FIREしたい騎士団最年少副団長、部下を守って嘘の負傷から引退コンボを決める 〜円満退職のため、情緒がぶっ壊れて病んだり一斉退職しようとする激重部下たちをカウンセリング!〜 作:宮出礼助
神殿騎士団司令部で、開いた扉を挟んでにらみ合う。
俺たちと対峙するうちのひとりは、装飾の多い鎧を身にまとった傲慢そうな壮年の男、グレゴリオ。
そしてもうひとりは、非常に簡素な白い服を着た、白い長髪を垂らす感情の見えない女性――。
グレゴリオを俺たちを横柄に眺め、傲岸不遜に言い放つ。
「お前たち、その姿を見るに大司教の手の者か。聞いたことはある。あやつの指示で汚れ仕事をこなす捨て駒がいると」
「……」
暗部の者たちはみな、無駄な情報を与えないために何も言わない。しかしグレゴリオの言葉を聞いて殺気立っており、いまにも飛び掛からんとしている。
だが、きちんと理性をもって踏みとどまっていられたのは幸いだ。たしかに見る限りここは極めて手薄で、目的の達成は目前のように思えるが、しかし……。
――あの女の、異様な雰囲気はなんだ……?
俺はグレゴリオの凡庸なさまではなく、その後ろに付き従う白い女にこそ注目する。
容姿は、髪から肌まで真っ白なこと以外、特筆すべきことはない。だが、まるで人形のようなその表情に大きな違和感を覚える。ルナもほとんど無表情だが、どうもそれとは違って、本当にまったく人間らしい感情を感じないのだ。
そして、それ以上におかしな点が――
「――あの女……。魔力はほとんど感じない一般人のような佇まいのくせに……光っている……?」
俺の隣で、ひとりの暗部がそうこぼす。
そう。たしかに、光っているのだ。
俺の燐気とは違う。補助魔法でも、ただ身体から魔力を放出しているというわけでもない。それらいずれの場合でも、身体から放たれる魔力を多少は感じるはずなのだ。
だが、彼女からは慣れ親しんだ魔力の圧を感じることはない。それはともすれば、暗部のひとりが言ったように一般人のように感じるかもしれないが……。
――それでも、何も感じないというわけではない……? 明らかに魔力じゃないが、それとは別の、なにか異質な力を感じる……。
見たところ、この力を感じているのは俺だけらしい。しかし、暗部の者もみななにかおかしいとは思っているようで、安直に突撃することはない。
彼らは俺に視線を向け、口を開いた。
「リーダー、どうしますか?」
「護衛も他にいないようですし、いまが好機では……!」
すっかり従順になった彼らに問われ、俺は一瞬考える。
たしかに、あの女は得体が知れない。魔力や身のこなしから実力を計れず、軽率に攻めこむことはためらわれる。
それに、なぜか自身の周りにほとんど人を置いていなかったグレゴリオが、余裕の表情を一切崩さないことも気になるが。
……俺は、長く思考を巡らせることなく、口を開いた。
「――初めに俺が行って、あの女を抑える。みんなは後に続いて、騎士団長を捕えてくれるかな」
――不確定要素は、俺がなんとかカバーする。そのうちにグレゴリオを、と。
グレゴリオたちに聞こえないよう小声で伝えると、みな頷きを返し、いつでも飛び出せるよう態勢を整える。
俺たちは揃って、暗部に支給される短剣を抜いた。
ゆらりと、俺の全身から陽炎のように立ち昇る青白い魔力が一瞬ゆらぎ――
「――ふッ」
俺は瞬きの間に部屋へと突っ込み、中央の大きな机を踏み抜き、そして目標の目前に迫った。
明らかに俺の動きを捉えられていないグレゴリオは、遅れて目を見開く。しかし、その表情は恐れや危機感を抱いているというより、ただ純粋に驚いているだけ――。
――俺がやるべきは、あの女の相手だ。グレゴリオのことは他の者に任せ、いまは女の方に集中する。
俺は椅子に座ったままのグレゴリオのその向こう、微動だにしない女に向けて、短剣を持っていない方の手を振るおうとした。
――したのだが。
グレゴリオを通り過ぎる、その直前のことだった。
「――!」
先ほどまでどこを見ているかも分からなかった、白い女の茫洋とした薄金の瞳が。
――まるでからくり人形のそれのように、ぎょろりと俺を捉える。
そして次の瞬間、その身にまとう光を急激に強めた女が、俺に向かって急加速した。俺と同じ速さの世界で、光の残像を引く貫き手が胸元に向かってくる。
「ふッ」
とっさに短剣で受け止めると。きいん、と、人の身体から出たとは思えない硬質な音が鳴る。
――なんだ、この感触? 魔力で強化したとしてもこんなことには……。
俺は不気味に思いながらも、役割を果たすべく女の腕を掴む。やはり人の手とは思えない、見えない固い膜に覆われたような感触のそれを、グレゴリオから離すべく放り投げようとする。しかし。
――動かない……!
まるで見えない力場で固められているように、女はその場から動かなかった。力で抵抗されているというより、がっちり固定されそもそも動くようにできていないものを、素の力で押し込んだときのような……。
燐気をまとった状態で力が通用しない敵など、いったいいつぶりか? 俺は驚きながら、追撃をさけて後ろに飛びずさった。
あわせて、グレゴリオに飛び掛かる準備をしていた暗部たちも止める。
「――あれは、ちょっと難儀しそうだ。……作戦変更、まずは集中して女の方を攻めよう。あの様子なら大丈夫だと思うけど、もしグレゴリオが逃げそうなら、君たちの誰かが足止めしてくれ」
俺の言葉に、暗部たちは頷きを返す。俺たちは再び女に攻撃を仕掛けようと、構えを取った。
そして、その瞬間だった。
じっと椅子に座ったまま俺たちを見ていたグレゴリオが、まるで我慢できないとばかりに、引きつったように喉を鳴らす。
「……?」
いったいなんだと怪訝な顔で視線を向けるのと、グレゴリオが唐突に笑い声をあげるのはほぼ同時だった。
困惑する俺たちに、グレゴリオはいかにも貴族主義な人を嘲る顔で言う。
「いやなに、無駄にあがくお前たちがひどく滑稽でな。大司教の手下ごときが敵うはずもなかろうに。――この、白痴の魔女にな……!」