FIREしたい騎士団最年少副団長、部下を守って嘘の負傷から引退コンボを決める 〜円満退職のため、情緒がぶっ壊れて病んだり一斉退職しようとする激重部下たちをカウンセリング!〜   作:宮出礼助

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エピローグ - 2

 

 そろそろ出ようというルナの言葉に頷き、俺たちは訓練場を後にする。

 

 それから、居住棟でルナと別れると、向かった先は俺の居室だ。訓練したままの格好ではいけないので、自分の部屋で身だしなみを整える。

 

 きちんと髪もなでつけ、騎士の正装たる鎧を身に着ける。壁に掛けている儀礼用の装飾剣を見て、そこまではいいかと思い直したのち、部屋を出た。

 

 そして、自室の外の廊下に出た瞬間。

 

 俺を出迎えるのは、ぴょこんと立った三角耳。俺と同じく鎧を着用したルナである。

 

「ここ、一応男子棟なんだけどね」

 

「誰にも止められませんでしたので」

 

「中隊長だからね……」

 

 真面目くさった様子で頷いたルナは、何もなかったかのように俺を促す。

 

「では、行きましょう。そろそろ先方も着く頃合いです」

 

「……うーん、了解」

 

 もはや完全に解き放たれた獣と化したルナは、最近さらに自重を忘れているように思う。

 

 そうして、全身かっちり鎧で固めた俺たちは、教会からの来客を迎えるべく、居住棟を出た。

 

 敷地内で鎧を着こむことなどそうないので、道行く騎士たちから物珍しいものを見るように遠巻きにされる。副団長と中隊長という、いかつい組み合わせだからかもしれないが。

 

 そうして敷地内を歩いていると、それほど時間もかからず外へ繋がる門へと到着する。

 

 門番に声を掛け、まだ先方が到着していないことを確認し、待つことしばらく。

 

 ――やがて遠くから、聖火教の意匠が施された馬車がやってくる。

 

 ルナが馬車を見ながら鼻をひくつかせる。

 

「来たようです。……ん、これは。エリーゼの匂いもしますね」

 

「ほんとうに? エリーゼが来るとは聞いていなかったけど」

 

 というか、いつの間に呼び捨てで呼ぶ仲に……。

 

 門番に誘導され敷地内に入ってきた馬車を前に、詳しく聞く間もなく出迎えを余儀なくされる。

 

 中から降りてきたのは、ルナが言う通り聖女エリーゼと、あとは神殿騎士が二名。そして――大聖堂の主へと戻った、大司教ニルセンだ。

 

 もともとはニルセンとその部下の高位聖職者が来ると聞いていたが、いつの間にか変更があったらしい。

 

 加えて、ふたりの神殿騎士はよく見るとどちらも暗部の者だ。ひとりは俺によく噛みついてきた暗部の頭、もうひとりは大聖堂で俺と行動していた者だった。

 

 この場にいるのは、みな大聖堂奪還の際に力を合わせたメンバーということになる。

 

 ニルセンはともかく、他の者とはいろいろ話もしたいが、門番やその他の騎士の目もある。この場では、形式的な挨拶だけを交わすこととする。

 

 そうして、俺たちは足早に会談の場所――団長の執務室へと向かった。

 

 少し歩いて執務用の棟に入り、廊下を進んだり階段を登る。やがて、最近毎日のように来ている気がする扉の前に立って、ノックで中に来客を告げた。

 

 返事を待って中に入ると、立ちあがった団長に出迎えられる。団長とニルセン、それぞれトップ同士が言葉を交わす。

 

「大司教殿に――聖女殿まで。こんなところまでお越しいただいて申し訳ない」

 

「いえ。今日は我々教会が青狼騎士団へ頭を下げることが目的ですから。私どもから出向くのが筋というものでしょう」

 

 鷹揚な仕草で首を横に振るニルセン。

 

 団長はエリーゼとニルセンをソファへ座るよう促す。そして、暗部のふたりが護衛としてその後ろに立った。

 

 対面のソファに団長が座るのを見てから、俺も隣へ腰を下ろす。

 

「……いま、護衛のひとりが副団長に目礼しましたね。もうひとりはふてぶてしく、視線すら寄越しませんが」

 

 俺の後ろに立ったルナは、あまり面白くなさそうに俺へ耳打ちする。

 

 俺は挨拶をくれた暗部の子に視線で返事をした。ついでに、真面目な話が始まるからと、小声でルナをたしなめる。

 

 団長はそんな俺たちをぐるりと見回すと、無言で頷きをひとつ。

 

 そうして、「さっそくだが、今回の事件について――」と、いつもの実直そうな口調で口火を切った。

 

 

 

 ――それから、話はとてもスムーズに進んだ。青狼騎士団とシリウス聖火教、双方の上層部による会談は、しばらくの時間を経て無事にまとまることになる。

 

 内容としては、主にふたつだ。

 

 ひとつは、俺やルナを教会内のいざこざ――神殿騎士団長によるクーデターに巻き込んだことについて、ことの経緯の説明と謝罪。俺とルナがこの場に呼ばれている理由である。

 

 ちなみに、俺がエリーゼの暴走で投獄されたことも、説明の中ではグレゴリオの仕業ということになっていた。市井に向けても、今回の事件で俺が手配されたことはグレゴリオのせいと改めて公表されたので、きっとニルセンやエリーゼがうまくやったのだろう。

 

 そして、ニルセンが今日持ってきた話のもうひとつ。それは、謝罪に伴って教会から青狼騎士団へ賠償を行うというものだ。

 

 今回の事件において、騎士団と教会が揉めたとも捉えられる情報は、王都内に広く知られてしまった。先の説明の通り、教会から訂正の発表はあったものの、世間にはまだそんな印象が強く残っているだろう。

 

 ニルセンは、そんな余計な対立の種を、おそらく今後に残したくなかったのだと思われる。公式な謝罪という形で教会の非を認め、賠償まで行うことで、それを受け取った騎士団は教会の謝罪を受け入れたと対外へアピールしたいのだ。今日こうしてトップ同士が対談しているのも、俺たちが和解したことを喧伝する目的があるのだろう。

 

 もちろん団長もそういう意図は分かっていて、同じく教会との禍根を残さないために話を受け入れることになる。ルナなんかは色々と言いたそうにしているが、組織間のやり取りは複雑なのである。

 

 そうして、大きな話がまとまったら、その後。団長とニルセンは、今回の件以外にも色々話があるということなので――。

 

 俺とルナ、そしてエリーゼの三人は、断りを入れた上で団長の執務室を退出することにした。

 

 部屋の外に出て、頭を下げて扉を閉めてから。

 

 俺はエリーゼに向かって言った。

 

「――久しぶり、エリーゼ。エリーゼが来るなんて聞いてなかったから、びっくりした」

 

「ふふん。サプライズ~、ってやつだね」

 

 行儀が良かった先ほどまでと違い、いつものように細めた目でいたずらっぽく笑うエリーゼ。

 

 俺はそんな彼女へ呆れた顔を見せる。

 

「俺まで話が来てないってことは、けっこう直前で予定変えただろ。あんまり周りに迷惑かけるなよ」

 

「うるさいな~。かわいい幼馴染に会えたんだから、リオは素直に喜んでおけばいいの」

 

 他愛のない会話をしながら。俺たちは団長とニルセンの会談が終わるまで、俺の執務室で時間をつぶそうと、そういう話になる。

 

 周囲の視線を引きつつ同じ建物の中を歩いて、やがて勝手知ったる執務室へと三人で入る。

 

 団長の執務室にあるのとほぼ同じソファへ向かい、俺が最初に座った後にらみ合うルナとエリーゼ。何をもたもたしているのかと思っていると、しばらくアイコンタクトで何か会話して、やがて納得したのか、ふたりとも俺の対面に座った。

 

 所属的に、俺とルナ、そしてエリーゼの組で座るのが自然かとも思うが、門でのやり取りから思ったように、俺の知らないところで仲良くなったのかもしれない。

 

 そうして。

 

 あの大変な事件以来、約一か月ぶりに再会した俺たちは、互いにその後どうなったのか、積もる話を始めるのであった。

 

 

 

 ――あの時、白痴の魔女を撃破した後。

 

 俺たちは当初の予定通り、頼みの綱がやられて焦るグレゴリオをさっさと気絶させ、大聖堂から連れ去った。ニルセンから事前に、実家のコネで神殿騎士団長になったと聞いていた通り、グレゴリオの拉致は非常にたやすい仕事であった。

 

 そうして郊外の隠れ家に戻った後は、暗部たちの尋問により、ニルセンの不正に関する書類がどこに保管されているのか、どんな目論見があってクーデターを起こしたのかなど、洗いざらい聞き出すことができた。

 

 それからの流れは、ニルセンお得意の暗部による工作だ。教会内に自分が有利になる情報を流し、逆にグレゴリオの立場を失墜させ、元鞘に収まったというところだ。

 

 俺としては、グレゴリオの裏に隣国である帝国の聖火教――さらには帝国軍がいたということが気になる。

 

 あのときグレゴリオがこぼしたように、白痴の魔女はどうも帝国から提供された戦力だったらしい。俺が倒したあと未だに目を覚まさず、教会にて治療と監視が行われているようだが……。

 

 結局、グレゴリオは帝国に操られていた立場ということで、真に重要であろう情報を持ってはいなかった。ニルセンが独自のコネクションで帝国側も調査するらしいが、国が違うのですぐには結果も出まい。

 

 ……あとは、そう。

 

 この一か月、連絡を取っていなかったエリーゼが何をしていたのか。

 

 それを聞いて、俺もルナもたいそう驚いた。

 

 ――なんとエリーゼは、教会内で独自のコミュニティ――聖女会なるものを結成したというのだ。

 

 話を聞いていると、どうも大聖堂内の修道女を中心とした、治癒魔法などの技術を教え合う有志の集まりだとか。

 

 これまで周囲と必要以上に関わることを避けていたエリーゼが、いったいどんな風の吹き回しか。俺が衝撃を受けていると、エリーゼは言ったのだ。

 

 「わたしももっと、味方をつくっとこうかな~って」と。

 

 きっと、今回グレゴリオの命令とはいえ、聖女であるエリーゼすら拘束されたことを気にしているのだろう。

 

 そう、俺は納得していたのだが。

 

 「言っておくけど、リオのためだからね。いずれは国外にも広めていくよ~」と、エリーゼはいたずらっぽく笑って見せる。

 

 驚く俺に、エリーゼはまっすぐ視線を向けて言うのだ。

 

 「騎士団を辞めたって。わたしはリオを、ひとりにしないからね」と。

 

 平時のエリーゼからこんなにまっすぐ言葉をぶつけられることは滅多になく、思わず面食らってしまう。彼女の思いがとても嬉しいのだが――どこか照れくさい。

 

 エリーゼはそんな俺を見て、眠たげな瞳で、してやったりと笑った。

 

 そして、そんな俺たちのやり取りを何とも言えない顔で見ていたルナは、ぼそりと毒を吐くのだ。――「重たい女はきらわれますよ」と。

 

 

 

 ――こうして、長く続いた教会との一件は。

 

 なんとか誰も失うことなく、無事にその幕を下ろした。

 

 結局ルナも元通りの立場に戻ることができ、さらに、どこか一皮むけたように大人な顔をするようになった。

 

 一時は牢獄にまで入れられ、どうなることかと心配したものだが。しかし、このトラブルの中でいいこともあったのだ。

 

 ひとつは、エリーゼと本音でぶつかり合い、心を通わせられたこと。

 

 互いの間にあった誤解や認識の齟齬は解け、俺たちは以前より強固な絆でつながるようになったと思う。

 

 やはり彼女のためにも、この国を、教会を良くしなければと、より強く決意することができた。

 

 そして、それに関連して。とても重要な情報を得ることができたというのが、ふたつめの成果。

 

 ――聖火教と、帝国軍の関わり。

 

 俺が退団後に向かおうとしている国、帝国アルデバラン――。かの国が、蠢動している。その手はすでに王国内にも伸ばされ、今回聖火教の掌握という行動に出た。

 

 俺が思っているより猶予は少ないのかもしれない。――そう、考えているときだった。

 

 

 

「――ね〜。リオ聞いてる?」

 

「え? ……ああ、ごめん。ちょっと考え事してた」

 

「も~、ちゃんと聞いてってば。だからさ、近いうちにこの三人でどこか遊びに行こって――」

 

 ……俺とエリーゼとルナの三人で? 考えたこともなかったが、しかし……ふたりがいいのなら。

 

 騎士団も、教会も。余計なしがらみは全部忘れて、ただみんなで楽しく遊ぶことができたなら。

 

 ――それはきっと、とても特別な一日になることだろう。

 

 こんな平和な日々を、理不尽に失うことが無いように。あたたかな日常を守るために。

 

 やっぱり俺には、やらないといけないことがたくさんある。

 

 だから――。

 

 ――早く騎士団を卒業できるよう、頑張らないとな、と。

 

 そう、強く強く、改めて思うのであった。

 

 

 

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