ナタ「先生、何時になったらアイルー君と結婚するんですか?」 作:飛沫
「いいかナタ、音と肉集中するんだ。ひっくり返して少しすると、肉の焼ける音が下から聞こえてくる。いい焼き色が付くたタイミングで、焚き火台から肉を上げればちょうどいい焼き加減のこんがり肉が出来る」
「分かりました先生」
隔ての砂原近辺に張られたベースキャンプの一角。ナタは大きな骨付き肉を両手で持ちながら若干緊張した面持ちで肉を焼いていた。ナタが手に入れた生肉は、こんがり肉にする為に採集されたようだ。
(に、肉を焼くだけなのに意外と難しいんだな)
微かな変化も見逃さないようジッと目を凝らしながら、ナタは肉をひっくり返したり焚き火台から少し離して炙ったりをする。練習ということで、ハンターがストックしていた生肉を二回程焼かせてもらったのだが、タイミングが少し早かったようで、両方とも生焼け肉の状態になってしまった。ハンターとアイルーは「食べられるからクエストに持っていく」「ボク、この味も好きだよ!」と貰ってくれたが、やはりハンターが作るこんがりと美味しそうな肉を、自分も焼いてみたい。
「そろそろかな……」
更に肉へ集中しながら、ナタは焚き火台に肉を乗せる。確かハンターは、このタイミングで肉を持ち上げていた気がする。ひたすら肉の変化を追うこと数秒、ジュウジュウという音と共に、肉の表面が茶色に変わっていく。今だ!
勢いよく持ち上げれば鳥の隊のメンバー全員が集まっていて、盛大な拍手を送ってくれた。いつの間にか、かなり注目されていたらしい。
「良かったですね、ナタ。成功しましたよ!」
「おめでとう! 頑張ったじゃん!」
「ふ、二人とも、ありがとう」
集中している余り、アルマとジェマにも見守られた事に気付いて少し恥ずかしい。同時に、二人に肉焼きの成功した姿を見せることが出来て本当に良かったと思う。
「凄いね、おめでとう!」
「綺麗に焼けてる。やったな、ナタ」
「先生、ありがとうございます」
隣に立っていたハンターも、嬉しそうに褒めてくれる。これで自分も一人前の肉焼き名人……と思いきやまだ先があった。
「それじゃあ今度は切り分けていこう」
「え……? 切り分け……?」
思わず聞き返すと「ああ、そのまま座ってくれ」と焚き火台に着席させられる。
「タイミングよく肉を切っていくんだ。上手く切れれば六個手に入るのが十二個になる。コツとしては自分の中でリズムを作って切っていくといい感じだぞ」
「はぁ」
よく分からないが、ハンターがそう言うのだからそうなのだろう。腰に差したナイフを手にして、言われたまま切っていくのだが。
「あれ? あれ?」
最初は同じリズムで切り分けていたつもりだったのだが、何処かでタイミングを間違えたのだろう。途中から上手く行かず、結局出来たこんがり肉は九個になってしまった。
「意外と難しいですね」
「一回タイミング間違えると、戻すのが至難の技だな。でも、最低でも六個は切り分けられるから、失敗した所で減るわけじゃないんだ。そんなに気にする必要はないさ。それより初めて上手く出来た肉、食べてみないか? 冷めても美味いが、焼きたては段違いに美味いぞ」
「はい! 良かったら皆さんも食べて下さい」
「ああ。頂くとしよう」
「わーい、ありがとう!」
「それじゃあいただきますね」
「やりぃ! さっき一仕事して、ちょうどお腹空いてたんだ」
鳥の隊全員に、こんがり肉を渡してから齧り付く。塩だけのシンプルな味だが、焼きたてと初めて上手くいったという出来事がスパイスになっているのか、一層美味しく感じることが出来た。
と、肉の味を噛み締めていたら、ハンターがテントに入ってから瓶のような物をもってくる。中身は黒い粉状の物で、受け取った肉に振りかけていた。
「先生、それは?」
「隔ての砂原で採れる沙胡椒の実だよ。結構溜まってきたから粉にして使っているんだ。少し辛くなるけれど美味いぞ、ナタもかけてみるか」
「あ、ちょっとお願いします」
差し出せば、ハンターは食べた箇所に胡椒を振ってくれた。その場所に齧り付けば、ピリリとした辛さが、また違った味わいを運んできてくれる。
「これも美味しいですね。僕は好きです」
「お、ナタはイケる口か。俺のアイルーはそんなに好みじゃないらしくてな。良かったら瓶に分けて渡そうか」
「はい! ご馳走様です!(今『俺のアイルーって言った!』)」
何度も首を振れば余程気に入ったと思われたのか「直ぐに用意する」とキャンプの中に戻るハンター。すると、やりとりを聞いていたアイルーが傍にきて耳打ちをする。
「ナタ君が気に入ってくれたから、ボクの相棒も嬉しいみたい」
「そっか(アイルー君も『ボクの相棒』って言ってる。完全に相思相愛だ)」
「それにしても、相棒って何でも凄く美味しそうに食べるよね。ボク、あの幸せそうな顔大好きだから、たまにあーんしてあげるんだよ」
「へぇ、ちょっと見てみたいな!」
「い〜よ〜」
アイルーはニコニコしながら「もう一本もらうね」とこんがり肉を手にした。そのタイミングでハンターがキャンプから出てくる。「じゃあコレ、無くなって欲しくなったらまた声を掛けてくれ」と瓶を手渡されると、アイルーが小さな手でこんがり肉をハンターに突きつけた。
「はい相棒! ボクが食べさせて上げるから口開けて!」
「ん、あー」
そうして始まる二人の食べさせっこ。アルマ達はまたか、といった様子で見守り、ナタは興奮してる悟られぬよう再び肉焼きに勤しむ。二度目のいい匂いを漂わせていると、星の隊のエリックが、歓声を上げながら此方に向かって歩いてきた。
「わぁ、すっごくいい匂い。これ、ナタ君が焼いたのかい?」
「はい、エリックさんもよければ食べて下さい。味は全員からお墨付きをもらっているので」
「いいの!? ありがとう!」
少し冷めてしまったが、先程のこんがり肉を差し出せば、エリックは受け取ると勢いよく齧り付いた。
「んー、美味しい! ご飯食べ損ねちゃってさ、諦めてたんだけれどよかった」
「忙しかったんですか?」
「ううん、オリヴィアに頼んで緋の森の調査に行ってたんだ。そしたら丁度、プレミアジュエルコガネを見つけちゃって、捕獲して調べていたら食事の時間を過ぎててさ。あ、食べ損ねたのはオリヴィアも一緒だから……おーい!」
「ん? エリック、随分いいものを食べているじゃないか。君、私にも一つもらえるか?」
噂をすればなんとやらか、アトスを連れたオリヴィアも、此方に向かって歩いてきた。エリックから話は聞いていたので、二人分差し出せば丁度なくなる。
「おいしい」
「うん、しっかり火は通っているが硬すぎずいい焼き具合だ。君も立派なハンターになれるな」
「あ、ありがとうございます」
「……そういえばエリック。ヴェルナーを見たか? 食事をとったか確認したいんだが」
「うーん……さっきテントの中で罠の設計図とにらめっこしてたから、誰かが声をかけていないなら食べていないんじゃないかな」
「やれやれ。ナタ、ヴェルナーに食事の有無を聞いてくるから、もし取っていないようだったら肉を一つ分けてもらえないか?」
「いいですよ。丁度この肉も焼き上がりますし」
オリヴィアはアトスに持っていた肉を預かってもらうと、テントの方へと走っていく。少しして、引っ張られるようにしてやってくるヴェルナーが姿を現し、オリヴィアに促されて肉を渡す。そんな事をしている内に、他のハンターも興味深そうな顔でやってきて、ハンター達のキャンプ周辺ではちょっとした肉パーティーが開催されることになった。
* * *
「肉焼き係に徹したお陰で、かなり上手になったな」
「はい、今なら目を瞑ってもこんがり肉を十二個作れる自信があります」
ハンター率いる鳥の隊は、セクレトに跨って油沸き谷を横断している。因みにハンターを乗せているセクレトは、ハンターとアイルーしか乗せる気がないらしく、ナタが側に寄ると緩く首を降られてやんわりと断られた。
「ところで先生、何処に向かっているんですか?」
「あぁ、シルドだ」
「交換ですか? それならぼくが……あ、食事のお誘いですか? でもそれなら連絡が」
「いや、用があるにはあるんだが、そういう用ではなくて」
イマイチはっきりしない物言いに、ナタが不思議そうにハンターを見つめていれば短く唸ってからハンターが続けて話し出す。
「俺は、シルドニンニクもリュウトホオズキは好きだし、他の野菜も美味いと思う」
「は、はぁ……」
突然、シルドと特産品について語りだすハンターの意図が読めず、困惑しながらもナタは続きを促す。
「けれど、俺はやっぱり肉が食べたい。あのシャキシャキの野菜たちと肉を合わせたら最高の食事になると思うし、シルドの人も肉を知ることによって新しい料理や調理法が浮かぶかもしれない」
「それじゃあ、シルドにはこんがり肉を届けに?」
ハンターの言葉でようやく、何故生肉を欲しがっていたのか理解した。しかし、それならハンターも大量の生肉を持っていた筈だ。オマケに最近は携帯食料を使っての調理ばかりで、使用していた形跡もない。渡しても問題ないはずなのだが……鮮度の問題だろうか?
「……まぁ、俺が焼いても皆食べてくれるだろうが、ナタに作ってもらった方が、シルドの人は喜んでくれるんじゃないかと思ってな」
「だから僕に肉焼きの練習を?」
「うん。ナタには言ってもいいかもと思ったんだが、どうせならナタも驚かせてみようかと。……迷惑だったか?」
「いえ、そんな事ないです!」
ナタは首を振って否定する。里の皆に、自分で焼いた肉をふるまう。それは凄く面白そうだ、肉だって自分の力で手に入れたもの。ハンターとしてはとても小さな一歩だろうが、着実になりたいものに近づいている証を皆、特に育ててくれたタシンに知ってもらえるのはいいことだ。
(そうだ)
「あの、先生。僕は前にチーズが好きだって言ったのを覚えてくれてますか? もし良かったら、里の皆にもチーズを食べさせてあげたいんですが」
「あぁ、それもいいな。この前交換したチーズも沢山あるから、焼いた肉の上に乗せて蕩かして食べてもらうのはどうだろう」
「美味しそうです。やってみてもいいですか!?」
「勿論だ」
その後、シルドの里の何人かは好物に「肉」「チーズ」が出来たとか。