最強のエースパイロット…の陰でしれっとスコアを伸ばすとある一般隊長のお話   作:Yura0628

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トラウマ、そして奈落を這う者

「え?」「へ?」

 

目が合ったまま固まる私達、先に声を発したのはアザマ中尉だった。

 

「お、おま…え、な、で、出てけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「ご、ごめんなさいっっ!」

 

顔を真っ赤にして叫ぶアザマ中尉に慌てて謝ると、私は急いで部屋から出てドアを閉めた。そのままドアにもたれ、息を吐きながらしゃがみ込む。

 

(え、アザマ中尉って女性だったんだ…)

 

驚きや困惑といった感情が湧き上がり、同時に確かに男性にしては声も高いし体も華奢だったな、などと思い返す。

 

(でも着ていたのは男性用の服だったし…何か事情が…?)

 

などと思っていると、更衣室からあからさまに不機嫌なアザマ中尉が出てきた。

 

「おい、シノノメ」

 

「っ、何?」

 

「…俺について来い」

 

一瞬殴られるかと思ったが、アザマ中尉は一言だけ発すると背を向けて行ってしまう。

 

その後ろ姿はやはり女性っぽさは無くて、だけど…って、

 

「いや歩くの早いわね!?」

 

慌てて私は走り出し隣に並ぶ。気まずい空気の中、再びアザマ中尉は口を開いた。

 

「なぁ…お前、どう思う?」

 

「どうって、何が?」

 

「何がじゃねぇよ…俺が男のフリをしてることについてだ…やっぱり、疑問か?」

 

疑問があるかと聞かれたら、もちろんある。

 

現代の医療技術なら、性転換など容易だ。それに大してお金がかかるわけじゃない。

 

だけど、恐らくアザマ中尉の性自認は女性だ。趣味と言われたらそれまででも、様子を見るにそんな感じもしない。

 

だからこそ疑問を感じるのだ。男装する理由が思い浮かばない。

 

「まぁそうね…疑問はあるわ。でもおいそれと踏み入って良いことじゃなさそうだし私が聞くことはないわよ」

 

「はっ…お前も隊長みたいな事を言うんだな」

 

「って事は、教官はもう知ってるの?」

 

「あぁ、隊長どころかツルギ隊のメンバーは全員な……シノノメ、こっからは俺のただの自語りだ。聞きたくなきゃ無視してくれ」

 

「それで無視する訳ないでしょ」

 

「そうかい」

 

そして兵舎区画へ移動する車内で、私はアザマ中尉の話に耳を傾けるのだった。

 

 

*************************

 

 

 

そうだな、どこから話そうか。

 

まぁウダウダ長く話しても仕方ねぇし、先に言っちまうか。

 

()がまだ普通の女として士官学校にいた頃、上級生にレイプされかけたんだ。

 

そいつは何故か〈性暴行防止処置〉を受けてなくてな。性欲が抑えられなかったんだとよ。ふざけてるよな、ホント。

 

でもって、なんとか逃げ出して救ってもらったんだが、そん時からだな、()がおかしくなったのは。

 

……自分が女性として過ごす事が出来なくなっちまったんだ。

 

意識を電脳空間に移行して治療しても、どうしても忌避感は拭えなかった。自分が女性である事への、強い恐怖心。

 

もちろん性転換処置も受けたさ。だけど自分の体が自分じゃない気がして耐えられなかった。どうしろってんだよな。

 

で、しょうがないから俺は男装することにした。これなら多少は忌避感は抑えられるし、違和感を感じる事も無くなった。

 

でもまぁ、問題もあってな。自分が女性として過ごしている姿を人に見られるのが…その、かなり羞恥心を伴うようになっちまった。

 

まぁなんだ、ツルギ隊の皆んなは受け入れてくれたし、今んところは不自由なく生活出来てるさ。

 

さっきの事はもう良いっての。油断した俺が悪い。

 

さて、少し端折った部分もあるが、大まかな事情はこんな感じだ。これからは、少し配慮してくれると助かる。

 

ん?他に聞きたいこと?良いぜ。あぁそれと、俺のことはレイで良い。俺もヒビキって呼ぶ。

 

 

…………はぁっ!?お前何聞いて…やめろバカっ、俺と隊長はそんなんじゃねぇ!

 

はぁ、驚かしやがって…気になるのは分かるが、隊長に関してその手の話は無駄だぞ?

 

…いんや、鈍感とか感情がとかそう言う意味じゃない。身体的、精神的に不可能なんだよ、隊長が()()()()()()()を抱くのは。この話に関しては、俺の口から言える事じゃねぇ。聞きたきゃ直接聞け。

 

……ハッ、おう、これからもよろしくな。

 

 

 

 

 

**************************

 

 

 

大和連邦領 不明座標

 

 

 

 

 

「〈ネビュラ〉より、第3ワープ基点が無効化されたと報告あり」

 

「クソッ、何故バレた」

 

暗い部屋にいくつものモニターが並び、男達が通信機や機器を操作している。

 

 

「ここ2ヶ月で潰された拠点は4つ…内1つはワープ基点を内包する大型基地か」

 

「Namedである白虎、そして大和連邦航宙軍の元帥クラスの人物が動いてますね」

 

「忌々しい事この上ない…カラタ…〈エルヒオ〉は大丈夫なんだろうな」

 

「確実にマークされてますが、彼は優秀です。そうそう尻尾を出す事はしないでしょう」

 

「なら良いんだが…」

 

ここで、部屋のドアから別の男が入ってくる。赤を基調とした()()()()()の制服を着た男は、後ろに手を組んだまま話していた男達の前に歩みを進める。

 

「〈リウ〉副長官、先ほどネビュラより第16基地が破壊されたと報告が入りました。大和連邦の〈S特〉が動いたと思われます」

 

「そうか…〈あの方々〉からの指示は?」

 

「ハッ、以下のように…「動じるな、気を焦ることなく今は時期を待って準備に努めろ」とのことです」

 

その言葉に何度も制服の男は頷くと、正面にある巨大モニターへ目を向ける。

 

モニターに映し出された銀河系には、幾つもの光点と、それを繋ぐように線が走っており、まるで人類の生存圏を囲うよう配置されていた。

 

「あの方々が動くまでに我ら〈アビス〉は期待に応えねばならない。今回の件に関してはどうする事もできなかったが、今後回避出来た事案で計画の遅れに支障が出たら、責任追及もあり得ることを覚えておけ」

 

それだけ言うと、男は制服の裾をたなびかせながら出ていき、部屋には沈黙が降りる。

 

「…一つ一つ確実に潰していくぞ。まずは()()()から…だ」

 

「既に工作員の展開、並びにハッキング準備は開始しています」

 

「分かった…人類の未来に幸あれ」

 

「「「人類の未来に幸あれ」」」

 

 

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