星を追う子に春の祝福を   作:ロドリゲウス666

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 早朝。

 普段であれば中々起きる事が出来ず、結果的にユーリの手によって無理矢理起こされる事が基本のアルトリアだったが、今日は珍しく早朝に目が覚めた。

 

 窓から差し込む日の光は柔らかく、空気も涼しさを帯びている。

 気持ちの良い朝だ。

 ベッドの上で背伸びをした後、自身の隣で今もまだ眠っているユーリを起こさないように、ゆっくりとベッドから出る。

 

 ふと思いつき、アルトリアは外に出る。

 室内と比べて肌寒い風がアルトリアの頬を撫でる。

 鼻から思い切り息を吸い込めば、やや青臭い森特有の匂いが肺を満たしていく。

 

 早起きするよりも、ユーリに怒られるまで惰眠を貪った方が良いと考えているアルトリアであったが、こうも気持ちい朝を迎えると考え方も変わるというものだ。

 

(たまには、早起きするのも悪くないかな?)

 

 ユーリが起きるまで、読書でもしておこうか? そんな事を考えつつ、戻ろうとしたアルトリア。

 彼女の耳が僅かな物音を捉える。

 

「…………ッ!」

 

 用心の為に持って来た『選定の杖』を構える。

 獣だろうか?

 定期的にユーリが『獣狩り』としての務めを果たしている影響か、ここら周辺に獣が現れる事は滅多にない。

 

 しかし、必ずしも現れないという訳ではない。

 警戒を続けるアルトリア。

 物音は聞こえる。が、此方に襲い掛かって来るような敵意は感じられない。

 

 寧ろ、物音は次第に弱々しくなっていくような。

 そんな気がする。

 気になったアルトリアは、音が聞こえた方を探してみる。

 

 音の出処はとある草むら。

 生い茂る草や葉を掻き分けて見れば、そこには一匹の獣が居た。獣とは言ったものの、まだ子供。

 

 体躯は小さく、牙や爪は丸っこい。

 狼らしき獣の面影を残してはいるものの、まだ子供である為なのか、随分と可愛らしい見た目をしている。

 

 アルトリアは思い出す。

 自身の母である、ユーリが言っていた事を。

 

(良いかしら? アルトリア。基本的に、自分の為には怒る事が出来ない、嘆かわしい位に甘い貴方に対して一つ忠告をしておくわ。もしも仮に、獣の子供に出会ったとしても、容赦なく仕留めなさい。愛くるしい見た目をしていて、庇護欲を煽るような素振りを見せても、奴らは獣。判別方法は獲物なのか、そうじゃ無いのかの二択でしかないわ。そして、貴方は間違いなく前者。獣の子供だったとしても、貴方が相手で有れば嬉々として襲い掛かって来る筈よ。自分の命が惜しいのであれば、下らない善意など捨ててさっさと仕留めなさい。じゃないと、貴方が死ぬわよ)

 

 改めて、獣の子供を見る。

 可愛らしく、愛らしい見た目をしている。が、何かしらのトラブルに巻き込まれてしまったのか、弱っている。

 

 放置すれば、確実に死んでしまうだろう。

 見捨てるという選択肢はアルトリアの頭の中に存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 ユーリが出かけた事を確認した後、アルトリアは弱っていた獣を家の中に入れる。早朝に見つけたものの、ユーリに見つかればどうなってしまうか分からない。

 

 最悪の場合、弱っているのだから都合が良いとばかりに、まだ子供である獣を朝食の献立の一つにしていたかもしれない。

 だからこそ、アルトリアはタイミングを見て獣を回収した。

 

 尚、獣を放置していた訳ではなく、ミルク等を与えていた。そのお陰なのか、弱々しかった獣もある程度まで回復出来ている。

 

「こらこら。アルトリア。育てる覚悟も無いのに、獣を拾ってきて駄目じゃないか」

 

 家の中には誰も居ない。

 そう思っていた為、『選定の杖』を介して聞こえて来るマーリンの声にも、思わずビクリと体を震わせてしまう。

 

「マーリン! いるならいるってちゃんと返事してよ! ビックリしたじゃん! それに、覚悟ならちゃんとあるから! この子は、私が責任をもって育てます!」

 

「厳密に言うのであれば、私はこの場にいないのだからその指摘は聊か不適切にも思えるが……まあソレは良い。君がその子を育てると言うので有れば、私から言う事は何もない。けれど、見た所友好的な関係を築けているとは言えないんじゃないのかい?」

 

 ミルクを飲んだ事によって元気を取り戻した獣。

 鋭い双眸はアルトリアをジッと見つめている。自身の命を救ったアルトリアに対する感謝――などではない。

 

 何時、獲物を仕留めようか? と、見定めている目だ。

 間違っても友好的とは程遠い。

 しかし、アルトリアはマーリンの指摘を笑う。

 

「えー? 何言ってるの。マーリンは。この子がそんな事するわけないじゃん!」

 

 アルトリアが獣を優しく撫でれば、獣は威嚇する様に唸る。掌を指し出せば、食いちぎらんとばかりに口を大きく開いて噛みつこうとする。

 客観的に見て、アルトリアと獣が友好関係を結べていないのは明白。

 

 寧ろ、それ以前の問題と言えるだろう。

 けれどアルトリアは気付かない。

 幸か不幸か。

 

「……まあ、いざとなれば助けてやるか」

 

 小さなマーリンの呟きは、アルトリアの耳には届かない。

 

「ん? マーリン、今、何か言った?」

「いいや。何も言っていないさ。さあ、今日も魔術の練習をしようか」

「うん! 分かった!」

 

 魔術の練習は室内では行わない。

 取り扱っている魔術の種類が種類である為、最悪の場合は家を壊してしまう可能性がある。その上、アルトリアは頻繁に魔術を失敗してしまう為、最悪の場合に備えて外で魔術の練習を行う。

 

「あ、そうだ! 折角なら、この子にも私の魔術を見せてあげよう!」

「え? ……いや、流石にソレは止めておいた方が良い」

 

 マーリンは止めようとしたが、アルトリアは獣を抱えて外に出てしまう。

 

 獣を魔術に巻き込まない、安全な場所においた後、魔術の練習は始まる。練習方法としては、マーリンから教わった魔術を実際にアルトリアが実践。

 

 この際に良い点や悪い点をマーリンが指摘し、その都度修正を行いつつ、魔術の練習を繰り返していく。

 アルトリアの魔術のレパートリーはかなり多い。

 彼女が努力してきた成果だ。

 

「それで、今日は何するの? マーリン」

 

「そうだなあ。前に教えた攻撃魔術の練習をしようか。あの魔術は、取り扱い方を間違えてしまえば大惨事に発展してしまう危険性もある。だからこそ、細心の注意を払う事を忘れないようにしよう。後は、余り力を入れ過ぎないように」

 

「うん。分かった!」

 

 そうして始まる魔術の練習。

 放たれた攻撃魔術は地面を抉り、爆発し、轟音を響かせる。

 中々に強力な魔術だ。

 

 アルトリアの練習風景を眺めつつ、獣は静かに動き始める。気配を悟られないように。限界まで気配を消して、ゆっくりとアルトリアの背後に近づく。

 

 標的は『選定の杖』を握り、魔術の練習に集中している。

 危険が迫っている事なんて微塵も気付く事はない。

 高く跳躍。

 

 首筋に牙を突き立てる事によって、アルトリアを仕留めようとした――その瞬間。

 

「待った! これは、不味い……!」

「え!? もしかして、失敗した!?」

 

 アルトリアが叫ぶと同時に、彼女を中心として爆発が発生する。

 当然ながら、襲い掛かろうとした獣も巻き込まれてしまうのだった。

 

 

 

「はぁ。今日は調子が悪かったのかな? まさか、あんなにも盛大に失敗しちゃうなんて。少し落ち込むなー」

 

「なに。落ち込む事はないさ。アルトリア。誰しも、最初は初心者なんだからここから頑張って行けばいい。そうすれば君も私みたいに……いや、根拠もない推測だけで、君をぬか喜びさせる訳にもいかないな。今言った事は忘れてくれ」

 

「私を気遣っているつもりかもしれないけど、ソレは普通に貶してるから!」

 

 椅子に腰を落ち着かせ、体を休めるアルトリア。

 魔術の失敗によって、自分自身も魔術に巻き込まれてしまったアルトリア。幾度となく魔術に失敗し、その都度酷い目にあって来たお陰か。はたまた、ユーリに半ば強制的に連れていかれ『獣狩り』の手伝いを行っていたお陰なのか、大して傷は負っていない。

 

 問題なのは、拾って来た獣。

 安全な場所に置いておいた筈だったが、アルトリアが魔術を行使する姿に興味を持ってしまったのか、気付けばアルトリアのすぐ傍にいた。

 

 お陰で魔術の暴発に巻き込まれてしまい、あわや大惨事となる事だった。幸いにも、アルトリアと同じく外傷がなかったが、コレからは余り目を離さない方が良いかもしれない。

 

 とは言え、今日の魔術の練習は終わり。

 この後の時間は自由時間。

 普段で有れば家の掃除を行ったり、畑を耕したりするのだが、今日くらいはサボったとしてもバレない。

 

(……バレたら不味い気もするけど、まあ一日位サボっても大丈夫だよね!)

 

 棚に並べられた数冊の本。

 その内の一冊を手に取り、アルトリアは読書を行い始める。

 暫くの間、頁を捲る音のみが聞こえて来る。

 

 アルトリアの視線は本へと注がれており、例え彼女の目の前で何が起こったとしても、気付く事は無いだろう。

 部屋の隅で寝転がり、大人しそうな振りをしていた獣は細心の注意を払って動き出す。

 

 先程は、魔術の暴発と言う予想外のハプニングによって、狩りが邪魔されてしまった。しかし、今アルトリアが行っているのは読書。

 背後から襲い掛かったとしても、予想外のハプニングに見舞われる事はない。

 

 が、気付かれてしまっては面倒だ。

 獣は先程よりも、より一層細心の注意を払ってアルトリアの背後へと回り込む。並べられた棚を登り、棚から棚へと飛び移って、アルトリアの首筋に狙いを定める。

 

 慎重に。慎重に。

 タイミングは――今。

 棚から思い切り飛んだ。

 

 大きく口を開け、鋭い牙で首筋を噛み千切らんとする。

 が、結果としてタイミングは最悪だった。

 

 読書に集中していたアルトリア。

 しかし、ずっと本を読んでいたせいだったのか、目に疲労を覚える。本を閉じて、目を閉じる。椅子に座りっぱなしだった為、両腕を上げて大きく背伸びを行う。

 

 勢いよく、両腕を上げるアルトリア。

 手には読みかけの本が握られている。

 獣が棚から飛んだタイミングは殆ど同時。

 

 アルトリアの手に握られた本の角が、獣の頬にクリーンヒット。

 哀れ、獣は頬に強い衝撃を感じながら、壁に叩き付けられてしまうのだった。

 

「え!? 何、今の衝撃!? って、壁に……どうしたの!? 一体、誰がこんなに酷い事を……!」

 

 壁に叩きつけられた結果、力無く倒れてしまう獣。

 アルトリアは駆け寄り、優しく抱きしめた後、こんな事をしでかした犯人に対して怒りを露わにする。

 

 が、家の中に居るのはアルトリア1人だけ。

 犯人がアルトリアである事は明白なのだが、彼女自身は気付かない。

 

「……いや、君ががっつりと頬をぶん殴ってたよ。しかも、本の角で。いやぁ、アレには正直同情しちゃうなぁ」

 

 そんな一部始終を目の当たりにしていたマーリンは、マーリンらしからぬ口調で、誰にも聞こえない声量で呟くのだった。

 

 

 

 それから、獣と共に楽しい時間を――尚、アルトリアの主観に基づく――過ごしていたアルトリア。

 しかし、彼女は忘れていた。

 

 獣の存在をユーリに隠していた事を。

 当然ながら、出かけたユーリが自宅に帰って来ることを。

 

「それで、コレは一体何なのかしら?」

 

 獣を摘まみ上げながら、ユーリはアルトリアに対して問いかける。血よりも赤い瞳が、アルトリアをジッと見つめる。

 対するアルトリアは正座で床に座っている。

 

 顔はサーッと青ざめており、まるでテストで悪い点数をとってしまったもののソレを隠す事で何とか誤魔化していたが、最近その隠蔽工作がバレてしまった子供のようだった。

 

 余談だが、アルトリアが正座を行っているのはユーリの指示では無かったりする。

 

「えっと……今日、早起きしたら草むらで弱っているのを見つけて」

「で、放っておく事が出来ず、拾ってしまったと言う認識で当たっているかしら?」

「……はい」

 

 アルトリアは内心で恐怖する。

 

 一体、この子はどうなってしまうのだろうか? まさか、明日の朝食としてこの場で殺せ、と命令してくる? 或いは、獣は獣。危険なのには変わりないから、と殺処分してしまう? はたまた、獣が住まう場所はここではないと弱肉強食こそがルールである自然界に返してしまう?

 

 アルトリアの希望としては3番目が良い。

 別れは辛いが、本来あるべき場所に戻るだけ。

 また、再会を果たす事も出来るかもしれない。

 

 が、1番目と2番目は駄目だ。朝食に出そうものなら、食事は喉を通らなくなってしまうし、殺処分なんてされてしまえば心の傷として一生残ってしまう事だろう。

 

「ど、どうか命だけは……!」

「貴方、一体私を何だと思っているのかしら? 本来、こう言った事は望ましくないというのは理解している?」

 

「う、うん」

「けれど、拾ってしまったものは仕方がない。尚且つ、貴方自身がこの子を気に入ってしまっているのだから……面倒ね」

 

 額に手を当て、心底面倒だ、と言わんばかりに溜息を吐く。

 

「取り敢えず数日様子を見てみましょう」

「え?」

 

 ユーリが出した結論が余りにも意外過ぎた為、アルトリアは思わず声を漏らしてしまう。

 

「……お母さん。この子を殺したり、明日の朝食にしたりしないの?」

 

「そんな事する訳がないでしょう? 少なくとも、貴方が大切にしているのは分かっているのだから。それに、こういう系統は肉が固くて余り美味しくないのよ」

 

「余りそう言う感想は聞きたくなかったけど、お母さんありがとう!」

 

 立ち上がり、アルトリアはユーリを抱きつく。

 

「言っておくけど、数日は様子を見るわよ。貴方がちゃんと育てられないと分かった時は、その子を野生に返すから。分かった?」

「うん!」

 

 その後、2人と一体で食事を取った後、アルトリアは獣と共に風呂に入って体を洗う。

 全てを終わらせた後、就寝。

 

 本来は2人で一つのベッドを使う所だが、今回は新たに一体の獣が追加される。

 尚、獣はユーリがヤバイ存在だと本能的に理解していたのか、借りてきた猫のように大人しくしていた。

 

 何なら小刻みに震えていた。

 ――が、ユーリとアルトリアから寝息を立てる音が聞こえて来る。と同時に、今まで大人しくしていた小さな狩人は再び活動を再開する。

 

 潜り込んでいた布団から顔を出す。

 標的であるアルトリアは目と鼻の先。

 飛び掛からずとも、容易に仕留める事が可能だ。

 

 おまけに、狙われている当の本人は「……ううん。もう、食べられないってば」とベタな寝言を口にしており、起きる素振りは見せない。

 唯一の懸念はユーリだが、彼女も目を閉じてスヤスヤと眠っている為、目を覚ます事は無いだろう。

 

 アルトリアから食事は与えられていたものの、獣が求めているのは血と肉だ。野菜やミルク程度で、腹は膨れない。

 ようやく待ち望んだこの瞬間。

 

 二度、失敗してしまったが今度こそは成功させる。

 舌なめずりしながら、獣はアルトリアの首筋を噛み千切らんとして――。

 

「嫌だ! もう、周回は嫌だ! 一体、何時まで私を酷使する気だ! 金リンゴを食べるな! 銀リンゴや、銅リンゴ、青いリンゴも食べるな! 100回周回とかふざけんな! いい加減に私を解放しろ!」

 

 一体、どんな夢を見ていたのか。

 突如として、暴れ始めるアルトリア。

 寝相が悪いというレベルではない。

 

 両腕と両足を、まるで欲しい物を買って貰えずに駄々をこねる子供のように振り回し、周囲に存在する全てを無差別に攻撃し始める。

 当然、アルトリアのすぐ傍にいた獣も攻撃の対象。

 

 頬に拳がクリーンヒット。しかし、獲物に対する情熱の方が勝る。吹き飛ばされたものの、辛うじて建て直す獣。しかし、今度は踵落としが炸裂。

 

 頭部に炸裂し、視界がぐわんぐわんと揺れる。

 だが、まだだ。

 まだ獣は折れていない。

 

 今度は。今度こそは、アルトリアを仕留めて、その血肉を我が物にするのだ。覚悟を胸の内に秘めながら、再び立ち上がろうとした獣。

 しかし、再起は叶わなかった。

 

「五月蠅い」

 

 アルトリアの隣にいたのは獣だけではない。

 彼女が腕や足を振り回すという事は、間を挟んで眠っていた保護者も巻き込んでしまうという事。

 

 おまけに、夢の内容が酷過ぎるのか一撃一撃が強い。

 眠っていたとしても、嫌でも目が覚めてしまう。

 ましてや、気持ちよく熟睡していたのであれば猶更だ。

 

 ベッドから出て、近くに置かれていた椅子を持ち上げていたユーリ。顔は暗闇によって隠れているが、赤色の瞳だけは爛々と光っていた。

 憤怒によって。

 

 短い言葉と共に、椅子を思い切りアルトリアと、哀れにも近くにいた獣にぶつける。

 一撃目と二撃目は辛うじて耐える事が出来た。

 

 しかし、三撃目は無理だった。

 獣はアルトリアの「ぐぇっ!?」と言う、明らかに女の子が出してはいけない苦悶の声を聞きながら意識を失ってしまうのだった。

 ここから逃げ出そう、と思いながら。

 

 

 

 朝、アルトリアは目覚める。

 腹部に鈍い痛みを感じるが、一体何が起こったのだろうか? と首を傾げる。夜中、彼女の寝相の悪さが招いた悲劇に関しては、完全に頭の中から抜け落ちていた。

 

 自身の隣で眠っている獣に「おはよう」と挨拶をしようとするが、肝心の獣の姿が何処にもない。

 一体、何処に行ってしまったのだろうか? と、その姿を探せば、獣は外に続く扉に対して爪を立てていた。

 

 爪とぎをしている訳ではない事は明白。

 時折、獣は窓を眺めており、何をしたいのかは明らかだった。

 

「……そっか。やっぱり、それが一番良いんだ」

 

 アルトリアはまだ眠っていたユーリを起こし、一つお願いごとをした。

 最低限の身だしなみを整えた後、アルトリアは外に出る。

 抱えていた獣をゆっくりと地面に降ろす。

 

「本当に良かったの? 貴方、あの子を気に入っているようだったけれど」

「うん。お母さんの言う通り。でも、やっぱりコレが良いんだと思う」

 

 ユーリは獣を育てる事を許可してくれた。

 しかし、他でもない獣自身は外で暮らす事を望んでいる。だったら、昨日の許可を取り消して貰うのは、当然だった。

 

 身勝手な理由で。本人が望んでもいない事をさせると言うのは、傲慢が過ぎる。

 アルトリアは獣に対して愛着を持っている。

 だからこそ、獣が一番に望んでいる事を肯定してあげたい。

 

「……じゃあね」

 

 アルトリアは手を振りながら、獣を見送る。

 獣は一度も後ろを振り返る事無く、森の中へと消えて行く。

 悲しい。

 

 けど、大丈夫だ。

 きっといつか、また再会できると信じているから。

 見送りを終えた後、家に戻ろうとする2人。

 

 その瞬間、劈くような奇声が耳朶を打つ。

 嫌な予感がする。

 アルトリアの予言めいた直感は、正しく的中してしまう。

 

「え? いや……ちょっと、待っ」

 

 何処からともなく現れた巨大な鳥類。急降下したかと思えば、森の中へ消えようとした獣を二本の足で鷲掴みにする。

 アルトリアが止める暇もなく、鳥類は再び羽ばたいて大空に消えていく。

 

 先程見送ったばかりの獣を鷲掴みにしたまま。

 恐らく、巣へと持ち帰って自身の餌か、自身の子への餌にするのだろう。

 

 衝撃的な結末に、思わず呆然とするアルトリア。

 ユーリが肩に手をおく。

 

「諦めなさい。アルトリア。コレが、弱肉強食の世界よ」

 

 娘を慰める訳ではなく、寧ろトドメの一撃を食らわせるユーリ。

 受け入れ難い現実を目の当たりにして、思わずアルトリアは叫ぶ。

 

「なんて残酷なんだー!」と。

 

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