FIREしたい騎士団最年少副団長、部下を守って嘘の負傷から引退コンボを決める 〜円満退職のため、情緒がぶっ壊れて病んだり一斉退職しようとする激重部下たちをカウンセリング!〜   作:宮出礼助

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19話

 

 塔から見下ろす地上に向け、激しい稲光が瞬いた。

 

 そして、数秒遅れてやってくる耳をつんざく轟音と、空気が震える感覚。

 

 俺の後ろで、呆然とつぶやく声があった。

 

「……大魔法。これだけの準備で、剣士が……この規模を……? 宮廷魔法士でもできる者は限られるぞ……」

 

「ちゃんと君の部下が用意した避雷針に、寸分たがわず落ちたはずだよ。もっとちゃちな雷を予想してたかな」

 

 俺の言葉に返事はない。しかし、その表情が彼の内心を物語っている。

 

 ――ニルセンから俺に与えられた役割のひとつが、暗部の側が有利に戦闘を進められるよう、初撃で各所の神殿騎士を削ることだった。

 

 俺たちはそもそも、初めから数の勝負で負けている。暗部の数は王都にいる神殿騎士の三分の一もいないだろう。

 

 そんな状況で俺たちより多くの敵を大聖堂の外に集め、グレゴリオの周りを手薄にするには、初めにどれだけ敵を混乱させられるかが重要だった。

 

 ――意識外から大魔法、いわゆる戦術級以上の魔法をまさか王都の中で受けることになるとは、グレゴリオたちも思っていないだろう。

 

 いまの魔法は範囲にリソースを割いたうえで、命を落とさない程度の威力に抑えた。しかし、神殿騎士の鎧やその下に着る服には高度な魔法防御が付与されていることを考慮しても、あれを受けてまだ自由に戦える猛者はおそらくほぼいないはず。

 

 地上からは、魔法を使う前と同じく、暗部と神殿騎士たちが戦う喧騒が聞こえる。しかし、先ほどより明らかにざわめきが大きく、おそらく俺たちの側が有利に戦闘を進めているだろう。

 

 ならば、次に俺たちがすべきは――。

 

「それじゃあ行こうか。この混乱が落ち着いてしまう前に。――大聖堂へ」

 

 そうして、俺は塔の上から地面に向かって飛び降りた。ときおり塔の外壁に手足をつけて速度を調整し、強化した肉体で着地の衝撃を耐えきる。

 

 他の者たちも同様に下りてくるのを確認し、俺は大聖堂へ向かって走り出した。

 

 

 

 ――到着した大聖堂は、外壁の外から見る限り、にわかに浮足立った様子だった。

 

 街中の拠点が攻撃を受けていると、通信用の魔道具などで連絡が入っているのだろう。大聖堂内からも救援として騎士が出ていっているはずだ。

 

 こうして大聖堂内が混乱し、さらに手薄になっている間に攻めるべきだ。

 

 俺は後ろに着いてきている暗部たちに視線を向ける。時計塔に向かったときより移動速度を落としたおかげで、きちんと全員揃っている。先ほどのように俺の実力に疑いの目を向けたり、文句を言ってくる者もいない。

 

 ――これなら、中に入っても十分俺の指示に従ってくれるだろう。

 

 俺は彼らに向かって言った。

 

「じゃあ、これから外壁を越えて中に入る。手筈通り三手に分かれてグレゴリオを探すんだ」

 

 暗部たちは俺の言葉に頷き、事前に決めた組に分かれる。

 

 俺、暗部の頭、そして頭には劣るが暗部の中で上位のメンバー。この三人を各隊のリーダーとして、別々のルートで目標を捜索する。

 

 俺は合図を出したのち、地面を強く踏んで跳び上がり、外壁を越えた。外壁の延長上を通過する際、設置されている監視用の魔法に侵入を感知されただろうが構わない。

 

 続いて中に入ってきた者たちを見渡し、俺の隊が全員揃っていることを確認すると、ハンドサインでついてくるよう指示して駆けだした。

 

 ここで他の者たちとは別れることになる。俺の隊が目指すのは、もっともグレゴリオがいる可能性が高く、そしてもっとも防御が厚いと予想される地点。

 

 神殿騎士団司令部と呼ばれる区画だ。

 

 手ごろな通用口から大聖堂の建物内に侵入した俺たちは、ニルセンから聞いていた通りの道を辿り、目的の場所を目指す。時間が時間なだけあり、まだ神殿騎士にも聖職者にも遭遇してはいないが……。

 

 ――敷地内への侵入が検知されたから、人が集まってくるのも時間の問題だな。できるだけ早く移動して、侵入地点から離れないと。

 

 俺はいつ敵に見つかってもいいよう心構えをしながら、素早く聖堂内の廊下を進んでいく。

 

 そして、それからいくつかの角を曲がり、目的の場所もそろそろ近くなってきた、その時だった。

 

 ――次の角を曲がった先から、ガシャガシャと鎧がこすれる音がする。複数人の神殿騎士が、こちらに近づいてくる。

 

 俺は後ろに続く暗部たちに敵の接近を伝える。足を止めると壁際に身体を寄せ、遭遇と同時に不意打ちできるよう備えた。

 

 敵の数は音からしておそらく四、五人。こちらは俺を入れて四人のチームなので、初撃でふたりは落として数の優位を作りたい。

 

 ……相手も侵入者がいることが分かっているからか、その歩みは慎重だ。なかなかその姿を現さない。

 

 しかし、一方的にその存在を感知している俺たちは、ただ息をひそめて待った。待って、やがて一人目がその姿を見せると同時に――。

 

「がッ――」

 

 現れた騎士の顎に、鋭い手刀を放つ。脳を揺さぶられた相手は、ほとんど声すら出すことができず崩れ落ちる。

 

「な――」

 

 そのまま角の向こうへ姿を見せた俺は、襲撃に気づき慌てる騎士たちに、後ろに続く暗部たちと追撃をかけた。

 

 手近なひとりが抜身の剣を振りかぶっていたので、柄を握る手を掴んで押さえ、動揺したところにまた顎への一撃を入れる。あっけなく崩れる二人目。

 

 暗部の三人は、残る騎士たちを一対一で相手取り、それぞれの得意とする戦い方で敵を落とそうとしていた。

 

 ふたりは毒を使ったのか、あっさりと敵を昏倒させている。残るひとりがすこし手間取っていたので、横合いから援護の蹴りを入れ、神殿騎士を吹き飛ばした。

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 やけに素直な礼にうなずき、攻撃した神殿騎士が気を失っていることを確認すると、俺たちはまたすぐに駆けだす。戦闘の音に気づいて増援が来る前に、グレゴリオのもとへ行かなければ。

 

 しかし、やはり司令部へ近づくにつれ、警戒の密度は上がっていく。それから数度神殿騎士と遭遇した俺たちは、それでもすべてあっけなく無力化することができた。

 

 そもそも騎士と暗部とでは、戦闘における思想が違う。基本的に正面戦闘を前提とする騎士と違い、こちらは手段を問わず相手を倒すことだけ考えればよい。普通の騎士は、平時に毒への備えなど行ってはいないのだ。

 

 それに、暗部の三人が俺の指示を素直に聞いてくれることも大きい。かなり好意的な視線を向けてくれるようになっており、統率をとった行動ができたので、大きな問題なくここまで来られた。

 

 俺は進む廊下の先に見えてきた大きな扉を見る。その前にふたり護衛の騎士が立っているものの、それ以外には特に守りのないそこは、グレゴリオがいる可能性がもっとも高い騎士団司令部。

 

 俺たちは足を緩めることなく進み、護衛の騎士たちに近づいていく。

 

「――貴様ら、とまれ! ……話にあった侵入者か!? ここがどこか分かっているのか!」

 

 怒鳴って警告してくるが、いまさら誰も聞きはしない。構えを取る彼らに向け、俺は走りながら魔力を練って右手を向けた。

 

「《雷糸》」

 

 魔法陣から伸びる稲妻の線が、光の軌跡を残しながら騎士たちへと向かう。ふたりは一瞬ぴくりと反応するも、高速で向かってくる魔法を防ぐ術を持たず、無防備なまま雷に打たれた。

 

「ぎぃあッ……!」

 

 バチバチと紫電が散り、かすかに肉の焦げる臭い。雷の魔法は鎧の魔法防御を貫通し、ふたりの騎士を気絶させる。

 

「見たか。あの滑らかな魔法の発動を……」

 

 背後で謎に持ち上げられる声を生暖かい気持ちで聞き、ずいぶん調子がいい暗部だと苦笑いする。

 

 しかし、倒した騎士たちを越え、扉の前に立つと同時、気を引き締める。

 

 この先には、神殿騎士団長グレゴリオがいるかもしれない。もしそうなら、その守りはきっと厚い。

 

 扉の前の護衛がふたりしかいないのはすこし引っかかるが、しかし十分備えるに越したことはないだろう。

 

 俺は身体を廻る魔力を増やし、加速させ、身体強化の強度を高める。身体の芯から湧く魔力が俺の身体を覆い、大幅な身体能力の向上に伴う万能感をもたらす。

 

 しかしそれに引きずられることなく、慎重に、司令部につながる扉に手をかけた。

 

 そして、肩越しに背後の三人へ合図を送った直後――扉を開け放ち、攻撃を警戒しながら中の様子をうかがう。

 

 しかし。

 

「――ふたり、だけ」

 

 俺の言葉に、司令部にて重厚なテーブルの向こう側に座っていた男が、にやりと笑みを浮かべた。

 

「大司教の手の者か? ようこそ、我が城へ」

 

 不敵に笑うグレゴリオと、その脇に立つ、表情がない真っ白な女性。

 

 ふたりはまったく焦る様子も見せず、俺たちを睥睨する。

 

 

 

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