FIREしたい騎士団最年少副団長、部下を守って嘘の負傷から引退コンボを決める 〜円満退職のため、情緒がぶっ壊れて病んだり一斉退職しようとする激重部下たちをカウンセリング!〜   作:宮出礼助

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エピローグ - 1

 

 ――王都シリウスにある、青狼騎士団本部の屋内訓練場にて。

 

 普段は何人もの騎士が己を磨く活気あるここも、いまは静けさが満ちている。

 

 魔法の実射訓練などが行われるここは、収容人数が限られることもあり、普段なら人気の場所だ。しかし、いまはふたりきりの貸し切りだった。

 

 いまここにいるのは、青狼騎士団副団長である俺と、中隊長であるルナのふたり。

 

 木剣を壁に立てかけ、ともに床に座って水筒に口をつけた。

 

 先ほどまでふたりで剣を打ち合っていたため、額には汗が浮いている。まだ少し息の荒いルナから、「どうぞ」と布巾を差し出しされる。

 

「ありがとう。助かるよ」

 

 水筒から口を離し、受け取った布巾で額に掛かる髪をかきあげるように汗を拭う。

 

 拭き終わり少し湿った布巾をどうしようかと、少し考えていると。

 

「――使い終わったのでしたら、どうぞこちらへ」

 

「ああ……でも、汚いから。あれだったら洗って返す――」

 

「いえ、問題ありません。まったく。どうぞこちらへ」

 

 きっぱりと言い切られ、少し気圧される。

 

 そ、そうか。もう三十近い男の汗なんて若い子は嫌がると思ったが、気にしないのなら……。

 

 俺は布巾を手渡すと、ルナはそれをいそいそと畳みポーチにしまう。なんとなくその様子を見ていた俺に気づき、ルナはごほんと咳ばらいをひとつ。

 

「――それで、副団長。わざわざ団長に頼んでここを確保しただけの成果はありましたか?」

 

 ルナの問いかけに、俺は頷いた。

 

「うん、そうだね。ちゃんと、最近鍛え直していた成果を確かめられた。……まだ満足はできてないけど、今ならこの間と同じ状況になっても、もう少しうまくやれる――」

 

 そう。俺はここしばらく、未熟な己を鍛え直していた。

 

 ――先日の大聖堂での戦い。そこで対峙した白痴の魔女には、ここ最近記憶にないほど苦戦させられたからだ。

 

 結局あのとき、己を犠牲に時間を稼いでくれたエリーゼのおかげで、十分準備できた俺の剣は、白痴の魔女の堅固な鎧を切り裂いた。

 

 白痴の魔女は自らを固い防御で守ることで、俺が防御を破るより早く、エリーゼたちを白光で飲み込むことができる計算だったのだろう。途中でそれを察した俺がエリーゼたちを助けに行けば、仮にエリーゼたちを逃がせたとしても、大きく傷を負っただろう俺を撃破できると。

 

 しかし、結果は俺の勝ちで勝負が終わった。強力な稲妻をまとった攻撃は、あの見えない力を割いて、白痴の魔女を行動不能に追いやることができた。

 

 ただ、それはあくまでも結果論だ。

 

 もし、白痴の魔女がもっと強力な攻撃手段を持っていれば? あるいは、俺があの時間で破れないほどの防御を誇っていたなら?

 

 ――その時、傷つき、あるいは命を落とすのは、俺より先にエリーゼたちだ。

 

 今回は運が良かった。結局誰も大きな傷は負わず、なんだかんだ当初の目的も達することができたのだから。

 

 だが、しかし。そうでなかったとき、そのとき俺は運が悪かったで納得できるのか。

 

 俺の努力でどうにかできる可能性があるのなら、俺はそれを怠るべきではないのだ。

 

 だから、鍛え直しなのである。

 

「魔力操作の速度と精度、その両立……言葉だけなら単純ですが……」

 

 ルナの呟きに、俺は頷きを返す。

 

「あのとき、最後の一撃の前にかなり時間をかけてしまったけど……あれは、荒れ狂う膨大な魔力を迅速に制御する技量が俺になかったからだ」

 

「あの規模では、それも仕方ない気がしますが……」

 

「でも、ほら」

 

 俺は手のひらを天井へ向け、次の瞬間――ギュン、と高密度の魔力の球を作り出して見せる。

 

「やっぱり、仕方ないで済ませたらダメなんだ。欠点が分かったなら、あとは繰り返し鍛えるだけだよ」

 

 俺の掌上に浮く球には、あの最後の一撃には遠く及ばないものの、それでも通常の騎士十人分くらいの魔力は込められていた。これまでと比べると、同じ速度でだいたい二倍くらいの魔力は扱えるようになっている。

 

 あとはこれを激しく動く戦闘中でも行えるかだが、先ほどの模擬戦で問題ないことを確かめられた。

 

 鍛え方はこれで合っていると分かったから、これからはひたすら反復し、より操作精度を上げていくのみ。

 

 ――加えて。決め技として、この鍛えた魔力操作を活かせる新たな技術も修めようと頑張っているところだったりする。

 

 意気込む俺を見て、ルナは眩しいものを見るように目を細める。

 

「末恐ろしい限りです。こちらは置いていかれないよう必死だというのに。負けていられません」

 

 そして、最後に何事かをぼそりと呟いた。

 

「……少々腹立たしいのは。決意のきっかけが、あのエセ聖女というところですが」

 

 彼女の顔はいつもの無表情だが、その口調にはどこか賞賛や羨望の色を感じる。

 

 何と言ったのか聞き返そうとしたが、しかしその前にルナはすっと立ちあがる。

 

 しなやかな立ち姿で、銀色の尻尾をゆらりと揺らしながら、ルナは俺に向かって言った。

 

「さあ、もう行きましょう、副団長。そろそろ大聖堂から大司教たちがくるはずですから」

 

 

 

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