FIREしたい騎士団最年少副団長、部下を守って嘘の負傷から引退コンボを決める 〜円満退職のため、情緒がぶっ壊れて病んだり一斉退職しようとする激重部下たちをカウンセリング!〜   作:宮出礼助

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11話

 

 俺たちは、そこかしこで混乱が起きている大聖堂内を、できるだけ人に会わないように進んだ。

 

 足音や話し声が聞こえてきたら、その都度足を止めた。そして、エリーゼに迂回路を指示してもらって外を目指す。

 

 さすが聖女というだけあって、幹部しか立ち入らない場所も熟知しており、エリーゼの案内でかなりのトラブルを避けることができた。

 

 また、もし他に人がおらず安全そうな場合に限っては、情報収集のために会話を盗み聞くこともあった。

 

 そうして集めた情報曰く――。

 

 いま、教会内の神殿騎士団は、ふたつに割れている。シリウス内の指導的立ち位置にあるのは、教皇派の一部である大司教の一派だが、その敵対派閥である神殿騎士団シリウス支部の長、グレゴリオの一派が攻撃をかけてきているというのだ。

 

 このクーデターにより、大司教派の聖職者たちが多く傷を負い、大司教本人も身を隠すことになっているらしい。

 

 大聖堂にいる神殿騎士全員がクーデターに参加しているわけではないようだが、大司教を守るため動いている者はほんの一握りで、だいたいはグレゴリオに従っているという。

 

 そして、問題なのが――グレゴリオ派になかば脅される形で、大聖堂に勤める聖職者の多くがグレゴリオ側についていることだ。つまり俺たちは、一般の聖職者にすら見つかるわけにはいかなくなった。

 

 ちなみに、教会内の武装勢力と言えば、他にも大司教直轄のものがあるのだが、彼らがどう動いているかは盗み聞きだけでは分からなかった。

 

 俺は広すぎる敷地に舌打ちしたくなりながら、もはや敵地となったここ大聖堂を抜け出すべく、気を張りながら回廊を進む。

 

「ここを抜けたら、物資運搬用の通用口まであと少しだよ」

 

「ああ、わかった。この一本道で誰かに見つからないことを祈ろう……」

 

「うん」

 

 俺たちは大聖堂の外縁にあたるここを小走りで渡る。

 

 もしいま誰かに見つかれば、隠れる場所も無いため、間違いなく俺たちの脱走が露見する。あの牢には魔力封じがなされていたため、おそらく俺たちが逃げたことはまだ気づかれていないはずだから、その優位を生かしたままなんとか外に逃れたいのだが。

 

 しかし、そううまくことが運ばないのは世が常か。

 

 ――俺たちが進む先、回廊の終わりでふたまたに分かれた道の片方から、鎧に包まれた足先が見える。それも、ひとり分ではない。複数人――四人で小隊を組んだ騎士たちだ。

 

 ……まあ、そうだよな。俺がグレゴリオだとしても、同じくここに見張りを配置する。まだ捕まっていないらしい大司教も、逃げるなら限られた出口を利用する必要があるからな……。

 

 ある程度予想していた事態だったため、俺は落ち着いて状況を把握する。この後の展開も、すでに織り込み済みだ。

 

 ――俺たちの脱走が把握されてしまったなら、もうこそこそと隠れながら移動している場合ではない。さらなる増援を呼ばれないうちに、強行突破するのみだ。

 

 俺は覚悟を決めてもらうため、肩越しにうしろを振り返り、エリーゼへ視線を合わせる。意外だったのは、エリーゼも驚くほど落ち着いていたこと。少しは焦っているかと思ったが……。

 

「リオなら、わたしを守ってくれるもんね。指一本ふれさせずに」

 

 にっ、と。少し控えめながら、昔を思い出す子どもっぽい笑み。

 

 また簡単に言ってくれると、俺はため息を吐いた。だが、しかし――

 

「――当然、そのつもり」

 

 手を前に伸ばし、刹那現れた魔法陣から魔力がはしる。回廊を構成する大理石に混じるわずかな金属を集め、即席の短剣を生み出す。

 

 それと同時、前方の神殿騎士たちが俺たちのいる回廊に目を向け、不審な人物だと近寄って来た。

 

 まだ彼らには俺の後ろに隠れるエリーゼが見えていないが、もう少し近づいてくれば、投獄されていたはずの俺のことに気づくだろう。その前に、いっそ――。

 

 ――俺の全身が、淡い青白の燐光に包まれる。そして――

 

「――な、にッ!?」

 

 ――瞬きの間に神殿騎士たちの眼前へ現れた俺に、驚愕の声が上がる。

 

 腰を回し、強力な蹴りを一閃。軸足が接する床にひびが入るほどの威力を込めた蹴りは、先頭に立っていた騎士の胸元にめり込み、苦悶の声が聞える前に吹き飛ばした。

 

 後ろの一人を巻き込んで飛んだ神殿騎士は声を上げることなく意識を失い、その衝撃を一緒に受けた後ろのひとりも起き上がるそぶりは見せない。

 

「こ、こいつ! 昨日懲罰房に入れられたはずの……!」

 

「――『雷鬼』、セイリオス・セージ……! それに後ろにいるのは――!」

 

「よそ見は厳禁だ」

 

 驚く神殿騎士に、俺は再び蹴りを見舞った。しかし、不意打ちだった先ほどとは異なり、今回は彼らも身体強化を発動し、後ろに大きく下がりながらも俺の蹴りを受け切る。

 

「ぐぅ……ッ。こいつ、なんて蹴りだ……!」

 

「だが、捕えたぞ!」

 

 俺の片足を両手で抱えた神殿騎士が、もうひとりの騎士へと攻撃を促す。

 

 しかし、その程度では――

 

「はあッ!」

 

 横合いから勢いよく振り下ろされる剣は、片手に握った短剣で受け止め、押し返す。剣を振って来た騎士が大きくのけぞったのを横目で確認しながら、足を抱える騎士に向かって、抑えられた足をもう一度強く押し込んだ。

 

「ぐ、ぐ、ぅ」

 

 身体強化の練度の差によるごり押し。だが、派手で強力な技を使う必要はない。増援を招きかねない行動は控え、ただ静かに速やかに敵を排除するのみ。

 

 止まらない俺の足は、まるで怪物でも見るように怯えた目を向ける騎士の、鎧に包まれたその胸へぶつかる。そして、加速。

 

 ――最初のひとりの焼き直しのように、後方へ吹き飛び意識を失う神殿騎士。

 

「この、化け物め……!」

 

 俺は残ったひとりに視線を向け、そして駆ける。

 

 

 

 ――そうして、容易く全員の意識を奪った俺は、エリーゼを連れて大聖堂から逃げ出すことに成功する。

 

 教会の混乱はまだ外へは波及しておらず、誰かに見咎められることなく大聖堂より離れることができた。

 

 だが、しかし。じきに大聖堂を制圧したグレゴリオから手配されるだろう俺たちは、これから誰の支援もなく逃げ続けなくてはならない。

 

 ――この先とるべき行動は何か。

 

 俺は、自らの両肩に乗せられたエリーゼの命を確かに感じながら、休めることなく思考を巡らせるのであった。

 

 

 

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