FIREしたい騎士団最年少副団長、部下を守って嘘の負傷から引退コンボを決める 〜円満退職のため、情緒がぶっ壊れて病んだり一斉退職しようとする激重部下たちをカウンセリング!〜   作:宮出礼助

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16話

 

 ――ルナがやって来てから、少しして。

 

 俺はルナに作業を取られそうになりながら、外に積んでおいた薪で即席の椅子を一脚作る。たくさん迷惑をかけてしまったのでこれくらいはさせて欲しいと、遠慮するルナを抑え、手早く料理を取り分けた。

 

 そうして、食事を始めてから数分。

 

 ……空気が、重すぎる。

 

 長方形のテーブルの三辺にそれぞれ座る俺たちは、ぽつぽつと途切れがちな会話を交わしているが、やけに重苦しい雰囲気が満ちている。

 

 ときおり俺がルナやエリーゼに会話を振るが、このふたりは互いを強く意識しているようで、すぐに話が終わってしまう。

 

 ではふたりで何かを話すのかと思えば、それぞれ相手の出方を窺っており、どちらかから声をかけることもない。

 

 互いに良い印象を抱いていない者同士なので、こうなってしまうのも致し方ない。しかしふたりともと親しい俺としては、もし可能であれば、お互いに歩み寄って関係を修復してほしいとも思う。

 

 そのためにも俺が仲を取り持たねばと、そう思った頃だった。

 

 状況は、唐突に動き出す。

 

「聖女様。……いえ、エリーゼさん」

 

 おもむろに口を開けたルナは、冷たい視線をエリーゼに向け、そして言った。

 

 

 

「――私は、あなたのことを嫌悪しています」

 

 

 

「……!」

 

 こ、これは……もう修復不可能では……。

 

 俺はルナの冷たい言葉に一瞬唖然とし、どうフォローしようか悩んでしまう。

 

 ルナがエリーゼを良く思っていないことは分かっていた。

 

 自分で言うのもあれだが、ルナは俺のことをとても大事に思ってくれている。そんなルナが、だいぶやらかしたエリーゼに怒りを抱くのは自然なことだ。

 

 俺が許しているからと言うのは簡単だが、ルナの怒りを否定する権利なんて俺にはない。

 

 そうして俺が迷っているうちにも、ふたりの会話は進んでいく。

 

「……わたしも。あなたが嫌いだよ、ルナさん。いつもいつもリオのそばにいられて、仕事でも力になれてるあなたに、わたしの気持ちなんて……。……そもそもあなたは、リオのなんなの?」

 

「私は副団長の弟子で……従者です。副団長の幼馴染とのことですが、子どもみたいに好き勝手して、主を傷つけられては黙っていられません」

 

「……わたしだって、失敗したと思ってるし、リオには悪いことをしたって思ってるけど……でも、ルナさんにどうこう言われたくない。主とか、どうせ勝手に言ってるだけだろうし……!」

 

「それはっ……」

 

「リオにふさわしいかどうかは、リオが決めることでしょ? ……それにルナさん、どうせ騎士団でずーっとリオといっしょにいたんだから、わたしがちょっと混ざるくらい大目に見てよ……!」

 

 ふたりの言い合いは次第に激しくなっていく。

 

「大目に見る……? わたしはべつに、副団長を独り占めできなくなるからこんなことを言っているわけではありません」

 

「ふん、どーだか。わたし知ってるんだから、犬獣人がすっごく嫉妬深いってこと! 今回リオを大聖堂に呼んでからも、わたしがふたりきりになろうとするたび邪魔してきたくせに」

 

「それは、あなたが副団長に何をするか分からないからです。それにあなたこそ、わざと私を副団長から引き離してほくそ笑んでいましたよね」

 

「ほくそ笑んでなんてないから。あなたこそ、すっごい顔でわたしを睨んできてたけどね……!」

 

 とうとう互いに互いを責め始める。

 

 エリーゼはあからさまにルナを睨み、鼻息を荒くする。一方のルナは一見クールに対応しているようだが、苛立ちから尻尾が上がり、耳も後ろに倒れているのが隠せていなかった。

 

 彼女たちの言動はどちらも俺を思ってくれてのもので、心情的にどちらかへ肩入れはしづらい。それにある意味では、エリーゼの言う「俺が一緒にいる人は俺が選ぶ」という言葉も正しいかもしれない。

 

 ……ただ、今回ルナに迷惑かけたエリーゼがそれを言うのは、ちょっとおかしいんじゃないか?

 

 と、いうことで。

 

「……あのなエリーゼ。お前の言い分も、まあ一部正しいところはあるけど。でも、今回はお前の暴走でルナにも迷惑かけたんだから、まずはそれを謝らなきゃだろ」

 

「う……」

 

 俺の指摘に、苦しそうな顔をするエリーゼ。ただ、そこはきっちりけじめをつけなければいけない。

 

 エリーゼも自覚はあったようで、俺の言葉に反論することはない。それに、彼女は本来道理を知らないわけではないのだ。

 

 個人的な好悪の感情もあるので、多少渋々という感はあったが。それでも、エリーゼはルナに顔を向けると、素直にその頭を下げた。

 

「……リオのことしか頭になくて、ルナさんをいろいろ振り回してしまったことは、申し訳ないと思ってるよ。……ごめんなさい」

 

「……。いえ。まあ、私のことはいいですが……」

 

 毒気を抜かれたように、ルナは謝罪を受け入れる。全面的にエリーゼを許したということはないだろうが、最低限は通すべき筋を通したエリーゼに、先ほどよりは歩み寄れそうな姿勢になる。

 

 そうして、ふたりは先ほどと比べてずいぶん冷静に、互いの行動の理由や認識を話し始めた。ときおり空気がひりつくことはあれど、言い合いにはならずに言葉をかわしていく。

 

 俺も聞いているのだがと思うほど気恥ずかしい内容もあったが、喜ばしいことに話し合いは平和に進んだ。その中で、今回のいわゆる戦犯裁判は、この一件が無事終息するまで先延ばしされたらしい。

 

 ――よかった。仲良く関係修復とはいかないまでも、最低限のコミュニケーションくらいは問題なく取れるようになったな……。

 

 ただ、たまにエリーゼが余計なことを言って、苛ついたルナと再び一悶着を起こしそうになることもあったが――その時は、さすがに俺が強くたしなめ事なきを得た。

 

 こうして、エリーゼとルナが初めて本音を晒した会話は、成功とは言えないまでも、大きな禍根を残すことなく幕を閉じたのだった。

 

 

 

 ――そして、ルナとエリーゼが互いに投げる質問も尽きてきた頃。

 

 俺たちは空腹を主張する腹の虫を抑え、やっと食事を再開することができた。

 

 俺は川魚のグリルを口に運びながら、気になっていたことをルナに問いかけた。

 

「――それにしても。ルナ、よくここが分かったね。教会に見つからないよう、できるだけ痕跡を残さず動いたつもりだったんだけど」

 

「はい。ですから、今日まで時間がかかってしまいました……。それでも、どれほど丁寧に動こうと、私から副団長の匂いを隠し続けることはできませんから」

 

 胸を張るルナに、エリーゼが「なんか、変態みたいですね〜」などと言うので頭をはたく。

 

「……匂い、か」

 

 聞くところによると。ルナはしばらくは俺の痕跡を追いきれなかったらしい。

 

 俺たちが逃げてすぐは大聖堂の周囲に匂いも残っていたらしいが、あの辺りは一般の信徒や追手の神殿騎士が頻繁に行き来するため、すぐに匂いが消えてしまったと。

 

 ならば、いったいどのようにここを見つけ出したのか。その答えは――ずばり、気合いだった。

 

 ルナは俺が情報収集に動くことを予測して、常に俺が来そうな場所を巡回していたらしい。

 

 大聖堂から距離があり、逃げ隠れできる遮蔽物が多い場所、あるいは人通りが極めて多く紛れやすい場所、などなど。ルナはそんな各所で、人並外れた嗅覚を活かして俺を探した。

 

 そして、とうとう新鮮な残り香を見つけると、それを辿って街の外の森までやってきたのだ。

 

 そこまで労力を使って探してもらえたことはありがたい。ありがたいが、心配なのは――。

 

「一応の確認だけど、俺を探すときはルナも自分の姿は隠してたよね? ほら、青狼騎士団が俺を探していることを教会に知られると、また関係が悪化しちゃうからね……」

 

「はい。非常に面倒なことですが、一応気は遣っています。ちなみに、私が副団長を探してサポートすることは、きちんと団長にも許可をとっています」

 

「そうか、良かった。ちゃんと考えてくれてありがとう」

 

 俺はほっと一息つく。俺のせいで騎士団が教会の支援を一切受けられなくなるといったことになれば、悔やんでも悔やみきれない。

 

 ……にしても、団長はよくルナに許可を出してくれたな。

 

 そんなことを考えていると――

 

「私を行かせてくれなければ、今回の一件に不満を燻らせている騎士を煽り一緒に暴れると、そう伝えました。そうすれば、すぐに許可をもらえましたよ」

 

 団長、申し訳ない……うちのルナがまた無茶を……。

 

 団長の胃痛が悪化していないか心配しながら、ルナからの情報収集を続ける。

 

 曰く――まだ教会は俺たちの居所をまったく追えていない。王都の外に逃げている可能性も考慮してはいるのだろうが、現状そこまで手が回っていないようだ。

 

 騎士団の方にも教会からの正式な使者がやってきて、俺の行方を調べられたらしいが、実際俺は騎士団に頼っていないので、手がかりが見つかるはずもない。

 

 結論として、教会は俺たちの捜索にまだまだ時間をかけそうということだった。

 

 あとは教会内の勢力図だが、大司教はまだ見つかっていないようで、神殿騎士が俺たちとあわせて追っているらしい。

 

 しかし、シリウス内の聖火教は実質的にグレゴリオが牛耳っている状態だ。

 

 また、ルナは偵察中、グレゴリオ派閥が他国の聖火教徒となにか怪しくやり取りしているところも見たのだとか。

 

 ――これは色々と、考えることが多いが。大司教がまだ捕まっていないなら、たぶん動いてるのは……。

 

 俺の頭をよぎったのは、かつて子どもだった俺が配属された部隊。

 

 大司教直轄の戦力として、表には出せない任務をこなし、そして多くを秘密裏に闇へと葬り去る。

 

 その部隊には記録に残る名称はないが、しかし大司教からは便宜的にこう呼ばれていた。

 

 ――暗部、と。

 

 

 

 そうして、ルナからおおよその話を聞き出し終えた俺は、集まった情報から次の行動を考える。

 

 最終的な目標は、エリーゼの復権。そのためにやらなければいけないことは――。

 

「――グレゴリオの一派を、王都から一掃する。そのためにまずは、隠れている大司教のもとへ向かおう」

 

 

 

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