FIREしたい騎士団最年少副団長、部下を守って嘘の負傷から引退コンボを決める 〜円満退職のため、情緒がぶっ壊れて病んだり一斉退職しようとする激重部下たちをカウンセリング!〜   作:宮出礼助

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4話

 

 俺は前に向き直り、ノックをしてから目の前の重厚な扉――団長室へ繋がる扉を開け放つ。

 

 中では、朝と変わらず書類仕事を続ける団長がいて、ルナを連れて戻ってきた俺に目を微かに見開く。

 

 団長は口を開いた。

 

「どうした、リオ。頼んでいたことの首尾はどうだ?」

 

「はい、まあ予想通り難航しまして……。ただ、目的達成への手掛かりは見つけてます」

 

「ほう? それはいったい……?」

 

 眉を上げ問いかけてくる団長に、俺は告げた。

 

「――団長が、その実力をルナに見せつけてくれれば良いんです」

 

 

 

 そうして、俺たちが着いたのは室内にある魔法訓練室――床や壁、果ては天井にまで防御や復元の魔法陣が張り巡らされた特別な部屋である。ここでは周囲に破壊をもたらすような、魔法を使った訓練を安全に行うことができる。

 

 使うには中隊長以上の騎士の許可が必要なため、ここなら周囲からいらぬ勘ぐりを受けたり、邪魔を入れられることもない。

 

 俺は久しぶりだろう防具を身につけている途中の団長に目を向ける。

 

「団長、準備が終わったら早速始めましょう。ずいぶん腕を上げた俺の愛弟子を見てやってください」

 

「うむ、まあ、それは構わんが……」

 

 なんとも言えない表情の団長だが、しかし俺は見なかった振りをする。目的の達成のために必要とだけ伝え、ここまでやってきてもらったが、団長がルナに勝つと獣人の主人としての立場を得ることになるとは伝えられていない。

 

 というか、言えないよなそんなこと。……まあ、騎士団のトップなんだから今だって俺たちの主人のようなもんだろうし、別にいいだろう。

 

 俺は内心でそう誤魔化し、大事のために小事は切って捨てると、続いてルナに声を掛ける。

 

「さあルナ、全力で胸を借りてこい。団長に稽古をつけてもらえる機会なんてそうそうないんだから。今日戦ってきた他の騎士と同じには思わず、しっかりすべてを出し切るんだ」

 

 先ほどまで解いていた長い銀の髪を、動きやすいよう後ろで一つに束ねていたルナは、俺に向かって何かもの言いたげな視線を投げかける。目を伏せ、顔の横に垂れる髪を指でくるくると弄ぶ。

 

「最後と言うから、副団長に指導してもらえると思ったのに」

 

 無表情のまま、ぼそりと何事か呟くルナ。何と言ったのか聞き返す前に、彼女はキッと俺に視線を向けて、今度ははっきりと口にした。

 

「私が、もしも団長に勝つことができれば。その時は、ご褒美として副団長には私のお願いを聞いていただきたいです」

 

「ご褒美? ……うん、分かった。いいよ」

 

「! 言質、取らせてもらいました」

 

 気合を入れるように口を引き結ぶルナに、俺は内心で唸る。そのお願いの内容は大変気になるところだが、しかしルナの相手は我らが青狼騎士団の団長だ。この国における武の頂点の一人を相手に、いかにルナが強くなったとはいえ、さすがにまだ敵うことはない……。

 

 無表情のままぴょんぴょんと跳ねて身体をほぐすルナから視線を逸らし、俺は団長に目を向ける。

 

 団長はすでに装備を整え終わり、模擬戦用に刃をつぶした剣を手に、感触確かめるように片手で軽く振るっている。

 

 俺はふたりに向かって言った。

 

「どちらも準備できたようなので――そろそろ、始めましょうか」

 

「ああ」

 

「はい」

 

「では、互いに五歩の距離を置いて、見合ってください」

 

 俺の指示に従い、ふたりは部屋の真ん中で距離を置いて向かい合う。

 

 ルナは先ほどまでと同じ、すらっとした体形に見合わない幅広で長大な剣を構える。

 

 対する団長は、いわゆる騎士剣と言って誰もが想像するような、何の変哲もないふつうの剣。しかし、そんな大した特徴もない剣を持った団長からは、圧倒的な強者のみが放つ威圧感がゆらゆらと立ち昇って見えた。

 

 ふたりは合図があればすぐにでも動き出せるよう、わずかに腰を落としたうえで無駄な力を抜いて構える。訓練室に、じりじりとした空気が広がっていく。

 

 俺はそんなふたりへ順繰りに視線をやり、そして口を開く。

 

「――では。はじめ」

 

 ――瞬間。響くは、剣戟の音。

 

「ほう、やるな……」

 

 呟いた団長は、開始の合図とともに飛び掛かって来たルナの重剣を軽く受け止め、相手を見定めるように目を細める。

 

 一方のルナはと言えば、表情こそいつもと変わらないが、その気迫は先ほどまでとは違った。止められた剣を引くと、そのまま滑らかな動きでえげつない威力の連撃を繰り出す。しかしその攻撃は力任せに殴りつけているわけではなく、しっかり術理に基づいた美しい剣だった。

 

 ……脳筋スタイルと侮っていると、レベルの高い剣術がとんでもない高回転で飛んできて圧倒されるんだよな。

 

 今日ルナと戦った他の騎士たちは、この単純な戦法になすすべがなかった。多少の小細工はものともせず、基本的に正攻法で破るしかない。

 

 ……しかし、相手は百戦錬磨の騎士団長、ゼルドリックだ。その正攻法を果てしなく突き詰めた先に、彼がいる。

 

「――実力は分かった。それでは、次はこちらから攻めようか」

 

 重剣の連続切りをさばきながら、団長が呟いた次の瞬間――

 

「なっ」

 

 驚きの声を上げたのは、先ほどまで猛攻を続けていたルナだ。微かに見開いたその目は、たったいま彼女の剣を簡単に跳ね上げ、すでに次撃を構える団長を視界に収めている。

 

 団長の全身から、薄い鈍色の魔力光――燐気が立ち昇る。魔力を用いた迫撃戦におけるひとつの奥義――通常体内でだけ魔力を巡らす身体強化を極め、体外にまで魔力循環を拡張したが故の光。

 

 団長は、まるで引き絞った弓のような身体から、凄まじい勢いの突きを放った。

 

 尾を引くように、燐気の粒が軌跡をつくる。

 

 目で追うことも難しいほどの剣閃は、防御にと動き出したルナの剣をかいくぐる。あまりにも速いその突きを、見てから対応するのは団長と同レベルの猛者にしかできないだろう。

 

 そうして、団長の動きが止まったその時には、すでに勝負はついていた。

 

「――参り、ました」

 

 そう告げたルナの首元には、鈍く光る剣の切っ先が据えられていた。

 

 

 

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