最強悪役令嬢の『もふもふ』は加減を知らない!婚約破棄ついでに魔獣を手懐けたら、いつの間にか魔国から『難攻不落のヤバい国』認定されてました!?~癒やしとは力なのです!~ 作:ケロ王
父と入れ替わりにサラを呼んで、具体的な計画に移していくことにした。
「建物は用意してもらいましたし、次は猫の調達です。ここは現地に向かいながら、ついでに捕獲しましょう」
「現地に向かうのでしたら、いったん領都で準備を整えるのがよろしいかと」
「そうですね。それでは準備をお願いできますか?」
「おまかせください」
恭しくお辞儀をして、サラは準備のために部屋から出ていった。準備が終わる翌日の昼前まで、静養しながら身体能力と魔力を強化する鍛錬をしておくことにした。何もしなくてもチートなエリザベスだけど、ここから鍛錬をすることで、さらに伸ばせるようだ。
「気を付けて行ってくるんだぞ!」
「心配はいりませんわ」
準備が整い、私たちは心配する父の見送りを受けながら馬車に乗り込む。父に微笑みかけると、少しだけ表情が柔らかくなったように見えた。私の乗る馬車にはサラとロバートが乗り、護衛たちは前の馬車。全員が乗り終えたところで、馬車は辺境伯領に向けて走り出した。
「す、すごい揺れますね……」
「これでも私たちの馬車はだいぶマシですよ」
王都の舗装された道とは違って、土がむき出しになった街道に入ると馬車の揺れが酷くなる。私からしてみると、ありえないくらいの振動に戸惑いを隠せない。
「サラは平気そうね」
「慣れておりますからね。でも、よろしいのですか? 街道ではなく山道を行くなんて……」
「ええ、移動だけに時間を費やすなんてもったいないわ」
馬車は街道を外れて山道へと進んでいく。馬車の揺れはさらに酷くなっているみたいだけど、揺れすぎて私には違いがわからなかった。
私は周囲を猫に使えそうな動物とかいないかなと周囲を見回しているけど、あまり生き物の姿が見つからなかった。
「これは道中で捕まえるのは厳しそうですね」
「……まあ、まだ出発したばかりですから」
なかなか獲物が見つからないことに落胆していると、突然馬車が止まった。しばらく待っていると、護衛の一人が私の馬車にやってきた。
「前方にホワイトタイガー! 進路をふさがれております!」
その言葉を聞いて、私は馬車から飛び降りる。華麗に着地をして前方を眺めると、山道の少し先の方に巨大な白いトラが寝そべっているのが見えた。向こうも私たちの存在に気付いたのか、立ち上がり、こちらをにらみつけてくる。
「お嬢様、下がっていてください。危険でございます。」
「安心ください。我々が排除いたしますので……」
サラとロバート、そして護衛が私たちの前に出ようとする。ホワイトタイガーはかなり強い魔物なのか、護衛たちの表情には緊張の色が見えた。
だけど私は、前に出ようとする彼らの前に手を広げて行く手を阻む。ここは私の出番だ。なぜなら目の前に猫がいるのだから。
「大丈夫、ここは私に任せて先にいって!」
「道が塞がれておりますが……」
「……少し戻ったところで待ってて!」
言いたかったセリフを言えて満足したのも束の間、道が塞がれて先に行けない状況だった。しかたないので、彼らには離れてもらうことにした。十分に距離を置いてもらったのを確認して、私はホワイトタイガーに向き直る。
にらみ合う、私とホワイトタイガー。両者の間の緊張が高まっていく。
「ほらっ、怖くないから! ねっ!」
そう言いながら、私は前傾姿勢になって、ゆっくりと歩みを進めていく。猫は警戒心が強い。ゆえに、大事なことは怖がらせないこと。こうして小さく見えるようにして、怖くないことをアピールしながら近づくのがポイントである。
「……?」
ホワイトタイガーが首を傾げているような気がした。視線にも少し哀れみのようなものが含まれているように思える。だけど魔獣に言葉は通じないはず。私の気のせいだろう。
「よしよーし、じっとしてるんだぞ!」
相変わらず首を傾げているホワイトタイガーとの距離を少しずつ縮めていき。とうとうお互いの手が届きそうな間合いになった。ここまで近づくと、どうやっても警戒されるらしく、ホワイトタイガーも唸り声を上げて威嚇してくる。
「「……」」
お互いにらみ合い、緊張感がますます高まっていく。勝負は一瞬、先に相手を捕えた方が勝つだろう。緊迫した空気が皮膚に突き刺さるように感じながら、お互いの動きを探り合っていた。
先に動いたのはホワイトタイガー。右の前足を、私の頭上から振り下ろす。とっさに左に回避しつつ、足を掴み、回転しながら強く流す。思いっきり空振りをしたような勢いに、ホワイトタイガーは体勢を崩してしまった。
「勝ったッ!」
その隙を見逃さず、叫びながら私はホワイトタイガーの前足の間、首の付け根の部分にしがみつき、モフモフする毛皮に顔を埋めながら、首の付け根を撫でまわしていく。
「フシャー!」
私を振り落とそうと暴れ回る。しかし、私の身体能力をもってすればしがみつくことなど造作もない。ホワイトタイガーの前足も後足も、この位置には届くことはない。
やがて体力を消費し尽くして、動きが鈍ってきたところで右前足を掴んで一本背負い投げ。
「ギニャー!」
背中を地面に打ち付けて、悲鳴を上げるホワイトタイガー。必死で立ち上がろうとするが、もう遅い。
お腹の上に馬乗りになって、ホワイトタイガーのお腹を勢いよく撫でまわす。
「ニャー、やめるニャー、降参するニャー!」
「しゃべった?!」
「当たり前ニャー!」
言葉がわからないはずのホワイトタイガーが喋ったことに驚いて、飛び退いてしまう。その隙にホワイトタイガーは立ち上がってしまった。
「まさか、最初から私の言葉を……」
「当たり前ニャー。なんかキモかったニャー」
私が近づくときに猫なで声で話しかけていたのも、理解できていたらしい。ホワイトタイガーの容赦ない一言に、私は地面に跪いてしまったが、慌てて立ち上がり身構える。戦いはまだ終わっていない。
しかし、私の目の前にやってきたホワイトタイガーは敵意がないとばかりに地面に伏せて、私の顔を見つめる。
「負けは負けニャー。野生の掟にしたがって、お前に従うニャー」
「でしたら、猫スタッフとして働いて欲しいのです!」
「よく分からないけど、従ってやるニャー。どうすればいいニャー?」
「私たちについて来てもらって、その建物に住んでもらえればいいですわ」
私の説明にホワイトタイガーが首を傾げる。
「それだけかニャー?」
「ええ、そのお店でお客様の相手をしてくれるだけでいいです。相手といっても、好き勝手に振舞って構いません。あ、でもお客さんを殺すのはダメですよ」
「全然問題ないニャー。それじゃあ、よろしく頼むニャー」
ホワイトタイガーがあいさつ代わりに私の顔に頬ずりする。
「それでは名前を決めないといけませんね。何か希望はありますか?」
「特にないニャー。あっ、猫じゃないから猫っていうのはダメニャー」
「なるほど、それならキャトラというのはどうです?」
「問題ないニャー」
「それじゃあ、あっちと合流しましょうか」
ホワイトタイガー改めキャトラと共に、私は離れたところから心配しているサラたちの下へと向かった。