最強悪役令嬢の『もふもふ』は加減を知らない!婚約破棄ついでに魔獣を手懐けたら、いつの間にか魔国から『難攻不落のヤバい国』認定されてました!?~癒やしとは力なのです!~   作:ケロ王

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第4話 ゆったりとした一日

 翌朝、憂鬱な気分で目を覚ました私は――驚くほど何もなかった。昨日のことが、まるで悪い夢だったかのように。

 

「よかったぁ、特に何ともないや。昨日のようなこ、と……んっ」

 

 だけど、昨日のこと――具体的にはルイスに翻弄されたことが脳裏をかすめた瞬間、私の意思に反して、男を受け入れようとするかのように私の体が火照り、胸が高鳴り、下半身が蠢き始める。

 

 ギリギリのところでサラに助けられたとはいえ、好きでもない男に汚されたような気がして気分が悪い。体が無意識のうちに反応してしまうことが、まるで婚約破棄しようとしている私を責めているように思えてくる。

 

「お嬢様、大丈夫でございましたか?」

 

 扉をノックする音が耳に入り、無意識のうちに悶えていた身体に緊張が走る。なんとか気持ちを落ち着かせて、サラを部屋に招き入れた。開口一番に気遣うような言葉が、今日の私にはとても嬉しく感じられる。

 

「昨日、お嬢様も媚薬を盛られたのではありませんか?」

「えっ、媚薬を?!」

「出された紅茶をお飲みになられませんでしたか? あの中に大量の媚薬が入れられていたはずです」

「そんな、でも、なんで……」

 

 思い返せば、心当たりは十分にある。紅茶を飲みほしたあたりから、身体が火照って上手く思考が回っていなかったように思うし、ルイスもタイミングを見計らったかのように入ってきた。

 

「実は私も、あのクソ共に媚薬を盛られたのです。幸いにも、口に含んだ瞬間に媚薬だと分かりましたので、周りの衛兵どもを全員再起不能にいたしました」

 

 サラにまで媚薬を盛るというのは、明らかにやり過ぎだ。それでも、外道な王族の血を引いていることを考えると、ありえない話ではないのだろう。そのおかげで結果として助かったけど、私だけに絞っていたら最後までやられていたに違いない。

 

「くそっ、何という卑劣なヤツらだ。ホント許せない!」

 

 ふつふつと怒りが湧き上がる。心の奥底、漆黒の闇のような心の欠片が、私の全身に広がっていくような錯覚を覚える。

 

『憎いか、悔しいか――。ならば深淵を受け入れよ!』

「えっ?」

 

 突然、頭の中に低い声が響きわたる。自分が怒りに囚われたことに気付いて我に返ると、サラが気遣うように見つめていた。

 

「お嬢様、先ほどの気配……。何か禍々しいもののように感じられました」

「ごめんなさい。少しヤツらのゲスっぷりに歯止めが利かなくなりそうになっていたわ。今は大丈夫でしょ?」

「はい、ほんの一瞬のことでしたので……」

 

『深淵の愛し子』である私は、負の感情が強くなりすぎると深淵が囁いてくるようだ。もし堕ちてしまえば、私の心は深淵に呑み込まれてしまうだろう。わずかに触れた程度でも禍々しい気配が漏れるほどだとすると、完全に呑み込まれたら王国を滅ぼそうとしても不思議じゃない。

 

「厄介だわ。いつ爆発するか分からない爆弾を抱えているようなものじゃない……」

「お嬢様。私が付いております。お体を慰める手伝いが必要でしたら、いつでも仰ってください!」

 

 体を慰める手伝いって……。サラとあんなことやこんなことをするってことじゃないの?!

 

 不埒な想像をしてしまい、恥ずかしさに顔が熱くなる。良くないことだとは思いつつも、期待感から私の体が脈打ち始める。

 

「なななな、慰めるって。それって……」

「ご想像の通りです。昨日のように媚薬を盛られてしまったら、発散するのが一番ですから」

「そ、そ、そうなんだぁ……」

 

 昨晩、勢いに任せて自分の体を慰めまくったことを思い出して、顔がゆで上がりそうだった。でも、それが一番と聞いて、少しだけ罪悪感が軽くなった気がした。

 

「そ、それじゃ。今度、必要になったら……」

「はい、いつでもお任せください!」

 

 そう言って、サラはニッコリと微笑んだ。そして、紅茶を淹れて部屋から出ていく。残されたのはカップから湯気が立ち上る紅茶だけ。昨日のこともあって躊躇う気持ちはあるけど、サラがせっかく淹れてくれた紅茶なので、ゆっくりと口をつける。

 

「あっっ、美味しい……」

 

 置かれた紅茶のカップを手に取り一口。美味しい紅茶を飲むという幸福感によって、心が満たされるのを感じた。

 

 その日は、一日中ゆっくりして休んだおかげで心身共にだいぶ回復した。ふとしたきっかけでトラウマが蘇りそうな恐怖心はあるが、日常生活を送る上では支障はないだろう。

 

「エリィ、大丈夫だったか?!」

 

 翌朝、目を覚ますと父が部屋へと入ってきた。昨日はサラから安静にする必要があると聞かされていたため、そっとしておいたようだ。それでも娘の容態を心配していたらしく、朝イチで私の部屋を訪ねに来たらしい。

 

「大丈夫です。一昨日は色々ありまして疲れ果ててしまいましたが、昨日一日休んで調子も戻ってきました」

「そうか、それはよかった。婚約破棄の話については、いったん儂が話をしておくとしよう。エリィはしばらく領地で静養するというのはどうだ?」

「いいですね。そうさせていただきたいと思います」

 

 一昨日の件で身の危険を感じた私にとって、父の提案は渡りに舟だった。すぐに了承すると、父はほっとしたように胸を撫で下ろした。

 

「静養するにあたって、何か欲しいものはあるか?」

「欲しいもの……」

 

 おそらく、父は静養の効果を上げるために、私が喜ぶものを用意してくれるつもりなのだろう。一昨日の出来事についてサラから報告が上がっているとすれば、結果として事態を招いた罪悪感を感じているのかもしれない。

 

「それであれば、猫カフェが欲しいです」

「猫カフェ、とは?」

「猫と触れ合うことで癒される場所なんです。きっと静養の効果も上がりますわ!」

「なるほど……。しかし、儂は猫カフェがどういうものか分からんから、用意しようがないのだが」

 

 父も私の喜ぶものを用意したいという気持ちはあるけど、さすがに分からないものを用意はできないようで、少し気落ちしたように肩を落としていた。

 

「猫カフェの用意は私の方で行いますので、猫カフェに使えそうな建物を用意いただければ……」

「なるほど、それなら何とかなりそうだ。領地の北側の地域が手付かずなのは知っているだろう?」

「はい、先だって侵攻してきた帝国と魔国の連合軍を撃退した時に、賠償として手に入れた土地ですよね?」

 

 私が確認のために訊ねると、父は口を引き結んでしっかりとうなずいた。

 

「その通りだ。しかし、あそこは王国からだと山や森で遮られていて交通の便が悪い。おかげで開拓が難航しているのだ」

「そこをついでに開拓して欲しいということですか?」

「そうだ、開拓支援のために予算も少し多めに回そう。それを猫カフェを作る足しにするがいい」

「ありがとうございます。それでは、さっそく準備をいたします!」

 

 私が元気になった様子を見て、父は穏やかな笑みを浮かべる。そして仕事をするために部屋から出ていった。

 

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