さとりとさなぎ 作:河原
罪に形はない。だが人は納得しないのだ、人は目に見える形に拘りがある生き物だ。わかりやすい事柄なら法律だろうか、国という枠組みの中で法という形を作り規定し、皆が納得する理由として存在している。その枠に住む者はその目に見える形に囚われながら生活し、納得という基盤を自らの芯として受け入れて自分を形成している。
精神とは自らの人生と位置付ける者もいる。生まれて来てからの経験が今の自分を形成した、実にシンプルでわかりやすい考えだ。自分という存在を読み解いていくと、何でという疑問、どうしてという問い、自らに答えを示す道は全て、最終的に、結論として自分しか答えを出せないと行きつくのだ。
では…自らを形成する芯を歪めた人は人のままでいられるのだろうか?今までの常識が、今までの生活が、今までの楽しみが、今までの思い出が、何かの切っ掛けで人生に歪みが出た人間は人として扱ってよいのだろうか。
「君はどうしてここに?親御さんは、一人で来たのかい?」
「さあ?気づいたらここにいましたよ、ジェイムス・サンダーランドさん」
「どうして名前を」
「知っているかですか。ありきたりな言葉ですね、飾り気のない無価値な言葉なんて必要ですか?」
「質問に」
「ああ、私は
「…いい性格してるよ」
「ありがとうございます」
霧が立ち込める薄暗い丘の上。先ほど車で到着したジェイムスは辺りを眺め、霧の向こう側を見ている不思議な少女と出会った。髪は薄紫という染めている…であろう目を引く色合いだが、それを感じさせない整った容姿にとても合っていると感じた。フリルの付いた水色の服装、ピンク色のスカートを履いており、可憐な少女と嘘偽りなく言える。ただ、なぜこのような場所にいるのか、その一つの疑問を抱いただけで目の前の少女がとても歪な何かのように感じた。
「えっと…コメイジサトリ」
「さとりでいいですよ。このような容姿ですが、日本人、ええ日本人ですがなにか?気にする必要がありますか?」
「あ、ああすまない…サイレントヒル…こんな田舎町まで」
「先ほどもお伝えしましたが、気づいたらここにいましたよ…あの隙間ババアが何かしたのかしれませんね」
「隙間ババア?」
ジェイムスには理解できない単語で混乱していると、さとりはまた霧の奥…サイレントヒルの町を見ている。その様子にジェイムスもまた自らの思いに耽る気持ちになった。
メアリー
3年前に病死した愛しの妻からの手紙。死んだ者から手紙が届くはずがない、そんなことは理解している。だが…それでも…。
あいまいな眠りの中で
夢見るのはあの町
サイレントヒル
いつかまた二人で行こうと約束しておきながら
私のせいでかなわなかった
私は一人でそこにいる
あの思い出の場所で
あなたを待っている
「この世に罪は存在しませんよ。自らが罪だと自覚しない限りはね」
さとりは目線をこちらに合わせ、まるで教えを問う生徒に伝えるかのように言葉を繋げた。彼女の言葉はどこか納得でき、それでいて・・・無性に苛立つ気持ちを起こさせる言葉だった。だが…今の自分に返す言葉は出なかった。目線を合わせるのを拒否し横を向く、自分の動きに合わせるように彼女は自分が乗って来た車の方を向いていたのを忘れるように自分も霧の向こう側を眺めることにした。
懐から妻の写真を取り出す。3年の月日により色あせたシミや汚れが目立つ写真…写真の中の妻はあの頃のまま、健康で元気で笑顔で健気だった頃のままを映し出している。愛している、今もだ、これからもずっと、俺はメアリーを、妻を、愛している。会えるならもう一度彼女に会いたい…。
「サイレントヒルでしたか…ある意味で閻魔の役割を補う町と言えるかもしれませんね」
こちらを横から見ながら発した言葉にどういう意味なのか問う直前、またしても彼女は言葉をかぶせて来た。
「行かないんですか、貴方の奥さんが待つ町へ?」
…なんでメアリーの事を…いや今回は写真を見て判断したのかもしれないが…まだ自分の名を知っていたり問いただしたい思いはあるが、確かにここにいても何も始まらない。
サイレントヒルへの道のりに歩みを進めると…さとりも一緒についてきた。
「私もなぜここにいるのかわからないと伝えたはずですが?」
「だったら」
「警察にでも行けと?捕まると面倒なので拒否します。大丈夫ですよ…こういう事には慣れてます。特に貴方のような方は稀に落ちてくる時があるので」
軽くお手上げのポーズを見せ、話半分にジェイムスは歩みを続けた。
サイレントヒルは周りを山に覆われた未開の地に存在する都市だ。それ故に町に入る際は山上から下山するルートが主流であり、それなりに体力を使う移動となる。
「ハァ…ハァ…」
「大丈夫かさとり」
「普段…飛んでるから…体力が…」
「実にメルヘンな感想だ。君が良ければだが」
「早くおぶって」
歩みを進めて5分ほどであろうか、既に息切れの彼女に苦笑しながら背中を貸して再度歩みを進めた。彼女を背負うと軽い…歳相応なのだろうか、12歳?もしかしたらそれ以下にも見える彼女の容姿…改めてなぜこんなところにいるのだろうかと思ってしまう。彼女から自分でもわからないと答えを聞いている為、もしかしたら…捨て子…という可能性が頭をよぎる。
(…子を捨てる親がいたらぶん殴るか)
万が一の時は何かの縁だと、大人として一つの決意を決めておく。
「…誰かいるようですよ」
どこか呆れたような口調でさとりが前方を指さした。考えながら歩みを進めていると集団墓地に着いていたようだ…少し前までも霧が立ち込め、近づかなければ気づけない程であるが…確かに一つの墓前に女性がいた。
サイレントヒルまでの道のりが霧のせいもあるが、わからなくなっていた為丁度良い出会いだと感じ肩を軽く叩き話しかけた。
「失礼」
「はぁ!?あ、ご、ごめんなさい…あ、あの私…」
「驚かせてすまない、道を聞きたくて」
「肩を叩く必要ありました?」
「いや、気づかないかもと…すまない軽率な行動だった」
「え、いえ、こちらこそ。霧は出てるけど、一本道だから迷わないと思う…あの、お子さんと一緒に来たんですか」
「この子は」
「どうしましたお父さん?」
「おい、さとり…ハァ…気にしないでくれ」
「ふふ…いい娘さんですね。私は母を探しにサイレントヒルへ来たんです」
「奇遇ですね。お父さんは奥さんを探しに来てますよ」
「見つかるといいですね」
「ああ…お互いに、じゃあ」
背中にいるさとりに目線を合わせると、いい笑顔で返された。まあいいやと諦め、また歩みを進めた。少し進むと柵などの構造物が見え、やっとサイレントヒルへ入れると心の荷が少し軽くなる。
「さっきは」
「家族は大事な繋がりですが、時としてその繋がりが重くのしかかる事もある。そう思いませんか?」
…まただ、言葉の先出はもういい。
「大事な家族ならその重りも…」
・・・なぜだろう。一緒に乗り越える、支え合う、重さなんて感じない…言葉なんていくらでも思い浮かぶのに言葉にできない自分がいる。そして感じるのは、謎の苛立ち…感じたくない、考えたくない、思いたくない。
『ジェイムス!』
ッ…!一瞬…ほんの一瞬だけ、メアリーの声が頭の中で泣いていた。
「いっタァぁ!?太ももガァァァ!?」
「ッす、すまないつい力が」
「思いっきりつねりましたね!?すごく痛かったんですが!」
少し涙目になったさとりに謝りながら背中から降ろす。どうやら彼女も自分の足で動くようだ。責めるような目線を受けながら謝りつつ、静かな町…辺りを見渡しても誰もいない無人の町…サイレントヒルへ向かうのだった。
SILENT HILL においてさとりは最強。なんでコラボしたかは不明。