の句が継げなくなっていた。

 

「な、成程。……う、うん。私としては、特に問題はない。生徒が増えるという事は、私の教師としての腕の見せ所でもある訳だからね」

「……言いたい事があるならさっさと言いなさい」

 

「さて、それじゃあ早速実演しようじゃないか! とは言え、本格的なマーリン魔術を披露する為には教材が必要になって来るからね。今回はお試し魔術を試してみようじゃないか!」

「お、おー!」

 

 マーリンの指示に従い、早速魔術を行使してみるアルトリア。

 しかし、マーリンの教え方が悪かったのか。はたまた、アルトリアには魔術の才能が絶望的なまでに不足していたのか、魔術は失敗。

 

 盛大に爆発してしまい、その場にいたアルトリアは愚か。ユーリさえも巻き込んでしまった。

 

 不幸中の幸いだったのは、屋内ではなく屋外だった為、家はダメージを受けなかった事。しかし、アルトリアはユーリからお叱りを受けてしまうのだった。

 

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