ナタ「先生、何時になったらアイルー君と結婚するんですか?」 作:飛沫
アルマの手伝いを終えて、ハンターが使っているテントの元へと戻ろうとしていたら、蜂の隊のミナが声をかけてきた。
「あ、ナタ君ちょうど良かった! こんがり肉を沢山焼いて食べきれないから貰ってくれない?」
「え、いいですけど……」
「本当!? 良かったー! 今持ってくるからちょっと待ってて」
胸に手を当てて安堵の表情を見せてから、ミナは再びどこかへ行く。数分もせずに両腕に抱えるようにして持ってきた肉は。
「こんがり肉……?」
一歩間違えれば生焼け肉になりそうな、絶妙な焼き加減の肉の塊だった。オマケに、随分と食欲をそそりそうなソースまでつけられている。これはこんがり肉ではない、お食事券を使って提供されてもおかしくない水準の料理だ。
「あの、この肉は?」
「あのね、ナディアさんが『ミディアムレアでグレイビーソースを掛けたお肉が256個食べたい』って言ったから張り切って作ったんだけれど、流石に食べきれなかったから皆にお裾分けしてるの」
「256」
それはどう考えても一人で食べきれる量ではない。一番体格が大きいウズ・トゥナですら完食するのは難しい気がする。ミナは本当に、ナディアがそれだけの数を食べられると思ったのか。謎は尽きない。
「自分で言うのも何だけれど、結構気合い入れて作ったから美味しいはず。鳥の隊のハンターさんにも渡して置いたから一緒に食べて。冷めても美味しいと思うけれど、なるべく早めに完食してね!」
「あ、はい」
肉を渡すと、ミナはまた別の調査隊に声をかけていた。まぁ、256個だ。隊の人全員に渡しても余るかもしれない。
「……ん。柔らかくて美味しい。僕が焼いた肉よりもずっと上質だ」
思い切りかぶりつけば滴る肉汁が口いっぱいに広がるが、血のような味がすることはない。今度焼き方を教わろかと考えながら味わっていると、皿に何枚もの肉を載せたハンターとアイルーが歩いてきた。
「ナタもミナからお裾分けしてもらったようだな」
「はい、ナディアさんから大量のこんがり肉を頼まれて張り切った結果、余ったと」
「ああ。ナディアさんがミナを足止めするためにおかしい量を注文したからな。肉が焼き上がる前に終わってよかった」
言われてナタは、ハンターの身体に黒い鱗粉が付着しているのに気づく。最近見たから間違いない、ゴア・マガラの鱗粉だ。
「……先生、ナディアさんともラフマーの敵討ちを?」
「? あの件はもう終わったことだろう?」
どうやらハンターは、根に持つ性格ではないらしい。
「少し手強いゴア・マガラがいてな、断崖いるモンスターが何匹も狂竜症にかかっていたんだ。放っておくと、断崖のモンスター全てがやられそうだったから、ナディアさんに誘われて討伐してきたところだ」
「それで……。でもどうしてミナさんにも入って貰わなかったんですか? それだけ手強いゴア・マガラなら、三人でやるほうが効率も良かったんじゃ?」
「狂竜症の調査、先にミナがやっていんだけれどな。どうも一人で休む事なく頑張っていたみたいなんだ。ナディアさんに目に隈が出来ているとか、体中傷だらけだと指摘されても『大丈夫だから』と笑い飛ばして続行しようとしていたから、ミナがナディアさんを調査に誘った時に『肉が食べたい』と嘘を言ってその隙に……って感じだ」
なるほど、確かにそれでは誘うことは無理だ。
「そんなに一人で頑張らなくてもいいのに……」
「俺もそう思うが、片手剣は一人で何でもできてしまうからな。その性分に引っ張られて無茶をしていたんじゃないか、ミナは」
そう言いながら、ハンターは近くにあった腰を下ろせそうな石に座る。アイルーも当然のように、座ったハンターの脚の間にちょこんと腰を下ろしたので、ナタも隣の石に腰掛ける。またあーんしてあげないかな、等と淡い期待を寄せながら。
「ナディアさんが言ってた。『ミナみたいな子は放っておくも英雄になって、英雄として死んでいく』って。そうさせない為に、肉焼きで意識を逸らしていたんだろ。ナタも気をつけてくれ、片手剣は攻撃もサポートも回復もできてしまう。何でも出来るからって、一人で全部やろうとするなよ」
「まだそこまでの腕前じゃないから無いと思いますが……。それを言ったら先生だって片手剣を使う時ありますよ。大丈夫ですか?」
「俺の本命はランスだから。片手剣はガードが出来るから使っている……というよりかろうじて使うことが出来るというか」
ナタにはまだ理解出来ないが、ハンターは相当ランスに拘りがあるようだ。自分の武器を選ぶ時も、他のハンターも背負っている武器を一生懸命勧めてきたから、そういうものなのかもしれない。とにかく、ミナのように抱え込むつもりはないようだ。
「片手剣を主武器にしている他のハンターも、皆似たような性格なんでしょうか?」
「んー、人によってかもしれないな。自分で何でもやりたい、と考えた片手剣を持つハンターもいれば、色々な武器を使った結果、片手剣が一番しっくりきたというハンターもいるかもしれない。他にも憧れや、強かったハンターに倣って使っているハンターもいるだろうし。だとしたらそうでもないか? しかし、片手剣と組んだ時は粉塵や広域化等の世話になることはかなり高いしな。それを考えるとやはり……」
ブツブツと自分の考えにはまり込んでいくハンター。脚の間にいるアイルーは、そんなハンターの様子を見てクスクスと笑ってからナタに話しかける。
「片手剣のハンターでも、ミナさんみたいに自己犠牲が強くならないようにするには、目的をしっかり持てばいいと思うよ!」
「目的」
「そう、ナタはどんなハンターになりたい?」
問われて答えようとし、はたと気づく。自分は、どんなハンターを目指しているのかと。
ゾシアに恐れることなく立ち向かい、見事討伐して未来を切り開いたハンターをみて凄い、僕もああなりたいとハンターの元で見習いをやらせてもらっているが、憧れが強すぎたせいか将来どんなハンターになりたいかは漠然としすぎていて、まともに考えていなかったような気がする。
「どんなハンターか……」
「うん、何処かの村や町に常駐して、村に接近してくるモンスターを追い払ったり討伐するハンターがいれば、チームを゙組んで旅をして、行く先々で困り事や頼まれ事を解決するハンターもいるよ。故郷や大切な人を守るためにハンターになる人もいれば、力が強いから、お金が欲しいからでハンターを選んだ人だっている。まだ見たことのない所や知らないモンスターに会いたくて、調査団に入るハンターもいるし。ナタもどんなハンターになりたいか決めればいい。そうすればきっと、自分の事も大切にできるハンターになれるから」
「うん」
そうだ、憧れからしっかりとした目標を立てよう。里を守るハンターになるか、生態系の調和をとりもつハンターになるか。それとも見知らぬ土地へ向かい、その地に住む人々の助けになるハンターを目指すか。それを決めてハンターに助言を請い、夢に少しでも近づくのだ。
「……ん? どうした二人とも、お互いにほほ笑みながら見つめ合って」
「フフ、先生にはまだ内緒です」
「うん。秘密秘密♪」
「そう言わずに教えてくれ」
ハンターはアイルーに覆いかぶさるように額と額をくっつけると、喉元に両手を添わせて擦るようにして撫でてやる。途端にご機嫌だと言うように、ゴロゴロと喉を鳴らすアイルー。
「どうだアイルー。言う気になったか? ん? ん?」
「ウフフ、そんなにしてもダメなんだからー」
「コイツめー」
「キャー相棒ヤメテー」
(でも、一人前になるのは当分先でいいや)
目の前で行われる尊いやりとりを眺めながら、だらしなく頬を緩ませるナタであった。
ゴア・マガラ君
最近、断壁でぶらついていると、優先的に狩猟される憂い目に遭っているモンスター。多分、その内に断壁から掃討される。ハンターさんに僕じゃないんです!と訴えたが信じてもらえなかった。