FIREしたい騎士団最年少副団長、部下を守って嘘の負傷から引退コンボを決める 〜円満退職のため、情緒がぶっ壊れて病んだり一斉退職しようとする激重部下たちをカウンセリング!〜   作:宮出礼助

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8話

 

「もしも私が勝ったらその時は――――私を、これからもお傍に置いてください」

 

 

 

 鈍く銀に光る月の明かりのもと。

 

 強い意志の乗った視線が俺を貫く。

 

 今からここで戦う……?

 

 この申し出、正直俺が受けるメリットはない。もともと俺は、ルナの退団を思いとどまらせようと今日一日を動いていたのに、要らぬリスクを負うことになってしまう。

 

 それに、足の動きを制限した状態で戦うことになるのも、大きな不安要素のひとつ。

 

 だったらこんな戦いは受けずに、また明日から彼女を諦めさせる方法を考えた方がいいのは……分かってるが……。

 

 俺は、じっとこちらを見つめて返答を待つルナを、同じく見つめ返す。

 

 その青い瞳は、一分の曇りもなく透き通っている。

 

 ルナが何を考えているかは分からないが、それでもひとつだけ分かることはあった。

 

 彼女は俺がこの申し出を断るとはきっと微塵も思っていないし、そんな俺にだからこそ、これまで信頼を向けてくれていたということ。

 

 ――そして実際、俺はこの申し出を断ることは、しない。彼女の真摯な想いを断ち切るその選択は…………きっと、正しくないから。

 

 俺が口を開くのを待つルナに、言葉を返す。

 

「いいよ、やろう。ルナが勝ったらときの条件も飲むよ。その代わり――」

 

 言いたいことはある。せっかくここまでやって来たのに、どうしてと。家族のことはどうするのかと。

 

 それでも、きっとそんなことは考えたうえで、ルナは決めたのだろう。だったら俺ができることはひとつ。

 

「俺が勝ったその時は――ルナ、君は騎士団に残るんだ」

 

 俺が彼女の選択を曲げるなんておこがましいと、分かってはいるけれど。

 

 それでも……ずいぶん昔からルナを見てきた俺の親心を。

 

 ――分かっては、くれないだろうか。

 

 

 

 それから、俺たちふたりは訓練場の中央へと進み、距離を取って向かい合う。お互い非常用の短刀くらいしか持ち合わせていないが、模擬戦ならば――

 

「――《錬鉄》」

 

 右手を地面に向け、魔法陣を展開したのち、練った魔力を通す。

 

 直後、わずかな光を発しながら、俺の目の前の地面から刃が潰れた長剣がせり上がってくる。そして、離れた場所のルナのもとでも同様に、大剣が地面から生える。

 

 地属性の魔法はそれほど得意ではないが、刃がついていない剣なら、これで十分。

 

 俺たちは同時に武器を手に取り、そして俺から声を掛けた。

 

「――ルールは、いつも通りでいこうか。悪いけど、俺は魔法も使わせてもらうよ」

 

「はい。それで構いません」

 

 懐かしい。かつては毎日こうして向き合っていた。

 

 めきめき腕を上げるルナは良い弟子だった。あまり俺が見てあげられなくなってからも、あっという間に中隊長まで上がってしまったから、俺の教え方というより、彼女本人の資質なんだろうけど。

 

 それでも、教え子が頭角を現し、次々に成果を上げていくのは本当に嬉しいものだ。いつも彼女の活躍を耳にしては、内心鼻を高くしていたものだ。

 

 だからこそ、彼女にはこれからも騎士団で頑張ってほしい。それが俺のエゴだと分かっていても、その方が彼女の人生にとってきっといいと、そう思うから。

 

「――じゃあ、始めようか」

 

 俺はそう言って、少し腰を落として剣を構える。

 

 対するルナも、剣の大きさこそ違うが俺と同じ構え。風になびく銀の髪が、月の光を弾いて――

 

「いつでもおいで」

 

 ――鈍く輝く刃が、目の前に。

 

 魔力が巡る。俺は風を切って自身に迫る剣身を見ながら、合わせるように長剣を上げる。そして響く、ぎゃりぎゃりという金属音。

 

 ――相変わらず凄まじい力だな。これでほとんど素の身体能力だっていうんだから、改めて獣人種の凄さを実感する。

 

 だが、俺には身体強化がある。ルナは素で強力な身体をわずかな魔力で少し強化している程度だが、俺はその逆――普人種としての力を、ひとと比べて豊富な魔力で強化する。

 

 俺たちはわずかな間だけ剣を合わせ、そしてすぐに離れたかと思うと――

 

「ふッ!」

 

 ルナの口から鋭く息が漏れ、ほぼ時を同じくして無数の剣が降ってくる。そのひとつひとつに並みの騎士なら潰れてしまう力がこもっているが、俺はこの場を動かず丁寧に捌いていく。

 

 ――今日、ルナの模擬戦を見て分かってはいたけど、やはり最後に剣を合わせた時からだいぶ強くなってるな。力も速度も上がっているし、なにより技術が向上している。

 

 それでも――

 

 俺は迫る連撃を捌きながら、ほとんどないその隙をかいくぐるようにして、すっと剣を突く。俺に向かう斬撃に対して斜めに入り、外へ弾いて、ルナの胸元へ一直線に向かう剣先は――

 

「くッ」

 

 しかし、ルナを捉えることはない。彼女はまさに獣の俊敏さをもって、空振りした大剣を無理やりに引き、その重量を活かして宙返りするように後ろへ引いた。

 

 長い尻尾がぶんと振られ、俺の剣はその毛をわずかにかすめるのみ。

 

 ――昔なら、間違いなく今ので決まってたんだが。強くなったな……ルナ。

 

 俺は弟子の成長を改めてうれしく思う。ここまでの強さがあれば、もう、大抵の困難はひとりで切り開いていける。

 

 だから、ここからは――

 

「――じゃあ、すこしギアを上げるよ」

 

 そう呟くと同時。

 

 俺の身体から、青白い魔力が吹き出す。まるで炎のように揺らぎ、そして纏う。

 

 身体強化の深奥、体外まで循環する魔力――燐気。

 

 それを見たルナは、警戒するように耳を立て、ぎり、と剣を強く握った。

 

「――それじゃあ、今度はこっちから行く」

 

 

 

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