FIREしたい騎士団最年少副団長、部下を守って嘘の負傷から引退コンボを決める 〜円満退職のため、情緒がぶっ壊れて病んだり一斉退職しようとする激重部下たちをカウンセリング!〜   作:宮出礼助

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24話

 

「うううぅぅうう……!」

 

 迫る光の波濤に、エリーザはいまにも泣きそうな震え声を上げる。だが、彼女はそれでも――――けして助けを求めなかった。

 

 エリーゼの制止で思わず足を止めた俺は、もう彼女たちの前へ飛び込むには時間が足りない。それでもせめてもの助けにと、間に合う速度で張れる最大強度の障壁を。

 

 これしきの壁で、あの膨大な力の前にどれだけの助けになれるか――。

 

 時をほぼ同じくして、短杖を掲げたエリーザが無詠唱で魔法を発動する。それは先に使ったのと同じ、上級の防御魔法。俺が張った障壁の内側で、エリーゼたちをドーム状に包み込む。

 

 そして、その二重の護りが完成した直後だった。

 

 ――白き滅びの奔流が、突き刺さる。

 

 凄まじい音とともに、俺の作った盾が削られていく。

 

 ――ダメだ。あんなんじゃ、すぐに限界が――!

 

 追加で魔力を注ぐも、そもそもこんな低級の防御魔法では限界がある。実際、もうあちこちにひびが入っている。障壁に入った複数の亀裂は次第に伸び、互いにつながり、蜘蛛の巣のようにそのサイズを大きくしていき――。

 

 そして――砕け散る。

 

 舞い散る魔力の欠片を見て、俺は決断する。

 

 いまはまだ、エリーゼが張った魔法もある。だが、それも遠くないうちに砕けるだろう。あの攻撃にはそれほどの力が込められている。

 

 それなら、いま砲撃を続け無防備になっている白痴の魔女を叩けばとも思うが、それも簡単にはいかない。

 

 先ほど勢いを増した白痴の魔女から立ち昇る力は、その身を守る不可視の外殻にも影響しているはず。今の俺でも、すぐに破ることができるとは思えない。

 

 そうして時間をかけてしまえば、エリーゼたちの守りはやがて破られ、無事ではいられない。

 

 そうなるくらいなら。

 

 いま俺の身体強化は、戦闘中発動可能な上限にほぼ近い。そのうえ、属性魔力もまとい、対魔法防御は下手な防御魔法よりよほど高い。

 

 だから、俺が代わってあの攻撃を食い止め、そのうちにエリーゼたちに逃げてもらうしか、ない――。

 

 そう一瞬のうちに判断し、駆けだそうとしたその時だった。

 

 防御魔法の向こう側、淡い魔力の光を透かした先で。

 

 ――小さく震えるエリーゼが。それでも、強い意志を感じる眼差しで、俺を射抜いていた。

 

 エリーゼは叫んだ。

 

「ぜっったい、こないで! もうリオにだけ負担かけたりなんて……ぜったいしないから――!」

 

 エリーゼから溢れる魔力が、その身を守る魔法へ注がれる。障壁はいまにも壊れそうに振動するが、まだ破られない。

 

 しかし、やはり限界が近いのか。ところどころにひびが入り、亀裂が広がり、とうとう硝子の欠片のように小さな破片が床に落ちる。――小さな穴が開く。

 

 そこから漏れるように侵入した白光が、短杖を構えるエリーゼの頬を掠める。

 

 ばつ、と皮膚が割け、血が弾けた。

 

「うぐぅ、いだいぃ……!」

 

 涙を流しながら。痛みに喘ぎながら、それでもエリーゼはけして杖を手放さない。

 

 次々に差し込む光線が、エリーゼの身体を傷つけていく。きれいだった金の髪が幾束も千切れ、きらきらと宙を舞う。

 

 あの、エリーゼが――。

 

 幼い頃はいつも俺の後ろに隠れ、周囲になかなか心を開かず、わがままばかりで。甘えるように俺に無茶なことばかり言って、いたずらっぽく笑っていた、あの小さなエリーゼが。

 

 

 

 ――――ぽろぽろと、痛みと恐怖で涙をこぼしながら、それでも歯を食いしばって、必死に俺を助けようとしている。

 

 

 

「――ッく」

 

 どうして、その思いを無駄にできようか。

 

 俺は、エリーゼのもとへ向かいかけた足を止める。そして、身体中の魔力を根こそぎかき集め始めた。

 

 身体を巡る稲妻が、バチバチと、その激しさを増していく。

 

 手にした短剣は身体を巡る魔力の道の一部となり、身体の延長として、視界を白く染める稲光をまとう。

 

 ――もう、これで最後だ。ありったけを……。

 

 白痴の魔女と同じく、俺もこの後は考えない。今はただ、エリーザの献身に報いることができるよう。

 

 俺の視界を覆う、絶え間なく弾ける稲妻の向こう側で。

 

 自らに治癒魔法をかけながら耐えるエリーゼと、それを助けようと壁になる暗部たち。みな、全員での勝利のため、踏ん張ってくれている。

 

 ――だったら。

 

 ……ここで俺が決めなくて、どうするんだ――!

 

 もはや自らを傷つけるほどの雷をまとって。あと一撃しか耐えられないだろう魔力を、短剣に込め。

 

 腰を落とし、ぐっと力を溜める。

 

 そして――――解放した。

 

 足先から地面へ伝う衝撃。砕け、散る破片。

 

 返ってくる力を余すことなく足裏で受けた俺は、音を越え、駆けた。

 

 あたりに衝撃が散り、瓦礫や部屋の内装が吹き飛ぶ。

 

 そして雷速で駆ける俺は、短剣をもつ右腕を後ろに引く。まるで弓を引き絞るように。

 

 稲妻が凝り集まって、光の矢と化した短剣を番え、そして駆けた先で。

 

 白き魔女と、視線を合わせる。

 

 

 

 ――俺は、短剣を振り抜いた。

 

 

 

 空気を割く、落雷のような轟音の中。

 

 ――――分厚い殻が割れる、澄んだ音を聞いた。

 

 

 

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