さとりとさなぎ   作:河原

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いぬ

 

 さとりと別れ民家の奥、キッチンの方へ向かうとノイズを放つラジオを見つけた。さとりと一緒の時は聞こえもしなかったのに、彼女と離れた瞬間から聞こえだしたのだ。このサイレントヒルに漂う重い空間、まるで異物を排除するかのような突き刺す思い…メアリーとの思い出が、意図しないのに頭をよぎるのだ。彼女の声が、彼女との思い出が…。

 

 思えば彼女の存在も、現在の状況も、全て異質だと感じ始めた。妻と会いたい、この不安を消し去りたい。不安感、孤独感、この胸に空いた穴を埋めてくれる何かを自分は求めているのだと感じるのだ。

 

『この世に罪は存在しませんよ。自らが罪だと自覚しない限りはね』

 

(…さとりの言葉が離れない)

 

 罪…自分はその言葉を聞きたくない気持ちが湧いてくる。同時に思考を止めてはならないと自分に言い聞かせるように、忘れてはならないように、その言葉が残り続けている。

 

 妻、メアリーと会うのが罪なのだろうか?いいや、違うはずだ。彼女も自分と会いたがっている、手紙だってある。元気だった頃の写真も、普段から肌身離さず持ち歩くほど自分と妻は思い続けているはずだ。

 

「…誰かいるのか」

 

 

 カッ…カッ…

 

 

 それはまるでハイヒールで歩くような音に聞こえた。さとりではない、だが先ほどまで自分が通って来た方向から確かに聞こえだしたのだ。誰かがこちらに向かって歩いてくる。

 

 ザァーーーザァーーー

 

 ラジオからノイズ音が強くなる。その音が強くなるにつれて…自分の心臓の鼓動が早くなっていくのを理解した。

 

 

「バケモノが!」

 

 

 それは拘束衣を装着したような外形で、腕はなく、ゴムのような質感に見える肌を持つ存在。まさしく異形と呼ぶべきバケモノであった。

 

≪グギャギェグュ≫

 

 言葉ではない。その肉体がうごめき、重なりあって発生する不協和音。

 

 そのバケモノはジェームスを発見した瞬間、体当たりをしてきた。ジェームスは突然相対したバケモノに対して、ただ冷静に回避して辺りを見渡す…そこで落ちていた木材を手に取った。

 

 恐怖はなかった…ただ、目の前のバケモノは存在してはならないと強く思った。言葉に表すなら…殺意。

 

「ウァァァぁぁ!!」

≪グァオ≫

 

 不快な声を、存在を消したかった。何度も殴った。木材でその肉体を何度も何度も繰り返し殴り続けた。バケモノの不快な血液を浴びながら、よろけて倒れたバケモノが二度と目の前に出てこないように念入りに殴り続けた。

 

「はぁ…はぁ…消えろ、バケモノめ…」

 

 バケモノの存在が許せなかった。何で殺意を抱いたのかは自分でもわからない。だが存在してはならない、その気持ちだけが湧いてくるのだ。

 

 奴が起き上がる気配がなくなってやっと冷静に判断できる自分を思い出す。辺りはバケモノの血液で汚れ、自分の手も体も血で汚れている。だがなぜか、血の汚れ自体は気にならなかった。

 

「さとり!」

 

 このバケモノは自分が来た方向から来たのだ。つまり、さとりがいる民家を通って来たのではないか。

 

 そう考えた時には走って来た道を戻ろうと動いていた。

 

「な、燃えているだと!?」

 

 ありえない。先ほどまで火の気なんてなかったはずだ、まるで戻ってはならないと示すように来た道が火の海になっている。

 

 このままでは自分も危ない。彼女のことが心配だが、上手く逃げている事を信じてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空間が歪んでますね…アンジェラさんのトラウマが原因でしょうか」

 

 さとりがアンジェラと別れた後、もう一度民家の中に入っていた。ジェームスを待つ為であったが、ハッキリいってさとりはジェームスと共に行動する必要はないし、そもそも理由が消去法なだけである。

 

 このサイレントヒルは罪人、罪がある者達が集まり、その者達の罪の意識が具現化する。それ自体はどうでもいい、自分自身も似たようなことができるからだ。問題は自らの故郷に帰還するすべがない為、見るからに意味ありげに出会った存在を意識している。ただそれだけである。

 

 罪人が集まる場に、サトリ妖怪である自分がいる。サトリ妖怪とはコダマの具現とも呼ばれ、言ったこと、伝えたこと、その者の表しを見せ読み解く者。危害は加えず、ただその者の内面・内心を読み伝える存在の側面もある。

 

 この場にいる意味とは、罪人を罪人としての自身に向き合える場を作れと、サトリ妖怪たる自分が呼ばれたのではないか?と古明地さとりは考えている。

 

「大きな建造物…本で読んだことがありますね、確か人間が密集して過ごす家でアパートでしたか」

 

 さとりが民家の中を進んでいると道が歪み、外に出ていた。さとりは読めなかったが看板には『ウッドサイドアパート』と書かれていた。

 

 

 

 

「ワン!」

 

 

 

 アパートの中を探索しようかと考えた時、犬が鳴いた。その犬は頭に何か装着していた。

 

「あら貴方は…そう、ミラというのね。一緒に行く?」

「ワン!」

 

 さとりは偶然出会ったミラという犬を連れて行くことにした。

 

 

 

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