雨生龍之介はヴィランであります! 作:えくレア
「あらー。こっぴどくやられたね、弔っち。まぁしょうがないよな、天下の雄英に殴り込みに行って捕まんなかっただけ大したもんさ」
「うるせえよ慰めてんじゃねえ! てめえはなんで参加しなかった!」
「いやあ、でも俺が居たからって何か変わったとは思わないけど?」
「てめえを盾にしてりゃあ、俺がこんな銃創負うこともなかったんだよ!」
ぎゃあぎゃあと喚き立てる死柄木を尻目に、龍之介は黒霧に話を聞く。対オールマイト用に調整された『ショック吸収』の個性を持った『脳無』という改造人間を連れて行ったようだが、オールマイトはやはり強く、吹っ飛ばされて捕獲されてしまったらしい。オマケに死柄木もプロヒーローによる銃撃を受けて、しばらく安静にしておらねばならないということだ。
まあつまり、客観的に見て、
「
「ッ————」
「うお危ねえ! そんな怒んなって弔っち〜」
「死んどけ今すぐ!」
黒霧が死柄木を抑えている間に、龍之介はアジトを退散する。しばらく放っておいた方が良さそうだ。正義の味方にボコボコにされて、死柄木も虫の居所が悪いらしい。
そんな折、龍之介のスマホに着信が入る。つい最近知り合った女の子からだ。
「もしもし、ヒミコちゃん?」
『龍之介くん! こないだぶりですね、ちょっといいかな? 今度の土曜空いてないですか?』
「ええっと……うん、大丈夫だけど。どうしたの?」
『雄英体育祭、一緒に観に行きましょーよ!』
これはまた唐突な話だ。しかし、個性の誕生に伴ってスポーツの勢いが衰えた現代、かつてのオリンピックに代わる一大イベントがこの雄英体育祭である。龍之介も度々観に行くことはあるし、この時期はメディアも騒ぎ始める時期だ。確か、入場にはチケットが必要だったはずだが。当日券の行列には嫌な思い出しかないので、極力避けたい。
「良いけど、チケットは?」
『こないだ殺った人が持ってて、貰いました、二人分!』
「オッケー」
龍之介は足もつくしシュミじゃないため素材の人間から金品を奪うことはしないが、トガはそういうこだわりはないようだ。もっとも、彼女はそもそも捕まる心配がないから気にせずに現場を荒らし回ることができる。
彼女の個性は『変身』。血を摂取することで、その血の持ち主に変身することができるという強力な個性だ。長く変身するにはそれだけ量が必要らしい。龍之介は、自分には変身しないようにと厳命した。別方面では『精肉』すら凌ぐ個性なのだから。
しかし、今回ばかりは彼女の手癖の悪さに感謝だ。ヴィランの片手間にフリーターとして過ごしている龍之介としては、無用な出費は抑えたい。オリンピックの代替である雄英体育祭のチケットは高いのである。二人分となればなおさら。
体育祭と謳うのだからタダにしろと叫びたいが、それではスタジアムに収まりきらないのだろう。まあ龍之介には関係のないことだ。タダでチケットが手に入ったことだし。
龍之介はスマホで今年の体育祭について軽く調べる。やはりというか、今年の注目度でダントツなのは1年生——いや、正確に言えばヒーロー科1ーAの生徒だろう。
死柄木たち敵連合が彼らの授業中に襲撃を仕掛けたことはもはや周知の事実。そしてオールマイトやプロヒーローたちが来るまでヴィランと戦い、あまつさえ退けた彼らの実力や如何に。そう期待度が高まっているのが見て取れる。
実際、龍之介も興味があった。下っ端ヴィラン共を蹴散らした生徒たち。実際に死柄木たちを追い詰めた訳ではないが、オールマイトをサポートし脳無撃退に貢献した生徒たち。将来有望な若者たちの姿を見てみたいと思うのは、自然なことだろう。
たとえそれが、どんな動機であれ。
『楽しみだね龍之介くん! どんな子がいるかなあ。面白そうな子がいると良いね!』
「そうだねヒミコちゃん。俺たちのインスピレーションを刺激するような素材があればいいんだけど」
◆
そして土曜日、体育祭当日。龍之介とトガは雄英体育祭のスタジアムにいた。この体育祭では生徒たちの『個性』と鍛錬の成果をお披露目し、プロにアピールするという目的もあるため、客席にはテレビで見たことのあるヒーローがちらほらと見られる。
(おっ、ナンバーツーヒーローのエンデヴァーじゃん。確か息子が雄英に入ったんだっけか)
確か親族には優待券が配布されているはずだ。彼としては有望株の下見というよりは息子の完成度をチェックしに来た、と見た方が良かろう。確か彼の息子も1ーAで、名前は轟焦凍。エンデヴァーの炎と、母親のものであると思われる冷気を操る強力な個性『半冷半燃』。才覚だけなら父親をも凌ぐサラブレッドだ。
脳無の拘束を外し、オールマイトの手助けをしたと死柄木は語った。なるほど、よく出来た息子さんのようである。
轟をはじめとして、有望な生徒の揃う1ーA。見れば見る程、個性的なメンツが集っているではないか。
開会式では。
『せんせーい。俺が一位になる』
その大胆不敵、傲岸不遜な発言から他クラスのメンバーから大ブーイングをくらう目付きの悪い男子生徒。一見嘗めてるように見えて真剣なその眼差しから、彼が不敵な発言によって自らを追い込んでいるのが見て取れる。
爆豪勝己。こちらも死柄木のチェックが入った生徒であり、一年ほど前のヴィラン関連の事件の被害者であるという。驚いたことに、龍之介とオール・フォー・ワンが出逢った日と同じ日に事件が起きたのだとか。
競技が始まり、障害物競争に入っても彼の躍進は止まらない。スーパーサラブレッド・轟の冷気による妨害を物ともせず、ゴールへひた走る彼に個性で爆撃を仕掛けながらトップ争いに引きずり込んでいく。
その間にも、他の生徒たちにも光るモノを見つける。
個性が活きる競技だが障害物に阻まれている飯田天哉、優秀な個性『創造』を持ちながら腰にくっついた峰田の妨害で遅れを取っている八百万百、万能ながら水辺以外では完全な実力の発揮されないカエルの個性を持つ蛙吹梅雨あたりは今後次第ではかなり化けそうだし、ヒーロー科以外でも普通科の心操人使はなにやら櫓を組んだ他の生徒に乗っている。ヒトを操る個性か何かだろう。便利そうな個性だ。サポート科の発目明も個性こそ地味なようだが派手な自作アイテムで注目を集めている。
こうした優秀な生徒たちに一目を置く龍之介だったが、障害物競争を一位で通過したのは、意外にも目立ったところのない少年だった。地雷原で地雷を掘り起こし、鉄板に乗って加速——発想はまあまあだが、龍之介はそれ以上に彼の身体能力に注目した。
あの重たそうな鉄の板を運びながら、先頭集団にギリギリで追いつけるだけの体力。余程のトレーニングを積んでいると見て良いだろう。増強系かとも一瞬は思ったが、彼の体格ではとてもそうとは思えない。面白い少年だが、龍之介にとってはキャンバスとしての魅力はイマイチだった。
「ヒミコちゃーん。気に入った選手いる?」
「ううん、まだなんとも。でも、まだまだ競技は続きます。じっくり見極めようよ、龍之介くん!」
「そだね。まあ、現時点でもオモシロそうなのは何人かいるけど……」
迷う、迷う。
どれにしようか、龍之介は棚に並ぶオモチャを選ぶ子供のように、目の前の前途有望な若者たちを値踏みしていた。しかし、
「やっぱ、あの子かな」
龍之介の脳内には既にインスピレーションが降り注いでいた。悍ましいイメージを湛えた彼の脳味噌のドス黒さに反して、恍惚とした龍之介の表情は、はたから見れば体育祭の熱気に当てられた爽やかな笑顔のようにも映る。
にこ、とトガも笑う。お互い、なんとなく誰をターゲットにするのかを分かっていた。殺人鬼と殺人鬼。両者猟奇的な男女は互いを最高のパートナーだと確信する。これほど趣味の合う人間も中々居るまい。
邪悪の胎動を他所に、その後も体育祭は続いて行く。騎馬戦では障害物競争でも活躍を見せた轟の騎馬が一位の成績を収め、場を大きく沸かせた。そしてヒーローには戦闘能力がやはり必要となる、ということだろうか、最後にはトーナメント形式のバトルが行われる。
「誰が勝つと思う?」
「轟くんじゃないですか。順当に」
「まあ、普通そうだよね。次点であの高慢ちきなヤンキーくん」
「ああ、開会式の。わたしあの子嫌いです」
二人の目から見ても、轟の能力は超一級品だ。炎と氷、二種類の能力を宿したような個性。素の身体能力もかなり鍛えられているように見受けられるし、なにより彼は一番になろうとする姿勢を見せている。目的がある奴は強い。
ハングリー精神なら爆豪も負けてはいない。また、相手の弱点を突く冷静な判断力を備えてもいる。しかし——
「轟くんはまだ
半分の力で障害物競争二位、騎馬戦一位。側から見ても彼の実力は頭抜けている。加えていえば、彼の左がショボいなんてことはまずあり得ない。なんせ彼の炎はナンバーツーヒーローである父親から受け継いだものなのだ。ショボい訳がない。
さてこの後はトーナメント前のレクレーションが生徒たちの自由参加で行われる。玉転がしなど一般的な体育祭の催しで、多くの人たちにとっては休憩時間、トイレタイムと認識されている。この時間帯のトイレは混むので、龍之介たちは大人しく買った弁当を食っていた。
そんな折、ピロン、とスマホにメッセージの着信音が鳴った。爪楊枝で歯の隙間の肉片をほじくり出しながらそれを開く。差出人は『とむらっち』。死柄木である。内容は、簡素な一文であった。
『ネットのニュース見ろ』
取り敢えず言われた通り、アプリを開いて最新ニュース一覧にざっと目を通すと、ある二つのヴィランのニュースに目が行った。
一つは『ヒーロー殺し』という巷で噂の殺人犯。ヒーローを粛清と称し私刑する男で、何人ものヒーローがその犠牲になっているという。
もう一人は——新たなヴィラン。ヴィランネーム『マッドクラフト』。人を粘土のように捻じ曲げ殺し、
「あっ、これ龍之介くんのもがもが」
「余計なこと言わないの。ただでさえヒーローとかも多いんだからさ」
トガの軽い口を押さえながら、龍之介は記事に目を通していく。
マッドクラフト。なるほど、さしずめイかれた職人といったところか。
イかれてるという評判は心外だが、芸術家とはそんなものだと割り切る。理解されないのもまた才能。ポジティブシンキングが大事だ。
個性による殺しを続けて、遂にヴィランネームが付いた。ならばこれから始めるのは、連合の売名行為だ。それには派手でCOOLな作品を見せびらかすのが手っ取り早い。
「よし。善は急げって言うし。体育祭終わったらすぐに仕込みを始めようか」
「別に善ではなくないですか?」
「じゃあ悪も急げ?」
「結局どっちでも急ぐんですね」
「遅いよりは良いでしょ」
幸い、雄英側の情報を手に入れる手段はある。連合が不意打ちできる理由だ。それを駆使すれば、素材の調達に最適なタイミングも分かる。今はただ、体育祭を楽しんでおこう。
体育祭のトーナメントは、大方の予想に反して爆豪の優勝で幕を閉じた。最優勝候補だった轟は、二回戦での緑谷との勝負で反対側の熱を使うに至るも、その後は炎を出すことをせず、寧ろ不調なまま爆豪に敗れた。それでも決勝まで進むのが流石というところだが、当の一位が全く納得していない。彼は手を抜かれたことに酷く憤慨し、メダル授与を拒否しようとすらしていた。
二位の轟、準決勝まで駒を進めた常闇、飯田。ここいらは観戦に来たプロヒーローたちも唾をつけておく有望株だ。サイドキックを採らない主義のオールマイト事務所以外から声が掛かるだろう。もしかすれば轟は父親の事務所へ、なんてこともあるかもしれない。
さて体育祭が終われば、雄英の生徒たちが街に出る姿をちらほら見かけるようになる。この時期には雄英生の職場体験があるのだ。僅かな期間だがインターンにも似た課外活動。狙い目はそこだ。
「あー、もしもし黒霧サン? ちょーっとお願いがあるんスけど……そうそう。雄英関連でさ。そっちとしてもメリットデカいと思うよ。遂に俺にも
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