ナタ「先生、何時になったらアイルー君と結婚するんですか?」 作:飛沫
(あの二人、まーたやってら)
隔ての砂原での探索中、エリアの隅っこで互いに微笑みあっているハンターとアイルーの姿を少し離れた場所で眺めながら、セクレトをそんな事を考えていた。二人の手に握りしめられているのはヘダテアロエ。豊穣期ということもあり、たまに見かける上質なヘダテアロエを採りに、エリックを誘ってやってきたハンターだが、砂原に照りつける太陽光のおかげかそれなりに暑い。油湧き谷のようなクーラードリンク必須な灼熱ではないが、ジリジリと照りつけてくる日光は強烈で、真昼に徒歩でこの砂原を横断するのは正に命懸けの行動と言ってもいいだろう。アルマたちに見つけられたナタは、運が良かったのかもしれない。
そんな状況下で、ハンターたちはセクレトに跨りながらアチコチのエリアに自生しているヘダテアロエをもぎ取り作業に従事していた。時折、オアシスでエリックがコミチアミアを見つけ、ネットで捕まえてジュエルカラスミを手に入れては喜んだり、ハチミツの中に混じるイーストハニーに歓声を上げたり。ハンターとアイルーを乗せて歴戦王と呼ばれる強力な個体繰り出される一撃を上手く躱すという、ヒリついた時間も好きだが、こうやって大きな目的もなく広大なフィールドを横断して気ままに採取や釣りを楽しむのも悪くない。
(いや、多分あの二人と一緒だから楽しんだろうな)
心の中で訂正してから、再びハンターたちへ目を向ける。ハッキリと言うが、自分は数いる内にセクレトの中でも優秀な方だ。移動の際に重要な脚のその分、乗ることの出来る人間は選定させてもらうし、お眼鏡にかなわない者には強い拒絶を出し、クナファ村の住人にもそれを認めさせていた。そして、村の中ではイサイがよく乗っていた。自分にもしっかりと敬意を払い、また綱裁きもそこそこ美味かったイサイという男を、セクレトはそこそこ気に入っていたので、モンスターに襲われて別れた時は、惜しい奴を失うかもしれないな、と覚悟をしていたのだが。このハンターと出会う。
出会い頭に乱暴に跨がられ、手綱を引っ張り無理に前へ進もうとする人間に、一瞬呆気にとられる。その後、直ぐに振り落としてやろうかと、無礼者の顔を拝むべく首を動かすと、ひどく真面目な顔をした青年が真っ直ぐに前を見据えていた。思考が一瞬停止し、苛立ちや不快感といった感情も凪いでいく。ハンターはそんな心情の変化など気づいていなかっただろう、そのまま手綱を握りしめて進もうとする彼に、セクレトは気持ちが落ち着いたこともあって素直に従ってやる気になっていた。すると白い生き物もやってきて、尻尾に掴まるようにして乗る。さて、これからどうするか。
すると、見たことのない乗り物にいた金色の髪の女が、鉄の塊のような物を人間に向けて投げるように渡してきた。何だあれは、と驚いていると人間は片手でそれを掴むと思い切り振り下ろす。
バーラハーラの胴体がのけぞり、怯むのは見ていて爽快だった。何時もなら、モンスターを見つければ基本そこは通らず、どうしてもという場合のみ迂回するように通る。モンスターに見つかって追いかけてくるようなら、ひたすら脚を動かして距離をとる。接触しそうになり、此方が蹴ったり啄いたりして相手を遠ざけるのが精一杯だったのに。此方から打って出られることが分かったのは感動すら覚えた。
まぁ、その後は少し離れることになるのだが、気を利かせたイサイが自分を再びハンターの元へ連れ出したこと、ハンターが行動で納得させ自分たちの貸し出しについて許可を得たことで、堂々と随伴することができるようになり今に至る。一言で表せば、この旅は「楽しい」だ。
見たことのない地域の見たことのない植物や動物、隔ての砂原よりももっと暑い場所や寒い場所。そして、強靭なモンスターたち。己の身長よりも数倍あるモンスターの一撃をギリギリで躱す時、たまに掠ってヒヤリとする時もあるが基本的には上手くやれたと興奮する。そして、自分を乗りこなすハンターも、モンスターの繰り出す攻撃に対して必要以上に恐れる事なく、突っ込み武器を手にして戦いを挑む(偶に距離を見誤ってふっとばされるが)。
ハンターと行動する度に自分でも知らなかった一面を知って、それに驚いたり呆れたりしながらも過ごす毎日は掛け替えのないものだ。健脚である限り共に過ごしていたい、とは思うのだが。
(……何時まで、こうやって旅を続けられるんだろうな)
ふとした時に、暗い考えが隅をよぎる。此方がどれほど元気でいても、共に歩き続けたいと思っても。
ハンターとアイルーは、クナファどころかこの地の住人ではない。見たこともない乗り物でやって来た遠い土地の人間だ。『禁足地』と呼んでいるここの調査が終わったら、元にいた場所に戻るのか、新しい土地の調査に赴くのか。それすらも分からない。
(隣にいたいと願っても……無理なんだろうな)
ハンターたち一行は、自分たちが余所者だと自覚があるからか、色々と気を遣っている。特に、此方の生態系とやらを乱さない為に、持ち込む物にはよく目を光らせていた。
それは、逆を言えば持ち出すものにも厳しいという事だ。ついていきたいとアピールしてみても、鳥の隊のメンバーは許してはくれないだろう。例え、どれだけ絆を深めようとも。
いつか必ず訪れるであろう別れの時を想像すると、ツキンと心臓が締め付けられるように痛くなる。けれど、それも一瞬のこと。
「お~い、セクレトー」
「此方においでよー」
剥ぎ取りナイフを振り回しながら、大声を張り上げるハンターとアイルー。何だ何だと小走りに近寄れば、ハンターの手には切り取ったばかりなのだろう、果肉から水分を滴らせた大ぶりのヘダテアロエが握られている。
「上質なヘダテアロエ、ココに生えているので一番いい奴だ。もうちょっと走ってもらわないとだからな、しっかり水分をとってくれ」
「相棒もうちょっと採取したいんだって!」
満面の笑みを浮かべながら、話しかけてくる二人。とりあえずこの様子なら。
(まだ数年は一緒にいられるだろうな)
思考を切り替えたセクレトは、ハンターとアイルーの仲に混ざるように間に入ってから、甘えるべく大きく嘴を開いた。
バーラハーラ君
出会って早々、ハンターさんから重い一撃を食らって分からされてしまったモンスター。
自分は砂漠から出られないのに、他のモンスターがどんどん隔ての砂原にやって来て、縄張りに侵入してくるので夜しか眠れない。