最強悪役令嬢の『もふもふ』は加減を知らない!婚約破棄ついでに魔獣を手懐けたら、いつの間にか魔国から『難攻不落のヤバい国』認定されてました!?~癒やしとは力なのです!~   作:ケロ王

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第1話 転生しました!

「エリザベス・アーネスト辺境伯令嬢! お前を愛することはない!」

 

 シャイニール王立学園の中庭。前世の記憶を取り戻した私が最初に聞いた言葉がそれだった。目の前に立つ金髪碧眼、学園の制服に身を包んだ男――ルイス・シャイニール王太子は目を細めてにらみつけてくる。

 

「俺は王家の義務として聖女候補であるお前と婚約しているに過ぎない。俺の真実の愛はお前のような不気味な女ではなく、このユメリア・ファンタジア男爵令嬢のような女性のためにあるものだ!」

「ルイス様……」

 

 戸惑う私に、彼は追い打ちをかけるように暴論を吐いた。彼の腕に抱きついた少女が、目をキラキラしながら見上げている。彼女がユメリア男爵令嬢。可憐そうに見える容姿に、男受けする言動。

 

 だけど、前世の――二十年以上の人生経験が積み重なった私からしてみたら、あざとい言動にしか見えず、嫉妬するどころか油断すると生温かい目になりそうになる。

 

「わかりました。では、婚約を破棄しましょう!」

 

 貴族の勤めなんてどうでもいい。私との間に愛がなくて、隣のユメリアとの間に真実の愛があると言うなら、婚約破棄すれば解決だろう。何より、この茶番を延々見せられることの方が居た堪れない。

 

「ふん、何を言いだすかと思えば。俺の気を引くために婚約破棄を言い出したんだろうけど、無駄なことだ!」

「気を引く……?」

 

 気を引くも何も婚約者である。浮気するようなクズ男だし、そこまでして繋ぎ止めたいとは思わなかった。

 

「そんなつもりはありませんが。それでは婚約破棄で進めますね」

「俺は認めないからな! 絶対、婚約破棄なんてしないぞ!」

「愛することはない、のですよね? それなら婚約破棄しても問題ないかと思いますが。私の魔力が目当てだったら、他にも四人ぐらい候補がいるでしょうし……」

 

 私が婚約者になっているのは、他の人より圧倒的に魔力が高いというだけ。でも、他の人も十分に魔力が高いので、こだわる理由はないはず。

 

「お前以外に誰がいると言うんだ!」

「それこそ真実の愛であるユメリアでいいのでは? そのくらい魔力が高ければ十分ですよね?」

「お前に比べたらゴミみたいなものだろうが!」

 

 父親である国王に、私を婚約者として繋ぎ止めるように厳命されているのだろうけど、言っていることが支離滅裂である。『真実の愛』とか言って魔力をゴミ扱いとか酷いにも程がある。

 

「ルイス様、素敵……」

「ふふふ、ユメリア嬢は特別だからな!」

 

 ゴミ発言を完全にスルーした二人が笑顔で見つめ合って二人の世界を作り始める。嫉妬する気も起きないし、私がユメリアの立場だったら気持ち悪くて耐えられないだろう。若いって素晴らしい、のだろうか?

 

「そんなに特別なら、私と婚約破棄してユメリアと婚約すればいいでしょ。それじゃ」

 

 これ以上、相手するのもめんどくさくなったので、もう一回だけ婚約破棄の意思を伝えて立ち去ることにした。

 

 学園前へとやってきた私は、待たせてあった迎えの馬車に乗り込む。辺境伯という爵位は低いものではないけど、アーネスト家は贅沢を好まない家風なので、馬車は質素な二頭立てのもの。

 

「お嬢様、おかえりなさいませ」

「お迎えありがとう。サラ」

 

 お辞儀をして出迎えてくれた専属侍女のサラと共に馬車に乗り、王都にあるタウンハウスへと向かう。

 

「婚約破棄しますわ」

「どういう風の吹き回しでしょう? 私としては大賛成でございますが」

「これ以上は無駄でしょうし、ルイスの相手は私には無理だと分かってしまいましたから」

「そうですか。辺境伯家の者は婚約破棄に賛成でしょうし、すぐに動きますよ」

 

 私がルイスに嫌われているのは、アーネスト家の全員が知っている。それでも婚約が続いていたのは、記憶を取り戻す前の私が、彼にご執心だったからに過ぎない。

 

「問題は王家が受け入れてくれるかですわ。私の魔力が目当てなのですよね?」

「それは……」

 

 王家はいまだに魔力の高い女性を迎え入れることが正しいと思っている。何代も迎え入れてきた成果であるルイスが、一般人と変わらない程度の魔力しかないことを考えると、効果が無いのは明らかだけど、慣習とは恐ろしいものだ。

 

 それに、私が圧倒的に魔力が高いだけで、ルイスの『真実の愛』であるユメリア男爵令嬢を始めとして数人、十分な魔力を持っている令嬢がいるので、私にこだわる理由はないはずなのだが。

 

「はあ、疲れるな……」

 

 馬車の窓を流れていく外の景色を見ながら、ため息をつく。愛されたい元のエリザベスと婚約破棄したい今の私。方向性は真逆なのに、どちらを選んでも障害となって王家が立ち塞がる。

 

「猫カフェがあればなぁ。モフモフして癒されたい……」

 

 前世で何度もお世話になった癒しの空間に思いを馳せながら、つぶやきを漏らす。愛されていなくても王太子の婚約者である。五歳で婚約が決まってから、ずっと王太子妃教育という名目で自由のない生活を送ってきた。できることなら早々に婚約破棄して自由になりたい。

 

「お嬢様、到着しました」

 

 馬車の扉が開いて、執事のロバートが顔を出す。彼の手を取って馬車を降りると父の姿があった。

 

「ただいま戻りました」

「婚約を破棄するというのは本当なのか?」

「はい、先ほどルイスにも伝えました」

「そうか、ワシからは何も言うことはない。エリィの好きなようにするがよい」

 

 父の言葉の裏に、やっと気付いてくれたか、という安堵の気持ちが見え隠れしている。それがわかったことで、やっと自分の選択が本当に正しかったことを実感した。

 

 父との会話を切り上げて自室へと戻り、現状を把握するため鏡の前に座る。鏡の中には銀色の長い髪と赤い瞳を持つ、色白の小柄で華奢な女の子。これが転生した私の外見らしい。

 

「やっぱり『ドリーム・リアル・ファンタジー』のエリザベスだよね。この外見もルイスが私を嫌っている理由の一つなんだよね」

 

 私のいるシャイニール王国では、銀髪赤眼は悪魔の子だと考えられていて迫害の対象になりやすい。だけど私は、他を圧倒するほど膨大な魔力を持っていたおかげで、王太子であるルイスの婚約者になった。

 

 与えられた立場によって、私に対して陰口を叩く人は多かったけど、表立って迫害されることはなかった。もっとも婚約者でありながら、ルイスには愛されないどころか憎まれるような有様だけど。

 

「よりによってエリザベスが転生先だなんて、ハードモードもいいところだわ」

 

 エリザベスを嫌悪していたルイスは、ユメリアと共謀して、エリザベスの悪い噂を広めまくる。もちろん噂は根も葉もないことだが、彼女が否定しても聞き入れられることはなかった。

 

 最終的にルイスは、エリザベスがユメリアを殺そうとしたと告発。これも事実無根のことだったけど、悪い噂によって名声が地に落ちていた彼女は悪魔に憑かれた令嬢ということで婚約破棄の上、国外追放される。

 

 聖女になったユメリアたちによって魔王が討伐された後、エリザベスは心を深淵に呑み込まれて『深淵の愛し子』となり、復讐のために王国を滅ぼそうとする。

 

 そのエリザベスをユメリアたちが死闘の末、討伐するというのがゲームのストーリーだった。

 

「お嬢様、先ほど王宮から使者が参りまして、婚約の件について話があるとのことです」

 

 サラが扉をノックして入ってくる。ルイスから婚約破棄の話を聞いて国王が動いたようだ。

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